§B2.11三角関数の微分 I

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本記事は、正弦と余弦の導関数を、導関数の定義にしたがって差の商の極限として求めます。差の商sin⁡(x+h)−sin⁡xh\dfrac{\sin(x+h)-\sin x}{h}は、そのままではh→0h \to 0で分子と分母がともに00に近づく形であり、約分することができません。そこで、正弦の差を積に変える公式によって分子を書き直し、x→0x \to 0でのsin⁡xx\dfrac{\sin x}{x}の極限に帰着させます。

本記事では、角をすべて弧度法で測ります。この約束は結果を変えます。度数法で測ると、あとで示すとおり導関数にπ180\dfrac{\pi}{180}の係数が現れます。

1 本記事が用いる二つの極限

公式 1.1 (x→0x \to 0での二つの基本極限). 角を弧度法で測る。

lim⁡x→0sin⁡xx=1,lim⁡x→01−cos⁡xx=0\lim_{x\to 0}\frac{\sin x}{x} = 1, \qquad \lim_{x\to 0}\frac{1-\cos x}{x} = 0

が成り立つ。

証明. 第一の式は「基本極限(sin x / x)」の§B1.12 定理 2.1が示しており、本記事はその結果を用います。

第二の式を第一の式から導きます。半角の公式により、すべての実数xxについて1−cos⁡x=2sin⁡2x21 - \cos x = 2\sin^{2}\dfrac{x}{2}が成り立ちます。この公式は「加法定理とその派生公式」が扱っており、ここではその結果を用います。x≠0x \ne 0のとき

1−cos⁡xx=2sin⁡2x2x=sin⁡x2x2⋅sin⁡x2\frac{1-\cos x}{x} = \frac{2\sin^{2}\dfrac{x}{2}}{x} = \frac{\sin\dfrac{x}{2}}{\dfrac{x}{2}}\cdot\sin\frac{x}{2}

となります。t=x2t = \dfrac{x}{2}と置くと、x→0x \to 0のときt→0t \to 0であり、x≠0x \ne 0のときt≠0t \ne 0です。第一の式によりsin⁡tt\dfrac{\sin t}{t}は11に近づきます。またt≠0t \ne 0のときsin⁡t=sin⁡tt⋅t\sin t = \dfrac{\sin t}{t}\cdot tであり、右辺は1⋅0=01\cdot 0 = 0に近づくので、sin⁡t\sin tは00に近づきます。よってlim⁡x→01−cos⁡xx=1⋅0=0\lim_{x\to0}\dfrac{1-\cos x}{x} = 1\cdot 0 = 0です。▨

2 差の商を積の形へ直す

正弦と余弦の差を積に変える公式を、加法定理から導きます。加法定理そのものは「加法定理とその派生公式」が扱っており、ここではその結果を用います。

公式 2.1 (和を積に変える公式). すべての実数AA、BBについて

sin⁡A−sin⁡B=2cos⁡A+B2 sin⁡A−B2,cos⁡A−cos⁡B=−2sin⁡A+B2 sin⁡A−B2\sin A - \sin B = 2\cos\frac{A+B}{2}\,\sin\frac{A-B}{2}, \qquad \cos A - \cos B = -2\sin\frac{A+B}{2}\,\sin\frac{A-B}{2}

が成り立つ。

証明.p=A+B2p = \dfrac{A+B}{2}、q=A−B2q = \dfrac{A-B}{2}と置くとA=p+qA = p+q、B=p−qB = p-qです。加法定理により

sin⁡(p+q)=sin⁡pcos⁡q+cos⁡psin⁡q,sin⁡(p−q)=sin⁡pcos⁡q−cos⁡psin⁡q\sin(p+q) = \sin p\cos q + \cos p\sin q, \qquad \sin(p-q) = \sin p\cos q - \cos p\sin q

であるから、辺々を引くとsin⁡A−sin⁡B=2cos⁡p sin⁡q\sin A - \sin B = 2\cos p\,\sin qです。同様に

cos⁡(p+q)=cos⁡pcos⁡q−sin⁡psin⁡q,cos⁡(p−q)=cos⁡pcos⁡q+sin⁡psin⁡q\cos(p+q) = \cos p\cos q - \sin p\sin q, \qquad \cos(p-q) = \cos p\cos q + \sin p\sin q

の辺々を引くとcos⁡A−cos⁡B=−2sin⁡p sin⁡q\cos A - \cos B = -2\sin p\,\sin qです。ppとqqをもとのAA、BBで書き直すと、結論を得ます。▨

差の商の極限を計算するときには、積に直した式に現れるcos⁡(x+h2)\cos\left(x+\dfrac h2\right)がh→0h \to 0でcos⁡x\cos xに近づくことを用います。これを確かめるために、正弦の値の大きさについての評価を用意します。

定理 2.2 (正弦の値の大きさ). 角を弧度法で測る。すべての実数uuについて

∣sin⁡u∣≤∣u∣|\sin u| \le |u|

が成り立つ。

証明.u=0u = 0のときは両辺が00で成り立ちます。

0<u<π20 < u < \dfrac{\pi}{2}のとき、「基本極限(sin x / x)」の§B1.12 定理 1.1によりsin⁡u<u\sin u < uです。この範囲ではsin⁡u>0\sin u > 0であるから∣sin⁡u∣=sin⁡u<u=∣u∣|\sin u| = \sin u < u = |u|です。

u≥π2u \ge \dfrac{\pi}{2}のときは、∣sin⁡u∣≤1<π2≤u=∣u∣|\sin u| \le 1 < \dfrac{\pi}{2} \le u = |u|です。

u<0u < 0のときは、sin⁡(−u)=−sin⁡u\sin(-u) = -\sin uであるから∣sin⁡u∣=∣sin⁡(−u)∣|\sin u| = |\sin(-u)|であり、−u>0-u > 0についていま示したことから∣sin⁡(−u)∣≤∣−u∣=∣u∣|\sin(-u)| \le |-u| = |u|です。▨

定理 2.3 (正弦と余弦は連続である). すべての実数xxについて

lim⁡t→0sin⁡(x+t)=sin⁡x,lim⁡t→0cos⁡(x+t)=cos⁡x\lim_{t\to 0}\sin(x+t) = \sin x, \qquad \lim_{t\to 0}\cos(x+t) = \cos x

が成り立つ。

証明.公式 2.1でA=x+tA = x+t、B=xB = xとすると

sin⁡(x+t)−sin⁡x=2cos⁡(x+t2)sin⁡t2,cos⁡(x+t)−cos⁡x=−2sin⁡(x+t2)sin⁡t2\sin(x+t) - \sin x = 2\cos\left(x+\frac t2\right)\sin\frac t2, \qquad \cos(x+t) - \cos x = -2\sin\left(x+\frac t2\right)\sin\frac t2

です。正弦と余弦の値の絶対値は11を超えないので、どちらの右辺も絶対値が2∣sin⁡t2∣2\left|\sin\dfrac t2\right|以下です。定理 2.2により∣sin⁡t2∣≤∣t∣2\left|\sin\dfrac t2\right| \le \dfrac{|t|}{2}であるから

∣sin⁡(x+t)−sin⁡x∣≤∣t∣,∣cos⁡(x+t)−cos⁡x∣≤∣t∣|\sin(x+t)-\sin x| \le |t|, \qquad |\cos(x+t)-\cos x| \le |t|

が成り立ちます。右辺はt→0t \to 0のとき00に近づくので、結論を得ます。▨

3 正弦と余弦の導関数

定理 3.1 (正弦と余弦の導関数). 角を弧度法で測る。sin⁡\sinとcos⁡\cosはすべての実数xxで微分可能であり

(sin⁡x)′=cos⁡x,(cos⁡x)′=−sin⁡x(\sin x)' = \cos x, \qquad (\cos x)' = -\sin x

が成り立つ。

証明. 実数xxを固定します。h≠0h \ne 0のとき、公式 2.1でA=x+hA = x+h、B=xB = xとすると

sin⁡(x+h)−sin⁡xh=2cos⁡(x+h2)sin⁡h2h=cos⁡(x+h2)⋅sin⁡h2h2\frac{\sin(x+h)-\sin x}{h} = \frac{2\cos\left(x+\dfrac h2\right)\sin\dfrac h2}{h} = \cos\left(x+\frac h2\right)\cdot\frac{\sin\dfrac h2}{\dfrac h2}

です。t=h2t = \dfrac h2と置くと、h→0h \to 0のときt→0t \to 0であり、h≠0h \ne 0のときt≠0t \ne 0です。公式 1.1によりsin⁡tt\dfrac{\sin t}{t}は11に近づきます。また定理 2.3によりcos⁡(x+h2)\cos\left(x+\dfrac h2\right)はcos⁡x\cos xに近づきます。よって差の商はcos⁡x⋅1=cos⁡x\cos x \cdot 1 = \cos xに近づき、(sin⁡x)′=cos⁡x(\sin x)' = \cos xです。

余弦についても同様に、h≠0h \ne 0のとき

cos⁡(x+h)−cos⁡xh=−2sin⁡(x+h2)sin⁡h2h=−sin⁡(x+h2)⋅sin⁡h2h2\frac{\cos(x+h)-\cos x}{h} = \frac{-2\sin\left(x+\dfrac h2\right)\sin\dfrac h2}{h} = -\sin\left(x+\frac h2\right)\cdot\frac{\sin\dfrac h2}{\dfrac h2}

です。定理 2.3によりsin⁡(x+h2)\sin\left(x+\dfrac h2\right)はsin⁡x\sin xに近づくので、差の商は−sin⁡x⋅1=−sin⁡x-\sin x\cdot 1 = -\sin xに近づき、(cos⁡x)′=−sin⁡x(\cos x)' = -\sin xです。▨

同じ定理を、別の道すじでも証明することができます。差の商を和を積に変える公式で直すかわりに、加法定理で展開して整理する方法です。あらかじめ示しておいた1−cos⁡xx\dfrac{1-\cos x}{x}の極限を、この道すじでは直接用います。

証明 (別証明:加法定理で整理する).定理 3.1を、加法定理から導く。h≠0h \ne 0のとき

sin⁡(x+h)−sin⁡xh=sin⁡xcos⁡h+cos⁡xsin⁡h−sin⁡xh=−sin⁡x⋅1−cos⁡hh+cos⁡x⋅sin⁡hh\frac{\sin(x+h)-\sin x}{h} = \frac{\sin x\cos h + \cos x\sin h - \sin x}{h} = -\sin x\cdot\frac{1-\cos h}{h} + \cos x\cdot\frac{\sin h}{h}

である。公式 1.1の二つの極限により、h→0h \to 0のとき右辺は−sin⁡x⋅0+cos⁡x⋅1=cos⁡x-\sin x\cdot 0 + \cos x\cdot 1 = \cos xに近づく。同じ整理を余弦について行うと

cos⁡(x+h)−cos⁡xh=−cos⁡x⋅1−cos⁡hh−sin⁡x⋅sin⁡hh\frac{\cos(x+h)-\cos x}{h} = -\cos x\cdot\frac{1-\cos h}{h} - \sin x\cdot\frac{\sin h}{h}

となり、h→0h \to 0で−sin⁡x-\sin xに近づく。▨

二つの証明は、用いるものが違います。主証明は和を積に変える公式と定理 2.3を用い、1−cos⁡xx\dfrac{1-\cos x}{x}の極限を用いません。別証明は1−cos⁡xx\dfrac{1-\cos x}{x}の極限を直接用い、連続性を用いません。どちらもsin⁡xx\dfrac{\sin x}{x}の極限には依存しており、この極限を外すことはどちらの道すじでもできません。

横軸は弧度法で測った角xx、縦軸は関数の値です。原点における接線の傾きが11であることは、定理 3.1にx=0x = 0を代入したcos⁡0=1\cos 0 = 1から従う結論であり、図から読み取った事実ではありません。

例 3.2 (微分係数と接線).y=sin⁡xy = \sin xのx=π3x = \dfrac{\pi}{3}における微分係数は、定理 3.1によりcos⁡π3=12\cos\dfrac{\pi}{3} = \dfrac12である。sin⁡π3=32\sin\dfrac{\pi}{3} = \dfrac{\sqrt3}{2}であるから、この点における接線の方程式は

y=32+12(x−π3)y = \frac{\sqrt3}{2} + \frac12\left(x - \frac{\pi}{3}\right)

である。

例 3.3 (繰り返し微分する).定理 3.1を繰り返し用いると

(sin⁡x)′=cos⁡x,(sin⁡x)′′=−sin⁡x,(sin⁡x)′′′=−cos⁡x,(sin⁡x)′′′′=sin⁡x(\sin x)' = \cos x, \quad (\sin x)'' = -\sin x, \quad (\sin x)''' = -\cos x, \quad (\sin x)'''' = \sin x

である。4回微分すると、もとの関数に戻る。

注意 3.4 (グラフから読み取った増減との対応).−π2<x<π2-\dfrac{\pi}{2} < x < \dfrac{\pi}{2}の範囲ではcos⁡x>0\cos x > 0であるから、定理 3.1により(sin⁡x)′>0(\sin x)' > 0であり、微分の定義と平均値の定理 の§D1.14 系 4.2によって、この範囲でsin⁡\sinは狭義単調増加する。π2<x<3π2\dfrac{\pi}{2} < x < \dfrac{3\pi}{2}の範囲ではcos⁡x<0\cos x < 0であるから、同じ結果によってsin⁡\sinは狭義単調減少する。これは「三角関数のグラフ」でグラフから読み取った増減と一致する。

4 度数法で測ると導関数が変わる

注意 4.1 (度数法で測るとπ180\dfrac{\pi}{180}の係数が現れる).公式 1.1の第一の式は、角を弧度法で測ることに依存している。同じことは、導関数の形にも現れる。

度数法で測った角の大きさをxxとし、その角の正弦をS(x)=sin⁡x∘S(x) = \sin x^{\circ}と書く。xx度は弧度法でπx180\dfrac{\pi x}{180}であるから

S(x)=sin⁡(πx180)S(x) = \sin\left(\frac{\pi x}{180}\right)

である。§B2.10 定理 4.1と定理 3.1により

S′(x)=cos⁡(πx180)⋅π180=π180cos⁡x∘S'(x) = \cos\left(\frac{\pi x}{180}\right)\cdot\frac{\pi}{180} = \frac{\pi}{180}\cos x^{\circ}

となり、係数π180\dfrac{\pi}{180}が現れる。導関数が(sin⁡x)′=cos⁡x(\sin x)' = \cos xという、係数の付かない形になるのは、角を弧度法で測る場合に限る。三角関数を微分する場面で角を弧度法に統一するのは、この理由による。

6 演習

差の商と公式 1.1を用いて、sin⁡x\sin xの導関数がcos⁡x\cos xであることを導きなさい。角を度数法で測った場合に係数が現れる理由も説明しなさい。

証明 (演習の要点). 差の商を公式 2.1によりcos⁡(x+h/2) sin⁡(h/2)h/2\cos(x+h/2)\,\dfrac{\sin(h/2)}{h/2}と書き直し、二因子の極限をそれぞれcos⁡x\cos xと11とする。度数法では角xxが弧度法でπx/180\pi x/180となるため、合成関数の微分法によりπ/180\pi/180が掛かる。▨

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