1 収束する範囲は区間になる
定義 1.1 (べき級数). 実数の列{an}n≥0に対し、xを変数とする級数
n=0∑∞anxnをべき級数 (power series) という。x=0ではこの級数の和はa0であり、つねに収束する。
収束する範囲を決めるための出発点は、次の補題です。一点で収束することが、それより原点に近いすべての点で絶対収束することを導きます。
補題 1.2 (アーベルの補題).x0=0とし、数列{anx0n}が有界であるとする。このとき∣x∣<∣x0∣を満たすすべてのxについて、∑n=0∞anxnは絶対収束する。
証明. 仮定より、あるM>0が存在して、すべてのnについて∣anx0n∣≤Mとなる。∣x∣<∣x0∣とし、t=∣x0∣∣x∣とおくと0≤t<1である。このとき
∣anxn∣=∣anx0n∣⋅(∣x0∣∣x∣)n≤Mtnが成り立つ。∑Mtnは公比tの等比級数で収束するから、§D1.21 定理 1.3により∑∣anxn∣は収束する。▨
定義 1.3 (収束半径). べき級数∑anxnに対し
E={∣x∣ : x∈R, n=0∑∞anxn が収束する}とおく。0∈Eである。Eが上に有界であるときR=supEとおき、上に有界でないときR=∞とおく。このRを、このべき級数の収束半径 (radius of convergence) という。
定理 1.4 (収束半径による範囲の決定). べき級数∑anxnの収束半径をRとする。
- ∣x∣<Rを満たすxについて、∑anxnは絶対収束する。
- R<∞とする。∣x∣>Rを満たすxについて、∑anxnは発散する。
証明.(1)を示す。∣x∣<Rとする。R=∞のときEは上に有界でないので、∣x∣<rを満たすr∈Eが存在する。R<∞のとき、∣x∣はEの上界ではないので(Rが最小の上界であることによる。§D1.4 命題 1.6をε=R−∣x∣に対して用いてもよい)、やはり∣x∣<rを満たすr∈Eが存在する。
r∈Eであるから、∣x0∣=rかつ∑anx0nが収束するようなx0が存在する。収束する級数の項は0へ収束するから(§D1.21 命題 1.1)、数列{anx0n}は有界である。∣x∣<r=∣x0∣であるから、補題 1.2により∑anxnは絶対収束する。
(2)を示す。∣x∣>Rとする。もし∑anxnが収束するとすれば∣x∣∈Eとなり、∣x∣>R=supEに反する。したがって発散する。▨
残るのは∣x∣=R(0<R<∞)の場合です。この場合は収束半径だけでは決まりません。同じ収束半径をもつべき級数のうちに、両端で発散するもの、片方の端でだけ収束するもの、両端で絶対収束するものがあります。
例 1.5 (境界では収束することも発散することもある). 次の三つのべき級数は、いずれも収束半径が1である。
∣x∣>1のときにn2∣x∣n→∞となることを、先に確かめておく。∣x∣=1+h(h>0)と書くと、二項定理によりn≥3で(1+h)n≥6n(n−1)(n−2)h3であるから、n2∣x∣n≥6n(n−1)(n−2)h3→∞となる。n≥1ではn∣x∣n≥n2∣x∣nであるから、n∣x∣n→∞でもある。
- ∑n≥0xn:∣x∣<1では等比級数として収束し、∣x∣≥1では項が0へ収束しないので発散する(§D1.21 命題 1.1)。よって収束半径は1である。x=1でもx=−1でも発散する。
- ∑n≥1nxn:∣x∣<1ではnxn≤∣x∣nと等比級数の比較により絶対収束し、∣x∣>1では項の絶対値n∣x∣nが0へ収束しないので発散する。よって収束半径は1である。x=1では調和級数となって発散し、x=−1では交代級数として収束する(§D1.21 定理 5.1)。
- ∑n≥1n2xn:同様に収束半径は1である。x=±1ではいずれも∑n21と比較して絶対収束する(§D1.21 例 4.2)。
2 係数から収束半径を求める
定理 2.1 (コーシー・アダマールの公式). べき級数∑anxnの収束半径をRとし、
L=n→∞limsup∣an∣1/nとおく。Lは§D1.8 定義 2.5で定めた上極限であり、∣an∣1/n≥0であるから定まる。このとき、0<L<∞ならばR=L1、L=0ならばR=∞、L=∞ならばR=0である。
証明.x=0とし、L<∣x∣1が成り立つとする。このときL<θ<∣x∣1を満たすθ>0を取ることができる(L=0のときも、θを0<θ<∣x∣1の範囲に取ればよい)。§D1.8 定理 2.7 (3)により、ある正の整数Nが存在して、すべてのn≥Nについて∣an∣1/n<θとなる。したがって∣anxn∣<(θ∣x∣)nである。θ∣x∣<1であるから、等比級数との比較(§D1.21 定理 1.3)により∑anxnは絶対収束する。
x=0とし、L>∣x∣1が成り立つとする。このときL<∞ならば∣x∣1<θ<Lを満たすθを取る。§D1.8 定理 2.7 (3)により、任意の正の整数Nに対して、あるk≥Nが存在して∣ak∣1/k>θとなる。L=∞ならば∣x∣1<θを満たすθを取る。同じ§D1.8 定理 2.7 (3)により、任意の正の整数Nに対して、あるk≥Nが存在して∣ak∣1/k>θとなる。いずれの場合も、そのkについて∣akxk∣>(θ∣x∣)k>1である。したがって項anxnは0へ収束せず、§D1.21 命題 1.1により∑anxnは発散する。
0<L<∞のとき、∣x∣<L1で収束し∣x∣>L1で発散するので、収束半径の定義からR=L1である。L=0のときはすべてのxで収束するのでR=∞、L=∞のときはx=0のすべてで発散するのでR=0である。▨
例 2.2 (収束半径の計算).
- ∑2nxn:∣an∣1/n=2であるからL=2であり、収束半径は21である。
- ∑n!xn:x=0のとき、隣り合う項の比の絶対値は∣x∣n/n!∣x∣n+1/(n+1)!=n+1∣x∣→0<1であるから、§D1.21 定理 2.1によりすべてのxで絶対収束する。したがって収束半径は∞である。
- ∑n!xn:x=0のとき、同じ比は(n+1)∣x∣→∞であるから、§D1.21 定理 2.1により発散する。したがって収束半径は0である。
3 内部の有界閉区間では一様収束する
収束半径の内側の各点で収束することは示しました。項ごとの微分と積分を許すには、点ごとの収束では足りず、一様収束が要ります(§D1.22 定義 1.1)。開区間(−R,R)全体で一様収束するとは限りませんが、その内部の有界閉区間では一様収束します。
証明.r<Rであるから、定理 1.4により∑∣an∣rnは収束する。Mn=∣an∣rnとおくと、∣x∣≤rを満たすすべてのxについて∣anxn∣≤Mnであり、∑Mnは収束する。したがって§D1.22 定理 5.2により、{sN}は[−r,r]上で一様収束する。▨
系 3.2 (べき級数の和は連続である).R>0とし、∣x∣<Rでf(x)=∑n=0∞anxnとおく。このときfは開区間(−R,R)上で連続である。
証明.x1∈(−R,R)を取り、∣x1∣<r<Rを満たすrを選ぶ。定理 3.1により、部分和の列は[−r,r]上でfへ一様収束する。各部分和は多項式であるから[−r,r]上連続で、§D1.22 定理 2.1によりfは[−r,r]上連続である。とくにx1で連続である。x1は任意であったから、fは(−R,R)上連続である。▨
4 項ごとの微分と積分
定理 4.1 (項ごとの積分).R>0とし、∣x∣<Rでf(x)=∑n=0∞anxnとおく。c<dかつ[c,d]⊆(−R,R)ならば、右辺の級数は収束して
∫cdf(x)dx=n=0∑∞ann+1dn+1−cn+1が成り立つ。
証明.r=max{∣c∣,∣d∣}とおくとr<Rであり、[c,d]⊆[−r,r]である。定理 3.1により、部分和の列{sN}は[−r,r]上でfへ一様収束する。各sNは多項式であるから連続であり、したがって可積分である(§D1.17 定理 2.5)。よって§D1.22 定理 3.1により
∫cdsN(x)dx⟶∫cdf(x)dx(N→∞)が成り立つ。
左辺を計算する。SN(x)=∑n=0Nann+1xn+1は多項式であり、有限個の和の微分は各項の微分の和に等しいので(§D1.6 定理 2.1の和についての法則から従う)、SN′=sNである。sNは連続であるから§D1.19 定理 2.1により
∫cdsN(x)dx=SN(d)−SN(c)=n=0∑Nann+1dn+1−cn+1である。左辺の数列が収束するので、右辺の部分和も収束し、両者の極限は等しくなる。▨
項ごとに微分するには、§D1.22 定理 4.2を用います。そのためには、項ごとに微分した級数が同じ区間で一様収束することを確かめなければなりません。まず、収束半径が変わらないことを示します。
補題 4.2 (項ごとに微分した級数の収束半径).∑n≥0anxnの収束半径をRとすると、∑n≥1nanxn−1の収束半径もRである。
証明.x=0のときは第1項だけが残るので明らかである。0<∣x∣<Rとし、∣x∣<r<Rを満たすrを取る。定理 1.4により∑∣an∣rnは収束する。t=r∣x∣とおくと0<t<1である。級数∑n≥1ntn−1は、隣り合う項の比がntn−1(n+1)tn=nn+1t→t<1となるので収束し(§D1.21 定理 2.1)、したがって項ntn−1は0へ収束して有界である。その上界をKとすると
n∣an∣∣x∣n−1=∣an∣rn⋅rntn−1≤rK∣an∣rnとなり、§D1.21 定理 1.3により∑n∣an∣∣x∣n−1は収束する。
R<∞とし∣x∣>Rとする。∑nanxn−1が収束すると仮定すると、§D1.21 命題 1.1によりnanxn−1→0となり、この数列は有界である。その上界をMとすると、n≥1について∣anxn∣=∣x∣⋅∣anxn−1∣≤n∣x∣M≤∣x∣Mであるから、数列{anxn}は有界である。よって∣y∣<∣x∣を満たす任意のyに対し、補題 1.2により∑anynは収束し、∣y∣≤Rとなる。∣y∣は∣x∣にいくらでも近く取ることができるので∣x∣≤Rとなり、∣x∣>Rに反する。したがって発散する。
以上より、∑nanxn−1は∣x∣<Rで収束し∣x∣>Rで発散するので、その収束半径はRである。▨
定理 4.3 (項ごとの微分).R>0とし、∣x∣<Rでf(x)=∑n=0∞anxnとおく。このときfは開区間(−R,R)で微分可能であり、
f′(x)=n=1∑∞nanxn−1(∣x∣<R)が成り立つ。
証明.x1∈(−R,R)を取り、∣x1∣<r<Rを満たすrを選ぶ。以下、区間[−r,r]の上で考える。
部分和sN(x)=∑n=0Nanxnは多項式であるから微分可能で、その導関数sN′(x)=∑n=1Nnanxn−1も多項式であり連続である(有限個の和の微分が各項の微分の和に等しいことは、§D1.6 定理 2.1の和についての法則から従う)。
補題 4.2により∑nanxn−1の収束半径はRであるから、定理 3.1を∑nanxn−1へ適用すると、{sN′}は[−r,r]上である関数gへ一様収束する。またx0=0∈[−r,r]についてsN(0)=a0は収束する数列である。
したがって§D1.22 定理 4.2の仮定がすべて満たされ、{sN}は[−r,r]上のある関数へ一様収束して、その関数は微分可能で導関数がgに等しくなる。{sN}は[−r,r]上でfへ収束しているから、この関数はfである。よってfは[−r,r]で微分可能でf′=gであり、とくにx1においてf′(x1)=∑n≥1nanx1n−1が成り立つ。x1は任意であったから、主張が従う。▨
項ごとに微分した級数の収束半径はRのままですから、この定理を繰り返し用いることができます。すなわち、べき級数の和は開区間(−R,R)上で何回でも微分することができ、その導関数はいずれも項ごとの微分によって与えられます。
5 複素数の範囲について
本記事は、変数xを実数の範囲で動かしました。同じ級数の変数を複素数の範囲へ広げると、収束する範囲は区間ではなく原点を中心とする円板になり、収束半径はその円板の半径にあたります。この扱いと、正則関数がつねにべき級数へ展開されるという事実は、「複素解析」が扱います。