§E5.16等角写像

最終更新

複素平面上の写像が図形を変形するとき、長さが変わっても二本の曲線の有向角が保たれる場合がある。正則写像では、導関数が00でない点における局所的な変形が回転と拡大縮小に限られる一方、導関数が00になる点では角が整数倍されるため、両者を区別しなければならない。

この局所的な等角性に、単位円板上の正則写像を支配する Schwarz の補題を組み合わせると、単位円板と上半平面の正則自己同型を具体的に記述することができる。本記事では、局所等角性と二つの標準領域の正則自己同型について解説する。

単位円板と正則に同型な領域がどれであるかを決める Riemann の写像定理、境界における対応、および正規族は本記事では扱わない。正規族と Riemann の写像定理は本単元の後続の記事が扱い、境界における対応は本単元では扱わない。

1 局所等角性

定義 1.1.γ1,γ2\gamma_{1},\gamma_{2}を区間の上の微分可能な曲線とし、γ1(t1)=γ2(t2)=p\gamma_{1}(t_{1})=\gamma_{2}(t_{2})=p、γ1′(t1)≠0\gamma_{1}'(t_{1})\ne0、γ2′(t2)≠0\gamma_{2}'(t_{2})\ne0とする。二つの曲線がppでなす有向角 (oriented angle between curves) を、

Arg⁡γ2′(t2)γ1′(t1)∈(−π,π]\operatorname{Arg}\frac{\gamma_{2}'(t_{2})}{\gamma_{1}'(t_{1})}\in(-\pi,\pi]

と定める。ここでArg⁡\operatorname{Arg}は§E5.3 定義 2.7の偏角の主値である。

定理 1.2.ffを開集合UUの上の正則関数、p∈Up\in Uとし、f′(p)≠0f'(p)\ne0とする。γ1,γ2\gamma_{1},\gamma_{2}を定義 1.1の条件を満たすUUの中の曲線とすると、像の曲線f∘γ1f\circ\gamma_{1}、f∘γ2f\circ\gamma_{2}はf(p)f(p)で微分可能で導関数が00でなく、二つのなす角はもとの二つのなす角に等しい。

証明.§E5.4 補題 4.1により(f∘γj)′(tj)=f′(p) γj′(tj)(f\circ\gamma_{j})'(t_{j})=f'(p)\,\gamma_{j}'(t_{j})である。f′(p)≠0f'(p)\ne0かつγj′(tj)≠0\gamma_{j}'(t_{j})\ne0であるから、この積は00でない。したがって

(f∘γ2)′(t2)(f∘γ1)′(t1)=f′(p) γ2′(t2)f′(p) γ1′(t1)=γ2′(t2)γ1′(t1)\frac{(f\circ\gamma_{2})'(t_{2})}{(f\circ\gamma_{1})'(t_{1})} =\frac{f'(p)\,\gamma_{2}'(t_{2})}{f'(p)\,\gamma_{1}'(t_{1})} =\frac{\gamma_{2}'(t_{2})}{\gamma_{1}'(t_{1})}

であり、偏角も等しい。▨

注意 1.3 (導関数が 0 の点では角が保たれない).f(z)=zmf(z)=z^{m}(m≥2m\ge2)とp=0p=0を考える。0<θ<2π/m0<\theta<2\pi/mとし、γ1(t)=t\gamma_{1}(t)=t、γ2(t)=teiθ\gamma_{2}(t)=te^{i\theta}(0≤t≤10\le t\le1)とおく。γ1(0)=γ2(0)=0\gamma_{1}(0)=\gamma_{2}(0)=0、γ1′(0)=1\gamma_{1}'(0)=1、γ2′(0)=eiθ\gamma_{2}'(0)=e^{i\theta}であるから、定義 1.1の条件が満たされ、二つのなす角はθ\thetaである。

像の曲線はt↦tmt\mapsto t^{m}とt↦tmeimθt\mapsto t^{m}e^{im\theta}である。m≥2m\ge2であるから、どちらもt=0t=0における導関数が00であり、定義 1.1の条件を満たさない。すなわち像の二本の曲線については、同定義の意味の角が定まらない。

定まるのは、像の集合としての形が示す角である。s=tms=t^{m}と径数を取り替えると、二つの像は原点から出る二本の線分{s:0≤s≤1}\{s : 0\le s\le1\}と{seimθ:0≤s≤1}\{se^{im\theta} : 0\le s\le1\}である。この二本の方向の有向角はArg⁡(eimθ)\operatorname{Arg}(e^{im\theta})、すなわちmθm\thetaを法2π2\piで(−π,π](-\pi,\pi]へ戻した値である。一般に、f−f(p)f-f(p)がppで位数mmの零点をもつときも、有向角はこの意味でmm倍される。この角の倍加は§E5.10 定理 3.1の証明で用いた局所因数分解f(z)−f(p)=ϕ(z)mf(z)-f(p)=\phi(z)^{m}(ϕ′(p)≠0\phi'(p)\ne0)からも読み取ることができる。

2 Schwarz の補題

以下、D={z∈C:∣z∣<1}\mathbb D=\{z\in\mathbb C : |z|<1\}を単位円板と書く。

定理 2.1 (Schwarz の補題).f:D→Df:\mathbb D\to\mathbb Dを正則関数とし、f(0)=0f(0)=0とする。このとき

  1. すべてのz∈Dz\in\mathbb Dについて∣f(z)∣≤∣z∣|f(z)|\le|z|である。
  2. ∣f′(0)∣≤1|f'(0)|\le1である。
  3. あるz0∈D∖{0}z_{0}\in\mathbb D\setminus\{0\}について∣f(z0)∣=∣z0∣|f(z_{0})|=|z_{0}|が成り立つか、または∣f′(0)∣=1|f'(0)|=1が成り立つならば、あるλ\lambdaで∣λ∣=1|\lambda|=1を満たすものが存在してf(z)=λzf(z)=\lambda zがすべてのz∈Dz\in\mathbb Dで成り立つ。

証明.f(0)=0f(0)=0であるから、ffの00を中心とする Taylor 展開(§E5.7 定理 2.1)はf(z)=∑n≥1cnznf(z)=\sum_{n\ge1}c_{n}z^{n}であり、cn=f(n)(0)/n!c_{n}=f^{(n)}(0)/n!である。g(z)=∑n≥1cnzn−1g(z)=\sum_{n\ge1}c_{n}z^{n-1}とおく。この級数はD\mathbb Dの各点で収束する。実際、z∈D∖{0}z\in\mathbb D\setminus\{0\}については、第NN部分和が1z∑n=1Ncnzn\frac1z\sum_{n=1}^{N}c_{n}z^{n}に等しく、右辺はN→∞N\to\inftyでf(z)/zf(z)/zへ収束する。z=0z=0では第11項だけが残り、和はc1=f′(0)c_{1}=f'(0)である。すなわちz≠0z\ne0でg(z)=f(z)/zg(z)=f(z)/z、g(0)=f′(0)g(0)=f'(0)である。

級数がD\mathbb Dの各点で収束するので、§E5.7 定理 1.2 (2)の対偶により収束半径は11以上であり、§E5.7 定理 1.5によりggはD\mathbb Dの上で正則である。

0<r<10<r<1とし、閉円板{∣z∣≤r}\{|z|\le r\}へ§E5.9 系 3.2を適用する。∣z∣=r|z|=rの上で∣g(z)∣=∣f(z)∣/r<1/r|g(z)|=|f(z)|/r<1/rであるから、∣z∣≤r|z|\le rの上で∣g(z)∣≤1/r|g(z)|\le1/rである。zzを固定してr→1−r\to1^{-}とすると∣g(z)∣≤1|g(z)|\le1を得る。この不等式はz≠0z\ne0について∣f(z)∣≤∣z∣|f(z)|\le|z|を、z=0z=0について∣f′(0)∣≤1|f'(0)|\le1を与えるので、(1)と(2)が従う。

(3)を示す。仮定のいずれかが成り立つとき、∣g∣|g|はD\mathbb Dの内部の点(前者ではz0z_{0}、後者では00)で値11をとる。いま示したとおり∣g∣≤1|g|\le1であるから、その点で∣g∣|g|はD\mathbb Dの上での最大値をとる。D\mathbb Dは§E5.2 命題 4.5により領域であるから、§E5.9 定理 3.1によりggはD\mathbb Dの上で定数である。その定数をλ\lambdaとすると∣λ∣=1|\lambda|=1であり、z≠0z\ne0についてf(z)=λzf(z)=\lambda z、z=0z=0でも両辺が00である。▨

3 単位円板の自己同型

定義 3.1. 領域DDの正則自己同型 (holomorphic automorphism) とは、DDからDDへの全単射ffであって、ffと逆写像f−1f^{-1}がともにDDの上で正則であるものをいう。DDの正則自己同型の全体をAut⁡(D)\operatorname{Aut}(D)と書く。合成と逆写像について閉じている。

補題 3.2.a∈Da\in\mathbb Dとし、

φa(z)=z−a1−a‾z\varphi_{a}(z)=\frac{z-a}{1-\overline{a}z}

とおく。このときφa\varphi_{a}はD\mathbb Dの正則自己同型であり、φa(a)=0\varphi_{a}(a)=0、φa−1=φ−a\varphi_{a}^{-1}=\varphi_{-a}である。

証明.a=0a=0のときはφ0(z)=z\varphi_{0}(z)=zであり、主張は明らかである。以下a≠0a\ne0とする。

1−a‾z=01-\overline{a}z=0となるのはz=1/a‾z=1/\overline{a}のときだけであり、∣a∣<1|a|<1より∣1/a‾∣=1/∣a∣>1|1/\overline{a}|=1/|a|>1である。したがってφa\varphi_{a}は開円板

Δ={z:∣z∣<1∣a∣}\Delta=\Bigl\{z : |z|<\tfrac{1}{|a|}\Bigr\}

の上で正則である(§E5.2 命題 1.2)。Δ\Deltaは閉単位円板K={z:∣z∣≤1}K=\{z:|z|\le1\}を含む。ad−bc=1⋅1−(−a)(−a‾)=1−∣a∣2≠0ad-bc=1\cdot1-(-a)(-\overline{a})=1-|a|^{2}\ne0であるから、φa\varphi_{a}は§E5.15 定義 2.1の意味で Möbius 変換でもある。

∣z∣=1|z|=1のときzz‾=1z\overline{z}=1であるから

∣1−a‾z∣=∣z∣∣z‾−a‾∣=∣z−a‾∣=∣z−a∣|1-\overline{a}z|=|z||\overline{z}-\overline{a}|=|\overline{z-a}|=|z-a|

であり、∣φa(z)∣=1|\varphi_{a}(z)|=1である。すなわちφa\varphi_{a}は単位円周を単位円周へ写す。

φa\varphi_{a}はKKを含む開集合Δ\Deltaの上で正則であるから、§E5.9 系 3.2をKKへ直接適用することができ、

max⁡z∈K∣φa(z)∣=max⁡∣z∣=1∣φa(z)∣=1\max_{z\in K}|\varphi_{a}(z)|=\max_{|z|=1}|\varphi_{a}(z)|=1

である。とくにD⊆K\mathbb D\subseteq Kの上で∣φa∣≤1|\varphi_{a}|\le1である。

さらにD\mathbb Dの上で∣φa∣<1|\varphi_{a}|<1である。実際、あるz0∈Dz_{0}\in\mathbb Dで∣φa(z0)∣=1|\varphi_{a}(z_{0})|=1となるとすると、D\mathbb Dは開集合であるからD(z0,ρ)⊆DD(z_{0},\rho)\subseteq\mathbb Dを満たすρ>0\rho>0が取れ、その上で∣φa∣≤1=∣φa(z0)∣|\varphi_{a}|\le1=|\varphi_{a}(z_{0})|である。D\mathbb Dは§E5.2 命題 4.5により領域であるから、§E5.9 定理 3.1によりφa\varphi_{a}はD\mathbb Dの上で定数である。しかしφa(a)=0\varphi_{a}(a)=0かつφa(0)=−a≠0\varphi_{a}(0)=-a\ne0であるから定数ではない。定数性という結論は、この二つの値と矛盾する。ゆえにφa(D)⊆D\varphi_{a}(\mathbb D)\subseteq\mathbb Dである。

直接の計算によりφ−a(φa(z))=z\varphi_{-a}(\varphi_{a}(z))=zである。実際、

φ−a(φa(z))=z−a1−a‾z+a1+a‾z−a1−a‾z=(z−a)+a(1−a‾z)(1−a‾z)+a‾(z−a)=z(1−∣a∣2)1−∣a∣2=z\varphi_{-a}\bigl(\varphi_{a}(z)\bigr) =\frac{\dfrac{z-a}{1-\overline{a}z}+a}{1+\overline{a}\dfrac{z-a}{1-\overline{a}z}} =\frac{(z-a)+a(1-\overline{a}z)}{(1-\overline{a}z)+\overline{a}(z-a)} =\frac{z(1-|a|^{2})}{1-|a|^{2}}=z

である。φ−a\varphi_{-a}も同じ理由でD\mathbb DをD\mathbb Dへ写す。さらに、上の恒等式でaaを−a-aに置き換えると

φa(φ−a(z))=z\varphi_{a}\bigl(\varphi_{-a}(z)\bigr)=z

を得る。したがってφ−a∘φa\varphi_{-a}\circ\varphi_aとφa∘φ−a\varphi_a\circ\varphi_{-a}はともにD\mathbb Dの恒等写像である。ゆえにφa\varphi_aはD\mathbb Dの全単射であり、両側逆写像φ−a\varphi_{-a}も正則である。▨

定理 3.3.f∈Aut⁡(D)f\in\operatorname{Aut}(\mathbb D)であることと、a∈Da\in\mathbb Dと∣λ∣=1|\lambda|=1を満たすλ\lambdaが存在して

f(z)=λ z−a1−a‾zf(z)=\lambda\,\frac{z-a}{1-\overline{a}z}

と書くことができることは同値である。

証明. 右辺の形の写像が自己同型であることは、補題 3.2と、∣λ∣=1|\lambda|=1による回転がD\mathbb Dの自己同型であることによる。

逆を示す。f∈Aut⁡(D)f\in\operatorname{Aut}(\mathbb D)とし、a=f−1(0)a=f^{-1}(0)とおく。g=f∘φa−1=f∘φ−ag=f\circ\varphi_{a}^{-1}=f\circ\varphi_{-a}とおくと、ggはD\mathbb Dの自己同型でありg(0)=f(a)=0g(0)=f(a)=0である。定理 2.1をggへ適用して∣g(z)∣≤∣z∣|g(z)|\le|z|を得る。同じ補題をg−1g^{-1}(g−1g^{-1}もD\mathbb Dの自己同型で原点を固定する)へ適用して∣g−1(w)∣≤∣w∣|g^{-1}(w)|\le|w|を得る。w=g(z)w=g(z)を代入すると∣z∣≤∣g(z)∣|z|\le|g(z)|であるから、∣g(z)∣=∣z∣|g(z)|=|z|がすべてのzzで成り立つ。定理 2.1 (3)により、∣λ∣=1|\lambda|=1を満たすλ\lambdaが存在してg(z)=λzg(z)=\lambda zである。ゆえにf=g∘φaf=g\circ\varphi_{a}であり、主張の形になる。▨

4 上半平面の自己同型

定義 4.1.H={z∈C:Im⁡z>0}\mathbb H=\{z\in\mathbb C : \operatorname{Im}z>0\}を上半平面とし、

K(z)=z−iz+iK(z)=\frac{z-i}{z+i}

をCayley 変換 (Cayley transform) という。

命題 4.2.KKはH\mathbb HからD\mathbb Dへの全単射であり、KKとK−1K^{-1}はともに正則である。

証明.z≠−iz\ne-iについてKKは正則である(§E5.2 命題 1.2)。z=x+iyz=x+iyとすると

∣z−i∣2−∣z+i∣2=(x2+(y−1)2)−(x2+(y+1)2)=−4y|z-i|^{2}-|z+i|^{2}=\bigl(x^{2}+(y-1)^{2}\bigr)-\bigl(x^{2}+(y+1)^{2}\bigr)=-4y

であるから、y>0y>0であることと∣z−i∣<∣z+i∣|z-i|<|z+i|、すなわち∣K(z)∣<1|K(z)|<1であることは同値である。ゆえにK(H)⊆DK(\mathbb H)\subseteq\mathbb Dである。

w=K(z)w=K(z)をzzについて解くと、w(z+i)=z−iw(z+i)=z-iよりz(1−w)=i(1+w)z(1-w)=i(1+w)、w≠1w\ne1のときz=i(1+w)/(1−w)z=i(1+w)/(1-w)である。w∈Dw\in\mathbb Dならばw≠1w\ne1であり、このzzはIm⁡z>0\operatorname{Im}z>0を満たす。実際、上の同値関係を逆にたどればよい。この対応はKKの逆写像を与え、§E5.2 命題 1.2により正則である。▨

定理 4.3.f∈Aut⁡(H)f\in\operatorname{Aut}(\mathbb H)であることと、実数a,b,c,da,b,c,dでad−bc>0ad-bc>0を満たすものが存在して

f(z)=az+bcz+df(z)=\frac{az+b}{cz+d}

と書くことができることは同値である。

証明. 右辺の形の写像がH\mathbb Hの自己同型であることを示す。a,b,c,da,b,c,dが実数でad−bc>0ad-bc>0のとき、z=x+iyz=x+iy(y>0y>0)についてcz+d≠0cz+d\ne0である(c,dc,dが同時に00ではなく、c≠0c\ne0ならcz+dcz+dの虚部はcy≠0cy\ne0、c=0c=0ならd≠0d\ne0)。また

Im⁡az+bcz+d=Im⁡(az+b)(cz+d)‾∣cz+d∣2=(ad−bc) y∣cz+d∣2>0\operatorname{Im}\frac{az+b}{cz+d} =\operatorname{Im}\frac{(az+b)\overline{(cz+d)}}{|cz+d|^{2}} =\frac{(ad-bc)\,y}{|cz+d|^{2}}>0

である。ここで(az+b)(cz+d)‾=ac∣z∣2+adz+bcz‾+bd(az+b)\overline{(cz+d)}=ac|z|^{2}+adz+bc\overline{z}+bdの虚部が(ad−bc)y(ad-bc)yであることを用いた。逆写像はz↦(dz−b)/(−cz+a)z\mapsto(dz-b)/(-cz+a)であり、係数は実数で行列式は同じad−bc>0ad-bc>0であるから、同じ理由でH\mathbb HをH\mathbb Hへ写す。ゆえに自己同型である。

逆を示す。f∈Aut⁡(H)f\in\operatorname{Aut}(\mathbb H)とすると、命題 4.2によりg=K∘f∘K−1g=K\circ f\circ K^{-1}はD\mathbb Dの自己同型である。定理 3.3により、α∈D\alpha\in\mathbb Dと∣λ∣=1|\lambda|=1を満たすλ\lambdaが存在してg(w)=λ(w−α)/(1−α‾w)g(w)=\lambda(w-\alpha)/(1-\overline{\alpha}w)である。この写像は行列Mg=(λ−λα−α‾1)M_{g}=\begin{pmatrix}\lambda&-\lambda\alpha\\ -\overline{\alpha}&1\end{pmatrix}に対応し、det⁡Mg=λ(1−∣α∣2)≠0\det M_{g}=\lambda(1-|\alpha|^{2})\ne0である。またKKは行列MK=(1−i1i)M_{K}=\begin{pmatrix}1&-i\\ 1&i\end{pmatrix}(det⁡MK=2i≠0\det M_{K}=2i\ne0)に対応する。

TMKT_{M_{K}}はH\mathbb Hの上でKKに一致する(−i∉H-i\notin\mathbb H)。またMK−1=12i(ii−11)M_{K}^{-1}=\frac{1}{2i}\begin{pmatrix}i&i\\ -1&1\end{pmatrix}であるから、§E5.15 命題 2.2 (2)によりTMK−1=T(ii−11)T_{M_{K}^{-1}}=T_{\left(\begin{smallmatrix}i&i\\ -1&1\end{smallmatrix}\right)}であり、この Möbius 変換はw↦i(1+w)/(1−w)w\mapsto i(1+w)/(1-w)、すなわちD\mathbb Dの上でK−1K^{-1}に一致する(1∉D1\notin\mathbb D)。TMgT_{M_{g}}はD\mathbb Dの上でggに一致する(1/α‾∉D1/\overline{\alpha}\notin\mathbb D。α=0\alpha=0のときは分母が定数11である)。

そこでF=TMK−1∘TMg∘TMKF=T_{M_{K}^{-1}}\circ T_{M_{g}}\circ T_{M_{K}}とおくと、§E5.15 命題 2.2 (4)によりF=TMK−1MgMKF=T_{M_{K}^{-1}M_{g}M_{K}}は Möbius 変換でありC^\widehat{\mathbb C}の全単射である。z∈Hz\in\mathbb HについてはK(z)∈DK(z)\in\mathbb D、g(K(z))∈Dg(K(z))\in\mathbb DであるからF(z)=K−1(g(K(z)))=f(z)F(z)=K^{-1}\bigl(g(K(z))\bigr)=f(z)である。とくにF(H)=f(H)=HF(\mathbb H)=f(\mathbb H)=\mathbb Hである。

FFが実数を実数へ写すことを示す。まず、Im⁡z≤0\operatorname{Im}z\le0を満たすz∈Cz\in\mathbb CについてF(z)∉HF(z)\notin\mathbb Hである。実際、F(z)∈HF(z)\in\mathbb Hとすると、F(H)=HF(\mathbb H)=\mathbb HよりF(w)=F(z)F(w)=F(z)を満たすw∈Hw\in\mathbb Hが存在し、FFは単射であるからz=w∈Hz=w\in\mathbb HとなってIm⁡z≤0\operatorname{Im}z\le0に反する。

F=TMF=T_{M}、M=(a0b0c0d0)M=\begin{pmatrix}a_{0}&b_{0}\\ c_{0}&d_{0}\end{pmatrix}と書く。x∈Rx\in\mathbb Rがc0x+d0≠0c_{0}x+d_{0}\ne0を満たすとする。c0z+d0=0c_{0}z+d_{0}=0を満たすz∈Cz\in\mathbb Cは高々一つであるから、十分大きい正の整数kkについてzk=x+i/kz_{k}=x+i/kとzk′=x−i/kz_{k}'=x-i/kはどちらもこの条件を満たさず、F(zk)F(z_{k})とF(zk′)F(z_{k}')はともにC\mathbb Cの点で、FFはxxの近傍で正則、とくに連続である(§E5.2 命題 1.2)。zk∈Hz_{k}\in\mathbb HであるからF(zk)∈HF(z_{k})\in\mathbb H、すなわちIm⁡F(zk)>0\operatorname{Im}F(z_{k})>0であり、zk→xz_{k}\to xと連続性からIm⁡F(x)≥0\operatorname{Im}F(x)\ge0である。Im⁡zk′=−1/k<0\operatorname{Im}z_{k}'=-1/k<0であるから、いま示したことによりF(zk′)∉HF(z_{k}')\notin\mathbb H、すなわちIm⁡F(zk′)≤0\operatorname{Im}F(z_{k}')\le0であり、同様にIm⁡F(x)≤0\operatorname{Im}F(x)\le0である。ゆえにIm⁡F(x)=0\operatorname{Im}F(x)=0、すなわちF(x)∈RF(x)\in\mathbb Rである。

c0x+d0=0c_{0}x+d_{0}=0を満たす実数xxは高々一つであるから、相異なる三つの実数x1,x2,x3x_{1},x_{2},x_{3}を、どれもこの条件を満たさないように取ることができる。いま示したことによりF(x1),F(x2),F(x3)F(x_{1}),F(x_{2}),F(x_{3})は実数であり、FFが単射であるから相異なる。

FFを実数の三点の像から復元する。§E5.15 定理 3.1の一意性により、FFはxj↦F(xj)x_{j}\mapsto F(x_{j})(j=1,2,3j=1,2,3)を満たすただ一つの Möbius 変換であり、§E5.15 系 3.2によりFFは実数a,b,c,da,b,c,d(ad−bc≠0ad-bc\ne0)を用いてT(abcd)T_{\left(\begin{smallmatrix}a&b\\ c&d\end{smallmatrix}\right)}と書くことができる。c,dc,dは実数で同時に00ではないから、z∈Hz\in\mathbb Hについてcz+d≠0cz+d\ne0であり、f(z)=F(z)=(az+b)/(cz+d)f(z)=F(z)=(az+b)/(cz+d)である。上の虚部の計算によりIm⁡f(z)=(ad−bc)Im⁡z/∣cz+d∣2\operatorname{Im}f(z)=(ad-bc)\operatorname{Im}z/|cz+d|^{2}であり、この虚部がH\mathbb Hの上で正であるからad−bc>0ad-bc>0である。▨

注意 4.4 (本記事が扱わない範囲). 単位円板と正則に同型な領域がどれであるかを決める Riemann の写像定理、その証明に用いる正規族と Montel の定理、および写像が境界へどのように延びるかという問題は、本記事では扱わない。このうち前の二つは、本単元の後続の記事が扱う。正規族と Montel の定理は§E5.17 定理 5.1が、複素平面自身でない単連結領域についての写像定理は§E5.18 定理 5.1が与える。写像が領域の境界へどのように延びるかという問題は、本単元では扱わない。本記事が扱ったのは、単位円板と上半平面という二つの標準的な領域と、その間の具体的な写像である。

5 演習

問題 5.1.

  • 定理 1.2の証明で、f′(p)f'(p)が約分されて消えることが等角性の理由である。f′(p)f'(p)の偏角と絶対値が、像の曲線に対して何をしているのかを述べる。
  • 定理 2.1の証明で、r→1−r\to1^{-}の極限を取る段が必要な理由を述べる。固定したr<1r<1の評価だけでは何が足りないかを説明する。
  • 定理 2.1 (3)の証明で、最大値原理の局所版を適用した点がどこかを特定する。f(0)=0f(0)=0という仮定を外すと結論が成り立たないことを、定数写像f≡1/2f\equiv1/2について確かめる。
  • 定理 3.3の証明で、ggとg−1g^{-1}の両方へ Schwarz の補題を適用した。片方だけでは∣g(z)∣=∣z∣|g(z)|=|z|が得られない理由を述べる。
  • 補題 3.2の証明で、§E5.9 系 3.2を閉単位円板へ適用することができたのは、φa\varphi_{a}が閉単位円板を含む開円板{∣z∣<1/∣a∣}\{|z|<1/|a|\}の上で正則だからである。D\mathbb Dの上でしか正則でない関数について、同じ適用を行うことができない理由を述べる。
  • 定理 4.3の証明で、実数xxにH\mathbb Hの側と下半平面の側から近づいてIm⁡F(x)=0\operatorname{Im}F(x)=0を得た。下半平面の側の点の像がH\mathbb Hに属さないことを、FFのどの性質から導いたのかを特定する。
  • 定理 4.3の証明で、ad−bc>0ad-bc>0という符号の条件がどこから出たのかを特定する。ad−bc<0ad-bc<0の場合に(az+b)/(cz+d)(az+b)/(cz+d)が何をするかを述べる。

参考文献

  1. Lars V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., AMS Chelsea Publishing 385, American Mathematical Society, Providence, R.I., 2021, originally published 1979.等角性、Schwarz の補題、単位円板の自己同型を参考にした。
  2. Walter Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw Hill, 1987.Schwarz の補題と円板の自己同型の分類を参考にした。
  3. John B. Conway, Functions of One Complex Variable I, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1978.等角写像と Cayley 変換による上半平面との対応を参考にした。

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