§E2.8全有界距離空間

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通常の距離を入れた閉区間[0,1][0,1]は、どれほど小さな正の数を指定しても、等間隔に選んだ有限個の点の近くに全体を収めることができる。通常の有界性は空間が一つの大きな球に収まることしか表さず、このような任意の尺度での有限近似を捉えない。各尺度に対して有限個の開球で空間を覆うことができるという全有界性は、距離空間のコンパクト性を特徴づけるための基本的な条件の一つである。この条件は、任意の点列が Cauchy 部分列をもつという性質を特徴づける。本記事では、全有界性の基本的な性質と代表的な例を扱う。

1 有界性と全有界性

定義 1.1 (有界). 距離空間(X,d)(X,d)の部分集合AAが 有界 (bounded) であるとは、A=∅A=\emptysetであるか、あるa∈Xa\in XとR>0R>0が存在して

A⊆B(a,R)A\subseteq B(a,R)

となることをいう。距離空間(X,d)(X,d)が有界であるとは、XXが自身の部分集合として有界であることをいう。

定義 1.2 (全有界). 距離空間(X,d)(X,d)が 全有界 (totally bounded) であるとは、任意のε>0\varepsilon>0に対して、ある正整数mmと点x1,…,xm∈Xx_1,\dots,x_m\in Xが存在して

X=⋃i=1mB(xi,ε)X=\bigcup_{i=1}^{m}B(x_i,\varepsilon)

となることをいう。ただし、空距離空間は全有界であると定める。部分集合A⊆XA\subseteq Xが全有界であるとは、制限距離d∣A×Ad|_{A\times A}に関して距離空間AAが全有界であることをいう。§E2.1 命題 2.2が与える開球の等式により、この条件は、A=∅A=\emptysetであるか、任意のε>0\varepsilon>0に対して有限個の点a1,…,am∈Aa_1,\dots,a_m\in Aが存在して

A⊆⋃i=1mB(ai,ε)A\subseteq\bigcup_{i=1}^{m}B(a_i,\varepsilon)

となることと同値である。このようにAAを覆う開球の中心からなる有限集合を、AAの有限ε\varepsilon-網という。空集合の有限ε\varepsilon-網には空集合をとる。

命題 1.3. 全有界距離空間は有界である。

証明. 全有界距離空間(X,d)(X,d)が空でないとし、半径11の有限開球被覆

X=⋃i=1mB(xi,1)X=\bigcup_{i=1}^{m}B(x_i,1)

を取る。任意のx∈Xx\in Xに対して、x∈B(xi,1)x\in B(x_i,1)となるiiが存在するため、三角不等式から

d(x,x1)≤d(x,xi)+d(xi,x1)<1+max⁡1≤j≤md(xj,x1)d(x,x_1)\le d(x,x_i)+d(x_i,x_1)<1+\max_{1\le j\le m}d(x_j,x_1)

を得る。したがってXXは一つの開球に含まれるので有界である。空距離空間は定義により有界である。▨

例 1.4. 無限集合XXに離散距離ddを入れる。任意のa∈Xa\in Xに対してX⊆B(a,2)X\subseteq B(a,2)であるため、(X,d)(X,d)は有界である。一方、0<ε≤10<\varepsilon\le 1のとき各開球B(a,ε)B(a,\varepsilon)は一元集合{a}\{a\}である。有限個の一元集合の合併は有限集合であり、無限集合XXを覆わない。したがって(X,d)(X,d)は全有界でない。

2 全有界性の点列による特徴づけ

定理 2.1.(X,d)(X,d)を距離空間とする。次の二条件は同値である。

  1. (X,d)(X,d)は全有界である。
  2. XXの任意の点列は Cauchy 部分列をもつ。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。(X,d)(X,d)が全有界であるとし、(xn)n≥1(x_n)_{n\ge 1}をXXの点列とする。各k≥1k\ge 1に対して、半径2−k2^{-k}の開球からなるXXの有限被覆を一つずつ選び、

X=⋃j=1mkB(yk,j,2−k)X=\bigcup_{j=1}^{m_k}B(y_{k,j},2^{-k})

と書く。

A0=N≥1A_0=\NNとする。Ak−1A_{k-1}が非有界な添字集合として定まったとき、有限個の集合

Ak−1∩{n≥1:xn∈B(yk,j,2−k)}(1≤j≤mk)A_{k-1}\cap\{n\ge 1:x_n\in B(y_{k,j},2^{-k})\}\qquad(1\le j\le m_k)

の合併はAk−1A_{k-1}である。したがって、そのうち少なくとも一つは非有界である。該当する最小のjjをjkj_kとし、対応する集合をAkA_kとする。この定め方により

A0⊇A1⊇A2⊇⋯A_0\supseteq A_1\supseteq A_2\supseteq\cdots

は非有界な添字集合の減少列となる。

n1=min⁡A1n_1=\min A_1とし、nkn_kが定まった後に

nk+1=min⁡{n∈Ak+1:n>nk}n_{k+1}=\min\{n\in A_{k+1}:n>n_k\}

と定める。各Ak+1A_{k+1}は非有界であるため、この最小値は存在する。p,q≥Kp,q\ge Kならばnp,nq∈AKn_p,n_q\in A_Kであるから、

d(xnp,xnq)≤d(xnp,yK,jK)+d(yK,jK,xnq)<21−Kd(x_{n_p},x_{n_q}) \le d(x_{n_p},y_{K,j_K})+d(y_{K,j_K},x_{n_q}) <2^{1-K}

となる。任意のε>0\varepsilon>0に対して21−K<ε2^{1-K}<\varepsilonとなるKKを取れば、Cauchy 条件が成り立つ。さらに(nk)(n_k)は狭義単調増加であるから、§E2.3 定義 2.1により(xnk)(x_{n_k})は(xn)(x_n)の Cauchy 部分列である。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。XXの任意の点列が Cauchy 部分列をもつと仮定し、(X,d)(X,d)が全有界でないと仮定する。このとき、あるε0>0\varepsilon_0>0が存在して、半径ε0\varepsilon_0の有限個の開球ではXXを覆うことができない。XXの有限列で、相異なる二項間の距離がε0\varepsilon_0以上であるもの全体をSSとし、空列もSSに含める。任意のs=(z1,…,zm)∈Ss=(z_1,\dots,z_m)\in Sに対して

X∖⋃i=1mB(zi,ε0)≠∅X\setminus\bigcup_{i=1}^{m}B(z_i,\varepsilon_0)\ne\emptyset

であるから、ssの末尾にこの差集合の点を一つ加えた列もSSに属する。有限列を一項ずつ延長していくことにより、点列(zn)n≥1(z_n)_{n\ge 1}で

d(zn,zm)≥ε0(n≠m)d(z_n,z_m)\ge\varepsilon_0\qquad(n\ne m)

を満たすものが得られる。この点列のどの部分列も、異なる二項の距離がε0\varepsilon_0以上であるため Cauchy 点列でない。これは仮定に反する。したがって(X,d)(X,d)は全有界である。▨

3 全有界性の保存

命題 3.1. 全有界距離空間(X,d)(X,d)の任意の部分集合AAは、制限距離に関して全有界である。

証明.A≠∅A\ne\emptysetとし、ε>0\varepsilon>0を取る。XXの全有界性により、有限個の点x1,…,xm∈Xx_1,\dots,x_m\in Xで

X=⋃i=1mB(xi,ε/2)X=\bigcup_{i=1}^{m}B(x_i,\varepsilon/2)

となるものが存在する。J={i:A∩B(xi,ε/2)≠∅}J=\{i:A\cap B(x_i,\varepsilon/2)\ne\emptyset\}とし、各i∈Ji\in Jに対してai∈A∩B(xi,ε/2)a_i\in A\cap B(x_i,\varepsilon/2)を一つ取る。任意のa∈Aa\in Aに対して、a∈B(xi,ε/2)a\in B(x_i,\varepsilon/2)となるi∈Ji\in Jが存在し、三角不等式から

d(a,ai)<εd(a,a_i)<\varepsilon

を得る。したがって有限個のAAの点を中心とする半径ε\varepsilonの開球がAAを覆う。A=∅A=\emptysetの場合は定義により全有界である。▨

命題 3.2. 距離空間(X,d)(X,d)の全有界な部分集合AAに対して、閉包A‾\overline Aは全有界である。

証明.A≠∅A\ne\emptysetとし、ε>0\varepsilon>0を取る。AAの全有界性により、有限個の点a1,…,am∈Aa_1,\dots,a_m\in Aで

A⊆⋃i=1mB(ai,ε/2)A\subseteq\bigcup_{i=1}^{m}B(a_i,\varepsilon/2)

となるものが存在する。§E2.2 補題 2.5により各閉球B‾(ai,ε/2)\overline B(a_i,\varepsilon/2)は閉集合であり、有限合併

F=⋃i=1mB‾(ai,ε/2)F=\bigcup_{i=1}^{m}\overline B(a_i,\varepsilon/2)

も閉集合である。A⊆FA\subseteq Fであるから、§E2.2 命題 2.3によりA‾⊆F\overline A\subseteq Fとなる。また、§E2.2 補題 2.5により、各iiについて

B‾(ai,ε/2)⊆B(ai,ε)\overline B(a_i,\varepsilon/2)\subseteq B(a_i,\varepsilon)

である。したがってA‾\overline Aは有限個の半径ε\varepsilonの開球で覆われる。A=∅A=\emptysetの場合は§E2.2 公式 3.3によりA‾=∅\overline A=\emptysetである。▨

命題 3.3. 距離空間(X,dX)(X,d_X)と、その完備化(Y,dY,ι)(Y,d_Y,\iota)が一つ与えられているとする。このとき、XXが全有界であることとYYが全有界であることは同値である。

証明. 完備化の埋め込みι:X→Y\iota:X\to Yは等長写像であるから、任意のx,z∈Xx,z\in Xに対して

dY(ι(x),ι(z))=dX(x,z)d_Y(\iota(x),\iota(z))=d_X(x,z)

となる。この等式により、XXの有限ε\varepsilon-球被覆を各中心の像へ移すことができ、ι(X)\iota(X)の有限ε\varepsilon-球被覆では各中心の逆像を取ることができる。したがって、XXが全有界であることと、部分空間ι(X)\iota(X)が全有界であることは同値である。

YYが全有界ならば、命題 3.1により部分空間ι(X)\iota(X)は全有界であり、前段の同値からXXは全有界である。逆にXXが全有界ならばι(X)\iota(X)は全有界であり、命題 3.2によりι(X)‾\overline{\iota(X)}は全有界である。完備化の稠密性からι(X)‾=Y\overline{\iota(X)}=Yであるため、YYは全有界である。▨

命題 3.4.(X,dX)(X,d_X)と(Y,dY)(Y,d_Y)を距離空間とし、f:X→Yf:X\to Yを一様連続写像とする。全有界な部分集合A⊆XA\subseteq Xに対して、f(A)f(A)は全有界である。

証明.A=∅A=\emptysetの場合にはf(A)=∅f(A)=\emptysetである。A≠∅A\ne\emptysetとし、ε>0\varepsilon>0をとる。ffの一様連続性により、dX(x,x′)<δd_X(x,x')<\deltaならばdY(f(x),f(x′))<εd_Y(f(x),f(x'))<\varepsilonとなるδ>0\delta>0が存在する。AAの全有界性により、有限個の点a1,…,am∈Aa_1,\ldots,a_m\in Aを中心とする半径δ\deltaの開球でAAを覆う。任意のa∈Aa\in Aに対してdX(a,ai)<δd_X(a,a_i)<\deltaとなるiiが存在し、dY(f(a),f(ai))<εd_Y(f(a),f(a_i))<\varepsilonである。したがってf(a1),…,f(am)f(a_1),\ldots,f(a_m)を中心とする半径ε\varepsilonの開球がf(A)f(A)を覆う。▨

4 演習

問題 4.1 (実数直線の全有界性). 通常の距離を入れた実数直線R\Rが全有界でないことを示せ。

解答.

任意のa∈Ra\in\RとR>0R>0に対してa+R∉B(a,R)a+R\notin B(a,R)であるため、R\Rは一つの開球に含まれない。したがってR\Rは有界でなく、命題 1.3の対偶により全有界でない。▨

問題 4.2 (閉区間の全有界性). 通常の距離を入れた閉区間[0,1][0,1]が全有界であることを、有限開球被覆を具体的に構成して示せ。

解答.

ε>0\varepsilon>0を取る。1/m<ε1/m<\varepsilonとなる正整数mmを選び、

ak=km(0≤k≤m)a_k=\frac{k}{m}\qquad(0\le k\le m)

と置く。任意のx∈[0,1]x\in[0,1]に対して、あるk∈{0,…,m}k\in\{0,\dots,m\}が存在して∣x−ak∣≤1/m<ε|x-a_k|\le 1/m<\varepsilonとなる。したがってm+1m+1個の開球B(ak,ε)B(a_k,\varepsilon)が[0,1][0,1]を覆う。▨

問題 4.3 (全有界性の距離への依存).X=(0,1]X=(0,1]とし、

d(x,y)=∣x−y∣,d′(x,y)=∣1x−1y∣d(x,y)=|x-y|,\qquad d'(x,y)=\left|\frac1x-\frac1y\right|

と定める。§E2.5 例 6.3を参照し、ddとd′d'が同じ位相を定める一方で、(X,d)(X,d)は全有界であり、(X,d′)(X,d')は全有界でないことを示せ。

解答.

§E2.5 例 6.3により、ddとd′d'は同じ位相を定める。ε>0\varepsilon>0を取り、1/m<ε1/m<\varepsilonとなる正整数mmを選ぶ。任意のx∈(0,1]x\in(0,1]に対して、x≤k/mx\le k/mとなる最小のk∈{1,…,m}k\in\{1,\dots,m\}を取る。k=1k=1ならば0<x≤1/m0<x\le 1/mであり、k>1k>1ならば(k−1)/m<x≤k/m(k-1)/m<x\le k/mであるから、いずれの場合も

∣x−km∣<1m<ε\left|x-\frac{k}{m}\right|<\frac1m<\varepsilon

となる。したがって中心1/m,…,m/m1/m,\dots,m/mの有限個のε\varepsilon-球がXXを覆うので、(X,d)(X,d)は全有界である。一方、任意のa∈Xa\in XとR>0R>0に対して

y=11/a+R∈Xy=\frac{1}{1/a+R}\in X

と置けばd′(a,y)=Rd'(a,y)=Rとなる。したがって(X,d′)(X,d')は有界でなく、命題 1.3の対偶により全有界でない。▨

参考文献

  1. 松坂和夫『集合・位相入門』新装版, 岩波書店, 2018.全有界性の有限被覆による定義と点列による特徴づけを参考にした。
  2. Stephen Willard, General Topology, Dover Publications, 2004, originally published 1970.全有界性の保存と完備化の関係を参考にした。

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