§D1.3well-defined 性の確認

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有理数を分数で表す方法は一つではありません。たとえば1/2=2/41/2=2/4であり、a>0a>0の有理数乗を分数表示から定めるときには、どちらの表示からも同じ値が得られる必要があります。このように、定義に含まれる選択を変えても結果が変わらない性質を well-defined 性といいます。代表元や近似列を用いる定義でも、同じ確認が必要です。本記事では、有理数乗の値が分数表示に依存しないことを証明し、実数乗を有理数の近似列から定めるときの選択非依存性へ接続します。

1 いつ確認が必要か

定義に代表元や表示の選択が入るとき、well-defined 性を確認する必要があります。商群G/NG/Nの演算(gN)(hN)=(gh)N(gN)(hN)=(gh)N、有理数の分数表示を用いる操作、商空間・商環・誘導写像は、いずれも選んだ代表や表示を変えても結果が変わらないことを必要とします。

2 確認の型

定義 2.1 (well-defined).∼\simを集合XX上の同値関係、X/ ⁣∼X/\!\simを商集合とする。写像f:X→Yf:X\to Yを用いてfˉ([x])=f(x)\bar f([x])=f(x)と定める。この対応が well-defined (well-defined) であるとは、代表の取り方によらないこと、すなわち

x∼x′ ⇒ f(x)=f(x′)x \sim x' \ \Rightarrow\ f(x) = f(x')

がすべてのx,x′∈Xx,x'\in Xについて成り立つことをいう。

定理 2.2 (商の普遍性).f:X→Yf:X\to Yが、すべてのx,x′∈Xx,x'\in Xについてx∼x′⇒f(x)=f(x′)x\sim x'\Rightarrow f(x)=f(x')を満たすとする。このとき、fˉ([x])=f(x)\bar f([x])=f(x)を満たす写像fˉ:X/ ⁣∼ →Y\bar f:X/\!\sim\,\to Yがただ一つ存在する。

証明. 類c∈X/ ⁣∼c\in X/\!\simの代表x∈cx\in cを一つ取り、fˉ(c)=f(x)\bar f(c)=f(x)と定める。別の代表x′∈cx'\in cを取るとx∼x′x\sim x'であるから、仮定によりf(x)=f(x′)f(x)=f(x')である。したがって、fˉ(c)\bar f(c)は代表によらず定まり、fˉ\bar fは写像になる。

gˉ:X/ ⁣∼ →Y\bar g:X/\!\sim\,\to Yもgˉ([x])=f(x)\bar g([x])=f(x)を満たすとする。任意の類ccはあるx∈Xx\in Xによってc=[x]c=[x]と表されるので、gˉ(c)=f(x)=fˉ(c)\bar g(c)=f(x)=\bar f(c)である。したがってgˉ=fˉ\bar g=\bar fである。▨

well-defined 性の確認では、同じ対象を表す二つの代表を取り、二つの代表から得られる値が一致することを示します。この確認は、§D1.2 定義 1.1 (一意存在)の一意性の証明と同じ形の含意を扱います。

例 2.3 (合同類の加法).Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}上の加法を[a]+[b]=[a+b][a]+[b]=[a+b]で定める。a≡a′a\equiv a'およびb≡b′(modn)b\equiv b'\pmod nならば、あるk,l∈Zk,l\in\mathbb Zによってa−a′=kna-a'=knおよびb−b′=lnb-b'=lnと表される。したがって

(a+b)−(a′+b′)=(k+l)n(a+b)-(a'+b')=(k+l)n

であり、a+b≡a′+b′(modn)a+b\equiv a'+b'\pmod n、すなわち[a+b]=[a′+b′][a+b]=[a'+b']である。このため、加法の値は二つの代表の選び方によらない。

例 2.4 (well-defined にならない“定義”).Z/6Z\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}からZ/4Z\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}への対応を[a]6↦[a]4[a]_6\mapsto[a]_4と定めようとしても、対応は well-defined ではない。実際、[0]6=[6]6[0]_6=[6]_6である一方、[0]4≠[6]4=[2]4[0]_4\ne[6]_4=[2]_4であるから、同じ元の二つの代表が異なる行き先を与える。

一般に、対応[a]n↦[a]m[a]_n\mapsto[a]_mが well-defined であるための必要十分条件はm∣nm\mid nである。実際、a−a′a-a'がnnの倍数であるときにmmの倍数でもあるという条件は、m∣nm\mid nと同値である。

3 有理数乗の分数表示

有理数乗を分数表示から定める場合には、同じ有理数を表す二つの分数から同じ値が得られることを確認する必要があります。

命題 3.1.a>0a>0とする。整数m,m′m,m'と正の整数n,n′n,n'が

mn=m′n′\frac{m}{n}=\frac{m'}{n'}

を満たすならば、

(an)m=(an′)m′\left(\sqrt[n]{a}\right)^m=\left(\sqrt[n']{a}\right)^{m'}

である。

証明.x=(an)mx=\left(\sqrt[n]{a}\right)^mおよびy=(an′)m′y=\left(\sqrt[n']{a}\right)^{m'}と置く。a>0a>0であるからx>0x>0およびy>0y>0である。§B3.1 定理 1.2により

xnn′=((an)n)mn′=amn′,ynn′=((an′)n′)m′n=am′nx^{nn'} =\left(\left(\sqrt[n]{a}\right)^n\right)^{mn'} =a^{mn'}, \qquad y^{nn'} =\left(\left(\sqrt[n']{a}\right)^{n'}\right)^{m'n} =a^{m'n}

である。仮定の両辺に正の整数nn′nn'を掛けるとmn′=m′nmn'=m'nであるから、xnn′=ynn′x^{nn'}=y^{nn'}である。nn′nn'は正の整数であり、正の実数上のnn′nn'乗は§B3.1 定理 2.1により単射である。したがってx=yx=yである。▨

4 実数乗を定めるときの選択

実数乗を有理数の近似列から定める場合には、近似列に沿う極限の存在に加えて、その極限が近似列の選び方によらないことが必要です。この選択非依存性は、指数関数を構成する既存の結果へ委ねます。

注意 4.1.a>0a>0、x∈Rx\in\mathbb Rとし、{rn}\{r_n\}と{sn}\{s_n\}をxxに収束する有理数の列とする。a≥1a\ge 1の場合、§B3.3 定理 3.1は{arn}\{a^{r_n}\}と{asn}\{a^{s_n}\}が収束すること、および二つの極限が等しいことを述べる。したがって、極限の存在と近似列の選択非依存性が同時に得られる。

0<a<10<a<1の場合、§B3.3 定理 4.2は、xxに収束する任意の有理数列{qn}\{q_n\}について{aqn}\{a^{q_n}\}がaxa^xに収束することを述べる。これを{rn}\{r_n\}と{sn}\{s_n\}に適用すると、二つの極限はいずれもaxa^xに等しい。したがって、この場合にも極限は近似列の選び方によらない。

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

次の「定義」が well-defined か(代表元・表示の取り方によらないか)を判定せよ。well-defined でないなら、代表元を2通り取って値が食い違う具体例を1つ挙げよ。well-defined なら、その確認を書け。

次の「定義」が well-defined かを判定せよ。well-defined でないなら、代表元を2通り取って値が食い違う具体例を挙げよ。

解法の型確認の型は1つ: 同じものを表す2つの代表元 x, x' を取り、定義した値が一致するか(x ~ x' ⇒\Rightarrow f(x) == f(x'))を見る。一致しない例が1つでもあれば、それは定義になっていない

  1. 例題 1

    有理数 pq に対し f(pq)=p+q で写像を定める\text{有理数 } \dfrac{p}{q} \ \text{に対し } f\left(\dfrac{p}{q}\right) = p + q \ \text{で写像を定める}
  2. 例題 2

    Z/2Z→{1,−1}, [a]↦(−1)a で写像を定める\mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \to \{1, -1\}, \ [a] \mapsto (-1)^a \ \text{で写像を定める}
  3. 例題 3

    Z/4Z→Z/8Z, [a]4↦[a]8 で写像を定める\mathbb{Z}/4\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}/8\mathbb{Z}, \ [a]_4 \mapsto [a]_8 \ \text{で写像を定める}
  4. 例題 4

    有理数の加法を、表示 pq, rs を使って pq+rs=ps+qrqs で定める\text{有理数の加法を、表示 } \dfrac{p}{q}, \ \dfrac{r}{s} \ \text{を使って } \dfrac{p}{q} + \dfrac{r}{s} = \dfrac{ps + qr}{qs} \ \text{で定める}
  5. 例題 5

    Z/5Z の加法を [a]+[b]=[a+b] で定める\mathbb{Z}/5\mathbb{Z} \ \text{の加法を } [a] + [b] = [a + b] \ \text{で定める}
  6. 例題 6

    Z/6Z の加法を [a]+[b]=[a+b] で定める\mathbb{Z}/6\mathbb{Z} \ \text{の加法を } [a] + [b] = [a + b] \ \text{で定める}
  7. 例題 7

    Z/7Z→Z/7Z, [a]↦[a2] で写像を定める\mathbb{Z}/7\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}/7\mathbb{Z}, \ [a] \mapsto [a^2] \ \text{で写像を定める}
  8. 例題 8

    Z/5Z→Z/5Z, [a]↦[2a] で写像を定める\mathbb{Z}/5\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}/5\mathbb{Z}, \ [a] \mapsto [2^a] \ \text{で写像を定める}
  9. 例題 9

    Z/5Z→Z/5Z, [a]↦[a2] で写像を定める\mathbb{Z}/5\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}/5\mathbb{Z}, \ [a] \mapsto [a^2] \ \text{で写像を定める}
  10. 例題 10

    Z/7Z→Z, [a]↦a で写像を定める\mathbb{Z}/7\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}, \ [a] \mapsto a \ \text{で写像を定める}

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

次の「定義」が well-defined か(代表元・表示の取り方によらないか)を判定せよ。well-defined でないなら、代表元を2通り取って値が食い違う具体例を1つ挙げよ。well-defined なら、その確認を書け。

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