§E1.7多項式

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多項式は式の見た目ではなく、有限個の位置だけが零でない係数列として定めることができる。この定め方のもとでは、多項式にその多項式関数を対応させる操作が係数の情報を落とすことがあり、多項式と多項式関数を同じ対象として扱うことができない。多項式の代数的な構成と根の有限性を結ぶ基本性質を扱う。

1 定義と環構造

設定RRは単位元1R1_Rをもつ可換環とする。「準同型と商」の規約に従い、環準同型は乗法単位元を保つものとする。

定義 1.1. 写像a ⁣:Z≥0→Ra\colon\mathbb Z_{\ge 0}\to Rに対して

supp⁡(a)={n∈Z≥0∣a(n)≠0}\operatorname{supp}(a)=\{n\in\mathbb Z_{\ge 0}\mid a(n)\ne0\}

をaaの台 (support) という。台が有限集合である係数列a=(a0,a1,…)a=(a_0,a_1,\ldots)を、RR上の一変数多項式 (univariate polynomial) という。an=a(n)a_n=a(n)をnn次の係数 (coefficient) という。RR上の一変数多項式全体をR[x]R[x]と書く。

11次の係数が1R1_Rであり、ほかの係数が零である多項式を不定元 (indeterminate) といい、xxと書く。c∈Rc\in Rに対して、定数項がccであり、ほかの係数が零である多項式を定数多項式という。

定義 1.2.f=(an)n≥0f=(a_n)_{n\ge0}、g=(bn)n≥0g=(b_n)_{n\ge0}をR[x]R[x]の元とする。係数列f+gf+gとfgfgを

(f+g)n=an+bn,(fg)n=∑i=0naibn−i(f+g)_n=a_n+b_n, \qquad (fg)_n=\sum_{i=0}^{n}a_i b_{n-i}

によって定める。係数列f+gf+gを多項式の加法 (polynomial addition) といい、係数列fgfgを多項式の乗法 (polynomial multiplication) という。乗法の係数を定める和を畳み込み積 (convolution product) という。

命題 1.3.定義 1.2の加法と乗法はR[x]R[x]上の二項演算を定め、R[x]R[x]を単位元をもつ可換環にする。

証明.f=(an)f=(a_n)とg=(bn)g=(b_n)に対して、i>mi>mならばai=0a_i=0となり、j>nj>nならばbj=0b_j=0となるm,n∈Z≥0m,n\in\mathbb Z_{\ge0}を取る。k>max⁡{m,n}k>\max\{m,n\}ならば(f+g)k=0(f+g)_k=0である。k>m+nk>m+nならば、0≤i≤k0\le i\le kの各iiについてi>mi>mまたはk−i>nk-i>nであるから、aibk−i=0a_ib_{k-i}=0である。したがって(fg)k=0(fg)_k=0であり、f+gf+gとfgfgは有限台をもつ。

加法の可換群の公理はRRの各係数で成り立つ公理から従う。加法零元は(0,0,…)(0,0,\ldots)であり、ffの加法逆元は(−an)n≥0(-a_n)_{n\ge0}である。u=(1R,0,0,…)u=(1_R,0,0,\ldots)とおくと、任意のk≥0k\ge0に対して

(uf)k=∑i=0kuiak−i=u0ak=ak(uf)_k=\sum_{i=0}^{k}u_i a_{k-i}=u_0a_k=a_k

であるから、uuは乗法単位元である。

任意のk≥0k\ge0に対して

(fg)k=∑i=0kaibk−i=∑j=0kbjak−j=(gf)k(fg)_k=\sum_{i=0}^{k}a_i b_{k-i} =\sum_{j=0}^{k}b_j a_{k-j}=(gf)_k

であるから、乗法は可換である。h=(cn)h=(c_n)とすると

((fg)h)k=∑r=0k(∑i=0raibr−i)ck−r=∑i+j+l=kaibjcl=∑i=0kai(∑j=0k−ibjck−i−j)=(f(gh))k.\begin{aligned} ((fg)h)_k &=\sum_{r=0}^{k}\left(\sum_{i=0}^{r}a_i b_{r-i}\right)c_{k-r}\\ &=\sum_{i+j+l=k}a_i b_j c_l\\ &=\sum_{i=0}^{k}a_i\left(\sum_{j=0}^{k-i}b_jc_{k-i-j}\right) =(f(gh))_k. \end{aligned}

各和は有限であり、同じ三つ組(i,j,l)(i,j,l)による項を集計している。さらに

(f(g+h))k=∑i=0kai(bk−i+ck−i)=(fg)k+(fh)k(f(g+h))_k =\sum_{i=0}^{k}a_i(b_{k-i}+c_{k-i}) =(fg)_k+(fh)_k

である。もう一方の分配律は乗法の可換性から従う。よってR[x]R[x]は単位元をもつ可換環である。▨

命題 1.4. 写像

ι ⁣:R⟶R[x],c⟼(c,0,0,…)\iota\colon R\longrightarrow R[x], \qquad c\longmapsto(c,0,0,\ldots)

は単射環準同型である。

証明. 任意のc,d∈Rc,d\in Rに対して、係数ごとの加法と畳み込み積の定義から

ι(c+d)=ι(c)+ι(d),ι(cd)=ι(c)ι(d),ι(1R)=1R[x]\iota(c+d)=\iota(c)+\iota(d), \qquad \iota(cd)=\iota(c)\iota(d), \qquad \iota(1_R)=1_{R[x]}

である。したがってι\iotaは環準同型である。ι(c)=ι(d)\iota(c)=\iota(d)ならば両辺の定数項が等しいのでc=dc=dである。ゆえにι\iotaは単射である。▨

設定命題 1.4のι\iotaは単射であるから、以後c∈Rc\in Rとその像ι(c)\iota(c)を同一視し、定数多項式ι(c)\iota(c)を単にccと書く。

命題 1.5.f=(an)n≥0f=(a_n)_{n\ge0}をR[x]R[x]の元とする。

  1. 各i≥0i\ge0に対して、xix^iのii次係数は1R1_Rであり、ほかの係数は零である。
  2. n>Nn>Nならばan=0a_n=0となる非負整数NNが存在し、f=a0+a1x+⋯+aNxNf=a_0+a_1x+\cdots+a_Nx^Nと表すことができる。
  3. c0,…,cM∈Rc_0,\ldots,c_M\in Rがf=c0+c1x+⋯+cMxMf=c_0+c_1x+\cdots+c_Mx^Mを満たすならば、n≤Mn\le Mのときan=cna_n=c_nであり、n>Mn>Mのときan=0a_n=0である。

証明.x0=1R[x]x^0=1_{R[x]}の00次係数は1R1_Rであり、ほかの係数は零である。xix^iのii次係数が1R1_Rでほかの係数が零であるとする。xxは11次の係数だけが1R1_Rであるから、畳み込み積の定義により、xi+1=xixx^{i+1}=x^ixの00次係数は零であり、k≥1k\ge1に対するkk次係数はxix^iのk−1k-1次係数に等しい。したがってxi+1x^{i+1}のi+1i+1次係数は1R1_Rであり、ほかの係数は零である。帰納法により(1)が成り立つ。

c0,…,cM∈Rc_0,\ldots,c_M\in Rとする。前段と畳み込み積の定義により、定数多項式cic_iとxix^iの積のii次係数はcic_iであり、ほかの係数は零である。したがって有限和∑i=0Mcixi\sum_{i=0}^{M}c_ix^iのnn次係数は、n≤Mn\le Mならばcnc_n、n>Mn>Mならば零である。

ffの台は有限である。supp⁡(f)=∅\operatorname{supp}(f)=\varnothingならばN=0N=0とし、そうでなければN=max⁡supp⁡(f)N=\max\operatorname{supp}(f)とする。どちらの場合もn>Nn>Nならばan=0a_n=0である。前段をM=NM=N、ci=aic_i=a_iに適用すると、∑i=0Naixi\sum_{i=0}^{N}a_ix^iのnn次係数はffのnn次係数に等しい。よって(2)が成り立つ。

f=c0+c1x+⋯+cMxMf=c_0+c_1x+\cdots+c_Mx^Mとする。多項式の等号は係数列の等号であり、右辺のnn次係数はn≤Mn\le Mならばcnc_n、n>Mn>Mならば零であるから、(3)が成り立つ。▨

2 次数と評価

定義 2.1. 非零多項式f=(an)f=(a_n)に対して、有限集合supp⁡(f)\operatorname{supp}(f)の最大元をffの次数 (degree) といい、deg⁡f\deg fと書く。deg⁡f=d\deg f=dのとき、ada_dをffの最高次係数 (leading coefficient) という。最高次係数が1R1_Rである非零多項式をモニック多項式 (monic polynomial) という。零多項式には次数と最高次係数を定義しない。

命題 2.2.f=(ak)k≥0f=(a_k)_{k\ge0}とg=(bk)k≥0g=(b_k)_{k\ge0}をR[x]R[x]の非零多項式とし、deg⁡f=m\deg f=m、deg⁡g=n\deg g=nとする。最高次係数はそれぞれama_mとbnb_nである。

  1. f+g≠0f+g\ne0ならばdeg⁡(f+g)≤max⁡{m,n}\deg(f+g)\le\max\{m,n\}である。
  2. −f≠0-f\ne0であり、deg⁡(−f)=m\deg(-f)=mである。
  3. fgfgのm+nm+n次係数はambna_mb_nであり、m+nm+nより大きい次数の係数はすべて零である。
  4. RRが整域ならばfg≠0fg\ne0であり、deg⁡(fg)=m+n\deg(fg)=m+nである。このときfgfgの最高次係数はambna_mb_nである。

証明.k>max⁡{m,n}k>\max\{m,n\}ならばffとggのkk次係数はともに零であるから、(f+g)k=0(f+g)_k=0である。したがって(1)が成り立つ。

各kkについて−ak=0-a_k=0とak=0a_k=0とは同値であるから、−f-fの台はffの台に等しい。したがって(2)が成り立つ。

0≤i≤m+n0\le i\le m+nかつi≠mi\ne mとする。i>mi>mならばai=0a_i=0であり、i<mi<mならばm+n−i>nm+n-i>nであるからbm+n−i=0b_{m+n-i}=0である。いずれの場合もaibm+n−i=0a_ib_{m+n-i}=0であるから、(fg)m+n=ambn(fg)_{m+n}=a_mb_nである。またk>m+nk>m+nならば、0≤i≤k0\le i\le kの各iiについてi>mi>mまたはk−i>nk-i>nであるからaibk−i=0a_ib_{k-i}=0であり、(fg)k=0(fg)_k=0である。したがって(3)が成り立つ。

RRを整域とする。am≠0a_m\ne0かつbn≠0b_n\ne0であるからambn≠0a_mb_n\ne0である。前段によりfgfgのm+nm+n次係数は非零であり、それより大きい次数の係数は零であるから、(4)が成り立つ。▨

定義 2.3.f=(ai)i≥0∈R[x]f=(a_i)_{i\ge0}\in R[x]とα∈R\alpha\in Rに対して、有限和

f(α)=∑i≥0aiαif(\alpha)=\sum_{i\ge0}a_i\alpha^i

をffのα\alphaにおける値 (value) という。写像

ev⁡α ⁣:R[x]⟶R,f⟼f(α)\operatorname{ev}_\alpha\colon R[x]\longrightarrow R, \qquad f\longmapsto f(\alpha)

をα\alphaにおける評価写像 (evaluation map) という。また、f^ ⁣:R→R\widehat f\colon R\to R、f^(α)=f(α)\widehat f(\alpha)=f(\alpha)によって定まる写像をffが定める多項式関数という。

命題 2.4. 各α∈R\alpha\in Rに対して、評価写像ev⁡α ⁣:R[x]→R\operatorname{ev}_\alpha\colon R[x]\to Rは環準同型である。すなわち

(f+g)(α)=f(α)+g(α),(fg)(α)=f(α)g(α),1(α)=1R(f+g)(\alpha)=f(\alpha)+g(\alpha), \qquad (fg)(\alpha)=f(\alpha)g(\alpha), \qquad 1(\alpha)=1_R

が成り立つ。

証明.f=∑iaixif=\sum_i a_ix^i、g=∑jbjxjg=\sum_jb_jx^jとする。加法の定義から

(f+g)(α)=∑i(ai+bi)αi=f(α)+g(α)(f+g)(\alpha)=\sum_i(a_i+b_i)\alpha^i =f(\alpha)+g(\alpha)

である。各係数列の台は有限であり、RRは可換であるから

(fg)(α)=∑n≥0(∑i+j=naibj)αn=∑i,jaibjαi+j=(∑iaiαi)(∑jbjαj)=f(α)g(α).\begin{aligned} (fg)(\alpha) &=\sum_{n\ge0}\left(\sum_{i+j=n}a_ib_j\right)\alpha^n\\ &=\sum_{i,j}a_ib_j\alpha^{i+j}\\ &=\left(\sum_i a_i\alpha^i\right) \left(\sum_j b_j\alpha^j\right) =f(\alpha)g(\alpha). \end{aligned}

定数多項式11の値は1R1_Rである。したがって「準同型と商」の定義により、ev⁡α\operatorname{ev}_\alphaは環準同型である。▨

例 2.5.n≥2n\ge2とし、整数a,ba,bに対してa∼ba\sim bをn∣a−bn\mid a-bによって定める。n∣0n\mid0であり、n∣a−bn\mid a-bならばn∣b−an\mid b-aであり、n∣a−bn\mid a-bかつn∣b−cn\mid b-cならばn∣a−cn\mid a-cであるから、∼\simはZ\mathbb Z上の同値関係である。a∼a′a\sim a'かつb∼b′b\sim b'とすると

(a+b)−(a′+b′)=(a−a′)+(b−b′),ab−a′b′=a(b−b′)+(a−a′)b′(a+b)-(a'+b')=(a-a')+(b-b'), \qquad ab-a'b'=a(b-b')+(a-a')b'

はいずれもnnで割り切れるので、∼\simは加法とも乗法とも両立する。商集合Z/∼\mathbb Z/{\sim}をZ/n\mathbb Z/nと書き、aaの同値類を[a][a]と書く。§E1.6 定理 3.2により、Z/n\mathbb Z/nでは結合律、可換律および分配律が成り立ち、[0][0]が加法単位元、[1][1]が乗法単位元である。さらに[a]+[−a]=[a+(−a)]=[0][a]+[-a]=[a+(-a)]=[0]であるから、Z/n\mathbb Z/nは単位元をもつ可換環である。nnは11を割り切らないので[1]≠[0][1]\ne[0]である。

例 2.6.例 2.5でn=2n=2とすると、Z/2\mathbb Z/2の非零元は[1][1]だけであり、[1][1]=[1][1][1]=[1]であるからZ/2\mathbb Z/2は体である。この体を二元体といい、[0][0]と[1][1]を00と11と書いてF2={0,1}\mathbb F_2=\{0,1\}と表す。F2\mathbb F_2上の多項式f=x2+xf=x^2+xは、係数列として零多項式ではない。一方、f(0)=0f(0)=0であり、F2\mathbb F_2では1+1=01+1=0であるからf(1)=0f(1)=0でもある。したがってffと零多項式は異なるが、両者がF2\mathbb F_2上に定める多項式関数は同じである。

3 体上の除法

設定 以下ではKKを体とし、K[x]K[x]を命題 1.3で構成した多項式環とする。体は整域である(§E1.5 系 2.9)から、命題 2.2の積の次数に関する等式を用いることができる。

定理 3.1 (除法定理).f,g∈K[x]f,g\in K[x]とし、g≠0g\ne0とする。このとき

f=qg+r,r=0またはdeg⁡r<deg⁡gf=qg+r, \qquad r=0\quad\text{または}\quad\deg r<\deg g

を満たすq,r∈K[x]q,r\in K[x]がただ一組存在する。

証明.f=0f=0ならばq=r=0q=r=0が条件を満たす。f≠0f\ne0とし、n=deg⁡fn=\deg fに関して、「次数がnnのすべての非零多項式ffに対して所定のq,rq,rが存在する」という命題へ「帰納法と再帰的な定義」の累積帰納法を適用する。n<deg⁡gn<\deg gならばq=0q=0、r=fr=fとおく。

n≥m=deg⁡gn\ge m=\deg gとし、f,gf,gの最高次係数をそれぞれa,ba,bとする。b≠0b\ne0でありKKは体であるからb−1b^{-1}が存在し、a≠0a\ne0とKKが整域であることからab−1≠0ab^{-1}\ne0である。命題 1.5 (3)によりab−1xn−mab^{-1}x^{n-m}は次数がn−mn-m、最高次係数がab−1ab^{-1}の非零多項式であるから、命題 2.2 (3)によりab−1xn−mgab^{-1}x^{n-m}gのnn次係数はab−1b=aab^{-1}b=aであり、nnより大きい次数の係数は零である。したがって多項式

h=f−ab−1xn−mgh=f-ab^{-1}x^{n-m}g

のnn次係数はa−a=0a-a=0であり、nnより大きい次数の係数も零であるから、h=0h=0またはdeg⁡h<n\deg h<nである。h=0h=0ならば

f=(ab−1xn−m)g+0f=(ab^{-1}x^{n-m})g+0

が条件を満たす。h≠0h\ne0ならば、累積帰納法の仮定により

h=q1g+r,r=0またはdeg⁡r<deg⁡gh=q_1g+r, \qquad r=0\quad\text{または}\quad\deg r<\deg g

となるq1,r∈K[x]q_1,r\in K[x]が存在する。したがって

f=(q1+ab−1xn−m)g+rf=(q_1+ab^{-1}x^{n-m})g+r

である。よってすべてのffに対して条件を満たすq,rq,rが存在する。

f=qg+r=q′g+r′f=qg+r=q'g+r'が余りの次数条件を満たす二つの表示であるとする。差を取ると

(q−q′)g=r′−r(q-q')g=r'-r

である。q≠q′q\ne q'とするとq−q′≠0q-q'\ne0であり、命題 2.2 (4)により左辺は非零でdeg⁡((q−q′)g)=deg⁡(q−q′)+deg⁡g≥deg⁡g\deg((q-q')g)=\deg(q-q')+\deg g\ge\deg gである。したがってr′−r≠0r'-r\ne0である。ところがrrとr′r'はそれぞれ零であるか次数がdeg⁡g\deg gより小さいので、一方が零ならばr′−rr'-rは他方またはその加法逆元であり、ともに非零ならば命題 2.2 (2)と命題 2.2 (1)により

deg⁡(r′−r)≤max⁡{deg⁡r′,deg⁡r}\deg(r'-r)\le\max\{\deg r',\deg r\}

であるから、いずれの場合もdeg⁡(r′−r)<deg⁡g\deg(r'-r)<\deg gである。これはdeg⁡((q−q′)g)≥deg⁡g\deg((q-q')g)\ge\deg gに矛盾する。ゆえにq=q′q=q'であり、元の等式からr=r′r=r'である。▨

例 3.2.Q[x]\mathbb Q[x]でf=x3−2x+4f=x^3-2x+4をg=x−2g=x-2で割る。「整式の除法・剰余の定理・因数定理」で扱った筆算と同じく最高次項を順に消去すると

x3−2x+4=(x2+2x+2)(x−2)+8x^3-2x+4=(x^2+2x+2)(x-2)+8

を得る。余り88の次数はx−2x-2の次数11より小さいので、定理 3.1の一意性により、商はx2+2x+2x^2+2x+2、余りは88である。

例 3.3. 整数環Z\mathbb Zは整域であるが体ではない。Z[x]\mathbb Z[x]ではf=x2f=x^2をg=2xg=2xで割ることができない。実際、命題 1.5 (3)によりggは次数が11の非零多項式である。f=qg+rf=qg+rかつr=0r=0またはdeg⁡r<1\deg r<1とすると、rrは零多項式または定数多項式であり、qgqgの定数項は零であるからr=0r=0である。するとx2=q⋅2xx^2=q\cdot2xであるからq≠0q\ne0であり、命題 2.2 (4)により2=deg⁡q+12=\deg q+1、すなわちdeg⁡q=1\deg q=1である。q=c0+c1xq=c_0+c_1xと書くとq⋅2x=2c0x+2c1x2q\cdot2x=2c_0x+2c_1x^2であるから、命題 1.5 (3)により2c1=12c_1=1となるが、これを満たすc1∈Zc_1\in\mathbb Zは存在しない。したがって定理 3.1の存在の主張は、係数環が体でない場合には成り立たない。

4 剰余・因数・有限根性

定理 4.1 (剰余の定理).f∈K[x]f\in K[x]とα∈K\alpha\in Kに対して、ffをx−αx-\alphaで割った余りはf(α)f(\alpha)である。すなわち、ただ一つのq∈K[x]q\in K[x]が存在して

f=q(x−α)+f(α)f=q(x-\alpha)+f(\alpha)

となる。

証明.命題 1.5 (3)によりx−αx-\alphaは次数が11の非零多項式である。したがって定理 3.1により

f=q(x−α)+r,r=0またはdeg⁡r<1f=q(x-\alpha)+r, \qquad r=0\quad\text{または}\quad\deg r<1

となるq,rq,rが一意に存在する。次数が11より小さい非零多項式は定数多項式であるから、rrは零多項式または定数多項式である。両辺をα\alphaで評価し、命題 2.4を用いると

f(α)=q(α)(α−α)+r(α)=r(α)f(\alpha)=q(\alpha)(\alpha-\alpha)+r(\alpha)=r(\alpha)

である。rrが零多項式または定数多項式であることから、定数多項式としてr=f(α)r=f(\alpha)である。除法定理の一意性によりqqも一意である。▨

系 4.2 (因数定理).f∈K[x]f\in K[x]とα∈K\alpha\in Kに対して、次の二つは同値である。

  1. f(α)=0f(\alpha)=0である。
  2. あるq∈K[x]q\in K[x]が存在してf=q(x−α)f=q(x-\alpha)である。

証明.定理 4.1により、あるq∈K[x]q\in K[x]に対して

f=q(x−α)+f(α)f=q(x-\alpha)+f(\alpha)

である。

(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。f(α)=0f(\alpha)=0をこの等式へ代入するとf=q(x−α)f=q(x-\alpha)である。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。f=q(x−α)f=q(x-\alpha)をα\alphaで評価すると

f(α)=q(α)(α−α)=0f(\alpha)=q(\alpha)(\alpha-\alpha)=0

である。▨

定理 4.3.f∈K[x]f\in K[x]を次数nnの非零多項式とする。このとき、f(α)=0f(\alpha)=0を満たす相異なるα∈K\alpha\in Kは高々nn個である。

証明.n=0n=0ならばffは非零定数多項式であるから、根をもたない。

n≥1n\ge1とし、次数がnnより小さい非零多項式について主張が成り立つとする。ffが根をもたない場合には結論が成り立つ。ffが根α∈K\alpha\in Kをもつ場合には、系 4.2により

f=(x−α)gf=(x-\alpha)g

となるg∈K[x]g\in K[x]が存在する。g=0g=0ならばf=0f=0となるのでg≠0g\ne0である。x−αx-\alphaの次数は11であるから、命題 2.2 (4)によりn=1+deg⁡gn=1+\deg g、すなわちdeg⁡g=n−1\deg g=n-1である。

β≠α\beta\ne\alphaをffの根とすると

0=f(β)=(β−α)g(β)0=f(\beta)=(\beta-\alpha)g(\beta)

である。KKは体でありβ−α≠0\beta-\alpha\ne0であるから、g(β)=0g(\beta)=0である。したがって、α\alpha以外のffの根はすべてggの根である。累積帰納法の仮定によりggの相異なる根は高々n−1n-1個であるから、ffの相異なる根は高々nn個である。▨

注意 4.4.定理 4.3は係数体KKに属する相異なる根を数える。根の重複度を数える主張ではなく、すべての多項式がKK上で一次式の積に分解することも主張しない。たとえばx2+1∈R[x]x^2+1\in\mathbb R[x]は実数の根をもたない。

例 4.5.例 2.5でn=6n=6とすると、[2][3]=[6]=[0][2][3]=[6]=[0]であり[2]≠[0][2]\ne[0]、[3]≠[0][3]\ne[0]であるから、Z/6\mathbb Z/6は整域ではない。命題 1.5 (3)によりf=x2−x∈(Z/6)[x]f=x^2-x\in(\mathbb Z/6)[x]は次数が22の非零多項式である。一方、[0],[1],[3],[4][0],[1],[3],[4]はいずれもffの根である。実際

[0]2−[0]=[0],[1]2−[1]=[0],[3]2−[3]=[6]=[0],[4]2−[4]=[12]=[0][0]^2-[0]=[0], \qquad [1]^2-[1]=[0], \qquad [3]^2-[3]=[6]=[0], \qquad [4]^2-[4]=[12]=[0]

である。したがって定理 4.3の結論は、係数環が整域でない場合には成り立たない。

系 4.6.KKを無限体とする。f,g∈K[x]f,g\in K[x]が定める多項式関数が等しいならば、f=gf=gである。

証明.h=f−gh=f-gとおくとf=h+gf=h+gであるから、命題 2.4により、各α∈K\alpha\in Kに対してf(α)=h(α)+g(α)f(\alpha)=h(\alpha)+g(\alpha)である。仮定よりf(α)=g(α)f(\alpha)=g(\alpha)であるから、KKのすべての元はhhの根である。h≠0h\ne0とすると、定理 4.3によりhhの相異なる根は高々deg⁡h\deg h個であるが、KKは無限集合であるからdeg⁡h\deg h個より多くの元をもつ。これは矛盾である。ゆえにh=0h=0であり、f=gf=gである。▨

参考文献

  1. Serge Lang, Algebra, revised 3 ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2002.一変数多項式環、評価、除法および根に関する標準的な証明を参考にした。
  2. David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004.多項式の除法、剰余の定理、因数定理および根の個数評価を参考にした。

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