1 順序から定まる束
上限と下限は§E1.8 定義 2.1の意味で用いる。半順序集合では、存在する上限と下限は一意である(§E1.8 命題 2.3)。したがって、次の記号は値を一意に定める。
定義 1.1.(L,≤)を半順序集合とする。任意のx,y∈Lに対して集合{x,y}の上限と下限が存在するとき、(L,≤)を束 (lattice) という。
{x,y}の上限をx∨yと書いてxとyの結び (join) といい、下限をx∧yと書いてxとyの交わり (meet) という。
結びと交わりの記号は、順序を忘れても計算することができる二項演算である。上限と下限の定義から、次が従う。
命題 1.3.(L,≤)を束とし、x,y,z,u,l∈Lとする。
- x≤x∨y、y≤x∨y、x∧y≤x、x∧y≤yである。
- x,y≤uならばx∨y≤uであり、l≤x,yならばl≤x∧yである。
- x≤y、x∨y=y、x∧y=xの三つは互いに同値である。
- {x,y,z}は上限(x∨y)∨zと下限(x∧y)∧zをもつ。
証明.(1)と(2)は、x∨yが{x,y}の上限であること、およびx∧yが{x,y}の下限であることの言い換えである。
x≤yとすると、y≤yとあわせて(2)からx∨y≤yであり、(1)からy≤x∨yである。反対称律によりx∨y=yである。逆にx∨y=yならば、(1)によりx≤x∨y=yである。x≤yとx∧y=xの同値は、注意 1.2によりこの同値をLopへ適用して得られる。よって(3)が成り立つ。
(1)と推移律によりx,y≤(x∨y)∨zであり、z≤(x∨y)∨zである。uを{x,y,z}の上界とすると、(2)によりx∨y≤uであり、ふたたび同じ性質により(x∨y)∨z≤uである。したがって(x∨y)∨zは{x,y,z}の上限であり、双対に(x∧y)∧zは{x,y,z}の下限である。▨
例 1.4.
- 集合Xに対して、(P(X),⊆)は束である。A∨B=A∪B、A∧B=A∩Bである。
- 正の整数全体を整除関係で順序づけると束になる。a∨b=lcm(a,b)、a∧b=gcd(a,b)である。
- 全順序集合(T,≤)は束である。x∨y=max{x,y}、x∧y=min{x,y}である。
2 代数法則と順序の復元
束から得られる二つの演算は、次の法則を満たす。逆に、これらの法則だけから順序を復元することができる。
定理 2.1. 集合Lの上に二項演算∨と∧があるとする。次の二つの条件は同値である。
- Lに束の順序があり、∨と∧はその結びと交わりである。
- 任意のx,y,z∈Lに対して、次の交換律、結合律、冪等律、吸収律が成り立つ。
x∨y(x∨y)∨zx∨xx∨(x∧y)=y∨x,=x∨(y∨z),=x,=x,x∧y(x∧y)∧zx∧xx∧(x∨y)=y∧x,=x∧(y∧z),=x,=x.
(2)から(1)の順序を復元するときは、
x≤y⟺x∨y=yと定める。この条件はx∧y=xと同値である。逆に、(L,≤)が束であるとき、その結びから同じ式によって定まる順序は≤自身である。すなわち、順序から演算を作る対応と演算から順序を作る対応は互いに逆である。
証明.(1)を仮定する。交換律と冪等律は、{x,y}={y,x}と{x,x}={x}の上限・下限の一意性から従う。命題 1.3 (4)により(x∨y)∨zは{x,y,z}の上限であり、同じ主張をy、z、xへ適用すると(y∨z)∨xは{y,z,x}={x,y,z}の上限である。交換律によりこれはx∨(y∨z)に等しいので、上限の一意性から結合律が従う。交わりの結合律も、(x∧y)∧zとx∧(y∧z)がどちらも{x,y,z}の下限であることから従う。x∧y≤xなので、xはxとx∧yの上界である。また、この二元集合のどの上界も、その元x以上である。したがってxは最小上界であり、x∨(x∧y)=xである。双対にx∧(x∨y)=xである。
(2)を仮定し、x≤yをx∨y=yによって定める。冪等律によりx≤xである。x≤yかつy≤xならば、交換律によりy=x∨y=y∨x=xである。x≤yかつy≤zならば、
x∨z=x∨(y∨z)=(x∨y)∨z=y∨z=zなのでx≤zである。よって≤は半順序である。
x∨y=yならば、吸収律によりx∧y=x∧(x∨y)=xである。逆にx∧y=xならば、もう一方の吸収律と交換律によりx∨y=(x∧y)∨y=yである。したがって二つの順序条件は同値である。
x≤x∨yはx∨(x∨y)=x∨yから従い、y≤x∨yも同様である。x,y≤uならば、
(x∨y)∨u=x∨(y∨u)=x∨u=uなのでx∨y≤uである。よってx∨yは{x,y}の上限である。交わりについて双対の計算を行うと、x∧yは{x,y}の下限である。したがって(1)が成り立ち、演算から作った順序について結びと交わりを取り直すと元の∨と∧に戻る。(L,≤)が束であるとき、その結びからx∨y=yによって定まる関係が≤に一致することは命題 1.3 (3)による。▨
3 有界束と完備束
二元について上限と下限が存在しても、空集合や無限部分集合について上限と下限が存在するとは限らない。空集合の上限は最小元であり、空集合の下限は最大元である。この点を含めて有界性と完備性を定義する。
定義 3.1. 束(L,≤)が最小元0と最大元1をもつとき、Lを有界束 (bounded lattice) という。最小元を零元 (bottom element)、最大元を単位元 (top element) ともいう。
任意のx∈Lに対して0≤x≤1であるから、命題 1.3 (3)により
x∨0=x,x∨1=1,x∧0=0,x∧1=x
が成り立つ。すなわち0は∨の、1は∧の§E1.4 定義 2.4の意味での単位元である。
定義 3.2. 半順序集合(L,≤)のすべての部分集合A⊆Lに上限と下限が存在するとき、Lを完備束 (complete lattice) という。Aの上限を⋁A、下限を⋀Aと書き、それぞれAの任意の結び (arbitrary join) と任意の交わり (arbitrary meet) という。
完備束では、二元部分集合の上限と下限が結びと交わりを与えるので、Lはまず束である。さらに
0=⋁∅=⋀L,1=⋀∅=⋁L
である。したがって、完備束は必ず有界束である。
命題 3.3. 半順序集合Lについて、次の条件は同値である。
- Lは完備束である。
- すべてのA⊆Lに⋁Aが存在する。
- すべてのA⊆Lに⋀Aが存在する。
(2)が成り立つとき、
⋀A=⋁{x∈L∣∀a∈A, x≤a}である。(3)が成り立つときは双対な式で⋁Aを得る。
証明.(1)から(2)と(3)は定義による。(2)を仮定し、B={x∈L∣∀a∈A, x≤a}とおく。b∈Bならば、各a∈AはBの上界なのでb≤⋁B≤aである。したがって⋁BはAの下界である。任意の下界lはBの元なのでl≤⋁Bである。よって⋁B=⋀Aであり、(2)から(1)が従う。(3)から(1)は、注意 1.2により同じ議論をLopへ適用して従う。▨
上限だけから下限を構成するこの手続きは、poset の部分集合に上界全体と下界全体を対応させて完備束を作る「Dedekind–MacNeille 完備化」で用いる。
例 3.4. 代表的な束における完備性を比較する。
- (P(X),⊆)は完備束である。A⊆P(X)に対して、⋁A=⋃A、⋀A=⋂Aである。ただし、A=∅のときは⋂∅=Xと解釈する。
- 正の整数全体の整除による束は完備束ではない。素数全体は共通の倍数をもたないので、上限をもたない。また、最大元も存在しない。一方、空でない部分集合Aについては、Aの共通の約数全体Dは1を含み、Aの一つの元の約数からなるので有限である。二つの共通の約数の最小公倍数もまた共通の約数であるから、Dの元全体の最小公倍数はDに属し、Dのすべての元で割り切られる。これがAの下限、すなわち最大公約数である。したがって命題 3.3 (3)が破れているのはA=∅の場合だけであり、この条件から空集合を除くことができない。
- 整数全体Zは通常の順序について束であるが、有界束でも完備束でもない。空でない有限部分集合の上限と下限は最大値と最小値であるが、Z自身には上限も下限も存在しない。
- 空でない有限な全順序集合は完備束である。空でない部分集合は最大元と最小元をもち、空集合については全体の最小元と最大元が上限と下限になる。
- 集合Xの部分集合のうち、有限であるか補集合が有限であるもの全体をFC(X)とおく。有限集合どうしの合併は有限であり、少なくとも一方の補集合が有限である二つの集合の合併は、その補集合が有限集合に含まれるので補有限である。したがってFC(X)は二元の和集合で閉じ、帰納法により有限合併で閉じている。一方が有限である二つの集合の共通部分は有限であり、補集合がともに有限である二つの集合の共通部分は、その補集合が有限集合の合併になるので補有限である。したがってFC(X)は二元の共通部分で閉じ、帰納法により有限共通部分で閉じている。∅とXはFC(X)に属する。和集合と共通部分はP(X)における上限と下限であるから、FC(X)は包含順序について最小元∅と最大元Xをもつ有界束である。ここでX=N≥0とすると、この有界束は完備束ではない。偶数全体Eを含むFC(N≥0)の元は補集合が有限であり、Eに属さない元を無限に含むので、そのうちの一つを取り除いてもふたたびEを含むFC(N≥0)の元になる。したがって一元集合{2k}(k∈N≥0)の全体は上限をもたない。整数全体の例とあわせると、束、有界束および完備束の三つの条件は順に真に強い。
4 束の構造を保つ写像
束の間の準同型は、演算を保つ写像という§E1.6 定義 1.1の考え方を二つの演算へ適用したものである。保つ演算の範囲に応じて、次の三種類を区別する。
定義 4.1. 束L、Mの間の写像f:L→Mが、すべてのx,y∈Lに対して
f(x∨y)=f(x)∨f(y),f(x∧y)=f(x)∧f(y)を満たすとき、fを束準同型 (lattice homomorphism) という。
L、Mが有界束であり、さらにf(0L)=0Mとf(1L)=1Mを満たす束準同型を有界束準同型 (bounded lattice homomorphism) という。L、Mが完備束であり、すべてのA⊆Lに対して
f(⋁A)=⋁f(A),f(⋀A)=⋀f(A)を満たす写像を完備束準同型 (complete lattice homomorphism) という。
命題 4.2. 束準同型は単調写像である。完備束準同型は有界束準同型であり、とくに束準同型である。
証明.x≤yとする。命題 1.3 (3)によりx∨y=yなので、
f(x)∨f(y)=f(x∨y)=f(y)である。Mにおいて命題 1.3 (3)をふたたび用いるとf(x)≤f(y)である。よってfは単調である。
fを完備束準同型とする。二元集合に対する任意の結びと交わりを保つので、fは束準同型である。また、0L=⋁∅、1L=⋀∅であり、f(∅)=∅なので、任意演算を保つ条件からf(0L)=0Mとf(1L)=1Mが従う。▨
問題 4.4. 写像g:X→Yに対して、逆像写像
g−1:P(Y)⟶P(X),A⟼g−1(A)が完備束準同型であることを証明せよ。
解答.
A⊆P(Y)とする。元x∈Xについて、
x∈g−1(⋃A)⟺g(x)∈⋃A⟺∃A∈A, x∈g−1(A)なので、g−1(⋃A)=⋃A∈Ag−1(A)である。同様に、
x∈g−1(⋂A)⟺∀A∈A, x∈g−1(A)なので、g−1(⋂A)=⋂A∈Ag−1(A)である。空の族についても、g−1(∅)=∅とg−1(Y)=Xが成り立つ。例 3.4の演算の記述により、逆像写像は任意の結びと交わりを保つ完備束準同型である。▨