§D1.25実数の構成

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必修の記事では、上に有界で空でない実数の集合が上限をもつことを出発点として認め、その性質から単調収束定理、ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理、有界閉区間の被覆性、コーシー列の収束を導きました(§D1.4 定義 1.1を含む記事)。

本記事では、有理数の全体から実数を作る二つの手続きとして、デデキントの切断による構成と、有理数のコーシー列による構成を扱います。切断の全体で上限が存在することだけを完全に証明し、切断の四則演算の well-defined 性、コーシー列による構成の完備性、上限の性質をもつ順序体の一意性は、証明の道筋を述べて完全な証明を参考文献へ委ねます。

1 何を作るのか

二つの構成が目標とする性質を先に定めます。

定義 1.1 (順序体と上限の性質). 集合KKに加法と乗法と順序<<が定まっているとする。KKが順序体 (ordered field) であるとは、KKが加法と乗法について体をなし、順序が全順序であって、次の二つを満たすことをいう。

  1. x<yx<yならば、すべてのz∈Kz \in Kについてx+z<y+zx+z<y+zである。
  2. x<yx<yかつ0<z0<zならばxz<yzxz<yzである。

順序体KKが上限の性質 (least-upper-bound property) をもつとは、上に有界で空でないKKの部分集合がつねにKKの中に上限をもつことをいう。

有理数の全体Q\mathbb{Q}は順序体ですが、上限の性質をもちません。22乗して22より小さい正の有理数の集合は上に有界で空でありませんが、その上限にあたる数は有理数の中に存在しません(§D1.4 例 3.1)。

2 デデキントの切断による構成

第一の手続きでは、有理数の全体を二つに切り分ける切り口そのものを、一つの数とみなします。2\sqrt2に対応する下側集合として、非正の有理数と、正で平方が22より小さい有理数の全体を用います。

定義 2.1 (有理数の切断). 有理数の集合Q\mathbb{Q}の部分集合α\alphaが切断 (Dedekind cut) であるとは、次の三つを満たすことをいう。

  1. α≠∅\alpha \ne \varnothingかつα≠Q\alpha \ne \mathbb{Q}である。
  2. p∈αp \in \alphaかつq<pq<pを満たす有理数qqについて、q∈αq \in \alphaである。
  3. α\alphaは最大値をもたない。

切断の全体をDDと書き、α,β∈D\alpha,\beta \in Dに対してα<β\alpha<\betaを「α⊊β\alpha \subsetneq \beta」と定める。

定理 2.2 (切断の全体では上限が存在する).A⊆DA \subseteq Dが空でなく、上に有界であるとする。すなわち、あるβ∈D\beta \in Dについて、すべてのα∈A\alpha \in Aがα⊆β\alpha \subseteq \betaを満たすとする。このとき

γ=⋃α∈Aα\gamma=\bigcup_{\alpha \in A}\alpha

は切断であり、AAの上限である。

証明.AAは空でないから、α0∈A\alpha_0\in Aをとる。α0\alpha_0は空でない切断であり、α0⊆γ\alpha_0\subseteq\gammaであるから、γ≠∅\gamma\ne\varnothingである。また、すべてのα∈A\alpha\in Aについてα⊆β\alpha\subseteq\betaであるから、γ⊆β\gamma\subseteq\betaである。β≠Q\beta\ne\mathbb Qであるため、γ≠Q\gamma\ne\mathbb Qである。

p∈γp\in\gammaとし、q<pq<pを満たす有理数qqをとる。p∈αp\in\alphaを満たすα∈A\alpha\in Aが存在する。α\alphaは定義 2.1 条件 (b)を満たすから、q∈α⊆γq\in\alpha\subseteq\gammaである。

p∈γp\in\gammaとすると、p∈αp\in\alphaを満たすα∈A\alpha\in Aが存在する。α\alphaは最大値をもたないから、p<p′p<p'を満たすp′∈α⊆γp'\in\alpha\subseteq\gammaが存在する。したがってγ\gammaも最大値をもたず、γ∈D\gamma\in Dである。

すべてのα∈A\alpha\in Aについてα⊆γ\alpha\subseteq\gammaであるから、γ\gammaはAAの上界である。δ∈D\delta\in DをAAの任意の上界とする。すべてのα∈A\alpha\in Aについてα⊆δ\alpha\subseteq\deltaであるから、γ⊆δ\gamma\subseteq\deltaである。ゆえにγ\gammaはAAの最小上界である。▨

注意 2.3 (本記事が検証しない部分).α,β∈D\alpha,\beta\in Dに対し、加法はα+β={p+q:p∈α, q∈β}\alpha+\beta=\{p+q:p\in\alpha,\ q\in\beta\}によって定める。乗法は、両方が00に対応する切断より大きい場合に正の元どうしの積として定め、符号による場合分けを通じてDD全体へ広げる。有理数rrに対してr∗={p∈Q:p<r}r^*=\{p\in\mathbb Q:p<r\}とおくとr∗r^*は切断であり、r↦r∗r\mapsto r^*は順序と演算を保つ。

これらの演算が切断の取り方に対して閉じており、体の公理と順序との両立を満たすことの検証には、加法と乗法の逆元および乗法の符号ごとの場合分けが必要である。完全な検証は参考文献が扱う。

3 有理数のコーシー列による構成

第二の手続きでは、極限の値そのものではなく、その値へ近づいていく有理数の列を数とみなします。必修では、実数の数列についてコーシー列であることと収束することが同値であり、有理数の数列では同じ同値が成り立たないことを見ました(§D1.10 定義 1を含む記事)。収束先が足りないのであれば、コーシー列そのものを収束先の代わりに用います。

定義 3.1 (有理数のコーシー列による実数). 有理数の列{pn}\{p_n\}が有理数の範囲でコーシー列 (rational Cauchy sequence) であるとは、任意の正の有理数ε\varepsilonに対してある番号NNが存在して、m,n≥Nm,n \ge Nならば∣pn−pm∣<ε|p_n-p_m|<\varepsilonとなることをいう。

有理数の範囲でコーシー列である列の全体をCCと書く。{pn},{qn}∈C\{p_n\},\{q_n\} \in Cに対して

{pn}∼{qn}  ⟺  pn−qn→0\{p_n\} \sim \{q_n\} \iff p_n-q_n \to 0

と定めると、∼\simはCC上の同値関係である。この同値関係による同値類の全体をC/ ⁣∼C/\!\simと書く。

{pn}\{p_n\}の同値類を[pn][p_n]と書き、

[pn]+[qn]=[pn+qn],[pn][qn]=[pnqn][p_n]+[q_n]=[p_n+q_n],\qquad [p_n][q_n]=[p_nq_n]

と定める。また、[pn]>0[p_n]>0であるとは、ある正の有理数ε\varepsilonとある番号NNが存在し、n≥Nn\geq Nならばpn≥εp_n\geq\varepsilonとなることをいう。有理数rrには定数列{r,r,r,…}\{r,r,r,\ldots\}の同値類を対応させる。これらの定義が代表元の取り方によらないことを確かめる必要がある。

定理 3.2 (コーシー列による構成の完備性).C/ ⁣∼C/\!\simは上限の性質をもつ順序体である。

注意 3.3 (証明の道筋).{xk}\{x_k\}をC/ ⁣∼C/\!\simの元からなるコーシー列とし、各xkx_kに対して∣xk−rk∣<1/k|x_k-r_k|<1/kを満たす有理数rkr_kを選ぶ。このとき{rk}\{r_k\}は有理数の範囲でコーシー列であり、その同値類が{xk}\{x_k\}の極限となる。上に有界で空でない集合に対しては、区間を半分ずつ狭めて上限へ近づくコーシー列を作る。以上は証明の道筋であり、完全な証明は参考文献へ委ねる。

4 二つの構成の関係

デデキントの切断による構成とコーシー列による構成は、作り方も、作られる対象の見た目も異なります。それにもかかわらず、得られる順序体は同じものです。

定理 4.1 (上限の性質をもつ順序体の一意性). 上限の性質をもつ二つの順序体K1K_1とK2K_2に対し、加法、乗法、順序をすべて保つ全単射φ:K1→K2\varphi : K_1 \to K_2が存在する。

注意 4.2 (証明の道筋).K1K_1とK2K_2の単位元から正の整数、整数、有理数にあたる元を順に対応させる。x∈K1x\in K_1に対して、xxより小さい有理数にあたるK2K_2の元全体の上限をφ(x)\varphi(x)と定める。上限の性質によりφ(x)\varphi(x)は存在する。φ\varphiが加法、乗法、順序を保ち、全単射であることを確かめる必要がある。以上は証明の道筋であり、完全な証明は参考文献へ委ねる。

この定理により、実数の全体をどちらの手続きで作っても、順序と演算を保つ対応によって同一視することができます。したがって、必修の記事が上限の性質だけを根拠として証明した定理は、どちらの構成を採ってもそのまま成り立ちます。必修が上限の存在を認めて出発したことは、構成の選択を保留したまま議論を進めるための選択であったということになります。

注意 4.3 (本記事が認めて用いているもの). 有理数の全体が四則演算と順序をもつことを認めて出発する。また、有理数の部分集合の全体や有理数列の全体を一つの集合として扱う枠組みも認めて用いる。この枠組みそのものは扱わない。集合と写像の基礎的な扱いは「集合論入門」が扱う。

参考文献

  1. Walter Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., International Series in Pure and Applied Mathematics, McGraw Hill, 1976.
  2. Terence Tao, Analysis I, 4th ed., Texts and Readings in Mathematics, Springer, 2022.
  3. 高木貞治『定本解析概論』岩波書店, 2010.