§E12.9Riesz の表現定理と Lax–Milgram の定理

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Hilbert 空間HHの各ベクトルyyは、x↦⟨x,y⟩x\mapsto\langle x,y\rangleという汎関数を定める。この汎関数は線形であり、Cauchy–Schwarz の不等式によって有界である。H∗H^*の元がすべてこの形をとること、すなわちyyをこの汎関数へ対応させる写像がH∗H^*への全射であることを主張するのが Riesz の表現定理であり、f∈H∗f\in H^*を表すyyは一つに定まる。

この同定のもとでは、二つのベクトルに依存する形式aaが定める方程式を、HH上の一つの有界作用素についての方程式として書き直すことができる。形式の側に要る条件は有界性と強圧性の二つであり、これらを満たす形式に対して解の存在と一意性を主張するのが Lax–Milgram の定理である。偏微分方程式の弱形式はこの形をとる。本記事では、実数体と複素数体で線形性の型を分けたうえで、この二つの定理を証明する。

1 Riesz の表現定理

ここで扱うのは Hilbert 空間の有界線形汎関数をベクトルとの内積で表す定理であり、連続関数空間の双対を測度で表す Riesz–Markov–Kakutani の定理とは異なる。

係数体K\mathbb KはR\mathbb RまたはC\mathbb Cとする。複素内積は第1変数について線形であり、第2変数について共役線形である。

定理 1.1 (Riesz の表現定理).HHを実 Hilbert 空間または複素 Hilbert 空間とする。任意の有界線形汎関数f∈H∗f\in H^*に対して、

f(x)=⟨x,y⟩(x∈H)f(x)=\langle x,y\rangle\qquad(x\in H)

を満たすy∈Hy\in Hがただ一つ存在する。さらに∥f∥=∥y∥\|f\|=\|y\|である。

証明.f=0f=0ならy=0y=0とすればよい。以下ではf≠0f\ne0とする。M=ker⁡fM=\ker fはffの連続性により閉部分空間であり、M≠HM\ne Hである。§E12.8 定理 2.2によりH=M⊕M⊥H=M\oplus M^\perpであるから、単位ベクトルz∈M⊥z\in M^\perpをとることができる。

x∈Hx\in Hに対してw=f(x)z−f(z)xw=f(x)z-f(z)xとおくとf(w)=0f(w)=0であるからw∈Mw\in Mである。よって⟨w,z⟩=0\langle w,z\rangle=0であり、

0=f(x)⟨z,z⟩−f(z)⟨x,z⟩=f(x)−f(z)⟨x,z⟩.0=f(x)\langle z,z\rangle-f(z)\langle x,z\rangle =f(x)-f(z)\langle x,z\rangle.

実数体ではy=f(z)zy=f(z)z、複素数体ではy=f(z)‾zy=\overline{f(z)}zとおけば、いずれの場合もf(x)=⟨x,y⟩f(x)=\langle x,y\rangleを得る。

Cauchy–Schwarz の不等式により∣f(x)∣≤∥x∥∥y∥|f(x)|\le\|x\|\|y\|であるから∥f∥≤∥y∥\|f\|\le\|y\|である。y≠0y\ne0の場合にはx=y/∥y∥x=y/\|y\|を代入して∣f(x)∣=∥y∥|f(x)|=\|y\|を得る。y=0y=0の場合にはf=0f=0であるから∥f∥=0=∥y∥\|f\|=0=\|y\|である。したがって∥f∥=∥y∥\|f\|=\|y\|である。

y,y′y,y'がともに表現ベクトルなら、x=y−y′x=y-y'を代入して∥y−y′∥2=⟨y−y′,y−y′⟩=0\|y-y'\|^2=\langle y-y',y-y'\rangle=0を得るのでy=y′y=y'である。▨

系 1.2.R:H→H∗R:H\to H^*を(Ry)(x)=⟨x,y⟩(Ry)(x)=\langle x,y\rangleと定めると、RRは全単射かつ等長である。実数体上ではRRは線形であり、複素数体上ではR(αy+βz)=α‾Ry+β‾RzR(\alpha y+\beta z)=\overline\alpha Ry+ \overline\beta Rzを満たす共役線形写像である。

証明. 全射性、一意性、および等長性は定理 1.1から従う。複素数体では

(R(αy+βz))(x)=⟨x,αy+βz⟩=α‾⟨x,y⟩+β‾⟨x,z⟩(R(\alpha y+\beta z))(x)=\langle x,\alpha y+\beta z\rangle =\overline\alpha\langle x,y\rangle+\overline\beta\langle x,z\rangle

である。実数体では複素共役が恒等写像なので線形である。▨

例 1.3 (L2L^2上の有界線形汎関数).H=L2([0,1])H=L^2([0,1])の内積を⟨h,g⟩=∫01h(x)g(x)‾ dx\langle h,g\rangle=\int_0^1h(x)\overline{g(x)}\,dxとする。区間[0,1/2][0,1/2]上の平均をとる汎関数

F(h)=2∫01/2h(x) dxF(h)=2\int_0^{1/2}h(x)\,dx

の表現ベクトルはg=21[0,1/2]g=2\mathbf 1_{[0,1/2]}である。実際、F(h)=⟨h,g⟩F(h)=\langle h,g\rangleであり、定理 1.1により∥F∥=∥g∥2=2\|F\|=\|g\|_2=\sqrt2である。

2 Lax–Milgram の定理

定義 2.1.HHを Hilbert 空間とする。実数体では双線形形式a:H×H→Ra:H\times H\to\mathbb R、複素数体では第1変数について線形で第2変数について共役線形な半双線形形式a:H×H→Ca:H\times H\to\mathbb Cを考える。

  1. あるM>0M>0に対して∣a(x,y)∣≤M∥x∥∥y∥|a(x,y)|\le M\|x\|\|y\|が全てのx,y∈Hx,y\in Hで成り立つとき、aaは有界 (bounded) であるという。
  2. 実数体ではa(x,x)≥α∥x∥2a(x,x)\ge\alpha\|x\|^2、複素数体ではRe⁡a(x,x)≥α∥x∥2\operatorname{Re}a(x,x)\ge\alpha\|x\|^2が、あるα>0\alpha>0と全てのx∈Hx\in Hに対して成り立つとき、aaは強圧的 (coercive) であるという。

定理 2.2 (Lax–Milgram の定理).HHを Hilbert 空間とし、aaを有界かつ強圧的な形式とする。強圧性定数をα>0\alpha>0とする。

  1. HHが実 Hilbert 空間なら、任意のf∈H∗f\in H^*に対して a(u,v)=f(v)(v∈H)a(u,v)=f(v)\qquad(v\in H) を満たすu∈Hu\in Hがただ一つ存在する。
  2. HHが複素 Hilbert 空間で、aaが第1変数について線形、第2変数について共役線形なら、任意のf∈H∗f\in H^*に対して a(v,u)=f(v)(v∈H)a(v,u)=f(v)\qquad(v\in H) を満たすu∈Hu\in Hがただ一つ存在する。

いずれの場合も∥u∥≤∥f∥/α\|u\|\le\|f\|/\alphaである。

証明.(1)を示す。まず実数体の場合を扱う。u∈Hu\in Hを固定するとv↦a(u,v)v\mapsto a(u,v)は有界線形汎関数である。定理 1.1により、

a(u,v)=⟨v,Au⟩(v∈H)a(u,v)=\langle v,Au\rangle\qquad(v\in H)

を満たすAu∈HAu\in Hが一意に存在する。双線形性と Riesz 対応の実線形性によりA:H→HA:H\to Hは線形であり、∥Au∥≤M∥u∥\|Au\|\le M\|u\|である。強圧性と Cauchy–Schwarz の不等式から

α∥u∥2≤a(u,u)=⟨u,Au⟩≤∥u∥∥Au∥\alpha\|u\|^2\le a(u,u)=\langle u,Au\rangle\le\|u\|\|Au\|

であるから∥Au∥≥α∥u∥\|Au\|\ge\alpha\|u\|である。

(2)を示す。次に複素数体の場合を扱う。u∈Hu\in Hを固定するとv↦a(v,u)v\mapsto a(v,u)は有界線形汎関数であるから、

a(v,u)=⟨v,Au⟩(v∈H)a(v,u)=\langle v,Au\rangle\qquad(v\in H)

によってAuAuを定める。a(v,cu)=c‾ a(v,u)a(v,cu)=\overline c\,a(v,u)と⟨v,cAu⟩=c‾ ⟨v,Au⟩\langle v,cAu\rangle=\overline c\,\langle v,Au\rangleを比較するとA(cu)=cAuA(cu)=cAuである。加法性も同様に従うのでAAは線形であり、∥Au∥≤M∥u∥\|Au\|\le M\|u\|である。また

α∥u∥2≤Re⁡a(u,u)=Re⁡⟨u,Au⟩≤∥u∥∥Au∥\alpha\|u\|^2\le\operatorname{Re}a(u,u) =\operatorname{Re}\langle u,Au\rangle\le\|u\|\|Au\|

より∥Au∥≥α∥u∥\|Au\|\ge\alpha\|u\|を得る。

以下の議論は両場合に共通である。Aun→yAu_n\to yなら∥un−um∥≤α−1∥Aun−Aum∥\|u_n-u_m\|\le\alpha^{-1}\|Au_n-Au_m\|であるため(un)(u_n)は Cauchy 列である。HHの完備性とAAの連続性からy∈Ran⁡Ay\in\operatorname{Ran}Aとなり、Ran⁡A\operatorname{Ran}Aは閉じている。

w∈(Ran⁡A)⊥w\in(\operatorname{Ran}A)^\perpなら、とくに⟨w,Aw⟩=0\langle w,Aw\rangle=0である。実数体ではa(w,w)=0a(w,w)=0、複素数体ではRe⁡a(w,w)=0\operatorname{Re}a(w,w)=0となり、強圧性からw=0w=0を得る。したがって(Ran⁡A)⊥={0}(\operatorname{Ran}A)^\perp=\{0\}である。閉部分空間に対する§E12.8 定理 2.2によりRan⁡A=H\operatorname{Ran}A=Hである。下からの評価によりAAは単射でもある。

定理 1.1によってf(v)=⟨v,yf⟩f(v)=\langle v,y_f\rangleと表し、u=A−1yfu=A^{-1}y_fとおく。実数体ではa(u,v)=f(v)a(u,v)=f(v)、複素数体ではa(v,u)=f(v)a(v,u)=f(v)を得る。一意性はAAの単射性から従う。最後に

α∥u∥≤∥Au∥=∥yf∥=∥f∥\alpha\|u\|\le\|Au\|=\|y_f\|=\|f\|

であるから、∥u∥≤∥f∥/α\|u\|\le\|f\|/\alphaである。▨

3 弱形式の Hilbert 空間モデル

例 3.1 (対角形式に対する弱形式).H=ℓ2H=\ell^2を複素 Hilbert 空間とし、実数列(cn)(c_n)が0<α≤cn≤M0<\alpha\le c_n\le Mを満たすとする。

a(v,u)=∑n=1∞cnvnun‾a(v,u)=\sum_{n=1}^\infty c_nv_n\overline{u_n}

と定めると、Cauchy–Schwarz の不等式により∣a(v,u)∣≤M∥v∥2∥u∥2|a(v,u)|\le M\|v\|_2\|u\|_2であり、a(u,u)≥α∥u∥22a(u,u)\ge\alpha\|u\|_2^2である。g∈ℓ2g\in\ell^2に対してf(v)=⟨v,g⟩f(v)=\langle v,g\rangleとおくと、定理 2.2の解は

un=gncnu_n=\frac{g_n}{c_n}

である。実際、u∈ℓ2u\in\ell^2かつa(v,u)=f(v)a(v,u)=f(v)が全てのvvに対して成り立ち、∥u∥2≤∥g∥2/α=∥f∥/α\|u\|_2\le\|g\|_2/\alpha=\|f\|/\alphaである。

この等式は、未知のuuを全ての試験ベクトルvvに対する恒等式によって定めるという弱形式の構造を示す。後続単元では座標和を微分を含む形式へ置き換えるが、本記事はその関数空間や弱微分を導入しない。

4 演習

問題 4.1 (Riesz 対応の共役線形性). 複素 Hilbert 空間でR(y)(x)=⟨x,y⟩R(y)(x)=\langle x,y\rangleと定める。R(iy)=−iR(y)R(iy)=-iR(y)を直接確かめ、系 1.2の共役線形性が必要である理由を説明せよ。

問題 4.2 (複素の場合の線形性の型).定理 2.2の複素数体の場合に、a(u,v)=f(v)a(u,v)=f(v)と書くと両辺のvvに関する線形性の型が一致しないことを示せ。

問題 4.3 (値域の閉性と稠密性に用いた仮定). Lax–Milgram の証明で、Ran⁡A\operatorname{Ran}Aの閉性と稠密性にそれぞれどの仮定を用いたかを示せ。

問題 4.4 (対角形式の解の計算).例 3.1でcn=1+1/nc_n=1+1/n、gn=1/ng_n=1/nとし、解の各成分と∥u∥2≤∥g∥2\|u\|_2\le\|g\|_2を確認せよ。

参考文献

  1. Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Springer, New York, 2011.Riesz の表現定理と Lax–Milgram の定理の作用素による証明を参考にした。
  2. Walter Rudin, Functional Analysis, 2nd ed., International Series in Pure and Applied Mathematics, McGraw Hill, 1991.複素 Hilbert 空間における Riesz 対応の共役と有界半双線形形式を参考にした。

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