1 Baire の範疇定理
定理 1.1 (Baire の範疇定理). 従属選択公理を仮定する。完備距離空間Xにおいて、可算個の稠密開集合U1,U2,…の共通部分⋂n=1∞Unは稠密である。さらにX=∅ならば、同値な形として、Xが可算個の閉集合の和であるならば、そのうち少なくとも一つは空でない内部をもつ。
§E2.28 定理 4.2は、完備距離空間という仮定のもとで前掲の主張を完全に証明している。
命題 1.2.C[0,1]に一様ノルムを入れる。至る所で微分不可能な連続関数全体はC[0,1]で稠密であり、その補集合は第一類集合である。
証明.n≥1に対してEnを、あるx∈[0,1]が存在し、∣y−x∣≤1/nを満たすすべてのy∈[0,1]に対して
∣f(y)−f(x)∣≤n∣y−x∣(1)となる関数f∈C[0,1]の集合とする。ある点で有限の微分係数をもつ関数は、十分大きいnに対してEnに属する。したがって、少なくとも一点で微分可能な関数全体は⋃nEnに含まれる。
Enが閉じていることを示す。fk∈Enがfへ一様収束し、xkをfkに対する (1) の点とする。座標空間の次元を1とした場合として§E12.1 補題 2.1を用いると、部分列をとってxk→xとしてよい。∣y−x∣<1/nを満たすyを固定すると、十分大きいkで∣y−xk∣<1/nなので
∣fk(y)−fk(xk)∣≤n∣y−xk∣である。一様収束とfの連続性を用いてk→∞とすると (1) を得る。∣y−x∣=1/nの場合は、線分上でyに近づく点に同じ不等式を適用し、連続性によって極限をとる。よってf∈Enであり、Enは閉じている。
Enの内部が空であることを示す。f∈C[0,1]とε>0をとり、δ=ε/4とする。ここでfが一様連続であることは、次の列による議論から従う。一様連続でないと仮定すると、あるη>0と点列(sk),(tk)が存在し、∣sk−tk∣→0であるが∣f(sk)−f(tk)∣≥ηとなる。座標空間の次元を1とした場合として§E12.1 補題 2.1によりskの収束部分列をとると、対応するtkも同じ点へ収束し、fの連続性に矛盾する。
したがって、十分細かい等分点0=t0<t1<⋯<tm=1を、同じ小区間内のfの振幅がδ未満であり、各区間の長さがδ/(2n)未満となるようにとる。節点で
g(tj)=f(tj)+(−1)j2δと定め、各小区間上でgを線形にする。小区間内では、fと端点値の線形補間との差はδ未満であり、交互に加えた項の絶対値は2δ以下なので、∥g−f∥∞<3δ<εである。
隣り合う節点におけるgの値の差の絶対値は3δより大きい。したがって各線分の傾きの絶対値はnより大きい。任意のx∈[0,1]に対して、xと同じ線分上に十分近いy=xをとると∣g(y)−g(x)∣>n∣y−x∣となる。よってg∈/Enである。任意の一様ノルム球がEnの外の点を含むため、Enの内部は空である。Enは閉集合なので疎集合である。
定理 1.1により、C[0,1]は可算個の疎集合Enの和では覆われない。さらにC[0,1]∖⋃nEnは稠密である。この補集合の各関数は、どの点でも有限の微分係数をもたない。▨
2 一様有界性原理
証明.n≥1に対して
En:={x∈X:α∈Asup∥Tαx∥Y≤n}とおく。各Tαは連続なので、En=⋂α∈A{x:∥Tαx∥Y≤n}は閉集合である。各点有界性からX=⋃n=1∞Enである。
定理 1.1により、あるNについてENは空でない内部をもつ。したがって、あるx0∈Xとr>0が存在して、閉球B(x0,r)がENに含まれる。∥z∥X≤rならばx0とx0+zはともにENに属するため、任意のα∈Aに対して
∥Tαz∥Y≤∥Tα(x0+z)∥Y+∥Tαx0∥Y≤2Nである。∥u∥X≤1に対してz=ruとおくと∥Tαu∥Y≤2N/rを得る。したがって、すべてのαに対して∥Tα∥≤2N/rである。▨
定義域の完備性を外すと、点ごとの有界性から一様有界性は従わない。
3 開写像定理と閉グラフ定理
定理 3.1 (開写像定理).X,Yを Banach 空間とし、T∈B(X,Y)が全射であるならば、Tは開写像である。
証明.U:={x∈X:∥x∥X<1}とおく。Tは全射なので、任意のy∈Yはあるx∈Xの像である。n>∥x∥Xをとればx∈nUなので
Y=n=1⋃∞T(nU)⊆n=1⋃∞T(nU).各T(nU)はYの部分集合なので逆の包含も成り立ち、等号を得る。Yは Banach 空間であり、T(nU)は閉集合なので、定理 1.1により、あるnについてT(nU)は空でない内部をもつ。スカラー倍によって、A:=T(U)も空でない内部をもつ。
T(U)は凸かつ平衡であるため、その閉包Aも凸かつ平衡である。あるy0∈Yとρ>0が存在してB(y0,ρ)⊆Aとなる。∥y∥Y<ρならばy0+y∈Aかつ−y0∈Aであるため、y=(y0+y)+(−y0)∈A+A⊆2Aである。したがってy/2∈Aであり、
B(0,r)⊆T(U),r:=ρ/2(2)を得る。
次に閉包を外す。∥y∥Y<r/2とする。(2) を1/2倍するとB(0,r/2)⊆T(U/2)であるため、x1∈U/2を∥y−Tx1∥Y<r/4となるようにとることができる。帰納的に、n−1段目の残差のノルムがr/2n未満ならば、(2) を2−n倍した包含をその残差へ適用する。この操作により、n≥1に対して
∥xn∥X<2−n,y−Tk=1∑nxkY<2n+1r(3)を満たす列(xn)を構成することができる。
∑n∥xn∥X<1であり、Xは Banach 空間なので、級数∑nxnはあるx∈Xに収束する。∥x∥X<1である。Tは有界なので極限と交換することができ、(3) からTx=yを得る。よって
B(0,r/2)⊆T(U).(4)O⊆Xを開集合、x0∈Oとする。あるδ>0が存在してx0+δU⊆Oとなる。(4) から
Tx0+B(0,δr/2)⊆T(O)である。したがってT(O)は開集合であり、Tは開写像である。▨
定理 3.2 (有界逆写像定理).X,Yを Banach 空間とし、T∈B(X,Y)が全単射であるならば、T−1:Y→Xは有界である。
証明.Tは全射なので、定理 3.1によりTは開写像である。U={x∈X:∥x∥X<1}は開集合であるから、T(U)は0の近傍である。したがってT−1は0で連続である。§E12.2 定理 1.4により、線形写像T−1は有界である。▨
定理 3.3 (閉グラフ定理).X,Yを Banach 空間とし、線形写像T:X→YのグラフG(T)={(x,Tx):x∈X}がX×Yで閉じているならば、Tは有界である。
証明.X×Yに∥(x,y)∥:=∥x∥X+∥y∥Yを入れる。((xn,yn))がこのノルムについて Cauchy 列ならば、(xn)と(yn)はそれぞれXとYの Cauchy 列である。完備性によりxn→x、yn→yとなり、∥(xn,yn)−(x,y)∥=∥xn−x∥X+∥yn−y∥Y→0である。したがってX×Yは Banach 空間である。G(T)は閉部分空間なので、§E12.1 命題 1.4によって Banach 空間である。第1座標への射影
π:G(T)→X,π(x,Tx)=xは線形、全単射かつ有界である。定理 3.2により、π−1:x↦(x,Tx)は有界である。したがって、あるC>0が存在して
∥x∥X+∥Tx∥Y=∥π−1x∥≤C∥x∥Xとなる。よって∥Tx∥Y≤C∥x∥Xであり、Tは有界である。▨
閉グラフ定理では、線形作用素Tの定義域が Banach 空間Xの全体である。稠密な真部分空間だけを定義域とする非有界作用素には、閉グラフ定理をそのまま適用することができない。
有界逆写像定理では、終域の完備性を外すと結論は保証されない。
例 3.4 (有界な全単射の終域が不完備である反例).E=C1[0,1]とし、
∥f∥C1:=∥f∥∞+∥f′∥∞とおく。X=(E,∥⋅∥C1)は Banach 空間である。実際、(fn)がC1ノルムで Cauchy ならば、fn→fとfn′→gがともに一様収束する。恒等式
fn(x)−fn(0)=∫0xfn′(t)dtで極限をとるとf(x)−f(0)=∫0xg(t)dtとなるため、f∈C1[0,1]かつf′=gである。
一方、Y=(E,∥⋅∥∞)は完備でない。関数
gn(x)=(x−1/2)2+1/nはC1[0,1]に属し、∣x−1/2∣へ一様収束するが、極限はx=1/2で微分可能でない。
恒等写像I:X→Yは∥f∥∞≤∥f∥C1により有界な全単射である。しかしfn(x)=xn/nとすると
∥fn∥∞=n1,∥fn∥C1=n1+1,なので、I−1:Y→Xの作用素ノルムを有限の定数で抑えることはできない。有界な全単射I:X→Yの終域Yが不完備である場合に、有界逆写像定理の結論が成り立たないことが分かる。
4 演習
問題 4.2 (開写像定理における二つの完備性の役割). 開写像定理の証明で、Baire の範疇定理を用いる箇所と、定義域Xの完備性を用いる箇所を分けて示せ。
問題 4.3 (閉グラフ定理の各段の不等式). 閉グラフ定理の証明で、G(T)が Banach 空間であること、射影πが有界であること、およびπ−1の有界性からTの有界性が従うことを、それぞれ不等式で確認せよ。
問題 4.4 (c00上の点ごとに有界な作用素族).c00上のTn(x)=nxnについて、各Tnが有界で∥Tn∥=nであること、および各固定x∈c00に対してsupn∣Tnx∣<∞であることを証明せよ。