§E1.13集合の存在原理

最終更新

これまでの記事は、冪集合、直積、商集合のような新しい集合を、すでにある集合から作って用いてきた。作り方はどれも自然に見えるが、対象の集まりであればいつでも集合とみなしてよいわけではない。ある性質を指定するだけでその性質を満たす対象の全体が集合になると認めると、自分自身に属さない集合の全体を考えたところで矛盾が生じる。したがって、どういう場面で集合を作ってよいのかをあらかじめ規則として並べ、以後の構成がそのどれに当たるのかを名指すことができるようにしておく必要がある。

本記事は、外延性、対、和、冪、分出、無限、置換および選択の八つを、集合を作ってよい規則として述べ、それぞれが何を作ることを許すのかを示す。この八つは ZFC のうち本単元で用いる規則である。本記事は八つの規則を一階述語論理の言語の上の形式的な理論としては扱わない。形式化と、そこではじめて意味をもつ独立性の問題は「公理的集合論」が扱う。

注意 1. 完全な ZFC は、外延性、対、和、冪、分出、無限、置換および選択に基礎の公理を加えた公理系である。本記事は基礎の公理を後で紹介するが、後続の議論の根拠としては用いない。

この八つは一度に与えられたものではない。性質を指定するだけで集合を作ってよいという規則は、Frege が 1893 年に与えた体系の仮定であり、次節の Russell のパラドックスは 1901 年にその矛盾を示したものである。Zermelo は 1908 年に、切り出す先をあらかじめ与えた集合に限る形の公理系を与え、置換は 1922 年に Fraenkel と Skolem が加えた。ZFC の Z は Zermelo、F は Fraenkel の名により、C は選択公理を指す。

設定 以下では、集合でない対象を認めない。すなわち、集合の元はつねに集合である。

1 外延性と無制限な内包

最初の規則は、新しい集合を作ることを許すのではなく、二つの集合がいつ等しいのかを定める。

定義 1.1. 集合AAと集合BBが同じ元をもつとき、すなわち任意のxxについてx∈Ax\in Aとx∈Bx\in Bが同値であるとき、A=BA=Bが成り立つ。この規則を外延性の公理 (axiom of extensionality) という。

外延性の公理により、集合は自分に属する対象だけで決まる。元を並べる順序、同じ元を何度書くか、元をどのような条件で指定したかは、集合の同一性に影響しない。

例 1.2.aaとbbを集合とする。{a,b}\{a,b\}、{b,a}\{b,a\}、{a,b,a}\{a,b,a\}は、いずれもaaとbbをちょうど元にもつ集合であるから、外延性の公理(定義 1.1)によって互いに等しい。a=ba=bの場合には、これらはいずれもaaだけを元にもつ集合{a}\{a\}に等しい。一方、{a,b}\{a,b\}と{{a,b}}\{\{a,b\}\}は一般には等しくない。前者はaaとbbを元にもち、後者は{a,b}\{a,b\}を元にもつからである。

集合を作る規則として最も素朴なものは、性質を一つ指定するごとに、その性質を満たす対象の全体を集合として認める、という規則である。これを無制限な内包という。次の定理は、この規則を認めることができないことを示す。

定理 1.3 (Russell のパラドックス). 性質を一つ指定するごとに、その性質を満たす対象をちょうどすべて元にもつ集合が存在するという規則は、矛盾を導く。

証明. 性質「x∉xx\notin x」にこの規則を適用し、得られる集合をRRと書く。規則の主張により、任意のxxについてx∈Rx\in Rとx∉xx\notin xは同値である。ここでxxとしてRRを取ると、R∈RR\in RとR∉RR\notin Rが同値になる。R∈RR\in Rが成り立つ場合には、この同値からR∉RR\notin Rも成り立つ。R∈RR\in Rが成り立たない場合には、R∉RR\notin Rが成り立つので、この同値からR∈RR\in Rが成り立つ。いずれの場合も矛盾する。▨

2 分出

Russell のパラドックスが退けたのは、性質を指定するだけで集合を作ってよいという点である。条件を指定してよいこと自体は保ち、切り出す範囲をあらかじめ与えた集合の中に限ると、矛盾は生じない。

定義 2.1. 集合論の言葉で書き下した条件φ(x,pˉ)\varphi(x,\bar p)を一つ選ぶごとに、次の主張を一つの公理として認める。

集合AAと、φ\varphiに現れる母数pˉ\bar pに対して、AAの元のうちφ(x,pˉ)\varphi(x,\bar p)を満たすものをちょうど元にもつ集合

{x∈A∣φ(x,pˉ)}\{x\in A\mid\varphi(x,\bar p)\}

が存在する。

条件φ\varphiごとに一つずつ得られるこの公理の全体を分出公理スキーマ (separation axiom schema) という。φ\varphiは母数pˉ\bar pを含んでよく、動く範囲をAAの中に制限しない量化子を含んでよい。φ\varphiを満たす元がAAに一つも無い場合も除外しない。

注意 2.2.定義 2.1は一つの公理ではなく、条件を一つ書き下すごとに一つずつ得られる公理の全体である。このような形の規則を公理スキーマという。「任意の性質PPに対して{x∈A∣P(x)}\{x\in A\mid P(x)\}は集合である」と書くと一つの主張のように見えるが、それは性質の全体にわたって量化しており、書き下すことのできる条件だけを扱う規則とは別のものになる。公理スキーマが直接与えるのは、書き下した条件ごとの各場合だけである。後で述べる置換の規則も同じ形をとる。条件を形式的な論理式として定義し、その全体を対象として扱うことは「数理論理」と「公理的集合論」が行う。本記事は、条件を集合論の言葉で書き下したものとして扱う。「実数体の構成」は、N≥0\mathbb N_{\geq 0}の任意の部分集合に量化する Peano の帰納法と、PA の帰納法公理スキーマとの違いを、まさにこの点によって説明する。

命題 2.3. 任意の集合AAに対して、RA={x∈A∣x∉x}R_A=\{x\in A\mid x\notin x\}はAAに属さない。とくに、すべての集合を元にもつ集合は存在しない。

証明. 分出公理スキーマ(定義 2.1)をAAと条件x∉xx\notin xに適用すると、RAR_Aは集合である。RA∈AR_A\in Aと仮定する。RAR_Aの定め方により、RA∈RAR_A\in R_Aであることは、RA∈AR_A\in AかつRA∉RAR_A\notin R_Aであることと同値である。仮定によりRA∈AR_A\in Aは成り立つので、RA∈RAR_A\in R_AとRA∉RAR_A\notin R_Aが同値になる。RA∈RAR_A\in R_Aが成り立つ場合にはこの同値からRA∉RAR_A\notin R_Aが従い、RA∈RAR_A\in R_Aが成り立たない場合にはRA∉RAR_A\notin R_Aとこの同値からRA∈RAR_A\in R_Aが従う。いずれの場合も矛盾するので、RA∉AR_A\notin Aである。

すべての集合を元にもつ集合VVが存在すると仮定する。RVR_Vは集合であるからRV∈VR_V\in Vである。これはいま示したことに反する。よってそのようなVVは存在しない。▨

注意 2.4. 無制限な内包と分出公理スキーマの違いは、条件の側ではなく、切り出す範囲の側にある。Russell の条件x∉xx\notin xは分出でもそのまま使うことができ、集合AAに適用するとAAの部分集合RAR_Aを与える。矛盾が生じないのは、命題 2.3が示すとおりRAR_AがAAに属さないからであり、RA∈RAR_A\in R_Aか否かをRAR_Aの定め方から問い直す場面が現れないためである。分出は、危険な条件を禁じるのではなく、条件から切り出す先をすでに手にしている集合の中へ限る規則である。

3 対・和・冪

分出は与えられた集合を小さくすることしか許さない。新しく大きな集合を作る規則を三つ置く。

定義 3.1. 次の三つの規則を認める。

  1. 集合xxと集合yyに対して、xxとyyをちょうど元にもつ集合{x,y}\{x,y\}が存在する。この規則を対の公理 (axiom of pairing) という。x=yx=yの場合も除外せず、このとき得られるのはxxだけを元にもつ集合{x}={x,x}\{x\}=\{x,x\}である。
  2. 集合FFに対して、FFのいずれかの元に属する対象をちょうど元にもつ集合⋃F\bigcup Fが存在する。すなわち、任意のzzについて、z∈⋃Fz\in\bigcup Fであることと、あるY∈FY\in Fについてz∈Yz\in Yであることは同値である。この規則を和集合の公理 (axiom of union) という。FFの元は集合であり、⋃F\bigcup FはFFの元をすべて集めた一段の和である。
  3. 集合XXに対して、XXの部分集合をちょうどすべて元にもつ集合P(X)\mathcal P(X)が存在する。すなわち、任意のuuについて、u∈P(X)u\in\mathcal P(X)であることとu⊆Xu\subseteq Xであることは同値である。この規則を冪集合の公理 (axiom of power set) という。

三つとも、仮定はxx、yy、FF、XXが集合であることだけである。空でないこと、有限であること、添字集合が与えられていることなどは要求しない。とくに(3)は、XXの部分集合をいくつか集めた集合ではなく、部分集合をちょうどすべて元にもつ集合を与える。

命題 3.2. 集合AAと集合BBに対して、A∪BA\cup Bは集合である。より一般に、有限個の集合A1,…,AnA_1,\ldots,A_nに対してA1∪⋯∪AnA_1\cup\cdots\cup A_nは集合である。

証明. 対の規則(定義 3.1 (1))により{A,B}\{A,B\}は集合である。和の規則(定義 3.1 (2))をこの集合に適用すると、⋃{A,B}\bigcup\{A,B\}は集合である。z∈⋃{A,B}z\in\bigcup\{A,B\}であることは、z∈Az\in Aまたはz∈Bz\in Bであることと同値であるから、⋃{A,B}=A∪B\bigcup\{A,B\}=A\cup Bである。

一般のnnについてはnnに関する帰納法による。n=1n=1のとき主張はA1A_1自身についてのものである。A1∪⋯∪An−1A_1\cup\cdots\cup A_{n-1}が集合であるとすると、いま示したことをA=A1∪⋯∪An−1A=A_1\cup\cdots\cup A_{n-1}とB=AnB=A_nに適用して、A1∪⋯∪AnA_1\cup\cdots\cup A_nが集合であることを得る。▨

4 無限

対、和、冪の三つの規則は、すでに手にしている集合から新しい集合を作る。どれも、はじめの一つの集合を与えない。次の規則は、ほかの集合を前提とせずに一つの集合を与える。その集合は、元を一つももたない集合を元にもち、後続を取る操作について閉じている。まずこの条件に名前を与える。

定義 4.1. 集合IIが帰納的 (inductive set) であるとは、元を一つももたない集合がIIに属し、かつx∈Ix\in Iならばx∪{x}∈Ix\cup\{x\}\in Iとなることをいう。

x∪{x}x\cup\{x\}は、対の規則(定義 3.1 (1))で{x}\{x\}と{x,{x}}\{x,\{x\}\}を作り、和の規則(定義 3.1 (2))を後者に適用して得られる集合である。したがって定義 4.1の条件は、対と和の規則のもとで意味をもつ。

定義 4.2. 帰納的な集合(定義 4.1)が存在する。この規則を無限公理 (axiom of infinity) という。

無限公理が与える帰納的集合からは、まず元を一つももたない集合が得られる。

命題 4.3. 次が成り立つ。

  1. 元を一つももたない集合が存在する。
  2. 元を一つももたない集合は一つしか無い。

証明.(1)を示す。無限公理(定義 4.2)により帰納的な集合IIが存在する。分出公理スキーマ(定義 2.1)をIIと条件x≠xx\neq xに適用すると{x∈I∣x≠x}\{x\in I\mid x\neq x\}は集合であり、この集合は元を一つももたない。

(2)を示す。AAとBBがいずれも元を一つももたない集合であるとする。任意のxxについてx∈Ax\in Aとx∈Bx\in Bはどちらも成り立たないので同値であり、外延性の公理(定義 1.1)によりA=BA=Bである。▨

注意 4.4. 後続集合S(x)=x∪{x}S(x)=x\cup\{x\}の存在、および帰納的な集合IIの中から最小の帰納的集合を切り出して自然数全体を作ることは「実数体の構成」が扱う。

例 4.5. 帰納的な集合IIに対して、条件「IIの任意の帰納的な部分集合JJに対してx∈Jx\in J」を考える。この条件は、xxの動く範囲をIIに制限する一方で、JJについてはIIの部分集合の全体にわたって量化している。分出公理スキーマ(定義 2.1)をこの条件とIIに適用して得られる集合

{x∈I∣I の任意の帰納的な部分集合 J に対して x∈J}\{x\in I\mid I\text{ の任意の帰納的な部分集合 }J\text{ に対して }x\in J\}

は、「実数体の構成」が自然数全体として用いる集合である。分出公理スキーマは、この形の条件も除外しない。

5 置換

分出は、与えられた集合の元をふるい分ける。次の規則は、与えられた集合の元をそれぞれ別の集合へ置き換えて、置き換えた先を集めることを許す。

定義 5.1. 集合論の言葉で書き下した条件φ(x,y,pˉ)\varphi(x,y,\bar p)を一つ選ぶごとに、次の主張を一つの公理として認める。

集合aaと、φ\varphiに現れる母数pˉ\bar pについて、aaの各元xxに対してφ(x,y,pˉ)\varphi(x,y,\bar p)を満たすyyがちょうど一つ存在するとする。このとき、そのようにして定まるyyをちょうどすべて元にもつ集合

{y∣ある x∈a について φ(x,y,pˉ)}\{y\mid \text{ある }x\in a\text{ について }\varphi(x,y,\bar p)\}

が存在する。

条件φ\varphiごとに一つずつ得られるこの公理の全体を置換公理スキーマ (replacement axiom schema) という。仮定は、aaが集合であることと、aaの各元に対するyyの一意な存在だけである。xxにyyを対応させる写像があらかじめ集合として与えられていることは要求しない。像の元がどのような集合であってもよく、したがってこの規則は集合の族を作ることを許す。

置換の仮定を「集合として与えられた写像ffの像」と読み替えてはならない。対応が集合であること自体がこの規則の与える事柄だからである。

命題 5.2.aaを集合とし、集合論の言葉で書き下した条件が、aaの各元xxに対してちょうど一つの集合BxB_xを定めるとする。このとき{Bx∣x∈a}\{B_x\mid x\in a\}は集合であり、⋃x∈aBx\bigcup_{x\in a}B_xも集合である。

証明. 置換公理スキーマ(定義 5.1)を、xxにBxB_xを対応させる条件とaaに適用すると、像{Bx∣x∈a}\{B_x\mid x\in a\}は集合である。和の規則(定義 3.1 (2))をこの集合に適用すると、

⋃{Bx∣x∈a}=⋃x∈aBx\bigcup\{B_x\mid x\in a\}=\bigcup_{x\in a}B_x

は集合である。▨

「集合族」で導入した添字付きの族について、任意和と任意共通部分が集合であることを確かめる。

命題 5.3.IIを集合とし、(Ai)i∈I(A_i)_{i\in I}をIIを添字集合とする集合族とする。次が成り立つ。

  1. 任意和⋃i∈IAi\bigcup_{i\in I}A_iは集合である。
  2. I≠∅I\neq\emptysetならば、任意共通部分⋂i∈IAi\bigcap_{i\in I}A_iは集合である。

証明.(1)を示す。「集合族」は族(Ai)i∈I(A_i)_{i\in I}を順序対の集合として定め、順序対を(i,y)={{i},{i,y}}(i,y)=\{\{i\},\{i,y\}\}と定めている。ここではこの具体的な形を用いる。族を集合とみてFFと書く。i∈Ii\in Iに対して{i,Ai}∈⋃F\{i,A_i\}\in\bigcup FであるからAi∈⋃⋃FA_i\in\bigcup\bigcup Fである。和の規則(定義 3.1 (2))をFFと⋃F\bigcup Fに順に適用すると⋃⋃F\bigcup\bigcup Fは集合であり、分出公理スキーマ(定義 2.1)をこの集合と条件「あるi∈Ii\in Iについて(i,y)∈F(i,y)\in F」に適用すると、

{Ai∣i∈I}={y∈⋃⋃F ∣ ある i∈I について (i,y)∈F}\{A_i\mid i\in I\}=\Bigl\{y\in\bigcup\bigcup F\ \Big|\ \text{ある }i\in I\text{ について }(i,y)\in F\Bigr\}

は集合である。和の規則をこの集合に適用すると、⋃i∈IAi\bigcup_{i\in I}A_iは集合である。

(2)を示す。I≠∅I\neq\emptysetとし、i0∈Ii_0\in Iを一つ取る。任意共通部分の元はすべてAi0A_{i_0}の元であるから、分出公理スキーマ(定義 2.1)をAi0A_{i_0}と条件「任意のi∈Ii\in Iについてx∈Aix\in A_i」に適用すると、

⋂i∈IAi={x∈Ai0∣任意の i∈I について x∈Ai}\bigcap_{i\in I}A_i=\{x\in A_{i_0}\mid \text{任意の }i\in I\text{ について }x\in A_i\}

は集合である。▨

例 5.4.命題 5.3 (2)の仮定I≠∅I\neq\emptysetを外すことはできない。I=∅I=\emptysetのとき、条件「任意のi∈∅i\in\emptysetについてx∈Aix\in A_i」はどのxxについても成り立つ。したがって、この条件を満たす対象の全体を集合として認めると、すべての集合を元にもつ集合が存在することになり、命題 2.3に反する。「束と完備束」がA⊆P(X)\mathcal A\subseteq\mathcal P(X)についてA=∅\mathcal A=\emptysetのとき⋂∅=X\bigcap\emptyset=Xと解釈するのは、共通部分をXXの中で取るからである。これはあらかじめ与えた集合XXからの分出{x∈X∣任意の i∈∅ について x∈Ai}=X\{x\in X\mid\text{任意の }i\in\emptyset\text{ について }x\in A_i\}=Xに当たる。

命題 5.5. 集合AAと集合BBに対して、直積A×BA\times Bは集合である。より一般に、有限個の集合A1,…,AnA_1,\ldots,A_nに対して、A1×⋯×AnA_1\times\cdots\times A_nを(⋯(A1×A2)×⋯ )×An(\cdots(A_1\times A_2)\times\cdots)\times A_nと読むとき、これは集合である。とくに集合AAと正の整数nnに対してAnA^nは集合である。

証明.x∈Ax\in Aを固定する。yyに順序対(x,y)(x,y)を対応させる条件は、BBの各元yyに対してちょうど一つの集合を定めるので、置換公理スキーマ(定義 5.1)により

{x}×B={(x,y)∣y∈B}\{x\}\times B=\{(x,y)\mid y\in B\}

は集合である。xxに{x}×B\{x\}\times Bを対応させる条件は、AAの各元xxに対してちょうど一つの集合を定めるので、命題 5.2により

⋃x∈A({x}×B)=A×B\bigcup_{x\in A}(\{x\}\times B)=A\times B

は集合である。

有限個の場合はnnに関する帰納法による。n=2n=2の場合はいま示したものである。A1×⋯×An−1A_1\times\cdots\times A_{n-1}が集合であるとすると、それとAnA_nに対していま示したことを適用して、A1×⋯×AnA_1\times\cdots\times A_nが集合であることを得る。AnA^nはA1=⋯=An=AA_1=\cdots=A_n=Aの場合である。▨

注意 5.6. 順序対の具体的な形(x,y)={{x},{x,y}}(x,y)=\{\{x\},\{x,y\}\}を用いると、x∈Ax\in Aかつy∈By\in Bのとき{x}\{x\}と{x,y}\{x,y\}はいずれもA∪BA\cup Bの部分集合であり、(x,y)∈P(P(A∪B))(x,y)\in\mathcal P(\mathcal P(A\cup B))である。この経路を取ると、命題 5.5は、対の規則(定義 3.1 (1))、和の規則(定義 3.1 (2))、冪集合の規則(定義 3.1 (3))および分出公理スキーマ(定義 2.1)から、置換を用いずに従う。四つのうち対と和が働くのは、命題 3.2によってA∪BA\cup Bを得るところである。「数理論理」は、項と論理式の全体が集合であることを示すところで、この経路と置換公理スキーマを併せて用いる。

注意 5.7. 分出公理スキーマ(定義 2.1)が作る集合は、つねに、あらかじめ与えた集合AAの部分集合である。置換公理スキーマ(定義 5.1)が作る像は、定義域aaの部分集合であるとは限らない。二つの規則は条件から集合を取り出すという点で似ているが、作られる集合の置き場所が違う。二つの規則の強さの比較は、規則を一階の形式的な公理系として扱ってはじめて意味をもつので、「公理的集合論」が扱う。

例 5.8. 無限公理(定義 4.2)が与える帰納的な集合の元のうち、元を一つももたないものをeeとする。対の規則(定義 3.1 (1))によりa={e}a=\{e\}は集合である。xxに{x}\{x\}を対応させる条件はaaの各元に対してちょうど一つの集合を定めるので、置換公理スキーマ(定義 5.1)によりその像{{e}}\{\{e\}\}は集合である。eeは元を一つももたず、{e}\{e\}はeeを元にもつので{e}≠e\{e\}\neq eである。aaの元はeeだけであるから{e}∉a\{e\}\notin aであり、像{{e}}\{\{e\}\}はaaの部分集合ではない。したがって、この集合をaaからの分出で作ることはできない。

注意 5.9. 本記事が前提とする「集合族」の構成も、置換公理スキーマを用いずに実行することができる。任意和と任意共通部分は命題 5.3のとおり和の規則(定義 3.1 (2))と分出公理スキーマ(定義 2.1)から得られ、添字集合をもつ直積∏i∈IAi\prod_{i\in I}A_iは、同記事が述べるとおりP(I×⋃i∈IAi)\mathcal P\bigl(I\times\bigcup_{i\in I}A_i\bigr)からの分出として得られる。後者で働くのは冪集合の規則(定義 3.1 (3))と分出公理スキーマ、および直積を与える命題 5.5である。本記事に現れる構成も、いずれも置換を避けて実行することができる。置換公理スキーマが欠かせなくなる構成は、本記事より後にはじめて現れる。

6 選択

最後の規則は、これまでのものと形が違う。対、和、冪、分出および置換は、作られる集合がどの対象を元にもつかを条件から定める。無限公理はこれと異なり、帰納的な集合の存在を主張するだけで、どの帰納的集合が与えられるのかを定めない。最後の規則も、条件を満たす対象が存在することだけを主張する。

定義 6.1.FFを集合とし、FFの元がいずれも空でないとする。このとき、FFを定義域とし⋃F\bigcup Fを終域とする写像ccであって、各Y∈FY\in Fに対してc(Y)∈Yc(Y)\in Yを満たすものが存在する。この規則を選択公理 (axiom of choice) という。

注意 6.2. 分出公理スキーマ(定義 2.1)と置換公理スキーマ(定義 5.1)は、条件を一つ指定すると作られる集合が一つに定まる。{x∈A∣φ(x,pˉ)}\{x\in A\mid\varphi(x,\bar p)\}と置換の像は、どの対象を元にもつかが条件によって決まっているので、外延性の公理(定義 1.1)によって一意である。選択公理(定義 6.1)はこれと形が違い、条件を満たす写像ccが存在することだけを述べ、どのccが作られるのかを一つに定めない。FFの元がいずれもちょうど一つの元をもつ場合のように、ccの値が条件から一意に定まるときには、ccは分出公理スキーマから得られる(問題 8.4)。選択公理を仮定する議論、Zorn の補題および整列可能定理との同値性、ならびに従属選択公理は「選択公理と Zorn の補題」が扱う。

7 基礎

注意 7.1. 以上の八つのほかに、基礎の公理と呼ばれる規則がある。基礎の公理は、空でない任意の集合AAに対して、AAの元aaであってaaとAAが共通の元をもたないものが存在することを主張する。この規則は新しい集合を作ることを許すのではなく、所属関係のたどり方を制限する。本単元は基礎の公理を用いない。基礎の公理と、それが与える累積階層および正則性の扱いは「公理的集合論」が扱う。

以後の記事は、集合の存在原理の選択が結論または証明の可否を左右する箇所で、本記事の規則を根拠として引用する。すでに存在すると確定した集合からの自明な構成には、同じ参照を重ねない。「実数体の構成」は、無限公理から帰納的な集合を取り、対の公理、和集合の公理および分出公理スキーマを用いて、後続集合と最小の帰納的集合を得る。「順序数」は整列集合の順序型の存在を、「超限帰納法と超限再帰」は超限再帰の極限段を、「基数とアレフ」は最小の非可算基数の存在を、いずれも置換公理スキーマによって支える。「Cauchy 列による実数の構成」は、有理数列の全体から Cauchy 列を分出公理スキーマで取り出し、商集合を冪集合の規則と分出公理スキーマで得て、選んだ有理数の列を置換公理スキーマで集合として得る。

8 演習

問題 8.1. 集合AAと集合BBに対して、共通部分A∩BA\cap Bと差集合A∖BA\setminus Bが集合であることを、分出公理スキーマ(定義 2.1)から示せ。

解答.

分出公理スキーマをAAと条件x∈Bx\in Bに適用すると、{x∈A∣x∈B}\{x\in A\mid x\in B\}は集合である。zzがこの集合に属することは、z∈Az\in Aかつz∈Bz\in Bであることと同値であるから、この集合はA∩BA\cap Bである。同じく分出公理スキーマをAAと条件x∉Bx\notin Bに適用すると、{x∈A∣x∉B}\{x\in A\mid x\notin B\}は集合である。zzがこの集合に属することは、z∈Az\in Aかつz∉Bz\notin Bであることと同値であるから、この集合はA∖BA\setminus Bである。▨

問題 8.2. 集合AAに対して、{{x}∣x∈A}\{\{x\}\mid x\in A\}が集合であることを、置換公理スキーマ(定義 5.1)を用いずに示せ。

解答.

x∈Ax\in Aとする。対の規則(定義 3.1 (1))により{x}\{x\}は集合であり、その元はxxだけであるから{x}⊆A\{x\}\subseteq Aである。したがって冪集合の規則(定義 3.1 (3))により{x}∈P(A)\{x\}\in\mathcal P(A)である。よって、求める集合の元はすべてP(A)\mathcal P(A)に属する。分出公理スキーマ(定義 2.1)をP(A)\mathcal P(A)と条件「あるx∈Ax\in Aについてu={x}u=\{x\}」に適用すると、

{u∈P(A)∣ある x∈A について u={x}}\{u\in\mathcal P(A)\mid \text{ある }x\in A\text{ について }u=\{x\}\}

は集合である。uuがこの集合に属することは、uuがAAのある元xxについて{x}\{x\}の形であることと同値であるから、この集合は{{x}∣x∈A}\{\{x\}\mid x\in A\}である。▨

問題 8.3. 無限公理(定義 4.2)が与える帰納的な集合IIに対して、IIの帰納的な部分集合の全体が集合であることを示せ。

解答.

冪集合の規則(定義 3.1 (3))によりP(I)\mathcal P(I)は集合である。IIの帰納的な部分集合はいずれもIIの部分集合であるからP(I)\mathcal P(I)に属する。分出公理スキーマ(定義 2.1)をP(I)\mathcal P(I)と条件「元を一つももたない集合がJJに属し、かつx∈Jx\in Jならばx∪{x}∈Jx\cup\{x\}\in Jである」に適用すると、

{J∈P(I)∣J は帰納的である}\{J\in\mathcal P(I)\mid J\text{ は帰納的である}\}

は集合である。JJがこの集合に属することは、J⊆IJ\subseteq IかつJJが帰納的であることと同値であるから、この集合はIIの帰納的な部分集合の全体である。II自身が帰納的でI⊆II\subseteq Iであるから、この集合は空でない。▨

問題 8.4.FFを集合とし、FFの元がいずれもちょうど一つの元をもつとする。各Y∈FY\in Fに対してc(Y)∈Yc(Y)\in Yを満たす写像ccを、対、和、置換および分出の規則から構成せよ。

解答.

Y∈FY\in Fとすると、仮定によりYYの元はちょうど一つである。命題 5.5によりF×⋃FF\times\bigcup Fは集合であり、分出公理スキーマ(定義 2.1)をこの集合と条件「あるY∈FY\in Fとあるw∈Yw\in Yについてz=(Y,w)z=(Y,w)である」に適用すると、

G={z∈F×⋃F∣ある Y∈F とある w∈Y について z=(Y,w)}G=\{z\in F\times\bigcup F\mid \text{ある }Y\in F\text{ とある }w\in Y\text{ について }z=(Y,w)\}

は集合である。w∈Yw\in Yならばw∈⋃Fw\in\bigcup Fであるから、Y∈FY\in Fとw∈Yw\in Yを満たす順序対(Y,w)(Y,w)はすべてGGに属する。各Y∈FY\in FについてYYの元はちょうど一つであるから、(Y,w)∈G(Y,w)\in Gを満たすwwもちょうど一つである。よってGGは、FFを定義域とし⋃F\bigcup Fを終域とする写像ccのグラフである。c(Y)c(Y)はYYの唯一の元であるからc(Y)∈Yc(Y)\in Yが成り立つ。▨

参考文献

  1. Thomas Jech, Set Theory, 3rd millennium ed., Springer Monographs in Mathematics, Springer, Berlin, 2003.外延性、対、和、冪、分出、無限、置換および選択の各公理と、それぞれが作ることを許す集合を参考にした。
  2. Herbert B. Enderton, Elements of Set Theory, Academic Press, 1977.分出を条件ごとの公理として導入する扱いと、Russell のパラドックスが退ける規則を参考にした。
  3. Paul R. Halmos, Naive Set Theory, Undergraduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1974, originally published 1960.外延性、分出、対、和および冪の公理と、そこから得られる集合の基本的な演算を参考にした。

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