1 漸近同値
大きさを比べる言い方を、先に定めます。
定義 1.1 (漸近同値). 数列{an}と{bn}について、ある番号から先でbn=0であり、かつ
n→∞limbnan=1が成り立つとき、{an}と{bn}は漸近同値 (asymptotic equivalence) であるといい、an∼bnと書く。
例 1.2 (比についての主張であって、差についての主張ではない).an=n2+n、bn=n2とおくとbnan=1+n1→1であるからan∼bnである。一方an−bn=n→∞である。
漸近同値であっても差はいくらでも大きくなることがある。スターリングの公式が主張するのも比についてであり、n!と右辺の差が小さいことではない。
2 和と積分の差を追う
logn!=∑k=1nlogkであり、logは単調増加ですから、この和は∫1nlogxdxと近い値をとります。xlogx−xはlogxの原始関数ですから、§D1.19 定理 2.1により
∫1nlogxdx=nlogn−n+1
です。和と積分の差そのものをnの関数として追い、それが収束することを示します。
命題 2.1 (和と積分の差は収束する).
Dn=logn!−(n+21)logn+n(n=1,2,…)とおく。このときDn=logn!−∫1nlogxdx−21logn+1であり、数列{Dn}は単調減少で下に有界である。したがって{Dn}は収束する。さらに、その極限をDとすると、すべてのn≥1について
0<Dn−D<12n1が成り立つ。
証明.∫1nlogxdx=nlogn−n+1であるから、logn!−∫1nlogxdx−21logn+1=logn!−nlogn+n−21logn=Dnである。
n≥1について
Dn−Dn+1=(logn!−log(n+1)!)−(n+21)logn+(n+23)log(n+1)−1=(n+21)lognn+1−1である。
t=2n+11とおくと0<t≤31であり、1−t1+t=2n2n+2=nn+1、n+21=2t1である。u↦log1−u1+uの導関数は1+u1+1−u1=1−u22であるから、§D1.19 定理 2.1により
log1−t1+t=∫0t1−u22duである。したがって
Dn−Dn+1=2t1∫0t1−u22du−1=2t1∫0t(1−u22−2)du=t1∫0t1−u2u2duとなる。
被積分関数1−u2u2は0<u≤t≤31で正であるから、上の積分は正である。よってDn>Dn+1であり、{Dn}は単調減少である。
0≤u≤tでは1−u2u2≤1−t2u2であり、0<u<tでは不等号は狭義である。したがって
Dn−Dn+1<t1⋅1−t21⋅3t3=31⋅1−t2t2である。t=2n+11より1−t2t2=(2n+1)2−11=4n(n+1)1であるから、
Dn−Dn+1<12n(n+1)1=121(n1−n+11)が成り立つ。
n=1の場合はD1=log1!−23log1+1=1>1211である。n≥2の場合、上の不等式をk=1からn−1まで加えると、右辺は望遠鏡状に打ち消し合って
D1−Dn<121(1−n1)<121である。したがってDn>1−121=1211であり、{Dn}は下に有界である。
単調減少で下に有界であるから、{−Dn}へ§D1.7 定理 1.1を適用して{Dn}は収束する。その極限をDとする。
上の不等式をk=nからk=m−1まで加えるとDn−Dm<121(n1−m1)<12n1である。m→∞とすると、極限は不等式の向きを保つのでDn−D≤12n1であるが、Dn−Dn+1<121(n1−n+11)が狭義であることからDn−D<12n1が従う。また{Dn}は狭義単調減少であるからDn>D、すなわちDn−D>0である。▨
定理 2.2 (定数を除いた階乗の評価). ある定数C>0が存在して
n!∼Cnn+1/2e−nが成り立つ。
証明.命題 2.1のDnの定義からlogn!=Dn+(n+21)logn−n、すなわち
nn+1/2e−nn!=eDnである。Dn→Dであり、指数関数は連続であるからeDn→eDである。C=eD>0とおくとCnn+1/2e−nn!→1となり、主張が従う。▨
ここまでの議論はlogの単調性と積分だけを使っており、円周率はどこにも現れていません。定数Cを決めるには、円周率が現れる量と階乗を結びつける別の等式が要ります。それがウォリスの公式です。
3 ウォリスの公式で定数を決める
証明.In=∫0π/2sinnxdxとおく。I0=2π、I1=1である。
n≥2のとき、部分積分により
In=∫0π/2sinn−1xsinxdx=[−sinn−1xcosx]0π/2+(n−1)∫0π/2sinn−2xcos2xdxである。第一項は0である。cos2x=1−sin2xを用い、u(x)=sinn−2x、v(x)=sinnx、λ=1、μ=−1として§D1.17 系 3.3を適用すると、In=(n−1)(In−2−In)、すなわちIn=nn−1In−2となる。
この漸化式から、数学的帰納法により
I2n=(2n)!!(2n−1)!!⋅2π,I2n+1=(2n+1)!!(2n)!!が得られる。
0≤x≤2πでは0≤sinx≤1であるからsin2n+1x≤sin2nx≤sin2n−1xである。二つの点ごとの不等式に§D1.17 命題 3.4を適用してI2n+1≤I2n≤I2n−1を得る。漸化式よりI2n+1=2n+12nI2n−1、すなわちI2n−1=2n2n+1I2n+1であるから
1≤I2n+1I2n≤2n2n+1となり、§D1.6 定理 3.1によりI2n+1I2n→1である。
(2n+1)!!=(2n+1)(2n−1)!!であるから
I2n+1I2n=(2n)!!(2n−1)!!⋅2π⋅(2n)!!(2n+1)!!=2π(2n+1)((2n)!!(2n−1)!!)2である。左辺が1へ収束することから(2n+1)((2n)!!(2n−1)!!)2→π2であり、この量は正であるから、逆数を取って
2n+11((2n−1)!!(2n)!!)2⟶2πとなる。▨
証明.an=nn+1/2e−nn!とおくと、定理 2.2の証明によりan→Cである。
(2n)!!=2nn!であり、(2n)!=(2n)!!(2n−1)!!より(2n−1)!!=2nn!(2n)!である。したがって
(2n−1)!!(2n)!!=(2n)!2nn!⋅2nn!=(2n)!4n(n!)2であり、ウォリスの公式の左辺は
Wn=2n+11((2n)!4n(n!)2)2=((2n)!)2(2n+1)24n(n!)4と書くことができる。
n!=annn+1/2e−nと(2n)!=a2n(2n)2n+1/2e−2n=a2n22n+1/2n2n+1/2e−2nを代入すると
(n!)4=an4n4n+2e−4n,((2n)!)2=a2n224n+1n4n+1e−4nであるから
Wn=a2n224n+1n4n+1e−4n(2n+1)24nan4n4n+2e−4n=2a2n2an4⋅2n+1nとなる。an→C、a2n→C、2n+1n→21であるから、極限の四則についての法則(§D1.6 定理 2.1)により
Wn⟶2C2C4⋅21=4C2である。補題 3.1よりWn→2πであるから、極限の一意性(§D1.5 命題 2.1)により4C2=2π、すなわちC2=2πである。C>0であるからC=2πとなり、
n!∼2πnn+1/2e−n=2πn(en)nが成り立つ。▨
4 誤差の大きさ
比が1へ収束することは示しましたが、収束の速さも上の議論から読み取ることができます。
系 4.1 (誤差の評価). すべてのn≥1について
1<2πn(n/e)nn!<e1/(12n)が成り立つ。
証明.定理 2.2の証明で示した等式とC=eD=2πにより
2πn(n/e)nn!=Cnn+1/2e−nn!=eDn−Dである。命題 2.1により0<Dn−D<12n1であり、指数関数は単調増加であるから、主張の不等式が従う。▨
例 4.2 (数値による確認).n=10のとき10!=3628800である。一方
2π⋅10(e10)10=20π⋅e101010であり、20π≈7.92665、e10≈22026.47、e101010≈453999.3であるから、この値はおよそ3.5987×106である。比はおよそ
35986963628800≈1.00837となる。系 4.1の上界はe1/120≈1.00837であるから、この評価はn=10の時点でほとんど等号に近いところまで正確である。同時に、n=10でも1%弱のずれが残ることも分かる。比と1とのずれは高々n1のオーダーである。