1 準備
命題 1.1.K⊆Cを空でないコンパクト集合(§E2.19 定義 2.1)、φ:K→Rを連続関数とする。このときφはKの上で最大値をとる。
証明.Kは空でないコンパクトな位相空間である。したがって§E2.19 定理 4.4をφへ適用すると、φはK上で最大値をとる。▨
命題 1.2.Dを領域、fをD上の正則関数とする。∣f∣がD上で定数ならば、fはD上で定数である。
証明.∣f∣=Mとする。M=0ならばf≡0である。以下ではM>0とし、f=u+ivと書く。u2+v2=M2をxとyで偏微分すると
uux+vvx=0,uuy+vvy=0である。Cauchy–Riemann 方程式(§E5.2 定理 3.1)を第二式へ代入するとvux−uvx=0となる。これらをux,vxに関する連立一次方程式とみると、係数行列
(uvv−u)の行列式は−(u2+v2)=−M2=0である。したがってux=vx=0であり、f′=ux+ivx=0がDの全点で成り立つ。§E5.4 命題 4.3によりfは定数である。▨
2 平均値の性質
命題 2.1.U⊆Cを開集合、fをU上の正則関数とする。r>0かつD(a,r)⊆Uならば
f(a)=2π1∫02πf(a+reiθ)dθが成り立つ。
証明.γ(θ)=a+reiθ(0≤θ≤2π)を反時計回りの境界円周の径数表示とする。§E5.4 例 3.3の計算からγ′(θ)=ireiθである。§E5.6 定理 2.1の円周版を中心aで用いると
f(a)=2πi1∮∣ζ−a∣=rζ−af(ζ)dζ=2πi1∫02πreiθf(a+reiθ)ireiθdθ=2π1∫02πf(a+reiθ)dθである。▨
3 最大値原理
定理 3.1 (最大値原理の局所版).Dを領域、fをD上の正則関数とする。あるa∈Dとρ>0についてD(a,ρ)⊆Dかつ∣f(z)∣≤∣f(a)∣がすべてのz∈D(a,ρ)で成り立つならば、fはD上で定数である。
対偶として、fが定数でないならば、∣f∣はDの内部のどの点でも局所最大値をとらない。
証明.0<r<ρを取る。命題 2.1と、実区間の上の積分の絶対値の評価(§E5.4 補題 1.4)により
∣f(a)∣=2π1∫02πf(a+reiθ)dθ≤2π1∫02πf(a+reiθ)dθ≤2π1∫02π∣f(a)∣dθ=∣f(a)∣である。両端が等しいため、二つの不等号はともに等号である。したがって
∫02π(∣f(a)∣−f(a+reiθ))dθ=0である。h(θ)=∣f(a)∣−∣f(a+reiθ)∣とおくと、hは連続かつ非負である。もしh(θ0)=η>0となる点があれば、連続性から正の長さをもつ閉区間J⊆[0,2π]をh≥η/2がJ上で成り立つように取ることができる。J上で値η/2、その外で値0をとる区分的連続関数をvとする。0≤v≤hなので、実積分の単調性(§E5.4 補題 1.3)と区分的積分の定義から
∫02πh(θ)dθ≥∫02πv(θ)dθ=2η∣J∣>0となって矛盾する。ゆえにh≡0であり、半径rの円周全体で∣f∣=∣f(a)∣である。r∈(0,ρ)は任意なので、中心を含むD(a,ρ)全体で∣f∣=∣f(a)∣となる。
D(a,ρ)は§E5.2 命題 4.5により領域であるから、命題 1.2によりfはこの円板上で定数である。その値をw0とする。fと定数関数w0が一致する集合はD内に集積点をもつので、§E5.8 定理 3.1によりf≡w0がD全体で成り立つ。▨
系 3.2.r>0とし、fを閉円板K=D(a,r)を含む開集合上の正則関数とする。このとき
z∈Kmax∣f(z)∣=∣z−a∣=rmax∣f(z)∣が成り立つ。すなわち、∣f∣のKにおける最大値は境界の上で達成される。
証明.CをR2と同一視すると(§E1.14 定義 4.1)、Kは有界閉集合なので§E2.9 定理 4.3によりコンパクトである。正則関数は連続であるため(§E5.2 命題 1.2)、命題 1.1を∣f∣へ適用すると、あるp∈Kで∣f∣は最大値をとる。∣p−a∣=rならば結論を得る。
∣p−a∣<rならばpはD(a,r)における∣f∣の局所最大点である。§E5.2 命題 4.5と定理 3.1によりfはD(a,r)上で定数である。連続性から同じ値が境界にも達するので、境界上でも∣f∣はK上の最大値をとる。▨
4 Liouville の定理と代数学の基本定理
定理 4.1 (Liouville の定理).fがC上で正則であり、あるM≥0についてすべてのz∈Cで∣f(z)∣≤Mが成り立つならば、fは定数である。
証明.a∈CとR>0を取る。半径Rの円周上で∣f∣≤Mなので、§E5.6 系 4.2をm=1で用いると
∣f′(a)∣≤RMである。この評価はすべてのR>0について成り立つ。M=0ならば直ちにf′(a)=0であり、M>0ならば任意のε>0に対してR>M/εと取ることで∣f′(a)∣<εを得る。いずれもf′(a)=0である。aは任意なのでf′≡0であり、§E5.4 命題 4.3によりfは定数である。▨
系 4.2 (代数学の基本定理).n≥1とし、p(z)=anzn+⋯+a1z+a0をan=0を満たす複素係数多項式とする。このときp(z)=0を満たすz∈Cが存在する。
証明.pが零点をもたないと仮定する。このときq=1/pは§E5.2 系 1.3と§E5.2 命題 1.2によりC上で正則である。
∣z∣≥1のとき
∣p(z)∣≥∣an∣∣z∣n−k=0∑n−1∣ak∣∣z∣k≥∣z∣n−1(∣an∣∣z∣−k=0∑n−1∣ak∣)である。S=∑k=0n−1∣ak∣とおき、R0=max(1,(S+1)/∣an∣)とする。∣z∣>R0ならば∣an∣∣z∣−S>1かつ∣z∣n−1≥1なので∣p(z)∣>1、したがって∣q(z)∣<1である。
K=D(0,R0)は§E2.9 定理 4.3によりコンパクトである。∣q∣は連続なので、命題 1.1によりK上で最大値M0をとる。したがって∣q(z)∣≤max(1,M0)がすべてのz∈Cで成り立つ。定理 4.1によりqは定数であり、p=1/qも定数となる。これはn≥1かつan=0に反する。ゆえにpは零点をもつ。▨
5 演習
問題 5.1 (最大値原理の等号状況).Dを領域、fをD上の正則関数とする。r>0、D(a,r)⊆Dであり、∣f(a)∣=max∣z−a∣=r∣f(z)∣であると仮定する。fがD上で定数であることを示せ。
解答.
系 3.2により
z∈D(a,r)max∣f(z)∣=∣z−a∣=rmax∣f(z)∣=∣f(a)∣である。したがってaは∣f∣の局所最大点であり、定理 3.1によりfはD上で定数である。▨
問題 5.2 (Liouville の定理の仮定). 有界性を外すと定理 4.1の結論が成り立たない例と、定義域をC全体とする仮定を外すと結論が成り立たない例を、それぞれ一つ挙げて正則性と非定数性を確認せよ。
解答.
f(z)=zはC上で正則かつ非定数であるが、有界ではない。D(0,1)上のg(z)=zは正則かつ非定数であり、∣g(z)∣<1なので有界であるが、定義域はC全体ではない。したがって Liouville の定理では平面全体での正則性と大域的な有界性の両方が必要である。▨