1 準備:基底の延長
証明の要は「一次独立な組は基底まで延ばせる」ことです。
補題 1.1.u1,…,urが一次独立で、w∈/span{u1,…,ur}ならば、u1,…,ur,wも一次独立である。
証明.a1u1+⋯+arur+bw=0とする。もしb=0ならw=−b−1(a1u1+⋯+arur)∈span{ui}となり仮定に反する。ゆえにb=0、すると∑aiui=0で独立性より各ai=0。▨
補題 1.2 (基底の延長). 有限次元空間Vの一次独立な組u1,…,urは、ベクトルを付け加えてVの基底にできる。
証明. もしspan{u1,…,ur}=Vならすでに基底。そうでなければ張られないw∈Vを選べ、補題 1.1よりu1,…,ur,wは独立。これを繰り返すと独立な組の本数が1ずつ増えるが、n次元空間で独立な組は高々n本(§D3.8 補題 3.1 (取替え/Steinitz))だから有限回で止まり、Vを張る独立組=基底に到達する。▨
2 次元定理
定理 2.1 (次元定理・rank-nullity).Vを有限次元、f:V→Wを線形写像とすると、dimKerf+dimImf=dimV.
証明.r=dimKerfとし、Kerfの基底u1,…,urをとる。補題 1.2でこれをVの基底u1,…,ur,w1,…,wsに延長する(r+s=dimV)。f(w1),…,f(ws)がImfの基底であることを示せばよい。
生成. 任意のx∈Vをx=∑iaiui+∑jbjwjと表すと、f(ui)=0ゆえf(x)=∑jbjf(wj)。よってf(w1),…,f(ws)はImfを生成する。
独立.∑jbjf(wj)=0とすると、線形性よりf(∑jbjwj)=0、すなわち∑jbjwj∈Kerf=span{ui}。ゆえに∑jbjwj=∑iciuiと書け、移項して∑i(−ci)ui+∑jbjwj=0。延長した組は基底で一次独立だからすべての係数、とくにbj=0。よって独立。
以上よりdimImf=s、したがってdimKerf+dimImf=r+s=dimV。▨
3 応用:解の自由度・全単射の判定
系 3.1.dimV=dimWの有限次元空間の間の線形写像f:V→Wについて、fが単射⟺全射⟺全単射。
証明.fが単射⟺Kerf={0}⟺dimKerf=0。定理 2.1よりこれはdimImf=dimV=dimWと同値で、Imf⊆Wかつ同次元だからImf=W、すなわち全射と同値。▨
- 連立一次方程式:A∈Mm,n(K)に対し、斉次方程式Ax=0の解空間はKerAで、次元はn−rankAです。非斉次方程式Ax=bは、解がなければ解集合は空です。一つ解x0があれば、解集合はx0+KerAというアフィン部分空間で、その方向空間の次元はn−rankAです。基礎で見た「自由度=n−rank」は、この意味での次元です。
- 全単射の判定:正方行列や同次元の写像では、系 3.1により片側(単射か全射のどちらか)が言えれば全単射。有限次元ならではの便利さです。
例 3.2 (微分作用素で確かめる). 次数≤nの多項式全体Pn(dimPn=n+1)の上で、微分D:Pn→Pn,D(p)=p′を考えます。D(p)=0となるのは定数のときだけなのでKerD={定数}(dim=1)、像は次数≤n−1の多項式全体Pn−1(dim=n)。確かにdimKerD+dimImD=1+n=n+1=dimPnで次元定理が成り立っています。「1方向(定数)がつぶれ、残りn方向が像になる」という定理の言葉が、微分という身近な操作でそのまま見えます。
証明.U∩Wの基底z1,…,ztをとり、補題 1.2でこれをUの基底{zi}∪{u1,…,up}とWの基底{zi}∪{w1,…,wq}に延長する。{zi}∪{uj}∪{wk}がU+Wの基底になることを示せば、dim(U+W)=t+p+q=(t+p)+(t+q)−t=dimU+dimW−dim(U∩W)を得る(生成は明らか、一次独立性は∑ajuj=−∑cizi−∑bkwk∈U∩Wからujの係数が消えることで確かめられる)。▨
dim(U∩W)を引くのは「重なり分の二重計上を戻す」ためで、集合の包除原理∣U∪W∣=∣U∣+∣W∣−∣U∩W∣の次元版と見ると覚えやすい公式です。