§D3.13対角化

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行列AAの対角化とは、適当な正則行列PPを使ってP−1AP=DP^{-1}AP = D(DDは対角行列)の形にすることです。 対角化とは、うまい基底(座標系)に取り替えて、複雑な変換を各軸の伸縮に分解することにほかなりません。

1 対角化可能の条件

定義 1.1 (対角化可能).nn次行列AAが対角化可能とは、正則行列PPと対角行列DDでP−1AP=DP^{-1}AP = Dとなること。

定理 1.2.AAが対角化可能  ⟺  \iffAAの一次独立な固有ベクトルがnn個とれる。このときPPの列に固有ベクトル、DDの対角に対応する固有値を並べればよい。

証明.P=[v⃗1 ⋯ v⃗n]P = [\vec v_1\ \cdots\ \vec v_n]、D=diag⁡(λ1,…,λn)D = \operatorname{diag}(\lambda_1, \dots, \lambda_n)とおくと、AP=[Av⃗1 ⋯ Av⃗n]AP = [A\vec v_1\ \cdots\ A\vec v_n]、PD=[λ1v⃗1 ⋯ λnv⃗n]PD = [\lambda_1\vec v_1\ \cdots\ \lambda_n\vec v_n]。ゆえAP=PD  ⟺  Av⃗i=λiv⃗iAP = PD \iff A\vec v_i = \lambda_i\vec v_i(各v⃗i\vec v_iが固有ベクトル)。PPが正則  ⟺  \iffv⃗i\vec v_iが一次独立(基底)。両者を合わせて主張を得る。▨

十分条件として使いやすいのは、固有値が重ならない場合です。

系 1.3 (相異なる固有値が次数だけあるとき).nn次行列AAが相異なるnn個の固有値をもてば、AAは対角化可能である。

証明. 各固有値に属する固有ベクトルを1本ずつ取ると、前項の§D3.12 定理 2.1により、このnn本は一次独立である。よって定理 1.2の右辺が満たされ、AAは対角化可能である。▨

命題 1.4.K∈{R,C}K\in\{\R,\C\}、A∈Mn(K)A\in M_n(K)とし、KKに属するAAの固有値全体をΛ\Lambda、固有値λ\lambdaの固有空間をEλE_\lambdaとします。このとき、AAがKK上で対角化可能であるための必要十分条件は

∑λ∈Λdim⁡Eλ=n\sum_{\lambda\in\Lambda}\dim E_\lambda=n

です。したがって、次が成り立ちます。

  1. 固有多項式がKK上で一次式の積に分解しないならば、AAはKK上で対角化可能ではありません。
  2. 固有多項式がKK上で一次式の積に分解する場合、AAがKK上で対角化可能でないための必要十分条件は∑λ∈Λdim⁡Eλ<n\sum_{\lambda\in\Lambda}\dim E_\lambda<nです。

証明.§D3.12 命題 1.5と§D3.8 命題 3.5により、各EλE_\lambdaの基底BλB_\lambdaを取ることができます。異なるλ\lambdaに対するBλB_\lambdaをすべて合わせた組は一次独立です。実際、その組の一次関係を固有値ごとにまとめ、EλE_\lambdaに属する和をu⃗λ\vec u_\lambdaとおきます。00でないu⃗λ\vec u_\lambdaがあれば、それらは相異なる固有値に属する固有ベクトルであるから、§D3.12 定理 2.1により一次独立です。したがって∑λu⃗λ=0⃗\sum_\lambda\vec u_\lambda=\vec 0から各u⃗λ=0⃗\vec u_\lambda=\vec 0となり、各BλB_\lambdaの一次独立性からもとの係数はすべて00です。よって§D3.8 補題 3.1により

∑λ∈Λdim⁡Eλ≤n\sum_{\lambda\in\Lambda}\dim E_\lambda\leq n

です。

等号が成り立つなら、すべてのBλB_\lambdaを合わせた組はnn本の一次独立な固有ベクトルからなるので、定理 1.2によりAAは対角化可能です。逆にAAが対角化可能なら、同じ定理によりnn本の固有ベクトルからなる基底が存在します。この基底を固有値ごとに分けると、EλE_\lambdaに属する部分はEλE_\lambda内で一次独立です。その本数はdim⁡Eλ\dim E_\lambda以下であるから、全固有値について足すとn≤∑λ∈Λdim⁡Eλn\leq\sum_{\lambda\in\Lambda}\dim E_\lambdaとなります。上の逆向きの不等式と合わせて等号を得ます。

(1)を示します。AAが対角化可能なら、ある正則行列PPと固有値を対角成分にもつ対角行列D=diag⁡(λ1,…,λn)D=\operatorname{diag}(\lambda_1,\dots,\lambda_n)によってA=PDP−1A=PDP^{-1}と書くことができます。したがって、ttを不定元とすると、行列式の積公式により

det⁡(A−tI)=det⁡(P(D−tI)P−1)=det⁡(D−tI)=∏i=1n(λi−t)\det(A-tI)=\det\bigl(P(D-tI)P^{-1}\bigr)=\det(D-tI)=\prod_{i=1}^n(\lambda_i-t)

となり、固有多項式はKK上で一次式の積に分解します。対偶を取ると(1)を得ます。固有多項式が一次式の積に分解する場合には、すでに示した必要十分条件と和がnn以下であることから(2)が従います。▨

例 1.5. 係数体をR\Rとします。§D3.12 定理 1.2の後で扱った90∘90^\circ回転行列は、固有多項式がλ2+1\lambda^2+1であり、R\R上で一次式の積に分解しないため、命題 1.4 (1)により実数の範囲では対角化可能ではありません。

一方、§D3.12 例 1.6の行列は、固有多項式が(2−λ)2(2-\lambda)^2と一次式の積に分解しますが、固有空間はE2E_2だけでdim⁡E2=1<2\dim E_2=1<2です。したがって命題 1.4 (2)により対角化可能ではありません。後者の不足を広義固有空間によって補う理論は、後の単元で扱います。

2 応用:行列の累乗

例 2.1.A=PDP−1A = PDP^{-1}ならAn=PDnP−1A^n = PD^nP^{-1}で、DnD^nは対角成分をnn乗するだけ。たとえばA=(2103)A = \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 0 & 3 \end{pmatrix}は固有値2,32, 3(相異なる)ゆえ対角化可能で、AnA^nが2n,3n2^n, 3^nを使って一発で書けます。線形漸化式(フィボナッチ数列の一般項など)や線形微分方程式系(常微分方程式)の解法が、このAn=PDnP−1A^n = PD^nP^{-1}で一気に楽になります。

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