§E1.15完備順序体の一意性

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「実数体の構成」§E1.14 定理 3.1では、有理数から上限の性質をもつ順序体を作る。本記事では、上限の性質をもつ順序体が構成方法によらず一意であることを証明する。証明の中心は、どの元xxも「xxより小さい有理数の全体」によって一意に復元することができるという事実である。

1 完備性から Archimedes 性を導く

定義 1.1. 順序体KKが完備順序体 (complete ordered field) であるとは、KKの上に有界で空でない任意の部分集合がKKの中に上限をもつことをいう。本記事では、この性質を上限の性質ともいう。

環の元を整数倍する記法を先に固定する。整数倍は環の乗法ではなく加法の反復であり、以後の計算はすべてこの記法の上で行う。

定義 1.2.RRを単位元1R1_Rをもつ環とし、a∈Ra\in Rとする。非負整数nnに対して

0⋅a=0,(n+1)⋅a=n⋅a+a0\cdot a=0,\qquad (n+1)\cdot a=n\cdot a+a

と定め、正の整数nnに対して

(−n)⋅a=−(n⋅a)(-n)\cdot a=-(n\cdot a)

と定める。整数nnに対してこうして定まるRRの元n⋅an\cdot aをaaの整数倍 (integer multiple) という。

命題 1.3.RRを単位元1R1_Rをもつ環とし、a∈Ra\in R、m,n∈Zm,n\in\mathbb Zとする。

  1. (−n)⋅a=−(n⋅a)(-n)\cdot a=-(n\cdot a)であり、(m+n)⋅a=m⋅a+n⋅a(m+n)\cdot a=m\cdot a+n\cdot aである。
  2. (mn)⋅1R=(m⋅1R)(n⋅1R)(mn)\cdot 1_R=(m\cdot 1_R)(n\cdot 1_R)である。
  3. R′R'を単位元をもつ環とし、f ⁣:R→R′f\colon R\to R'が加法を保つならば、f(n⋅a)=n⋅f(a)f(n\cdot a)=n\cdot f(a)である。
  4. (R,≤)(R,\leq)が順序環ならば、m<nm<nのときm⋅1R<n⋅1Rm\cdot 1_R<n\cdot 1_Rである。とくに正の整数nnに対して0<n⋅1R0<n\cdot 1_Rであり、写像n↦n⋅1Rn\mapsto n\cdot 1_Rは単射である。

証明.(1)前半の主張は、nnが正の整数の場合には定義そのものであり、n=0n=0の場合には両辺がともに00である。nnが負の整数の場合は、n=−pn=-pを満たす正の整数ppを取ると(−n)⋅a=p⋅a(-n)\cdot a=p\cdot aであり、−(n⋅a)=−(−(p⋅a))=p⋅a-(n\cdot a)=-(-(p\cdot a))=p\cdot aである。

すべての整数kkについて(k+1)⋅a=k⋅a+a(k+1)\cdot a=k\cdot a+aが成り立つ。k≥0k\geq0の場合は定義そのものである。kkが負の整数の場合、k=−pk=-pを満たす正の整数ppを取ると、p=1p=1ならば(k+1)⋅a=0⋅a=0(k+1)\cdot a=0\cdot a=0であり、k⋅a+a=−(1⋅a)+a=−a+a=0k\cdot a+a=-(1\cdot a)+a=-a+a=0である。p>1p>1ならば、定義のp⋅a=(p−1)⋅a+ap\cdot a=(p-1)\cdot a+aから(p−1)⋅a=p⋅a−a(p-1)\cdot a=p\cdot a-aであるから

(k+1)⋅a=(−(p−1))⋅a=−((p−1)⋅a)=−(p⋅a)+a=k⋅a+a(k+1)\cdot a=(-(p-1))\cdot a=-((p-1)\cdot a)=-(p\cdot a)+a=k\cdot a+a

である。この等式でkkをk−1k-1に取り替えると、すべての整数kkについて(k−1)⋅a=k⋅a−a(k-1)\cdot a=k\cdot a-aを得る。

mmを固定し、T={n∈Z∣(m+n)⋅a=m⋅a+n⋅a}T=\{n\in\mathbb Z\mid (m+n)\cdot a=m\cdot a+n\cdot a\}とおく。(m+0)⋅a=m⋅a=m⋅a+0⋅a(m+0)\cdot a=m\cdot a=m\cdot a+0\cdot aであるから0∈T0\in Tである。n∈Tn\in Tとすると、いま示した二つの等式から

(m+n+1)⋅a=(m+n)⋅a+a=m⋅a+n⋅a+a=m⋅a+(n+1)⋅a,(m+n+1)\cdot a=(m+n)\cdot a+a=m\cdot a+n\cdot a+a=m\cdot a+(n+1)\cdot a,(m+n−1)⋅a=(m+n)⋅a−a=m⋅a+n⋅a−a=m⋅a+(n−1)⋅a(m+n-1)\cdot a=(m+n)\cdot a-a=m\cdot a+n\cdot a-a=m\cdot a+(n-1)\cdot a

となるのでn+1∈Tn+1\in Tかつn−1∈Tn-1\in Tである。TTは00を含み、各元の直後と直前を含むのでT=ZT=\mathbb Zである。

(2)mmを固定し、U={n∈Z∣(mn)⋅1R=(m⋅1R)(n⋅1R)}U=\{n\in\mathbb Z\mid (mn)\cdot 1_R=(m\cdot 1_R)(n\cdot 1_R)\}とおく。n=0n=0のときmn=0mn=0であるから(mn)⋅1R=0⋅1R=0(mn)\cdot 1_R=0\cdot 1_R=0であり、(m⋅1R)(0⋅1R)=(m⋅1R)0=0(m\cdot 1_R)(0\cdot 1_R)=(m\cdot 1_R)0=0である。よって0∈U0\in Uである。n∈Un\in Uとすると、(1)と(k±1)⋅1R=k⋅1R±1R(k\pm1)\cdot 1_R=k\cdot 1_R\pm1_Rから

(m(n+1))⋅1R=(mn)⋅1R+m⋅1R=(m⋅1R)(n⋅1R)+(m⋅1R)1R=(m⋅1R)((n+1)⋅1R),(m(n+1))\cdot 1_R=(mn)\cdot 1_R+m\cdot 1_R=(m\cdot 1_R)(n\cdot 1_R)+(m\cdot 1_R)1_R=(m\cdot 1_R)((n+1)\cdot 1_R),(m(n−1))⋅1R=(mn)⋅1R−m⋅1R=(m⋅1R)(n⋅1R)−(m⋅1R)1R=(m⋅1R)((n−1)⋅1R)(m(n-1))\cdot 1_R=(mn)\cdot 1_R-m\cdot 1_R=(m\cdot 1_R)(n\cdot 1_R)-(m\cdot 1_R)1_R=(m\cdot 1_R)((n-1)\cdot 1_R)

となるのでn+1∈Un+1\in Uかつn−1∈Un-1\in Uである。よってU=ZU=\mathbb Zである。

(3)ffは加法を保つのでf(0)=0f(0)=0であり、f(−b)=−f(b)f(-b)=-f(b)である。V={n∈Z∣f(n⋅a)=n⋅f(a)}V=\{n\in\mathbb Z\mid f(n\cdot a)=n\cdot f(a)\}とおくと0∈V0\in Vである。n∈Vn\in Vならば

f((n+1)⋅a)=f(n⋅a+a)=f(n⋅a)+f(a)=n⋅f(a)+f(a)=(n+1)⋅f(a)f((n+1)\cdot a)=f(n\cdot a+a)=f(n\cdot a)+f(a)=n\cdot f(a)+f(a)=(n+1)\cdot f(a)

であり、同様にf((n−1)⋅a)=f(n⋅a)−f(a)=(n−1)⋅f(a)f((n-1)\cdot a)=f(n\cdot a)-f(a)=(n-1)\cdot f(a)である。よってV=ZV=\mathbb Zである。

(4)§E1.12 命題 2.1により0<1R0<1_Rである。1⋅1R=1R1\cdot 1_R=1_Rであり、正の整数nnについて0<n⋅1R0<n\cdot 1_Rが成り立つとすると、§E1.12 命題 1.2 (1)により0<1R0<1_Rの両辺へn⋅1Rn\cdot 1_Rを加えてn⋅1R<(n+1)⋅1Rn\cdot 1_R<(n+1)\cdot 1_Rを得るので、推移律から0<(n+1)⋅1R0<(n+1)\cdot 1_Rである。したがって帰納法により、すべての正の整数nnについて0<n⋅1R0<n\cdot 1_Rである。m<nm<nならばn−mn-mは正の整数であり、(1)により

n⋅1R−m⋅1R=(n−m)⋅1R>0n\cdot 1_R-m\cdot 1_R=(n-m)\cdot 1_R>0

であるから、§E1.12 命題 1.2 (2)によりm⋅1R<n⋅1Rm\cdot 1_R<n\cdot 1_Rである。よってn↦n⋅1Rn\mapsto n\cdot 1_Rは狭義単調であり、単射である。▨

定義 1.4. 順序体KKがArchimedes 的 (Archimedean) であるとは、集合

{n⋅1K∣n∈Z>0}\{n\cdot 1_K\mid n\in\mathbb Z_{>0}\}

がKKの中で上に有界でないことをいう。すなわち、任意のx∈Kx\in Kに対してx<n⋅1Kx<n\cdot 1_Kを満たす正の整数nnが存在することをいう。

定理 1.5. 完備順序体は Archimedes 的である。

証明.KKを完備順序体とし、あるx∈Kx\in Kに対して、すべての正の整数nnがn⋅1K≤xn\cdot 1_K\leq xを満たすと仮定する。集合

S={n⋅1K∣n∈Z>0}S=\{n\cdot 1_K\mid n\in\mathbb Z_{>0}\}

は空でなく、xxを上界にもつので、a=sup⁡Sa=\sup Sが存在する。§E1.12 命題 2.1により0<1K0<1_Kであるからa−1K<aa-1_K<aであり、aaはSSの最小の上界であるからa−1Ka-1_KはSSの上界ではない。したがって、ある正の整数nnが

a−1K<n⋅1Ka-1_K<n\cdot 1_K

を満たす。両辺に1K1_Kを加えるとa<n⋅1K+1K=(n+1)⋅1Ka<n\cdot 1_K+1_K=(n+1)\cdot 1_Kとなる。しかし(n+1)⋅1K∈S(n+1)\cdot 1_K\in Sであるため、この不等式はaaがSSの上界であることに反する。したがって、仮定したxxは存在しない。▨

例 1.6 (非 Archimedes 的な順序体). 有理数係数の一変数多項式環Q[t]\mathbb Q[t]の商体をQ(t)\mathbb Q(t)と書く。非零多項式ppの最高次係数をlc⁡(p)\operatorname{lc}(p)と書き、

P={pq∈Q(t)  |  p≠0, q≠0, lc⁡(p)lc⁡(q)>0}P=\left\{\frac pq\in\mathbb Q(t)\;\middle|\;p\neq0,\ q\neq0,\ \operatorname{lc}(p)\operatorname{lc}(q)>0\right\}

とおく。

PPの条件は分数の表示に依存しない。非零の元f∈Q(t)f\in\mathbb Q(t)の二つの表示f=p/q=p′/q′f=p/q=p'/q'ではp,q,p′,q′p,q,p',q'がすべて非零であり、pq′=p′qpq'=p'qであるから、§E1.7 命題 2.2 (4)により

lc⁡(p)lc⁡(q′)=lc⁡(p′)lc⁡(q)\operatorname{lc}(p)\operatorname{lc}(q')=\operatorname{lc}(p')\operatorname{lc}(q)

である。両辺へlc⁡(q)lc⁡(q′)\operatorname{lc}(q)\operatorname{lc}(q')を掛けると

(lc⁡(p)lc⁡(q))lc⁡(q′)2=(lc⁡(p′)lc⁡(q′))lc⁡(q)2\bigl(\operatorname{lc}(p)\operatorname{lc}(q)\bigr)\operatorname{lc}(q')^2 =\bigl(\operatorname{lc}(p')\operatorname{lc}(q')\bigr)\operatorname{lc}(q)^2

となり、§E1.12 命題 2.1によりlc⁡(q)2\operatorname{lc}(q)^2とlc⁡(q′)2\operatorname{lc}(q')^2は正であるから、lc⁡(p)lc⁡(q)\operatorname{lc}(p)\operatorname{lc}(q)とlc⁡(p′)lc⁡(q′)\operatorname{lc}(p')\operatorname{lc}(q')の符号は一致する。

PPはQ(t)\mathbb Q(t)の正錐である。分子と分母に−1-1を掛けることでlc⁡(q)>0\operatorname{lc}(q)>0となる表示を取ることができ、この表示のもとでp/q∈Pp/q\in Pはlc⁡(p)>0\operatorname{lc}(p)>0と同値である。p/qp/qとp′/q′p'/q'をそのような表示で取ると、積pp′/(qq′)pp'/(qq')については§E1.7 命題 2.2 (4)によりlc⁡(pp′)=lc⁡(p)lc⁡(p′)\operatorname{lc}(pp')=\operatorname{lc}(p)\operatorname{lc}(p')かつlc⁡(qq′)=lc⁡(q)lc⁡(q′)\operatorname{lc}(qq')=\operatorname{lc}(q)\operatorname{lc}(q')であるから、p/q,p′/q′∈Pp/q,p'/q'\in Pならばpp′/(qq′)∈Ppp'/(qq')\in Pである。和(pq′+p′q)/(qq′)(pq'+p'q)/(qq')については、lc⁡(pq′)=lc⁡(p)lc⁡(q′)\operatorname{lc}(pq')=\operatorname{lc}(p)\operatorname{lc}(q')とlc⁡(p′q)=lc⁡(p′)lc⁡(q)\operatorname{lc}(p'q)=\operatorname{lc}(p')\operatorname{lc}(q)がともに正であり、pq′pq'とp′qp'qの次数が異なるならば高いほうの最高次係数が、次数が等しいならば二つの正の有理数の和がpq′+p′qpq'+p'qの最高次係数になるので、いずれの場合もpq′+p′q≠0pq'+p'q\neq0かつlc⁡(pq′+p′q)>0\operatorname{lc}(pq'+p'q)>0である。したがってP+P⊆PP+P\subseteq PかつPP⊆PPP\subseteq Pである。さらにf=p/q≠0f=p/q\neq0ならばlc⁡(p)lc⁡(q)≠0\operatorname{lc}(p)\operatorname{lc}(q)\neq0であり、−f=(−p)/q-f=(-p)/qでは最高次係数の積の符号が反転するので、f∈Pf\in P、f=0f=0、−f∈P-f\in Pのちょうど一つが成り立つ。

§E1.12 命題 1.4により、PPはQ(t)\mathbb Q(t)の演算と両立する全順序を定め、Q(t)\mathbb Q(t)は順序体である。定数としてQ⊆Q(t)\mathbb Q\subseteq\mathbb Q(t)であるから、正の整数nnに対してn⋅1Q(t)n\cdot 1_{\mathbb Q(t)}は定数nnであり、t−nt-nの最高次係数は11であるからn⋅1Q(t)<tn\cdot 1_{\mathbb Q(t)}<tである。よって{n⋅1Q(t)∣n∈Z>0}\{n\cdot 1_{\mathbb Q(t)}\mid n\in\mathbb Z_{>0}\}はttを上界にもち、Q(t)\mathbb Q(t)は Archimedes 的でない。定理 1.5の対偶により、Q(t)\mathbb Q(t)は完備順序体でもない。

例 1.7 (Archimedes 的だが完備でない順序体). 有理数体Q\mathbb Qは Archimedes 的である。q∈Qq\in\mathbb Qを整数mmと正の整数nnによりq=m/nq=m/nと表すと、m≤0m\leq0のときq≤0≤∣m∣q\leq0\leq|m|であり、m>0m>0のときn≥1n\geq1からq≤m=∣m∣q\leq m=|m|であるから、いずれの場合もq<∣m∣+1q<|m|+1である。∣m∣+1|m|+1は正の整数である。

一方、Q\mathbb Qは完備でない。集合

S={q∈Q∣q>0, q2<2}S=\{q\in\mathbb Q\mid q>0,\ q^2<2\}

は11を含んで空でなく、q≥2q\geq2ならばq2≥4>2q^2\geq4>2であるから22を上界にもつ。正の有理数qqに対してq′=(2q+2)/(q+2)q'=(2q+2)/(q+2)とおくとq′>0q'>0であり、

q′−q=2−q2q+2,q′2−2=2(q2−2)(q+2)2q'-q=\frac{2-q^2}{q+2}, \qquad q'^2-2=\frac{2(q^2-2)}{(q+2)^2}

である。SSの上限ssがQ\mathbb Qの中に存在すると仮定する。1∈S1\in Sからs≥1>0s\geq1>0であり、二乗して22になる有理数は存在しないのでs2≠2s^2\neq2である。s2<2s^2<2ならば上の二つの等式からs∈Ss\in S、s′>ss'>sおよびs′2<2s'^2<2が従い、s′∈Ss'\in SはssがSSの上界であることに反する。s2>2s^2>2ならばs′<ss'<sかつs′2>2s'^2>2であり、q∈Sq\in Sに対してq2<2<s′2q^2<2<s'^2とq,s′>0q,s'>0からq<s′q<s'が従うので、s′s'はssより小さいSSの上界となり、ssが最小の上界であることに反する。したがってSSはQ\mathbb Qの中に上限をもたず、Q\mathbb Qは完備順序体ではない。Archimedes 性は完備性を導かない。

補題 1.8.KKを完備順序体とする。任意のx∈Kx\in Kに対して、

(m−1)⋅1K≤x<m⋅1K(m-1)\cdot 1_K\leq x<m\cdot 1_K

を満たす整数mmが存在する。

証明.定理 1.5を−x-xに適用し、x+N⋅1K>0x+N\cdot 1_K>0を満たす正の整数NNを取る。さらに同じ定理により、x+N⋅1K<p⋅1Kx+N\cdot 1_K<p\cdot 1_Kを満たす正の整数ppが存在する。この条件を満たす正の整数のうち最小のものをp0p_0とする。p0=1p_0=1ならば(p0−1)⋅1K=0≤x+N⋅1K(p_0-1)\cdot 1_K=0\leq x+N\cdot1_Kである。p0>1p_0>1ならば、最小性によりp0−1p_0-1は条件を満たさないので(p0−1)⋅1K≤x+N⋅1K(p_0-1)\cdot1_K\leq x+N\cdot1_Kである。いずれの場合も

(p0−1)⋅1K≤x+N⋅1K<p0⋅1K(p_0-1)\cdot 1_K\leq x+N\cdot 1_K<p_0\cdot 1_K

が成り立つ。m=p0−Nm=p_0-Nとおけば、命題 1.3 (1)により結論を得る。▨

2 有理数を各完備順序体へ入れる

定義 2.1.KKを順序体とする。整数mmと正の整数nnに対して

ιK ⁣(mn)=(m⋅1K)(n⋅1K)−1\iota_K\!\left(\frac{m}{n}\right) = (m\cdot 1_K)(n\cdot 1_K)^{-1}

と定める写像ιK:Q→K\iota_K:\mathbb Q\to Kを、KKへの標準有理数埋め込み (canonical embedding of the rationals) という。

命題 2.2.KKを順序体とする。定義 2.1の式は有理数の表示に依存せず、ιK\iota_Kは単位元、加法、乗法および順序を保つ単射である。また、単位元を保つ体準同型Q→K\mathbb Q\to KはιK\iota_Kだけである。

証明.命題 1.3 (4)により、正の整数nnに対してn⋅1K>0n\cdot 1_K>0である。したがってn⋅1K≠0n\cdot 1_K\neq0であり、定義式の逆元は存在する。

m/n=m′/n′m/n=m'/n'ならばmn′=m′nmn'=m'nである。命題 1.3 (2)により

(m⋅1K)(n′⋅1K)=(mn′)⋅1K=(m′n)⋅1K=(m′⋅1K)(n⋅1K)(m\cdot1_K)(n'\cdot1_K)=(mn')\cdot1_K=(m'n)\cdot1_K=(m'\cdot1_K)(n\cdot1_K)

となるため、両辺を正の元(n⋅1K)(n′⋅1K)(n\cdot1_K)(n'\cdot1_K)で割れば、二つの表示から得られる値は一致する。また、m,m′∈Zm,m'\in\mathbb Zとn,n′∈Z>0n,n'\in\mathbb Z_{>0}に対して、命題 1.3 (1)と命題 1.3 (2)により

ιK ⁣(mn+m′n′)=((mn′+m′n)⋅1K)((nn′)⋅1K)−1=(m⋅1K)(n⋅1K)−1+(m′⋅1K)(n′⋅1K)−1,ιK ⁣(mnm′n′)=((mm′)⋅1K)((nn′)⋅1K)−1=(m⋅1K)(n⋅1K)−1(m′⋅1K)(n′⋅1K)−1\begin{aligned} \iota_K\!\left(\frac mn+\frac{m'}{n'}\right) &=((mn'+m'n)\cdot1_K)((nn')\cdot1_K)^{-1}\\ &=(m\cdot1_K)(n\cdot1_K)^{-1}+(m'\cdot1_K)(n'\cdot1_K)^{-1},\\ \iota_K\!\left(\frac mn\frac{m'}{n'}\right) &=((mm')\cdot1_K)((nn')\cdot1_K)^{-1}\\ &=(m\cdot1_K)(n\cdot1_K)^{-1}(m'\cdot1_K)(n'\cdot1_K)^{-1} \end{aligned}

である。したがって加法と乗法が保たれ、定義からιK(1)=1K\iota_K(1)=1_Kである。

m/n>0m/n>0ならばm>0m>0である。命題 1.3 (4)によりm⋅1K>0m\cdot1_K>0かつn⋅1K>0n\cdot1_K>0であり、§E1.12 命題 3.2により(n⋅1K)−1>0(n\cdot1_K)^{-1}>0であるから、正の元どうしの積として(m⋅1K)(n⋅1K)−1>0(m\cdot1_K)(n\cdot1_K)^{-1}>0である。q<rq<rならば0<r−q0<r-qなので

0<ιK(r−q)=ιK(r)−ιK(q),0<\iota_K(r-q)=\iota_K(r)-\iota_K(q),

すなわちιK(q)<ιK(r)\iota_K(q)<\iota_K(r)である。また、q≠0q\ne0ならばqqまたは−q-qが正であり、その像も正であるため、ιK(q)≠0\iota_K(q)\ne0である。よってιK\iota_Kは単射である。

単位元を保つ体準同型f:Q→Kf:\mathbb Q\to Kは加法を保つので、命題 1.3 (3)によりf(m)=f(m⋅1Q)=m⋅f(1Q)=m⋅1Kf(m)=f(m\cdot1_{\mathbb Q})=m\cdot f(1_{\mathbb Q})=m\cdot1_Kであり、逆元を保つため、m/nm/nを必ず(m⋅1K)(n⋅1K)−1(m\cdot1_K)(n\cdot1_K)^{-1}へ写す。したがってf=ιKf=\iota_Kである。▨

以後、誤解が生じない場合はιK(q)\iota_K(q)を単にqqと書く。

定理 2.3.KKを完備順序体とし、x,y∈Kx,y\in Kがx<yx<yを満たすとする。このとき

x<ιK(q)<yx<\iota_K(q)<y

を満たす有理数qqが存在する。

証明.y−x>0y-x>0である。定理 1.5を(y−x)−1(y-x)^{-1}に適用し、n>(y−x)−1n>(y-x)^{-1}を満たす正の整数nnを取る。この不等式からn(y−x)>1n(y-x)>1を得る。

補題 1.8をnxnxに適用し、

m−1≤nx<mm-1\leq nx<m

を満たす整数mmを取る。m≤nx+1<nym\leq nx+1<nyであるため、nx<m<nynx<m<nyである。q=m/nq=m/nとおく。命題 1.3 (4)によりn⋅1K>0n\cdot1_K>0であり、§E1.12 命題 3.2により(n⋅1K)−1>0(n\cdot1_K)^{-1}>0であるから、§E1.12 命題 2.1によりnx<m<nynx<m<nyの各辺へ(n⋅1K)−1(n\cdot1_K)^{-1}を掛けてx<q<yx<q<yを得る。▨

3 元を有理下切断で記述する

定義 3.1.KKを完備順序体とし、x∈Kx\in Kとする。集合

CK(x)={q∈Q∣ιK(q)<x}C_K(x)=\{q\in\mathbb Q\mid \iota_K(q)<x\}

をxxの有理下切断 (rational lower cut) という。

命題 3.2.KKを完備順序体とする。各x∈Kx\in Kに対してCK(x)C_K(x)は§E1.11 定義 3.2の意味での Dedekind 切断である。また、x<yx<yであることとCK(x)⊊CK(y)C_K(x)\subsetneq C_K(y)であることは同値である。

証明.§E1.12 命題 2.1により0<1K0<1_Kであるからx−1K<x<x+1Kx-1_K<x<x+1_Kであり、定理 2.3をこの二つの不等式へ適用すると、xxより小さい有理数とxxより大きい有理数が存在する。したがってCK(x)C_K(x)は空でない真部分集合である。q∈CK(x)q\in C_K(x)かつr<qr<qならばr<xr<xであるため、r∈CK(x)r\in C_K(x)であり、CK(x)C_K(x)はQ\mathbb Qの下方集合である。さらにq∈CK(x)q\in C_K(x)に対してq<xq<xであるから、その間に有理数rrが存在し、q<rq<rかつr∈CK(x)r\in C_K(x)となるので、CK(x)C_K(x)は最大元をもたない。よってCK(x)C_K(x)は Dedekind 切断である。

x<yx<yならばCK(x)⊆CK(y)C_K(x)\subseteq C_K(y)であり、xxとyyの間の有理数はCK(y)∖CK(x)C_K(y)\setminus C_K(x)に属する。したがって包含は真である。逆にCK(x)⊊CK(y)C_K(x)\subsetneq C_K(y)ならば、ある有理数qqがq<yq<yかつq≮xq\not<xを満たす。よってx≤q<yx\leq q<yであり、x<yx<yである。▨

定理 3.3.KKを完備順序体とし、AAを§E1.11 定義 3.2の意味での Dedekind 切断とする。このときCK(x)=AC_K(x)=Aを満たすx∈Kx\in Kがただ一つ存在する。

証明.r∈Q∖Ar\in\mathbb Q\setminus Aを取る。任意のq∈Aq\in Aについてq<rq<rである。実際、r≤qr\leq qならば下方閉性からr∈Ar\in Aとなり、rrの選び方に反する。したがって

SA={ιK(q)∣q∈A}S_A=\{\iota_K(q)\mid q\in A\}

は空でなく、ιK(r)\iota_K(r)を上界にもつので、x=sup⁡SAx=\sup S_Aが存在する。

q∈Aq\in Aとする。AAは最大元をもたないため、q<q′q<q'を満たすq′∈Aq'\in Aが存在する。するとq<q′≤xq<q'\leq xであるためq<xq<x、すなわちq∈CK(x)q\in C_K(x)である。逆にq∉Aq\notin Aならば、上と同じ議論によりqqはAAのすべての元以上であり、ιK(q)\iota_K(q)はSAS_Aの上界である。よってx≤qx\leq qとなり、q∉CK(x)q\notin C_K(x)である。以上からCK(x)=AC_K(x)=Aを得る。

一意性は命題 3.2から従う。▨

4 一意な順序体同型を構成する

命題 4.1.KKとLLを完備順序体とする。各x∈Kx\in Kに対してCL(Φ(x))=CK(x)C_L(\Phi(x))=C_K(x)を満たすΦ(x)∈L\Phi(x)\in Lがただ一つ存在する。こうして定まる写像Φ:K→L\Phi:K\to Lは全単射であり、任意のx,y∈Kx,y\in Kとq∈Qq\in\mathbb Qに対して

x<y  ⟺  Φ(x)<Φ(y),Φ(ιK(q))=ιL(q)x<y\iff\Phi(x)<\Phi(y), \qquad \Phi(\iota_K(q))=\iota_L(q)

を満たす。

証明.命題 3.2によりCK(x)C_K(x)は Dedekind 切断であるから、定理 3.3をLLに対して適用することができ、CL(Φ(x))=CK(x)C_L(\Phi(x))=C_K(x)を満たすΦ(x)∈L\Phi(x)\in Lがただ一つ存在する。命題 3.2により、x<yx<yとΦ(x)<Φ(y)\Phi(x)<\Phi(y)はともにCK(x)⊊CK(y)C_K(x)\subsetneq C_K(y)と同値である。

KKとLLを入れ替えて同じ構成を行い、CK(Ψ0(y))=CL(y)C_K(\Psi_0(y))=C_L(y)を満たす写像Ψ0:L→K\Psi_0:L\to Kを得る。各x∈Kx\in Kについて

CK(Ψ0(Φ(x)))=CL(Φ(x))=CK(x)C_K(\Psi_0(\Phi(x)))=C_L(\Phi(x))=C_K(x)

であり、各y∈Ly\in Lについて

CL(Φ(Ψ0(y)))=CK(Ψ0(y))=CL(y)C_L(\Phi(\Psi_0(y)))=C_K(\Psi_0(y))=C_L(y)

であるから、定理 3.3の一意性によりΨ0∘Φ\Psi_0\circ\PhiとΦ∘Ψ0\Phi\circ\Psi_0はともに恒等写像である。すなわちΨ0\Psi_0はΦ\Phiの逆写像であり、§E1.1 命題 3.8によりΦ\Phiは全単射である。

各有理数qqについて命題 2.2により

CK(ιK(q))={r∈Q∣r<q}=CL(ιL(q))C_K(\iota_K(q))=\{r\in\mathbb Q\mid r<q\}=C_L(\iota_L(q))

であるから、Φ(x)\Phi(x)の一意な定め方によりΦ(ιK(q))=ιL(q)\Phi(\iota_K(q))=\iota_L(q)である。▨

補題 4.2.命題 4.1のΦ\Phiは加法を保つ。すなわち、任意のx,y∈Kx,y\in Kに対してΦ(x+y)=Φ(x)+Φ(y)\Phi(x+y)=\Phi(x)+\Phi(y)である。とくにΦ(0)=0\Phi(0)=0かつΦ(−x)=−Φ(x)\Phi(-x)=-\Phi(x)である。

証明.x,y∈Kx,y\in Kとq∈Qq\in\mathbb Qを取る。q<x+yq<x+yならば、δ=x+y−q>0\delta=x+y-q>0とおき、定理 2.3によりx−δ/2<r<xx-\delta/2<r<xおよびy−δ/2<s<yy-\delta/2<s<yを満たす有理数r,sr,sを取ることができる。このときr+s>x+y−δ=qr+s>x+y-\delta=qである。切断の一致からr<Φ(x)r<\Phi(x)かつs<Φ(y)s<\Phi(y)となるため、q<Φ(x)+Φ(y)q<\Phi(x)+\Phi(y)である。

逆にq<Φ(x)+Φ(y)q<\Phi(x)+\Phi(y)ならば、同じ議論をLLで行い、r<Φ(x)r<\Phi(x)、s<Φ(y)s<\Phi(y)、q<r+sq<r+sを満たす有理数r,sr,sを得る。切断の一致からr<xr<xかつs<ys<yとなるため、q<x+yq<x+yである。したがって

CL(Φ(x)+Φ(y))=CK(x+y)=CL(Φ(x+y))C_L(\Phi(x)+\Phi(y))=C_K(x+y)=C_L(\Phi(x+y))

であり、定理 3.3の一意性からΦ(x+y)=Φ(x)+Φ(y)\Phi(x+y)=\Phi(x)+\Phi(y)である。Φ(0)=Φ(0)+Φ(0)\Phi(0)=\Phi(0)+\Phi(0)からΦ(0)=0\Phi(0)=0であり、Φ(x)+Φ(−x)=Φ(0)=0\Phi(x)+\Phi(-x)=\Phi(0)=0からΦ(−x)=−Φ(x)\Phi(-x)=-\Phi(x)である。▨

補題 4.3.命題 4.1のΦ\Phiは乗法を保つ。すなわち、任意のx,y∈Kx,y\in Kに対してΦ(xy)=Φ(x)Φ(y)\Phi(xy)=\Phi(x)\Phi(y)である。

証明.x>0x>0かつy>0y>0とする。q<xyq<xyでq≥0q\geq0ならば、δ=xy−q>0\delta=xy-q>0とおく。命題 1.3 (4)により0<2⋅1K0<2\cdot1_Kであり、0<y<y+10<y<y+1かつ0<x<x+10<x<x+1であるから2(y+1)2(y+1)と2(x+1)2(x+1)は正であり、§E1.12 命題 3.2によりそれらの逆元も正である。よってδ/(2(y+1))>0\delta/(2(y+1))>0かつδ/(2(x+1))>0\delta/(2(x+1))>0である。定理 2.3により、有理数r,sr,sを

max⁡ ⁣{0,x−δ2(y+1)}<r<x,max⁡ ⁣{0,y−δ2(x+1)}<s<y\max\!\left\{0,x-\frac{\delta}{2(y+1)}\right\}<r<x, \qquad \max\!\left\{0,y-\frac{\delta}{2(x+1)}\right\}<s<y

となるように取ることができる。0<y<y+10<y<y+1および0<r<x<x+10<r<x<x+1なので

xy−rs=y(x−r)+r(y−s)<δ2+δ2=δxy-rs=y(x-r)+r(y-s) <\frac{\delta}{2}+\frac{\delta}{2}=\delta

となり、q<rsq<rsである。切断の一致からr<Φ(x)r<\Phi(x)かつs<Φ(y)s<\Phi(y)であるため、q<Φ(x)Φ(y)q<\Phi(x)\Phi(y)である。補題 4.2のΦ(0)=0\Phi(0)=0と命題 4.1の順序の同値性によりΦ(x)>0\Phi(x)>0かつΦ(y)>0\Phi(y)>0であるから、q<0q<0の場合もq<xyq<xyとq<Φ(x)Φ(y)q<\Phi(x)\Phi(y)がともに成り立つ。逆向きの含意は、KKとLLを入れ替えた同じ議論から従う。よって

CL(Φ(x)Φ(y))=CK(xy)=CL(Φ(xy))C_L(\Phi(x)\Phi(y))=C_K(xy)=C_L(\Phi(xy))

であり、定理 3.3の一意性からΦ(xy)=Φ(x)Φ(y)\Phi(xy)=\Phi(x)\Phi(y)である。

xxまたはyyが00の場合は補題 4.2のΦ(0)=0\Phi(0)=0から直ちに従う。負の元を含む場合は補題 4.2のΦ(−z)=−Φ(z)\Phi(-z)=-\Phi(z)と正の元の場合を用いると、すべてのx,y∈Kx,y\in Kについて乗法が保たれる。▨

定理 4.4 (完備順序体の一意性).KKとLLを完備順序体とする。このとき、単位元を保ち、x≤yx\leq yならばΦ(x)≤Φ(y)\Phi(x)\leq\Phi(y)を満たす体準同型

Φ:K⟶L\Phi:K\longrightarrow L

がただ一つ存在する。このΦ\Phiは加法、乗法および順序を保つ全単射である。

証明.命題 4.1のΦ\Phiは全単射であり、x<yx<yとΦ(x)<Φ(y)\Phi(x)<\Phi(y)が同値であるから順序を保つ。補題 4.2と補題 4.3によりΦ\Phiは加法と乗法を保ち、命題 2.2と命題 4.1によりΦ(1K)=Φ(ιK(1))=ιL(1)=1L\Phi(1_K)=\Phi(\iota_K(1))=\iota_L(1)=1_Lである。よってΦ\Phiは単位元と順序を保つ体準同型であり、全単射である。

Ψ:K→L\Psi:K\to Lを単位元を保ち順序を保つ体準同型とする。x≠yx\neq yとするとx−y≠0x-y\neq0であり、Ψ(x)=Ψ(y)\Psi(x)=\Psi(y)と仮定するとΨ(x−y)=0\Psi(x-y)=0から

1L=Ψ(1K)=Ψ((x−y)(x−y)−1)=Ψ(x−y)Ψ((x−y)−1)=01_L=\Psi(1_K)=\Psi\bigl((x-y)(x-y)^{-1}\bigr)=\Psi(x-y)\Psi\bigl((x-y)^{-1}\bigr)=0

となり、LLが体であることに反する。したがってΨ\Psiは単射であり、x<yx<yならばΨ(x)≤Ψ(y)\Psi(x)\leq\Psi(y)とΨ(x)≠Ψ(y)\Psi(x)\neq\Psi(y)からΨ(x)<Ψ(y)\Psi(x)<\Psi(y)である。

Ψ∘ιK\Psi\circ\iota_Kは単位元を保つ体準同型Q→L\mathbb Q\to Lであるから、命題 2.2によりΨ∘ιK=ιL\Psi\circ\iota_K=\iota_Lである。各x∈Kx\in Kとq∈Qq\in\mathbb Qについて、ιK(q)<x\iota_K(q)<xならばιL(q)=Ψ(ιK(q))<Ψ(x)\iota_L(q)=\Psi(\iota_K(q))<\Psi(x)であり、x≤ιK(q)x\leq\iota_K(q)ならばΨ(x)≤Ψ(ιK(q))=ιL(q)\Psi(x)\leq\Psi(\iota_K(q))=\iota_L(q)であるから

ιK(q)<x⟺ιL(q)<Ψ(x)\iota_K(q)<x\quad\Longleftrightarrow\quad \iota_L(q)<\Psi(x)

が成り立ち、CL(Ψ(x))=CK(x)C_L(\Psi(x))=C_K(x)である。命題 4.1におけるΦ(x)\Phi(x)の一意な定め方からΨ(x)=Φ(x)\Psi(x)=\Phi(x)を得るため、Ψ=Φ\Psi=\Phiである。▨

注意 4.5.定理 4.4が述べる一意性は、二つの完備順序体の台集合が等しいという意味ではない。それぞれの標準有理数埋め込みを一致させる順序体同型がただ一つあるという意味である。したがって、「実数体の構成」§E1.14 定理 3.1と「Cauchy 列による実数の構成」は異なる集合を作っても、四則演算と順序を含む構造として一意に同一視することができる。

上限の性質は、順序体KKのすべての部分集合を量化する性質であり、順序体の一階言語における一つの文ではない。一方、実数体と同じ一階の文をすべて満たす非 Archimedes 的な実閉順序体が存在する。この事実は定理 4.4と矛盾しない。定理 1.5の対偶により、そのような順序体は上限の性質を満たさず、完備順序体ではないからである。非 Archimedes 的な実閉順序体の存在はモデル理論のコンパクト性定理から得られるが、本記事では存在の紹介にとどめ、非標準モデルを構成しない。

5 問題

問題 5.1 (完備性を用いる箇所). 本記事の証明全体において、上限の性質を直接用いる箇所と、定理 1.5および定理 2.3を介して用いる箇所を特定せよ。

解答.

上限の性質は、最初に定理 1.5で集合{n⋅1K∣n∈Z>0}\{n\cdot1_K\mid n\in\mathbb Z_{>0}\}の上限を取る箇所と、定理 3.3で{ιK(q)∣q∈A}\{\iota_K(q)\mid q\in A\}の上限を取る箇所に直接現れる。前者から整数による挟み撃ちと有理数の稠密性が導かれ、後者から任意の Dedekind 切断に対応する元が得られる。命題 4.1の全単射性と補題 4.2・補題 4.3の演算の保存は、これら二つの帰結を介して上限の性質を用いている。定理 4.4の証明自体は、これらの結果の適用と命題 2.2だけからなり、上限の性質を直接には用いない。▨

問題 5.2 (非負の元と平方元).KKを完備順序体とする。x∈Kx\in Kについて、0≤x0\leq xであることと、x=y2x=y^2を満たすy∈Ky\in Kが存在することが同値であることを示せ。また、これを用いて、完備順序体のあいだの単位元を保つ体準同型は必ず順序を保つことを示せ。

解答.

x=y2x=y^2とする。y=0y=0ならばx=0x=0であり、y≠0y\neq0ならば§E1.12 命題 2.1により0<x0<xである。いずれの場合も0≤x0\leq xである。

逆に0≤x0\leq xとする。x=0x=0ならばy=0y=0が条件を満たす。0<x0<xとして

T={t∈K∣0≤t, t2≤x}T=\{t\in K\mid 0\leq t,\ t^2\leq x\}

とおくと、0∈T0\in TであるからTTは空でない。t>1K+xt>1_K+xならばt>1Kt>1_Kであり、§E1.12 命題 2.1によりt2>tt^2>tである。t>xt>xとあわせてt2>xt^2>xとなるのでt∉Tt\notin Tである。したがって1K+x1_K+xはTTの上界であり、s=sup⁡Ts=\sup Tが存在する。x<1Kx<1_Kならば§E1.12 命題 2.1によりx2<xx^2<xであるからx∈Tx\in Tであり、1K≤x1_K\leq xならば1K2=1K≤x1_K^2=1_K\leq xであるから1K∈T1_K\in Tである。いずれの場合もs>0s>0である。

s2<xs^2<xと仮定する。2s+1K>02s+1_K>0であるから§E1.12 命題 3.2によりその逆元は正であり、h=min⁡{1K,(x−s2)(2s+1K)−1}h=\min\{1_K,(x-s^2)(2s+1_K)^{-1}\}は正である。0<h≤1K0<h\leq1_Kからh2≤hh^2\leq hであり、h(2s+1K)≤x−s2h(2s+1_K)\leq x-s^2であるから

(s+h)2=s2+2sh+h2≤s2+h(2s+1K)≤x(s+h)^2=s^2+2sh+h^2\leq s^2+h(2s+1_K)\leq x

となる。よってs+h∈Ts+h\in Tであるが、s+h>ss+h>sはssがTTの上界であることに反する。

s2>xs^2>xと仮定する。2s>02s>0であるから§E1.12 命題 3.2によりその逆元は正であり、k=(s2−x)(2s)−1k=(s^2-x)(2s)^{-1}は正である。2sk=s2−x2sk=s^2-xであるから

s−k=s2+x2s>0,(s−k)2=s2−2sk+k2=x+k2>xs-k=\frac{s^2+x}{2s}>0, \qquad (s-k)^2=s^2-2sk+k^2=x+k^2>x

である。t∈Tt\in Tに対してt2≤x<(s−k)2t^2\leq x<(s-k)^2であり、s−k≤ts-k\leq tとすると0<s−k0<s-kから(s−k)2≤t(s−k)≤t2(s-k)^2\leq t(s-k)\leq t^2となって矛盾するので、t<s−kt<s-kである。よってs−ks-kはTTの上界であるが、s−k<ss-k<sはssが最小の上界であることに反する。

したがってs2=xs^2=xであり、y=sy=sが条件を満たす。

KKとLLを完備順序体とし、Ψ:K→L\Psi:K\to Lを単位元を保つ体準同型とする。x≤yx\leq yならば0≤y−x0\leq y-xであるから、いま示したことによりy−x=z2y-x=z^2を満たすz∈Kz\in Kが存在する。すると

Ψ(y)−Ψ(x)=Ψ(y−x)=Ψ(z)2\Psi(y)-\Psi(x)=\Psi(y-x)=\Psi(z)^2

であり、右辺はΨ(z)=0\Psi(z)=0ならば00、そうでなければ§E1.12 命題 2.1により正である。よってΨ(x)≤Ψ(y)\Psi(x)\leq\Psi(y)であり、Ψ\Psiは順序を保つ。定理 4.4とあわせると、完備順序体のあいだの単位元を保つ体準同型はただ一つであり、K=LK=Lの場合には恒等写像に限る。▨

参考文献

  1. Edmund Landau, Foundations of Analysis, translated by F. Steinhardt, 3rd ed., Chelsea Publishing Company, 1966.
  2. Otto Forster, Analysis 1: Differential- und Integralrechnung einer Veränderlichen, 13., überarbeitete und ergänzte ed., Grundkurs Mathematik, Springer, Wiesbaden, 2023.
  3. Walter Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., International Series in Pure and Applied Mathematics, McGraw Hill, 1976.
  4. David Marker, Model Theory: An Introduction, Graduate Texts in Mathematics, Springer, 2002.

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