目的と到達像

本単元は、集合と写像、二項演算、代数系、順序、数の構成、順序数および基数を定義する。本単元は、定義した対象の基本的な性質を証明する。対象読者は、量化子を含む命題と数学的帰納法を用いて証明を読み書きし、後続の代数、解析、位相および数理論理へ進む読者である。各記事は、定義した対象が条件を満たすこと、構成した写像や演算が代表元の選び方に依存しないこと、ならびに結論に必要な仮定が何であるかを示す。

必修の記事を学んだ読者は、写像、集合族、同値関係および商集合を定義し、像と逆像の法則、写像と二変数写像が商集合へ降下する条件を証明することができる。読者は、群、環および体を含む代数系、順序集合、束、Boolean 代数および順序体を定義し、定義から基本的な性質を導くことができる。読者は、自然数から複素数までの構成、順序数に関する超限帰納法と超限再帰、等濃度と基数の比較を、用いる集合の存在原理と選択原理を明示して説明することができる。

読者は、体上の一変数多項式の除法、因数定理および有限根性を証明することができる。読者は、完備順序体の一意性、選択公理・Zorn の補題・整列可能定理の同値性、基数算術および共終数に関する主張について、主張ごとに必要な仮定を区別することができる。第24記事を学ぶ読者は、Cauchy 列による実数体の構成を、必修で構成する実数体と比較することができる。

前提知識

本単元は、集合と論理が扱う量化子の入れ子と否定の規則を、集合、写像、代数的構造および順序に関する定義と証明で用いる。読者が量化子を含む命題、否定、背理法または対偶による証明を未修得である場合には、論理の単元の発展的な内容を先に読む。

本単元は、離散数学とアルゴリズムが扱う数学的帰納法と再帰的定義を、多項式の次数に関する証明、有限集合の議論および超限再帰の原型として用いる。読者が数学的帰納法または再帰的定義を未修得である場合には、離散数学の単元の該当する記事を先に読む。多項式の具体例では、読者は整式の除法・剰余の定理・因数定理で扱う実係数の整式の除法を参照する。本単元は、線形代数 Iが扱う体上の構造と、線形代数 IIが扱う基底の存在に選択公理を用いる例を、具体例として参照する。本単元の証明は、体上の構造も基底の存在に選択公理を用いる例も前提にしない。

定義と証明の進め方

本単元は、定義と構成を証明の根拠にする。本単元は、図や標準例を定義の意味を確かめるために用いるが、証明の根拠にはしない。「集合の存在原理」は、集合または写像を構成する箇所で、外延性、対、和、冪、分出、無限、置換または選択のうち、どの規則によって対象が存在するかを厳密に特定する。他の記事は、存在原理の選択が結論または証明の可否を左右する箇所に限って根拠となる規則を引用し、既知の集合から行う自明な構成に参照を重ねない。

本単元は、全順序、上限の性質、可算選択公理、従属選択公理、選択公理または整列可能定理を用いる主張で、仮定を結論とともに述べる。各記事は、新しい定義に標準例を置く。各記事は、条件を外すと結論が成り立たない場合には反例を扱う。読者は、全射と単射、最大元と極大元、上界と上限、一般の完備化と実数体の構成を混同しない。

本単元は、後続の単元が用いる共通語彙と基本構成を証明するが、各分野の構造論を先取りしない。したがって、本単元は、群論、環論、束論、実解析、形式的な集合論および数理論理の専門的な理論を、それぞれの単元へ委ねる。

学習の順序と各記事の内容

必修の記事は第1記事から第23記事までである。第24記事だけは、必修で構成した実数体を別の構成と比較する展望の記事である。読者は、第24記事を関心に応じて読むことができる。読者は、まず写像、直積および商を定義する記事を読み、続いて演算をもつ対象と順序を記述する記事を読む。本単元は、一般の完備化を順序体より先に扱う。この配置によって、読者は順序だけから得られる構成と、体の演算を備えた実数体の構成を区別する。本単元は、集合の存在原理を明示した後、数の構成、順序数、濃度、選択原理および基数を扱う。後の構成では、各記事が前の記事で定義した写像、同値関係、順序および存在原理を根拠として用いる。

集合と写像

  1. 写像(写像)

    定義域・終域、合成、恒等写像、単射・全射・全単射、像および逆像を定義し、集合演算との基本法則を証明する。

  2. 集合族(集合族)

    順序対と直積を、有限個の場合と添字集合をもつ任意個の場合について定義する。集合族の任意和と任意共通部分を定義し、分配法則、一般のド・モルガンの法則、および像と逆像との交換則を証明する。

  3. 同値関係と商(同値関係と商)

    同値関係、同値類、分割および商集合を定義する。同値関係と分割の対応、写像の商集合への降下、および二変数写像の降下条件を証明する。

代数的構造

  1. 二項演算(二項演算)

    二項演算を直積から同じ集合への写像として定義し、結合律、可換律、左右の単位元、固定した単位元に関する左右の逆元および冪を記述する。演算表と写像の合成を例に取り、両側単位元と両側逆元の一意性を証明する。

  2. 代数系(代数系)

    マグマ、半群、モノイド、群、環、可換環、整域、斜体および体を定義し、包含関係と各公理の役割を調べる。結合的な二項演算について片側単位元と片側逆元から両側の性質が従う十分条件、向きを混ぜた条件の有限反例、および積と逆演算による群の単一公理を、出典と適用範囲を明記して扱う。部分群、イデアルおよび各分野の構造論は扱わない。

  3. 準同型と商(準同型と商)

    一つまたは二つの二項演算を備えた集合の間で、各演算を保つ写像と同型を定義する。演算について閉じた部分集合、成分ごとの直積演算、および演算と両立する同値関係による商を構成し、商の演算が代表元に依存せず定まることと、商写像が演算を保つことを証明する。群準同型の核と像、正規部分群、環準同型、イデアルおよび同型定理は扱わない。

  4. 多項式(多項式)

    単位元をもつ可換環上の一変数多項式環を有限台係数列として構成し、不定元、定数の埋め込み、次数および評価を定義する。多項式と多項式関数の相違を示し、体上の除法、剰余の定理、因数定理および非零多項式の相異なる根の個数が次数以下であることを証明する。Euclid の互除法、Bézout の等式、既約性および一意分解は扱わない。

順序集合と束

  1. 順序集合(順序集合)

    前順序、半順序および全順序を定義し、半順序を備えた集合を poset と呼ぶ。積順序と辞書式順序、上方集合と下方集合、鎖、上界と下界、上限と下限、順序を保つ写像および順序埋め込みを扱い、有限直積の辞書式順序が整列順序になる条件を証明する。

  2. 束と完備束(束と完備束)

    poset の任意の二元が上限と下限をもつことによって束を定義し、結びと交わりを二項演算として扱う。順序による定義と代数法則による定義が一致することを証明し、有界束、完備束および束を保つ写像を定義する。冪集合、整除関係および全順序集合の例で、任意の結びと交わりが存在する条件を比較する。

  3. Boolean 代数(Boolean 代数)

    最小元と最大元をもつ分配束の各元が補元をもつことによって Boolean 代数を定義する。補元の一意性とド・モルガンの法則を証明し、二元 Boolean 代数、冪集合、直積および Boolean 準同型を扱い、命題論理の論理演算との対応を示す。自由 Boolean 代数、超フィルターおよび Stone 双対性は扱わない。

完備化と順序体

  1. Dedekind–MacNeille 完備化(Dedekind–MacNeille 完備化)

    任意の poset の部分集合に上界全体と下界全体を対応させ、その往復による閉包の不動点が完備束をなすことを証明する。各元を主下方集合へ送る順序埋め込みと、像の結びおよび交わりに関する稠密性による一意性を示す。端点をもたない稠密全順序集合では、両方の improper cut を含む拡張 Dedekind 切断と対応すること、ならびに冪集合上の単調写像の不動点から Schröder–Bernstein の定理が得られることを証明する。一般の完備束に対する Knaster–Tarski の定理は扱わない。

  2. 順序環と順序体(順序環と順序体)

    環の演算と両立する全順序を定義し、正の元の集合による同値な記述を証明する。順序環と順序体を定義して整数と有理数を例に取る。

集合の存在原理

  1. 集合の存在原理(集合の存在原理)

    外延性、対、和、冪、分出、無限、置換および選択を、集合を作ってよい規則として述べ、それぞれが何を作ることを許すかを示す。分出と置換が論理式ごとに公理を与える公理スキーマであること、無制限な内包が Russell のパラドックスを導くこと、および分出がその制限にあたることを説明する。基礎の公理は、本単元で用いないことを明記したうえで主張だけを紹介する。

数の構成

  1. 実数体の構成(実数体の構成)

    無限公理から自然数を構成し、自然数の対と分母が零でない整数の対を同値関係で割って整数と有理数を構成する。Peano の公理と PA の帰納法公理スキーマとの関係を説明するが、PA の構文、充足関係および非標準モデルの構成は扱わない。構成した有理数の Dedekind–MacNeille 完備化に対応する拡張切断から両端点を除いた proper cut 上で演算と順序を定め、Dedekind 切断による実数体を構成して埋め込みおよび上限の性質を証明する。さらに実数の対から複素数体を構成し、構成した複素数体には演算と両立する全順序がないことを示す。各商の演算と順序が代表元に依存せず定まることを示す。

  2. 完備順序体の一意性(完備順序体の一意性)

    上に有界で空でない部分集合が上限をもつ順序体が Archimedes 的であることを証明する。有理数の埋め込みと Dedekind 切断を用いて、二つの完備順序体の間にただ一つの順序を保つ体同型が存在することを示す。上限の性質が部分集合を量化することと、実数体と一階的に同じ文を満たす非 Archimedes 的な実閉順序体が存在することを区別する。非標準モデルの比較は言及にとどめ、その存在証明は扱わない。

順序数

  1. 順序数(順序数)

    整列順序、整列集合および始切片を定義する。順序数を、属する関係によって整列された推移的集合として定義し、任意の整列順序がただ一つの順序数と順序同型であることを証明する。後続順序数、極限順序数、順序数の和と積を扱い、置換公理スキーマを欠く体系では各ω+n\omega+nが存在してもω+ω\omega+\omegaを順序数としてもたないモデルがあることを相対化して紹介する。

  2. 超限帰納法と超限再帰(超限帰納法と超限再帰)

    順序数の全体にわたる超限帰納法を証明し、超限再帰によって順序数を添字とする族を定義する。再帰の極限段で置換公理スキーマが果たす役割を述べ、順序数の和と積を超限再帰による定義として述べ直す。

濃度

  1. 等濃度と可算性(等濃度と可算性)

    等濃度、高々可算、可算および非可算を定義し、整数と有理数の可算性ならびに有限和と有限積に関する閉性を証明する。可算個の和に選択が必要になる場合は仮定を明示する。非零多項式の相異なる根の個数に関する結果を用いて、代数的数の全体が可算であることを示す。

  2. Cantor の定理(Cantor の定理)

    対角線論法により、集合からその冪集合への全射が存在しないことを証明する。二進列の全体を実数体の部分集合へ単射で写す構成を上限の性質から与え、実数全体が非可算であることを示す。代数的数の可算性とあわせて超越数の存在を導く。

基数

  1. 選択公理と Zorn の補題(選択公理と Zorn の補題)

    選択公理、Zorn の補題および整列可能定理の同値性を証明する。従属選択公理を定義し、選択公理から従属選択公理が従い、従属選択公理から可算選択公理が従うことを証明する。Zorn の補題を用いる標準的な応用を一つ証明する。選択原理を用いる構成と用いない構成を、この箇所から後の基数に関する主張で区別する。

  2. 基数とアレフ(基数とアレフ)

    基数を、それより小さいどの順序数とも等濃でない順序数として定義し、選択公理のもとで任意の集合と等濃な基数がただ一つ存在することを証明する。Hartogs の定理を選択公理を用いずに証明し、アレフ階層を超限再帰によって定義する。最小の非可算基数の存在が置換公理スキーマに依ることを述べる。

  3. 基数算術(基数算術)

    基数の和、積および冪を、直和、直積および写像全体の集合の濃度として定義する。整列可能な無限濃度、すなわち基数について、和と積が大きいほうの基数に一致することを超限帰納法によって証明し、冪に対する Cantor の定理による下からの評価を確かめる。通常の辞書式順序と Gödel 順序を比較し、連続体濃度を二の可算冪として表す。

  4. 共終数と König の定理(共終数と König の定理)

    共終数を定義し、無限基数を正則基数と特異基数に分ける。選択公理のもとで、可算個の可算順序数の上限が可算であること、最小の非可算基数が正則であること、および連続体濃度の共終数が可算より大きいことを証明する。したがって連続体濃度がアレフオメガに一致しないことを導く。連続体濃度に課される制約がこの評価と Cantor の定理に尽きることは、結論だけを述べる。

実数構成の比較

  1. Cauchy 列による実数の構成(Cauchy 列による実数の構成、展望)

    有理数の Cauchy 列を定義し、差が零へ収束する二つの列を同一視した商集合を作る。項ごとの四則演算と順序が同値類の代表に依存せず定まり、完備順序体をなすことを証明する。完備順序体の一意性により、Dedekind 切断から構成した実数体とのただ一つの同型を得る。

前後の単元との関係

  • 集合と論理 は、量化子を含む命題、否定および証明法を供給する。本単元は、その論理の言葉で集合、写像、代数的構造および順序を定義する。
  • 離散数学とアルゴリズム は、数学的帰納法と再帰的定義を供給する。本単元は、自然数上の議論を原型として超限帰納法と超限再帰を扱う。
  • 群論入門、環論入門 および 束論 は、本単元で定義する代数系、準同型、商、束および Boolean 代数の語彙を、それぞれの構造論へ進める。
  • ε-論法と基礎解析 は、本単元で構成し一意性を示す実数体を、極限、連続性、微分、積分および級数の収束に用いる。
  • 公理的集合論 と 数理論理 は、本単元で非形式的に用いる集合の存在原理、順序数およびモデルに関する留保を、それぞれ形式的な理論として扱う。

この単元で扱わないこと

  • 公理系を言語の上の形式的な理論として扱うこと、累積階層と正則性、反映原理、初等部分モデル、Mostowski 崩壊、構成可能宇宙、および連続体仮説の独立性の証明は公理的集合論が扱う。本単元は、集合を作ってよい規則を日本語で述べ、証明のなかで用いた規則を名指すところまでを扱う。
  • 一階述語論理の構文と意味論、形式的な証明体系、および完全性定理は数理論理が扱う。
  • 部分群、正規部分群、商群、群作用、Sylow 理論および群の構造定理は群論入門が扱う。本単元は、群の公理と基本例、二項演算の公理間の含意と反例、ならびに一つまたは二つの二項演算を保つ写像と商の共通構成を扱う。
  • イデアル、加群、環の局所化、Euclid 整域、単項イデアル整域、既約性、一意分解整域、多項式環の普遍性、Euclid の互除法および Bézout の等式は環論入門が扱う。本単元は、環、可換環、整域、斜体および体を定義し、一変数多項式を有限台係数列として構成して体上の除法と有限根性までを扱う。
  • 分配束とモジュラー束の構造論、閉包作用素、Galois 接続、Knaster–Tarski の不動点定理、束のイデアルとフィルター、Stone 双対性、frame および locale は束論が扱う。本単元は、束、完備束、Boolean 代数および Dedekind–MacNeille 完備化の基本構成までを扱う。
  • 数列と関数の極限、連続性、微分、積分および級数の収束はε-論法と基礎解析が扱う。本単元は、有理数から実数体を構成し、完備順序体としての一意性を証明するところまでを扱う。
  • 任意の演算記号と等式による代数系、自由代数、合同関係の束および Birkhoff の定理は普遍代数が扱う。本単元は、一つまたは二つの二項演算をもつ基本例と、それらに共通する構成だけを扱う。

そのほかの参考文献

単元の参考文献に挙げた文献のほかに、次の文献を挙げる。

  • John L. Kelley, General Topology, Springer.