1 微分の定義
定義 1.1 (微分可能).I⊆Rを開区間、f:I→Rを関数、a∈Iとする。fがaで微分可能 (differentiable) であるとは、あるL∈Rが存在して、h→0、h=0、a+h∈Iのもとで両側差商
hf(a+h)−f(a)がLに収束することをいう。すなわち、任意のε>0に対してあるδ>0が存在し、h∈Rが0<∣h∣<δかつa+h∈Iを満たすならば
hf(a+h)−f(a)−L<εが成り立つ。その一意な値Lをf′(a)と書き、fのaにおける微分係数 (derivative at a point) という。
命題 1.2.I⊆Rを開区間、f:I→Rを関数、a∈Iとする。fがaで微分可能ならば、fはaで連続である。
証明.Iは開集合でありa∈Iであるから、あるr>0が存在して(a−r,a+r)⊆Iとなる。したがって
Ha∗={h∈R∣h=0, a+h∈I}とおくと、任意のδ>0に対して0<h<min{r,δ}を満たすhがHa∗に属するため、0はHa∗の集積点である。関数q,p:Ha∗→Rを
q(h)=hf(a+h)−f(a),p(h)=hで定める。fのaにおける微分可能性からh→0のときq(h)→f′(a)であり、極限の定義からp(h)→0である。共通の定義域Ha∗上で§D1.11 定理 2.2 (4)を適用すると、q(h)p(h)→0を得る。
ε>0をとる。この極限から、あるδ>0が存在し、h∈Ha∗かつ0<∣h∣<δならば∣q(h)p(h)∣<εとなる。x∈Iが∣x−a∣<δを満たすとする。x=aならば∣f(x)−f(a)∣=0<εである。x=aならばh=x−aとおくとh∈Ha∗であり、
q(h)p(h)=f(a+h)−f(a)=f(x)−f(a)であるから∣f(x)−f(a)∣<εである。したがってfはaで連続である。▨
例 1.3. 関数f(x)=∣x∣は0で連続である。一方、h>0では差商∣h∣/hが1であり、h<0では差商が−1であるため、fは0で微分可能でない。したがって命題 1.2の逆は成り立たない。
2 フェルマーの補題とロルの定理
補題 2.1 (フェルマー).I⊆Rを開区間とし、f:I→Rが点c∈Iで極大値または極小値をとるとする。fがcで微分可能ならば、f′(c)=0である。
証明.fがcで極大値をとるとする。あるδ>0が存在し、0<∣h∣<δならばf(c+h)≤f(c)となる。0<h<δでは
hf(c+h)−f(c)≤0であるからf′(c)≤0である。−δ<h<0では同じ差商が0以上であるからf′(c)≥0である。したがってf′(c)=0である。fがcで極小値をとる場合には、正のhに対する差商が0以上、負のhに対する差商が0以下となるため、同じ結論を得る。▨
定理 2.2 (ロル).a<bを満たす実数a,bと関数f:[a,b]→Rをとる。fが[a,b]上で連続かつ(a,b)上で微分可能であり、f(a)=f(b)を満たすならば、あるc∈(a,b)でf′(c)=0が成り立つ。
証明.§D1.13 定理 2.1 (最大値の定理)により、fは[a,b]で最大値と最小値をとる。最大値と最小値がともにf(a)=f(b)に等しければ、fは定数関数であり、任意のc∈(a,b)に対してf′(c)=0である。そうでなければ、最大値または最小値の一方はf(a)=f(b)と異なるため、その値をとる点はあるc∈(a,b)である。補題 2.1によりf′(c)=0である。▨
3 平均値の定理
定理 3.1 (平均値の定理).a<bを満たす実数a,bと関数f:[a,b]→Rをとる。fが[a,b]上で連続かつ(a,b)上で微分可能ならば、あるc∈(a,b)で
f′(c)=b−af(b)−f(a).
証明.
g(x)=f(x)−(f(a)+b−af(b)−f(a)(x−a))とおく。gは[a,b]で連続かつ(a,b)で微分可能であり、g(a)=g(b)=0を満たす。定理 2.2により、あるc∈(a,b)に対してg′(c)=0である。したがって
f′(c)−b−af(b)−f(a)=0である。▨
例 3.2 (閉区間上の連続性を外す反例).f:[0,1]→Rを
f(0)=0,f(x)=1(0<x≤1)で定める。fは(0,1)上で微分可能であり、すべてのx∈(0,1)に対してf′(x)=0である。一方、fは0で連続でないため、閉区間[0,1]上の連続性だけが平均値の定理の仮定から外れている。弦の傾きは
1−0f(1)−f(0)=1であり、導関数が1となるc∈(0,1)は存在しない。したがって、閉区間上の連続性を外すと平均値の定理の結論は成り立たない。
例 3.3 (開区間上の微分可能性を外す反例).f:[−1,1]→Rをf(x)=∣x∣で定める。fは[−1,1]上で連続であるが、0で微分可能でないため、開区間(−1,1)上の微分可能性だけが平均値の定理の仮定から外れている。弦の傾きは
1−(−1)f(1)−f(−1)=0である。一方、−1<x<0ではf′(x)=−1、0<x<1ではf′(x)=1であり、0では微分係数が存在しない。したがって、微分係数が存在して弦の傾き0に等しくなるc∈(−1,1)は存在せず、開区間上の微分可能性を外すと平均値の定理の結論は成り立たない。
命題 3.4.I⊆Rを区間とし、f:I→RはI上で連続かつint(I)上で微分可能であるとする。あるL≥0に対して、すべてのt∈int(I)で∣f′(t)∣≤Lならば、すべてのx,y∈Iに対して
∣f(x)−f(y)∣≤L∣x−y∣が成り立つ。
証明.x,y∈Iを任意にとる。xとyを入れ替えても示す不等式の両辺は変わらないため、x≤yとしてよい。x=yならば
∣f(x)−f(y)∣=0=L∣x−y∣である。x<yとする。Iは区間であるから[x,y]⊆Iであり、(x,y)⊆int(I)である。fの[x,y]への制限は[x,y]で連続かつ(x,y)で微分可能である。定理 3.1により、あるc∈(x,y)に対して
f(y)−f(x)=f′(c)(y−x)である。∣f′(c)∣≤Lとy−x>0から
∣f(x)−f(y)∣=∣f′(c)∣(y−x)≤L(y−x)=L∣x−y∣を得る。▨
平均値の定理の結論は、区間内のある点における接線の傾きが弦の傾きと一致することを表します。下図は、接点と接線の変化を示します。
4 なぜ重要か
平均値の定理は、一点における微分係数から区間全体における関数値の変化を制御します。以下では、導関数が恒等的に0である関数の特徴づけと、導関数の符号による増減判定を導きます。
系 4.1.f:(a,b)→Rが微分可能であり、すべてのx∈(a,b)に対してf′(x)=0ならば、fは定数関数である。
証明. 任意のx1,x2∈(a,b)でx1<x2を満たすものをとる。fを[x1,x2]に制限して定理 3.1を適用すると、あるc∈(x1,x2)に対して
f(x2)−f(x1)=f′(c)(x2−x1)=0である。したがってf(x1)=f(x2)であり、fは定数関数である。▨
系 4.2 (増減判定).f:(a,b)→Rが微分可能であるとする。すべてのx∈(a,b)に対してf′(x)>0ならばfは狭義単調増加であり、すべてのx∈(a,b)に対してf′(x)<0ならばfは狭義単調減少である。
証明. 任意のx1,x2∈(a,b)でx1<x2を満たすものをとる。fを[x1,x2]に制限して定理 3.1を適用すると、あるc∈(x1,x2)に対して
f(x2)−f(x1)=f′(c)(x2−x1)である。すべてのx∈(a,b)に対してf′(x)>0ならば右辺は正であり、f(x1)<f(x2)である。すべてのx∈(a,b)に対してf′(x)<0ならば右辺は負であり、f(x1)>f(x2)である。▨
導関数の符号から増減を判定する操作は、平均値の定理によって正当化されます。続いて、二つの関数を同時に扱う形を示します。
定理 4.3 (コーシーの平均値の定理).a<bを満たす実数a,bと関数f,g:[a,b]→Rをとる。fとgがともに[a,b]上で連続かつ(a,b)上で微分可能ならば、あるc∈(a,b)で
(f(b)−f(a))g′(c)=(g(b)−g(a))f′(c)が成り立つ。
証明.h:[a,b]→Rを
h(x)=(f(b)−f(a))(g(x)−g(a))−(g(b)−g(a))(f(x)−f(a))で定める。hは[a,b]で連続かつ(a,b)で微分可能であり、h(a)=h(b)=0を満たす。定理 2.2により、あるc∈(a,b)に対してh′(c)=0である。したがって
(f(b)−f(a))g′(c)=(g(b)−g(a))f′(c)である。▨
g(x)=xとすれば定理 3.1が得られます。コーシーの平均値の定理は、不定形の極限を扱うロピタルの定理や、テイラーの定理における剰余項の評価に用いられます。
5 注意
6 演習
問題 6.1.f(x)=x2を[−2,3]に制限する。この関数の Lipschitz 定数となるL≥0の最小値を求めよ。
解答.
f′(x)=2xであり、−2<x<3では∣f′(x)∣≤6である。したがって命題 3.4によりL=6は Lipschitz 定数である。
一方、0≤L<6とする。0<h<min{1,6−L}を満たすhを取ると、3−h∈[−2,3]であり、
∣3−(3−h)∣∣f(3)−f(3−h)∣=6−h>Lとなる。したがってL<6は Lipschitz 定数ではなく、求める最小値は6である。▨