1 零点の位数と局所因数分解
定義 1.1.U⊆Cを開集合、fをU上の正則関数、a∈Uとする。f(a)=0を満たすaをfの零点 (zero) という。f(m)(a)=0を満たす非負整数mが存在するとき、その最小値をaにおけるfの位数 (order of a zero) といい、orda(f)=mと書く。零点の位数は1以上である。
f(n)(a)=0がすべての非負整数nについて成り立つときはorda(f)=∞と定める。
命題 1.2.U⊆Cを開集合、fをU上の正則関数、a∈Uとする。D(a,r)⊆Uを満たすr>0を取ると、次のいずれか一方だけが成り立つ。
- orda(f)=∞であり、fはD(a,r)上で恒等的に0である。
- m=orda(f)<∞であり、D(a,r)上の正則関数gがただ一つ存在して
f(z)=(z−a)mg(z),g(a)=m!f(m)(a)=0
を満たす。とくにf(a)=0ならば(2)のmは1以上である。
証明.cn=f(n)(a)/n!とおく。§E5.7 定理 2.1によりf(z)=∑n≥0cn(z−a)nがD(a,r)上で成り立つ。すべてのcnが0ならば(1)である。以下では、cn=0となる最小の添字をmとする。このときm=orda(f)である。
g(z)=∑k≥0cm+k(z−a)kとおく。z=aではこの級数はcmに収束する。0<∣z−a∣<rならば、Taylor 級数の部分和について
k=0∑Ncm+k(z−a)k=(z−a)−mn=0∑m+Ncn(z−a)nが成り立つので、右辺の収束からgの級数も収束する。したがってgの級数はD(a,r)の全点で収束し、§E5.7 定理 1.2の発散側から収束半径はr以上である。ゆえに§E5.7 定理 1.5によりgはD(a,r)上で正則である。級数をまとめるとf(z)=(z−a)mg(z)であり、g(a)=cm=f(m)(a)/m!=0である。
f(z)=(z−a)ℓq(z)を満たす非負整数ℓと正則関数qがD(a,r)上にあり、q(a)=0であるとする。m<ℓならば0<∣z−a∣<rでg(z)=(z−a)ℓ−mq(z)であり、z→aとするとg(a)=0となって矛盾する。m>ℓも同様にq(a)=0を導くのでm=ℓである。z=aでは因子を消去してg(z)=q(z)を得て、aでは両関数の連続性から同じ等式を得る。ゆえにmとgは一意である。(1)ではすべてのcnが0であり、(2)ではcm=0であるから、二つの場合は相容れない。▨
2 局所的に消える点の集合
命題 2.1.Dを領域、fをDの上の正則関数とし、
A={z∈D:f は z のある開円板上で恒等的に0である}とおく。このときAとD∖Aはともに開集合であり、AはDにおいて開かつ閉である。したがって、A=∅ならばA=Dであり、fはD上で恒等的に0である。
証明.a∈Aとする。あるr>0についてD(a,r)⊆Dであり、fはD(a,r)上で恒等的に0である。w∈D(a,r)ならばD(w,r−∣w−a∣)⊆D(a,r)であるからw∈Aである。したがってD(a,r)⊆Aであり、Aは開集合である。
a∈D∖Aとし、D(a,r)⊆Dを取る。命題 1.2 (1)はa∈Aを意味するため生じない。したがって、ある非負整数mと正則関数gが存在してf(z)=(z−a)mg(z)かつg(a)=0である。正則関数は連続である(§E5.2 命題 1.2)から、ある0<δ<rについてD(a,δ)上でgは零を取らない。m=0ならばfはこの円板で零を取らない。m≥1ならばこの円板におけるfの零点はaだけであり、a∈/Aである。どちらの場合もD(a,δ)∩A=∅なのでD∖Aは開集合である。
ここで初めて領域の連結性を用いる。§E5.1 定義 1.3により、互いに交わらない開集合AとD∖AがDを覆うならば一方は空である。A=∅ならばD∖A=∅、すなわちA=Dである。各点はAに属するのでfはD上で恒等的に0である。▨
命題 2.2.Dを領域、fをDの上の正則関数とし、fはDの上で恒等的に0ではないとする。このときfの各零点aについて、ρ>0が存在して、0<∣z−a∣<ρを満たすz∈Dの全体でf(z)=0である。すなわちfの零点は孤立している。
証明.命題 2.1の集合Aが空でなければfはD上で恒等的に0になるため、仮定からA=∅である。零点aを取り、D(a,r)⊆Dとする。命題 1.2 (1)はa∈Aを導くので、命題 1.2 (2)が成り立つ。したがってf(z)=(z−a)mg(z)、m≥1、g(a)=0となる正則関数gが得られる。gの連続性から、ある0<ρ<rについてD(a,ρ)上でgは零を取らない。ゆえに0<∣z−a∣<ρならばf(z)=0であり、aは孤立した零点である。▨
3 一致の定理
定理 3.1 (一致の定理).Dを領域、fをD上の正則関数とする。fの零点集合が§E5.1 定義 3.1の意味でD内に集積点をもつならば、fはD上で恒等的に0である。
したがって、D上の正則関数f,gに対し、集合
S={z∈D:f(z)=g(z)}がD内に集積点をもつならば、Dの全体でf=gである。
証明.p∈Dを零点集合の集積点とする。f(p)=0である。実際、正則関数の連続性(§E5.2 命題 1.2)により、ε>0を取ると∣z−p∣<δならば∣f(z)−f(p)∣<εとなるδ>0が存在する。集積点の定義から0<∣z−p∣<δを満たす零点zが存在するので∣f(p)∣=∣f(p)−f(z)∣<εである。εは任意であるからf(p)=0である。fが恒等的に0でないと仮定すれば、命題 2.2によりpのある穿孔近傍には零点が存在しない。しかし、pが零点集合の集積点であることは、すべての穿孔近傍に零点が存在することを意味する。この矛盾によりfはD上で恒等的に0である。
二関数についてはh=f−gとおく。§E5.2 命題 1.2によりhはD上で正則であり、Sはhの零点集合である。前半をhへ適用するとh≡0、したがってf=gである。▨
例 3.2 (実軸の上の恒等式は複素平面へ延びる).F(z)=sin2z+cos2zとおく。§E5.3 系 1.9と§E5.2 命題 1.2により、Fと定数関数1はC上で正則である。実数xについてF(x)=1である(§D1.24 系 2.2)。実軸は、例えば0をC内の集積点にもつ。したがって定理 3.1により
sin2z+cos2z=1がすべてのz∈Cについて成り立つ。
4 演習
問題 4.1 (積の零点の位数).Dを領域、f,gをD上の正則関数とする。a∈Dにおけるf,gの位数がそれぞれ有限のm,nであるとき、fgのaにおける位数を求めよ。
解答.
命題 1.2により、aのある共通の開円板上で
f(z)=(z−a)mu(z),g(z)=(z−a)nv(z),u(a)v(a)=0と書くことができる。したがって(fg)(z)=(z−a)m+nu(z)v(z)であり、u(a)v(a)=0である。命題 1.2の一意性からorda(fg)=m+nである。▨
問題 4.2 (すべての導関数が消える場合).Dを領域、fをD上の正則関数とする。あるa∈Dについてf(n)(a)=0がすべての非負整数nで成り立つならば、fはD上で恒等的に0であることを示せ。
解答.
D(a,r)⊆Dを取る。§E5.7 定理 2.1により、D(a,r)上でfは係数がすべて0の
Taylor 級数に等しい。したがってfはD(a,r)上で恒等的に0であり、命題 2.1の集合Aは空でない。領域Dの連結性を用いた同命題からA=Dとなり、fはD上で恒等的に0である。▨