学習の進め方

有限次元線形代数から無限次元へ進む際には、完備性、線形写像の連続性、単位球のコンパクト性を別々に確かめる必要がある。数列空間と連続関数空間の例を比較し、ノルムの選択が収束と完備性にどのように関わるかを調べることが、定理の仮定を理解する出発点となる。

有界線形作用素を学んだ後は、Hahn–Banach の定理による汎関数の延長と点の分離、および Baire の範疇定理に基づく一様有界性原理・開写像定理・閉グラフ定理を学ぶ。双対空間と弱位相は、汎関数の値によってノルムや収束を調べるために用いる。L^p 空間では、測度論で得た積分の評価と Radon–Nikodym の定理を、有界線形汎関数の積分表示へ結び付ける。L^p 空間の定義から稠密性までの基礎を学び直す場合は、測度と積分を参照する。

Hilbert 空間では、閉凸集合への最良近似から直交射影と Riesz の表現定理へ進む。Lax–Milgram の定理は、汎関数の表現を、有界かつ強圧的な形式で与えられた方程式の可解性へ結び付ける。スペクトル論では、片側シフトとコンパクト作用素の例を比較することで、固有値だけから一般の作用素を記述することができない理由を確かめる。コンパクト性と自己共役性の両方を仮定したときに得られる直交分解が、続く微分方程式への応用の根拠となる。

正則 Sturm–Liouville 問題への応用

応用:正則 Sturm–Liouville 問題は、コンパクト自己共役作用素のスペクトル定理を境界値問題へ適用する記事である。この応用を読む際には、常微分方程式の境界値問題による可積分外力の Green 表示、Sturm–Liouville 問題による正則問題の境界条件と Lagrange の恒等式、および線形方程式の基本解系による初期値問題の一意性を用いる。常微分方程式の知識はこの応用のために必要であり、ノルム空間から学び始める際や、Banach 環・可換 C* 環・Gelfand 双対を読む際には要求しない。

常微分方程式で得た Green 表示と対称性・直交性だけでは、固有関数が完全系をなすことはまだ従わない。応用記事は、適切な実シフトによって斉次問題の核を除き、Green 表示から重み付き二乗可積分空間上の逆作用素を構成する。逆作用素のコンパクト性と自己共役性に加え、単射性、値域の稠密性および正値性を確かめ、スペクトル定理から古典的な固有関数の完全正規直交系を得る。固有関数展開と Parseval の等式を経て、パラメータが固有値に一致しない場合の一意な解表示と、一致する場合の直交可解条件へ進む。Green 作用素の構成から可解条件までを、一つの境界値問題に即して学ぶ構成である。

適用対象は、有限閉区間上で実係数の斉次分離型境界条件を課した正則問題である。微分式−(py′)′+qy-(py')'+qyの係数ppは正の実数値C1C^1関数、qqと重みwwは実数値連続関数とし、wwは正とする。展開の収束は重み付き二乗可積分空間のノルム収束、すなわち二乗平均収束を意味する。二乗可積分な外力に対する解はC1C^1級で導関数が絶対連続であり、連続な外力に対してはC2C^2級の古典解となる。級数表示から境界条件と微分方程式を回収する際には Green 作用素による表示を用い、二乗平均収束だけを根拠に項別微分を行わない。特異端点や非分離型境界条件への適用は、この応用記事の結論に含まれない。

定理の使い方と係数体

本単元は、各定理について実数体と複素数体を区別する。複素 Hilbert 空間の内積と半双線形形式は第一変数について線形とし、Riesz の表現定理、共役作用素、Lax–Milgram の定理および自己共役性における複素共役を、この規約に従って扱う。複素の場合の強圧性は、形式の対角値の実部によって確かめる。

ノルム位相、弱位相および弱星位相は、同じ集合の上に定まる異なる位相として区別する。開被覆によるコンパクト性と点列コンパクト性を一般には同一視せず、距離化可能性などの追加仮定がある場合に限って点列による特徴づけを用いる。Banach–Alaoglu の定理で得る弱星コンパクト性と、可分 Banach 空間の場合に得る閉単位球上の距離化可能性は、異なる結論である。

既存の定理を用いる際には、参照先の主張に照らして対象と適用条件を確かめる。定理の全文を毎回再掲する必要はなく、現在の議論に必要な条件や記号の対応を述べればよい。たとえば、スペクトルの非空性ではレゾルベントを有界線形汎関数でスカラー化して Liouville の定理を用いる。二乗可積分核による作用素の構成では、有限テンソル和による近似と、可測性・代表元に依存しない定義の検証に、優収束定理、π–λ 定理および Tonelli の定理を用いる。定理を引用することと、適用に必要な検証を省くこととは区別する。

可換 C* 環への進み方

Banach 環と指標からは、作用素のスペクトルの基本性質を、積が劣乗法的な完備ノルム環へ一般化する。Neumann 級数やレゾルベントの議論を支える積とノルムの性質を取り出すことで、元が作用素である場合を越えてスペクトルを扱うことができる。スペクトル半径の公式では Laurent 展開と一様有界性原理を用い、単位的可換 Banach 環の指標空間のコンパクト性では、弱星閉性を確かめて Banach–Alaoglu の定理を適用する。L^p 空間の双対性や正則 Sturm–Liouville 問題の固有関数展開を、この一般化の前提とはしない。

Banach 環と C* 環の定義には単位元の存在を含めず、単位元をもち、そのノルムが11である環を単位的と呼ぶ。零環は00を単位元にもつが単位的ではなく、単位元をもたない環にも含めない。単位的な環で得たスペクトルの性質を単位元のない場合に用いる際には、単位化を経由する。

空間と関数環の対応では、空でないコンパクト Hausdorff 空間が単位的な可換 C* 環に、非コンパクトな局所コンパクト Hausdorff 空間が単位元をもたない可換 C* 環に対応する。空空間に対応する関数環は零環である。非コンパクトな場合には、単位化が一点コンパクト化に対応する。もとの環が単位的なら、さらに添加した単位元は直和成分として分離する。もとの空間がコンパクトなら、加えた一点は孤立し、もとの空間が稠密な一点コンパクト化にはならない。

関数環としての復元は、Gelfand 変換の等長性と、Stone–Weierstrass の定理による像の稠密性を組み合わせて証明する。無限遠で消える連続関数で構成する台がコンパクトな連続関数は、無限遠で消える関数の近似や、Gelfand 双対における proper 性の検証に用いる。Stone–Weierstrass の定理の複素数値の場合と無限遠で消える関数の場合は、全射性の根拠となる。Hilbert 空間上の汎関数を扱う Riesz の表現定理と、連続関数空間の双対を測度で表す Riesz–Markov–Kakutani の定理は区別し、後者をこの復元の根拠には用いない。

写像の対応では、コンパクト Hausdorff 空間の間の連続写像に、向きが逆の単位元を保つ *-準同型が対応する。局所コンパクト Hausdorff 空間では、proper な連続写像と非退化な *-準同型を対応させる。全ての連続写像と全ての *-準同型が対応するわけではないため、対象となる空間を復元することと、写像を復元することを分けて確かめる。

学習内容の確認

各記事の例や演習を用い、定理の証明を再構成することに加えて、次の観点から理解を確かめる。

  • 数列空間と連続関数空間について、完備性や線形写像の有界性を調べる。有限次元で成り立つ性質が無限次元で失われる例を挙げ、ノルムの選択が結論に与える影響を説明する。
  • Hahn–Banach の定理から点の分離、双対によるノルム表示および二重双対への等長埋め込みを導く。Banach 空間論の基本3定理では、一様有界性原理における定義域の完備性と、開写像定理・閉グラフ定理における両空間の完備性が、証明のどこに必要かを説明する。
  • σ-有限測度空間上で、1 ≤ p < ∞ と共役指数 q に対する L^p の双対表示を用いる。p = 1 では q = ∞ となることと、1 < p < ∞ の回帰性を区別し、数え上げ測度上の Banach 極限によって、L^1 から L^∞ の双対への標準埋め込みが一般には全射でない理由を説明する。
  • 数列空間の例でノルム収束、弱収束および弱星収束の含意を検討する。弱星コンパクト性から点列に関する結論を得るときには、用いた追加仮定を示す。
  • Hilbert 空間の直交射影と Riesz の表現定理を用いて汎関数を表し、有界性と強圧性を確かめて Lax–Milgram の定理を適用する。正規直交系による近似では、Bessel の不等式と、完全性の下で得る Parseval の等式を区別する。
  • 片側シフトとコンパクトな対角作用素のスペクトルを比較する。コンパクト自己共役作用素の分解では核を落とさず、固有空間による表示の収束を説明する。
  • 正則 Sturm–Liouville 問題では、Green 作用素の固有ベクトルと古典固有関数の対応を確かめ、二乗平均収束する展開から解を求める。非共鳴時の一意性と共鳴時の直交可解条件を区別し、Neumann 条件における外力の平均零条件を説明する。
  • 可換 C* 環の復元では、Gelfand 変換の等長性、像の稠密性および閉性がそれぞれ何を与えるかを説明する。評価写像による空間の復元と写像の反変な対応を確かめ、単位元・零環・空空間を区別し、proper 性や非退化性が欠ける場合を例で検討する。

後続の学習との関係

Fourier 解析と調和解析は、本単元の Hilbert 空間、L^p 空間の双対性および作用素のスペクトルを、関数空間と作用素の研究に用いる。偏微分方程式は、Lax–Milgram の定理とコンパクト作用素の理論を弱形式やスペクトル問題へ用いる。一次元の正則問題については、本単元の Sturm–Liouville 応用で得た完全系と二乗平均収束の展開が、その出発点となる。

凸最適化は、双対空間と弱位相を最適化問題の双対性と解の存在に用いる。有限群の表現論では、群の表現を Hilbert 空間上の作用素として扱う場面で、本単元の内積、直交性および作用素の理論を参照することができる。

作用素環論 Iは、可換な場合の Gelfand 双対から、正汎関数、GNS 構成および非可換 C* 環の表現へ進む。圏論 Iは、本単元の一対一の対応を圏と関手の言葉で述べ直す。可換環論の素スペクトルは全ての素イデアルに Zariski 位相を入れたものであり、本単元が弱星位相で扱う指標空間とは区別する。