§E5.15Möbius 変換

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有理関数のうち、分子と分母がともに一次以下であるものを一次分数変換という。一次分数変換は複素平面の上では極をもつが、平面に一点を付け加えた Riemann 球面の上の全単射へ延長される。本記事は、この延長を定義し、三点の像が変換を一意に定めることと、円と直線の族が保たれることを証明する。

1 Riemann 球面

定義 1.1. 複素平面に、平面のどの点とも異なる一つの元∞\inftyを付け加えた集合

C^=C∪{∞}\widehat{\mathbb C}=\mathbb C\cup\{\infty\}

をRiemann 球面 (Riemann sphere) という。C^\widehat{\mathbb C}の点列(zk)(z_{k})が ∞\inftyへ収束する (convergence to infinity) とは、各M>0M>0に対して番号NNが存在して、k≥Nk\ge Nならばzk=∞z_{k}=\inftyまたは∣zk∣>M|z_{k}|>Mが成り立つことをいう。C\mathbb Cの点への収束は、通常の収束とする。

本記事は、C^\widehat{\mathbb C}を集合と、この収束の概念とともに扱う。球面としての幾何や、C^\widehat{\mathbb C}の上の正則関数の理論は扱わない。上の収束は∞\inftyという元の意味を読者へ示すためのものであり、以下の証明では用いない。∞\inftyと極における値は定義 2.1が明示的に定めるものだけを用い、C^\widehat{\mathbb C}の上の連続性は仮定しない。

2 一次分数変換

定義 2.1.a,b,c,d∈Ca,b,c,d\in\mathbb Cがad−bc≠0ad-bc\ne0を満たすとき、写像T:C^→C^T:\widehat{\mathbb C}\to\widehat{\mathbb C}を次のように定める。

  1. c=0c=0のとき、z∈Cz\in\mathbb CについてT(z)=(az+b)/dT(z)=(az+b)/d、T(∞)=∞T(\infty)=\inftyとする。
  2. c≠0c\ne0のとき、z∈C∖{−d/c}z\in\mathbb C\setminus\{-d/c\}についてT(z)=(az+b)/(cz+d)T(z)=(az+b)/(cz+d)、T(−d/c)=∞T(-d/c)=\infty、T(∞)=a/cT(\infty)=a/cとする。

このようなTTをMöbius 変換 (Möbius transformation) という。c=0c=0のときはad≠0ad\ne0、c≠0c\ne0のときはa/ca/cが定まるので、どちらの場合も定義は意味をもつ。

命題 2.2.M=(abcd)M=\begin{pmatrix}a&b\\ c&d\end{pmatrix}に対して定義 2.1が定める変換をTMT_{M}と書く。

  1. ad−bc=0ad-bc=0のとき、(a,b,c,d)≠(0,0,0,0)(a,b,c,d)\ne(0,0,0,0)ならばz↦(az+b)/(cz+d)z\mapsto(az+b)/(cz+d)は定義域の上で定値である。したがって全単射を得るためにはad−bc≠0ad-bc\ne0が必要である。
  2. λ≠0\lambda\ne0についてTλM=TMT_{\lambda M}=T_{M}である。
  3. 逆にTM=TM′T_{M}=T_{M'}ならば、λ≠0\lambda\ne0が存在してM′=λMM'=\lambda Mである。
  4. TM∘TM′=TMM′T_{M}\circ T_{M'}=T_{MM'}であり、TMT_{M}はC^\widehat{\mathbb C}の全単射で、その逆写像はTM−1T_{M^{-1}}である。

証明.(1)を示す。ad=bcad=bcとする。c≠0c\ne0ならばa=bc/da=bc/dとは限らないので、直接に

az+bcz+d−ac=c(az+b)−a(cz+d)c(cz+d)=bc−adc(cz+d)=0\frac{az+b}{cz+d}-\frac{a}{c}=\frac{c(az+b)-a(cz+d)}{c(cz+d)}=\frac{bc-ad}{c(cz+d)}=0

であるから、値はつねにa/ca/cである。c=0c=0ならばad=0ad=0であり、d≠0d\ne0とするとa=0a=0となって値はつねにb/db/dである。d=0d=0の場合は分母が恒等的に00であり、写像が定まらない。

(2)は、分子と分母をλ\lambda倍しても商が変わらないことによる。c≠0c\ne0のときは∞\inftyにおける値もλa/(λc)=a/c\lambda a/(\lambda c)=a/cで変わらない。c=0c=0のときはλc=0\lambda c=0でもあり、TMT_MとTλMT_{\lambda M}はどちらも∞\inftyを∞\inftyへ写す。

(3)を示す。T=TM=TM′T=T_{M}=T_{M'}とする。定義 2.1により、T(∞)=∞T(\infty)=\inftyであることとc=0c=0であることは同値であるから、ccとc′c'は同時に00であるか、同時に00でない。

c=c′=0c=c'=0のとき、T(z)=(a/d)z+b/d=(a′/d′)z+b′/d′T(z)=(a/d)z+b/d=(a'/d')z+b'/d'がすべてのz∈Cz\in\mathbb Cで成り立つので、z=0z=0とz=1z=1を代入してb/d=b′/d′b/d=b'/d'とa/d=a′/d′a/d=a'/d'を得る。λ=d′/d\lambda=d'/dとおけばM′=λMM'=\lambda Mである。

c≠0c\ne0かつc′≠0c'\ne0のとき、λ=c′/c\lambda=c'/cとおいてM′′=λM=(a′′b′′c′′d′′)M''=\lambda M=\begin{pmatrix}a''&b''\\ c''&d''\end{pmatrix}とすると、(2)によりTM′′=TM=TM′T_{M''}=T_{M}=T_{M'}でありc′′=c′c''=c'である。T(∞)=a′′/c′′=a′/c′T(\infty)=a''/c''=a'/c'からa′′=a′a''=a'を得る。定義 2.1により、c′′≠0c''\ne0であるからT(z)=∞T(z)=\inftyを満たすz∈Cz\in\mathbb Cはちょうど一つあり、その点は−d′′/c′′-d''/c''とも−d′/c′-d'/c'とも書くことができるのでd′′=d′d''=d'である。最後にz0∈Cz_{0}\in\mathbb Cをz0≠−d′/c′z_{0}\ne-d'/c'となるように取ると、c′′z0+d′′=c′z0+d′≠0c''z_{0}+d''=c'z_{0}+d'\ne0であって(a′′z0+b′′)/(c′′z0+d′′)=(a′z0+b′)/(c′z0+d′)(a''z_{0}+b'')/(c''z_{0}+d'')=(a'z_{0}+b')/(c'z_{0}+d')であるからa′′z0+b′′=a′z0+b′a''z_{0}+b''=a'z_{0}+b'、すなわちb′′=b′b''=b'である。ゆえにM′=M′′=λMM'=M''=\lambda Mである。

(4)を示す。M′=(a′b′c′d′)M'=\begin{pmatrix}a'&b'\\ c'&d'\end{pmatrix}も行列式が00でない行列とし、

MM′=(ABCD),A=aa′+bc′,B=ab′+bd′,C=ca′+dc′,D=cb′+dd′MM'=\begin{pmatrix}A&B\\ C&D\end{pmatrix},\qquad A=aa'+bc',\quad B=ab'+bd',\quad C=ca'+dc',\quad D=cb'+dd'

とおく。det⁡(MM′)=det⁡M⋅det⁡M′≠0\det(MM')=\det M\cdot\det M'\ne0であるからTMM′T_{MM'}が定まる。

先に定義 2.1を次の形へ言い換えておく。行列式が00でないN=(pqrs)N=\begin{pmatrix}p&q\\ r&s\end{pmatrix}については、rrとssが同時に00になることはない(同時に00ならば行列式が00である)。したがってz∈Cz\in\mathbb Cについて、rz+s=0rz+s=0となるのはr≠0r\ne0かつz=−s/rz=-s/rのときに限り、そのときTN(z)=∞T_{N}(z)=\infty、そうでないときはTN(z)=(pz+q)/(rz+s)T_{N}(z)=(pz+q)/(rz+s)である。またTN(∞)T_{N}(\infty)は、r=0r=0のとき∞\infty、r≠0r\ne0のときp/rp/rである。

z∈C^z\in\widehat{\mathbb C}を三つの場合に分けてTM(TM′(z))=TMM′(z)T_{M}\bigl(T_{M'}(z)\bigr)=T_{MM'}(z)を確かめる。

場合 (i)。z∈Cz\in\mathbb Cかつc′z+d′≠0c'z+d'\ne0とする。このときw=TM′(z)=(a′z+b′)/(c′z+d′)∈Cw=T_{M'}(z)=(a'z+b')/(c'z+d')\in\mathbb Cである。a(a′z+b′)+b(c′z+d′)=Az+Ba(a'z+b')+b(c'z+d')=Az+Bとc(a′z+b′)+d(c′z+d′)=Cz+Dc(a'z+b')+d(c'z+d')=Cz+Dであるから

aw+b=Az+Bc′z+d′,cw+d=Cz+Dc′z+d′aw+b=\frac{Az+B}{c'z+d'},\qquad cw+d=\frac{Cz+D}{c'z+d'}

である。第二の等式はCz+D=(cw+d)(c′z+d′)Cz+D=(cw+d)(c'z+d')と書くことができるので、c′z+d′≠0c'z+d'\ne0より、cw+d=0cw+d=0とCz+D=0Cz+D=0は同値である。cw+d=0cw+d=0のときはTM(w)T_{M}(w)もTMM′(z)T_{MM'}(z)も∞\inftyである。cw+d≠0cw+d\ne0のときは

TM(w)=aw+bcw+d=Az+BCz+D=TMM′(z)T_{M}(w)=\frac{aw+b}{cw+d}=\frac{Az+B}{Cz+D}=T_{MM'}(z)

である。

場合 (ii)。z∈Cz\in\mathbb Cかつc′z+d′=0c'z+d'=0とする。このときTM′(z)=∞T_{M'}(z)=\inftyである。まずa′z+b′≠0a'z+b'\ne0である。実際、a′z+b′=0a'z+b'=0かつc′z+d′=0c'z+d'=0とするとa′d′−b′c′=a′(d′+c′z)−c′(b′+a′z)=0a'd'-b'c'=a'(d'+c'z)-c'(b'+a'z)=0となり、det⁡M′≠0\det M'\ne0に反する。c′z+d′=0c'z+d'=0を用いるとAz+B=a(a′z+b′)Az+B=a(a'z+b')、Cz+D=c(a′z+b′)Cz+D=c(a'z+b')である。c=0c=0のときはCz+D=0Cz+D=0であるからTMM′(z)=∞T_{MM'}(z)=\inftyであり、TM(∞)=∞T_{M}(\infty)=\inftyと一致する。c≠0c\ne0のときはCz+D=c(a′z+b′)≠0Cz+D=c(a'z+b')\ne0であるから

TMM′(z)=a(a′z+b′)c(a′z+b′)=ac=TM(∞)T_{MM'}(z)=\frac{a(a'z+b')}{c(a'z+b')}=\frac{a}{c}=T_{M}(\infty)

である。

場合 (iii)。z=∞z=\inftyとする。c′=0c'=0のときはTM′(∞)=∞T_{M'}(\infty)=\inftyである。det⁡M′≠0\det M'\ne0よりa′d′≠0a'd'\ne0であるからa′≠0a'\ne0であり、A=aa′A=aa'、C=ca′C=ca'である。c=0c=0ならばC=0C=0であるからTMM′(∞)=∞=TM(∞)T_{MM'}(\infty)=\infty=T_{M}(\infty)であり、c≠0c\ne0ならばC=ca′≠0C=ca'\ne0であるからTMM′(∞)=A/C=aa′/(ca′)=a/c=TM(∞)T_{MM'}(\infty)=A/C=aa'/(ca')=a/c=T_{M}(\infty)である。

c′≠0c'\ne0のときはw=TM′(∞)=a′/c′∈Cw=T_{M'}(\infty)=a'/c'\in\mathbb Cであり、cw+d=(ca′+dc′)/c′=C/c′cw+d=(ca'+dc')/c'=C/c'である。C=0C=0ならばcw+d=0cw+d=0であるからTM(w)=∞=TMM′(∞)T_{M}(w)=\infty=T_{MM'}(\infty)である。C≠0C\ne0ならばcw+d≠0cw+d\ne0であり

TM(w)=aw+bcw+d=(aa′+bc′)/c′(ca′+dc′)/c′=AC=TMM′(∞)T_{M}(w)=\frac{aw+b}{cw+d}=\frac{(aa'+bc')/c'}{(ca'+dc')/c'}=\frac{A}{C}=T_{MM'}(\infty)

である。

以上ですべてのz∈C^z\in\widehat{\mathbb C}についてTM∘TM′=TMM′T_{M}\circ T_{M'}=T_{MM'}が示された。単位行列IIについてはc=0c=0の場合の定義によりTI(z)=zT_{I}(z)=z、TI(∞)=∞T_{I}(\infty)=\inftyであるから、TIT_{I}は恒等写像である。ゆえにTM∘TM−1=TMM−1=TIT_{M}\circ T_{M^{-1}}=T_{MM^{-1}}=T_{I}とTM−1∘TM=TM−1M=TIT_{M^{-1}}\circ T_{M}=T_{M^{-1}M}=T_{I}がともに恒等写像であり、TMT_{M}はC^\widehat{\mathbb C}の全単射で、逆写像はTM−1T_{M^{-1}}である。▨

3 三点の像による一意存在

定理 3.1.z1,z2,z3z_{1},z_{2},z_{3}をC^\widehat{\mathbb C}の相異なる三点、w1,w2,w3w_{1},w_{2},w_{3}をC^\widehat{\mathbb C}の相異なる三点とする。このとき Möbius 変換TTでT(zj)=wjT(z_{j})=w_{j}(j=1,2,3j=1,2,3)を満たすものがただ一つ存在する。

証明. 存在を示す。まず、相異なる三点z1,z2,z3z_{1},z_{2},z_{3}を0,1,∞0,1,\inftyへ写す Möbius 変換SSを作る。三点がすべてC\mathbb Cに属する場合は

S(z)=z−z1z−z3⋅z2−z3z2−z1S(z)=\frac{z-z_{1}}{z-z_{3}}\cdot\frac{z_{2}-z_{3}}{z_{2}-z_{1}}

とおく。このSSはTM0T_{M_{0}}、

M0=(z2−z3−z1(z2−z3)z2−z1−z3(z2−z1))M_{0}=\begin{pmatrix}z_{2}-z_{3} & -z_{1}(z_{2}-z_{3})\\ z_{2}-z_{1} & -z_{3}(z_{2}-z_{1})\end{pmatrix}

であり、det⁡M0=−z3(z2−z3)(z2−z1)+z1(z2−z3)(z2−z1)=(z2−z3)(z2−z1)(z1−z3)≠0\det M_{0}=-z_{3}(z_{2}-z_{3})(z_{2}-z_{1})+z_{1}(z_{2}-z_{3})(z_{2}-z_{1}) =(z_{2}-z_{3})(z_{2}-z_{1})(z_{1}-z_{3})\ne0である。三点が相異なることを用いた。S(z1)=0S(z_{1})=0、S(z2)=1S(z_{2})=1であり、z=z3z=z_{3}では分母が00になるのでS(z3)=∞S(z_{3})=\inftyである。

三点のいずれかが∞\inftyである場合は、上の式で∞\inftyを含む因子を11に置き換えたものを取る。すなわち

z1=∞ のとき S(z)=z2−z3z−z3,z2=∞ のとき S(z)=z−z1z−z3,z3=∞ のとき S(z)=z−z1z2−z1z_{1}=\infty \text{ のとき } S(z)=\frac{z_{2}-z_{3}}{z-z_{3}},\qquad z_{2}=\infty \text{ のとき } S(z)=\frac{z-z_{1}}{z-z_{3}},\qquad z_{3}=\infty \text{ のとき } S(z)=\frac{z-z_{1}}{z_{2}-z_{1}}

とおく。三通りとも定義 2.1の条件を満たし、三点をそれぞれ0,1,∞0,1,\inftyへ写す。以下、命題 2.2 (4)の証明で言い換えた形の定義 2.1を用いる。

z1=∞z_{1}=\inftyのとき、行列は(0z2−z31−z3)\begin{pmatrix}0&z_{2}-z_{3}\\ 1&-z_{3}\end{pmatrix}で行列式は−(z2−z3)≠0-(z_{2}-z_{3})\ne0である。(2,1)(2,1)成分が1≠01\ne0であるからS(∞)=0/1=0S(\infty)=0/1=0、S(z2)=(z2−z3)/(z2−z3)=1S(z_{2})=(z_{2}-z_{3})/(z_{2}-z_{3})=1、z=z3z=z_{3}では分母z3−z3=0z_{3}-z_{3}=0よりS(z3)=∞S(z_{3})=\inftyである。

z2=∞z_{2}=\inftyのとき、行列は(1−z11−z3)\begin{pmatrix}1&-z_{1}\\ 1&-z_{3}\end{pmatrix}で行列式はz1−z3≠0z_{1}-z_{3}\ne0である。S(z1)=(z1−z1)/(z1−z3)=0S(z_{1})=(z_{1}-z_{1})/(z_{1}-z_{3})=0、(2,1)(2,1)成分が1≠01\ne0であるからS(∞)=1/1=1S(\infty)=1/1=1、z=z3z=z_{3}では分母が00よりS(z3)=∞S(z_{3})=\inftyである。

z3=∞z_{3}=\inftyのとき、行列は(1−z10z2−z1)\begin{pmatrix}1&-z_{1}\\ 0&z_{2}-z_{1}\end{pmatrix}で行列式はz2−z1≠0z_{2}-z_{1}\ne0である。S(z1)=0S(z_{1})=0、S(z2)=(z2−z1)/(z2−z1)=1S(z_{2})=(z_{2}-z_{1})/(z_{2}-z_{1})=1、(2,1)(2,1)成分が00であるからS(∞)=∞S(\infty)=\inftyである。

同じ構成をw1,w2,w3w_{1},w_{2},w_{3}について行い、0,1,∞0,1,\inftyへ写す Möbius 変換S′S'を得る。命題 2.2 (4)によりT=S′−1∘ST=S'^{-1}\circ Sは Möbius 変換であり、T(zj)=S′−1(S(zj))=wjT(z_{j})=S'^{-1}(S(z_{j}))=w_{j}である。

一意性を示す。TTとT~\tilde Tがともに条件を満たすとすると、U=T~−1∘TU=\tilde T^{-1}\circ Tは Möbius 変換でありz1,z2,z3z_{1},z_{2},z_{3}を固定する。上のSSを用いるとV=S∘U∘S−1V=S\circ U\circ S^{-1}は Möbius 変換で0,1,∞0,1,\inftyを固定する。V=TMV=T_{M}、M=(abcd)M=\begin{pmatrix}a&b\\ c&d\end{pmatrix}と書く。V(∞)=∞V(\infty)=\inftyより定義 2.1の場合分けからc=0c=0であり、V(z)=(az+b)/dV(z)=(az+b)/dである。V(0)=0V(0)=0よりb=0b=0、V(1)=1V(1)=1よりa/d=1a/d=1である。ゆえにVVは恒等写像であり、UUも恒等写像、T~=T\tilde T=Tである。▨

上の構成は、三点とその像がすべて実数または∞\inftyである場合に、実数係数の行列を与える。この形は上半平面の自己同型を決定するときに用いるので、系として取り出しておく。以下R^=R∪{∞}\widehat{\mathbb R}=\mathbb R\cup\{\infty\}と書く。

系 3.2.z1,z2,z3z_{1},z_{2},z_{3}をR^\widehat{\mathbb R}の相異なる三点、w1,w2,w3w_{1},w_{2},w_{3}をR^\widehat{\mathbb R}の相異なる三点とする。定理 3.1が与える Möbius 変換TT(T(zj)=wjT(z_{j})=w_{j})は、実数a,b,c,da,b,c,dでad−bc≠0ad-bc\ne0を満たすものを用いてT=TMT=T_{M}、M=(abcd)M=\begin{pmatrix}a&b\\ c&d\end{pmatrix}と書くことができる。

証明.定理 3.1の存在の証明に現れるSSの行列は、四通りのいずれの場合も、成分がz1,z2,z3z_{1},z_{2},z_{3}のうち∞\inftyでないものについての整数係数の多項式である。仮定により有限の座標は実数であるから、その行列M0M_{0}は実行列である。同じ理由で、w1,w2,w3w_{1},w_{2},w_{3}に対するS′=TM0′S'=T_{M_{0}'}の行列M0′M_{0}'も実行列である。

M0′M_{0}'の余因子行列をN=(d0′−b0′−c0′a0′)N=\begin{pmatrix}d_{0}'&-b_{0}'\\ -c_{0}'&a_{0}'\end{pmatrix}とすると、N=(det⁡M0′) M0′−1N=(\det M_{0}')\,M_{0}'^{-1}でありdet⁡M0′≠0\det M_{0}'\ne0であるから、命題 2.2 (2)によりTN=TM0′−1=S′−1T_{N}=T_{M_{0}'^{-1}}=S'^{-1}である。ここで最後の等号は命題 2.2 (4)による。したがって命題 2.2 (4)により

T=S′−1∘S=TN∘TM0=TNM0T=S'^{-1}\circ S=T_{N}\circ T_{M_{0}}=T_{N M_{0}}

である。NNとM0M_{0}はともに実行列であるから積NM0NM_{0}も実行列であり、det⁡(NM0)=det⁡M0′⋅det⁡M0≠0\det(NM_{0})=\det M_{0}'\cdot\det M_{0}\ne0である。▨

4 一般化円の保存

定義 4.1. 実数A,CA,Cと複素数BBが∣B∣2>AC|B|^{2}>ACを満たすとき、方程式

A∣z∣2+B‾z+Bz‾+C=0A|z|^{2}+\overline{B}z+B\overline{z}+C=0

のC\mathbb Cにおける解集合を一般化円 (generalized circle) という。A≠0A\ne0のとき、この解集合は円周であり、A=0A=0のとき直線である。C^\widehat{\mathbb C}の中では、A=0A=0の場合に∞\inftyを付け加えたものを考える。

上の分類は次の計算による。A≠0A\ne0のとき、方程式は∣z+B/A∣2=(∣B∣2−AC)/A2|z+B/A|^{2}=(|B|^{2}-AC)/A^{2}と同値であり、∣B∣2>AC|B|^{2}>ACより右辺は正であるから、中心−B/A-B/A、半径∣B∣2−AC/∣A∣\sqrt{|B|^{2}-AC}/|A|の円周を表す。A=0A=0のときB≠0B\ne0であり、z=x+iyz=x+iy、B=β1+iβ2B=\beta_{1}+i\beta_{2}と書くとB‾z+Bz‾=2(β1x+β2y)\overline{B}z+B\overline{z}=2(\beta_{1}x+\beta_{2}y)であるから、方程式は2β1x+2β2y+C=02\beta_{1}x+2\beta_{2}y+C=0という直線を表す。

定理 4.2.TTを Möbius 変換、Σ\SigmaをC^\widehat{\mathbb C}の一般化円とすると、T(Σ)T(\Sigma)も一般化円である。

証明. まずTTを三種類の変換の合成へ分解する。α≠0\alpha\ne0とβ∈C\beta\in\mathbb Cについて

Eα=(α001),Pβ=(1β01),J=(0110)E_{\alpha}=\begin{pmatrix}\alpha&0\\ 0&1\end{pmatrix},\qquad P_{\beta}=\begin{pmatrix}1&\beta\\ 0&1\end{pmatrix},\qquad J=\begin{pmatrix}0&1\\ 1&0\end{pmatrix}

とおく。行列式はそれぞれα\alpha、11、−1-1でどれも00でない。定義 2.1によりTEαT_{E_{\alpha}}は拡大回転z↦αzz\mapsto\alpha z(∞\inftyを∞\inftyへ写す)、TPβT_{P_{\beta}}は平行移動z↦z+βz\mapsto z+\beta(∞\inftyを∞\inftyへ写す)、TJT_{J}は逆数z↦1/zz\mapsto1/zであってTJ(0)=∞T_{J}(0)=\infty、TJ(∞)=0T_{J}(\infty)=0である。

T=TMT=T_{M}、M=(abcd)M=\begin{pmatrix}a&b\\ c&d\end{pmatrix}とする。c=0c=0のときad≠0ad\ne0であり

Pb/d Ea/d=(a/db/d01)=1d MP_{b/d}\,E_{a/d}=\begin{pmatrix}a/d&b/d\\ 0&1\end{pmatrix}=\frac1d\,M

であるから、命題 2.2 (2)と命題 2.2 (4)によりT=TPb/d∘TEa/dT=T_{P_{b/d}}\circ T_{E_{a/d}}である。c≠0c\ne0のときは、右から順に積を計算すると

Pa/c E(bc−ad)/c J Pd Ec=Pa/c E(bc−ad)/c J(cd01)=Pa/c(0(bc−ad)/ccd)=(abcd)P_{a/c}\,E_{(bc-ad)/c}\,J\,P_{d}\,E_{c} =P_{a/c}\,E_{(bc-ad)/c}\,J\begin{pmatrix}c&d\\ 0&1\end{pmatrix} =P_{a/c}\begin{pmatrix}0&(bc-ad)/c\\ c&d\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}a&b\\ c&d\end{pmatrix}

である。最後の等号は(bc−ad)/c+ad/c=b(bc-ad)/c+ad/c=bによる。ゆえに命題 2.2 (4)により

T=TPa/c∘TE(bc−ad)/c∘TJ∘TPd∘TEcT=T_{P_{a/c}}\circ T_{E_{(bc-ad)/c}}\circ T_{J}\circ T_{P_{d}}\circ T_{E_{c}}

である。合成則がC^\widehat{\mathbb C}の全体で成り立つので、∞\inftyと極における値もこの分解に沿って対応する。したがって三種類の変換について主張を示せばよい。

平行移動z↦z+βz\mapsto z+\betaについて。w=z+βw=z+\betaとおくとz=w−βz=w-\betaであり、方程式へ代入すると

A∣w∣2+B′‾w+B′w‾+C′=0,B′=B−Aβ,C′=A∣β∣2−B‾β−Bβ‾+CA|w|^{2}+\overline{B'}w+B'\overline{w}+C'=0,\qquad B'=B-A\beta,\quad C'=A|\beta|^{2}-\overline{B}\beta-B\overline{\beta}+C

となる。AAとC′C'は実数であり、∣B′∣2−AC′=∣B∣2−AC>0|B'|^{2}-AC'=|B|^{2}-AC>0である。実際、∣B−Aβ∣2=∣B∣2−A(B‾β+Bβ‾)+A2∣β∣2|B-A\beta|^{2}=|B|^{2}-A(\overline{B}\beta+B\overline{\beta})+A^{2}|\beta|^{2}を代入すれば確かめられる。C^\widehat{\mathbb C}における∞\inftyの扱いも対応する。実際、TPβ(∞)=∞T_{P_{\beta}}(\infty)=\inftyであり、Σ\Sigmaが∞\inftyを含むこととA=0A=0であること、像が∞\inftyを含むこととA′=A=0A'=A=0であることは、定義 4.1により同値である。ゆえに像も一般化円である。

拡大回転z↦αzz\mapsto\alpha z(α≠0\alpha\ne0)について。w=αzw=\alpha zとおくとz=w/αz=w/\alphaであり、方程式は

A∣α∣2∣w∣2+B‾αw+Bα‾w‾+C=0\frac{A}{|\alpha|^{2}}|w|^{2}+\frac{\overline{B}}{\alpha}w+\frac{B}{\overline{\alpha}}\overline{w}+C=0

となる。両辺に∣α∣2|\alpha|^{2}を掛け、∣α∣2/α=α‾|\alpha|^{2}/\alpha=\overline{\alpha}と∣α∣2/α‾=α|\alpha|^{2}/\overline{\alpha}=\alphaを用いると

A∣w∣2+Bα‾ w+Bα w‾+∣α∣2C=0A|w|^{2}+\overline{B\alpha}\,w+B\alpha\,\overline{w}+|\alpha|^{2}C=0

である。すなわちA′=AA'=A、B′=BαB'=B\alpha、C′=∣α∣2CC'=|\alpha|^{2}Cであり、A′A'とC′C'は実数、∣B′∣2−A′C′=∣α∣2(∣B∣2−AC)>0|B'|^{2}-A'C'=|\alpha|^{2}(|B|^{2}-AC)>0である。∞\inftyの扱いは、平行移動の場合と同じくTEα(∞)=∞T_{E_{\alpha}}(\infty)=\inftyとA′=AA'=Aによる。ゆえに像も一般化円である。

逆数z↦1/zz\mapsto1/zについて。z∈C∖{0}z\in\mathbb C\setminus\{0\}とw=1/zw=1/zについて、方程式の両辺に∣w∣2|w|^{2}を掛けると

A+B‾w‾+Bw+C∣w∣2=0A+\overline{B}\overline{w}+Bw+C|w|^{2}=0

となる。この等式はA′=CA'=C、B′=B‾B'=\overline{B}、C′=AC'=Aとした一般化円の方程式であり、∣B′∣2−A′C′=∣B∣2−AC>0|B'|^{2}-A'C'=|B|^{2}-AC>0である。Σ′\Sigma'をこの新しい方程式が定める一般化円とすると、いま示したことは、z∈C∖{0}z\in\mathbb C\setminus\{0\}についてz∈Σz\in\Sigmaと1/z∈Σ′1/z\in\Sigma'が同値であるということである。

残るのは00と∞\inftyである。定義 4.1により、∞∈Σ\infty\in\SigmaとA=0A=0は同値であり、A=C′A=C'であるから、この条件はC′=0C'=0と同値である。C′=0C'=0はΣ′\Sigma'の方程式がw=0w=0を解にもつこと、すなわち0∈Σ′0\in\Sigma'と同値である。TJ(∞)=0T_{J}(\infty)=0であるから、∞\inftyの行き先についても対応がついた。同様に、0∈Σ0\in\SigmaとC=0C=0は同値であり、C=A′C=A'であるから条件C=0C=0はA′=0A'=0、すなわち∞∈Σ′\infty\in\Sigma'と同値である。TJ(0)=∞T_{J}(0)=\inftyであるから、00の行き先についても対応がつく。ゆえにTJ(Σ)=Σ′T_{J}(\Sigma)=\Sigma'であり、像も一般化円である。▨

命題 4.3.p1,p2,p3p_{1},p_{2},p_{3}をC^\widehat{\mathbb C}の相異なる三点とすると、この三点をすべて含むC^\widehat{\mathbb C}の一般化円がただ一つ存在する。

証明.R^=R∪{∞}\widehat{\mathbb R}=\mathbb R\cup\{\infty\}は一般化円である。実際、A=0A=0、B=iB=i、C=0C=0とすると∣B∣2−AC=1>0|B|^{2}-AC=1>0であり、B‾z+Bz‾=−i(z−z‾)=2Im⁡z\overline{B}z+B\overline{z}=-i(z-\overline{z})=2\operatorname{Im}zであるから、方程式2Im⁡z=02\operatorname{Im}z=0の解集合はR\mathbb Rであり、A=0A=0であるから∞\inftyを付け加える。とくにR^\widehat{\mathbb R}は0,1,∞0,1,\inftyを含む。

定理 3.1により、p1,p2,p3p_{1},p_{2},p_{3}をそれぞれ0,1,∞0,1,\inftyへ写す Möbius 変換SSが存在する。

存在を示す。命題 2.2 (4)によりS−1S^{-1}も Möbius 変換であるから、定理 4.2によりS−1(R^)S^{-1}(\widehat{\mathbb R})は一般化円であり、S−1(0)=p1S^{-1}(0)=p_{1}、S−1(1)=p2S^{-1}(1)=p_{2}、S−1(∞)=p3S^{-1}(\infty)=p_{3}であるから三点を含む。

一意性を示す。Σ\Sigmaを三点を含む一般化円とすると、定理 4.2によりS(Σ)S(\Sigma)は一般化円であり、0,1,∞0,1,\inftyを含む。S(Σ)S(\Sigma)の方程式の係数をA,B,CA,B,Cとする。∞∈S(Σ)\infty\in S(\Sigma)と定義 4.1によりA=0A=0であり、したがってB≠0B\ne0である。z=0z=0を代入してC=0C=0、z=1z=1を代入してB‾+B=0\overline{B}+B=0、すなわちB=β1+iβ2B=\beta_{1}+i\beta_{2}と書くと2β1=02\beta_{1}=0である。B≠0B\ne0よりβ2≠0\beta_{2}\ne0であり、方程式は2β2Im⁡z=02\beta_{2}\operatorname{Im}z=0、すなわちIm⁡z=0\operatorname{Im}z=0となる。ゆえにS(Σ)=R^S(\Sigma)=\widehat{\mathbb R}であり、SSは全単射であるからΣ=S−1(R^)\Sigma=S^{-1}(\widehat{\mathbb R})である。▨

例 4.4 (実軸を単位円周へ写す).T(z)=z−iz+iT(z)=\dfrac{z-i}{z+i}を考える。ad−bc=1⋅i−(−i)⋅1=2i≠0ad-bc=1\cdot i-(-i)\cdot1=2i\ne0であるからTTは Möbius 変換である。実軸上の三点0,1,∞0,1,\inftyの像は

T(0)=−ii=−1,T(1)=1−i1+i=−i,T(∞)=1T(0)=\frac{-i}{i}=-1,\qquad T(1)=\frac{1-i}{1+i}=-i,\qquad T(\infty)=1

であり、いずれも単位円周の上にある。三つの像は相異なる。実軸に∞\inftyを付け加えたものR^\widehat{\mathbb R}は、A=0A=0、B=iB=i、C=0C=0とした一般化円である。実際∣B∣2−AC=1>0|B|^{2}-AC=1>0であり、B‾z+Bz‾=−i(z−z‾)=2Im⁡z\overline{B}z+B\overline{z}=-i(z-\overline{z})=2\operatorname{Im}zであるから、方程式の解集合はR\mathbb Rであって、A=0A=0より∞\inftyを付け加える。ゆえに定理 4.2によりT(R^)T(\widehat{\mathbb R})も一般化円であり、−1,−i,1-1,-i,1を含む。一方、単位円周はA=1A=1、B=0B=0、C=−1C=-1とした一般化円(∣B∣2−AC=1>0|B|^{2}-AC=1>0)であり、同じ三点を含む。相異なる三点を含む一般化円はただ一つであるから(命題 4.3)、T(R^)T(\widehat{\mathbb R})は単位円周である。

5 演習

問題 5.1.

  • 命題 2.2 (1)で、ad−bc=0ad-bc=0かつc=d=0c=d=0の場合に写像が定まらないことを確かめる。この場合を除くために、定義がどの条件を課しているのかを述べる。
  • 命題 2.2 (4)の証明で、z∈Cz\in\mathbb Cかつc′z+d′=0c'z+d'=0の場合にa′z+b′≠0a'z+b'\ne0を確かめた。この段を落とすと、どの等式が意味を失うかを述べる。
  • 定理 3.1の存在の証明で、z1,z2,z3z_{1},z_{2},z_{3}のいずれかが∞\inftyである場合に式をどう置き換えたかを説明する。三点がすべてC\mathbb Cに属する場合の行列式(z2−z3)(z2−z1)(z1−z3)(z_{2}-z_{3})(z_{2}-z_{1})(z_{1}-z_{3})が00でないために、三点が相異なるという仮定が行列式が00でないことを導く際に、三点が相異なるという仮定を用いる箇所を述べる。
  • 定理 3.1の一意性の証明で、0,1,∞0,1,\inftyを固定する Möbius 変換が恒等写像であることを示した三つの段(c=0c=0、b=0b=0、a=da=d)を、それぞれどの点の像から得たのかを特定する。
  • 定理 4.2の証明で、逆数変換が円周を直線へ写す場合と直線を円周へ写す場合を、係数AAとCCの入れ替わりから読み取る。原点を通る円周がどちらへ写るかを述べる。
  • 命題 4.3の一意性の証明は、三点を0,1,∞0,1,\inftyへ写してから0,1,∞0,1,\inftyを通る一般化円がR^\widehat{\mathbb R}に限ることを示す形になっている。∞\inftyを通ることからA=0A=0が出る箇所を特定する。
  • 例 4.4のTTについて、上半平面の点iiの像を計算し、T(i)T(i)が単位円板に属することを確かめる。

参考文献

  1. Lars V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., AMS Chelsea Publishing 385, American Mathematical Society, Providence, R.I., 2021, originally published 1979.Riemann 球面、一次分数変換、複比、一般化円の保存を参考にした。
  2. John B. Conway, Functions of One Complex Variable I, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1978.三点の像による一意性と円直線の保存を参考にした。
  3. Walter Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw Hill, 1987.一次分数変換と単位円板の自己同型を参考にした。

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