§E1.10Boolean 代数

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冪集合の和集合、共通部分、補集合は、命題論理の選言、連言、否定と同じ計算法則を満たす。Boolean 代数は、この共通する計算を有界束の言葉で抽出した構造である。元は集合や真理値に限られず、二つの演算、零元、単位元、補元が同じ法則を満たす対象を同じ方法で扱うことができる。

本記事では、分配束と補元から Boolean 代数を定義し、その基本的な性質と代表的な例を扱う。

1 分配束と補元

有界束、零元、単位元は§E1.9 定義 3.1の意味で用いる。§E1.9 定理 2.1により、x≤yx\leq yはx∨y=yx\vee y=yともx∧y=xx\wedge y=xとも同値である。とくに有界束では0≤x≤10\leq x\leq1であるから、任意の元xxに対してx∨0=xx\vee0=x、x∧0=0x\wedge0=0、x∨1=1x\vee1=1、x∧1=xx\wedge1=xが成り立つ。

定義 1.1. 束BBが任意のx,y,z∈Bx,y,z\in Bに対して

x∧(y∨z)=(x∧y)∨(x∧z),x∨(y∧z)=(x∨y)∧(x∨z)x\wedge(y\vee z)=(x\wedge y)\vee(x\wedge z), \qquad x\vee(y\wedge z)=(x\vee y)\wedge(x\vee z)

を満たすとき、BBを分配束 (distributive lattice) という。

定義 1.2.LLを有界束とする。x∈Lx\in Lに対して

x∨y=1,x∧y=0x\vee y=1, \qquad x\wedge y=0

を満たすy∈Ly\in Lをxxの補元 (complement) という。有界束BBが分配束であり、すべてのx∈Bx\in Bが補元をもつとき、BBをBoolean 代数 (Boolean algebra) という。

本記事では0=10=1となる場合を排除しない。零元と単位元が一致する一元集合も、この定義のもとで Boolean 代数である。

例 1.3.2={0,1}\mathbf 2=\{0,1\}を0<10<1で順序づける。結びを最大値、交わりを最小値とすると、2\mathbf 2は零元00と単位元11をもつ有界束である。x=0x=0のときx∧(y∨z)x\wedge(y\vee z)と(x∧y)∨(x∧z)(x\wedge y)\vee(x\wedge z)はともに00であり、x=1x=1のときはともにy∨zy\vee zであるから、第一の分配法則が成り立つ。x=1x=1のときx∨(y∧z)x\vee(y\wedge z)と(x∨y)∧(x∨z)(x\vee y)\wedge(x\vee z)はともに11であり、x=0x=0のときはともにy∧zy\wedge zであるから、第二の分配法則も成り立つ。00の補元は11であり、11の補元は00であるから、2\mathbf 2は Boolean 代数である。

例 1.4. 集合XXに対して、P(X)\mathcal P(X)は包含関係について完備束であり、その零元と単位元は∅\emptysetとXX、結びと交わりは和集合と共通部分である(§E1.9 例 3.4)。二元の族に対する§E1.2 定理 3.1により二つの分配法則が成り立ち、A⊆XA\subseteq Xの補元はX∖AX\setminus Aであるから、P(X)\mathcal P(X)は Boolean 代数である。X=∅X=\emptysetのときP(X)\mathcal P(X)は一元集合であり、0=10=1となる場合を与える。

例 1.5. 集合XXに対して、AAとX∖AX\setminus Aの少なくとも一方が有限集合であるようなA⊆XA\subseteq Xの全体をFC(X)\mathrm{FC}(X)と書く。∅\emptysetは有限集合であり、X∖X=∅X\setminus X=\emptysetも有限集合であるから、∅\emptysetとXXはFC(X)\mathrm{FC}(X)に属する。A∈FC(X)A\in\mathrm{FC}(X)に対してはX∖(X∖A)=AX\setminus(X\setminus A)=Aであるから、X∖A∈FC(X)X\setminus A\in\mathrm{FC}(X)である。A,B∈FC(X)A,B\in\mathrm{FC}(X)とする。有限合併と有限共通部分への閉性は§E1.9 例 3.4で示したので、A∪BA\cup BとA∩BA\cap BはFC(X)\mathrm{FC}(X)に属する。

A∪BA\cup BとA∩BA\cap BはP(X)\mathcal P(X)における{A,B}\{A,B\}の上限と下限であるから、FC(X)\mathrm{FC}(X)における上限と下限でもある。よってFC(X)\mathrm{FC}(X)は零元∅\emptysetと単位元XXをもつ有界束であり、その結びと交わりはP(X)\mathcal P(X)のものの制限である。分配法則はP(X)\mathcal P(X)の元について成り立つからFC(X)\mathrm{FC}(X)の元についても成り立ち、A∈FC(X)A\in\mathrm{FC}(X)の補元はX∖AX\setminus Aである。したがってFC(X)\mathrm{FC}(X)は Boolean 代数である。

X=N≥0X=\mathbb N_{\geq 0}とし、E={2n∣n∈N≥0}E=\{2n\mid n\in\mathbb N_{\geq 0}\}とすると、EEとN≥0∖E\mathbb N_{\geq 0}\setminus Eはともに無限集合であるからE∉FC(N≥0)E\notin\mathrm{FC}(\mathbb N_{\geq 0})であり、FC(N≥0)\mathrm{FC}(\mathbb N_{\geq 0})はP(N≥0)\mathcal P(\mathbb N_{\geq 0})の真部分集合である。

2 補元が定める否定

一般の有界束では、一つの元が複数の補元をもつ場合がある。

例 2.1. 五元集合M3={0,a,b,c,1}M_3=\{0,a,b,c,1\}に、0<a<10<a<1、0<b<10<b<1、0<c<10<c<1であり、aa、bb、ccが互いに比較不能であるような順序を入れる。00または11を含む二元集合の上限と下限は、その二元のうち大きい方と小さい方である。{a,b}\{a,b\}、{a,c}\{a,c\}、{b,c}\{b,c\}の上界は11だけ、下界は00だけであるから、これらの上限と下限は11と00である。したがってM3M_3は最小元00と最大元11をもつ有界束である。a∨b=a∨c=1a\vee b=a\vee c=1かつa∧b=a∧c=0a\wedge b=a\wedge c=0であるから、bbとccはいずれもaaの補元であり、aaは相異なる二つの補元をもつ。また、a∧(b∨c)=a∧1=aa\wedge(b\vee c)=a\wedge1=aである一方で(a∧b)∨(a∧c)=0∨0=0(a\wedge b)\vee(a\wedge c)=0\vee0=0であり、a≠0a\neq0であるから、M3M_3は分配束ではない。

命題 2.2. 有界分配束において、各元の補元は存在すればただ一つである。

証明.BBを有界分配束とし、yyとzzをx∈Bx\in Bの補元とする。x∨z=1x\vee z=1とy∧x=0y\wedge x=0を用いると、分配法則により

y=y∧1=y∧(x∨z)=(y∧x)∨(y∧z)=0∨(y∧z)=y∧zy=y\wedge1=y\wedge(x\vee z)=(y\wedge x)\vee(y\wedge z)=0\vee(y\wedge z)=y\wedge z

である。したがってy≤zy\leq zである。同様に、x∨y=1x\vee y=1とz∧x=0z\wedge x=0を用いるとz=z∧yz=z\wedge yなのでz≤yz\leq yである。反対称律によりy=zy=zである。▨

Boolean 代数BBの各元xxに対して、命題 2.2により補元はただ一つであるから、これを¬x\neg xと書く。

命題 2.3. Boolean 代数BBの任意のx∈Bx\in Bに対して、

¬0=1,¬1=0,¬¬x=x\neg0=1, \qquad \neg1=0, \qquad \neg\neg x=x

が成り立つ。

証明.0∨1=10\vee1=1かつ0∧1=00\wedge1=0なので、11は00の補元である。一意性により¬0=1\neg0=1である。同様に00は11の補元なので¬1=0\neg1=0である。補元の定義によりx∨¬x=1x\vee\neg x=1かつx∧¬x=0x\wedge\neg x=0であるから、xxは¬x\neg xの補元である。一意性により¬¬x=x\neg\neg x=xである。▨

定理 2.4 (ド・モルガンの法則). Boolean 代数BBの任意のx,y∈Bx,y\in Bに対して、

¬(x∨y)=¬x∧¬y,¬(x∧y)=¬x∨¬y\neg(x\vee y)=\neg x\wedge\neg y, \qquad \neg(x\wedge y)=\neg x\vee\neg y

が成り立つ。

証明. 結びについて、分配法則により

(x∨y)∨(¬x∧¬y)=((x∨y)∨¬x)∧((x∨y)∨¬y)=1∧1=1\begin{aligned} (x\vee y)\vee(\neg x\wedge\neg y) &=((x\vee y)\vee\neg x)\wedge((x\vee y)\vee\neg y)\\ &=1\wedge1=1 \end{aligned}

である。交わりについては、

(x∨y)∧(¬x∧¬y)=((x∧¬x)∧¬y)∨((y∧¬y)∧¬x)=0(x\vee y)\wedge(\neg x\wedge\neg y) =((x\wedge\neg x)\wedge\neg y)\vee((y\wedge\neg y)\wedge\neg x)=0

である。したがって¬x∧¬y\neg x\wedge\neg yはx∨yx\vee yの補元であり、補元の一意性により¬(x∨y)=¬x∧¬y\neg(x\vee y)=\neg x\wedge\neg yである。

最初の等式へ¬x\neg xと¬y\neg yを代入し、命題 2.3の二重否定を用いると、

¬(¬x∨¬y)=x∧y\neg(\neg x\vee\neg y)=x\wedge y

である。両辺の補元を取ってふたたび二重否定を用いると、¬(x∧y)=¬x∨¬y\neg(x\wedge y)=\neg x\vee\neg yを得る。▨

注意 2.5. 二元 Boolean 代数2\mathbf2では、11を真、00を偽と読むと、x∧yx\wedge y、x∨yx\vee y、¬x\neg xはそれぞれ論理の連言、選言、否定の真理値表に一致する。定理 2.4の第一式は、「PPまたはQQ」が成り立たないことと、PPが成り立たず、かつQQも成り立たないこととの同値を表す。第二式はその双対を表す。

注意 2.6.x≤yx\leq yならばx∧y=xx\wedge y=xである。定理 2.4により、¬y∨¬x=¬(x∧y)=¬x\neg y\vee\neg x=\neg(x\wedge y)=\neg xとなるので¬y≤¬x\neg y\leq\neg xである。したがって、補元を取る操作は順序を逆にする。

問題 2.7. Boolean 代数BBの任意のx,y∈Bx,y\in Bに対して、x≤yx\leq yであることとx∧¬y=0x\wedge\neg y=0であることが同値であることを証明せよ。

解答.

必要性を示す。x≤yx\leq yとするとx∧y=xx\wedge y=xであるから、

x∧¬y=(x∧y)∧¬y=x∧(y∧¬y)=x∧0=0x\wedge\neg y=(x\wedge y)\wedge\neg y=x\wedge(y\wedge\neg y)=x\wedge0=0

である。

十分性を示す。x∧¬y=0x\wedge\neg y=0とすると、分配法則により

x=x∧1=x∧(y∨¬y)=(x∧y)∨(x∧¬y)=(x∧y)∨0=x∧yx=x\wedge1=x\wedge(y\vee\neg y)=(x\wedge y)\vee(x\wedge\neg y)=(x\wedge y)\vee0=x\wedge y

である。したがってx≤yx\leq yである。▨

3 直積

Boolean 代数も、代数系の直積(§E1.6 定義 2.1)と同様に、成分ごとの演算によって直積を構成することができる。

命題 3.1. Boolean 代数BB、CCに対して、B×CB\times Cに

(b,c)∨(b′,c′)=(b∨b′,c∨c′),(b,c)∧(b′,c′)=(b∧b′,c∧c′)(b,c)\vee(b',c')=(b\vee b',c\vee c'), \qquad (b,c)\wedge(b',c')=(b\wedge b',c\wedge c')

と定めると、B×CB\times Cは Boolean 代数である。その零元は(0B,0C)(0_B,0_C)、単位元は(1B,1C)(1_B,1_C)であり、(b,c)(b,c)の補元は(¬b,¬c)(\neg b,\neg c)である。

証明. 束の交換律、結合律、冪等律、吸収律は各成分で成り立つので、§E1.9 定理 2.1によりB×CB\times Cは束である。二つの分配法則も各成分で成り立つ。任意の(b,c)∈B×C(b,c)\in B\times Cに対して

(0B,0C)∧(b,c)=(0B,0C),(1B,1C)∨(b,c)=(1B,1C)(0_B,0_C)\wedge(b,c)=(0_B,0_C), \qquad (1_B,1_C)\vee(b,c)=(1_B,1_C)

であるから、(0B,0C)(0_B,0_C)と(1B,1C)(1_B,1_C)はそれぞれ最小元と最大元であり、B×CB\times Cは有界分配束である。また、

(b,c)∨(¬b,¬c)=(1B,1C),(b,c)∧(¬b,¬c)=(0B,0C)(b,c)\vee(\neg b,\neg c)=(1_B,1_C), \qquad (b,c)\wedge(\neg b,\neg c)=(0_B,0_C)

なので、(¬b,¬c)(\neg b,\neg c)は(b,c)(b,c)の補元である。したがってB×CB\times Cは Boolean 代数であり、命題 2.2により(b,c)(b,c)の補元は(¬b,¬c)(\neg b,\neg c)にほかならない。▨

4 Boolean 準同型

定義 4.1. Boolean 代数BB、CCの間の写像h:B→Ch:B\to Cが有界束準同型(§E1.9 定義 4.1)であるとき、すなわち

h(x∨y)=h(x)∨h(y),h(x∧y)=h(x)∧h(y),h(0B)=0C,h(1B)=1Ch(x\vee y)=h(x)\vee h(y),\quad h(x\wedge y)=h(x)\wedge h(y),\quad h(0_B)=0_C,\quad h(1_B)=1_C

を満たすとき、hhをBoolean 準同型 (Boolean homomorphism) という。

命題 4.2. Boolean 準同型h:B→Ch:B\to Cは補元を保つ。すなわち、すべてのx∈Bx\in Bに対して

h(¬x)=¬h(x)h(\neg x)=\neg h(x)

である。

証明. 準同型の条件により、

h(x)∨h(¬x)=h(x∨¬x)=h(1B)=1C,h(x)\vee h(\neg x)=h(x\vee\neg x)=h(1_B)=1_C,h(x)∧h(¬x)=h(x∧¬x)=h(0B)=0Ch(x)\wedge h(\neg x)=h(x\wedge\neg x)=h(0_B)=0_C

である。したがってh(¬x)h(\neg x)はh(x)h(x)の補元である。命題 2.2により、h(¬x)=¬h(x)h(\neg x)=\neg h(x)である。▨

例 4.3. 写像g:X→Yg:X\to Yに対する逆像写像g−1:P(Y)→P(X)g^{-1}:\mathcal P(Y)\to\mathcal P(X)は完備束準同型である(§E1.9 問題 4.4)。§E1.9 命題 4.2によりg−1g^{-1}は有界束準同型であり、例 1.4によりP(Y)\mathcal P(Y)とP(X)\mathcal P(X)は Boolean 代数であるから、g−1g^{-1}は Boolean 準同型である。命題 4.2によりg−1g^{-1}は補元を保ち、これは

g−1(Y∖A)=X∖g−1(A)g^{-1}(Y\setminus A)=X\setminus g^{-1}(A)

と書き表される。

例 4.4. Boolean 代数BB、CCの直積に対して、第一射影πB:B×C→B\pi_B:B\times C\to BをπB(b,c)=b\pi_B(b,c)=bによって定める。命題 3.1の結びと交わりは成分ごとに定義されているから、

πB((b,c)∨(b′,c′))=b∨b′=πB(b,c)∨πB(b′,c′)\pi_B((b,c)\vee(b',c'))=b\vee b'=\pi_B(b,c)\vee\pi_B(b',c')

であり、交わりについても同じ計算が成り立つ。また、πB(0B,0C)=0B\pi_B(0_B,0_C)=0_B、πB(1B,1C)=1B\pi_B(1_B,1_C)=1_Bである。したがってπB\pi_Bは Boolean 準同型である。第二射影については、同じ計算の第二成分を取ればよい。

参考文献

  1. B. A. Davey and H. A. Priestley, Introduction to Lattices and Order, 2nd ed., Cambridge University Press, 2002.
  2. Roman Sikorski, Boolean Algebras, 3rd ed., Springer, Berlin, 1969.

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