概要

本単元は、面積、体積、長さ、変化の総量といった量を定積分として書き表し、その値を計算します。冒頭に微積分学の基本定理を置き、面積を求める操作と微分の逆をたどる操作が一致することを最初に確立します。そのうえで、多項式の積分から置換積分と部分積分へ計算する対象を広げ、区分求積法によって、定積分が長方形の面積の和の極限として得られることを確かめます。さらに、体積と曲線の長さを求め、多項式によって関数を近似します。応用では、微分方程式を満たす関数を導き、反復によって方程式の解に近づきます。

本単元は、求めたい量を微小な部分の量の和として表し、その和を定積分として書き表す手順を、面積、体積、長さのそれぞれについて実行します。各記事は、何を微小な部分に分けているのか、その部分がどの量に対応するのか、積分変数と積分の範囲が何を表すのかを示します。リーマン和による定積分の定義と、極限操作の厳密な正当化は「ε-論法と基礎解析」で扱います。

この単元のねらい

本単元は、読者が次に掲げる能力を習得することを目標とします。

  • 面積関数を微分すると元の関数に戻ることを説明し、定積分が原始関数の両端の値の差に等しいことを導くことができます。
  • 不定積分を、微分すると与えられた関数になる関数の全体として捉え、積分定数を含めて計算することができます。
  • 多項式の定積分を計算し、曲線がxx軸の下にある場合と、二つの曲線に挟まれた領域の場合とについて、符号を区別して面積を求めることができます。
  • 被積分関数の形に応じて置換積分と部分積分を選び、定積分では積分の範囲を置き換えた変数の範囲へ直すことができます。あわせて、指数関数の積分から得られる不等式を用いて、xxが限りなく大きくなるときのxkex\dfrac{x^k}{e^x}とlog⁡xx\dfrac{\log x}{x}の極限を求めることができます。
  • 和の形で与えられた極限を定積分として計算し、長方形の幅と代表点が積分の何に対応するのかを述べることができます。
  • 立体の体積と曲線の長さを、断面の面積および微小な部分の長さの積分として求めることができます。
  • 関数を接線および高次の多項式によって近似し、その近似を用いることができる範囲を述べることができます。
  • 変数分離形の微分方程式を解き、初期条件から積分定数を定め、両辺を割る操作で消える定数解を別に確かめることができます。
  • 方程式をx=f(x)x=f(x)の形に書き直して反復を作り、反復によって得られる数列が収束するかどうかを、不動点における導関数の絶対値によって判定することができます。

前提知識

本単元は、「関数の性質」で扱う微分を前提とします。不定積分は、微分すると与えられた関数になる関数を求める操作なので、読者には、微分の計算規則と、三角関数、指数関数、対数関数の導関数を計算することが求められます。微積分学の基本定理についても、面積関数を微分して元の関数に戻す議論そのものが微分係数の定義に乗っているため、微分の定義を前提とします。

記事によっては、さらに次の内容を用います。区分求積法では、「数列と極限」で扱う和の計算と数列の極限を用います。求積では、「図形と方程式」で扱う曲線の媒介変数表示と極座標を用います。

この単元を貫く4つの方針

本単元の各記事は、次の4点を共通の方針とします。

  1. 積分を微分の逆の操作として定めます。 不定積分は、微分すると与えられた関数になる関数の全体です。得られた結果を微分して被積分関数に戻ることを確かめる検算を、計算の手順に含めます。
  2. 定積分を和の極限として示します。 定積分は、区間を細かく分けて長方形の面積を足し合わせた和の、分割を細かくしたときの極限です。面積、体積、長さ、変化の総量のいずれを求める場合も、何を細かく分け、何を足しているのかを述べます。
  3. 求めたい量を微小な部分の和として書き表します。 量を微小な部分の量の和として表したうえで、その和を定積分に置き換えます。置き換えるときには、積分変数、積分の範囲、および微小な部分が表す量を明示します。
  4. 近似には、用いることができる範囲を添えます。 接線による近似、テイラー多項式による近似、反復による解の計算は、いずれも近似です。どの範囲で近似が成り立つのか、その範囲の外で何が起きるのかを併せて述べます。

難易度区分

本単元は、8記事を「基礎」6記事と「応用」2記事に分けます。

基礎は、微積分学の基本定理から始めます。本単元は、微分を「関数の性質」へ委ねて積分から扱うため、微分と積分を結ぶ基本定理を最初に置きます。定積分を原始関数の両端の値の差として計算する方法をここで確立すると、続く記事では、定積分の計算そのものを扱うことができます。そのうえで、多項式の積分と面積へ進み、置換積分と部分積分によって計算することができる関数の範囲を広げ、区分求積法によって、和の極限と定積分が一致することを確かめます。さらに、体積と曲線の長さを求め、最後に多項式による関数の近似を置きます。

応用は、微分方程式を解いて未知の関数を求める手順と、反復によって方程式の解に近づく手続きを扱います。基礎が定積分の値を求めるのに対して、応用の2記事は、与えられた条件を満たす関数と、方程式の解の近似値を求めます。

基礎の6記事は、本単元で必ず読む内容であり、順に読むことを想定しています。応用の2記事は互いに独立しており、必修ではなく、読者は関心に応じて選んで読むことができます。

基礎

定積分と微分の関係を確立し、量を定積分として書き表して計算することができるようにする段階です。各記事が扱う内容は、次のとおりです。

  • 微積分学の基本定理 — 左端を固定して右端だけを動かしたときの符号つきの面積を、面積関数として定義します。連続な関数について、この面積関数を微分すると元の関数に戻ることを示し、そこから、定積分が原始関数の両端の値の差に等しいことを導きます。積分変数と端点を別の文字で書き分ける理由と、原始関数の選び方によらず定積分の値が定まることも確かめます。
  • 多項式の積分と面積 — 不定積分を、微分すると与えられた関数になる関数の全体として定義し、そのうちのどの二つも定数の差だけ異なることを積分定数によって表します。多項式の不定積分と定積分を計算し、答えを微分して被積分関数に戻ることを検算します。曲線がxx軸より上にある場合に定積分が曲線とxx軸の間の面積を与えることを確かめ、下にある場合と、二つの曲線に挟まれた領域については符号の扱いを示します。
  • 置換積分・部分積分 — 合成関数の微分法を逆にたどる置換積分と、積の微分法を逆にたどる部分積分によって、多項式以外の関数を積分します。定積分では積分の範囲を置き換えた変数の範囲へ直し、置き換えに用いる関数が微分可能であることを確かめます。被積分関数に合成の形と積の形のどちらが現れるかによって技法を選び、部分積分では、微分すると簡単になる側を微分します。あわせて、指数関数の積分を繰り返し用いて、正の整数nnとすべてのx>0x > 0についてex>xnn!e^x > \dfrac{x^n}{n!}が成り立つことを、数学的帰納法によって示します。この不等式から、正の整数kkを固定してxxを限りなく大きくしたとき、xkex\dfrac{x^k}{e^x}とlog⁡xx\dfrac{\log x}{x}がともに00に近づくことを導きます。
  • 区分求積法 — 連続な関数について、区間を等分して長方形の面積を足し合わせ、分割を細かくした極限が定積分に一致することを示します。和の形で与えられた極限については、長方形の幅をくくり出して残りを代表点の関数と読み、代表点が動く範囲を積分の区間として、定積分へ書き換えます。
  • 求積 — 立体の体積を断面の面積の積分として求め、回転体については、回転軸に垂直な円板の面積、または回転軸に平行な円筒の側面積を積分します。回転軸がxx軸である場合とyy軸である場合、および二つの曲線に挟まれた領域の回転を区別します。曲線の長さは、導関数が連続な曲線について、微小な部分を直角三角形の斜辺として近似して積分し、媒介変数表示や極座標で与えられた曲線についても同じ手順で求めます。
  • 一次近似とテイラー展開入門 — 接線による一次近似から、次数を上げた多項式による近似へ進みます。nn階微分可能な関数について、展開の中心でnn階までの微分係数が元の関数と一致するnn次以下の多項式は、nn次テイラー多項式だけです。近似を用いることができる範囲は関数ごとに定まっており、その範囲の外では、次数を上げるほど値が元の関数から遠ざかる例を挙げます。

応用

条件を満たす関数を求める手順と、方程式の解に近づく手続きを扱う段階です。2記事は互いに独立しており、必修ではなく、読者は関心に応じて選んで読むことができます。各記事が扱う内容は、次のとおりです。

  • 微分方程式入門 — 未知の関数とその導関数が満たす関係式として微分方程式を定義し、導関数がxxだけの式とyyだけの式の積に等しい変数分離形を解きます。一般解と特殊解を区別し、初期条件から積分定数を定め、両辺を割る操作で消える定数解を別に確かめます。変化の速さが現在の量に比例するという条件を微分方程式として書き表し、指数関数による増加と減衰を導きます。
  • 不動点反復 — 方程式をx=f(x)x=f(x)の形に書き直し、初期値から反復して得られる数列が収束し、ffが連続であれば、その極限が方程式の解になることを示します。不動点における導関数の絶対値が11より小さければ誤差が縮み、大きければ拡大することを、一次近似によって確かめます。この判定が不動点の近くから始めた場合に限られることを述べ、書き直し方によって収束するかどうかが変わる例を比較します。

学習到達点の確認方法

同じ題材であっても、本単元が確かめる内容は区分によって異なります。

  • 基礎では、読者が不定積分と定積分を正確に計算し、積分定数と符号を管理することができるかを確かめます。結果を微分して被積分関数に戻る検算も、この段階に含めます。あわせて、面積関数の微分が元の関数に戻ることから、定積分を原始関数の両端の値の差として計算する方法が導かれる筋道を、読者が自分の言葉で説明することができるかを見ます。求積については、読者が求めたい量を微小な部分の和として表し、積分変数と積分の範囲を定めることができるかを、近似については、読者が近似を用いることができる範囲を述べることができるかを確かめます。
  • 応用では、読者が変数分離形の微分方程式を解いて初期条件から積分定数を定め、両辺を割る操作で消える定数解を別に確かめることができるかを見ます。反復については、読者が収束するかどうかを判定し、その判定が不動点の近くから始めた場合に限られることを述べることができるかを確かめます。

本単元は、演習に、積分の値、面積、体積、長さのように答えが一意に定まる計算問題を用います。量を積分として書き表す問題については、積分変数、積分の範囲、および微小な部分が表す量を含む説明を評価の対象とします。可積分性についての精密な議論は求めず、計算の正確さと、量を積分として書き表す手順の妥当さを評価します。

前後の単元との関係

  • 関数の性質 — 同単元は、微分、増減、極値、および各種の関数の導関数を扱います。本単元の積分は微分の逆をたどる操作として定義されるため、本単元は同単元の内容を全体にわたって用います。
  • 数列と極限 — 同単元は、和の計算と数列の極限を扱います。本単元は、長方形の面積の和の極限を定積分として計算するために、これを区分求積法で用います。
  • 図形と方程式 — 同単元は、曲線の媒介変数表示と極座標を扱います。本単元は、それらの表示で与えられた曲線について、長さと、囲む面積を求めます。
  • 場合の数と確率統計 — 同単元は、連続型の確率分布を扱う際に、確率を面積として求めるために本単元の積分を用います。
  • 受験微積分 — 同単元は、大学入試の微積分で題材になりやすい数学的な話題を一つずつ取り上げ、その内容と計算の筋道を最後まで通します。本単元が積分の計算そのものを互いに積み上がる形で扱うのに対して、同単元は、その計算をまとまった一つの題材に対して最後まで実行します。同単元のうち、変数分離形の微分方程式を解く題材は、本単元の応用で扱う手順をそのまま用います。
  • ε-論法と基礎解析 — 同単元は、リーマン積分の定義、可積分条件、微積分学の基本定理の証明、テイラーの定理と剰余項の評価、および広義積分を扱います。本単元が計算として扱った操作を、同単元は定義に基づいて正当化します。
  • 常微分方程式 — 同単元は、微分方程式の解法と、解の存在と一意性を体系的に扱います。本単元は、変数分離形を解いて解の形を確かめるところまでを扱います。
  • 数値解析 I — 同単元は、反復法の収束の速さと誤差の評価を一般の形で扱います。本単元の不動点反復は、収束するかどうかの判定を一次近似によって行うところまでです。

教育課程上の位置づけと参考年次

本単元の参考年次は高等学校2年から3年です。多項式の積分と面積は日本の課程では高等学校2年に置かれ、置換積分と部分積分から先は高等学校3年にあたります。微分方程式、多項式による関数の近似、および反復による解法は、日本の課程には含まれません。

本単元の内容と各国の教育課程との主な対応は、次のとおりです。積分をどの段階でどこまで扱うかには国による差が大きく、必修としない国もあります。以下は、内容の配置を比較するための参考です。

  • 日本 — 高等学校学習指導要領(平成30年告示)の「数学II 微分・積分の考え」における積分の内容と、「数学III 積分法」に主として対応します。微分方程式、テイラー展開、反復による解法は、同要領の内容には含まれません。
  • 韓国 — 2022改訂教育課程は、積分を微積分に関する選択科目で扱います。多項式の積分と、各種の関数を含む積分とは、異なる科目に分かれて置かれます。
  • 中国 — 普通高中课程方案和语文等学科课程标准(2017年版2020年修订)は、選択性必修課程「一元函数导数及其应用」で導関数とその応用を扱いますが、定積分は必修課程および選択性必修課程の内容に含まれず、発展的な選修課程で扱われます。
  • 米国 — 連邦教育省の説明のとおり、教育基準は州が定めます。比較資料として Common Core State Standards for Mathematicsを用いると、積分は同標準に含まれません。積分と微積分学の基本定理は、 Advanced Placementの微積分科目で扱われます。
  • フランス — lycée général et technologiqueの数学課程では、 terminaleの専門数学における原始関数(primitives)、積分計算(calcul intégral)、および微分方程式に主として対応します。
  • ドイツ — 各州が学校課程を定め、 KMKが全国共通の到達基準を示します。解析(Analysis)における積分計算と、微分と積分を結ぶ基本定理(Hauptsatz der Differential- und Integralrechnung)が、一般大学入学資格に向けた課程で扱われます。
  • イギリス(England) — GCE AS and A level mathematicsの「Integration」に主として対応します。不定積分と定積分、面積、置換積分と部分積分、および変数分離形の微分方程式が扱われます。曲線の長さとマクローリン級数は Further Mathematicsの内容として扱われます。