§E12.10スペクトルとレゾルベント

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本単元では既に、Banach 空間の上の有界線形作用素の全体が作用素ノルムについて完備であり、合成に対して劣乗法的であることを示した。有限次元では、線形作用素の構造はλI−T\lambda I-Tが可逆でない複素数、すなわち固有値の全体によって記述され、固有値は特性多項式の根として必ず存在する。しかしℓ2\ell^2の上の右シフトは固有ベクトルを一つももたないので、無限次元では固有値の全体が空になることがあり、作用素の構造を記述することができない。そこで、固有ベクトルの存在ではなく有界な逆作用素の存在を基準に取り、λI−T\lambda I-Tが有界な逆をもたない複素数の全体をスペクトルという。本記事では、複素 Banach 空間の上の有界線形作用素についてレゾルベント集合とスペクトルを定義し、スペクトルが空でないコンパクト集合であることと、固有値だけではスペクトルを尽くすことができないことを扱う。

1 レゾルベントとスペクトル

定義 1.1.X≠{0}X\neq\{0\}を複素 Banach 空間とし、B(X)B(X)をXX上の有界線形作用素の全体(§E12.2 定義 1.1)とし、T∈B(X)T\in B(X)とする。λI−T\lambda I-Tが全単射で、その逆が有界であるようなλ∈C\lambda\in\mathbb Cの集合をレゾルベント集合 (resolvent set)ρ(T)\rho(T)という。その補集合

σ(T)=C∖ρ(T)\sigma(T)=\mathbb C\setminus\rho(T)

をTTのスペクトル (spectrum) という。λ∈ρ(T)\lambda\in\rho(T)に対して

R(λ,T)=(λI−T)−1R(\lambda,T)=(\lambda I-T)^{-1}

をレゾルベント作用素 (resolvent operator) という。

有界逆写像定理により、λI−T\lambda I-Tが全単射なら逆写像は自動的に有界である。

定義 1.2.λ∈σ(T)\lambda\in\sigma(T)とする。

  1. λI−T\lambda I-Tが単射でないとき、λ\lambdaは点スペクトル (point spectrum) に属する。
  2. λI−T\lambda I-Tが単射であり、値域が稠密であるが全射でないとき、λ\lambdaは連続スペクトル (continuous spectrum) に属する。
  3. λI−T\lambda I-Tが単射であり、値域が稠密でないとき、λ\lambdaは剰余スペクトル (residual spectrum) に属する。

2 Neumann 級数

補題 2.1 (Neumann 級数).XXを Banach 空間とし、A∈B(X)A\in B(X)が∥A∥<1\|A\|<1を満たすとする。このとき

∑n=0∞An\sum_{n=0}^\infty A^n

は作用素ノルムで収束し、その和は(I−A)−1(I-A)^{-1}に等しい。

証明.B(X)B(X)は作用素ノルムに関して Banach 空間である§E12.2 定理 2.1。∥An∥≤∥A∥n\|A^n\|\leq\|A\|^nと幾何級数の収束から、CN=∑n=0NAnC_N=\sum_{n=0}^NA^nはB(X)B(X)の Cauchy 列であり、あるC∈B(X)C\in B(X)に収束する。有限和について

(I−A)CN=CN(I−A)=I−AN+1(I-A)C_N=C_N(I-A)=I-A^{N+1}

が成り立つ。∥AN+1∥≤∥A∥N+1→0\|A^{N+1}\|\leq\|A\|^{N+1}\to0なので、作用素ノルムで極限を取ると(I−A)C=C(I−A)=I(I-A)C=C(I-A)=Iを得る。したがってC=(I−A)−1C=(I-A)^{-1}である。▨

命題 2.2.ρ(T)\rho(T)は開集合である。写像R( ⋅ ,T):ρ(T)→B(X)R(\,\cdot\,,T):\rho(T)\to B(X)は作用素ノルムに関して正則であり、

ddλR(λ,T)=−R(λ,T)2\frac{d}{d\lambda}R(\lambda,T)=-R(\lambda,T)^2

を満たす。また、λ,μ∈ρ(T)\lambda,\mu\in\rho(T)に対して

R(λ,T)−R(μ,T)=(μ−λ)R(λ,T)R(μ,T)(1)R(\lambda,T)-R(\mu,T) =(\mu-\lambda)R(\lambda,T)R(\mu,T) \tag{1}

が成り立つ。

証明.λ0∈ρ(T)\lambda_0\in\rho(T)とし、R0=R(λ0,T)R_0=R(\lambda_0,T)と置く。h=λ−λ0h=\lambda-\lambda_0が∣h∣∥R0∥<1|h|\|R_0\|<1を満たすとき、

λI−T=(λ0I−T)(I+hR0)\lambda I-T=(\lambda_0I-T)(I+hR_0)

である。補題 2.1によりI+hR0I+hR_0は可逆なので、λ∈ρ(T)\lambda\in\rho(T)である。したがってρ(T)\rho(T)は開集合である。さらに

R(λ0+h,T)=(I+hR0)−1R0=∑n=0∞(−h)nR0n+1.(2)R(\lambda_0+h,T) =(I+hR_0)^{-1}R_0 =\sum_{n=0}^\infty(-h)^nR_0^{n+1}. \tag{2}

級数は∣h∣∥R0∥<1|h|\|R_0\|<1で作用素ノルム収束する。式 (2) から

∥R(λ0+h,T)−R0h+R02∥≤∣h∣∥R0∥31−∣h∣∥R0∥⟶0\left\| \frac{R(\lambda_0+h,T)-R_0}{h}+R_0^2 \right\| \leq \frac{|h|\|R_0\|^3}{1-|h|\|R_0\|} \longrightarrow0

である。したがってRRはλ0\lambda_0で複素微分可能であり、導関数は−R02-R_0^2である。λ0\lambda_0は任意なのでRRは正則である。

最後に、可逆作用素A,BA,Bに対するA−1−B−1=A−1(B−A)B−1A^{-1}-B^{-1}=A^{-1}(B-A)B^{-1}をA=λI−TA=\lambda I-T、B=μI−TB=\mu I-Tに適用すると (1) を得る。▨

3 スペクトルの非空コンパクト性

定理 3.1.X≠{0}X\neq\{0\}を複素 Banach 空間とし、T∈B(X)T\in B(X)とする。このときσ(T)\sigma(T)は空でないコンパクト集合であり、

σ(T)⊂{λ∈C:∣λ∣≤∥T∥}\sigma(T)\subset\{\lambda\in\mathbb C:|\lambda|\leq\|T\|\}

が成り立つ。

証明.∣λ∣>∥T∥|\lambda|>\|T\|なら∥T/λ∥<1\|T/\lambda\|<1であり、補題 2.1により

(λI−T)−1=1λ(I−Tλ)−1=1λ∑n=0∞(Tλ)n.(3)(\lambda I-T)^{-1} =\frac1\lambda\left(I-\frac{T}{\lambda}\right)^{-1} =\frac1\lambda\sum_{n=0}^\infty\left(\frac{T}{\lambda}\right)^n. \tag{3}

したがってλ∈ρ(T)\lambda\in\rho(T)であり、σ(T)\sigma(T)は半径∥T∥\|T\|の閉円板に含まれる。命題 2.2によりρ(T)\rho(T)は開集合なので、σ(T)\sigma(T)は閉集合である。よってσ(T)\sigma(T)は有界閉集合であり、C\mathbb Cの Heine–Borel の定理によりコンパクトである。

σ(T)=∅\sigma(T)=\emptysetと仮定する。このときR(λ,T)R(\lambda,T)はC\mathbb C全体で正則である。x∈Xx\in Xとx∗∈X∗x^*\in X^*を固定し、

fx,x∗(λ)=x∗(R(λ,T)x)f_{x,x^*}(\lambda)=x^*(R(\lambda,T)x)

と置く。命題 2.2とx∗x^*の連続性により、fx,x∗f_{x,x^*}は整関数である。式 (3) と幾何級数の評価から、∣λ∣>∥T∥|\lambda|>\|T\|では

∥R(λ,T)∥≤1∣λ∣−∥T∥.(4)\|R(\lambda,T)\| \leq\frac1{|\lambda|-\|T\|}. \tag{4}

したがって∣λ∣→∞|\lambda|\to\inftyのときfx,x∗(λ)→0f_{x,x^*}(\lambda)\to0である。十分大きい円板の外側では (4) により有界であり、円板上では連続関数なので有界である。Liouville の定理§E5.9 定理 4.1によりfx,x∗f_{x,x^*}は定数であり、無限遠での極限から恒等的に00である。

よって、すべてのλ∈C\lambda\in\mathbb C、x∈Xx\in X、x∗∈X∗x^*\in X^*についてx∗(R(λ,T)x)=0x^*(R(\lambda,T)x)=0である。双対による点分離§E12.3 系 3.1からR(λ,T)x=0R(\lambda,T)x=0であり、R(λ,T)=0R(\lambda,T)=0となる。しかしX≠{0}X\neq\{0\}なので、零作用素はλI−T\lambda I-Tの逆作用素ではない。これは矛盾である。したがってσ(T)\sigma(T)は空でない。▨

実 Banach 空間上の作用素を扱う場合には、通常は複素化してスペクトルを定義する。

4 片側シフト

ℓ2\ell^2の内積を

⟨x,y⟩=∑n=1∞xnyn‾\langle x,y\rangle=\sum_{n=1}^\infty x_n\overline{y_n}

とし、第一変数について線形とする。右シフトSSと左シフトLLを

S(x1,x2,…)=(0,x1,x2,…),L(x1,x2,…)=(x2,x3,…)S(x_1,x_2,\ldots)=(0,x_1,x_2,\ldots),\qquad L(x_1,x_2,\ldots)=(x_2,x_3,\ldots)

で定める。SSとLLは§E12.2 例 2.3の右シフトと左シフトをp=2p=2とした場合であり、同例により∥S∥=∥L∥=1\|S\|=\|L\|=1である。

例 4.1 (固有値をもたない右シフト). 右シフトSSは固有値をもたない。実際、Sx=λxSx=\lambda xを成分ごとに比較すると、λ≠0\lambda\neq0では第一成分からx1=0x_1=0、以後すべての成分が00となる。λ=0\lambda=0でもSSの単射性からx=0x=0である。

補題 4.2. すべてのλ∈C\lambda\in\mathbb Cについて

Ran⁡(λI−S)‾=Ker⁡(λ‾I−L)⊥.(5)\overline{\operatorname{Ran}(\lambda I-S)} =\operatorname{Ker}(\overline\lambda I-L)^\perp. \tag{5}

証明. 任意のx,y∈ℓ2x,y\in\ell^2に対して、絶対収束する内積級数の添字を一つずらすと

⟨Sx,y⟩=∑n=1∞xnyn+1‾=⟨x,Ly⟩.\langle Sx,y\rangle =\sum_{n=1}^\infty x_n\overline{y_{n+1}} =\langle x,Ly\rangle.

内積の第二変数における共役線形性から

⟨(λI−S)x,y⟩=⟨x,(λ‾I−L)y⟩.\langle(\lambda I-S)x,y\rangle =\langle x,(\overline\lambda I-L)y\rangle.

したがって

Ran⁡(λI−S)⊥=Ker⁡(λ‾I−L).(6)\operatorname{Ran}(\lambda I-S)^\perp =\operatorname{Ker}(\overline\lambda I-L). \tag{6}

Ran⁡(λI−S)\operatorname{Ran}(\lambda I-S)はℓ2\ell^2の線形部分空間であるから、(6) の両辺の直交補空間を取り、左辺へ§E12.8 命題 2.3を適用すると

Ran⁡(λI−S)‾=(Ran⁡(λI−S)⊥)⊥=Ker⁡(λ‾I−L)⊥\overline{\operatorname{Ran}(\lambda I-S)} =\left(\operatorname{Ran}(\lambda I-S)^\perp\right)^\perp =\operatorname{Ker}(\overline\lambda I-L)^\perp

となり、(5) を得る。▨

上の証明で確かめた⟨Sx,y⟩=⟨x,Ly⟩\langle Sx,y\rangle=\langle x,Ly\rangleは、LLがSSの共役作用素であることを意味する。等式 (5) は、共役作用素について一般に成り立つRan⁡A‾=Ker⁡(A∗)⊥\overline{\operatorname{Ran}A}=\operatorname{Ker}(A^*)^\perpを、シフトに対して直接書いたものである。

命題 4.3.LLの点スペクトルは開単位円板D={μ∈C:∣μ∣<1}\mathbb D=\{\mu\in\mathbb C:|\mu|<1\}である。μ∈D\mu\in\mathbb Dに対する固有ベクトルとして

y(μ)=(1,μ,μ2,…)y^{(\mu)}=(1,\mu,\mu^2,\ldots)

を取ることができる。

証明.Ly=μyLy=\mu yはyn+1=μyny_{n+1}=\mu y_nと同値なので、非零解はyn=μn−1y1y_n=\mu^{n-1}y_1の形である。この数列がℓ2\ell^2に属することは

∑n=1∞∣μ∣2(n−1)<∞\sum_{n=1}^\infty|\mu|^{2(n-1)}<\infty

と同値であり、さらに∣μ∣<1|\mu|<1と同値である。∣μ∣<1|\mu|<1ならy1=1y_1=1として表示された固有ベクトルを得る。▨

定理 4.4. 右シフトSSのスペクトルは閉単位円板である。

σ(S)={λ∈C:∣λ∣≤1}.\sigma(S)=\{\lambda\in\mathbb C:|\lambda|\leq1\}.

SSの点スペクトルは空であり、∣λ∣<1|\lambda|<1は剰余スペクトル、∣λ∣=1|\lambda|=1は連続スペクトルに属する。

証明.例 4.1によりSSの点スペクトルは空である。∣λ∣<1|\lambda|<1とする。命題 4.3によりKer⁡(λ‾I−L)\operatorname{Ker}(\overline\lambda I-L)は非零である。補題 4.2から

Ran⁡(λI−S)‾=Ker⁡(λ‾I−L)⊥≠ℓ2.\overline{\operatorname{Ran}(\lambda I-S)} =\operatorname{Ker}(\overline\lambda I-L)^\perp \neq\ell^2.

したがってλI−S\lambda I-Sの値域は稠密でなく、特に全射でない。単射ではあるので、λ\lambdaは剰余スペクトルに属する。よってD⊂σ(S)\mathbb D\subset\sigma(S)である。

定理 3.1によりσ(S)\sigma(S)は閉集合なのでD‾⊂σ(S)\overline{\mathbb D}\subset\sigma(S)である。一方、∥S∥=1\|S\|=1と同定理からσ(S)⊂D‾\sigma(S)\subset\overline{\mathbb D}である。したがって等号が成り立つ。

∣λ∣=1|\lambda|=1では命題 4.3によりKer⁡(λ‾I−L)={0}\operatorname{Ker}(\overline\lambda I-L)=\{0\}なので、補題 4.2からRan⁡(λI−S)\operatorname{Ran}(\lambda I-S)は稠密である。しかしλ∈σ(S)\lambda\in\sigma(S)なので全射ではなく、λI−S\lambda I-Sは単射である。したがって境界上のλ\lambdaは連続スペクトルに属する。▨

5 演習

問題 5.1 (Neumann 級数とレゾルベントの積).∣λ∣>∥T∥|\lambda|>\|T\|のとき、式 (3) の右辺とλI−T\lambda I-Tの積を有限部分和から計算し、式 (3) が成り立つことを確かめよ。

解答.

CN=1λ∑n=0N(Tλ)nC_N=\frac1\lambda\sum_{n=0}^N\left(\frac{T}{\lambda}\right)^nと置く。λI−T=λ(I−Tλ)\lambda I-T=\lambda\left(I-\frac{T}{\lambda}\right)であり、TTとT/λT/\lambdaは可換なので

(λI−T)CN=(I−Tλ)∑n=0N(Tλ)n=I−(Tλ)N+1=CN(λI−T)(\lambda I-T)C_N =\left(I-\frac{T}{\lambda}\right)\sum_{n=0}^N\left(\frac{T}{\lambda}\right)^n =I-\left(\frac{T}{\lambda}\right)^{N+1} =C_N(\lambda I-T)

である。∥T/λ∥<1\|T/\lambda\|<1であるから∥(T/λ)N+1∥≤∥T/λ∥N+1→0\left\|(T/\lambda)^{N+1}\right\|\leq\|T/\lambda\|^{N+1}\to0であり、補題 2.1により(CN)(C_N)は作用素ノルムについて収束する。積は作用素ノルムについて連続なので、極限を取ると(λI−T)C=C(λI−T)=I(\lambda I-T)C=C(\lambda I-T)=Iを得る。したがってC=(λI−T)−1C=(\lambda I-T)^{-1}である。▨

問題 5.2 (レゾルベントの導関数の符号).ddλR(λ,T)=−R(λ,T)2\frac{d}{d\lambda}R(\lambda,T)=-R(\lambda,T)^2の右辺の符号が負であることを、スカラー関数(λ−a)−1(\lambda-a)^{-1}の微分と比較して確認せよ。

解答.

X=CX=\mathbb Cとし、a∈Ca\in\mathbb Cに対してTz=azTz=azと置く。λ≠a\lambda\neq aに対してλI−T\lambda I-Tはz↦(λ−a)zz\mapsto(\lambda-a)zであり、R(λ,T)R(\lambda,T)は(λ−a)−1(\lambda-a)^{-1}倍の作用素である。

ddλ(λ−a)−1=−(λ−a)−2\frac{d}{d\lambda}(\lambda-a)^{-1}=-(\lambda-a)^{-2}

であるから、この場合の導関数は−R(λ,T)2-R(\lambda,T)^2に一致する。一般の場合に同じ符号が現れる理由は式 (2) にある。R(λ0+h,T)=R0−hR02+h2R03−⋯R(\lambda_0+h,T)=R_0-hR_0^2+h^2R_0^3-\cdotsであり、hhの一次の係数は−R02-R_0^2である。これは、スカラーの場合の展開(λ0−a+h)−1=∑n=0∞(−h)n(λ0−a)−(n+1)(\lambda_0-a+h)^{-1}=\sum_{n=0}^\infty(-h)^n(\lambda_0-a)^{-(n+1)}においてhhの一次の係数が−(λ0−a)−2-(\lambda_0-a)^{-2}であることと同じ形である。▨

問題 5.3 (右シフトの値域が稠密でないこと).∣λ∣<1|\lambda|<1に対してy=(1,λ‾,λ‾2,…)y=(1,\overline\lambda,\overline\lambda^2,\ldots)を取り、⟨(λI−S)x,y⟩=0\langle(\lambda I-S)x,y\rangle=0がすべてのx∈ℓ2x\in\ell^2について成り立つことを直接確認せよ。

解答.

∣λ∣<1|\lambda|<1なので∑n≥1∣λ‾ n−1∣2=∑n≥1∣λ∣2(n−1)<∞\sum_{n\geq1}|\overline\lambda^{\,n-1}|^2=\sum_{n\geq1}|\lambda|^{2(n-1)}<\inftyであり、y∈ℓ2y\in\ell^2である。yn=λ‾ n−1y_n=\overline\lambda^{\,n-1}からyn‾=λn−1\overline{y_n}=\lambda^{n-1}なので、x∈ℓ2x\in\ell^2に対して

⟨x,y⟩=∑n=1∞xnλn−1,⟨Sx,y⟩=∑n=1∞xnyn+1‾=∑n=1∞xnλn\langle x,y\rangle=\sum_{n=1}^\infty x_n\lambda^{n-1},\qquad \langle Sx,y\rangle=\sum_{n=1}^\infty x_n\overline{y_{n+1}}=\sum_{n=1}^\infty x_n\lambda^n

である。いずれの級数も∣λ∣<1|\lambda|<1と Cauchy–Schwarz の不等式により絶対収束する。したがって

⟨(λI−S)x,y⟩=λ∑n=1∞xnλn−1−∑n=1∞xnλn=0\langle(\lambda I-S)x,y\rangle =\lambda\sum_{n=1}^\infty x_n\lambda^{n-1}-\sum_{n=1}^\infty x_n\lambda^n=0

である。y≠0y\neq0であり、Ran⁡(λI−S)\operatorname{Ran}(\lambda I-S)はyyと直交するので稠密ではない。これは共役作用素の一般論を用いずに行った確認である。▨

問題 5.4 (スペクトルの非空性の再構成).定理 3.1の非空性の証明を再構成せよ。あわせて、作用素値の正則関数に Liouville の定理を直接適用せず、連続線形汎関数によってスカラー化する理由も説明せよ。

解答.

再構成は次の三段による。

  1. σ(T)=∅\sigma(T)=\emptysetを仮定するとR( ⋅ ,T)R(\,\cdot\,,T)はC\mathbb C全体で正則であり、x∈Xx\in Xとx∗∈X∗x^*\in X^*を固定するとfx,x∗(λ)=x∗(R(λ,T)x)f_{x,x^*}(\lambda)=x^*(R(\lambda,T)x)は整関数である。
  2. ∣λ∣>∥T∥|\lambda|>\|T\|では Neumann 級数から∥R(λ,T)∥≤(∣λ∣−∥T∥)−1\|R(\lambda,T)\|\leq(|\lambda|-\|T\|)^{-1}であるから、fx,x∗f_{x,x^*}は有界であり、∣λ∣→∞|\lambda|\to\inftyで00に収束する。
  3. Liouville の定理によりfx,x∗f_{x,x^*}は定数であり、無限遠での極限から恒等的に00である。双対が点を分離することからR(λ,T)=0R(\lambda,T)=0となり、X≠{0}X\neq\{0\}に矛盾する。

スカラー化する理由は、本記事が用いる Liouville の定理が複素数値の整関数について述べられており、作用素値の正則関数に対する形を用意していないことにある。xxとx∗x^*を固定して得られるfx,x∗f_{x,x^*}は複素数値の整関数なので、既知の Liouville の定理をそのまま適用することができる。スカラーについて得られた結論を作用素へ戻す段で、双対による点分離が必要になる。▨

6 Banach 環への展望

本単元の後半では、積とノルムを備えた Banach 環へスペクトル論を移し、作用素の枠組みから代数的な枠組みへ進む。

参考文献

  1. John B. Conway, A Course in Functional Analysis, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1990.
  2. Walter Rudin, Functional Analysis, 2nd ed., International Series in Pure and Applied Mathematics, McGraw Hill, 1991.
  3. John B. Conway, Functions of One Complex Variable I, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1978.

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