1 部分空間の判定
定義 1.1 (部分空間). ベクトル空間Vの部分集合Wが、Vの和とスカラー倍をそのまま用いてそれ自身ベクトル空間になるとき、WをVの部分空間という。
定理 1.2 (部分空間判定法).Vを体K上のベクトル空間、W⊆Vとする。Wが部分空間であるための必要十分条件は、次の3条件が成り立つことである。
- 0∈W
- x,y∈W⇒x+y∈W(和で閉じる)
- x∈W, c∈K⇒cx∈W(スカラー倍で閉じる)
証明. (⇒)Wが部分空間なら、和とスカラー倍がWの中で定義される(値がWに入る)から 2, 3 は成り立つ。Wは空でないのでx∈Wを取り、3 でc=0とすると0x=0∈Wであるから 1 も成り立つ。
(⇐) 条件 1–3 を仮定する。まず 2, 3 より和とスカラー倍はW上の演算になる(Wからはみ出さない)。結合法則 (V1)・交換法則 (V2) など、すべてのベクトルについて成り立つ恒等式は、Vで成り立つのだから部分集合W上でも成り立つ。零ベクトルは 1 よりWに属し、x∈Wの逆元は 3 でc=−1とすれば(−1)x=−x∈W(前項§D3.6 命題 2.2)。よって公理 (V1)–(V8) がすべてWで満たされ、Wは部分空間である。▨
例 1.4 (原点を通る平面が部分空間であることを判定する).W={(x,y,z)∈R3:x+y+z=0}はR3の部分空間である。定理 1.2の3条件を順に確かめる。(0,0,0)は0+0+0=0を満たすので0∈W。x=(x1,x2,x3)とy=(y1,y2,y3)がWに属せば、x+yの成分の和は(x1+x2+x3)+(y1+y2+y3)=0。スカラー倍cxの成分の和もc(x1+x2+x3)=0である。したがって、定義方程式は和とスカラー倍によって保たれる。一方、x+y+z=1で定まる平面は0を含まないので部分空間ではない。
2 生成系と張る空間
定義 2.1 (張る空間・生成系). ベクトルv1,…,vk∈Vの一次結合c1v1+⋯+ckvk(ci∈K)の全体を、それらが張る(生成する)空間といいspan{v1,…,vk}と書く。span{vi}=Wとなるとき、{vi}をWの生成系という。
命題 2.2.span{v1,…,vk}はVの部分空間であり、v1,…,vkを含む最小の部分空間である。
証明.S=span{vi}とおく。0=0v1+⋯+0vk∈Sである。一次結合どうしの和とスカラー倍は再び一次結合だから、Sは和とスカラー倍で閉じ、定理 1.2より部分空間である。最小性を示す。v1,…,vkを含む任意の部分空間Uは、部分空間であるため一次結合で閉じる(定理 1.2の第2, 3条件を繰り返し適用する)。したがって、Uはすべてのc1v1+⋯+ckvkを含み、S⊆Uが成り立つ。▨
3 部分空間の共通部分と和
命題 3.1.U,WをVの部分空間とすると、共通部分U∩Wと和U+W={u+w:u∈U, w∈W}はともにVの部分空間である。U+WはU∪Wを含む最小の部分空間になる。一方U∪Wは一般には部分空間ではない。
証明.U∩Wについては、0は両方に属し、x,y∈U∩Wの和とスカラー倍も両方の部分空間性からU∩Wに属する。U+Wについては、0=0+0であり、(u1+w1)+(u2+w2)=(u1+u2)+(w1+w2)∈U+W、スカラー倍も同様。U∪W⊆U+W(u=u+0)で、U∪Wを含む任意の部分空間は和u+wを含むからU+Wが最小である。U∪Wが部分空間でない例は例 3.4で与える。▨
定義 3.2 (直和).U,WをVの部分空間とする。U+Wの各ベクトルxが
x=u+w(u∈U, w∈W)とただ一通りに表されるとき、U+WをUとWの 直和 (direct sum) といい、U⊕Wと書く。
命題 3.3.U,WをVの部分空間とする。このとき、次の二条件は同値である。
- U+WはUとWの直和である。
- U∩W={0}である。
証明.(1)を仮定し、x∈U∩Wを取る。このときx=x+0=0+xはU+Wにおける二つの表示である。表示の一意性によりx=0であるから、U∩W={0}である。
逆に(2)を仮定する。U+Wのベクトルに二つの表示u+w=u′+w′があると、
u−u′=w′−w∈U∩W={0}となる。したがってu=u′かつw=w′であり、表示は一意である。▨
例 3.4 (和集合と直和の比較).R2でU={(t,0)}(x軸)、W={(0,t)}(y軸)はともに部分空間だが、U∪W(2本の軸の合併)は部分空間ではない。(1,0)∈Uと(0,1)∈Wの和(1,1)がどちらの軸にも属さず、和について閉じないからである。
一方、U+W=R2かつU∩W={0}であるから、命題 3.3によりR2=U⊕Wである。実際、任意の(a,b)∈R2は
(a,b)=(a,0)+(0,b)と表され、この表示は一意である。この例では、和集合U∪Wと部分空間の和U+Wは異なる。