1 分配束と補元
有界束、零元、単位元は§E1.9 定義 3.1の意味で用いる。§E1.9 定理 2.1により、x≤yはx∨y=yともx∧y=xとも同値である。とくに有界束では0≤x≤1であるから、任意の元xに対してx∨0=x、x∧0=0、x∨1=1、x∧1=xが成り立つ。
定義 1.1. 束Bが任意のx,y,z∈Bに対して
x∧(y∨z)=(x∧y)∨(x∧z),x∨(y∧z)=(x∨y)∧(x∨z)を満たすとき、Bを分配束 (distributive lattice) という。
定義 1.2.Lを有界束とする。x∈Lに対して
x∨y=1,x∧y=0を満たすy∈Lをxの補元 (complement) という。有界束Bが分配束であり、すべてのx∈Bが補元をもつとき、BをBoolean 代数 (Boolean algebra) という。
本記事では0=1となる場合を排除しない。零元と単位元が一致する一元集合も、この定義のもとで Boolean 代数である。
例 1.3.2={0,1}を0<1で順序づける。結びを最大値、交わりを最小値とすると、2は零元0と単位元1をもつ有界束である。x=0のときx∧(y∨z)と(x∧y)∨(x∧z)はともに0であり、x=1のときはともにy∨zであるから、第一の分配法則が成り立つ。x=1のときx∨(y∧z)と(x∨y)∧(x∨z)はともに1であり、x=0のときはともにy∧zであるから、第二の分配法則も成り立つ。0の補元は1であり、1の補元は0であるから、2は Boolean 代数である。
例 1.4. 集合Xに対して、P(X)は包含関係について完備束であり、その零元と単位元は∅とX、結びと交わりは和集合と共通部分である(§E1.9 例 3.4)。二元の族に対する§E1.2 定理 3.1により二つの分配法則が成り立ち、A⊆Xの補元はX∖Aであるから、P(X)は Boolean 代数である。X=∅のときP(X)は一元集合であり、0=1となる場合を与える。
例 1.5. 集合Xに対して、AとX∖Aの少なくとも一方が有限集合であるようなA⊆Xの全体をFC(X)と書く。∅は有限集合であり、X∖X=∅も有限集合であるから、∅とXはFC(X)に属する。A∈FC(X)に対してはX∖(X∖A)=Aであるから、X∖A∈FC(X)である。A,B∈FC(X)とする。有限合併と有限共通部分への閉性は§E1.9 例 3.4で示したので、A∪BとA∩BはFC(X)に属する。
A∪BとA∩BはP(X)における{A,B}の上限と下限であるから、FC(X)における上限と下限でもある。よってFC(X)は零元∅と単位元Xをもつ有界束であり、その結びと交わりはP(X)のものの制限である。分配法則はP(X)の元について成り立つからFC(X)の元についても成り立ち、A∈FC(X)の補元はX∖Aである。したがってFC(X)は Boolean 代数である。
X=N≥0とし、E={2n∣n∈N≥0}とすると、EとN≥0∖Eはともに無限集合であるからE∈/FC(N≥0)であり、FC(N≥0)はP(N≥0)の真部分集合である。
2 補元が定める否定
一般の有界束では、一つの元が複数の補元をもつ場合がある。
例 2.1. 五元集合M3={0,a,b,c,1}に、0<a<1、0<b<1、0<c<1であり、a、b、cが互いに比較不能であるような順序を入れる。0または1を含む二元集合の上限と下限は、その二元のうち大きい方と小さい方である。{a,b}、{a,c}、{b,c}の上界は1だけ、下界は0だけであるから、これらの上限と下限は1と0である。したがってM3は最小元0と最大元1をもつ有界束である。a∨b=a∨c=1かつa∧b=a∧c=0であるから、bとcはいずれもaの補元であり、aは相異なる二つの補元をもつ。また、a∧(b∨c)=a∧1=aである一方で(a∧b)∨(a∧c)=0∨0=0であり、a=0であるから、M3は分配束ではない。
命題 2.2. 有界分配束において、各元の補元は存在すればただ一つである。
証明.Bを有界分配束とし、yとzをx∈Bの補元とする。x∨z=1とy∧x=0を用いると、分配法則により
y=y∧1=y∧(x∨z)=(y∧x)∨(y∧z)=0∨(y∧z)=y∧zである。したがってy≤zである。同様に、x∨y=1とz∧x=0を用いるとz=z∧yなのでz≤yである。反対称律によりy=zである。▨
Boolean 代数Bの各元xに対して、命題 2.2により補元はただ一つであるから、これを¬xと書く。
命題 2.3. Boolean 代数Bの任意のx∈Bに対して、
¬0=1,¬1=0,¬¬x=xが成り立つ。
証明.0∨1=1かつ0∧1=0なので、1は0の補元である。一意性により¬0=1である。同様に0は1の補元なので¬1=0である。補元の定義によりx∨¬x=1かつx∧¬x=0であるから、xは¬xの補元である。一意性により¬¬x=xである。▨
定理 2.4 (ド・モルガンの法則). Boolean 代数Bの任意のx,y∈Bに対して、
¬(x∨y)=¬x∧¬y,¬(x∧y)=¬x∨¬yが成り立つ。
証明. 結びについて、分配法則により
(x∨y)∨(¬x∧¬y)=((x∨y)∨¬x)∧((x∨y)∨¬y)=1∧1=1である。交わりについては、
(x∨y)∧(¬x∧¬y)=((x∧¬x)∧¬y)∨((y∧¬y)∧¬x)=0である。したがって¬x∧¬yはx∨yの補元であり、補元の一意性により¬(x∨y)=¬x∧¬yである。
最初の等式へ¬xと¬yを代入し、命題 2.3の二重否定を用いると、
¬(¬x∨¬y)=x∧yである。両辺の補元を取ってふたたび二重否定を用いると、¬(x∧y)=¬x∨¬yを得る。▨
問題 2.7. Boolean 代数Bの任意のx,y∈Bに対して、x≤yであることとx∧¬y=0であることが同値であることを証明せよ。
解答.
必要性を示す。x≤yとするとx∧y=xであるから、
x∧¬y=(x∧y)∧¬y=x∧(y∧¬y)=x∧0=0である。
十分性を示す。x∧¬y=0とすると、分配法則により
x=x∧1=x∧(y∨¬y)=(x∧y)∨(x∧¬y)=(x∧y)∨0=x∧yである。したがってx≤yである。▨
3 直積
Boolean 代数も、代数系の直積(§E1.6 定義 2.1)と同様に、成分ごとの演算によって直積を構成することができる。
命題 3.1. Boolean 代数B、Cに対して、B×Cに
(b,c)∨(b′,c′)=(b∨b′,c∨c′),(b,c)∧(b′,c′)=(b∧b′,c∧c′)と定めると、B×Cは Boolean 代数である。その零元は(0B,0C)、単位元は(1B,1C)であり、(b,c)の補元は(¬b,¬c)である。
証明. 束の交換律、結合律、冪等律、吸収律は各成分で成り立つので、§E1.9 定理 2.1によりB×Cは束である。二つの分配法則も各成分で成り立つ。任意の(b,c)∈B×Cに対して
(0B,0C)∧(b,c)=(0B,0C),(1B,1C)∨(b,c)=(1B,1C)であるから、(0B,0C)と(1B,1C)はそれぞれ最小元と最大元であり、B×Cは有界分配束である。また、
(b,c)∨(¬b,¬c)=(1B,1C),(b,c)∧(¬b,¬c)=(0B,0C)なので、(¬b,¬c)は(b,c)の補元である。したがってB×Cは Boolean 代数であり、命題 2.2により(b,c)の補元は(¬b,¬c)にほかならない。▨
4 Boolean 準同型
定義 4.1. Boolean 代数B、Cの間の写像h:B→Cが有界束準同型(§E1.9 定義 4.1)であるとき、すなわち
h(x∨y)=h(x)∨h(y),h(x∧y)=h(x)∧h(y),h(0B)=0C,h(1B)=1Cを満たすとき、hをBoolean 準同型 (Boolean homomorphism) という。
命題 4.2. Boolean 準同型h:B→Cは補元を保つ。すなわち、すべてのx∈Bに対して
h(¬x)=¬h(x)である。
証明. 準同型の条件により、
h(x)∨h(¬x)=h(x∨¬x)=h(1B)=1C,h(x)∧h(¬x)=h(x∧¬x)=h(0B)=0Cである。したがってh(¬x)はh(x)の補元である。命題 2.2により、h(¬x)=¬h(x)である。▨
例 4.3. 写像g:X→Yに対する逆像写像g−1:P(Y)→P(X)は完備束準同型である(§E1.9 問題 4.4)。§E1.9 命題 4.2によりg−1は有界束準同型であり、例 1.4によりP(Y)とP(X)は Boolean 代数であるから、g−1は Boolean 準同型である。命題 4.2によりg−1は補元を保ち、これは
g−1(Y∖A)=X∖g−1(A)と書き表される。
例 4.4. Boolean 代数B、Cの直積に対して、第一射影πB:B×C→BをπB(b,c)=bによって定める。命題 3.1の結びと交わりは成分ごとに定義されているから、
πB((b,c)∨(b′,c′))=b∨b′=πB(b,c)∨πB(b′,c′)であり、交わりについても同じ計算が成り立つ。また、πB(0B,0C)=0B、πB(1B,1C)=1Bである。したがってπBは Boolean 準同型である。第二射影については、同じ計算の第二成分を取ればよい。