1 前順序、半順序および全順序
定義 1.1.Pを集合、≤をP上の二項関係とする。≤が次の二つを満たすとき、≤をP上の前順序 (preorder) という。
- 任意のx∈Pに対してx≤xが成り立つ(反射律)。
- 任意のx,y,z∈Pに対して、x≤yかつy≤zならばx≤zが成り立つ(推移律)。
前順序≤を備えた組(P,≤)を前順序集合 (preordered set) という。x≤yが成り立たないことをx≤yと書く。Pにも≤にも制限を置かない。とくにPは空集合でもよい。
定義 1.2.Pを集合とする。P上の前順序≤が反対称律、すなわち「任意のx,y∈Pに対して、x≤yかつy≤xならばx=yが成り立つ」を満たすとき、≤をP上の半順序 (partial order) という。半順序≤を備えた組(P,≤)をposet (partially ordered set) という。
半順序は定義により前順序であるから、poset は前順序集合である。
例 1.3.
- 集合Xに対して、冪集合P(X)に包含関係⊆を入れたものは poset である。反射律と推移律は包含関係の性質であり、反対称律は集合の相等の定義そのものである。
- 正の整数の全体に整除関係∣を入れたものは poset である。各aはa=a⋅1からa∣aを満たし、a∣bかつb∣cならばb=akとc=blからc=a(kl)となる。また、正の整数a,bがa∣bかつb∣aを満たすならばb=akかつa=blであり、a=aklからkl=1、正の整数の積としてk=l=1、すなわちa=bである。
- 集合Xの上でx≤yをx=yによって定めた関係は半順序である。台集合が空集合である場合の唯一の二項関係も半順序である。
- 整数の全体に整除関係∣を入れたものは前順序集合であるが poset ではない。反射律と推移律の確認は正の整数の場合と同じであり、一方で−2∣2かつ2∣−2でありながら−2=2であるから、反対称律は成り立たない。
- 集合Xと写像f:X→Zに対して、x⪯yをf(x)≤f(y)によって定めると⪯は前順序である。f(x)=f(y)を満たす相異なるx,yが存在すれば、x⪯yかつy⪯xかつx=yとなるので、⪯は半順序ではない。
定義 1.4.(P,≤)を前順序集合とし、x,y∈Pとする。x≤yまたはy≤xの少なくとも一方が成り立つとき、xとyは比較可能 (comparable) であるといい、どちらも成り立たないとき比較不能 (incomparable) であるという。
Pの任意の二元が比較可能である半順序をP上の全順序 (total order) といい、全順序≤を備えた組(P,≤)を全順序集合 (totally ordered set) という。
例 1.5.
- 整数の全体、有理数の全体および実数の全体は、通常の大小関係について全順序集合である。
- P({1,2})は包含関係について四つの元∅、{1}、{2}、{1,2}をもつ poset である。{1}⊆{2}かつ{2}⊆{1}であるから{1}と{2}は比較不能であり、この poset は全順序集合ではない。
- 集合Xと poset(Q,≤Q)に対して、XからQへの写像の全体を考え、すべてのx∈Xについてf(x)≤Qg(x)が成り立つときにf⪯gと定めると、⪯は半順序である。反射律と推移律は各点で≤Qの反射律と推移律を用い、反対称律はf⪯gかつg⪯fから各点でf(x)=g(x)を得て、写像の相等によってf=gを得る。Xが相異なる二元x1,x2をもち、Qがq1≤Qq2かつq1=q2を満たす二元をもつならば、f(x1)=q1、f(x2)=q2、g(x1)=q2、g(x2)=q1とし、x1ともx2とも異なるxについてはf(x)=g(x)=q1としたfとgは比較不能であるから、⪯は全順序ではない。
定義 1.6.(X,≤)を poset とする。x,y∈Xに対して、x≤yかつx=yが成り立つときにx<yと定め、<を≤に付随する狭義順序 (strict order) という。y>xはx<yと同じ意味である。≤が全順序であるとき、<を狭義全順序 (strict total order) という。
命題 1.7.(X,≤)を poset とし、<を≤に付随する狭義順序とする。
- 任意のx∈Xに対して、x<xは成り立たない。
- x<yかつy<zならばx<zである。
- ≤がX上の全順序であることと、相異なる任意の二元x,y∈Xに対してx<yまたはy<xが成り立つこととは同値である。
証明.x<xはx=xを含むので、(1)が成り立つ。
x<yかつy<zとすると、x≤yとy≤zから推移律によりx≤zである。ここでx=zと仮定すると、y≤z=xとx≤yから反対称律によりx=yとなり、x<yに含まれるx=yに反する。よってx=zであり、x<zが成り立つ。
(3)の必要性を示す。≤を全順序とし、x=yとする。xとyは比較可能であるからx≤yまたはy≤xが成り立ち、x=yとあわせてx<yまたはy<xを得る。十分性を示す。相異なる任意の二元が<について一方向に結ばれているとする。x,y∈Xを取り、x=yならば反射律によりx≤yである。x=yならばx<yまたはy<xであり、いずれの場合もx≤yまたはy≤xが成り立つ。よって任意の二元が比較可能であり、≤は全順序である。▨
系 1.8.(X,≤)を全順序集合とし、<を≤に付随する狭義順序とする。任意のx,y∈Xに対して、x<y、x=y、y<xのちょうど一つが成り立つ。
証明.x=yならば、x<yとy<xはいずれもx=yを含むので成り立たない。x=yならば、命題 1.7 (3)によりx<yまたはy<xが成り立ち、x=yは成り立たない。最後にx<yとy<xが同時に成り立つと仮定すると、命題 1.7 (2)によりx<xとなり命題 1.7 (1)に反する。よって三つのうち少なくとも一つが成り立ち、二つ以上が同時に成り立つことはない。▨
狭義順序を取る操作は、半順序のもつ情報を失わせない。
命題 1.9.Xを集合とする。
- ≤がX上の半順序ならば、付随する狭義順序<は非反射的かつ推移的である。
- RがX上の非反射的かつ推移的な二項関係ならば、xRyまたはx=yが成り立つときにx≤yと定めた関係≤はX上の半順序であり、≤に付随する狭義順序はRに一致する。
- 二つの構成は互いに逆である。すなわち、半順序≤から<を作り、<から(2)の規則で関係を作り直すと≤に戻る。
- (2)で得られる≤が全順序であることと、相異なる任意の二元x,y∈Xに対してxRyまたはyRxが成り立つこととは同値である。
証明.(1)は命題 1.7 (1)と命題 1.7 (2)である。
Rを非反射的かつ推移的な関係とし、xRyまたはx=yが成り立つときにx≤yと定める。反射律は定義の第二の場合から従う。反対称律について、x≤yかつy≤xであってx=yと仮定するとxRyかつyRxであり、推移性によりxRxとなって非反射性に反する。よってx=yである。推移律について、x≤yかつy≤zとする。x=yならばy≤zがそのままx≤zを与え、y=zならばx≤yがそのままx≤zを与える。x=yかつy=zならばxRyかつyRzであり、推移性によりxRz、したがってx≤zである。よって≤は半順序である。付随する狭義順序については、xRyならば非反射性によりx=yであるからx≤yかつx=yであり、逆にx≤yかつx=yならば定義の第一の場合が起こってxRyである。よって(2)が成り立つ。
≤を半順序、<を付随する狭義順序とし、x<yまたはx=yが成り立つときにx≤′yと定める。x<yはx≤yを含み、x=yのときは反射律によりx≤yであるから、x≤′yならばx≤yである。逆にx≤yとすると、x=yであるか、またはx=yであってx<yであるから、x≤′yである。よって≤′は≤に一致し、(3)が成り立つ。
(4)は、(2)によりRが≤に付随する狭義順序であることと、命題 1.7 (3)を≤へ適用することから従う。▨
2 上界と下界、上限と下限および鎖
定義 2.1.(P,≤)を前順序集合、TをPの部分集合とする。Tには空でないことも有限であることも課さない。
- u∈PがTの上界 (upper bound) であるとは、すべてのt∈Tについてt≤uが成り立つことである。Tの上界の全体をTの上界全体 (set of upper bounds) という。
- l∈PがTの下界 (lower bound) であるとは、すべてのt∈Tについてl≤tが成り立つことである。Tの下界の全体をTの下界全体 (set of lower bounds) という。
- Tが上界をもつときTは上に有界 (bounded above) であるといい、Tが下界をもつときTは下に有界 (bounded below) であるという。
- s∈PがTの上限 (supremum) であるとは、sがTの上界であり、かつTの任意の上界uについてs≤uが成り立つことである。
- m∈PがTの下限 (infimum) であるとは、mがTの下界であり、かつTの任意の下界xについてx≤mが成り立つことである。
上限と下限は、Pの元がもつ性質として定める。すなわち「sはTの上限である」はsについての条件であり、記号によってPの特定の元を指すものではない。
命題 2.3.(P,≤)を poset、TをPの部分集合とする。Tの上限は、存在すれば一意である。Tの下限も、存在すれば一意である。
証明.sとs′をともにTの上限とする。s′はTの上界でありsはTの任意の上界以下であるからs≤s′であり、sとs′の役割を入れ替えるとs′≤sである。反対称律によりs=s′である。
mとm′をともにTの下限とする。m′はTの下界でありTの任意の下界はm以下であるからm′≤mであり、役割を入れ替えるとm≤m′である。反対称律によりm=m′である。▨
定義 2.4.(P,≤)を poset とする。
- C⊆PがPの鎖 (chain) であるとは、Cの任意の二元が比較可能であることである。この条件はCが空集合である場合にも、Cが一元集合である場合にも満たされる。
- u∈PがCの上界であるとは、すべてのc∈Cについてc≤uが成り立つことである。
- m∈PがPの極大元 (maximal element) であるとは、m<xを満たすx∈Pが存在しないことである。m∈PがPの極小元 (minimal element) であるとは、x<mを満たすx∈Pが存在しないことである。
- TをPの部分集合とする。g∈TがTの最大元 (greatest element) であるとは、すべてのx∈Tについてx≤gが成り立つことである。b∈TがTの最小元 (least element) であるとは、すべてのx∈Tについてb≤xが成り立つことである。T=Pの場合のgとbを、それぞれPの最大元、Pの最小元という。
鎖の上界について課した条件は、部分集合の上界について定義 2.1が置いた条件と同じ形であり、反対称律を用いない。
命題 2.5.(P,≤)を poset とする。
- Pの最大元は、存在すれば一意である。Pの最小元も、存在すれば一意である。
- Pの最大元は極大元であり、Pの最小元は極小元である。
- Pが最大元gをもつならば、Pの極大元はgだけである。
証明.gとg′をともにPの最大元とすると、g′が最大元であることからg≤g′であり、gが最大元であることからg′≤gである。反対称律によりg=g′である。最小元についても不等号の向きを入れ替えて同じ議論が成り立つ。
gをPの最大元とし、g<xを満たすx∈Pがあると仮定する。gは最大元であるからx≤gであり、g<xに含まれるg≤xとあわせて反対称律からg=xとなるが、これはg<xに含まれるg=xに反する。よってそのようなxは存在せず、gは極大元である。最小元についても同様である。
Pが最大元gをもつとし、mをPの極大元とする。gが最大元であることからm≤gである。m=gとするとm<gとなり、mが極大元であることに反する。よってm=gであり、(2)とあわせてPの極大元はgだけである。▨
命題 2.6. 空集合の上界と下界について、次が成り立つ。
- (P,≤)を前順序集合とすると、Pのすべての元は空集合の上界であり、かつ空集合の下界である。
- (P,≤)を poset とすると、s∈Pが空集合の上限であることとsがPの最小元であることとは同値であり、m∈Pが空集合の下限であることとmがPの最大元であることとは同値である。
証明. 上界の条件「すべてのt∈∅についてt≤uが成り立つ」は、∅が元をもたないので、u∈Pの取り方によらず成り立つ。下界の条件についても同様である。よって(1)が成り立つ。
(P,≤)を poset とする。(1)により空集合の上界全体はPである。したがって「sが空集合の上限である」は「s∈Pであり、Pの任意の元uについてs≤uが成り立つ」に等しく、これはsがPの最小元であることにほかならない。下限についても、空集合の下界全体がPであることから同じ議論が成り立つ。▨
空集合が鎖であることと命題 2.6をあわせると、Pが元をもつ限り空の鎖はつねに上界をもつ。「Pのすべての鎖が上界をもつ」という条件を検査するときにこの場合を落とさないことが、「選択公理と Zorn の補題」で Zorn の補題を適用する際の第一段になる。
例 2.7.aとbを相異なる二元とし、P={a,b}、≤を相等関係、すなわちa≤aとb≤bだけが成り立つ関係とする。これは相等関係であるから例 1.3により半順序である。a<xを満たすx∈Pは存在せず、b<xを満たすx∈Pも存在しないから、aとbはいずれも極大元であり、同じ理由でいずれも極小元である。一方、b≤aが成り立たないのでaは最大元ではなく、a≤bが成り立たないのでbも最大元ではない。したがってPは最大元をもたず、極大元を二つもつ。
aとbは比較不能であるから{a,b}は鎖ではなく、Pの鎖は∅、{a}、{b}の三つである。∅の上界は命題 2.6 (1)によりaとbの両方であり、{a}の上界はaだけ、{b}の上界はbだけである。よってPのすべての鎖が上界をもつ。
例 2.8.
- 集合Xに対して、(P(X),⊆)と部分族A⊆P(X)を考える。Aの各元は⋃Aに含まれ、Aのすべての元を含むXの部分集合は⋃Aを含むから、⋃AはAの上限である。Aが空でないとき、⋂AはAの各元に含まれ、Aのすべての元に含まれる部分集合は⋂Aに含まれるから、⋂AはAの下限である。Aが空のときは、命題 2.6 (2)により上限が∅、下限がXである。
- 正の整数の全体に整除関係を入れた poset(例 1.3)において、{4,6}の下限は2であり、上限は12である。実際、4の正の約数は1,2,4、6の正の約数は1,2,3,6であるから、{4,6}の下界は1と2であり、1∣2であるから2が下限である。また、mを4と6の公倍数とし、mを12で割った余りをrとすると、r=m−12qは4の倍数かつ6の倍数であり0≤r<12を満たす。0<r<12を満たす4の倍数は4と8だけであり、どちらも6の倍数ではないからr=0、すなわち12∣mである。12自身は4と6の公倍数であるから、12が上限である。この2と12は、4と6の最大公約数と最小公倍数にほかならない。
- 上に有界であっても上限をもたない部分集合が存在する。P={a,b,c,d}に、四つの反射的な関係とa≤c、a≤d、b≤c、b≤dだけが成り立つ関係を入れる。相異なる二元を二段つなぐ組が無いので推移律が成り立ち、相異なる二元の間に双方向の関係が無いので反対称律が成り立つ。T={a,b}の上界はcとdである。c≤dもd≤cも成り立たないので、cもdもTのすべての上界以下ではない。よってTは上に有界であるが上限をもたない。
3 上方集合と下方集合
定義 3.1.(P,≤)を前順序集合、AをPの部分集合とする。a∈Aとx∈Pがa≤xを満たすとき必ずx∈Aとなるならば、AをPの上方集合 (upper set) という。a∈Aとx∈Pがx≤aを満たすとき必ずx∈Aとなるならば、AをPの下方集合 (lower set) という。
命題 3.2.(P,≤)を前順序集合とする。
- A⊆Pが上方集合であることと、P∖Aが下方集合であることとは同値である。
- 上方集合からなる任意の族について、その和集合は上方集合である。族が空でなければ共通部分も上方集合である。下方集合についても同じことが成り立つ。
- 各p∈Pに対して、{x∈P∣p≤x}は上方集合であり、{x∈P∣x≤p}は下方集合である。
- 各p,q∈Pに対して、p≤qであることと{x∈P∣x≤p}⊆{x∈P∣x≤q}が成り立つこととは同値である。
証明.Aを上方集合とし、a∈P∖Aとx≤aを取る。x∈Aと仮定すると、Aが上方集合であってx≤aであるからa∈Aとなり、a∈P∖Aに反する。よってx∈P∖Aであり、P∖Aは下方集合である。逆にP∖Aを下方集合とし、a∈Aとa≤xを取る。x∈P∖Aと仮定すると、P∖Aが下方集合であってa≤xであるからa∈P∖Aとなり、a∈Aに反する。よってx∈Aである。以上により(1)が成り立つ。
(Ai)i∈Iを上方集合の族とする。a∈⋃i∈IAiとa≤xを取ると、a∈Aiを満たすiがあり、Aiが上方集合であるからx∈Ai⊆⋃i∈IAiである。Iが空でないとし、a∈⋂i∈IAiとa≤xを取ると、各iについてa∈AiかつAiが上方集合であるからx∈Aiであり、x∈⋂i∈IAiである。下方集合については不等号の向きを入れ替えて同じ議論が成り立つ。
p≤aかつa≤xならば推移律によりp≤xであるから、{x∈P∣p≤x}は上方集合である。a≤pかつx≤aならば推移律によりx≤pであるから、{x∈P∣x≤p}は下方集合である。
p≤qとし、x≤pを取ると推移律によりx≤qであるから、{x∈P∣x≤p}⊆{x∈P∣x≤q}である。逆にこの包含が成り立つとすると、反射律によりpは左辺に属するのでpは右辺に属し、p≤qである。▨
上方集合と下方集合は、順序の向きを反転する操作によって互いに移り合う。
定義 3.3.(P,≤)を前順序集合とする。P上の二項関係≤opを
x≤opy⟺y≤xによって定め、≤opを≤の双対順序 (dual order) という。台集合Pに≤opを備えた組をPopと書く。
≤が半順序であるとき、付随する狭義順序<に対しても同じ規則で
x<opy⟺y<xと定め、<opを<の双対順序という。
命題 3.4.(P,≤)を前順序集合とする。
- ≤opはP上の前順序である。≤が半順序ならば≤opは半順序であり、≤が全順序ならば≤opは全順序である。
- (≤op)opは≤に一致する。
- ≤が半順序であるとき、≤opに付随する狭義順序は<opに一致する。
証明. 反射律について、x≤xはx≤opxと同じ条件である。推移律について、x≤opyかつy≤opzはy≤xかつz≤yであり、≤の推移律によりz≤x、すなわちx≤opzである。よって≤opは前順序である。反対称律について、x≤opyかつy≤opxはy≤xかつx≤yであるから、≤が反対称律を満たせばx=yである。比較可能性について、x≤yまたはy≤xが成り立つことは、y≤opxまたはx≤opyが成り立つことと同じ条件である。よって(1)が成り立つ。
xとyが(≤op)opで結ばれることはy≤opxであり、これはx≤yである。よって(2)が成り立つ。
≤を半順序とする。(1)により≤opは半順序であり、それに付随する狭義順序は「x≤opyかつx=y」、すなわち「y≤xかつy=x」である。これはy<x、すなわちx<opyにほかならない。▨
4 順序を保つ写像と順序埋め込み
定義 4.1.(P,≤P)と(Q,≤Q)を前順序集合、f:P→Qを写像とする。
- すべてのx,y∈Pについて、x≤Pyならばf(x)≤Qf(y)が成り立つとき、fを順序を保つ写像 (order-preserving map)、または単調写像 (monotone map) という。
- すべてのx,y∈Pについて、x≤Pyであることとf(x)≤Qf(y)が成り立つこととが同値であるとき、fを順序埋め込み (order embedding) という。
定義 4.2.(P,≤P)と(Q,≤Q)を前順序集合とする。全単射f:P→Qであって、fと逆写像f−1がともに順序を保つものを順序同型 (order isomorphism) という。PからQへの順序同型が存在するとき、PとQは順序同型であるという。
命題 4.3.(P,≤P)、(Q,≤Q)および(R,≤R)を前順序集合とする。
- 恒等写像は順序を保ち、順序を保つ写像f:P→Qとg:Q→Rの合成g∘fは順序を保つ。また、順序埋め込みの合成は順序埋め込みである。
- 順序埋め込みは順序を保つ写像である。Pが poset であるとき、順序埋め込みは単射である。
- 全単射f:P→Qについて、fが順序同型であることとfが順序埋め込みであることとは同値である。
- f:P→Qを順序を保つ写像、TをPの部分集合とする。uがTの上界であるならば、f(u)は像f(T)の上界である。
証明.x≤Pyならばx≤Pyであるから、恒等写像は順序を保つ。fとgを順序を保つ写像としx≤Pyとすると、f(x)≤Qf(y)であり、さらにg(f(x))≤Rg(f(y))である。fとgが順序埋め込みならば、x≤Pyとf(x)≤Qf(y)が同値であり、f(x)≤Qf(y)とg(f(x))≤Rg(f(y))が同値であるから、x≤Pyと(g∘f)(x)≤R(g∘f)(y)は同値である。
順序埋め込みの条件の一方向が、順序を保つ条件そのものである。Pを poset とし、fを順序埋め込み、f(x)=f(y)とする。f(x)≤Qf(y)とf(y)≤Qf(x)がともに成り立つので、x≤Pyとy≤Pxを得る。反対称律によりx=yであるから、fは単射である。
fを全単射とする。fが順序同型であるとする。x≤Pyならばf(x)≤Qf(y)である。逆にf(x)≤Qf(y)とすると、f−1が順序を保つことからf−1(f(x))≤Pf−1(f(y))、すなわちx≤Pyである。よってfは順序埋め込みである。次にfが順序埋め込みであるとする。fは順序を保つ。v≤Qwを取り、x=f−1(v)、y=f−1(w)とおくとf(x)≤Qf(y)であるからx≤Py、すなわちf−1(v)≤Pf−1(w)である。よってf−1も順序を保ち、fは順序同型である。
uをTの上界とし、f(t)∈f(T)を取る。t≤Puであるからf(t)≤Qf(u)であり、f(u)はf(T)の上界である。▨
例 4.4. 順序を保つ全単射が順序同型であるとは限らない。aとbを相異なる二元とし、P={a,b}に相等関係を入れ、Q={0,1}に通常の全順序を入れる。f:P→Qをf(a)=0、f(b)=1によって定めると、fは全単射である。Pにおいてx≤yが成り立つのはx=yの場合だけであり、そのときはf(x)=f(y)からf(x)≤f(y)であるから、fは順序を保つ。一方、f−1(0)=aとf−1(1)=bについて、0≤1でありながらa≤bは成り立たないので、f−1は順序を保たない。よってfは順序同型ではなく、命題 4.3 (3)により順序埋め込みでもない。
例 4.5.(P,≤)を poset とし、η:P→P(P)を
η(p)={x∈P∣x≤p}によって定める。命題 3.2 (4)によりp≤qとη(p)⊆η(q)は同値であるから、ηは(P(P),⊆)への順序埋め込みであり、命題 4.3 (2)により単射である。すなわち、任意の poset は自身の冪集合の poset へ順序埋め込みされる。「Dedekind–MacNeille 完備化」は、この埋め込みの像を下方集合の中で広げることによって、任意の poset を完備束の中へ収める。
例 4.6.命題 4.3 (4)は上界が像の上界へ移ることを述べるが、順序を保つ写像が上限を上限へ移すとは限らない。a、bおよびcを相異なる三元とし、P={a,b,c}に、三つの反射的な関係とa≤c、b≤cだけが成り立つ関係を入れる。相異なる二元を二段つなぐ組が無いので推移律が成り立ち、相異なる二元の間に双方向の関係が無いので反対称律が成り立つ。T={a,b}の上界はcだけであるから、Tの上限はcである。
このPについて例 4.5のηを考えると、η(a)={a}、η(b)={b}、η(c)={a,b,c}である。例 2.8により(P(P),⊆)におけるη(T)={{a},{b}}の上限は{a}∪{b}={a,b}であり、これはη(c)とは異なる。よってηは順序埋め込みでありながら、Tの上限をη(T)の上限へ移さない。
5 積順序、辞書式順序および整列順序
有限直積は「集合族」が定めた。以下では、直積X1×⋯×Xn(§E1.2 定義 1.3)の元をx=(x1,…,xn)の形に書く。組の相等は成分ごとの相等である。
定義 5.1.nを正の整数とし、(X1,≤1),…,(Xn,≤n)を前順序集合とする。X1×⋯×Xn上の二項関係≤prodを、すべてのi∈{1,…,n}についてxi≤iyiが成り立つときにx≤prodyと定め、≤prodを積順序 (product order) という。
命題 5.2.nを正の整数とし、(X1,≤1),…,(Xn,≤n)を前順序集合とする。
- ≤prodはX1×⋯×Xn上の前順序である。各≤iが半順序ならば≤prodは半順序である。
- n≥2であり、X1とX2がそれぞれ相異なる二元をもつ全順序集合であり、さらに3≤i≤nを満たす各iについてXiが空でないならば、≤prodは全順序ではない。
証明. 各iについてxi≤ixiであるからx≤prodxである。x≤prodyかつy≤prodzならば、各iについてxi≤iyiかつyi≤iziであり、≤iの推移律によりxi≤iziであるからx≤prodzである。各≤iが反対称律を満たすとし、x≤prodyかつy≤prodxとすると、各iについてxi≤iyiかつyi≤ixiであるからxi=yiであり、組の相等が成分ごとの相等であることからx=yである。
n≥2とする。X1とX2は全順序集合であって相異なる二元をもつので、命題 1.7 (3)によりa1<1b1を満たすa1,b1∈X1とa2<2b2を満たすa2,b2∈X2が存在する。3≤i≤nについては、Xiが空でないので、その元ciを一つずつ取ることができる。x=(a1,b2,c3,…,cn)、y=(b1,a2,c3,…,cn)とおくと、第2成分についてb2≤2a2が成り立たないのでx≤prodyではなく、第1成分についてb1≤1a1が成り立たないのでy≤prodxでもない。よってxとyは比較不能であり、≤prodは全順序ではない。▨
積順序が全順序にならないのは、比較を全成分に同時に課すためである。
定義 5.3.nを正の整数とし、各i∈{1,…,n}についてXiを集合、<iをXi上の狭義全順序とする。座標の順序は1,…,nに固定する。相異なる二つの組x=(x1,…,xn)とy=(y1,…,yn)に対して、xi=yiを満たす添字iの全体は{1,…,n}の空でない部分集合であるから、その最小の元が定まる。この最小の添字をiとするとき、
x<lexy⟺xi<iyiと定める。x=yのときはx<lexyが成り立たないものとする。この<lexをX1×⋯×Xn上の辞書式順序 (lexicographic order) という。
命題 5.4.nを正の整数とし、(X1,≤1),…,(Xn,≤n)を全順序集合、<iを≤iに付随する狭義順序とする。このとき<lexはX1×⋯×Xn上の狭義全順序である。すなわち、<lexは非反射的かつ推移的であり、相異なる任意の二元は<lexについて一方向に結ばれる。さらに、x<lexyまたはx=yが成り立つときにx≤lexyと定めると、≤lexはX1×⋯×Xn上の全順序であり、≤lexに付随する狭義順序は<lexに一致する。
証明.x<lexxは定義により成り立たないので、<lexは非反射的である。
相異なるxとyを取り、iをxi=yiを満たす最小の添字とする。≤iは全順序でありxi=yiであるから、命題 1.7 (3)によりxi<iyiまたはyi<ixiが成り立つ。yj=xjを満たす最小の添字もiであるから、前者ならばx<lexy、後者ならばy<lexxである。
推移性について、x<lexyかつy<lexzとし、iをxとyが食い違う最小の添字、jをyとzが食い違う最小の添字とする。i<jの場合、l<iについてはxl=ylかつyl=zlであるからxl=zlであり、添字iについてはi<jからyi=ziであるのでxi<iyi=ziとなる。とくにxi=ziであるから、xとzが食い違う最小の添字はiであり、x<lexzである。j<iの場合、l<jについてはxl=yl=zlであり、添字jについてはj<iからxj=yjであるのでxj=yj<jzjとなる。よってxとzが食い違う最小の添字はjであり、x<lexzである。i=jの場合、l<iについてはxl=yl=zlであり、添字iについてはxi<iyiかつyi<iziであるから、命題 1.7 (2)によりxi<iziであり、命題 1.7 (1)とあわせてxi=ziである。よってxとzが食い違う最小の添字はiであり、x<lexzである。
以上により<lexは非反射的かつ推移的であるから、命題 1.9 (2)により≤lexは半順序であり、≤lexに付随する狭義順序は<lexに一致する。相異なる二元が<lexについて一方向に結ばれることと命題 1.9 (4)により、≤lexは全順序である。▨
定義 5.6.Xを集合、≤をX上の半順序とする。Xの空でない任意の部分集合が最小元をもつとき、≤をX上の整列順序 (well-order) という。
証明.≤をX上の整列順序とし、x,y∈Xを取る。S={x,y}はXの空でない部分集合であるから最小元mをもつ。m=xならばx≤yであり、m=yならばy≤xである。よって任意の二元が比較可能であり、≤は全順序である。▨
例 5.8.N≥0上の通常の大小関係は整列順序である。実際、SをN≥0の空でない部分集合とし、すべてのs∈Sについてn≤sが成り立つ自然数nの全体をAとする。Sが最小元をもたないと仮定する。0はすべての自然数以下であるから0∈Aである。k∈Aとすると、k∈SならばkがSの最小元になるのでk∈/Sであり、したがってすべてのs∈Sについてk<s、すなわちk+1≤sが成り立つからk+1∈Aである。帰納法によりA=N≥0となるが、Sは空でないのでs∈Sを取るとs+1∈Aからs+1≤sとなって矛盾する。よってSは最小元をもつ。
Z上の通常の大小関係は全順序であるが整列順序ではない。実際、Z自身は空でない部分集合であり、m∈Zに対してm−1∈Zかつm−1<mであるから、Zは最小元をもたない。よって命題 5.7の逆は成り立たない。
補題 5.9.IとYを集合、≤をI上の整列順序、f:I→Yを写像とし、S=f(I)とおく。fの終域を像Sに制限して得る写像をfˉ:I→Sとする。各y∈Sに対して、f−1({y})の最小元をs(y)とおくと、写像s:S→Iが定まり、
fˉ∘s=idSを満たす。したがってsは単射である。この写像は、像の各元に対して標準的な原像代表を与える。この写像はfとI上の整列順序から一意に定まり、その構成に選択公理を用いない。
証明.y∈Sを取る。S=f(I)であるから、f−1({y})はIの空でない部分集合である。I上の順序が整列順序であることにより、この部分集合は最小元をもつ。二つの最小元があれば、一方は他方以下であり、逆向きの不等式も成り立つので、反対称律により両者は等しい。したがってs(y)は一意に定まり、s:S→Iは写像である。
s(y)∈f−1({y})であるからfˉ(s(y))=f(s(y))=yであり、fˉ∘s=idSである。y,y′∈Sがs(y)=s(y′)を満たすならば、両辺にfˉを施すことによりy=y′を得る。よってsは単射である。▨
定理 5.10.nを正の整数とし、(X1,≤1),…,(Xn,≤n)を全順序集合、≤lexを命題 5.4が与える全順序とする。
- 各≤iがXi上の整列順序であるならば、≤lexはX1×⋯×Xn上の整列順序である。
- すべてのXiが空でなく、≤lexがX1×⋯×Xn上の整列順序であるならば、各≤iはXi上の整列順序である。
証明. 各≤iを整列順序とし、SをX1×⋯×Xnの空でない部分集合とする。S0=Sとおき、i=1,…,nに対して、aiを{xi∣x∈Si−1}の最小元とし、
Si={x∈Si−1∣xi=ai}と順に定める。Si−1が空でなければ{xi∣x∈Si−1}はXiの空でない部分集合であるから、≤iが整列順序であることによりaiが定まり、aiを第i成分にもつSi−1の元が存在するのでSiも空でない。S0=Sが空でないので、この構成はi=nまで進み、各Siは空でない。
a=(a1,…,an)とおく。Snの元は各成分がa1,…,anに等しいのでSn={a}であり、とくにa∈Sである。x∈Sを取りx=aとし、iをxi=aiを満たす最小の添字とする。l<iについてはxl=alであるから、S1,…,Si−1の定め方によりx∈Si−1である。よってaiの最小性からai≤ixiであり、xi=aiとあわせてai<ixiである。iはaとxが食い違う最小の添字であるからa<lexxである。したがってaはSの最小元であり、(1)が成り立つ。
すべてのXiが空でなく、≤lexが整列順序であるとする。k∈{1,…,n}を固定し、TをXkの空でない部分集合とする。i=kを満たす各iについて、Xiが空でないので、その元ciを一つずつ取ることができる。
S={x∈X1×⋯×Xn∣xk∈T かつ i=k のとき xi=ci}とおくと、Tが空でないのでSは空でない。≤lexが整列順序であるからSは最小元aをもつ。Sの相異なる二元は第k成分だけで食い違うので、x,y∈Sについてx<lexyとxk<kykは同値である。t∈Tを取り、第k成分がtであるSの元をxとすると、a≤lexxからak≤ktを得る。すなわちakはTの最小元であり、≤kは整列順序である。▨
6 演習
問題 6.1.(P,≤)を前順序集合、TをPの部分集合、s∈Pとする。sが(P,≤)におけるTの上限であることと、sがPopにおけるTの下限であることとが同値であることを証明せよ。
解答.
u∈Pについて、uが(P,≤)におけるTの上界であることと、uがPopにおけるTの下界であることとは同値である。実際、前者は「すべてのt∈Tについてt≤uが成り立つ」ことであり、後者は「すべてのt∈Tについてu≤optが成り立つ」ことであって、≤opの定め方によりこの二つは同じ条件である。
sを(P,≤)におけるTの上限とする。sはTの上界であるから、いま示した同値によりsはPopにおけるTの下界である。xをPopにおけるTの下界とすると、同じ同値によりxは(P,≤)におけるTの上界であり、sが上限であることからs≤x、すなわちx≤opsである。よってsはPopにおけるTの下限である。
逆にsをPopにおけるTの下限とする。sはPopにおけるTの下界であるから、同じ同値によりsは(P,≤)におけるTの上界である。uを(P,≤)におけるTの上界とすると、同じ同値によりuはPopにおけるTの下界であり、sがPopにおける下限であることからu≤ops、すなわちs≤uである。よってsは(P,≤)におけるTの上限である。▨
問題 6.2.nを正の整数、(X1,≤1),…,(Xn,≤n)を poset とし、X1×⋯×Xnに積順序を入れる。TをX1×⋯×Xnの部分集合とし、Ti={xi∣x∈T}とおく。Tが上限をもつことと、すべてのiについてTiが上限をもつこととが同値であり、そのときTの上限は各成分がTiの上限である組であることを証明せよ。
解答.
まず、u∈X1×⋯×XnがTの上界であることと、すべてのiについてuiがTiの上界であることとは同値である。実際、uがTの上界であることは「すべてのx∈Tと各iについてxi≤iuiが成り立つ」ことであり、Tiの元はTの元の第i成分にほかならないからである。
すべてのiについてTiが上限siをもつとし、s=(s1,…,sn)とおく。各siはTiの上界であるからsはTの上界である。uをTの上界とすると、各iについてuiはTiの上界であり、siが上限であることからsi≤iuiである。よってs≤produであり、sはTの上限である。
逆にTが上限sをもつとする。sはTの上界であるから、各iについてsiはTiの上界である。kを固定し、vをTkの上界とする。第k成分がvであり、i=kの第i成分がsiである組をuとすると、各成分が対応するTiの上界であるからuはTの上界であり、sが上限であることからs≤produ、とくにsk≤kvである。よってskはTkの上限である。以上により同値が成り立ち、Tの上限は各成分がTiの上限である組である。▨
問題 6.3.n≥2とし、(X1,≤1),…,(Xn,≤n)を全順序集合とする。恒等写像
id:(X1×⋯×Xn,≤prod)⟶(X1×⋯×Xn,≤lex)が順序を保つ写像であることを証明し、X1とX2がそれぞれ相異なる二元をもち、かつ3≤i≤nを満たす各iについてXiが空でないときには順序埋め込みでないことを示せ。
解答.
x≤prodyとする。x=yならばx≤lexyである。x=yならば、xi=yiを満たす最小の添字iについてxi≤iyiかつxi=yiであるからxi<iyiであり、辞書式順序の定義によりx<lexyである。よってidは順序を保つ。
X1がa1<1b1を満たす二元をもち、X2がa2<2b2を満たす二元をもち、3≤i≤nを満たす各iについてXiが空でないとする。この各iについてXiの元ciを一つずつ取り、x=(a1,b2,c3,…,cn)、y=(b1,a2,c3,…,cn)とおく。xとyが食い違う最小の添字は1でありa1<1b1であるからx<lexyである。一方、第2成分についてb2≤2a2が成り立たないのでx≤prodyではない。よってid(x)≤lexid(y)でありながらx≤prodyが成り立たず、idは順序埋め込みではない。▨
順序の三つの水準と、上界、上限、鎖、極大元および整列順序の語は、以後の記事が繰り返し用いる。「束と完備束」は、任意の二元が上限と下限をもつ poset として束を定義し、poset では上限と下限が一意であることを根拠に、結びと交わりを二項演算として扱う。「順序数」は、本記事が定めた整列順序を出発点として整列集合と始切片を定め、超限帰納法の枠組みを作る。