§E12.5双対空間と弱位相・弱星位相

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本単元では既に、Hahn–Banach の定理によって、ノルム空間XXの相異なる二点が連続線形汎関数の値によって区別されることを確かめた。連続双対X∗X^*はXXの元を外から観測する装置として十分な大きさをもち、XXの各元は汎関数への評価によってX∗∗X^{**}の元とみなされる。しかしXXのノルム位相はこの観測と無関係に定まっており、すべての汎関数の値が収束するという条件を、そのまま位相の言葉で扱うことができない。観測の側から位相を定め直すと、与えられた写像族を連続にする最も粗い位相、すなわち始位相が得られる。この構成を、XXに対しては汎関数の族で、X∗X^*に対してはXXの元による評価写像の族で行ったものが弱位相と弱星位相であり、二つは観測に用いる双対対が異なるので同じものではない。数列空間ℓ1\ell^1とその双対を通して、この違いが現れる場面を確かめる。

1 連続双対と標準埋め込み

定義 1.1.XXをK=R\mathbb K=\mathbb RまたはC\mathbb C上のノルム空間とする。有界線形汎関数x∗:X→Kx^*:X\to\mathbb Kの全体を

X∗=B(X,K)X^*=B(X,\mathbb K)

と書き、XXの連続双対 (continuous dual) という。X∗X^*は作用素ノルム

∥x∗∥=sup⁡∥x∥≤1∣x∗(x)∣\|x^*\|=\sup_{\|x\|\leq 1}|x^*(x)|

に関して Banach 空間である。標準写像 (canonical map)JX:X→X∗∗J_X:X\to X^{**}を

(JXx)(x∗)=x∗(x)(x∈X, x∗∈X∗)(J_Xx)(x^*)=x^*(x)\qquad (x\in X,\ x^*\in X^*)

で定める。JXJ_Xが全射であるとき、XXは回帰的 (reflexive) であるという。

X∗X^*の完備性は有界作用素空間の完備性§E12.2 定理 2.1のY=KY=\mathbb Kの場合である。標準写像JXJ_Xが線形等長写像であり、とくに単射であることは§E12.3 定理 3.3による。したがって、XXをX∗∗X^{**}の部分空間とみなすことができる。

2 弱位相と弱星位相

定義 2.1.XX上の弱位相 (weak topology)σ(X,X∗)\sigma(X,X^*)は、すべてのx∗∈X∗x^*\in X^*を連続にする最も粗い位相、すなわち写像族

x∗:X⟶Kx^*:X\longrightarrow\mathbb K

に関する始位相である。点x∈Xx\in Xの基本近傍は

U(x;x1∗,…,xm∗;ε)={y∈X:∣xj∗(y−x)∣<ε (1≤j≤m)}U(x;x_1^*,\ldots,x_m^*;\varepsilon) =\{y\in X:|x_j^*(y-x)|<\varepsilon\ (1\leq j\leq m)\}

の形で与えられる。

X∗X^*上の弱星位相 (weak-* topology)σ(X∗,X)\sigma(X^*,X)は、各x∈Xx\in Xに対する評価写像ex(x∗)=x∗(x)e_x(x^*)=x^*(x)を連続にする最も粗い位相である。点x∗∈X∗x^*\in X^*の基本近傍は

V(x∗;x1,…,xm;ε)={y∗∈X∗:∣(y∗−x∗)(xj)∣<ε (1≤j≤m)}V(x^*;x_1,\ldots,x_m;\varepsilon) =\{y^*\in X^*:|(y^*-x^*)(x_j)|<\varepsilon\ (1\leq j\leq m)\}

の形で与えられる。

有向集合AAで添字付けられたネット(xα)α∈A(x_\alpha)_{\alpha\in A}がxxに弱収束 (weak convergence) することをxα⇀xx_\alpha\rightharpoonup xと書く。ネット(xα∗)(x_\alpha^*)がx∗x^*に弱星収束 (weak-* convergence) することをxα∗⇀∗x∗x_\alpha^*\overset{*}{\rightharpoonup}x^*と書く。

命題 2.2. ネット(xα)(x_\alpha)と(xα∗)(x_\alpha^*)について、次の同値が成り立つ。

xα⇀x  ⟺  x∗(xα)→x∗(x)(∀x∗∈X∗),xα∗⇀∗x∗  ⟺  xα∗(x)→x∗(x)(∀x∈X).\begin{aligned} x_\alpha\rightharpoonup x &\iff x^*(x_\alpha)\to x^*(x)\quad(\forall x^*\in X^*),\\ x_\alpha^*\overset{*}{\rightharpoonup}x^* &\iff x_\alpha^*(x)\to x^*(x)\quad(\forall x\in X). \end{aligned}

証明. 弱収束すれば、弱位相の定義により各x∗:X→Kx^*:X\to\mathbb Kは連続なので、各像ネットも収束する。逆に、すべてのx∗x^*について値が収束すると仮定する。xxの基本近傍U(x;x1∗,…,xm∗;ε)U(x;x_1^*,\ldots,x_m^*;\varepsilon)を一つ固定する。各jjについて、あるαj\alpha_j以後は∣xj∗(xα−x)∣<ε|x_j^*(x_\alpha-x)|<\varepsilonである。有向性により、有限個のαj\alpha_jの上界α0\alpha_0を選ぶことができる。α≥α0\alpha\geq\alpha_0ならxα∈Ux_\alpha\in Uであるから、xα⇀xx_\alpha\rightharpoonup xである。

弱星収束についても、基本近傍V(x∗;x1,…,xm;ε)V(x^*;x_1,\ldots,x_m;\varepsilon)と有限個の添字の上界を用いる同じ証明が成り立つ。▨

ノルム位相との関係を型に注意して整理する。xα→xx_\alpha\to xがノルム収束なら、

∣x∗(xα−x)∣≤∥x∗∥ ∥xα−x∥→0|x^*(x_\alpha-x)|\leq\|x^*\|\,\|x_\alpha-x\|\to0

なのでxα⇀xx_\alpha\rightharpoonup xである。同様に、X∗X^*におけるノルム収束は弱星収束を導く。さらに、X∗X^*における弱収束とはσ(X∗,X∗∗)\sigma(X^*,X^{**})による収束であり、これは弱星収束を導く。実際、弱星位相の評価写像はJXx∈X∗∗J_Xx\in X^{**}による評価である。XXが回帰的ならJX(X)=X∗∗J_X(X)=X^{**}なので、X∗X^*の弱位相と弱星位相は一致する。回帰性を仮定しなければ、逆向きは一般には成り立たない。

§E12.7 定理 1.3 (Banach–Alaoglu の定理)は、連続双対X∗X^*の閉単位球が弱星位相σ(X∗,X)\sigma(X^*,X)についてコンパクトであることを述べる定理であり、後続の記事で証明する。コンパクト性は一般には点列だけで判定することができないため、この定理を「任意の有界列が弱星収束部分列をもつ」という主張に置き換えてはならない。

3 数列空間の双対

定理 3.1.a=(an)∈ℓ∞a=(a_n)\in\ell^\inftyに対して

Φa(x)=∑n=1∞xnan(x=(xn)∈ℓ1)\Phi_a(x)=\sum_{n=1}^\infty x_na_n\qquad(x=(x_n)\in\ell^1)

と定める。このとき、a↦Φaa\mapsto\Phi_aはℓ∞\ell^\inftyから(ℓ1)∗(\ell^1)^*への線形等長全単射である。

証明. 絶対収束と評価

∣Φa(x)∣≤∑n=1∞∣xn∣∣an∣≤∥a∥∞∥x∥1|\Phi_a(x)|\leq\sum_{n=1}^\infty|x_n||a_n| \leq\|a\|_\infty\|x\|_1

により、Φa∈(ℓ1)∗\Phi_a\in(\ell^1)^*かつ∥Φa∥≤∥a∥∞\|\Phi_a\|\leq\|a\|_\inftyである。標準基底をene_nと書けば、∥en∥1=1\|e_n\|_1=1かつΦa(en)=an\Phi_a(e_n)=a_nなので、∥Φa∥≥sup⁡n∣an∣\|\Phi_a\|\geq\sup_n|a_n|である。したがって∥Φa∥=∥a∥∞\|\Phi_a\|=\|a\|_\inftyであり、写像は等長単射である。

F∈(ℓ1)∗F\in(\ell^1)^*を任意に取り、an=F(en)a_n=F(e_n)と置く。∣an∣≤∥F∥|a_n|\leq\|F\|なのでa∈ℓ∞a\in\ell^\inftyである。任意のx∈ℓ1x\in\ell^1に対してx(N)=∑n=1Nxnenx^{(N)}=\sum_{n=1}^Nx_ne_nと置けば、

∥x−x(N)∥1=∑n>N∣xn∣⟶0.\|x-x^{(N)}\|_1=\sum_{n>N}|x_n|\longrightarrow0.

FFの連続性により

F(x)=lim⁡N→∞∑n=1NxnF(en)=∑n=1∞xnan=Φa(x).F(x)=\lim_{N\to\infty}\sum_{n=1}^Nx_nF(e_n) =\sum_{n=1}^\infty x_na_n=\Phi_a(x).

したがって、写像は全射である。▨

例 3.2 (座標収束、弱収束、および回帰性).ℓ1\ell^1の標準基底(en)(e_n)は各座標では00に収束するが、ℓ1\ell^1では00に弱収束しない。実際、定理 3.1により定数列1=(1,1,…)∈ℓ∞\mathbf{1}=(1,1,\ldots)\in\ell^\inftyは連続線形汎関数を定め、Φ1(en)=1\Phi_{\mathbf{1}}(e_n)=1である。したがって、座標汎関数だけを検査しても弱収束を判定することはできない。

有限次元ノルム空間XXは回帰的である。実際、§E12.3 定理 3.3によりJXJ_Xは単射であり、dim⁡X=dim⁡X∗∗\dim X=\dim X^{**}であるから全射でもある。一方、ℓ1\ell^1は回帰的でない。

命題 3.3. 標準埋め込みJℓ1:ℓ1→(ℓ1)∗∗J_{\ell^1}:\ell^1\to(\ell^1)^{**}は全射でない。

証明.c0⊂ℓ∞c_0\subset\ell^\inftyを00に収束する数列の空間とし、M=c0⊕span⁡{1}M=c_0\oplus\operatorname{span}\{\mathbf{1}\}と置く。y∈c0y\in c_0とa∈Ka\in\mathbb Kに対してF0(y+a1)=aF_0(y+a\mathbf{1})=aと定める。dist⁡(1,c0)=1\operatorname{dist}(\mathbf{1},c_0)=1であるから

∣F0(y+a1)∣=∣a∣≤∥y+a1∥∞.|F_0(y+a\mathbf{1})|=|a|\leq\|y+a\mathbf{1}\|_\infty.

したがって∥F0∥=1\|F_0\|=1である。K=R\mathbb K=\mathbb Rの場合は§E12.3 系 2.1により、K=C\mathbb K=\mathbb Cの場合は§E12.3 定理 2.2により、F0F_0はノルムを保つ延長F∈(ℓ∞)∗F\in(\ell^\infty)^*をもつ。このFFはc0c_0上で00であり、F(1)=1F(\mathbf{1})=1を満たす。

定理 3.1によって(ℓ1)∗∗=(ℓ∞)∗(\ell^1)^{**}=(\ell^\infty)^*と同定する。F=Jℓ1aF=J_{\ell^1}aを満たすa=(an)∈ℓ1a=(a_n)\in\ell^1が存在したと仮定する。各en∈c0e_n\in c_0に対して

an=(Jℓ1a)(en)=F(en)=0a_n=(J_{\ell^1}a)(e_n)=F(e_n)=0

なのでa=0a=0である。しかし、(Jℓ1a)(1)=0(J_{\ell^1}a)(\mathbf{1})=0はF(1)=1F(\mathbf{1})=1に矛盾する。したがってFFは標準埋め込みの像に属さない。▨

4 演習

問題 4.1 (ノルム収束から弱収束へ). ノルム空間XXのネット(xα)(x_\alpha)がx∈Xx\in Xへノルム収束するとき、xα⇀xx_\alpha\rightharpoonup xであることを、評価式から示せ。

解答.

任意のx∗∈X∗x^*\in X^*に対して

∣x∗(xα)−x∗(x)∣=∣x∗(xα−x)∣≤∥x∗∥ ∥xα−x∥|x^*(x_\alpha)-x^*(x)|=|x^*(x_\alpha-x)|\leq\|x^*\|\,\|x_\alpha-x\|

であり、右辺は∥xα−x∥→0\|x_\alpha-x\|\to0により00へ収束する。したがって、すべてのx∗∈X∗x^*\in X^*についてx∗(xα)→x∗(x)x^*(x_\alpha)\to x^*(x)が成り立ち、命題 2.2によりxα⇀xx_\alpha\rightharpoonup xである。▨

問題 4.2 (X∗X^*上の二つの収束の試験対象).X∗X^*における弱収束と弱星収束の定義に現れる試験対象を、それぞれ明記せよ。

解答.

X∗X^*上の弱位相はX∗X^*を一つのノルム空間とみなしたときのσ(X∗,X∗∗)\sigma(X^*,X^{**})であるから、弱収束の試験対象はX∗∗X^{**}のすべての元である。一方、弱星位相σ(X∗,X)\sigma(X^*,X)の試験対象は評価写像exe_x(x∈Xx\in X)、すなわちJX(X)⊂X∗∗J_X(X)\subset X^{**}に属する元だけである。JXJ_Xが全射でない場合には後者は真に小さく、弱星収束は弱収束より弱い条件になる。▨

問題 4.3 (座標収束と弱収束の違い).ℓ1\ell^1の標準基底(en)(e_n)が座標ごとには00に収束する一方で00に弱収束しない理由を示せ。

解答.

第kk座標をとる汎関数について、n>kn>kならばene_nの第kk座標は00であるから、座標ごとの収束は成り立つ。しかし定理 3.1により定数列1=(1,1,…)∈ℓ∞\mathbf{1}=(1,1,\ldots)\in\ell^\inftyはΦ1∈(ℓ1)∗\Phi_{\mathbf{1}}\in(\ell^1)^*を定め、Φ1(en)=1\Phi_{\mathbf{1}}(e_n)=1は00へ収束しない。命題 2.2の判定はすべてのx∗∈(ℓ1)∗x^*\in(\ell^1)^*に対する収束を要求するので、(en)(e_n)は00に弱収束しない。▨

参考文献

  1. John B. Conway, A Course in Functional Analysis, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1990.
  2. Walter Rudin, Functional Analysis, 2nd ed., International Series in Pure and Applied Mathematics, McGraw Hill, 1991.
  3. Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Springer, New York, 2011.

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