1 有理型関数と離散集合
定義 1.1.U⊆Cを開集合、P⊆UをUの中に集積点をもたない部分集合とし、fがU∖Pの上で正則で、Pの各点がfの極または除去可能特異点であるとき、fはUの上で有理型 (meromorphic onU)
であるという。除去可能特異点は延長して取り除いたものとし、以下ではPをfの極の全体とする。
fがUのどの連結成分の上でも恒等的に0でないと仮定する。fの定義域はU∖Pであるから、この仮定は「Uのどの連結成分Wについても、fはW∖Pの上で恒等的に0でない」と読む。
a∈U∖Pがfの零点であるとき、その位数(§E5.8 定義 1.1)をord(f,a)と書き、aが位数mの極であるときord(f,a)=−mと定める。零点でも極でもない点ではord(f,a)=0とする。ord(f,a)をaにおけるfの位数 (order) という。
極や零点を除いた領域へ一致の定理を適用するには、離散集合を取り除いた後も領域であることが必要になる。次の補題が、その位相的な入力を与える。
補題 1.2.W⊆Cを領域、P⊆WをWの中に集積点をもたない部分集合とする。このときW∖Pは領域である。
証明.PはWの中に集積点をもたないから、Pの各点pはPの中で孤立している。Wは開集合であるから、各p∈Pについて
D(p,rp)⊆W,D(p,rp)∩P={p}を満たすrp>0を取ることができる。またPがWの中に集積点をもたないことからPはWの中で閉であり、W∖Pは開集合である。W∖Pは空でない。実際、Wは空でない開集合であるから開円板D(b,s)⊆Wを含み、D(b,s)⊆PであるとするとbはPの集積点となって仮定に反する。
まず、p∈Pについて穿孔円板D(p,rp)∖{p}が連結であることを確かめる。z,wをこの穿孔円板の二点とする。線分[z,w]は開円板の凸性によりD(p,rp)に含まれる。p∈/[z,w]ならば、この一本の線分がzとwを穿孔円板の中で結ぶ折れ線である。p∈[z,w]の場合、z,w,pは一直線上にありz=p、w=pである。D(p,rp)の点qでこの直線の上にないものを取ると、線分[z,q]と[q,w]はD(p,rp)に含まれ、どちらもpを含まない。実際、p∈[z,q]とするとpはzとqを通る直線の上にあり、z=pであるからその直線はzとpを通る直線、すなわちz,w,pを通る直線と一致し、qがその上にないことに反する。[q,w]についても同様である。ゆえに§E5.1 命題 1.4によりD(p,rp)∖{p}は連結である。
W∖P=A∪B、A∩B=∅、AとBはともに開集合、と分解されたと仮定する。各p∈PについてD(p,rp)∖{p}⊆W∖Pであり、(D(p,rp)∖{p})∩Aと(D(p,rp)∖{p})∩Bはこの穿孔円板の開集合による分解であるから、いま示した連結性により一方は空である。すなわちD(p,rp)∖{p}はAかBのどちらか一方に含まれる。そこで
A′=A∪{p∈P:D(p,rp)∖{p}⊆A},B′=B∪{p∈P:D(p,rp)∖{p}⊆B}とおく。A′∪B′=WかつA′∩B′=∅である。A′は開集合である。実際、Aの点はAが開集合であることにより内点であり、付け加えたpについてはD(p,rp)∖{p}⊆Aかつp∈A′よりD(p,rp)⊆A′である。B′も同様に開集合である。Wは連結であるからA′とB′の一方は空であり、A⊆A′、B⊆B′よりAとBの一方は空である。ゆえにW∖Pは連結であり、空でない開集合であるから領域である。▨
2 対数微分
命題 2.1.定義 1.1の設定のもとで、Zをfの零点の全体とすると、Z∪PはUの中に集積点をもたない。f′/fはU∖(Z∪P)の上で正則であり、a∈Z∪Pはf′/fの孤立特異点であって
Res(ff′,a)=ord(f,a)が成り立つ。
証明.Z∪Pの集積点はZの集積点かPの集積点であり、PがUの中に集積点をもたないことは仮定である。したがって、ZがUの中に集積点をもたないことを示せばよい。
p∈UがZの集積点であるとする。pを含むUの連結成分をWとすると、§E5.5 補題 5.1によりWは領域である。pに収束するZの点列を取ると、Wが開集合であることからその項はある番号以降Wに属する。
p∈/Pである。実際、pが位数mの極であるとすると、§E5.11 命題 3.3をM=1について用いて、0<∣z−p∣<δならば∣f(z)∣>1となるδ>0を取ることができる。するとpの穿孔近傍にfの零点はなく、pはZの集積点ではない。
P∩WはWの中に集積点をもたないから、補題 1.2によりW∖Pは領域である。p∈W∖Pであり、pに収束するZの点列の項は、ある番号以降Wに属し、Z⊆U∖PよりPに属さないからW∖Pに属する。ゆえにZ∩(W∖P)はW∖Pに属する集積点pをもち、§E5.8 定理 3.1を領域W∖Pの上のfと定数関数0へ適用すると、fはW∖Pの全体で恒等的に0である。WはUの連結成分であるから、fの恒等的な消滅は定義 1.1の仮定に反する。
fはU∖Pの上で正則であるから、§E5.6 定理 4.1によりfはU∖Pの上で何回でも複素微分可能であり、とくにf′もU∖Pの上で正則である。U∖(Z∪P)の上ではf=0であるから、§E5.2 命題 1.2の商の規則によりf′/fはそこで正則である。aが位数mの零点であるとき、§E5.8 命題 1.2により、あるr>0についてD(a,r)の上でf(z)=(z−a)mg(z)、gは正則、g(a)=0である。gは連続であるからrを小さく取り直してD(a,r)の上でg=0としてよい。g′は§E5.6 定理 4.1によりD(a,r)の上で正則であるから、§E5.2 命題 1.2によりg′/gもD(a,r)の上で正則である。0<∣z−a∣<rで
f(z)f′(z)=(z−a)mg(z)m(z−a)m−1g(z)+(z−a)mg′(z)=z−am+g(z)g′(z)=z−aq(z)である。ここでq(z)=m+(z−a)g′(z)/g(z)とおいた。qはD(a,r)の上で正則でq(a)=m=0であるから、§E5.11 命題 3.4によりaはf′/fの位数1の極であり、その−1次の係数はq(a)=mである。
aが位数mの極であるとき、§E5.11 命題 3.3により、あるr>0についてD(a,r)の上で正則なhが存在してh(a)=0、0<∣z−a∣<rでf(z)=h(z)/(z−a)mである。上と同様にrを小さく取り直してD(a,r)の上でh=0とすると
f(z)f′(z)=z−a−m+h(z)h′(z)=z−aq~(z),q~(z)=−m+(z−a)h(z)h′(z)であり、q~(a)=−m=0であるから、同じく§E5.11 命題 3.4により−1次の係数は−mである。▨
3 偏角の原理
定理 3.1 (偏角の原理).定義 1.1の設定のもとで、Γを∣Γ∣⊆U∖(Z∪P)を満たしUの内部で零ホモローグなサイクルとする。このときn(Γ,a)=0を満たすa∈Z∪Pは有限個であり、
2πi1∫Γf(z)f′(z)dz=a∈Z∑n(Γ,a)ord(f,a)−a∈P∑n(Γ,a)ord(f,a)が成り立つ。すなわち、右辺は零点を位数込みで、極を位数込みで符号を変えて、いずれも回転数を重みとして数えたものである。
とくにΓが正の向きをもつ単純閉曲線であって、その回転数が内部で1、外部で0である場合、右辺は「内部の零点の個数から極の個数を引いたもの」(いずれも位数込み)に等しい。
証明.命題 2.1によりZ∪PはUの中に集積点をもたず、f′/fはU∖(Z∪P)の上で正則である。§E5.12 定理 2.2をU、A=Z∪P、f′/f、Γへ適用すると、n(Γ,a)=0を満たすaは有限個であり
∫Γff′dz=2πia∈Z∪P∑n(Γ,a)Res(ff′,a)である。同命題により留数はord(f,a)に等しく、零点では正、極では負であるから、主張の右辺の形に整理される。▨
留数定理には、長方形の境界に限った場合を取り出した系(§E5.12 系 2.3)がある。偏角の原理についても、同じ形の系を置く。
系 3.2.Rを辺が座標軸に平行な閉長方形、C=∂Rをその正の向きの境界とする。UをRを含む開集合、fを定義 1.1の意味でUの上の有理型関数とし、ZとPをそれぞれ零点と極の全体とする。∣C∣∩(Z∪P)=∅ならば、Rの内部にあるfの零点と極は有限個であり、
2πi1∮Cf(z)f′(z)dz=N−Mが成り立つ。ここでNはRの内部にある零点を位数込みで数えた個数、MはRの内部にある極を位数込みで数えた個数である。
証明.p∈/Uならばp∈/Rであるから、§E5.5 命題 5.6によりn(C,p)=0であり、CはUの内部で零ホモローグである。仮定により∣C∣⊆U∖(Z∪P)である。同命題により、Rの内部の点についての回転数は1、Rに属さない点についての回転数は0である。∣C∣の上にZ∪Pの点はないので、Rに属するZ∪Pの点はすべてRの内部にある。したがって定理 3.1の和は、Rの内部にある零点と極についての和になる。Rの内部にある零点と極が有限個であることも同定理による。▨
Rouché の定理についても同様の系が成り立つ。
系 3.3.Rを辺が座標軸に平行な閉長方形、C=∂Rをその正の向きの境界とし、fとgをRを含む領域Dの上の正則関数とする。∣C∣の上で∣g(z)∣<∣f(z)∣が成り立つならば、fとf+gはRの内部に、位数込みで同じ個数の零点をもつ。
証明.系 3.2の証明と同じ理由によりCはDの内部で零ホモローグであり、Rの内部の点についての回転数は1、Rに属さない点についての回転数は0である。∣C∣の上では∣f∣>∣g∣≥0よりf=0であり、∣f+g∣≥∣f∣−∣g∣>0よりf+g=0であるから、Rに属するfとf+gの零点はすべてRの内部にある。∣C∣は閉長方形の境界であるから空でなく、定理 4.1の仮定∣Γ∣=∅が満たされる。ゆえに同定理をΓ=Cへ適用すると、両辺の和はそれぞれRの内部にある零点を位数込みで数えた個数になる。▨
4 Rouché の定理
定理 4.1 (Rouché の定理).Dを領域、fとgをDの上の正則関数とし、Γを∣Γ∣⊆Dを満たしDの内部で零ホモローグなサイクルとする。∣Γ∣=∅を仮定する。∣Γ∣の上で
∣g(z)∣<∣f(z)∣が成り立つならば、fとf+gはどちらもDの上で恒等的に0ではなく、
a∑n(Γ,a)ord(f,a)=a∑n(Γ,a)ord(f+g,a)が成り立つ。和はそれぞれの零点にわたり、n(Γ,a)=0を満たす有限個の項だけが残る。
証明.t∈[0,1]に対してft=f+tgとおく。∣Γ∣の上で
∣ft(z)∣≥∣f(z)∣−t∣g(z)∣≥∣f(z)∣−∣g(z)∣>0であるから、ftは∣Γ∣の上で0をとらない。∣Γ∣=∅であるからft(z∗)=0を満たすz∗∈∣Γ∣⊆Dが存在し、Dは連結であるから、ftはDの上で恒等的に0ではない。ここでも仮定∣Γ∣=∅を用いた。ftは極をもたない正則関数であるから、定理 3.1をU=D、P=∅として適用することができ、
N(t)=2πi1∫Γft(z)ft′(z)dzは整数である。
Nが[0,1]の上で連続であることを示す。∣Γ∣はコンパクトである。実際、Γを構成する各閉曲線γ:[α,β]→Cについて、[α,β]はRの有界閉集合であるから§E2.9 定理 4.3(n=1)によりコンパクトであり、§E2.19 定理 4.2によりγ([α,β])はコンパクト、§E2.9 系 4.1により各像γ([α,β])は有界かつ閉である。∣Γ∣はそのような集合の有限個の和であるから有界かつ閉であり、Cを
Euclid 距離(§E2.1 定義 3.2)を入れたR2と同一視すると、ふたたび§E2.9 定理 4.3(n=2)によりコンパクトである。
m0=minz∈∣Γ∣(∣f(z)∣−∣g(z)∣)>0とおく。この最小値が存在するのは、∣f∣−∣g∣が∣Γ∣の上で連続であり、∣Γ∣が空でないコンパクト集合であることによる(§E5.9 命題 1.1を−(∣f∣−∣g∣)へ適用する。同命題は空でないことを要求するので、仮定∣Γ∣=∅をここで用いる)。∣Γ∣の上で∣ft∣≥m0である。またfとgはDの上で正則であるから、§E5.6 定理 4.1によりf′とg′もDの上で正則であり、とくに連続である。ゆえに、ふたたび∣Γ∣が空でないコンパクト集合であることから、§E5.9 命題 1.1により∣f∣,∣f′∣,∣g∣,∣g′∣は∣Γ∣の上で最大値をもつ。その最大値をすべて超える値をM0とする。s,t∈[0,1]について、∣Γ∣の上で
ftft′−fsfs′=ftfsft′fs−fs′ft=∣ft∣∣fs∣∣(t−s)(g′f−f′g)∣≤m022M02∣t−s∣である。ここでft′fs−fs′ft=(t−s)(g′f−f′g)を用いた。ML 不等式(§E5.4 命題 3.2)により∣N(t)−N(s)∣≤C∣t−s∣となる定数Cを取ることができるので、Nは連続である。
整数値をとる連続関数は定数である。実際、t1<t2かつN(t1)=N(t2)を満たすt1,t2∈[0,1]があるとすると、N(t1)とN(t2)の間に整数でない実数cを取ることができる。N(t1)<c<N(t2)の場合はN−cへ、N(t2)<c<N(t1)の場合はc−Nへ、§D1.12 定理 1.1を区間[t1,t2]で適用すると、どちらの場合も同定理の仮定「左端で負、右端で正」が満たされ、N(t3)=cを満たすt3∈(t1,t2)が存在する。N(t3)が整数でないことは、Nが整数値をとることに反する。ゆえにN(0)=N(1)であり、定理 3.1により、N(0)=N(1)は主張の等式に一致する。▨
系 4.3 (代数学の基本定理).n≥1とし、p(z)=zn+an−1zn−1+⋯+a0を複素係数の多項式とする。このときpはCの中に、重複度を込めてちょうどn個の根をもつ。とくにpは根をもつ。
同じ結論は、最高次の係数が1とは限らない一般の複素係数の多項式q(z)=bnzn+⋯+b0(bn=0)についても成り立つ。
証明.f(z)=zn、g(z)=an−1zn−1+⋯+a0とおく。R>max(1,∑k=0n−1∣ak∣)を取ると、∣z∣=Rのとき
∣g(z)∣≤k=0∑n−1∣ak∣Rk≤Rn−1k=0∑n−1∣ak∣<Rn=∣f(z)∣である。ここでR>1よりRk≤Rn−1(k≤n−1)を用いた。
Γを円周∣z∣=Rの反時計回りの閉曲線とする。D=Cは領域であり、Cに属さない点は存在しないからΓはCの内部で零ホモローグである。∣Γ∣は半径R>0の円周であるから空でない。ゆえに定理 4.1により
a∑n(Γ,a)ord(zn,a)=a∑n(Γ,a)ord(p,a)である。左辺について、znの零点は0だけで位数はnであり、§E5.5 命題 5.6によりn(Γ,0)=1であるから、左辺はnである。右辺について、∣a∣<Rを満たすpの零点ではn(Γ,a)=1、∣a∣>Rを満たす零点ではn(Γ,a)=0であり、∣a∣=Rではp(a)=0である。ゆえに右辺は、∣a∣<Rを満たすpの零点を位数込みで数えた個数である。したがってその個数はnであり、n≥1であるから根が存在する。
∣z∣≥Rには根がないことを確かめる。∣z∣≥Rのとき上と同じ評価により∣g(z)∣<∣z∣nであるからp(z)=zn+g(z)=0である。ゆえにpの根はすべて∣z∣<Rにあり、重複度を込めてちょうどn個である。
一般の場合を示す。q(z)=bnzn+⋯+b0、bn=0とすると、p=q/bnは最高次の係数が1の多項式である。bn=0であるからq(z)=0とp(z)=0は同値であり、q=bnpより両者の零点の位数(§E5.8 定義 1.1)も一致する。ゆえにqも重複度を込めてちょうどn個の根をもつ。▨
例 4.5 (根の所在を絞り込む).p(z)=z5−4z+1の根のうち、∣z∣<1にあるものの個数を数える。f(z)=−4z、g(z)=z5+1とおくと、∣z∣=1の上で
∣f(z)∣=4,∣g(z)∣≤∣z∣5+1=2<4である。Γを単位円周の反時計回りの閉曲線とし、D=Cとして定理 4.1を適用する。ΓはCの内部で零ホモローグであり、∣Γ∣は単位円周であるから空でない。ゆえにp=f+gとfは同じ重みつきの零点数をもつ。fの零点は0だけで位数1、n(Γ,0)=1であるから、pは∣z∣<1に位数込みでちょうど1個の根をもつ。
次に∣z∣=2の上でf(z)=z5、g(z)=−4z+1とおくと∣f(z)∣=32、∣g(z)∣≤9<32であるから、同じ議論によりpは∣z∣<2に位数込みで5個の根をもつ。系 4.3により根は全部で5個であるから、残りの4個は1≤∣z∣<2にある。
5 演習
問題 5.1.
- 命題 2.1の証明で、零点の集積点が極になりえないことを§E5.11 命題 3.3から導いた。この段が必要な理由を述べる。
- 定理 3.1は回転数を重みとする。正の向きをもつ単純閉曲線の場合に「内部の個数」という読み方になるのは、回転数がどのような値をとるからかを述べる。
- 定理 4.1の証明で、Nが整数値をとることと連続であることを別々に示した。どちらか一方だけでは定数であることが従わない理由を述べる。
- 定理 4.1の仮定∣g∣<∣f∣を∣g∣≤∣f∣へ弱めると結論が成り立たないことを、f(z)=z、g(z)=−z、単位円周について確かめる。
- 注意 4.2のf=g=0という例について、∣Γ∣=∅のとき定理 4.1の仮定が満たされることと、第一の結論が偽になることを確かめる。定理 3.1では同じことが起こらない理由を述べる。
- 系 4.3の証明で、∣z∣≥Rに根がないことを別に確かめた理由を述べる。この段がないと「ちょうどn個」を結論することができないことを説明する。