1 分割と上和・下和
定義 1.1 (分割・上和・下和).a<bとし、有界関数f:[a,b]→Rと分割 (partition)P:a=x0<x1<⋯<xn=bに対し、各iについてMi=sup[xi−1,xi]f、mi=inf[xi−1,xi]fとおく。このとき、
U(f,P)=i=1∑nMi(xi−xi−1),L(f,P)=i=1∑nmi(xi−xi−1)をそれぞれ上和 (upper sum)、下和 (lower sum) という。各iについてmi≤Miであるから、つねにL(f,P)≤U(f,P)である。
例 1.2 (f(x)=xの上和と下和).f(x)=xを[0,1]でn等分した分割Pnでは、各小区間[ni−1,ni]でMi=ni、mi=ni−1であるから、
U(f,Pn)=i=1∑nni⋅n1=2nn+1,L(f,Pn)=i=1∑nni−1⋅n1=2nn−1となる。n→∞のとき、どちらも21に収束する。上から押さえる値と下から押さえる値が同じ数に集まり、その値21は底辺と高さが1の三角形の面積と一致する。
補題 1.3.a<bとし、f:[a,b]→Rを有界関数とする。P,Qが[a,b]の分割であり、分割点の集合としてP⊆Qならば、
L(f,P)≤L(f,Q)≤U(f,Q)≤U(f,P)が成り立つ。
証明.Pに分割点yを一つ挿入し、y∈(xk−1,xk)とする。[xk−1,y]と[y,xk]におけるfの下限は、いずれも[xk−1,xk]における下限mk以上である。したがって、挿入後の二項が下和へ与える寄与は
mk(y−xk−1)+mk(xk−y)=mk(xk−xk−1)以上であり、下和は減少しない。同様に、二つの小区間における上限はいずれもMk以下であるから、上和は増加しない。L(f,Q)≤U(f,Q)は各小区間における下限と上限の大小から従う。Q∖Pは有限集合であるから、その点を一つずつ挿入して以上の不等式を有限回適用すれば主張を得る。▨
補題 1.4.a<bとし、f:[a,b]→Rを有界関数とする。P,Qを[a,b]の任意の分割とすると、分割点の和集合R=P∪Qは両者の共通細分であり、
L(f,P)≤U(f,Q)が成り立つ。
証明.PとQの分割点の和集合を昇順に並べると、[a,b]の分割Rを得る。補題 1.3により
L(f,P)≤L(f,R)≤U(f,R)≤U(f,Q)である。▨
2 可積分性
定義 2.1 (上積分・下積分・リーマン可積分).a<bとし、f:[a,b]→Rを有界関数とする。
∫abf=PsupL(f,P),∫abf=PinfU(f,P)とおき、左辺を下積分 (lower integral)、右辺を上積分 (upper integral) という。両者が一致するとき、fはリーマン可積分 (Riemann integrable) であるといい、共通の値を∫abf(x)dxと定める。
命題 2.2.a<bとし、f:[a,b]→Rを有界関数とする。このとき、
∫abf≤∫abfが成り立つ。
証明.fの下界mと上界Mをとる。すべての分割Pについてm(b−a)≤L(f,P)≤U(f,P)≤M(b−a)であり、分割全体は空でないから、実数の完備性によって下積分と上積分は実数として存在する。分割Qを任意に固定する。補題 1.4により、すべての分割PについてL(f,P)≤U(f,Q)である。したがってU(f,Q)は下和全体の上界であり、
∫abf=PsupL(f,P)≤U(f,Q)である。この不等式はすべてのQについて成り立つので、左辺は上和全体の下界である。再び実数の完備性を用いると、左辺は上和全体の最大下界以下である。▨
命題 2.3.a<bとし、f:[a,b]→Rをリーマン可積分関数とする。任意の分割Pに対して、
L(f,P)≤∫abf(x)dx≤U(f,P)が成り立つ。
証明. 下積分は下和全体の上限であり、上積分は上和全体の下限である。したがって、任意の分割Pに対して
L(f,P)≤∫abf=∫abf≤U(f,P)である。▨
定理 2.4 (リーマンの可積分判定条件).a<bとし、f:[a,b]→Rを有界関数とする。次の二条件を考える。
- fは[a,b]でリーマン可積分である。
- 任意のε>0に対し、U(f,P)−L(f,P)<εを満たす分割Pが存在する。
(1)⇔(2)が成り立つ。
証明.(2)⇒(1)を示す。命題 2.2と上積分・下積分の定義により、条件を満たす分割Pに対して
0≤∫abf−∫abf≤U(f,P)−L(f,P)<εである。この不等式が任意のε>0について成り立つので、上積分と下積分は一致する。
(1)⇒(2)を示す。共通の積分値をIとする。上限と下限の定義により、L(f,P1)>I−ε/2を満たす分割P1と、U(f,P2)<I+ε/2を満たす分割P2が存在する。共通細分P=P1∪P2をとると、補題 1.3により
L(f,P)≥L(f,P1),U(f,P)≤U(f,P2)である。したがってU(f,P)−L(f,P)<εである。▨
定理 2.5.a<bとする。有界閉区間[a,b]で連続な関数fはリーマン可積分である。
証明.§D1.13 定理 2.1を区間[a,b]へ適用すると、fは最大値と最小値をとるので有界である。さらに、§D1.15 定理 3.1によりfは[a,b]で一様連続である。任意のε>0をとる。一様連続性により、あるδ>0が存在して、x,y∈[a,b]かつ∣x−y∣<δならば
∣f(x)−f(y)∣<b−aεとなる。§D1.4 系 2.2により、Δ=(b−a)/n<δとなる正の整数nをとり、[a,b]をn等分する分割P:a=x0<x1<⋯<xn=bを考える。
各小区間[xi−1,xi]において、§D1.13 定理 2.1によりfは最大値Miと最小値miをとる。その二つの値をとる点をそれぞれui,viとすると、∣ui−vi∣≤Δ<δである。したがってMi−mi=∣f(ui)−f(vi)∣<ε/(b−a)である。よって
U(f,P)−L(f,P)=i=1∑n(Mi−mi)(xi−xi−1)<b−aεi=1∑n(xi−xi−1)=εとなる。定理 2.4により、fはリーマン可積分である。▨
3 積分の基本性質
命題 3.1.a<c<bとし、f:[a,b]→Rをリーマン可積分関数とする。このとき、fの[a,c]への制限と[c,b]への制限はともにリーマン可積分である。
証明.ε>0をとる。定理 2.4により、U(f,P)−L(f,P)<εを満たす[a,b]の分割Pが存在する。Q=P∪{c}とおくと、補題 1.3によりU(f,Q)−L(f,Q)<εである。Qが[a,c]と[c,b]に誘導する分割をそれぞれQ1,Q2とすると、
U(f,Q)−L(f,Q)=(U(f∣[a,c],Q1)−L(f∣[a,c],Q1))+(U(f∣[c,b],Q2)−L(f∣[c,b],Q2)).右辺の二項はいずれも非負であるから、それぞれがε未満である。両制限は有界であり、定理 2.4により可積分である。▨
定理 3.2.a<bとし、f,g:[a,b]→Rをリーマン可積分関数、λ,μ∈Rとする。このときλf+μgはリーマン可積分であり、
∫ab(λf(x)+μg(x))dx=λ∫abf(x)dx+μ∫abg(x)dxが成り立つ。
証明. 実数αと分割Pに対して、α≥0ならば
U(αf,P)=αU(f,P),L(αf,P)=αL(f,P),であり、α<0ならば
U(αf,P)=αL(f,P),L(αf,P)=αU(f,P)である。負の定数倍では各小区間の上限と下限が交換されるためである。したがって、すべてのαについて
U(αf,P)−L(αf,P)=∣α∣(U(f,P)−L(f,P)).また、各小区間で上限と下限を比較すると、
U(f+g,P)≤U(f,P)+U(g,P),L(f+g,P)≥L(f,P)+L(g,P)である。
ε>0をとり、η=ε/(1+∣λ∣+∣μ∣)とおく。fとgの可積分性から、Darboux 差がη未満である分割Pf,Pgをとる。共通細分P=Pf∪Pgに対して前の不等式を適用すると、
U(λf+μg,P)−L(λf+μg,P)≤∣λ∣(U(f,P)−L(f,P))+∣μ∣(U(g,P)−L(g,P))<ε.定理 2.4によりλf+μgは可積分である。
If=∫abfとおく。α≥0の場合、下和の上限と上和の下限をとると
∫abαf=αIf,∫abαf=αIfである。α<0の場合は上限と下限が交換され、
PsupαU(f,P)=αPinfU(f,P)=αIf,PinfαL(f,P)=αPsupL(f,P)=αIfとなる。したがって∫abαf=αIfである。
最後に、fとgを任意の可積分関数とする。下和をそれぞれの積分値へ任意に近づけ、二つの分割の共通細分をとると、L(f+g,P)≥L(f,P)+L(g,P)と命題 2.3から
∫ab(f+g)≥∫abf+∫abgを得る。同様に上和を用いると逆向きの不等式を得る。したがって積分は和を保ち、この加法性をλfとμgへ適用すれば主張の等式を得る。▨
系 3.3.a<bとし、u,v:[a,b]→Rを連続関数、λ,μ∈Rとする。このとき
∫ab(λu(x)+μv(x))dx=λ∫abu(x)dx+μ∫abv(x)dxが成り立つ。
証明. 連続関数はリーマン可積分である。したがってu,vに定理 3.2を適用すればよい。▨
命題 3.4.a<bとし、f,g:[a,b]→Rをリーマン可積分関数とする。すべてのx∈[a,b]についてf(x)≤g(x)ならば、
∫abf(x)dx≤∫abg(x)dxが成り立つ。
証明. 任意の分割Pとその各小区間において、f≤gからinff≤infgである。したがってL(f,P)≤L(g,P)である。下和全体の上限をとると
∫abf=∫abf≤∫abg=∫abgを得る。▨
定理 3.5.a<bとし、f:[a,b]→Rをリーマン可積分関数とする。このとき∣f∣もリーマン可積分であり、
∫abf(x)dx≤∫ab∣f(x)∣dxが成り立つ。
証明. 小区間Iにおけるfの上限と下限をMI,mIとする。任意のx,y∈Iについて
∣f(x)∣−∣f(y)∣≤∣f(x)−f(y)∣≤MI−mIであるから、Iにおける∣f∣の上限と下限の差はMI−mI以下である。したがって任意の分割Pに対して
U(∣f∣,P)−L(∣f∣,P)≤U(f,P)−L(f,P).fの可積分性と定理 2.4により、∣f∣も可積分である。
点ごとに−∣f∣≤f≤∣f∣である。定理 3.2と命題 3.4により
−∫ab∣f∣≤∫abf≤∫ab∣f∣.したがって主張の不等式が成り立つ。▨
定理 3.6.a<c<bとし、f:[a,b]→Rをリーマン可積分関数とする。このとき、
∫abf(x)dx=∫acf(x)dx+∫cbf(x)dxが成り立つ。
証明.命題 3.1により、fの二つの制限は可積分である。[a,c]の分割P1と[c,b]の分割P2の和集合P=P1∪P2は[a,b]の分割であり、
L(f,P)=L(f∣[a,c],P1)+L(f∣[c,b],P2),U(f,P)=U(f∣[a,c],P1)+U(f∣[c,b],P2)である。
ε>0をとる。二つの制限の下和がそれぞれの積分値との差ε/2未満になるようにP1,P2を選ぶ。上の下和の等式と命題 2.3により
∫abf>∫acf+∫cbf−εである。同様に、二つの制限の上和を用いると
∫abf<∫acf+∫cbf+εである。εは任意であるから主張の等式を得る。▨
定義 3.7 (向き付きリーマン積分).a,b∈Rとし、r=min{a,b}、t=max{a,b}とおく。f:[r,t]→Rとし、r<tの場合にはfが[r,t]上でリーマン可積分であると仮定する。a<bの場合は上で定めた積分を用い、
∫aaf(x)dx=0,∫abf(x)dx=−∫baf(x)dx(a>b)と定める。この規約による積分を向き付きリーマン積分という。
命題 3.8.a,b,c∈Rとし、r=min{a,b,c}、t=max{a,b,c}とおく。f:[r,t]→Rとし、r<tの場合にはfが[r,t]上でリーマン可積分であると仮定する。このとき、
∫acf(x)dx=∫abf(x)dx+∫bcf(x)dxが成り立つ。
証明.a=b=cの場合は三つの積分がすべて0である。三点のうちちょうど二点が一致する場合は、零長積分が0であることと定義 3.7の反対称性から従う。三点が相異なる場合、それらをr<s<tと並べる。定理 3.6により
∫rtf=∫rsf+∫stfである。定義 3.7による∫yxf=−∫xyfをこの等式へ適用すると、三点r,s,tをa,b,cへ割り当てる六通りのいずれについても、aからbを経てcへ進む二つの積分の和はaからcへの積分に等しくなる。▨
命題 3.9.a,b∈Rとし、r=min{a,b}、t=max{a,b}とおく。f:[r,t]→Rとし、r<tの場合にはfが[r,t]上でリーマン可積分であると仮定する。M≥0かつ、すべてのx∈[r,t]について∣f(x)∣≤Mならば、
∫abf(x)dx≤M∣b−a∣が成り立つ。
証明.a=bの場合、向き付き積分の定義により左辺と右辺はともに0である。
a<bの場合、定数関数Mの任意の上和と下和はともにM(b−a)であるから、その積分値もM(b−a)である。定理 3.5と命題 3.4により
∫abf≤∫ab∣f∣≤∫abM=M(b−a)である。a>bの場合は定義 3.7により積分の符号が反転するが絶対値は変わらず、正向きの区間[b,a]に対する評価から
∫abf=∫baf≤M(a−b)=M∣b−a∣を得る。▨
非可積分な標準例は、次の「可積分条件」の§D1.18 例 3.1で扱います。
下の図では、曲線の下の符号付き面積を上和と下和ではさんでいます。