概要

本単元は、関数そのものを対象として、その性質と変化のしかたを調べます。関数を、定義域と値域をもつ対応として捉えるところから始め、グラフの平行移動と対称移動、三角関数のグラフ、グラフ変換の一般論へ進みます。続いて、微分係数を接線の傾きとして導入し、多項式の導関数から増減と極値を求めます。さらに、合成関数、全単射と逆関数、分数関数、無理関数へ対象を広げ、積、商、合成の微分法と三角関数の導関数を扱い、第2次導関数によって凹凸を判定して不等式の証明まで進みます。指数関数と対数関数は、本単元が整える逆関数と微分法の上で「指数関数と対数関数」が扱います。

関数を与えるときに定義域を併せて述べることを、本単元は最初の記事で作法として定め、以降のすべての記事で守ります。式変形によって定義域が変わる場合には、変形の前後で範囲を比べます。

本単元が想定する読者は、式の変形と2次関数のグラフを一通り身につけ、これから関数そのものを対象として扱う段階へ進む人です。

この単元のねらい

本単元は、読者が次に掲げる能力を習得することを目標とします。

  • 関数を、定義域の各要素に値をただ一つ対応させる規則として述べ、縦の直線のうちに二点以上で交わるものがある図形は関数のグラフにならないことを説明することができます。
  • グラフの平行移動、対称移動、拡大・縮小、絶対値による折り返しを式の書き換えとして実行し、変換後の定義域と値域を求めることができます。
  • 正弦、余弦、正接のグラフの形、定義域、値域、周期、対称性を述べ、正接の定義域からx=π/2+nπx=\pi/2+n\pi(nnは整数)を除くことができます。
  • 微分係数を接線の傾きとして捉え、導関数の符号から増減表を作り、極値とグラフの概形を求めることができます。
  • 合成関数の定義域を、内側の関数の定義域に属し、かつ内側の関数の値が外側の関数の定義域に入る入力の全体として求めることができます。
  • 写像について単射、全射、全単射を定義し、全単射である写像に逆写像が定まることを示すことができます。
  • 逆関数が定まる条件を全単射性として判定し、もとの関数の値域が逆関数の定義域になることを示すことができます。
  • 分数関数と無理関数について、定義域を求めてからグラフを描き、漸近線と定義域から除く点を示すことができます。
  • 積、商、合成の微分法を導き、これらを組み合わせてxxの累乗を含む式を微分することができます。
  • 正弦、余弦、正接の導関数を差の商の極限から求め、三角関数を含む式の増減を調べることができます。
  • 第2次導関数によって凹凸と変曲点を調べ、関数の増減を用いて不等式を証明することができます。

前提知識

本単元は、「数と式の計算」で扱う式変形、平方完成、 2次関数のグラフ、分数式の計算、不等式の解法を用います。2次関数の頂点と軸は同単元が扱い、本単元は、頂点と軸を関数一般の性質として捉え直します。

三角関数を扱う記事では、「図形と方程式」で扱う一般角と弧度法、および三角関数の定義を用います。直角三角形の辺の比が角だけで決まることは相似から従うため、「初等幾何学」で扱う三平方の定理と相似を先に読んでいると、三角比を関数として捉え直す場面で理解が早くなります。

微分を扱う記事では、「数列と極限」で扱う関数の極限を用います。微分係数は極限として定義されるため、本単元は、読者が極限の計算に慣れていることを前提とします。

この単元を貫く4つの方針

本単元の各記事は、次の4点を共通の方針とします。

  1. 定義域を明示します。 関数を与えるときは、対応の規則と併せて、その規則が定まる範囲を必ず述べます。式変形によって定義域が変わる場合は、変形の前後で範囲を比べます。
  2. 関数を対応として捉えます。 何を何に対応させる規則であるか、異なる入力が同じ値をとることがあるか、逆にたどることができるかを、読者が確かめることができる形で示します。式が同じであっても定義域が異なれば別の関数です。
  3. 式による計算とグラフの読み取りの双方から示します。 増減、極値、凹凸、対称性、周期を、式の計算とグラフの形の両方で確かめます。グラフから読み取った性質は、式による計算によって裏づけます。
  4. 変化を微分によって測ります。 微分係数を接線の傾きとして捉え、導関数の符号から増減を、第2次導関数の符号から凹凸を判定します。微分可能でない点や、導関数の値が00であっても極値とならない場合を、読者が区別することができるように示します。

難易度区分

本単元は、14記事を「基礎」13記事と「発展」1記事に分けます。

基礎は、関数の概念とグラフの操作を確立するところから始め、三角関数によって扱う関数の種類を広げ、多項式の微分によって変化を測る方法を導入します。そのうえで、合成関数、全単射と逆関数、分数関数、無理関数へ対象を広げ、微分法を一般の関数へ適用して、三角関数の導関数と凹凸の判定へ進みます。合成と逆をとる操作では定義域をどう決めるかが問題の中心になるため、最初の2記事で定めた定義域の扱いを、そのまま拡張します。

発展は、未知の対象が数ではなく関数である等式を扱います。定義域と終域を固定したうえで代入を設計するという進め方は、基礎で定めた定義域と値域の扱いをそのまま用いるものです。

基礎の13記事は、本単元で必ず読む内容であり、順に読むことを想定しています。発展の1記事は必修ではなく、読者は関心に応じて選んで読むことができます。

基礎

関数を対応として捉えてグラフと対応づけ、扱う関数の種類を広げ、微分によって変化を調べるところまで進む段階です。各記事が扱う内容は、次のとおりです。

  • 関数の概念とグラフ — 関数を、定義域の各要素に値をただ一つ対応させる規則として定義し、値域とグラフを調べます。式が同じであっても定義域が異なれば別の関数になることを、具体例で確かめます。縦の直線のうちに、その図形と二点以上で交わるものがあれば、その図形は関数のグラフになりません。本記事以降、関数を扱うときには定義域を最初に確認します。
  • グラフの平行移動・対称移動 —y=f(x)y=f(x)のグラフの、xx軸方向とyy軸方向への平行移動、および各軸と原点に関する対称移動を、式の書き換えとして実行します。右へppだけ動かすと式ではxxがx−px-pに変わるという符号の対応を確かめ、移動後の定義域がもとの定義域をずらしたものになることを示します。
  • 三角関数のグラフ — 三角関数を角の関数として捉え、横軸を弧度法に統一して、正弦、余弦、正接の定義域、値域、周期、対称性とグラフの形を調べます。正接はcos⁡x\cos xが00になるxxで定義されないため、定義域からx=π/2+nπx=\pi/2+n\pi(nnは整数)を除きます。正接については、繰り返しの最小の間隔が2π2\piではなくπ\piであることを示します。
  • グラフ変換の一般論 — 平行移動、対称移動、拡大・縮小、絶対値による折り返しを、関数への操作としてまとめて扱います。xx方向の変換では、b≠0b\neq0のときy=f(bx)y=f(bx)のグラフが横に1/∣b∣1/|b|倍になり、倍率が逆数として作用します。複数の変換を重ねるときは、式を評価する順序と、もとのグラフへ変換を施す順序を区別し、点の座標の対応から順序を定めて、変換後の定義域と値域を求めます。三角関数の振幅、周期、位相のずれも、同じ枠組みで説明します。
  • 多項式の微分と接線・増減・極値 — 平均変化率の極限として微分係数を定義し、接線の傾きにあたることを示します。多項式の導関数を求め、導関数の符号から増減表を作って、極値とグラフの概形を得ます。微分可能な関数が定義域の内部の点で極値をとるならば、その点の導関数は00になります。逆が成り立たないことをy=x3y=x^3のx=0x=0で、微分可能でない点ではこの含意を用いることができないことをy=∣x∣y=|x|のx=0x=0で確かめます。
  • 合成関数 — 二つの関数を続けて適用する操作を定義します。合成が定まるのは、内側の関数の定義域に属し、かつ内側の関数の値が外側の関数の定義域に入る入力の全体です。合成によって定義域が狭くなることと、順序を入れ替えると一般に別の関数になることを、具体例で確かめます。
  • 単射・全射・全単射と逆写像 — 写像を、定義域と終域を定めた対応として捉えます。異なる入力が異なる値をとることを単射、終域のどの要素も値としてあらわれることを全射、その両方が成り立つことを全単射と定義し、全単射である写像に逆写像が定まることを示します。定義域を狭めるか、終域を値域に取り替えると全単射になる例を確かめます。
  • 逆関数 — 終域を固定した逆関数が定まるための必要十分条件が全単射であることを示し、単射であるだけの場合には終域を値域へ絞れば逆関数が定まることを区別します。xxの2乗をx≥0x\geq0に制限すると平方根が逆関数になる例で、もとの関数の値域が逆関数の定義域になることと、グラフが直線y=xy=xに関して対称になることを確かめます。
  • 分数関数・無理関数 — 分数関数では分母が00にならない条件を、無理関数では根号の中が00以上である条件を、定義域として最初に書き出します。分数関数のグラフの漸近線を求め、約分することができる場合には双曲線にならないことを示します。両辺を2乗する操作は同値変形ではないため、解いたあとにもとの式へ代入して検算し、定義域と右辺の符号で絞ります。
  • 積・商・合成関数の微分 — 積の微分法、商の微分法、合成関数の微分法を導きます。合成関数の微分では、外側の関数の導関数に内側の関数の導関数を掛けます。xxの整数乗の導関数を求め、これらを組み合わせた式を微分します。
  • 三角関数の微分 I — 正弦と余弦の導関数を、差の商の極限として定義にしたがって求めます。和を積に変える公式で差の商を整理する道すじではx→0x \to 0のときsin⁡xx\dfrac{\sin x}{x}が11に近づくことを用い、加法定理で展開する道すじでは、これに加えて1−cos⁡xx\dfrac{1-\cos x}{x}が00に近づくことを用います。これらの極限は角を弧度法で測ることに依存し、度数法で測ると導関数にπ/180\pi/180の係数が現れます。
  • 三角関数の微分 II — 正接の導関数を、正弦と余弦の商とみて商の微分法から求め、cos⁡x\cos xが00になるxxを定義域から除きます。合成関数の微分法と組み合わせて三角関数を含む式の導関数を計算し、その符号から増減を調べて極値を求めます。
  • 高次導関数と曲線の凹凸 — 第2次導関数の符号から曲線の凹凸を判定し、符号が実際に変わる点として変曲点を求めます。第2次導関数の値が00になる点であっても変曲点でない場合があることを確かめ、増減と凹凸を一つの表にまとめてグラフの概形を描きます。関数の増減を調べることによって不等式を証明する方法も扱います。

発展

未知の対象が数ではなく関数である等式を解く段階です。高等学校の標準的な範囲を超える内容であり、必修ではなく、読者は関心に応じて選んで読むことができます。

  • 関数方程式入門 — 未知の対象が関数である等式を、定義域と終域を固定したうえで、代入によって決定します。f(0)f(0)のような特定の値、変数を入れ替えたときの対称性、単射性と全射性、不動点を順に取り出し、何を代入すれば情報を引き出すことができるかを設計します。代表例としてコーシーの関数方程式を取り上げ、代入だけで有理数における値が定まること、連続性を加えて実数全体へ延びることを示します。最後に、得られた候補が実際に等式を満たすかどうかを確かめます。

学習到達点の確認方法

同じ題材であっても、本単元が確かめる内容は学習の段階によって異なります。

  • 関数とグラフでは、読者が関数を定義域とともに述べることができるか、およびグラフの移動と変換を式の書き換えとして正確に実行することができるかを確かめます。
  • 三角関数と微分の導入では、読者が正弦、余弦、正接の定義域、値域、周期を述べることができるか、および増減表を作ってグラフの概形を導くことができるかを確かめます。
  • 合成・逆関数と微分法の一般化では、読者が合成と逆をとる操作において定義域を正しく決定することができるか、および微分法の規則を組み合わせて計算することができるかを確かめます。微分を用いた不等式の証明については、読者がどの区間で何を示したのかを述べることができるかを確かめます。

本単元は、演習に、導関数、極値、グラフの概形のように答えが一意に定まる問題を用います。定義域に関わる問題では、条件を明示しないまま得た答えを誤答として扱います。不等式の証明については、用いた関数、調べた区間、増減または凹凸の根拠を含む解答を評価の対象とします。

前後の単元との関係

  • 数と式の計算 — 同単元は、式変形、平方完成、2次関数のグラフ、不等式の解法を扱います。本単元は、同単元で扱う内容を関数一般の性質として捉え直します。
  • 図形と方程式 — 同単元は、三角比、三角関数の定義、加法定理、三角方程式と三角不等式を扱います。本単元は、三角関数をグラフの形と微分の対象として扱います。
  • 初等幾何学 — 同単元は、三平方の定理と相似を扱います。直角三角形の辺の比が角だけで決まることは相似から従うため、本単元は、その比を角の関数として捉え直すところから三角関数のグラフへ進みます。
  • 数列と極限 — 同単元は、関数の極限を扱います。微分係数は極限として定義されるため、本単元は、同単元で扱う極限の計算を前提とします。正弦と余弦の導関数を求めるときには、同単元が導くlim⁡x→0sin⁡xx=1\lim_{x \to 0}\dfrac{\sin x}{x}=1を用います。
  • 指数関数と対数関数 — 同単元は、指数を有理数から実数へ広げ、指数関数と対数関数の性質と導関数を扱います。同単元は、本単元が扱う全単射と逆関数を用いて対数関数を定義し、本単元が導く積、商、合成関数の微分法を指数関数と対数関数へ適用します。
  • 微積分 — 同単元は、積分を扱い、微積分学の基本定理によって微分と積分を結びます。本単元で扱う導関数と増減の分析は、同単元の求積と近似の前提になります。
  • 雑多な話題 — 同単元は、競技数学で出題される関数方程式を扱います。本単元が扱う代入の進め方を前提として、同単元は、正則性の仮定を使い切って解を決定する方法へ進みます。
  • ε-論法と基礎解析 — 同単元は、連続性と微分可能性をε\varepsilonを用いて定義し、平均値の定理などを証明します。本単元が主張として用いる中間値の定理の証明も、同単元が扱います。
  • 線形代数 I — 本単元が実数の関数について定義域と値域を追いながら構成した合成と逆を、同単元は写像、単射と全射、合成と逆写像として、線形写像を通じて一般化します。

この単元で扱わないこと

第一に、本単元は、指数関数と対数関数を扱いません。指数を有理数と実数へ拡張する定義、対数の性質と常用対数、eeの導入、指数関数と対数関数の導関数と対数微分法は「指数関数と対数関数」が扱います。

第二に、本単元は、連続性と微分可能性の精密な定義を扱いません。ε\varepsilon-δ\delta論法による定義、中間値の定理と平均値の定理の証明は「ε-論法と基礎解析」が扱います。

第三に、本単元は、積分を扱いません。不定積分と定積分、置換積分と部分積分、求積、微分方程式、テイラー展開は「微積分」が扱います。

第四に、本単元は、多変数関数の偏導関数と全微分を扱いません。これらは「実解析 II」が扱います。

第五に、本単元は、三角関数の定義、加法定理、三角方程式と三角不等式の解法を扱いません。これらは「図形と方程式」が扱います。本単元が扱うのは、三角関数のグラフと、微分の対象としての三角関数です。

第六に、本単元は、式そのものを変形する技能を扱いません。式の変形は「数と式の計算」が扱います。ただし、導関数を求めた式を整理するように、関数の性質を調べるために必要な計算は本単元のなかで行います。

第七に、本単元は、競技数学で出題される関数方程式を扱いません。これらは「雑多な話題」が扱います。本単元は、代入によって未知の関数を決定する基本的な進め方までを扱います。

教育課程上の位置づけと参考年次

本単元の参考年次は高等学校2年です。これは本単元を読み始める時期の目安であって、各国の課程における学年配当ではありません。実際、基礎に置く13記事は、日本の課程では数学Iから数学IIIまでにまたがり、後半の微分法は通常3年次に履修します。「単射・全射・全単射と逆写像」と「関数方程式入門」は、日本を含めどの国でも通常の課程には置かれていません。

本単元の内容と各国の教育課程との主な対応は、次のとおりです。関数の概念は多くの国で共通して扱われますが、微分をどの段階でどこまで扱うかには差があります。以下は、内容の配置を比較するための参考です。

  • 日本 — 高等学校学習指導要領(平成30年告示)の「数学II 三角関数」、「数学II 微分・積分の考え」、「数学III 関数」および「微分法」に主として対応します。関数の概念とグラフは「数学I 二次関数」で導入されます。
  • 韓国 — 2022改訂教育課程では、三角関数を選択科目「代数(대수)」で、関数の極限と微分法を微積分に関する選択科目で扱います。
  • 中国 — 普通高中课程方案和语文等学科课程标准(2017年版2020年修订)の必修課程「函数」にある関数の概念と性質、および三角関数と、選択性必修課程「一元函数导数及其应用」に主として対応します。
  • 米国 — 連邦教育省の説明のとおり、教育基準は州が定めます。比較資料として Common Core State Standards for Mathematicsを用いると、 High Schoolの「Functions」における関数の解釈、関数の構成、逆関数、三角関数に対応します。微分は同標準に含まれず、Advanced Placementの微積分科目が扱います。
  • フランス — lycée général et technologiqueの数学課程では、 secondeの「Fonctions」、premièreの専門数学における微分(dérivation)と三角関数、 terminaleにおける合成関数の微分と凸性に主として対応します。
  • ドイツ — 各州が学校課程を定め、 KMKが全国共通の到達基準を示します。 KMKの一般大学入学資格向け数学基準では、内容領域「Funktionaler Zusammenhang(関数的な関係)」および解析(Analysis)の微分に関する内容に対応します。同基準は、導関数を用いた曲線の分析を扱います。
  • イギリス(England) — GCE AS and A level mathematicsの「Functions and graphs」「Trigonometry」「Differentiation」に主として対応します。同資格は、合成関数、逆関数、グラフの変換、積と商と合成の微分法、第2次導関数による凹凸の判定を扱います。