§D1.28リーマン積分の限界

最終更新

必修の「関数列の一様収束」では、関数列が一様に収束することを仮定して、極限と積分の順序を入れ替えてよいことを証明しました(§D1.22 定理 3.1)。その定理は、極限の関数が可積分であることもあわせて結論していました。

本記事は、仮定を各点収束まで弱めたときに何が起こるのかを示します。示すのは二つの例です。第一の例では、各項も極限の関数も可積分であるのに、積分の値が一致しません。第二の例では、各項は可積分であるのに、極限の関数が可積分ではありません。二つを合わせると、リーマン可積分な関数の全体が、各点収束という操作について閉じていないことが分かります。

本記事は展望であり、必修のどの記事も本記事の内容に依存しません。

1 積分の値が極限へ移らない例

区間の左端に、高さがnnで幅が1n\frac1nの部分をもつ関数を考えます。面積はnnによらず11のままですが、幅が00へ縮むので、各点での値は00へ近づきます。

例 1.1 (高さが増していく関数列).n≥2n \ge 2とし、fn:[0,1]→Rf_n:[0,1]\to\mathbb{R}を

fn(x)={n(0<x≤1n)0(x=0 または 1n<x≤1)f_n(x)=\begin{cases}n & \left(0<x\le \dfrac1n\right)\\[2mm] 0 & \left(x=0 \text{ または } \dfrac1n<x\le1\right)\end{cases}

と定める。fnf_nはx=0x=0とx=1nx=\frac1nの二点でのみ不連続な、階段状の関数である。

命題 1.2 (各点収束しても積分の値は移らない).例 1.1の関数列について、次が成り立つ。

  1. 各fnf_nは[0,1][0,1]でリーマン可積分であり、∫01fn(x) dx=1\int_0^1 f_n(x)\,dx=1である。
  2. {fn}\{f_n\}は[0,1][0,1]上で定数関数00へ各点収束する。

したがって

lim⁡n→∞∫01fn(x) dx=1≠0=∫01(lim⁡n→∞fn(x))dx\lim_{n\to\infty}\int_0^1 f_n(x)\,dx=1 \ne 0=\int_0^1\Bigl(\lim_{n\to\infty}f_n(x)\Bigr)dx

である。

証明.(1)を示す。0<s<1n0<s<\dfrac1nかつ1n+s<1\dfrac1n+s<1を満たすssを取り、分割

Ps:0<s<1n<1n+s<1P_s : 0<s<\frac1n<\frac1n+s<1

を考える。各小区間におけるfnf_nの上限と下限は次のとおりである。[0,s][0,s]では上限がnn、下限が00である。[s,1n]\left[s,\frac1n\right]ではfnf_nは定数nnであるから、上限も下限もnnである。[1n,1n+s]\left[\frac1n,\frac1n+s\right]では、x=1nx=\frac1nでの値がnnであるから上限がnn、下限が00である。[1n+s,1]\left[\frac1n+s,1\right]では上限も下限も00である。したがって

U(fn,Ps)=n s+n(1n−s)+n s+0=1+n s,L(fn,Ps)=0+n(1n−s)+0+0=1−n sU(f_n,P_s)=n\,s+n\left(\frac1n-s\right)+n\,s+0=1+n\,s,\qquad L(f_n,P_s)=0+n\left(\frac1n-s\right)+0+0=1-n\,s

である。ε>0\varepsilon>0に対してs<ε2ns<\dfrac{\varepsilon}{2n}と取るとU(fn,Ps)−L(fn,Ps)=2ns<εU(f_n,P_s)-L(f_n,P_s)=2ns<\varepsilonであるから、§D1.17 定理 2.4によりfnf_nは可積分である。さらに、上積分と下積分はいずれも1−ns1-ns以上1+ns1+ns以下であり、ssはいくらでも小さく取ることができるから、共通の値は11である。

(2)を示す。fn(0)=0f_n(0)=0であるからx=0x=0では収束する。0<x≤10<x\le1を固定すると、アルキメデスの性質(§D1.4 命題 2.1)によりN>1xN>\dfrac1xを満たす正の整数NNが存在する。n≥Nn \ge Nならば1n≤1N<x\dfrac1n \le \dfrac1N<xであるからfn(x)=0f_n(x)=0である。したがって{fn}\{f_n\}は定数関数00へ各点収束する。

最後に、定数関数00は可積分で積分の値が00であるから、主張の等式の右辺は00である。左辺は(1)により11である。▨

注意 1.3 (一斉に押さえることができる場合). 上の例で破れているのは、極限の関数の可積分性ではない。破れているのは値の一致だけである。一様収束していないことは、§D1.22 命題 1.2の量がsup⁡x∈[0,1]∣fn(x)−0∣=n\sup_{x\in[0,1]}|f_n(x)-0|=nとなり00へ収束しないことから分かる。したがって§D1.22 定理 3.1の仮定は満たされておらず、この例はその定理と矛盾しない。

上の例では、関数列の値の上限nnがnnとともに増大している。nnに依らない一つの定数で∣fn∣|f_n|をすべて押さえることができ、かつ極限の関数が可積分である場合には、各点収束だけで積分と極限を入れ替えてよいことが知られている。本記事はこの主張を証明せず、「測度と積分」へ委ねる。したがって上の例では、押さえる定数を取ることができないことが本質的である。

命題 2.2が扱う後の例も一様収束しない。したがって、二つの例はどちらも§D1.22 定理 3.1と矛盾しない。反例を作るときは、どの仮定を外したのかを毎回確かめる必要がある。

2 極限の関数が可積分でない例

第二の例では、各項が可積分であるのに、極限の関数が可積分でなくなります。有理数を一つずつ拾っていく関数列を作ります。

例 2.1 (有理数を一つずつ拾う関数列). 区間[0,1][0,1]に含まれる有理数の全体を一列に並べ、q1,q2,q3,…q_1,q_2,q_3,\dotsと書く(有理数の全体をこのように並べることができることは「数学の基礎」が扱う)。fn:[0,1]→Rf_n:[0,1]\to\mathbb{R}を

fn(x)={1(x∈{q1,…,qn})0(それ以外)f_n(x)=\begin{cases}1 & (x \in \{q_1,\dots,q_n\})\\ 0 & (\text{それ以外})\end{cases}

と定める。fnf_nは有限個の点でのみ00と異なる値をとる。

命題 2.2 (可積分な関数の列の極限が可積分でないことがある).例 2.1の関数列について、次が成り立つ。

  1. 各fnf_nは[0,1][0,1]でリーマン可積分であり、∫01fn(x) dx=0\int_0^1 f_n(x)\,dx=0である。
  2. {fn}\{f_n\}は[0,1][0,1]上で、有理数の点で11、無理数の点で00をとるディリクレ関数DD(§D1.18 例 3.1)へ各点収束する。
  3. DDは[0,1][0,1]でリーマン可積分ではない。

証明.(1)を示す。ε>0\varepsilon>0を与える。[0,1][0,1]の分割PPを、すべての小区間の幅がε4n\dfrac{\varepsilon}{4n}未満になるように取る。q1,…,qnq_1,\dots,q_nのいずれかを含む小区間は高々2n2n個である(一つの点は、それが分点である場合に二つの小区間に属する)。それらの小区間では上限が11、それ以外の小区間では上限が00であるから

U(fn,P)<2n⋅ε4n=ε2U(f_n,P) < 2n\cdot\frac{\varepsilon}{4n}=\frac{\varepsilon}{2}

である。一方、§D1.4 補題 2.3により、どの小区間にも無理数が含まれる。したがってすべての小区間で下限は00であり、L(fn,P)=0L(f_n,P)=0である。よってU(fn,P)−L(fn,P)<εU(f_n,P)-L(f_n,P) < \varepsilonとなり、§D1.17 定理 2.4によりfnf_nは可積分である。また、どの分割についても下限和が00であるから下積分は00であり、∫01fn=0\int_0^1 f_n=0である。

(2)を示す。x∈[0,1]x \in [0,1]が無理数ならば、すべてのnnについてfn(x)=0=D(x)f_n(x)=0=D(x)である。xxが有理数ならばx=qkx=q_kとなるkkが存在し、n≥kn \ge kならばfn(x)=1=D(x)f_n(x)=1=D(x)である。したがって各点収束する。

(3)を示す。§D1.18 例 3.1のとおりである。▨

この例では、そもそも∫01lim⁡nfn\int_0^1 \lim_{n}f_nという量が定まりません。したがって、極限と積分を入れ替えるという操作の意味自体が失われています。一様収束していないことは、sup⁡x∈[0,1]∣fn(x)−D(x)∣=1\sup_{x\in[0,1]}|f_n(x)-D(x)|=1(x=qn+1x=q_{n+1}で差が11になります)が00へ収束しないことから分かります。

二つの例を合わせると、次のように述べることができます。リーマン可積分な関数を各点収束の極限として並べても、その極限は可積分とは限らず、可積分であっても積分の値は極限へ移るとは限りません。可積分な関数の全体は、各点収束という操作について閉じていないということです。

3 測度による積分ではどうなるか

上の二つの例が示した限界は、リーマン積分を定義するときに、分割の小区間の幅によって面積を測ったことに由来します。ディリクレ関数が可積分でないのは、どの小区間にも有理数と無理数の両方が含まれ、幅で測る限り上限和と下限和の差が縮まらないからです。区間の幅ではなく、集合そのものの大きさを測る量を用意して積分を定義し直すと、二つの例の扱いが変わります。

注意 3.1 (二つの例が測度による積分でどう扱われるか). 測度に基づく積分では、次の三つが成り立つ。本記事はこれらを証明せず、「測度と積分」へ委ねる。

  1. 有理数の全体は測度が00の集合である。したがってディリクレ関数DDは測度に基づく意味で可積分であり、その積分の値は00である。命題 2.2の関数列についても、各項の積分と極限の関数の積分がともに00となり、交換が成り立つ。
  2. 各点収束する関数列について、すべての項を一つの可積分な関数で押さえることができるならば、積分と極限を入れ替えてよいことが成り立つ。
  3. 例 1.1の関数列については、sup⁡nfn(x)\sup_n f_n(x)が1x\frac1xの程度の大きさになり、これは(0,1](0,1]で可積分ではない。したがって2の条件が満たされず、測度に基づく積分でも交換は成り立たない。実際、各項の積分は11、極限の関数の積分は00のままである。

すなわち、第二の例が示すのはリーマン積分に固有の限界であり、第一の例が示すのは、積分の定義を変えても残る一般の事実である。

注意 3.2 (リーマン可積分であることの特徴づけ). 有界閉区間の上の有界関数がリーマン可積分であることは、その関数の不連続点の全体が測度00の集合であることと同値である。本記事はこの判定条件を証明せず、「測度と積分」へ委ねる。

この判定条件をディリクレ関数に適用すると、すべての点で不連続であり、[0,1][0,1]全体は測度00ではないため、リーマン可積分でないことが分かる。

参考文献

  1. Walter Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., International Series in Pure and Applied Mathematics, McGraw Hill, 1976.
  2. Stephen Abbott, Understanding Analysis, 2nd ed., Springer, New York, 2015.

前提記事