概要
本単元の目的は、読者が行列についての計算を正確に実行し、その計算が何を求めているのかをベクトル空間と線形写像の言葉で述べることができる状態です。そのため本単元は、行列の演算と連立一次方程式の解法から始め、逆行列と行列式を扱ったのち、ベクトル空間の公理、部分空間、基底、次元を定義します。続いて線形写像と表現行列を定め、像と核、階数、次元定理へ進み、固有値と対角化、内積と直交化、実対称行列の直交行列による対角化に至ります。
本単元が繰り返し行うのは、行列に対する操作を、ベクトル空間と線形写像の言葉で述べ直す作業です。掃き出し法が数えている自由に選ぶことのできる変数の個数は解空間の次元であり、連立一次方程式の解の全体は一つの解と核の要素との和として書き表され、対角化は表現行列が対角行列になる基底を求める作業です。読者は、この述べ直しによって、計算の結果がどの対象についての主張であるかを定めることができます。
後続する多くの単元は、本単元で定める行列、ベクトル空間、線形写像、固有値、内積を、代数、解析、幾何、確率統計、最適化のいずれにおいても共通の道具として用います。
この単元のねらい
本単元は、読者が次に掲げる能力を習得することを目標とします。
- 行列の和、実数倍、積、転置を計算し、積が定まるために行数と列数が満たすべき条件を述べることができます。
- 拡大係数行列を行基本変形によって行階段形へ変形し、解が存在するかどうか、およびただ一つに定まるかどうかを、主成分の位置から判定することができます。
- 逆行列を掃き出し法によって求め、正則であることと同値な条件を述べることができます。
- 行列式を定義に従って計算し、各行についての線形性と、行を入れ替えたときの符号の変化、および正則であることとの対応を述べることができます。
- 2 次と 3 次の行列式について、絶対値と面積または体積との対応、および符号と向きとの対応を説明することができます。
- 与えられた集合と演算がベクトル空間の公理を満たすかどうか、および与えられた部分集合が部分空間であるかどうかを判定することができます。
- 一次独立、基底、次元を定義に従って扱い、基底に含まれるベクトルの個数が基底の選び方によらないことを証明することができます。
- 線形写像について、基底を定めたときの表現行列を求め、基底を取り替えたときの変わり方を計算することができます。
- 階数と次元定理を用いて、像の次元と核の次元から解空間の次元を求めることができます。
- 固有値と固有ベクトルを求め、対角化することができるかどうかを判定し、対角化を実行することができます。
- 内積の公理からノルムと直交性を定め、グラム・シュミットの方法で正規直交基底を構成し、直交射影から最小二乗解を求めることができます。
- 実対称行列が直交行列によって対角化されることを証明し、二次曲線と二次曲面の主軸変換へ適用することができます。
前提知識
本単元は、「数と式の計算」で扱う文字式の変形、連立方程式の解法、複素数の四則と解と係数の関係を用います。行基本変形も固有多項式の計算も、いずれもこれらの計算に帰着しますので、式の変形に不安がある読者は、同単元の対応する記事を先に読みます。
また本単元は、「集合と論理」で扱う集合の記法、二つの条件が同値であることの示し方、背理法を用います。部分空間であるかどうかの判定と、一次独立であることの証明は、いずれもこれらの手順によって進みます。
次の三つの単元は、本単元を読み始めるために必ずしも必要ではありませんが、先に読んでいると本単元の議論が早く進みます。「数列と極限」で扱う和の記号に慣れていると、行列の積と行列式の定義を式のまま追うことができます。「図形と方程式」で扱う平面と空間のベクトル、内積、行列による一次変換は、本単元が一般の次元のベクトル空間と線形写像として述べ直します。「関数の性質」で扱う逆関数の1対1の対応は、本単元が、線形写像が単射であることおよび全射であることとして述べ直します。
本単元は、写像、単射、全射、全単射を「線形写像と表現行列」で定義します。これらの語を一般の集合について扱う「数学の基礎」は、本単元より後の段階にあります。したがって読者は、集合と写像についての予備知識を用意しなくても、本単元を読み進めることができます。
この単元を貫く4つの方針
本単元の各記事は、次の4点を共通の方針とします。
- 行列についての計算を、ベクトル空間と線形写像の言葉で述べ直します。同じ対象を、数を長方形に並べたものとしての行列と、ベクトルをベクトルへ送る写像としての線形写像の双方で扱います。計算して得た結果が線形写像について何を述べているのか、線形写像の性質が行列のどの量に現れるのかを、そのつど対応させます。
- 基底の選び方に依存する量と、依存しない量を区別します。表現行列は基底の選び方によって変わりますが、階数、行列式、固有値、次元は変わりません。本単元は、ある量を求めたときに、その量が基底の選び方に依存するかどうかを確かめます。
- 自由度を次元で数えます。連立一次方程式の解の自由度、部分空間の大きさ、線形写像が零ベクトルへ送るベクトルの全体の大きさは、いずれも次元として数えます。次元定理は、定義域の次元が像の次元と核の次元の和に分かれることを述べたものです。
- 係数として用いる数の範囲を明示します。本単元の必修は、実数を係数としてベクトル空間と内積を定義します。ただし固有値を扱う段階では、複素数の範囲を用います。実数を成分とする行列でも固有多項式が実数の範囲に根をもたない例があり、実対称行列の固有値がすべて実数であることの証明も複素数の範囲を経由するからです。本単元は、どちらの範囲で議論しているのかを、そのつど示します。
学習の順序と各記事の内容
本単元の22記事のうち、「必修」の15記事は本単元で必ず読む内容であり、下に示す順に読みます。残る「展望」の7記事は必修ではなく、読者は関心に応じて選んで読むことができます。
必修の順序は、後の記事が用いる定義を、その定義を用いる記事より前に扱うことで定まります。行列の演算から数ベクトルと幾何的な意味までは、成分についての計算だけで進みます。続くベクトル空間の公理から次元定理までは、同じ操作を公理から述べ直し、次元という数え方を用意します。最後の固有値から実対称行列の対角化までは、表現行列が対角行列になる基底を求める作業と、その基底を正規直交にする作業を扱います。
階数を像の次元として定義するためには、次元が先に定まっていなければなりません。そこで本単元は、ベクトル空間、部分空間、基底と次元を線形写像より前に扱い、行列の計算、ベクトル空間、線形写像、階数と次元定理、固有値、内積という順に進みます。同じ理由で、直交行列と実対称行列の対角化は、内積の公理を述べた後に扱います。直交行列を、列が正規直交基底をなす正方行列として定義するからです。
行列式をベクトル空間の公理より前に扱うのは、次の二つの理由によります。第一に、「数ベクトルと幾何的な意味」で扱う面積と体積、および固有多項式の定義は、いずれも行列式を必要とします。第二に、行列式を各行についての線形性と交代性によって特徴づける議論そのものは、次元の理論を必要としません。
必修
読者が、行列についての標準的な計算を実行し、同じ操作をベクトル空間と線形写像の言葉で述べ直し、定義から証明を組み立てることができるようになる段階です。各記事が扱う内容は、次のとおりです。
- 行列の演算 — 行列の和、実数倍、積、転置を定義し、積が定まるために行数と列数が満たすべき条件を確かめます。積が交換法則を満たさない例と、積が零行列でありながらどちらの因子も零行列でない例を挙げ、結合法則と分配法則を成分の計算で証明します。本単元の残りの記事は、すべてこの記事の演算を用います。
- 連立一次方程式と行基本変形 — 拡大係数行列に対する行基本変形を定義し、変形が解の集合を変えないことを示します。行階段形へ変形し、主成分の位置から、解が存在しない場合、ただ一つに定まる場合、自由に選ぶことのできる変数が残る場合を判定します。ここで数える主成分の個数を、「像と核、階数」が階数として定義し直します。
- 逆行列 — 逆行列を定義し、存在すればただ一つに定まることを示します。構成には前の記事の行基本変形をそのまま用います。正則であるという条件と、行基本変形によって単位行列へ変形することができるという条件が同値であることを示します。積の逆行列が各因子の逆行列を逆の順序で掛けたものになることも確かめます。
- 行列式 — 置換とその符号を定義し、行列式を、各行についての線形性と、二つの行を入れ替えると符号が変わることによって特徴づけて、置換にわたる和としての表示を導きます。値は余因子展開と行基本変形によって求めます。積の行列式が各因子の行列式の積になることを証明し、あわせて、行列式がでないという条件と正則であるという条件が同値であることを示します。
- 数ベクトルと幾何的な意味 — 数ベクトルを平面および空間の有向線分として解釈し、和を平行四辺形の対角線に、実数倍を長さの変更と向きの反転に対応させます。前の記事で定めた行列式について、2 次と 3 次の場合に、絶対値が列ベクトルの張る平行四辺形の面積または平行六面体の体積に等しいことを確かめます。あわせて、行列式の符号が、その行列の定める一次変換が向きを保つかどうかを表すことを示します。
- ベクトル空間の公理と例 — ベクトル空間の公理を列挙し、実数を成分とする数ベクトルの全体、実数を係数とする多項式の全体、行数と列数を固定した行列の全体、区間上の連続関数の全体が公理を満たすことを確かめます。零ベクトルと各ベクトルの逆ベクトルがただ一つに定まることを、公理だけから導きます。この記事から先の議論は、成分の計算ではなく公理を根拠として進みます。
- 部分空間と生成される部分空間 — 部分空間を、和と実数倍について閉じている空でない部分集合として定義し、与えられた部分集合が部分空間であるかどうかを判定します。有限個のベクトルが生成する部分空間を定め、二つの部分空間の共通部分と和が部分空間になる一方で、和集合は一般に部分空間にならないことを示し、和が直和になる条件を確かめます。次の記事は、この記事で定めた生成するという語を用いて基底を定義します。
- 一次独立・基底・次元 — 一次結合、一次独立、生成系、基底を定義し、有限個のベクトルで生成される空間に基底が存在することを示します。基底に含まれるベクトルの個数が基底の選び方によらないことを証明して、この個数を次元と定めます。あわせて、基底を定めると各ベクトルが成分の組でただ一通りに表されることを示します。階数、次元定理、対角化の議論は、いずれもここで定めた次元を用います。
- 線形写像と表現行列 — 写像、単射、全射、全単射をこの記事で定義し、そのうち和と実数倍を保つものを線形写像とします。次元が有限である定義域と終域に基底を定めると表現行列がただ一つに定まることを示し、写像の合成が行列の積に対応すること、および基底を取り替えたときに表現行列がどう変わるかを確かめます。この記事は、「行列の演算」で成分の計算として定めた積を、写像の合成として述べ直します。
- 像と核、階数 — 線形写像の像と核が部分空間であることを示し、階数を像の次元として定めます。この定義は、「一次独立・基底・次元」で次元が定まっていることを用います。行列については行の階数と列の階数が一致することを証明します。解をもつ連立一次方程式については、解の全体を、一つの解と核の要素との和として書き表します。
- 次元定理 — 次元が有限である空間からの線形写像について、定義域の次元が像の次元と核の次元の和に等しいことを証明します。この等式から、解空間の次元が変数の個数から係数行列の階数を引いた値になることを導きます。あわせて、定義域と終域の次元が等しい場合には、単射であるという条件と全射であるという条件が同値になることを示します。「連立一次方程式と行基本変形」で主成分の位置から読み取った自由に選ぶことのできる変数の個数は、この等式によって解空間の次元として定まります。
- 固有値と固有ベクトル — 固有値と固有ベクトルを定義し、固有多項式の根として固有値を求めます。固有多項式は行列式によって定まりますので、この記事は「行列式」を用います。実数を成分とする行列でも固有多項式が実数の範囲に根をもたない例があること、および係数を複素数まで広げれば根がつねに存在することを確かめます。続いて、異なる固有値に属する固有ベクトルが一次独立であることを証明します。
- 対角化 — 固有ベクトルからなる基底が存在するときに限り対角化することができることを示し、次の行列が相異なる個の固有値をもつ場合を十分条件として導きます。対角化することができない理由が、固有多項式が根をもたない場合と、固有空間の次元が根の重複度に満たない場合とに分かれることを区別します。基底を取り替えたときの表現行列の変わり方は、「線形写像と表現行列」で確かめたものを用います。
- 内積とグラム・シュミットの直交化 — 実ベクトル空間の内積を公理によって定義し、内積からノルムを定め、直交することを内積がになることとして定めます。グラム・シュミットの方法で正規直交基底を構成し、部分空間への直交射影から最小二乗解を求めます。ここまでの記事は長さと角を用いずに進みます。長さと角は、この記事の内積によって初めて定まります。
- 直交行列と実対称行列の対角化 — 直交行列を、列が正規直交基底をなす正方行列として定義します。この定義が前の記事の正規直交基底を用いますので、この記事は内積の後になります。直交行列を表現行列とする線形写像が内積を保つこと、およびその逆を示し、実対称行列の固有値が実数であることを、複素数の範囲を経由して証明します。実対称行列が直交行列によって対角化されることを導き、二次曲線と二次曲面の主軸変換へ適用します。
展望
展望の7記事は、読者が関心に応じて選んで読む内容です。必修の15記事は、証明のどこにも展望の内容を用いません。
はじめの4記事は、必修で定めた行列式、内積と直交化、固有値を、それぞれ別の対象へ適用します。続く「係数の範囲を取り替える」は、必修が実数を係数として述べた議論のうち、どこまでが係数の範囲を変えても成り立つかを確かめます。「線形符号と誤り訂正」がその後にあるのは、符号語を、有限個の元からなる体を係数とするベクトルとして定めるためです。最後の「次元が有限でない空間の内積と正射影」は、有限個のベクトルで生成されるという制限を外したときに、正射影が最良近似を与えるという必修の結論がどこで壊れるかを確かめます。
展望の話題のうちいくつかは、後の単元が改めて扱います。「組合せ論・グラフ理論」は、行列木定理の背景にあるグラフの固有値による解析を扱います。「数値解析 I」は、 QR 分解を計算の誤差の評価とともに扱います。「確率過程」は、ペロン・フロベニウスの定理を確率の言葉で扱います。読者は、本単元でこれらの話題を先に読み、後の単元で同じ定理をそれぞれの分野の道具とともに読み直すことができます。各記事が扱う内容は、次のとおりです。
- 行列木定理と全域木の個数 — 各頂点の次数を対角に並べた行列から隣接行列を引いてラプラシアン行列を作り、その余因子がどれも等しく、値が全域木の個数に一致することを証明します。すべての頂点が互いに結ばれたグラフへ適用し、頂点が個のときの全域木の個数がになることを確かめます。証明には、必修の行列式と階数を用います。
- QR 分解と最小二乗解 — グラム・シュミットの直交化を行列の等式として書き直し、列が一次独立な行列を、列が正規直交である行列と上三角行列の積へ分解します。この分解を用いて、正規方程式を解かずに最小二乗解を求める手順を示します。
- 特異値分解と低ランク近似 — 任意の実行列を、二つの直交行列と、対角成分が非負である行列の積へ分解することができることを、必修で示した実対称行列の直交行列による対角化から導きます。対角成分の大きいものだけを残すと、階数を制限した行列のなかで成分の差の二乗和を最小にする近似が得られることを示し、最小二乗解との関係を確かめます。
- ペロン・フロベニウスの定理と定常分布 — 成分がすべて正である正方行列について、絶対値が最大の固有値が正の実数としてただ一つ定まり、対応する固有ベクトルの成分をすべて正に取ることができることを証明します。各列の成分の和がである行列へ適用し、そのべき乗が定常分布へ収束することを示します。
- 係数の範囲を取り替える — 必修で実数を係数として述べた議論のうち、有限個の元からなる体を係数としても成り立つ範囲を確かめます。掃き出し法、次元定理、行列式の性質が係数の範囲を問わず成り立つ一方で、内積と直交化は実数の順序に依存することを示します。
- 線形符号と誤り訂正 — 二つの元からなる体を係数として、符号語の全体を部分空間として定め、生成行列と検査行列がこの部分空間を二通りに表すことを示します。二つの符号語で値が異なる成分の個数の最小値から、訂正することのできる誤りの個数が定まることを証明し、ハミング符号を構成します。
- 次元が有限でない空間の内積と正射影 — 実数を係数とする多項式の全体のように、有限個のベクトルでは生成されない空間に内積を入れます。直交化の手続きは各段で働く一方で、直交補空間が零ベクトルだけになる部分空間があること、およびその部分空間への最良近似が存在しないことを証明し、正射影が最良近似を与えるという必修の結論が次元の有限性に依存していたことを確かめます。収束と完備性を伴う理論は「関数解析入門」が扱います。
学習到達点の確認方法
本単元は、読者が計算を正確に実行することができるかどうかと、その計算が何を求めているのかを述べることができるかどうかの双方を確かめます。確かめる内容は、次の三点です。
- 読者が標準的な計算を最後まで実行し、結果を検算することができるかを確かめます。行基本変形、行列式の計算、逆行列の構成、固有値と固有ベクトルの決定、グラム・シュミットの直交化がこれにあたります。検算は、逆行列については積が単位行列になるかどうかを、固有ベクトルについては代入して固有値倍になるかどうかを、直交化した組については内積がになるかどうかを見る形で行います。
- 読者が計算の結果をベクトル空間と線形写像の言葉で述べることができるかを確かめます。階数が何を数えているのか、対角化が何を求めているのかを、行列の形に依らずに述べることができるかどうかを見ます。
- 読者が定義に基づいて証明を組み立てることができるかを確かめます。部分空間である、一次独立である、基底である、二つの次元が等しいといった主張について、定義を書き下したうえで議論を進めることができるかを見ます。
本単元は、演習に、答えがただ一つに定まる計算問題と、証明を書く問題の双方を用います。計算問題については、手順の正確さに加えて、読者が検算まで行っているかどうかを確かめます。証明を書く問題については、読者が用いた定義、扱っている量が基底の選び方に依存するかどうかの判断、および「すべての」と「ある」の区別を明示しているかどうかを確かめます。本単元が到達点として確かめるのは、必修の15記事の内容です。
前後の単元との関係
- 数と式の計算 — 同単元は、文字式の変形、連立方程式の解法、複素数の四則と解と係数の関係を扱います。本単元は、これらの計算を行基本変形と固有多項式の計算に用います。
- 集合と論理 — 同単元は、集合の記法と証明の進め方を扱います。本単元は、これらの手順を、部分空間であるかどうかの判定と、一次独立であることの証明に用います。
- 図形と方程式 — 同単元は、平面と空間のベクトル、内積、行列による一次変換を扱います。本単元は、これらの対象を一般の次元のベクトル空間と線形写像として述べ直します。
- 関数の性質 — 同単元は、関数と逆関数の1対1の対応を扱います。本単元は、この対応を線形写像が単射であることおよび全射であることとして述べ直します。
- 線形代数 II — 同単元は本単元の直後にあり、対角化することができるとは限らない行列の構造をジョルダン標準形として述べます。あわせて、双対空間、商空間、一般の双線形形式と二次形式、テンソル積を扱います。実数を係数とするベクトル空間の内積と直交化は本単元が扱い、複素数を係数とする内積と、随伴をとる操作は同単元が扱います。同単元の随伴作用素と正規作用素の理論は、本単元の内積と正規直交基底を前提とします。
- 数学の基礎 — 同単元は、写像、単射、全射、全単射を一般の集合について扱い直します。
- 位相空間論 I — 同単元は、本単元の内積が定めるノルムを距離として、収束と連続性を扱います。
- 常微分方程式 — 同単元は、線形微分方程式系の解を、係数行列の固有値と固有ベクトル、および行列指数関数によって記述します。
- 数値解析 I — 同単元は、本単元の行列の計算と固有値の決定を、有限の桁数で行う場合の誤差とともに扱います。本単元の展望にある QR 分解は、同単元が計算の誤差の評価とともに改めて扱います。
- 組合せ論・グラフ理論 — 同単元は、グラフの固有値による解析を扱います。本単元の展望にある行列木定理は、同単元が扱う内容の一部を先に述べたものです。
- 確率過程 — 同単元は、マルコフ連鎖と遷移行列、定常分布と長時間の挙動を扱います。本単元の展望にあるペロン・フロベニウスの定理を、同単元は確率の言葉で改めて述べます。
- 数理統計 I および AI の数学 — 両単元は、分散共分散行列、最小二乗法、勾配に基づく最適化を、行列とベクトルの計算として扱います。
- 関数解析入門 — 同単元は、本単元の内積とノルムを、次元が有限でない空間へ広げ、完備性を仮定したヒルベルト空間の理論として扱います。
- 体論入門 — 同単元は、有限個の元からなる体の構造を扱います。本単元の展望は、この体を係数としてベクトル空間と符号を扱いますが、体そのものの構成は同単元が扱います。
大学課程における位置づけと参考文献
本単元は、日本の大学の理工系の学部において「線形代数学」「線形代数 I」などの名称で1年次に開講される科目に対応します。英語圏では Linear Algebra と呼ばれ、行列の計算から始める入門的な科目と、ベクトル空間の公理から始める理論的な科目とに分かれることがあります。本単元は、行列の計算から始めて公理による議論へ進む構成を取り、両者を一つの単元として扱います。
本単元の内容は、単元の参考文献に挙げた文献のほか、次の文献が扱う範囲ともおおむね重なります。読者は、この文献によっても、本単元の証明を補い、より広い範囲へ進むことができます。
- 佐武一郎『線型代数学』(裳華房)— 理論的な扱いが厚く、「線形代数 II」で扱う内容まで含みます。