§E5.19解析接続

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一致の定理(§E5.8 定理 3.1)は、領域の上の正則関数が、集積点をもつ集合の上の値だけで定まることを述べている。したがって、局所的に与えられた正則関数をより広い範囲へ延長する方法が存在するならば、その延長は一意である。本記事は、この延長を二つの水準で定式化する。一つは、より広い領域への延長である。もう一つは、曲線に沿って重なり合う近傍ごとに関数要素を延長する方法である。

後者では、始点と終点が同じでも曲線が異なれば異なる値に到達することがある。この現象を多価性という。本記事は、その例を平方根と対数によって示す。曲線をどのように動かせば延長した結果が変わらないかを述べるモノドロミー定理、多価性を一つの曲面の上の一価関数として扱う Riemann 面の構成、 Riemann ゼータ関数の解析接続、および素数定理は、本記事では扱わない。これら四つの内容は後続の単元が扱う。

1 領域を広げる延長

定義 1.1.D1⊆D2D_{1}\subseteq D_{2}を領域とし、f1f_{1}をD1D_{1}の上の正則関数とする。D2D_{2}の上の正則関数f2f_{2}がD1D_{1}の上でf1f_{1}に一致するとき、f2f_{2}をf1f_{1}のD2D_{2}への解析接続 (analytic continuation) という。

命題 1.2.定義 1.1の設定で、f1f_{1}のD2D_{2}への解析接続は、存在すれば一意である。

証明.f2f_{2}とf~2\tilde f_{2}がともに解析接続であるとすると、二つはD1D_{1}の上で一致する。D1D_{1}は空でない開集合であるから、その各点はD1D_{1}の集積点であり(§E5.1 定義 3.1)、D2D_{2}に属する。§E5.8 定理 3.1をD2D_{2}の上のf2f_{2}とf~2\tilde f_{2}へ適用してf2=f~2f_{2}=\tilde f_{2}を得る。▨

例 1.3 (等比級数の延長).∑n≥0zn\sum_{n\ge0}z^{n}は∣z∣<1|z|<1で収束し、その和は1/(1−z)1/(1-z)である。実際、部分和の公式から∑n=0Nzn=(1−zN+1)/(1−z)\sum_{n=0}^{N}z^{n}=(1-z^{N+1})/(1-z)であり、∣z∣<1|z|<1よりzN+1→0z^{N+1}\to0である。一方1/(1−z)1/(1-z)はC∖{1}\mathbb C\setminus\{1\}の上で正則である(§E5.2 命題 1.2)。C∖{1}\mathbb C\setminus\{1\}は領域である。実際、{1}\{1\}は閉集合であるからC∖{1}\mathbb C\setminus\{1\}は空でない開集合である。z,w∈C∖{1}z,w\in\mathbb C\setminus\{1\}を取るとz−1z-1とw−1w-1はC∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}に属し、§E5.3 命題 2.1と§E5.1 命題 1.4 (1)⇒\Rightarrow(2)により、z−1z-1とw−1w-1を結ぶC∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}内の折れ線が存在する。線分を+1+1だけ平行移動したものは線分であるから、この折れ線を+1+1だけ平行移動するとzzとwwを結ぶC∖{1}\mathbb C\setminus\{1\}内の折れ線になる。ゆえに§E5.1 命題 1.4 (2)⇒\Rightarrow(1)によりC∖{1}\mathbb C\setminus\{1\}は連結であり、領域である。この領域はD(0,1)D(0,1)を含むので、1/(1−z)1/(1-z)は級数の和のC∖{1}\mathbb C\setminus\{1\}への解析接続であり、命題 1.2により1/(1−z)1/(1-z)以外の延長はない。

2 芽

一点のまわりの局所的な情報だけを取り出すために、次の同値関係を導入する。

定義 2.1.a∈Ca\in\mathbb Cとする。aaにおける関数要素 (function element ataa) とは、組(f,U)(f,U)であって、UUがaaを含む領域、ffがUUの上の正則関数であるものをいう。aaにおける二つの関数要素(f,U)(f,U)と(g,V)(g,V)が同値 (equivalence of function elements) であるとは、aaを含む開集合W⊆U∩VW\subseteq U\cap Vが存在してWWの上でf=gf=gが成り立つことをいう。

この関係は同値関係である。反射律と対称律は定義から従う。推移律は、(f,U)(f,U)と(g,V)(g,V)の同値を与えるW1W_{1}と、(g,V)(g,V)と(h,X)(h,X)の同値を与えるW2W_{2}について、W1∩W2W_{1}\cap W_{2}がaaを含む開集合であり、その上でf=g=hf=g=hとなることによる。

同値類を、aaにおける芽 (germ) という。(f,U)(f,U)の定める芽を[f]a[f]_{a}と書く。

命題 2.2.aaにおける二つの関数要素(f,U)(f,U)と(g,V)(g,V)について、次の二条件は同値である。

  1. (f,U)(f,U)と(g,V)(g,V)は同値である。
  2. すべての非負整数nnについてf(n)(a)=g(n)(a)f^{(n)}(a)=g^{(n)}(a)である。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)は、aaを含む開集合の上で二つが一致すれば、その上で各階の導関数も一致することによる。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。D(a,ρ)⊆U∩VD(a,\rho)\subseteq U\cap Vを満たすρ>0\rho>0を取る。§E5.7 定理 2.1をffとggのそれぞれへ適用すると、D(a,ρ)D(a,\rho)の上で

f(z)=∑n≥0f(n)(a)n!(z−a)n,g(z)=∑n≥0g(n)(a)n!(z−a)nf(z)=\sum_{n\ge0}\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(z-a)^{n},\qquad g(z)=\sum_{n\ge0}\frac{g^{(n)}(a)}{n!}(z-a)^{n}

である。係数が一致するのでD(a,ρ)D(a,\rho)の上でf=gf=gであり、W=D(a,ρ)W=D(a,\rho)が同値を与える。▨

3 曲線に沿う解析接続

定義 3.1.γ:[0,1]→C\gamma:[0,1]\to\mathbb Cを連続な曲線とする。γ\gammaに沿う解析接続 (analytic continuation along a curve) とは、各t∈[0,1]t\in[0,1]に対してγ(t)\gamma(t)における関数要素(ft,Ut)(f_{t},U_{t})を与える族であって、次を満たすものをいう。

各t∈[0,1]t\in[0,1]に対してδt>0\delta_{t}>0が存在し、∣s−t∣<δt|s-t|<\delta_{t}かつs∈[0,1]s\in[0,1]を満たすすべてのssについてγ(s)∈Ut∩Us\gamma(s)\in U_{t}\cap U_{s}であり、かつ(fs,Us)(f_{s},U_{s})と(ft,Ut)(f_{t},U_{t})がγ(s)\gamma(s)において同値である。

このとき(f1,U1)(f_{1},U_{1})を、(f0,U0)(f_{0},U_{0})の γ\gammaに沿う延長 (extension along a curve) という。

解析接続を有限個の関数要素の鎖として定義する流儀もあるが、本記事では上の形の定義だけを用い、二つの定義が同じものを与えることは扱わない。

定理 3.2.γ:[0,1]→C\gamma:[0,1]\to\mathbb Cを連続な曲線とし、(ft,Ut)(f_{t},U_{t})と(gt,Vt)(g_{t},V_{t})をともにγ\gammaに沿う解析接続とする。(f0,U0)(f_{0},U_{0})と(g0,V0)(g_{0},V_{0})がγ(0)\gamma(0)において同値ならば、すべてのt∈[0,1]t\in[0,1]について(ft,Ut)(f_{t},U_{t})と(gt,Vt)(g_{t},V_{t})はγ(t)\gamma(t)において同値である。とくに二つの延長(f1,U1)(f_{1},U_{1})と(g1,V1)(g_{1},V_{1})はγ(1)\gamma(1)において同値である。

証明.

S={t∈[0,1]:(ft,Ut) と (gt,Vt) が γ(t) において同値}S=\{t\in[0,1] : (f_{t},U_{t}) \text{ と } (g_{t},V_{t}) \text{ が } \gamma(t) \text{ において同値}\}

とおく。仮定より0∈S0\in Sであり、11は上界であるからt∗=sup⁡St^{*}=\sup Sが定まる(§D1.4 定義 1.1)。

t∗∈St^{*}\in Sを示す。(ft)(f_{t})と(gt)(g_{t})のそれぞれについて定義 3.1がt∗t^{*}に対して与える正数を取り、その小さいほうをδ0>0\delta_{0}>0とする。Ω\Omegaを、γ(t∗)\gamma(t^{*})を含むUt∗∩Vt∗U_{t^{*}}\cap V_{t^{*}}の連結成分とする。Ω\Omegaは開集合の連結成分であるから領域であり、γ(t∗)∈Ω\gamma(t^{*})\in\Omegaとγ\gammaの連続性により、u∈[0,1]u\in[0,1]かつ∣u−t∗∣<δ1|u-t^{*}|<\delta_{1}ならばγ(u)∈Ω\gamma(u)\in\Omegaとなる正数δ1\delta_{1}が存在する。

δ=min⁡{δ0,δ1}\delta=\min\{\delta_{0},\delta_{1}\}と定めた後で、上限の近似的特徴づけ(§D1.4 命題 1.6)により、t∗−δ<s≤t∗t^{*}-\delta<s\le t^{*}を満たすs∈Ss\in Sを選ぶ。∣s−t∗∣<δ≤δ0|s-t^{*}|<\delta\le\delta_{0}であるから、(fs,Us)(f_{s},U_{s})と(ft∗,Ut∗)(f_{t^{*}},U_{t^{*}})はγ(s)\gamma(s)において同値であり、(gs,Vs)(g_{s},V_{s})と(gt∗,Vt∗)(g_{t^{*}},V_{t^{*}})もγ(s)\gamma(s)において同値である。s∈Ss\in Sであるから(fs,Us)(f_{s},U_{s})と(gs,Vs)(g_{s},V_{s})はγ(s)\gamma(s)において同値である。推移律により、γ(s)\gamma(s)を含む開集合W⊆Ut∗∩Vt∗W\subseteq U_{t^{*}}\cap V_{t^{*}}の上でft∗=gt∗f_{t^{*}}=g_{t^{*}}が成り立つ。

∣s−t∗∣<δ≤δ1|s-t^{*}|<\delta\le\delta_{1}よりγ(s)∈Ω\gamma(s)\in\Omegaであるから、W∩ΩW\cap\Omegaは空でない開集合である。その各点はΩ\Omegaに属する集積点であるため、§E5.8 定理 3.1によりΩ\Omegaの上でft∗=gt∗f_{t^{*}}=g_{t^{*}}である。とくに二つの関数はγ(t∗)\gamma(t^{*})の近傍で一致するので、t∗∈St^{*}\in Sである。

t∗=1t^{*}=1を示す。t∗<1t^{*}<1とすると、t∗<u<min⁡(1,t∗+δ)t^{*}<u<\min(1,t^{*}+\delta)を満たすuuについて、∣u−t∗∣<δ≤δ0|u-t^{*}|<\delta\le\delta_{0}であるから、(fu,Uu)(f_{u},U_{u})と(ft∗,Ut∗)(f_{t^{*}},U_{t^{*}})はγ(u)\gamma(u)において同値であり、(gu,Vu)(g_{u},V_{u})と(gt∗,Vt∗)(g_{t^{*}},V_{t^{*}})もγ(u)\gamma(u)において同値である。また、∣u−t∗∣<δ≤δ1|u-t^{*}|<\delta\le\delta_{1}であるからγ(u)∈Ω\gamma(u)\in\Omegaであり、Ω\Omegaの上でft∗=gt∗f_{t^{*}}=g_{t^{*}}である。したがって、同値関係の推移律により(fu,Uu)(f_{u},U_{u})と(gu,Vu)(g_{u},V_{u})はγ(u)\gamma(u)において同値であり、u∈Su\in Sである。u>t∗u>t^{*}という結論は、t∗t^{*}がSSの上限であることに反する。ゆえにt∗=1t^{*}=1である。

最後に、任意のt∈[0,1]t\in[0,1]に対してγt(s)=γ(ts)\gamma_t(s)=\gamma(ts)(0≤s≤10\le s\le1)とおき、二つの解析接続を(fts,Uts)(f_{ts},U_{ts})と(gts,Vts)(g_{ts},V_{ts})に制限する。この再径数化された曲線と二つの族へ同じ議論を適用すると、終点s=1s=1、すなわち元の時刻ttで二つの関数要素が同値になる。したがってt∈St\in Sである。▨

4 多価性

例 4.1 (平方根を円周に沿って延長する).D0=C∖(−∞,0]D_{0}=\mathbb C\setminus(-\infty,0]の上でq(z)=eLog⁡(z)/2q(z)=e^{\operatorname{Log}(z)/2}とおく。§E5.3 命題 2.10と§E5.3 命題 1.8によりqqはD0D_{0}の上で正則であり、指数の加法法則(§E5.3 命題 1.6)によりq(z)2=eLog⁡z=zq(z)^{2}=e^{\operatorname{Log}z}=zである。q(1)=e0=1q(1)=e^{0}=1である。

γ(t)=e2πit\gamma(t)=e^{2\pi it}(0≤t≤10\le t\le1)を単位円周とし、(f0,U0)=(q,D0)(f_{0},U_{0})=(q,D_{0})から出発してγ\gammaに沿う解析接続を作る。各ttについて、αt=2πt+π\alpha_{t}=2\pi t+\piとおき、UtU_{t}を半直線{reiαt:r≥0}\{re^{i\alpha_{t}} : r\ge0\}を取り除いた領域とする(§E5.3 命題 2.11によりUtU_{t}は領域である)。γ(t)∈Ut\gamma(t)\in U_{t}である。実際、e2πit=rei(2πt+π)e^{2\pi it}=re^{i(2\pi t+\pi)}とすると、絶対値を比べてr=1r=1であり、§E5.3 命題 1.7によりeiπ=1e^{i\pi}=1となって矛盾する。§E5.3 命題 2.11によりUtU_{t}の上の対数の枝が存在し、§E5.3 命題 2.5により枝は2πi2\pi iの整数倍の差を除いて一意であるから、ℓt(γ(t))=2πit\ell_{t}(\gamma(t))=2\pi itを満たすものをただ一つ選ぶことができる。実際、任意の枝ℓ\ellについてeℓ(γ(t))=γ(t)=e2πite^{\ell(\gamma(t))}=\gamma(t)=e^{2\pi it}であるから、§E5.3 命題 1.7によりℓ(γ(t))−2πit\ell(\gamma(t))-2\pi itは2πi2\pi iの整数倍であり、その分だけずらせばよい。ft(z)=eℓt(z)/2f_{t}(z)=e^{\ell_{t}(z)/2}とおく。t=0t=0ではα0=π\alpha_{0}=\piよりU0=D0U_{0}=D_{0}であり、Log⁡(1)=0\operatorname{Log}(1)=0であるからℓ0=Log⁡\ell_{0}=\operatorname{Log}、f0=qf_{0}=qである。

この族が定義 3.1の条件を満たすことを確かめる。t∈[0,1]t\in[0,1]を固定し、δt>0\delta_{t}>0を次のように取る。

第一に、∣s−t∣<1/2|s-t|<1/2ならばγ(s)∈Ut\gamma(s)\in U_{t}である。実際、γ(s)=e2πis\gamma(s)=e^{2\pi is}がUtU_{t}の外にあるとすると、e2πis=rei(2πt+π)e^{2\pi is}=re^{i(2\pi t+\pi)}を満たすr≥0r\ge0があり、絶対値を比べてr=1r=1、§E5.3 命題 1.7により2πis−i(2πt+π)2\pi is-i(2\pi t+\pi)が2πi2\pi iの整数倍、すなわちs−ts-tが1/21/2に整数を足したものになるので∣s−t∣≥1/2|s-t|\ge1/2である。γ(s)∈Us\gamma(s)\in U_{s}は、上でγ(t)∈Ut\gamma(t)\in U_{t}を示したのと同じ計算による。

第二に、ℓt\ell_{t}はUtU_{t}の上で連続、γ\gammaは連続であるから、合成s↦ℓt(γ(s))s\mapsto\ell_{t}(\gamma(s))は{s∈[0,1]:∣s−t∣<1/2}\{s\in[0,1] : |s-t|<1/2\}の上で連続であり、s=ts=tでの値は2πit2\pi itである。したがって0<δt≤1/20<\delta_{t}\le1/2を、∣s−t∣<δt|s-t|<\delta_{t}ならば∣ℓt(γ(s))−2πit∣<π|\ell_{t}(\gamma(s))-2\pi it|<\piとなるように取ることができる。

∣s−t∣<δt|s-t|<\delta_{t}とする。Ut∩UsU_{t}\cap U_{s}はγ(s)\gamma(s)を含む開集合であるから、D(γ(s),ρ)⊆Ut∩UsD\bigl(\gamma(s),\rho\bigr)\subseteq U_{t}\cap U_{s}を満たすρ>0\rho>0を取ることができる。開円板は§E5.2 命題 4.5により領域であり、ℓt\ell_{t}とℓs\ell_{s}のDDへの制限はどちらもD=D(γ(s),ρ)D=D(\gamma(s),\rho)の上の対数の枝であるから、§E5.3 命題 2.5により整数kkが存在してDDの上でℓt−ℓs=2πik\ell_{t}-\ell_{s}=2\pi ikである。

このkkが00であることを示す。γ(s)∈D\gamma(s)\in Dで評価するとℓt(γ(s))=ℓs(γ(s))+2πik=2πis+2πik\ell_{t}(\gamma(s))=\ell_{s}(\gamma(s))+2\pi ik=2\pi is+2\pi ikである。δt≤1/2\delta_{t}\le1/2より2π∣s−t∣<π2\pi|s-t|<\piであるから

2π∣k∣=∣ℓt(γ(s))−2πis∣≤∣ℓt(γ(s))−2πit∣+2π∣s−t∣<π+π=2π2\pi|k|=\bigl|\ell_{t}(\gamma(s))-2\pi is\bigr| \le\bigl|\ell_{t}(\gamma(s))-2\pi it\bigr|+2\pi|s-t|<\pi+\pi=2\pi

であり、∣k∣<1|k|<1、すなわちk=0k=0である。ゆえにDDの上でℓs=ℓt\ell_{s}=\ell_{t}であり、fs=eℓs/2=eℓt/2=ftf_{s}=e^{\ell_{s}/2}=e^{\ell_{t}/2}=f_{t}がDDの上で成り立つ。DDはγ(s)\gamma(s)を含むUt∩UsU_{t}\cap U_{s}の開部分集合であるから、定義 2.1の意味で(fs,Us)(f_{s},U_{s})と(ft,Ut)(f_{t},U_{t})はγ(s)\gamma(s)において同値である。

t=1t=1ではγ(1)=1\gamma(1)=1に戻るがℓ1(1)=2πi\ell_{1}(1)=2\pi iであるから

f1(1)=e2πi/2=eiπ=−1f_{1}(1)=e^{2\pi i/2}=e^{i\pi}=-1

である。出発点での値はf0(1)=1f_{0}(1)=1であった。すなわち、同じ点へ戻ってきたにもかかわらず、延長した関数の値は符号が変わっている。

定理 3.2が主張するのは、曲線を固定したときの一意性だけである。曲線を取り替えたときに同じ芽に到達することは主張しない。ここで見たのは、その主張が実際に成り立たない例である。

例 4.2 (対数を円周に沿って延長する). 同じ曲線γ(t)=e2πit\gamma(t)=e^{2\pi it}に沿ってLog⁡\operatorname{Log}自身を延長する。例 4.1の記号で(gt,Vt)=(ℓt,Ut)(g_{t},V_{t})=(\ell_{t},U_{t})とおくと、この族も定義 3.1の条件を満たす。実際、同例で示したのは、∣s−t∣<δt|s-t|<\delta_{t}のときℓs\ell_{s}とℓt\ell_{t}が開円板D(γ(s),ρ)⊆Ut∩UsD(\gamma(s),\rho)\subseteq U_{t}\cap U_{s}の上で一致することであった。g0=Log⁡g_{0}=\operatorname{Log}でありg0(1)=0g_{0}(1)=0、g1(1)=ℓ1(1)=2πig_{1}(1)=\ell_{1}(1)=2\pi iである。一周するごとに値が2πi2\pi iだけ増える。

この現象は§E5.3 命題 2.6の言い換えである。同命題は、原点を中心とする円周を含む領域の上に対数の枝が存在しないことを主張する。ここでは単位円周の場合を、上の延長と定理 3.2から導いてみる。

DDを単位円周を含む領域とし、ℓ\ellをDDの上の対数の枝と仮定する。D∩D0D\cap D_{0}は11を含む開集合であるから、D(1,ρ0)⊆D∩D0D(1,\rho_{0})\subseteq D\cap D_{0}を満たすρ0>0\rho_{0}>0を取ることができる。開円板は§E5.2 命題 4.5により領域であり、ℓ\ellとLog⁡\operatorname{Log}のD(1,ρ0)D(1,\rho_{0})への制限はどちらもその上の対数の枝であるから、§E5.3 命題 2.5により整数kkが存在して、その上でℓ−Log⁡=2πik\ell-\operatorname{Log}=2\pi ikである。ℓ\ellをℓ−2πik\ell-2\pi ikで取り替えると、取り替えた関数もDDの上の対数の枝であって、D(1,ρ0)D(1,\rho_{0})の上でLog⁡\operatorname{Log}に一致する。

すべてのt∈[0,1]t\in[0,1]について(ht,Wt)=(ℓ,D)(h_{t},W_{t})=(\ell,D)と定めると、この定値な関数要素の族はγ\gammaに沿う解析接続である。実際、DDは単位円周を含むのでどのttについてもγ(t)∈D\gamma(t)\in Dであり、δt=2\delta_{t}=2と取れば、どのs∈[0,1]s\in[0,1]についても(hs,Ws)(h_{s},W_{s})と(ht,Wt)(h_{t},W_{t})は同じ関数要素であるからγ(s)\gamma(s)において同値である。

(h0,W0)=(ℓ,D)(h_{0},W_{0})=(\ell,D)と(g0,V0)=(Log⁡,D0)(g_{0},V_{0})=(\operatorname{Log},D_{0})は、D(1,ρ0)D(1,\rho_{0})の上で一致するのでγ(0)=1\gamma(0)=1において同値である。したがって定理 3.2により(h1,W1)(h_{1},W_{1})と(g1,V1)(g_{1},V_{1})はγ(1)=1\gamma(1)=1において同値であり、とくにℓ(1)=g1(1)=2πi\ell(1)=g_{1}(1)=2\pi iである。しかしD(1,ρ0)D(1,\rho_{0})の上でℓ=Log⁡\ell=\operatorname{Log}であるからℓ(1)=Log⁡(1)=0\ell(1)=\operatorname{Log}(1)=0である。ℓ(1)=2πi\ell(1)=2\pi iとℓ(1)=0\ell(1)=0という二つの等式は矛盾する。ゆえに単位円周を含む領域の上に対数の枝は存在しない。

注意 4.3 (本記事が扱わない範囲). 二つの曲線が連続に移り合うときに延長した芽が一致することを述べるモノドロミー定理、多価性を一つの曲面の上の一価な正則関数として扱う Riemann 面の構成、Riemann ゼータ関数の解析接続、および素数定理は、本記事では扱わない。これら四つの内容は後続の単元が扱う。本記事が扱ったのは、平面の領域の上の解析接続の定義、曲線を固定したときの局所的な一意性、および多価性が生じる具体例である。

5 演習

問題 5.1.

  • 命題 1.2の証明で、D1D_{1}の点がD2D_{2}に属する集積点であることを用いた。D1D_{1}が一点だけからなる集合であれば同じ議論を行うことができない理由を述べる。
  • 命題 2.2により、芽は各階の導関数の族で決まる。ただし、任意に与えた数列がある芽から来るとは限らない。その理由を、Taylor 級数の収束半径(§E5.7 定理 1.2)から述べる。
  • 定理 3.2の証明で、Ut∗∩Vt∗U_{t^{*}}\cap V_{t^{*}}の連結成分を取り直した理由を述べる。連結でない開集合へ一致の定理を適用することができない理由を、§E5.8 注意 3.3に照らして説明する。
  • 例 4.1で、二つの枝の差が2πi2\pi iの整数倍であることから、その整数が00であることを導いた。δt≤1/2\delta_{t}\le1/2という制限と∣ℓt(γ(s))−2πit∣<π|\ell_{t}(\gamma(s))-2\pi it|<\piという評価が、それぞれ不等式のどの項を抑えているのかを特定する。
  • 例 4.1で、単位円周を逆向きに一周した場合のf1(1)f_{1}(1)を求める。さらに同じ向きに二周した場合の値も求める。
  • 例 4.2でℓ\ellをℓ−2πik\ell-2\pi ikへ取り替えた理由を述べる。この取り替えをしないと定理 3.2のどの仮定が満たされないのかを特定する。

参考文献

  1. Lars V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., AMS Chelsea Publishing 385, American Mathematical Society, Providence, R.I., 2021, originally published 1979.関数要素、芽、曲線に沿う解析接続を参考にした。
  2. John B. Conway, Functions of One Complex Variable I, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1978.芽の同値関係と曲線に沿う延長の一意性を参考にした。
  3. Walter Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw Hill, 1987.解析接続と多価性の生じ方を参考にした。

前提記事