1 Riemann 球面
定義 1.1. 複素平面に、平面のどの点とも異なる一つの元∞を付け加えた集合
C=C∪{∞}をRiemann 球面 (Riemann sphere) という。Cの点列(zk)が ∞へ収束する (convergence to infinity) とは、各M>0に対して番号Nが存在して、k≥Nならばzk=∞または∣zk∣>Mが成り立つことをいう。Cの点への収束は、通常の収束とする。
本記事は、Cを集合と、この収束の概念とともに扱う。球面としての幾何や、Cの上の正則関数の理論は扱わない。上の収束は∞という元の意味を読者へ示すためのものであり、以下の証明では用いない。∞と極における値は定義 2.1が明示的に定めるものだけを用い、Cの上の連続性は仮定しない。
2 一次分数変換
定義 2.1.a,b,c,d∈Cがad−bc=0を満たすとき、写像T:C→Cを次のように定める。
- c=0のとき、z∈CについてT(z)=(az+b)/d、T(∞)=∞とする。
- c=0のとき、z∈C∖{−d/c}についてT(z)=(az+b)/(cz+d)、T(−d/c)=∞、T(∞)=a/cとする。
このようなTをMöbius 変換 (Möbius transformation) という。c=0のときはad=0、c=0のときはa/cが定まるので、どちらの場合も定義は意味をもつ。
命題 2.2.M=(acbd)に対して定義 2.1が定める変換をTMと書く。
- ad−bc=0のとき、(a,b,c,d)=(0,0,0,0)ならばz↦(az+b)/(cz+d)は定義域の上で定値である。したがって全単射を得るためにはad−bc=0が必要である。
- λ=0についてTλM=TMである。
- 逆にTM=TM′ならば、λ=0が存在してM′=λMである。
- TM∘TM′=TMM′であり、TMはCの全単射で、その逆写像はTM−1である。
証明.(1)を示す。ad=bcとする。c=0ならばa=bc/dとは限らないので、直接に
cz+daz+b−ca=c(cz+d)c(az+b)−a(cz+d)=c(cz+d)bc−ad=0であるから、値はつねにa/cである。c=0ならばad=0であり、d=0とするとa=0となって値はつねにb/dである。d=0の場合は分母が恒等的に0であり、写像が定まらない。
(2)は、分子と分母をλ倍しても商が変わらないことによる。c=0のときは∞における値もλa/(λc)=a/cで変わらない。c=0のときはλc=0でもあり、TMとTλMはどちらも∞を∞へ写す。
(3)を示す。T=TM=TM′とする。定義 2.1により、T(∞)=∞であることとc=0であることは同値であるから、cとc′は同時に0であるか、同時に0でない。
c=c′=0のとき、T(z)=(a/d)z+b/d=(a′/d′)z+b′/d′がすべてのz∈Cで成り立つので、z=0とz=1を代入してb/d=b′/d′とa/d=a′/d′を得る。λ=d′/dとおけばM′=λMである。
c=0かつc′=0のとき、λ=c′/cとおいてM′′=λM=(a′′c′′b′′d′′)とすると、(2)によりTM′′=TM=TM′でありc′′=c′である。T(∞)=a′′/c′′=a′/c′からa′′=a′を得る。定義 2.1により、c′′=0であるからT(z)=∞を満たすz∈Cはちょうど一つあり、その点は−d′′/c′′とも−d′/c′とも書くことができるのでd′′=d′である。最後にz0∈Cをz0=−d′/c′となるように取ると、c′′z0+d′′=c′z0+d′=0であって(a′′z0+b′′)/(c′′z0+d′′)=(a′z0+b′)/(c′z0+d′)であるからa′′z0+b′′=a′z0+b′、すなわちb′′=b′である。ゆえにM′=M′′=λMである。
(4)を示す。M′=(a′c′b′d′)も行列式が0でない行列とし、
MM′=(ACBD),A=aa′+bc′,B=ab′+bd′,C=ca′+dc′,D=cb′+dd′とおく。det(MM′)=detM⋅detM′=0であるからTMM′が定まる。
先に定義 2.1を次の形へ言い換えておく。行列式が0でないN=(prqs)については、rとsが同時に0になることはない(同時に0ならば行列式が0である)。したがってz∈Cについて、rz+s=0となるのはr=0かつz=−s/rのときに限り、そのときTN(z)=∞、そうでないときはTN(z)=(pz+q)/(rz+s)である。またTN(∞)は、r=0のとき∞、r=0のときp/rである。
z∈Cを三つの場合に分けてTM(TM′(z))=TMM′(z)を確かめる。
場合 (i)。z∈Cかつc′z+d′=0とする。このときw=TM′(z)=(a′z+b′)/(c′z+d′)∈Cである。a(a′z+b′)+b(c′z+d′)=Az+Bとc(a′z+b′)+d(c′z+d′)=Cz+Dであるから
aw+b=c′z+d′Az+B,cw+d=c′z+d′Cz+Dである。第二の等式はCz+D=(cw+d)(c′z+d′)と書くことができるので、c′z+d′=0より、cw+d=0とCz+D=0は同値である。cw+d=0のときはTM(w)もTMM′(z)も∞である。cw+d=0のときは
TM(w)=cw+daw+b=Cz+DAz+B=TMM′(z)である。
場合 (ii)。z∈Cかつc′z+d′=0とする。このときTM′(z)=∞である。まずa′z+b′=0である。実際、a′z+b′=0かつc′z+d′=0とするとa′d′−b′c′=a′(d′+c′z)−c′(b′+a′z)=0となり、detM′=0に反する。c′z+d′=0を用いるとAz+B=a(a′z+b′)、Cz+D=c(a′z+b′)である。c=0のときはCz+D=0であるからTMM′(z)=∞であり、TM(∞)=∞と一致する。c=0のときはCz+D=c(a′z+b′)=0であるから
TMM′(z)=c(a′z+b′)a(a′z+b′)=ca=TM(∞)である。
場合 (iii)。z=∞とする。c′=0のときはTM′(∞)=∞である。detM′=0よりa′d′=0であるからa′=0であり、A=aa′、C=ca′である。c=0ならばC=0であるからTMM′(∞)=∞=TM(∞)であり、c=0ならばC=ca′=0であるからTMM′(∞)=A/C=aa′/(ca′)=a/c=TM(∞)である。
c′=0のときはw=TM′(∞)=a′/c′∈Cであり、cw+d=(ca′+dc′)/c′=C/c′である。C=0ならばcw+d=0であるからTM(w)=∞=TMM′(∞)である。C=0ならばcw+d=0であり
TM(w)=cw+daw+b=(ca′+dc′)/c′(aa′+bc′)/c′=CA=TMM′(∞)である。
以上ですべてのz∈CについてTM∘TM′=TMM′が示された。単位行列Iについてはc=0の場合の定義によりTI(z)=z、TI(∞)=∞であるから、TIは恒等写像である。ゆえにTM∘TM−1=TMM−1=TIとTM−1∘TM=TM−1M=TIがともに恒等写像であり、TMはCの全単射で、逆写像はTM−1である。▨
3 三点の像による一意存在
定理 3.1.z1,z2,z3をCの相異なる三点、w1,w2,w3をCの相異なる三点とする。このとき Möbius 変換TでT(zj)=wj(j=1,2,3)を満たすものがただ一つ存在する。
証明. 存在を示す。まず、相異なる三点z1,z2,z3を0,1,∞へ写す Möbius 変換Sを作る。三点がすべてCに属する場合は
S(z)=z−z3z−z1⋅z2−z1z2−z3とおく。このSはTM0、
M0=(z2−z3z2−z1−z1(z2−z3)−z3(z2−z1))であり、detM0=−z3(z2−z3)(z2−z1)+z1(z2−z3)(z2−z1)=(z2−z3)(z2−z1)(z1−z3)=0である。三点が相異なることを用いた。S(z1)=0、S(z2)=1であり、z=z3では分母が0になるのでS(z3)=∞である。
三点のいずれかが∞である場合は、上の式で∞を含む因子を1に置き換えたものを取る。すなわち
z1=∞ のとき S(z)=z−z3z2−z3,z2=∞ のとき S(z)=z−z3z−z1,z3=∞ のとき S(z)=z2−z1z−z1とおく。三通りとも定義 2.1の条件を満たし、三点をそれぞれ0,1,∞へ写す。以下、命題 2.2 (4)の証明で言い換えた形の定義 2.1を用いる。
z1=∞のとき、行列は(01z2−z3−z3)で行列式は−(z2−z3)=0である。(2,1)成分が1=0であるからS(∞)=0/1=0、S(z2)=(z2−z3)/(z2−z3)=1、z=z3では分母z3−z3=0よりS(z3)=∞である。
z2=∞のとき、行列は(11−z1−z3)で行列式はz1−z3=0である。S(z1)=(z1−z1)/(z1−z3)=0、(2,1)成分が1=0であるからS(∞)=1/1=1、z=z3では分母が0よりS(z3)=∞である。
z3=∞のとき、行列は(10−z1z2−z1)で行列式はz2−z1=0である。S(z1)=0、S(z2)=(z2−z1)/(z2−z1)=1、(2,1)成分が0であるからS(∞)=∞である。
同じ構成をw1,w2,w3について行い、0,1,∞へ写す Möbius 変換S′を得る。命題 2.2 (4)によりT=S′−1∘Sは Möbius 変換であり、T(zj)=S′−1(S(zj))=wjである。
一意性を示す。TとT~がともに条件を満たすとすると、U=T~−1∘Tは Möbius 変換でありz1,z2,z3を固定する。上のSを用いるとV=S∘U∘S−1は Möbius 変換で0,1,∞を固定する。V=TM、M=(acbd)と書く。V(∞)=∞より定義 2.1の場合分けからc=0であり、V(z)=(az+b)/dである。V(0)=0よりb=0、V(1)=1よりa/d=1である。ゆえにVは恒等写像であり、Uも恒等写像、T~=Tである。▨
上の構成は、三点とその像がすべて実数または∞である場合に、実数係数の行列を与える。この形は上半平面の自己同型を決定するときに用いるので、系として取り出しておく。以下R=R∪{∞}と書く。
系 3.2.z1,z2,z3をRの相異なる三点、w1,w2,w3をRの相異なる三点とする。定理 3.1が与える Möbius 変換T(T(zj)=wj)は、実数a,b,c,dでad−bc=0を満たすものを用いてT=TM、M=(acbd)と書くことができる。
証明.定理 3.1の存在の証明に現れるSの行列は、四通りのいずれの場合も、成分がz1,z2,z3のうち∞でないものについての整数係数の多項式である。仮定により有限の座標は実数であるから、その行列M0は実行列である。同じ理由で、w1,w2,w3に対するS′=TM0′の行列M0′も実行列である。
M0′の余因子行列をN=(d0′−c0′−b0′a0′)とすると、N=(detM0′)M0′−1でありdetM0′=0であるから、命題 2.2 (2)によりTN=TM0′−1=S′−1である。ここで最後の等号は命題 2.2 (4)による。したがって命題 2.2 (4)により
T=S′−1∘S=TN∘TM0=TNM0である。NとM0はともに実行列であるから積NM0も実行列であり、det(NM0)=detM0′⋅detM0=0である。▨
4 一般化円の保存
定義 4.1. 実数A,Cと複素数Bが∣B∣2>ACを満たすとき、方程式
A∣z∣2+Bz+Bz+C=0のCにおける解集合を一般化円 (generalized circle) という。A=0のとき、この解集合は円周であり、A=0のとき直線である。Cの中では、A=0の場合に∞を付け加えたものを考える。
上の分類は次の計算による。A=0のとき、方程式は∣z+B/A∣2=(∣B∣2−AC)/A2と同値であり、∣B∣2>ACより右辺は正であるから、中心−B/A、半径∣B∣2−AC/∣A∣の円周を表す。A=0のときB=0であり、z=x+iy、B=β1+iβ2と書くとBz+Bz=2(β1x+β2y)であるから、方程式は2β1x+2β2y+C=0という直線を表す。
定理 4.2.Tを Möbius 変換、ΣをCの一般化円とすると、T(Σ)も一般化円である。
証明. まずTを三種類の変換の合成へ分解する。α=0とβ∈Cについて
Eα=(α001),Pβ=(10β1),J=(0110)とおく。行列式はそれぞれα、1、−1でどれも0でない。定義 2.1によりTEαは拡大回転z↦αz(∞を∞へ写す)、TPβは平行移動z↦z+β(∞を∞へ写す)、TJは逆数z↦1/zであってTJ(0)=∞、TJ(∞)=0である。
T=TM、M=(acbd)とする。c=0のときad=0であり
Pb/dEa/d=(a/d0b/d1)=d1Mであるから、命題 2.2 (2)と命題 2.2 (4)によりT=TPb/d∘TEa/dである。c=0のときは、右から順に積を計算すると
Pa/cE(bc−ad)/cJPdEc=Pa/cE(bc−ad)/cJ(c0d1)=Pa/c(0c(bc−ad)/cd)=(acbd)である。最後の等号は(bc−ad)/c+ad/c=bによる。ゆえに命題 2.2 (4)により
T=TPa/c∘TE(bc−ad)/c∘TJ∘TPd∘TEcである。合成則がCの全体で成り立つので、∞と極における値もこの分解に沿って対応する。したがって三種類の変換について主張を示せばよい。
平行移動z↦z+βについて。w=z+βとおくとz=w−βであり、方程式へ代入すると
A∣w∣2+B′w+B′w+C′=0,B′=B−Aβ,C′=A∣β∣2−Bβ−Bβ+Cとなる。AとC′は実数であり、∣B′∣2−AC′=∣B∣2−AC>0である。実際、∣B−Aβ∣2=∣B∣2−A(Bβ+Bβ)+A2∣β∣2を代入すれば確かめられる。Cにおける∞の扱いも対応する。実際、TPβ(∞)=∞であり、Σが∞を含むこととA=0であること、像が∞を含むこととA′=A=0であることは、定義 4.1により同値である。ゆえに像も一般化円である。
拡大回転z↦αz(α=0)について。w=αzとおくとz=w/αであり、方程式は
∣α∣2A∣w∣2+αBw+αBw+C=0となる。両辺に∣α∣2を掛け、∣α∣2/α=αと∣α∣2/α=αを用いると
A∣w∣2+Bαw+Bαw+∣α∣2C=0である。すなわちA′=A、B′=Bα、C′=∣α∣2Cであり、A′とC′は実数、∣B′∣2−A′C′=∣α∣2(∣B∣2−AC)>0である。∞の扱いは、平行移動の場合と同じくTEα(∞)=∞とA′=Aによる。ゆえに像も一般化円である。
逆数z↦1/zについて。z∈C∖{0}とw=1/zについて、方程式の両辺に∣w∣2を掛けると
A+Bw+Bw+C∣w∣2=0となる。この等式はA′=C、B′=B、C′=Aとした一般化円の方程式であり、∣B′∣2−A′C′=∣B∣2−AC>0である。Σ′をこの新しい方程式が定める一般化円とすると、いま示したことは、z∈C∖{0}についてz∈Σと1/z∈Σ′が同値であるということである。
残るのは0と∞である。定義 4.1により、∞∈ΣとA=0は同値であり、A=C′であるから、この条件はC′=0と同値である。C′=0はΣ′の方程式がw=0を解にもつこと、すなわち0∈Σ′と同値である。TJ(∞)=0であるから、∞の行き先についても対応がついた。同様に、0∈ΣとC=0は同値であり、C=A′であるから条件C=0はA′=0、すなわち∞∈Σ′と同値である。TJ(0)=∞であるから、0の行き先についても対応がつく。ゆえにTJ(Σ)=Σ′であり、像も一般化円である。▨
命題 4.3.p1,p2,p3をCの相異なる三点とすると、この三点をすべて含むCの一般化円がただ一つ存在する。
証明.R=R∪{∞}は一般化円である。実際、A=0、B=i、C=0とすると∣B∣2−AC=1>0であり、Bz+Bz=−i(z−z)=2Imzであるから、方程式2Imz=0の解集合はRであり、A=0であるから∞を付け加える。とくにRは0,1,∞を含む。
定理 3.1により、p1,p2,p3をそれぞれ0,1,∞へ写す Möbius 変換Sが存在する。
存在を示す。命題 2.2 (4)によりS−1も Möbius 変換であるから、定理 4.2によりS−1(R)は一般化円であり、S−1(0)=p1、S−1(1)=p2、S−1(∞)=p3であるから三点を含む。
一意性を示す。Σを三点を含む一般化円とすると、定理 4.2によりS(Σ)は一般化円であり、0,1,∞を含む。S(Σ)の方程式の係数をA,B,Cとする。∞∈S(Σ)と定義 4.1によりA=0であり、したがってB=0である。z=0を代入してC=0、z=1を代入してB+B=0、すなわちB=β1+iβ2と書くと2β1=0である。B=0よりβ2=0であり、方程式は2β2Imz=0、すなわちImz=0となる。ゆえにS(Σ)=Rであり、Sは全単射であるからΣ=S−1(R)である。▨
例 4.4 (実軸を単位円周へ写す).T(z)=z+iz−iを考える。ad−bc=1⋅i−(−i)⋅1=2i=0であるからTは Möbius 変換である。実軸上の三点0,1,∞の像は
T(0)=i−i=−1,T(1)=1+i1−i=−i,T(∞)=1であり、いずれも単位円周の上にある。三つの像は相異なる。実軸に∞を付け加えたものRは、A=0、B=i、C=0とした一般化円である。実際∣B∣2−AC=1>0であり、Bz+Bz=−i(z−z)=2Imzであるから、方程式の解集合はRであって、A=0より∞を付け加える。ゆえに定理 4.2によりT(R)も一般化円であり、−1,−i,1を含む。一方、単位円周はA=1、B=0、C=−1とした一般化円(∣B∣2−AC=1>0)であり、同じ三点を含む。相異なる三点を含む一般化円はただ一つであるから(命題 4.3)、T(R)は単位円周である。
5 演習