§D1.9有界閉区間の被覆性

最終更新

ここまで本単元は、有界閉区間[a,b][a,b]の性質を数列の側から述べてきました。有界な数列が収束する部分列をもつこと(§D1.8 定理 2.2)が、その代表です。本記事は、同じ区間の性質を、区間を覆う開区間の族の側から述べ直します。示すのは一つの定理です。[a,b][a,b]をどのように開区間で覆っても、そのうちの有限個だけで覆うことができます。

この「有限個で足りる」という一手が要るのは、無限個の正の数には最小値があるとは限らないのに対し、有限個の正の数には必ず最小値があるからです。次の記事で扱う一様連続性の証明が、この一手を用います。

1 覆うということ

まず、覆うという語を定義します。

定義 1.1 (開被覆と有限部分被覆). 集合S⊆RS \subseteq \mathbb{R}と、開区間からなる族U={Uλ}λ∈Λ\mathcal{U} = \{U_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}について

S⊆⋃λ∈ΛUλS \subseteq \bigcup_{\lambda\in\Lambda} U_\lambda

が成り立つとき、U\mathcal{U}をSSの開被覆 (open cover) という。添字集合Λ\Lambdaの有限部分集合FFが

S⊆⋃λ∈FUλS \subseteq \bigcup_{\lambda\in F} U_\lambda

を満たすとき、{Uλ}λ∈F\{U_\lambda\}_{\lambda\in F}をU\mathcal{U}の有限部分被覆 (finite subcover) という。

U\mathcal{U}がSSの開被覆であるという条件を量化子で書き下すと、

∀x∈S, ∃λ∈Λ, x∈Uλ\forall x \in S,\ \exists \lambda \in \Lambda,\ x \in U_\lambda

です。ここでλ\lambdaはxxに応じて選んでよく、xxごとに別のUλU_\lambdaを取ることができます。これに対し有限部分被覆が存在するという主張は、xxごとの選び方を有限個へ束ねることができる、というものです。本単元が繰り返し扱ってきた量化子の順序の問題が、ここにも現れます。

例 1.2 (無限個の族から有限個を選ぶ).S=[0,1]S=[0,1]とし、各x∈[0,1]x \in [0,1]に対してUx=(x−13, x+13)U_x = \left(x-\frac13,\ x+\frac13\right)とおく。x∈Uxx \in U_xであるから、{Ux}x∈[0,1]\{U_x\}_{x\in[0,1]}はSSの開被覆である。この族は無限個の開区間からなるが、

U0∪U1/3∪U2/3∪U1=(−13,13)∪(0,23)∪(13,1)∪(23,43)=(−13, 43)U_0 \cup U_{1/3} \cup U_{2/3} \cup U_1 = \left(-\tfrac13,\tfrac13\right)\cup\left(0,\tfrac23\right)\cup\left(\tfrac13,1\right)\cup\left(\tfrac23,\tfrac43\right) = \left(-\tfrac13,\ \tfrac43\right)

であり、[0,1][0,1]はこの4個で覆われる。すなわち有限部分被覆が存在する。

この例では、開区間の幅がxxによらず一定でしたから、有限個で足りることを直接に確かめることができました。次の定理が主張するのは、幅が場所ごとにどれほど不規則であっても、有限個で足りるということです。

2 どのような開被覆からも有限個を選ぶことができる

定理 2.1 (有界閉区間の被覆性).a≤ba \le bとする。有界閉区間[a,b][a,b]の任意の開被覆は、有限部分被覆をもつ。

証明.U={Uλ}λ∈Λ\mathcal{U}=\{U_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}を[a,b][a,b]の開被覆とし、

S={ x∈[a,b] : [a,x] を U の有限個で覆うことができる }S = \bigl\{\, x \in [a,b] \ :\ [a,x] \text{ を } \mathcal{U} \text{ の有限個で覆うことができる} \,\bigr\}

とおく。

a∈[a,b]a \in [a,b]であるから、a∈Uλ0a \in U_{\lambda_0}となるλ0\lambda_0が存在する。[a,a]={a}⊆Uλ0[a,a]=\{a\} \subseteq U_{\lambda_0}であるからa∈Sa \in Sであり、SSは空ではない。またS⊆[a,b]S \subseteq [a,b]であるから、bbはSSの上界である。したがって上限公理により上限c=sup⁡Sc=\sup Sが存在する(§D1.4 定義 1.1)。a∈Sa \in Sとbbが上界であることからa≤c≤ba \le c \le bである。

c∈[a,b]c \in [a,b]であるから、c∈Uμc \in U_\muとなるμ∈Λ\mu \in \Lambdaが存在する。UμU_\muは開区間であるから、あるδ>0\delta>0について(c−δ, c+δ)⊆Uμ(c-\delta,\ c+\delta) \subseteq U_\muとなる。

c=sup⁡Sc=\sup Sであるから、§D1.4 命題 1.6によりx>c−δx > c-\deltaを満たすx∈Sx \in Sが存在する。x∈Sx \in Sであるから、有限個Uλ1,…,UλkU_{\lambda_1},\dots,U_{\lambda_k}が[a,x][a,x]を覆う。この有限個へUμU_\muを加えた族をF\mathcal{F}とすると、F\mathcal{F}の和集合は[a,x]∪(c−δ,c+δ)[a,x]\cup(c-\delta,c+\delta)を含む。x>c−δx > c-\deltaであるから、c−δ<y<c+δc-\delta < y < c+\deltaを満たす限り[a,y][a,y]はこの和集合に含まれる。すなわちF\mathcal{F}は[a,y][a,y]を覆う。

上のyyとしてy=cy=cを取ることができる(c−δ<c<c+δc-\delta<c<c+\delta)。よってF\mathcal{F}は[a,c][a,c]を覆い、c∈[a,b]c \in [a,b]であるからc∈Sc \in Sである。

c<bc<bと仮定する。y=min⁡(c+δ2, b)y=\min\left(c+\frac\delta2,\ b\right)とおくとc<y≤bc<y\le bかつy<c+δy<c+\deltaであるから、F\mathcal{F}は[a,y][a,y]を覆い、y∈Sy \in Sとなる。ところがy>c=sup⁡Sy>c=\sup Sであるから、ccがSSの上界であることに反する。したがってc=bc=bである。

以上よりb=c∈Sb=c \in S、すなわち[a,b][a,b]はU\mathcal{U}の有限個で覆うことができる。▨

証明の各段階が、どの仮定を使ったのかを確かめておきます。区間が有界であることは、bbがSSの上界であるという段階で使いました。ここが働かなければ上限ccが存在しません。区間が閉じていることは、c∈[a,b]c \in [a,b]からccを含むUμU_\muを取るという段階で使いました。ccが区間に属さなければ、ccを含む開区間が族の中にあるとは限りません。この二つの仮定を実際に外すと結論が成り立たなくなることを、次に例で確かめます。

3 仮定を外すと成り立たない

例 3.1 (有界だが閉じていない区間).S=(0,1]S=(0,1]とし、Un=(1n, 2)U_n=\left(\frac1n,\ 2\right)(n=1,2,…n=1,2,\dots)とおく。

{Un}\{U_n\}はSSの開被覆である。実際、x∈(0,1]x \in (0,1]に対してアルキメデスの性質(§D1.4 命題 2.1)によりn>1xn>\frac1xとなる正の整数nnが存在し、このとき1n<x≤1<2\frac1n<x\le1<2であるからx∈Unx \in U_nとなる。

一方、有限個Un1,…,UnkU_{n_1},\dots,U_{n_k}を取りN=max⁡{n1,…,nk}N=\max\{n_1,\dots,n_k\}とおくと、UnU_nがnnについて増大する族であることからUn1∪⋯∪Unk=(1N,2)U_{n_1}\cup\cdots\cup U_{n_k}=\left(\frac1N,2\right)である。12N\frac{1}{2N}は0<12N≤10<\frac1{2N}\le1を満たすのでSSに属するが、12N≤1N\frac1{2N}\le\frac1Nであるからこの和集合には属しない。したがって有限部分被覆は存在しない。

例 3.2 (閉じているが有界でない区間).S=[0,∞)S=[0,\infty)とし、Vn=(−1, n)V_n=(-1,\ n)(n=1,2,…n=1,2,\dots)とおく。

{Vn}\{V_n\}はSSの開被覆である。実際、x≥0x\ge0に対してアルキメデスの性質によりn>xn>xとなる正の整数nnが存在し、x∈Vnx \in V_nとなる。

一方、有限個Vn1,…,VnkV_{n_1},\dots,V_{n_k}を取りN=max⁡{n1,…,nk}N=\max\{n_1,\dots,n_k\}とおくと、その和集合は(−1,N)(-1,N)である。N∈SN \in SだがN∉(−1,N)N \notin (-1,N)であるから、有限部分被覆は存在しない。

第一の例では、区間の左端にあたる00が区間に属しません。証明でc∈[a,b]c \in [a,b]からccを含む開区間を取った段階が、ここで働きません。第二の例ではSSが上に有界ではありません。証明で上限ccを作った段階が、ここで働きません。二つの仮定は、どちらも落とすことができないということです。

4 一様連続性の証明でどう用いるか

有界閉区間で連続な関数が一様連続であることは、次の記事が示します。連続性の定義からは、各点ttごとに正の数δt\delta_tが得られますが、δt\delta_tはttに依存してよいので、そのままでは点によらない一つのδ\deltaが得られません。

5 一般の空間について

注意 5.1 (コンパクト性への一般化). 本記事が証明したのは、実数直線の有界閉区間についての主張である。開被覆から有限部分被覆を取ることができるという性質は、一般の位相空間に対してコンパクトであることの定義として採用される。有限次元の実数空間では、有界かつ閉であることとコンパクトであることが同値になる。一方、一般の距離空間では、有界かつ閉であってもコンパクトとは限らない。これらの主張を本記事は証明せず、「位相空間論 I」が扱う。

参考文献

  1. 杉浦光夫『解析入門 I』基礎数学 2, 東京大学出版会, 1980.
  2. Walter Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., International Series in Pure and Applied Mathematics, McGraw Hill, 1976.

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