1 覆うということ
まず、覆うという語を定義します。
定義 1.1 (開被覆と有限部分被覆). 集合S⊆Rと、開区間からなる族U={Uλ}λ∈Λについて
S⊆λ∈Λ⋃Uλが成り立つとき、UをSの開被覆 (open cover) という。添字集合Λの有限部分集合Fが
S⊆λ∈F⋃Uλを満たすとき、{Uλ}λ∈FをUの有限部分被覆 (finite subcover) という。
UがSの開被覆であるという条件を量化子で書き下すと、
∀x∈S, ∃λ∈Λ, x∈Uλ
です。ここでλはxに応じて選んでよく、xごとに別のUλを取ることができます。これに対し有限部分被覆が存在するという主張は、xごとの選び方を有限個へ束ねることができる、というものです。本単元が繰り返し扱ってきた量化子の順序の問題が、ここにも現れます。
例 1.2 (無限個の族から有限個を選ぶ).S=[0,1]とし、各x∈[0,1]に対してUx=(x−31, x+31)とおく。x∈Uxであるから、{Ux}x∈[0,1]はSの開被覆である。この族は無限個の開区間からなるが、
U0∪U1/3∪U2/3∪U1=(−31,31)∪(0,32)∪(31,1)∪(32,34)=(−31, 34)であり、[0,1]はこの4個で覆われる。すなわち有限部分被覆が存在する。
この例では、開区間の幅がxによらず一定でしたから、有限個で足りることを直接に確かめることができました。次の定理が主張するのは、幅が場所ごとにどれほど不規則であっても、有限個で足りるということです。
2 どのような開被覆からも有限個を選ぶことができる
定理 2.1 (有界閉区間の被覆性).a≤bとする。有界閉区間[a,b]の任意の開被覆は、有限部分被覆をもつ。
証明.U={Uλ}λ∈Λを[a,b]の開被覆とし、
S={x∈[a,b] : [a,x] を U の有限個で覆うことができる}とおく。
a∈[a,b]であるから、a∈Uλ0となるλ0が存在する。[a,a]={a}⊆Uλ0であるからa∈Sであり、Sは空ではない。またS⊆[a,b]であるから、bはSの上界である。したがって上限公理により上限c=supSが存在する(§D1.4 定義 1.1)。a∈Sとbが上界であることからa≤c≤bである。
c∈[a,b]であるから、c∈Uμとなるμ∈Λが存在する。Uμは開区間であるから、あるδ>0について(c−δ, c+δ)⊆Uμとなる。
c=supSであるから、§D1.4 命題 1.6によりx>c−δを満たすx∈Sが存在する。x∈Sであるから、有限個Uλ1,…,Uλkが[a,x]を覆う。この有限個へUμを加えた族をFとすると、Fの和集合は[a,x]∪(c−δ,c+δ)を含む。x>c−δであるから、c−δ<y<c+δを満たす限り[a,y]はこの和集合に含まれる。すなわちFは[a,y]を覆う。
上のyとしてy=cを取ることができる(c−δ<c<c+δ)。よってFは[a,c]を覆い、c∈[a,b]であるからc∈Sである。
c<bと仮定する。y=min(c+2δ, b)とおくとc<y≤bかつy<c+δであるから、Fは[a,y]を覆い、y∈Sとなる。ところがy>c=supSであるから、cがSの上界であることに反する。したがってc=bである。
以上よりb=c∈S、すなわち[a,b]はUの有限個で覆うことができる。▨
証明の各段階が、どの仮定を使ったのかを確かめておきます。区間が有界であることは、bがSの上界であるという段階で使いました。ここが働かなければ上限cが存在しません。区間が閉じていることは、c∈[a,b]からcを含むUμを取るという段階で使いました。cが区間に属さなければ、cを含む開区間が族の中にあるとは限りません。この二つの仮定を実際に外すと結論が成り立たなくなることを、次に例で確かめます。
3 仮定を外すと成り立たない
例 3.1 (有界だが閉じていない区間).S=(0,1]とし、Un=(n1, 2)(n=1,2,…)とおく。
{Un}はSの開被覆である。実際、x∈(0,1]に対してアルキメデスの性質(§D1.4 命題 2.1)によりn>x1となる正の整数nが存在し、このときn1<x≤1<2であるからx∈Unとなる。
一方、有限個Un1,…,Unkを取りN=max{n1,…,nk}とおくと、Unがnについて増大する族であることからUn1∪⋯∪Unk=(N1,2)である。2N1は0<2N1≤1を満たすのでSに属するが、2N1≤N1であるからこの和集合には属しない。したがって有限部分被覆は存在しない。
例 3.2 (閉じているが有界でない区間).S=[0,∞)とし、Vn=(−1, n)(n=1,2,…)とおく。
{Vn}はSの開被覆である。実際、x≥0に対してアルキメデスの性質によりn>xとなる正の整数nが存在し、x∈Vnとなる。
一方、有限個Vn1,…,Vnkを取りN=max{n1,…,nk}とおくと、その和集合は(−1,N)である。N∈SだがN∈/(−1,N)であるから、有限部分被覆は存在しない。
第一の例では、区間の左端にあたる0が区間に属しません。証明でc∈[a,b]からcを含む開区間を取った段階が、ここで働きません。第二の例ではSが上に有界ではありません。証明で上限cを作った段階が、ここで働きません。二つの仮定は、どちらも落とすことができないということです。
4 一様連続性の証明でどう用いるか
有界閉区間で連続な関数が一様連続であることは、次の記事が示します。連続性の定義からは、各点tごとに正の数δtが得られますが、δtはtに依存してよいので、そのままでは点によらない一つのδが得られません。
5 一般の空間について