§E1.19Cantor の定理

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「等濃度と可算性」は、集合の大きさを単射と全単射によって比べる枠組みを与え、整数の全体、有理数の全体および代数的数の全体がいずれも可算であることを示す。そこまでに現れる無限集合はどれもZ≥0\mathbb Z_{\geq0}によって番号づけられており、可算より真に大きい濃度をもつ集合が実際に存在するかどうかは、まだ決まっていない。

集合AAから冪集合P(A)\mathcal P(A)への写像ffに対して、f(a)f(a)に属さないaaの全体を取る。この集合は各aaについてaaが属するか否かでf(a)f(a)と食い違うので、ffのどの値とも異なる。対角線論法と呼ばれるこの構成は、AAの大きさとP(A)\mathcal P(A)の大きさを一挙に分離する。本記事は、この一つの論法から実数全体の非可算性と超越数の存在までを導く。

1 冪集合への全射の非存在

定理 1.1 (Cantor の定理).AAを集合とする。

  1. AAからP(A)\mathcal P(A)への全射は存在しない。
  2. ∣A∣<∣P(A)∣|A|<|\mathcal P(A)|である。

証明.(1)f ⁣:A→P(A)f\colon A\to\mathcal P(A)を写像とし、

D={a∈A∣a∉f(a)}D=\{a\in A\mid a\notin f(a)\}

とおく。「集合の存在原理」の§E1.13 定義 2.1によりDDはAAの部分集合であり、D∈P(A)D\in\mathcal P(A)である。D=f(b)D=f(b)を満たすb∈Ab\in Aが存在すると仮定する。b∈Db\in Dとすると、DDの定義からb∉f(b)b\notin f(b)であり、f(b)=Df(b)=Dであるからb∉Db\notin Dとなって矛盾する。b∉Db\notin Dとすると、b∈Ab\in AであるからDDの定義によりb∈f(b)=Db\in f(b)=Dとなって矛盾する。したがってDDはffの像に属さず、ffは全射ではない。

(2)写像a↦{a}a\mapsto\{a\}はAAからP(A)\mathcal P(A)への単射であるから、§E1.18 定義 1.1により∣A∣≤∣P(A)∣|A|\leq|\mathcal P(A)|である。∣P(A)∣≤∣A∣|\mathcal P(A)|\leq|A|が成り立つと仮定すると、単射g ⁣:P(A)→Ag\colon\mathcal P(A)\to Aが存在する。a∈Aa\in Aに対して、g(S)=ag(S)=aを満たすS∈P(A)S\in\mathcal P(A)が存在する場合にはそのSSを、存在しない場合には∅\emptysetを値とする対応をhhとする。ggは単射であるから第一の場合のSSは一意であり、∅∈P(A)\emptyset\in\mathcal P(A)であるから第二の場合の値もP(A)\mathcal P(A)に属する。よってhhは写像A→P(A)A\to\mathcal P(A)である。任意のS∈P(A)S\in\mathcal P(A)についてh(g(S))=Sh(g(S))=Sであるからhhは全射であり、(1)に反する。したがって∣P(A)∣≤∣A∣|\mathcal P(A)|\leq|A|は成り立たず、§E1.18 定義 1.1が定める狭義比較により∣A∣<∣P(A)∣|A|<|\mathcal P(A)|である。▨

例 1.2.A={0,1}A=\{0,1\}とし、f ⁣:A→P(A)f\colon A\to\mathcal P(A)をf(0)={0}f(0)=\{0\}、f(1)=∅f(1)=\emptysetで定める。0∈f(0)0\in f(0)であるから0∉D0\notin Dであり、1∉f(1)1\notin f(1)であるから1∈D1\in Dである。よって対角線集合はD={1}D=\{1\}であり、f(0)={0}f(0)=\{0\}ともf(1)=∅f(1)=\emptysetとも異なる。P(A)\mathcal P(A)の残りの元{0,1}\{0,1\}もffの像に属さない。AAの元は2個、P(A)\mathcal P(A)の元は4個であり、この場合の定理 1.1 (2)は2<42<4にあたる。

注意 1.3. 「集合の存在原理」の§E1.13 命題 2.3は、集合AAに対してRA={x∈A∣x∉x}R_A=\{x\in A\mid x\notin x\}がAAに属さないこと、したがってすべての集合を要素として含む集合が存在しないことを与える。とくに、すべての集合を元として含む集合UUが存在すると仮定すると、各x∈Ux\in Uは集合であり、そのすべての元もUUに属するのでx⊆Ux\subseteq Uである。したがって包含写像ι ⁣:U→P(U)\iota\colon U\to\mathcal P(U)、ι(x)=x\iota(x)=xが定まる。さらにS∈P(U)S\in\mathcal P(U)ならばSS自身も集合であるからS∈US\in Uであり、ι(S)=S\iota(S)=Sなのでι\iotaは全射である。ι\iotaに対する対角集合は{x∈U∣x∉ι(x)}={x∈U∣x∉x}=RU\{x\in U\mid x\notin\iota(x)\}=\{x\in U\mid x\notin x\}=R_Uであり、Russell 型の議論と同じ対角化が Cantor の定理に反する。

2 二進列から実数への単射

定義 2.1.Z≥0\mathbb Z_{\geq0}を定義域とし{0,1}\{0,1\}を終域とする写像を二進列 (binary sequence) という。二進列の全体を{0,1}Z≥0\{0,1\}^{\mathbb Z_{\geq0}}と書き、二進列xxのnnにおける値をxnx_nと書く。S⊆Z≥0S\subseteq\mathbb Z_{\geq0}に対して、n∈Sn\in Sのとき11、n∉Sn\notin Sのとき00を値とする二進列をχS\chi_Sと書き、SSの指示関数 (indicator function) という。たとえばχZ≥0\chi_{\mathbb Z_{\geq0}}はすべての値が11である二進列であり、χ∅\chi_\emptysetはすべての値が00である二進列である。

補題 2.2. 写像S↦χSS\mapsto\chi_SはP(Z≥0)\mathcal P(\mathbb Z_{\geq0})から{0,1}Z≥0\{0,1\}^{\mathbb Z_{\geq0}}への全単射であり、その逆写像は二進列xxに{n∈Z≥0∣xn=1}\{n\in\mathbb Z_{\geq0}\mid x_n=1\}を対応させる。

証明. 二進列xxに対してσ(x)={n∈Z≥0∣xn=1}\sigma(x)=\{n\in\mathbb Z_{\geq0}\mid x_n=1\}とおく。§E1.13 定義 2.1によりσ(x)\sigma(x)はZ≥0\mathbb Z_{\geq0}の部分集合であり、σ\sigmaは写像{0,1}Z≥0→P(Z≥0)\{0,1\}^{\mathbb Z_{\geq0}}\to\mathcal P(\mathbb Z_{\geq0})である。S⊆Z≥0S\subseteq\mathbb Z_{\geq0}とn∈Z≥0n\in\mathbb Z_{\geq0}に対して、n∈σ(χS)n\in\sigma(\chi_S)は(χS)n=1(\chi_S)_n=1と同値であり、指示関数の定義によりこれはn∈Sn\in Sと同値である。よってσ(χS)=S\sigma(\chi_S)=Sである。逆に二進列xxとnnに対して、n∈σ(x)n\in\sigma(x)ならば(χσ(x))n=1=xn(\chi_{\sigma(x)})_n=1=x_nであり、n∉σ(x)n\notin\sigma(x)ならばxn≠1x_n\neq1すなわちxn=0x_n=0であって(χσ(x))n=0=xn(\chi_{\sigma(x)})_n=0=x_nである。よってχσ(x)=x\chi_{\sigma(x)}=xである。二つの合成がいずれも恒等写像であるから、S↦χSS\mapsto\chi_Sは全単射であり、σ\sigmaがその逆写像である。▨

補題 2.3.NNを非負整数とし、実数の非負整数乗を「二項演算」の§E1.4 定義 3.1によって定める。

  1. bbを00でない実数とすると(1b)N=1bN\left(\dfrac1b\right)^{N}=\dfrac1{b^{N}}である。
  2. rrを11でない実数とすると∑n=0Nrn=1−rN+11−r\displaystyle\sum_{n=0}^{N}r^{n}=\frac{1-r^{N+1}}{1-r}である。
  3. ∑n=0N13n+1=12(1−13N+1)\displaystyle\sum_{n=0}^{N}\frac1{3^{n+1}}=\frac12\left(1-\frac1{3^{N+1}}\right)である。

証明.(1)N=0N=0では両辺がともに11である。(1b)N=1bN\left(\frac1b\right)^{N}=\frac1{b^{N}}を仮定すると、冪の再帰と

1bN⋅1b=1bNb=1bN+1\frac1{b^{N}}\cdot\frac1b=\frac1{b^{N}b}=\frac1{b^{N+1}}

から(1b)N+1=1bN+1\left(\frac1b\right)^{N+1}=\frac1{b^{N+1}}である。

(2)NNについての帰納法で(1−r)∑n=0Nrn=1−rN+1(1-r)\sum_{n=0}^{N}r^{n}=1-r^{N+1}を示す。N=0N=0ではr0=1r^{0}=1であるから左辺は1−r1-rであり、右辺は1−r1=1−r1-r^{1}=1-rである。NNで等式が成り立つとすると、

(1−r)∑n=0N+1rn=(1−r)(∑n=0Nrn+rN+1)=(1−rN+1)+(rN+1−rN+2)=1−rN+2(1-r)\sum_{n=0}^{N+1}r^{n}=(1-r)\left(\sum_{n=0}^{N}r^{n}+r^{N+1}\right)=\left(1-r^{N+1}\right)+\left(r^{N+1}-r^{N+2}\right)=1-r^{N+2}

である。r≠1r\neq1から1−r≠01-r\neq0であり、両辺を1−r1-rで割ると主張の等式を得る。

(3)(1)により13n=(13)n\frac1{3^{n}}=\left(\frac13\right)^{n}であるから、(2)をr=13r=\frac13に適用して

∑n=0N13n+1=13∑n=0N(13)n=13⋅1−13N+11−13=12(1−13N+1)\sum_{n=0}^{N}\frac1{3^{n+1}}=\frac13\sum_{n=0}^{N}\left(\frac13\right)^{n}=\frac13\cdot\frac{1-\frac1{3^{N+1}}}{1-\frac13}=\frac12\left(1-\frac1{3^{N+1}}\right)

を得る。▨

定義 2.4. 二進列xxと非負整数NNに対して

sN(x)=∑n=0Nxn3n+1s_N(x)=\sum_{n=0}^{N}\frac{x_n}{3^{n+1}}

とおき、sN(x)s_N(x)をxxの三進部分和 (triadic partial sum) という。

補題 2.5. 二進列xxと非負整数NNに対して、s0(x)=x03s_0(x)=\dfrac{x_0}{3}かつsN+1(x)=sN(x)+xN+13N+2s_{N+1}(x)=s_N(x)+\dfrac{x_{N+1}}{3^{N+2}}である。

証明.N=0N=0のとき和∑n=00xn3n+1\sum_{n=0}^{0}\dfrac{x_n}{3^{n+1}}はn=0n=0の項だけからなるので、s0(x)=x03s_0(x)=\dfrac{x_0}{3}である。また有限和は上端を一つ増やすごとに新しい項を加えて定まるから、

sN+1(x)=∑n=0N+1xn3n+1=∑n=0Nxn3n+1+xN+13N+2=sN(x)+xN+13N+2s_{N+1}(x)=\sum_{n=0}^{N+1}\frac{x_n}{3^{n+1}}=\sum_{n=0}^{N}\frac{x_n}{3^{n+1}}+\frac{x_{N+1}}{3^{N+2}}=s_N(x)+\frac{x_{N+1}}{3^{N+2}}

である。▨

命題 2.6.xxを二進列とし、NN、MM、n0n_0を非負整数とする。

  1. N≤MN\leq MならばsN(x)≤sM(x)s_N(x)\leq s_M(x)である。
  2. 0≤sN(x)≤12(1−13N+1)<120\leq s_N(x)\leq\dfrac12\left(1-\dfrac1{3^{N+1}}\right)<\dfrac12である。
  3. n0<Nn_0<NならばsN(x)−sn0(x)≤12(13n0+1−13N+1)<12⋅13n0+1s_N(x)-s_{n_0}(x)\leq\dfrac12\left(\dfrac1{3^{n_0+1}}-\dfrac1{3^{N+1}}\right)<\dfrac12\cdot\dfrac1{3^{n_0+1}}である。

証明.(1)補題 2.5とxN+1≥0x_{N+1}\geq0、3N+2>03^{N+2}>0からsN+1(x)−sN(x)=xN+13N+2≥0s_{N+1}(x)-s_N(x)=\dfrac{x_{N+1}}{3^{N+2}}\geq0である。NNからMMまで有限回この不等式を重ねるとsN(x)≤sM(x)s_N(x)\leq s_M(x)を得る。

(2)各項xn3n+1\dfrac{x_n}{3^{n+1}}は非負であるから0≤sN(x)0\leq s_N(x)である。またxn≤1x_n\leq1であるから

sN(x)≤∑n=0N13n+1=12(1−13N+1)s_N(x)\leq\sum_{n=0}^{N}\frac1{3^{n+1}}=\frac12\left(1-\frac1{3^{N+1}}\right)

であり、最後の等号は補題 2.3 (3)による。3N+1>03^{N+1}>0から13N+1>0\dfrac1{3^{N+1}}>0であり、右端の狭義不等式が従う。

(3)n0<Nn_0<Nとすると、xn≤1x_n\leq1と補題 2.3 (3)により

sN(x)−sn0(x)=∑n=n0+1Nxn3n+1≤∑n=n0+1N13n+1=12(1−13N+1)−12(1−13n0+1)s_N(x)-s_{n_0}(x)=\sum_{n=n_0+1}^{N}\frac{x_n}{3^{n+1}}\leq\sum_{n=n_0+1}^{N}\frac1{3^{n+1}}=\frac12\left(1-\frac1{3^{N+1}}\right)-\frac12\left(1-\frac1{3^{n_0+1}}\right)

であり、右辺は12(13n0+1−13N+1)\dfrac12\left(\dfrac1{3^{n_0+1}}-\dfrac1{3^{N+1}}\right)に等しい。13N+1>0\dfrac1{3^{N+1}}>0から、これは12⋅13n0+1\dfrac12\cdot\dfrac1{3^{n_0+1}}より小さい。▨

補題 2.7.xxを二進列とすると、集合{sN(x)∣N∈Z≥0}\{s_N(x)\mid N\in\mathbb Z_{\geq0}\}は空でなく12\dfrac12を上界にもつ。したがってこの集合の上限がR\mathbb Rに存在し、その値は00以上12\dfrac12以下である。

証明.s0(x)s_0(x)はこの集合に属するので、この集合は空でない。命題 2.6 (2)により各sN(x)s_N(x)は12\dfrac12より小さいから、12\dfrac12はこの集合の上界である。「完備順序体の一意性」の§E1.15 定義 1.1は、上に有界で空でない任意の部分集合が上限をもつことを完備順序体の性質として定め、「実数体の構成」の§E1.14 定理 3.1はR\mathbb Rがこの性質をもつことを与える。したがってこの集合の上限がR\mathbb Rに存在する。命題 2.6 (2)により0≤s0(x)0\leq s_0(x)であるから上限は00以上であり、12\dfrac12が上界であるから上限は12\dfrac12以下である。▨

定義 2.8. 二進列xxに対して、補題 2.7が存在を与える上限

φ(x)=sup⁡{sN(x)∣N∈Z≥0}\varphi(x)=\sup\{s_N(x)\mid N\in\mathbb Z_{\geq0}\}

をxxの三進値 (triadic value) という。こうして写像φ ⁣:{0,1}Z≥0→R\varphi\colon\{0,1\}^{\mathbb Z_{\geq0}}\to\mathbb Rが定まる。

定理 2.9.φ\varphiを

φ ⁣:{0,1}Z≥0→R,φ(x)=sup⁡{sN(x)∣N∈Z≥0}\varphi\colon\{0,1\}^{\mathbb Z_{\geq0}}\to\mathbb R, \qquad \varphi(x)=\sup\{s_N(x)\mid N\in\mathbb Z_{\geq0}\}

が定める写像とする。

  1. φ\varphiは単射である。
  2. S⊆Z≥0S\subseteq\mathbb Z_{\geq0}にφ(χS)\varphi(\chi_S)を対応させる写像は、冪集合P(Z≥0)\mathcal P(\mathbb Z_{\geq0})の全体からR\mathbb Rへの単射である。

証明.(1)二進列xx、yyをx≠yx\neq yとなるように取る。集合{n∈Z≥0∣xn≠yn}\{n\in\mathbb Z_{\geq0}\mid x_n\neq y_n\}は空でないので最小元n0n_0をもつ。xn0x_{n_0}とyn0y_{n_0}は{0,1}\{0,1\}の相異なる元であるから、必要ならxxとyyを入れ替えて、xn0=1x_{n_0}=1かつyn0=0y_{n_0}=0としてよい。

t=sn0(y)t=s_{n_0}(y)とおく。n0=0n_0=0の場合にはt=y03=0t=\dfrac{y_0}{3}=0かつs0(x)=x03=13s_0(x)=\dfrac{x_0}{3}=\dfrac13である。n0>0n_0>0の場合には、n<n0n<n_0でxn=ynx_n=y_nであることと補題 2.5からsn0−1(x)=sn0−1(y)s_{n_0-1}(x)=s_{n_0-1}(y)であり、同じ補題 2.5からt=sn0−1(y)+yn03n0+1=sn0−1(y)t=s_{n_0-1}(y)+\dfrac{y_{n_0}}{3^{n_0+1}}=s_{n_0-1}(y)かつsn0(x)=sn0−1(x)+13n0+1s_{n_0}(x)=s_{n_0-1}(x)+\dfrac1{3^{n_0+1}}である。いずれの場合も

sn0(x)=t+13n0+1s_{n_0}(x)=t+\frac1{3^{n_0+1}}

が成り立つ。上限は上界であるからφ(x)≥sn0(x)=t+13n0+1\varphi(x)\geq s_{n_0}(x)=t+\dfrac1{3^{n_0+1}}である。

次に、t+12⋅13n0+1t+\dfrac12\cdot\dfrac1{3^{n_0+1}}が{sN(y)∣N∈Z≥0}\{s_N(y)\mid N\in\mathbb Z_{\geq0}\}の上界であることを示す。N≤n0N\leq n_0の場合には命題 2.6 (1)によりsN(y)≤sn0(y)=ts_N(y)\leq s_{n_0}(y)=tである。N>n0N>n_0の場合には命題 2.6 (3)により

sN(y)≤t+12(13n0+1−13N+1)<t+12⋅13n0+1s_N(y)\leq t+\frac12\left(\frac1{3^{n_0+1}}-\frac1{3^{N+1}}\right)<t+\frac12\cdot\frac1{3^{n_0+1}}

である。いずれの場合もsN(y)≤t+12⋅13n0+1s_N(y)\leq t+\dfrac12\cdot\dfrac1{3^{n_0+1}}であるから、上限が最小の上界であることにより

φ(y)≤t+12⋅13n0+1<t+13n0+1≤φ(x)\varphi(y)\leq t+\frac12\cdot\frac1{3^{n_0+1}}<t+\frac1{3^{n_0+1}}\leq\varphi(x)

となる。中央の狭義不等式は13n0+1>0\dfrac1{3^{n_0+1}}>0による。よってφ(x)≠φ(y)\varphi(x)\neq\varphi(y)であり、φ\varphiは単射である。

(2)補題 2.2によりS↦χSS\mapsto\chi_SはP(Z≥0)\mathcal P(\mathbb Z_{\geq0})から{0,1}Z≥0\{0,1\}^{\mathbb Z_{\geq0}}への全単射である。φ(χS)=φ(χS′)\varphi(\chi_S)=\varphi(\chi_{S'})とすると、φ\varphiの単射性からχS=χS′\chi_S=\chi_{S'}であり、S↦χSS\mapsto\chi_Sの単射性からS=S′S=S'である。よってS↦φ(χS)S\mapsto\varphi(\chi_S)はP(Z≥0)\mathcal P(\mathbb Z_{\geq0})の全体で定義された単射である。▨

補題 2.10.bbを2≤b2\leq bを満たす実数とする。

  1. 任意の非負整数NNに対してN+1≤bNN+1\leq b^{N}である。
  2. 任意の正の実数ε\varepsilonに対して、1bN+1<ε\dfrac1{b^{N+1}}<\varepsilonを満たす非負整数NNが存在する。

証明.(1)N=0N=0ではb0=1b^{0}=1かつ0+1=10+1=1であるから等号が成り立つ。0<b0<bと冪の再帰から0<bN0<b^{N}が帰納法で従う。N+1≤bNN+1\leq b^{N}を仮定すると、2≤b2\leq bと0<bN0<b^{N}から

bN+1=bNb≥2bN≥2(N+1)=(N+2)+N≥N+2b^{N+1}=b^{N}b\geq2b^{N}\geq2(N+1)=(N+2)+N\geq N+2

である。したがってすべての非負整数について主張が成り立つ。

(2)§E1.14 定理 3.6によりR\mathbb Rにおける自然数の像は上に有界でないから、1ε\dfrac1\varepsilonはその上界ではなく、1ε<m\dfrac1\varepsilon<mを満たす自然数mmが存在する。N=mN=mとおくと(1)をN+1N+1に適用してN+2≤bN+1N+2\leq b^{N+1}を得る。m<N+2m<N+2であるから1ε<bN+1\dfrac1\varepsilon<b^{N+1}であり、両辺が正であるから1bN+1<ε\dfrac1{b^{N+1}}<\varepsilonである。▨

例 2.11. すべてのnnで(χ∅)n=0(\chi_\emptyset)_n=0であるからsN(χ∅)=0s_N(\chi_\emptyset)=0であり、φ(χ∅)=0\varphi(\chi_\emptyset)=0である。χ{0}\chi_{\{0\}}については、すべてのNNでsN(χ{0})=13s_N(\chi_{\{0\}})=\dfrac13であるからφ(χ{0})=13\varphi(\chi_{\{0\}})=\dfrac13である。

χZ≥0\chi_{\mathbb Z_{\geq0}}については、補題 2.3 (3)により

sN(χZ≥0)=∑n=0N13n+1=12−12⋅13N+1s_N(\chi_{\mathbb Z_{\geq0}})=\sum_{n=0}^{N}\frac1{3^{n+1}}=\frac12-\frac12\cdot\frac1{3^{N+1}}

である。どの値も12\dfrac12より小さいので12\dfrac12は上界である。c<12c<\dfrac12が上界であると仮定すると、すべてのNNについて12⋅13N+1≥12−c>0\dfrac12\cdot\dfrac1{3^{N+1}}\geq\dfrac12-c>0、すなわち13N+1≥1−2c>0\dfrac1{3^{N+1}}\geq1-2c>0となる。しかし補題 2.10 (2)をb=3b=3、ε=1−2c\varepsilon=1-2cに適用すると13N+1<1−2c\dfrac1{3^{N+1}}<1-2cを満たすNNが存在するので矛盾する。よってφ(χZ≥0)=12\varphi(\chi_{\mathbb Z_{\geq0}})=\dfrac12である。

例 2.12. 重みを12n+1\dfrac1{2^{n+1}}に取り替えると、同じ構成は単射にならない。二進列xxと非負整数NNに対して

uN(x)=∑n=0Nxn2n+1,ψ(x)=sup⁡{uN(x)∣N∈Z≥0}u_N(x)=\sum_{n=0}^{N}\frac{x_n}{2^{n+1}}, \qquad \psi(x)=\sup\{u_N(x)\mid N\in\mathbb Z_{\geq0}\}

とおく。補題 2.3 (1)と補題 2.3 (2)をr=12r=\dfrac12に適用すると∑n=0N12n+1=1−12N+1\sum_{n=0}^{N}\dfrac1{2^{n+1}}=1-\dfrac1{2^{N+1}}であるから、uN(x)≤1u_N(x)\leq1である。したがって§E1.15 定義 1.1と§E1.14 定理 3.1によりψ(x)\psi(x)は存在する。

χ{0}\chi_{\{0\}}については、すべてのNNでuN(χ{0})=12u_N(\chi_{\{0\}})=\dfrac12であるからψ(χ{0})=12\psi(\chi_{\{0\}})=\dfrac12である。χZ≥1\chi_{\mathbb Z_{\geq1}}については、N≥1N\geq1のとき

uN(χZ≥1)=(1−12N+1)−12=12−12N+1u_N(\chi_{\mathbb Z_{\geq1}})=\left(1-\frac1{2^{N+1}}\right)-\frac12=\frac12-\frac1{2^{N+1}}

であり、N=0N=0のときはu0(χZ≥1)=0u_0(\chi_{\mathbb Z_{\geq1}})=0である。どの値も12\dfrac12より小さいので12\dfrac12は上界である。c<12c<\dfrac12が上界であると仮定すると、すべてのN≥1N\geq1について12N+1≥12−c>0\dfrac1{2^{N+1}}\geq\dfrac12-c>0となる。補題 2.10 (2)をb=2b=2、ε=12−c\varepsilon=\dfrac12-cに適用すると12N+1<12−c\dfrac1{2^{N+1}}<\dfrac12-cを満たす非負整数NNが存在し、2N+2=2N+1⋅2≥2N+12^{N+2}=2^{N+1}\cdot2\geq2^{N+1}からNNを大きく取り替えても不等式は保たれるので、N≥1N\geq1として取ることができる。これは前の不等式に矛盾する。よってψ(χZ≥1)=12=ψ(χ{0})\psi(\chi_{\mathbb Z_{\geq1}})=\dfrac12=\psi(\chi_{\{0\}})である。{0}≠Z≥1\{0\}\neq\mathbb Z_{\geq1}であるからχ{0}≠χZ≥1\chi_{\{0\}}\neq\chi_{\mathbb Z_{\geq1}}であり、ψ\psiは単射ではない。

注意 2.13.定理 2.9の証明が働くのは、最初に食い違う桁より後ろの寄与の総和が、その桁の重みより真に小さいからである。三進の重みでは命題 2.6 (3)のとおり尾部が重みの半分にとどまるので、最初に食い違う桁だけで大小が確定する。二進の重みでは例 2.12のとおり尾部が重みに等しくなり、この比較が成り立たない。二進の重みでも、ある番号から先がすべて11である列を除けば単射になるが、定理 2.9 (2)のように冪集合の全体を定義域とする単射が必要な場面では、そのような制限を課すことができない。

3 実数全体の非可算性

例 3.1.A=∅A=\emptysetとすると、空写像は∅\emptysetからZ≥0\mathbb Z_{\geq0}への単射である。一方、0∈Z≥00\in\mathbb Z_{\geq0}に値を割り当てることができないので、Z≥0\mathbb Z_{\geq0}から∅\emptysetへの写像は存在せず、全射も存在しない。したがって§E1.18 補題 3.2から「AAは空でない」という仮定を外すことはできない。

注意 3.2.§E1.18 補題 3.2の証明では、AAの元を一つ固定し、Z≥0\mathbb Z_{\geq0}の通常の整列順序によって最小元を取った。空でない集合の族から同時に元を選ぶ操作を用いていないので、この補題に選択公理も可算選択公理も必要ない。

定理 3.3.R\mathbb Rは高々可算でない。したがってZ≥0\mathbb Z_{\geq0}からR\mathbb Rへの全射は存在せず、R\mathbb Rは非可算である。

証明.R\mathbb Rが高々可算であると仮定する。「等濃度と可算性」の§E1.18 定理 3.3 (1)により単射j ⁣:R→Z≥0j\colon\mathbb R\to\mathbb Z_{\geq0}が存在する。定理 2.9 (2)はP(Z≥0)\mathcal P(\mathbb Z_{\geq0})の全体で定義された単射S↦φ(χS)S\mapsto\varphi(\chi_S)を与えるので、これにjjを続けて合成した写像は単射P(Z≥0)→Z≥0\mathcal P(\mathbb Z_{\geq0})\to\mathbb Z_{\geq0}である。∅∈P(Z≥0)\emptyset\in\mathcal P(\mathbb Z_{\geq0})であるからP(Z≥0)\mathcal P(\mathbb Z_{\geq0})は空でなく、§E1.18 補題 3.2 (1)により全射Z≥0→P(Z≥0)\mathbb Z_{\geq0}\to\mathcal P(\mathbb Z_{\geq0})が存在する。これは定理 1.1 (1)に反する。したがってR\mathbb Rは高々可算でない。

Z≥0\mathbb Z_{\geq0}からR\mathbb Rへの全射が存在すると仮定する。0∈R0\in\mathbb RであるからR\mathbb Rは空でなく、§E1.18 補題 3.2 (2)により単射R→Z≥0\mathbb R\to\mathbb Z_{\geq0}が存在する。すると§E1.18 定義 1.2によりR\mathbb Rは高々可算となり、前段に反する。R\mathbb Rが非可算であることは、§E1.18 定義 1.2により高々可算でないことにほかならない。▨

注意 3.4.定理 3.3を知ると、Z≥0\mathbb Z_{\geq0}の濃度とR\mathbb Rの濃度のあいだに別の濃度があるかどうかという問いが生じる。あいだに別の濃度が無いという主張を連続体仮説という。連続体仮説を通常の集合論の公理から証明することも反証することもできないことの証明は強制法を用いるので、「公理的集合論」へ委ねる。

4 超越数の存在

定義 4.1.§E1.18 定義 7.3が定める代数的数でない複素数を超越数 (transcendental number) という。

定理 4.2. 代数的数でない実数が存在する。すなわち、超越数である実数が存在する。

証明. 代数的数の全体をA\mathcal Aと書く。「等濃度と可算性」の§E1.18 定理 7.6によりA\mathcal Aは可算であるから、§E1.18 定義 1.2により全単射Z≥0→A\mathbb Z_{\geq0}\to\mathcal Aが存在し、その逆写像は単射k ⁣:A→Z≥0k\colon\mathcal A\to\mathbb Z_{\geq0}である。

すべての実数が代数的数であると仮定する。§E1.14 命題 4.2の埋め込みa↦(a,0)a\mapsto(a,0)は単射であり、この仮定は各実数の像がA\mathcal Aに属することをいう。したがって、実数aaにその像のkkによる値を対応させる写像は単射R→Z≥0\mathbb R\to\mathbb Z_{\geq0}である。すると§E1.18 定義 1.2によりR\mathbb Rは高々可算となり、定理 3.3に反する。よって代数的数でない実数が存在し、定義 4.1によりそれは超越数である。▨

注意 4.3.定理 4.2の証明は、代数的数の全体が高々可算であることとR\mathbb Rが高々可算でないことを比べるだけであり、どの実数が超越数であるかを名指ししない。個々の数について超越性を判定するには、有理数による近似の精度を評価する別の方法が要る。円周率と自然対数の底が超越数であることは知られているが、本記事はその証明を扱わない。Cantor がこの形で超越数の存在を示したのは1874年であり、定理 1.1 (1)の対角線論法を導入した論文はその17年後の1891年である。実数全体が高々可算でないことを示す最初の論法は、超越数の存在を導くために書かれた。

5 演習

問題 5.1.f ⁣:Z≥0→P(Z≥0)f\colon\mathbb Z_{\geq0}\to\mathcal P(\mathbb Z_{\geq0})をf(n)={m∈Z≥0∣m<n}f(n)=\{m\in\mathbb Z_{\geq0}\mid m<n\}で定める。定理 1.1 (1)の証明が作る対角線集合D={n∈Z≥0∣n∉f(n)}D=\{n\in\mathbb Z_{\geq0}\mid n\notin f(n)\}を求め、DDがffの像に属さないことを直接確かめよ。

解答.

任意の非負整数nnについてn<nn<nは成り立たないからn∉f(n)n\notin f(n)であり、D=Z≥0D=\mathbb Z_{\geq0}である。D=f(n)D=f(n)を満たすnnが存在すると仮定すると、n∈Z≥0=D=f(n)n\in\mathbb Z_{\geq0}=D=f(n)であり、f(n)f(n)の定義からn<nn<nとなって矛盾する。したがってDDはffの像に属さない。▨

問題 5.2.EEを偶数である非負整数の全体とする。φ(χE)=38\varphi(\chi_E)=\dfrac38であることを示せ。

解答.

KKを非負整数とする。(χE)n(\chi_E)_nはnnが偶数のとき11、奇数のとき00であるから、補題 2.3 (1)と補題 2.3 (2)をr=19r=\dfrac19に適用して

s2K(χE)=∑k=0K132k+1=13∑k=0K(19)k=13⋅1−19K+11−19=38(1−19K+1)s_{2K}(\chi_E)=\sum_{k=0}^{K}\frac1{3^{2k+1}}=\frac13\sum_{k=0}^{K}\left(\frac19\right)^{k}=\frac13\cdot\frac{1-\frac1{9^{K+1}}}{1-\frac19}=\frac38\left(1-\frac1{9^{K+1}}\right)

を得る。また(χE)2K+1=0(\chi_E)_{2K+1}=0であるからs2K+1(χE)=s2K(χE)s_{2K+1}(\chi_E)=s_{2K}(\chi_E)である。よって{sN(χE)∣N∈Z≥0}\{s_N(\chi_E)\mid N\in\mathbb Z_{\geq0}\}は38(1−19K+1)\dfrac38\left(1-\dfrac1{9^{K+1}}\right)の全体であり、どの値も38\dfrac38より小さいので38\dfrac38は上界である。

c<38c<\dfrac38が上界であると仮定すると、すべてのKKについて38⋅19K+1≥38−c>0\dfrac38\cdot\dfrac1{9^{K+1}}\geq\dfrac38-c>0、すなわち19K+1≥83(38−c)>0\dfrac1{9^{K+1}}\geq\dfrac83\left(\dfrac38-c\right)>0となる。しかし補題 2.10 (2)をb=9b=9、ε=83(38−c)\varepsilon=\dfrac83\left(\dfrac38-c\right)に適用すると19K+1<ε\dfrac1{9^{K+1}}<\varepsilonを満たす非負整数KKが存在するので矛盾する。したがって38\dfrac38が最小の上界であり、φ(χE)=38\varphi(\chi_E)=\dfrac38である。▨

問題 5.3. 超越数である実数の全体は高々可算でないことを示せ。

解答.

BBを代数的数である実数の全体とし、T=R∖BT=\mathbb R\setminus Bとおく。§E1.18 定理 7.6により代数的数の全体A\mathcal Aは可算であるから、§E1.18 定義 1.2により全単射Z≥0→A\mathbb Z_{\geq0}\to\mathcal Aが存在し、その逆写像は単射k ⁣:A→Z≥0k\colon\mathcal A\to\mathbb Z_{\geq0}である。§E1.14 命題 4.2の埋め込みは単射であり、BBの元の像はA\mathcal Aに属するから、BBの元にその像のkkによる値を対応させる写像は単射B→Z≥0B\to\mathbb Z_{\geq0}である。よって§E1.18 定義 1.2によりBBは高々可算である。

TTが高々可算であると仮定すると、§E1.18 定理 5.1によりR=B∪T\mathbb R=B\cup Tは高々可算となり、定理 3.3に反する。したがってTTは高々可算でない。定義 4.1によりTTは超越数である実数の全体である。▨

「基数算術」は、定理 1.1 (2)を基数の冪に対する下からの評価として用い、定理 2.9 (2)が与える単射を、連続体濃度が二の可算冪に等しいことの証明の一方向として用いる。

参考文献

  1. Georg Cantor, Über eine Eigenschaft des Inbegriffes aller reellen algebraischen Zahlen, Journal für die reine und angewandte Mathematik 77 (1874), 258–262.代数的数の全体の可算性と実数全体の非可算性の証明を参考にした。
  2. Georg Cantor, Über eine elementare Frage der Mannigfaltigkeitslehre, Jahresbericht der Deutschen Mathematiker-Vereinigung 1 (1891), 75–78.対角線論法と、二値の列の全体がもとの添字集合より大きいことの証明を参考にした。
  3. Paul R. Halmos, Naive Set Theory, Undergraduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1974, originally published 1960.可算集合と基数、および冪集合に関する Cantor の定理の証明を参考にした。
  4. Walter Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., International Series in Pure and Applied Mathematics, McGraw Hill, 1976.有限集合・可算集合・非可算集合の定義と、二値の列の全体が非可算であることの対角線論法による証明を参考にした。
  5. G. H. Hardy and E. M. Wright, An Introduction to the Theory of Numbers, 6th ed., Oxford University Press, 2008.超越数を具体的に構成する Liouville の方法を参考にした。

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