1 差商の除去可能性
補題 1.1.U⊆Cを開集合、fをUの上の正則関数、z∈Uとする。
gz(ζ)=⎩⎨⎧ζ−zf(ζ)−f(z)f′(z)(ζ∈U, ζ=z),(ζ=z)と定めると、gzはUの上で連続であり、U∖{z}の上で正則である。とくにgzはzのある近傍の上で有界である。
証明.ζ=zでは分母が消えないため、§E5.2 命題 1.2によりgzは正則である。一方、fがzで複素微分可能であることは
ζ→zlimζ−zf(ζ)−f(z)=f′(z)を意味する(§E5.2 定義 1.1)。右辺をgz(z)と定めたのでgzはzでも連続であり、U全体で連続である。連続性から、あるρ>0とM>0が存在してD(z,ρ)⊆Uかつ∣gz(ζ)∣≤M(∣ζ−z∣≤ρ)となる。▨
2 回転数を係数とする積分公式
証明.k=n(Γ,z)とおく。§E5.4 定義 3.1により∣Γ∣は有限個の曲線像の和である。各曲線像は§E2.9 定理 4.3と§E2.19 定理 4.2によりコンパクトであり、その有限和も§E2.19 補題 2.8によりコンパクトである。したがって§E2.9 系 4.1により∣Γ∣は閉集合である。Uは開集合でz∈U∖∣Γ∣だから、ε>0を、D(z,ε)⊆UかつD(z,ε)∩∣Γ∣=∅となるように取ることができる。中心z、半径εの反時計回りの円周をCεとし、V=U∖{z}、Σ=Γ−kCεとおく。
ΣがVの内部で零ホモローグであることを確認する。台はVに含まれる。p∈/Vならばp=zまたはp∈/Uである。前者では§E5.5 命題 5.6によりn(Cε,z)=1であるからn(Σ,z)=k−k=0である。後者では零ホモローグ性からn(Γ,p)=0であり、D(z,ε)⊆Uなのでpは円板の外にある。したがって同じ回転数命題からn(Cε,p)=0、ゆえにn(Σ,p)=0である。
ζ↦f(ζ)/(ζ−z)は§E5.2 命題 1.2によりVの上で正則である。したがって§E5.5 定理 6.6をΣへ適用すると
∫Γζ−zf(ζ)dζ=k∮Cεζ−zf(ζ)dζ(1)を得る。
ここで補題 1.1のgzを用いる。Cε上でf(ζ)/(ζ−z)=f(z)/(ζ−z)+gz(ζ)であるから、回転数の定義と§E5.5 命題 5.6により
∮Cεζ−zf(ζ)dζ=2πif(z)+∮Cεgz(ζ)dζである。εをさらに小さくすれば、同補題によりCε上で∣gz∣≤Mとすることができる。円周の長さは2πεなので、ML 不等式(§E5.4 命題 3.2)から
∮Cεgz(ζ)dζ≤2πεM⟶0(ε→0+)を得る。式 (1) は条件を満たす任意の十分小さいεについて成り立つので、極限を取ると
∫Γζ−zf(ζ)dζ=k⋅2πif(z)である。
最後に円周の場合を導く。p∈/Uならばp∈/D(a,r)であるから§E5.5 命題 5.6によりn(Cr,p)=0であり、CrはUの内部で零ホモローグである。∣z−a∣<rのときn(Cr,z)=1であるから、一般形から主張の等式が従う。▨
3 積分と微分の交換
積分と評価点に関する微分を交換する補題を示す。
補題 3.1.Γをサイクル、φを∣Γ∣の上の連続関数とし、正の整数mに対して
Fm(z)=∫Γ(ζ−z)mφ(ζ)dζ(z∈Ω=C∖∣Γ∣)と定める。このときFmはΩの上で正則であり、Fm′=mFm+1が成り立つ。
証明.∣Γ∣=∅ならば両関数は空和として0である。以下では∣Γ∣=∅とする。Γ=∑j=1Nnjγjと書く。各曲線の定義区間は§E2.9 定理 4.3によりコンパクトである。各曲線像は§E2.19 定理 4.2によりコンパクトであり、§E2.19 補題 2.8により、有限個の像の和∣Γ∣もコンパクトである。
z0∈Ωを固定する。§E1.14 定義 4.1によりCを実数の組と同一視すると、∣ζ−z0∣は§E2.1 定義 3.2の Euclid 距離に一致する。連続関数ζ↦∣ζ−z0∣は、§E2.19 定理 4.4により∣Γ∣上で正の最小値dを取る。0<∣h∣<d/2とし、a=ζ−z0−h、b=ζ−z0とおくと
∣a∣≥d/2,∣b∣≥d,b−a=h.(2)恒等式bm−am=(b−a)∑j=0m−1ajbm−1−jから
Qh(ζ):=h1((ζ−z0−h)m1−(ζ−z0)m1)=j=0∑m−1am−jbj+11(3)を得る。式 (2) とa→bから、各項は1/bm+1へ∣Γ∣上で一様に収束する。定量的には、∣Γ∣のコンパクト性から∣b∣≤RとなるRを取り、冪の差の因数分解をもう一度用いると、m,d,Rだけに依存する定数Aが存在して
ζ∈∣Γ∣supQh(ζ)−(ζ−z0)m+1m≤A∣h∣(4)となる。実際、式 (3) の第j項との差は、k=m−jとして
∣a∣k∣b∣m+1∣bk−ak∣≤∣h∣(d/2)kdm+1k(R+d/2)k−1であり、有限個の項を加えればよい。
また∣φ∣はコンパクト集合∣Γ∣上で最大値Kを取る。同じ表示における重み付き全長をLΓ=∑j∣nj∣L(γj)とおく。積分の線形性と ML 不等式(§E5.4 命題 3.2)を式 (4) へ適用すると
hFm(z0+h)−Fm(z0)−mFm+1(z0)≤LΓKA∣h∣⟶0である。したがってFm′(z0)=mFm+1(z0)である。z0は任意なのでFmはΩ上で正則である。▨
4 高階導関数の積分表示
証明.a∈Uを任意に取り、D(a,r)⊆Uとなるr>0を選ぶ。境界円周を反時計回りにCrと書く。定理 2.1の円周版により、z∈D(a,r)について
f(z)=2πi1∮Crζ−zf(ζ)dζ=2πi1F1(z)である。Fmは補題 3.1でΓ=Cr、φ=f∣Crとした関数である。同補題から各Fmは正則でFm′=mFm+1であり、帰納法で
F1(m)=m!Fm+1が成り立つ。帰納段階はF1(m+1)=m!Fm+1′=(m+1)!Fm+2である。したがって
f(m)(z)=2πi1F1(m)(z)=2πim!∮Cr(ζ−z)m+1f(ζ)dζである。aが任意なので、fはU上で何回でも複素微分可能であり、円周版も得られた。
一般のサイクルについてz0∈U∖∣Γ∣とk=n(Γ,z0)を固定する。§E5.5 命題 5.4により、ある近傍W⊆U∖∣Γ∣上でn(Γ,z)=kである。Cauchy の積分公式からW上で
kf(z)=2πi1∫Γζ−zf(ζ)dζ=2πi1F1(z)である。両辺をm回微分し、評価点微分補題を帰納的に用いると
kf(m)(z)=2πi1F1(m)(z)=2πim!∫Γ(ζ−z)m+1f(ζ)dζを得る。z=z0とすれば主張の等式である。▨
系 4.2 (Cauchy の評価).U⊆Cを開集合、fをUの上の正則関数とし、閉円板D(a,r)がUに含まれるとする。円周∣ζ−a∣=rの上で∣f(ζ)∣≤Mならば、すべての非負整数mについて
f(m)(a)≤rmm!Mが成り立つ。
証明.定理 4.1の円周版をz=aで用いる。円周上で被積分関数の絶対値はM/rm+1以下であり、円周の長さは2πrである。ML 不等式(§E5.4 命題 3.2)により
f(m)(a)≤2πm!⋅rm+1M⋅2πr=rmm!Mを得る。▨
5 サイクルによる積分路の変形
積分路の差を零ホモローグなサイクルとして表すと、一般Cauchy–Goursat定理から変形公式を得る。
証明.CRとCεを定理の二円周とし、Γ=CR−Cεとおく。内側円周上では∣ζ−a∣≤∣b−a∣+ε<Rかつζ=bであるから、∣Γ∣⊆Wである。
p∈/Wならばp=bまたは∣p−a∣>Rである。前者では§E5.5 命題 5.6によりn(CR,b)=1、n(Cε,b)=1でありn(Γ,b)=0である。後者ではn(CR,p)=0であり、∣p−b∣≥∣p−a∣−∣a−b∣>R−(R−ε)=εであるからn(Cε,p)=0であり、n(Γ,p)=0である。ゆえにΓはWの内部で零ホモローグであり、§E5.5 定理 6.6により∫Γg=0となる。これを二円周の積分へ展開すればよい。▨
証明.Γ=CR−Crとおく。その台はWに含まれる。p∈/Wならば∣p−a∣<rまたは∣p−a∣>Rである。前者では§E5.5 命題 5.6によりn(CR,p)=n(Cr,p)=1、後者ではn(CR,p)=n(Cr,p)=0であるから、いずれの場合もn(Γ,p)=0である。§E5.5 定理 6.6により∫Γg=0であり、二積分が等しい。▨
定義 5.3.Rを座標軸に平行な閉長方形とし、S1,…,SkをRの内部に含まれる座標軸に平行な閉長方形とする。各Sjの内部は互いに交わらないと仮定する。RとSjの正向きの境界をそれぞれC、Cjと書き、
A=R∖j=1⋃kint(Sj)を穴あき長方形領域 (rectangular domain with holes) という。その向きづけられた境界サイクルはC−∑j=1kCjである。
命題 5.4.定義 5.3のAを含む開集合Wの上でgが正則ならば
∮Cg(ζ)dζ=j=1∑k∮Cjg(ζ)dζが成り立つ。
証明.Γ=C−∑j=1kCjとおく。Cと各CjはAに含まれるので∣Γ∣⊆Wである。実際、∂R⊆Aであり、SjはRの内部に含まれ互いに内部が交わらないから∂Sj⊆Aである。
p∈/Wとするとp∈/Aである。p∈/Rのときは§E5.5 命題 5.6によりn(C,p)=0かつ全てのjについてn(Cj,p)=0であるからn(Γ,p)=0である。p∈Rのときはp∈int(Si)を満たすiが存在する。このときpはRの内部にあるのでn(C,p)=1であり、n(Ci,p)=1である。j=iについてはp∈/Sjである。実際、p∈Sjとすると、pの近傍がint(Si)に含まれるのでint(Si)とint(Sj)が交わり、仮定に反する。したがってn(Cj,p)=0であり、n(Γ,p)=1−1=0である。
ゆえにΓはWの内部で零ホモローグである。§E5.5 定理 6.6による∫Γg=0を展開すると主張を得る。▨
6 演習
解答.
一周する円周の回転数は§E5.5 命題 5.6により1であり、二周では積分の加法性からn(C,z)=2である。したがって定理 2.1により、求める積分は2f(z)である。係数が常に1ではなく回転数になることが観察できる。▨
解答.
円周上では逆三角不等式から∣ζ−z∣≥R−∣z−a∣である。定理 4.1と円周の長さ2πRに ML 不等式を適用すると
∣f(m)(z)∣≤2πm!(R−∣z−a∣)m+1M2πRとなり、主張を得る。中心で用いる系 4.2より弱い形ではなく、評価点と積分路との実際の距離を反映した評価である。▨