§E5.9最大値原理

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複素平面上で正則な関数を調べるとき、値の大きさが領域の内部と境界の間でどのように結び付くかは、局所的な正則性が関数全体に制約を課すことを示す。実数上では、例えばq(x)=1−x2q(x)=1-x^2がx=0x=0で局所最大値をとる。一方、単位円板上のf(z)=zf(z)=zでは、内部の任意の点から半径方向へ少し動くと∣f∣|f|が増加するため、絶対値は内部で最大値をとらず、最大値は円周上で現れる。

この違いは、複素微分の極値判定だけから得られるものではない。正則関数では、点の値がその点を囲む円周上の値の平均に一致する。この平均値の性質によって、絶対値が内部で最大となることは関数の値の強い一様性を意味する。局所的な制約を領域全体へ広げるこの性質は、正則関数の剛性を理解するうえで最も基本的な道具の一つであり、有界な整関数の定数性や複素係数多項式の根の存在にもつながる。

本記事では、正則関数の絶対値に現れるこの基本的な性質と、そこから得られる代表的な帰結を解説する。

1 準備

命題 1.1.K⊆CK\subseteq\mathbb Cを空でないコンパクト集合(§E2.19 定義 2.1)、φ:K→R\varphi:K\to\mathbb Rを連続関数とする。このときφ\varphiはKKの上で最大値をとる。

証明.KKは空でないコンパクトな位相空間である。したがって§E2.19 定理 4.4をφ\varphiへ適用すると、φ\varphiはKK上で最大値をとる。▨

命題 1.2.DDを領域、ffをDD上の正則関数とする。∣f∣|f|がDD上で定数ならば、ffはDD上で定数である。

証明.∣f∣=M|f|=Mとする。M=0M=0ならばf≡0f\equiv0である。以下ではM>0M>0とし、f=u+ivf=u+ivと書く。u2+v2=M2u^2+v^2=M^2をxxとyyで偏微分すると

uux+vvx=0,uuy+vvy=0u u_x+v v_x=0,\qquad u u_y+v v_y=0

である。Cauchy–Riemann 方程式(§E5.2 定理 3.1)を第二式へ代入するとvux−uvx=0v u_x-u v_x=0となる。これらをux,vxu_x,v_xに関する連立一次方程式とみると、係数行列

(uvv−u)\begin{pmatrix}u & v\\ v & -u\end{pmatrix}

の行列式は−(u2+v2)=−M2≠0-(u^2+v^2)=-M^2\ne0である。したがってux=vx=0u_x=v_x=0であり、f′=ux+ivx=0f'=u_x+iv_x=0がDDの全点で成り立つ。§E5.4 命題 4.3によりffは定数である。▨

2 平均値の性質

命題 2.1.U⊆CU\subseteq\mathbb Cを開集合、ffをUU上の正則関数とする。r>0r>0かつD‾(a,r)⊆U\overline D(a,r)\subseteq Uならば

f(a)=12π∫02πf(a+reiθ) dθf(a)=\frac{1}{2\pi}\int_{0}^{2\pi}f\bigl(a+re^{i\theta}\bigr)\,d\theta

が成り立つ。

証明.γ(θ)=a+reiθ\gamma(\theta)=a+re^{i\theta}(0≤θ≤2π0\le\theta\le2\pi)を反時計回りの境界円周の径数表示とする。§E5.4 例 3.3の計算からγ′(θ)=ireiθ\gamma'(\theta)=ire^{i\theta}である。§E5.6 定理 2.1の円周版を中心aaで用いると

f(a)=12πi∮∣ζ−a∣=rf(ζ)ζ−a dζ=12πi∫02πf(a+reiθ)reiθ ireiθ dθ=12π∫02πf(a+reiθ) dθf(a)=\frac{1}{2\pi i}\oint_{|\zeta-a|=r}\frac{f(\zeta)}{\zeta-a}\,d\zeta =\frac{1}{2\pi i}\int_{0}^{2\pi}\frac{f(a+re^{i\theta})}{re^{i\theta}}\,ire^{i\theta}\,d\theta =\frac{1}{2\pi}\int_{0}^{2\pi}f(a+re^{i\theta})\,d\theta

である。▨

3 最大値原理

定理 3.1 (最大値原理の局所版).DDを領域、ffをDD上の正則関数とする。あるa∈Da\in Dとρ>0\rho>0についてD(a,ρ)⊆DD(a,\rho)\subseteq Dかつ∣f(z)∣≤∣f(a)∣|f(z)|\le|f(a)|がすべてのz∈D(a,ρ)z\in D(a,\rho)で成り立つならば、ffはDD上で定数である。

対偶として、ffが定数でないならば、∣f∣|f|はDDの内部のどの点でも局所最大値をとらない。

証明.0<r<ρ0<r<\rhoを取る。命題 2.1と、実区間の上の積分の絶対値の評価(§E5.4 補題 1.4)により

∣f(a)∣=∣12π∫02πf(a+reiθ) dθ∣≤12π∫02π∣f(a+reiθ)∣ dθ≤12π∫02π∣f(a)∣ dθ=∣f(a)∣|f(a)|=\left|\frac{1}{2\pi}\int_{0}^{2\pi}f(a+re^{i\theta})\,d\theta\right| \le\frac{1}{2\pi}\int_{0}^{2\pi}\bigl|f(a+re^{i\theta})\bigr|\,d\theta \le\frac{1}{2\pi}\int_{0}^{2\pi}|f(a)|\,d\theta=|f(a)|

である。両端が等しいため、二つの不等号はともに等号である。したがって

∫02π(∣f(a)∣−∣f(a+reiθ)∣) dθ=0\int_{0}^{2\pi}\Bigl(|f(a)|-\bigl|f(a+re^{i\theta})\bigr|\Bigr)\,d\theta=0

である。h(θ)=∣f(a)∣−∣f(a+reiθ)∣h(\theta)=|f(a)|-|f(a+re^{i\theta})|とおくと、hhは連続かつ非負である。もしh(θ0)=η>0h(\theta_0)=\eta>0となる点があれば、連続性から正の長さをもつ閉区間J⊆[0,2π]J\subseteq[0,2\pi]をh≥η/2h\ge\eta/2がJJ上で成り立つように取ることができる。JJ上で値η/2\eta/2、その外で値0をとる区分的連続関数をvvとする。0≤v≤h0\le v\le hなので、実積分の単調性(§E5.4 補題 1.3)と区分的積分の定義から

∫02πh(θ) dθ≥∫02πv(θ) dθ=η2 ∣J∣>0\int_{0}^{2\pi}h(\theta)\,d\theta \ge\int_{0}^{2\pi}v(\theta)\,d\theta =\frac{\eta}{2}\,|J|>0

となって矛盾する。ゆえにh≡0h\equiv0であり、半径rrの円周全体で∣f∣=∣f(a)∣|f|=|f(a)|である。r∈(0,ρ)r\in(0,\rho)は任意なので、中心を含むD(a,ρ)D(a,\rho)全体で∣f∣=∣f(a)∣|f|=|f(a)|となる。

D(a,ρ)D(a,\rho)は§E5.2 命題 4.5により領域であるから、命題 1.2によりffはこの円板上で定数である。その値をw0w_0とする。ffと定数関数w0w_0が一致する集合はDD内に集積点をもつので、§E5.8 定理 3.1によりf≡w0f\equiv w_0がDD全体で成り立つ。▨

系 3.2.r>0r>0とし、ffを閉円板K=D‾(a,r)K=\overline D(a,r)を含む開集合上の正則関数とする。このとき

max⁡z∈K∣f(z)∣=max⁡∣z−a∣=r∣f(z)∣\max_{z\in K}|f(z)|=\max_{|z-a|=r}|f(z)|

が成り立つ。すなわち、∣f∣|f|のKKにおける最大値は境界の上で達成される。

証明.C\mathbb CをR2\mathbb R^2と同一視すると(§E1.14 定義 4.1)、KKは有界閉集合なので§E2.9 定理 4.3によりコンパクトである。正則関数は連続であるため(§E5.2 命題 1.2)、命題 1.1を∣f∣|f|へ適用すると、あるp∈Kp\in Kで∣f∣|f|は最大値をとる。∣p−a∣=r|p-a|=rならば結論を得る。

∣p−a∣<r|p-a|<rならばppはD(a,r)D(a,r)における∣f∣|f|の局所最大点である。§E5.2 命題 4.5と定理 3.1によりffはD(a,r)D(a,r)上で定数である。連続性から同じ値が境界にも達するので、境界上でも∣f∣|f|はKK上の最大値をとる。▨

4 Liouville の定理と代数学の基本定理

定理 4.1 (Liouville の定理).ffがC\mathbb C上で正則であり、あるM≥0M\ge0についてすべてのz∈Cz\in\mathbb Cで∣f(z)∣≤M|f(z)|\le Mが成り立つならば、ffは定数である。

証明.a∈Ca\in\mathbb CとR>0R>0を取る。半径RRの円周上で∣f∣≤M|f|\le Mなので、§E5.6 系 4.2をm=1m=1で用いると

∣f′(a)∣≤MR|f'(a)|\le\frac{M}{R}

である。この評価はすべてのR>0R>0について成り立つ。M=0M=0ならば直ちにf′(a)=0f'(a)=0であり、M>0M>0ならば任意のε>0\varepsilon>0に対してR>M/εR>M/\varepsilonと取ることで∣f′(a)∣<ε|f'(a)|<\varepsilonを得る。いずれもf′(a)=0f'(a)=0である。aaは任意なのでf′≡0f'\equiv0であり、§E5.4 命題 4.3によりffは定数である。▨

系 4.2 (代数学の基本定理).n≥1n\ge1とし、p(z)=anzn+⋯+a1z+a0p(z)=a_nz^n+\cdots+a_1z+a_0をan≠0a_n\ne0を満たす複素係数多項式とする。このときp(z)=0p(z)=0を満たすz∈Cz\in\mathbb Cが存在する。

証明.ppが零点をもたないと仮定する。このときq=1/pq=1/pは§E5.2 系 1.3と§E5.2 命題 1.2によりC\mathbb C上で正則である。

∣z∣≥1|z|\ge1のとき

∣p(z)∣≥∣an∣∣z∣n−∑k=0n−1∣ak∣∣z∣k≥∣z∣n−1(∣an∣∣z∣−∑k=0n−1∣ak∣)|p(z)|\ge|a_{n}||z|^{n}-\sum_{k=0}^{n-1}|a_{k}||z|^{k} \ge|z|^{n-1}\Bigl(|a_{n}||z|-\sum_{k=0}^{n-1}|a_{k}|\Bigr)

である。S=∑k=0n−1∣ak∣S=\sum_{k=0}^{n-1}|a_k|とおき、R0=max⁡(1,(S+1)/∣an∣)R_0=\max(1,(S+1)/|a_n|)とする。∣z∣>R0|z|>R_0ならば∣an∣∣z∣−S>1|a_n||z|-S>1かつ∣z∣n−1≥1|z|^{n-1}\ge1なので∣p(z)∣>1|p(z)|>1、したがって∣q(z)∣<1|q(z)|<1である。

K=D‾(0,R0)K=\overline D(0,R_0)は§E2.9 定理 4.3によりコンパクトである。∣q∣|q|は連続なので、命題 1.1によりKK上で最大値M0M_0をとる。したがって∣q(z)∣≤max⁡(1,M0)|q(z)|\le\max(1,M_0)がすべてのz∈Cz\in\mathbb Cで成り立つ。定理 4.1によりqqは定数であり、p=1/qp=1/qも定数となる。これはn≥1n\ge1かつan≠0a_n\ne0に反する。ゆえにppは零点をもつ。▨

注意 4.3 (根の個数は本記事では数えない).系 4.2が主張するのは根の存在だけである。重複度を込めて根を数える問題は後続の記事が扱う。本記事の証明は、根の個数を数える結果を用いない。

5 演習

問題 5.1 (最大値原理の等号状況).DDを領域、ffをDD上の正則関数とする。r>0r>0、D‾(a,r)⊆D\overline D(a,r)\subseteq Dであり、∣f(a)∣=max⁡∣z−a∣=r∣f(z)∣|f(a)|=\max_{|z-a|=r}|f(z)|であると仮定する。ffがDD上で定数であることを示せ。

解答.

系 3.2により

max⁡z∈D‾(a,r)∣f(z)∣=max⁡∣z−a∣=r∣f(z)∣=∣f(a)∣\max_{z\in\overline D(a,r)}|f(z)|=\max_{|z-a|=r}|f(z)|=|f(a)|

である。したがってaaは∣f∣|f|の局所最大点であり、定理 3.1によりffはDD上で定数である。▨

問題 5.2 (Liouville の定理の仮定). 有界性を外すと定理 4.1の結論が成り立たない例と、定義域をC\mathbb C全体とする仮定を外すと結論が成り立たない例を、それぞれ一つ挙げて正則性と非定数性を確認せよ。

解答.

f(z)=zf(z)=zはC\mathbb C上で正則かつ非定数であるが、有界ではない。D(0,1)D(0,1)上のg(z)=zg(z)=zは正則かつ非定数であり、∣g(z)∣<1|g(z)|<1なので有界であるが、定義域はC\mathbb C全体ではない。したがって Liouville の定理では平面全体での正則性と大域的な有界性の両方が必要である。▨

参考文献

  1. Lars V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., AMS Chelsea Publishing 385, American Mathematical Society, Providence, R.I., 2021, originally published 1979.平均値の性質、最大値原理、Liouville の定理を参考にした。
  2. Walter Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw Hill, 1987.最大値原理と代数学の基本定理を参考にした。
  3. John B. Conway, Functions of One Complex Variable I, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1978.最大値原理の局所版と境界版の区別を参考にした。

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