§E12.12コンパクト自己共役作用素のスペクトル定理

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前の記事では、複素 Banach 空間上のコンパクト作用素について、零でないスペクトル点が固有値であること、各固有空間が有限次元であること、および固有値の集積点が零に限られることを示した。しかしこの構造は、固有空間どうしがどのような位置関係にあるかを述べていないので、空間全体を固有空間から組み立て直すことができない。位置関係を与えるのは、内積と両立する対称性、すなわち⟨Tx,y⟩=⟨x,Ty⟩\langle Tx,y\rangle=\langle x,Ty\rangleという自己共役性である。自己共役性のもとでは固有値は実数になり、相異なる固有値の固有空間は互いに直交するので、直交補空間へ議論を移す余地が生まれる。この直交性とコンパクト性を合わせると、Hilbert 空間は核と非零固有空間の閉じた直交和に分かれ、対称核をもつ積分作用素の固有関数展開と同じ形が得られる。本記事では、コンパクト自己共役作用素に対するスペクトル定理を解説する。

1 自己共役性

定義 1.1.HHを実 Hilbert 空間または複素 Hilbert 空間とする。有界線形作用素T:H→HT:H\to Hが

⟨Tx,y⟩=⟨x,Ty⟩(x,y∈H)\langle Tx,y\rangle=\langle x,Ty\rangle\qquad(x,y\in H)

を満たすとき、TTを自己共役作用素 (self-adjoint operator) という。

命題 1.2.TTを自己共役作用素とする。TTの固有値は実数である。また、相異なる固有値に対応する固有空間は互いに直交する。

証明.Tx=λxTx=\lambda x、x≠0x\ne0とする。複素 Hilbert 空間では

λ∥x∥2=⟨Tx,x⟩=⟨x,Tx⟩=λ‾∥x∥2\lambda\|x\|^2=\langle Tx,x\rangle =\langle x,Tx\rangle=\overline\lambda\|x\|^2

であるからλ∈R\lambda\in\mathbb Rである。実 Hilbert 空間では固有値は初めから実数である。

Tx=λxTx=\lambda x、Ty=μyTy=\mu y、λ≠μ\lambda\ne\muとする。上で示した実性と自己共役性により

λ⟨x,y⟩=⟨Tx,y⟩=⟨x,Ty⟩=μ⟨x,y⟩.\lambda\langle x,y\rangle =\langle Tx,y\rangle =\langle x,Ty\rangle =\mu\langle x,y\rangle.

したがって⟨x,y⟩=0\langle x,y\rangle=0である。▨

2 Rayleigh 商と非零固有値

補題 2.1.TTを Hilbert 空間HH上の有界自己共役作用素とする。このとき

∥T∥=sup⁡∥x∥≤1∣⟨Tx,x⟩∣\|T\|=\sup_{\|x\|\le1}|\langle Tx,x\rangle|

が成り立つ。

さらにH≠{0}H\ne\{0\}ならば

∥T∥=sup⁡∥x∥=1∣⟨Tx,x⟩∣\|T\|=\sup_{\|x\|=1}|\langle Tx,x\rangle|

も成り立つ。

証明.M=sup⁡∥x∥≤1∣⟨Tx,x⟩∣M=\sup_{\|x\|\le1}|\langle Tx,x\rangle|とおく。閉単位球は00を含むので、MMは非負の実数として存在する。 Cauchy–Schwarz の不等式からM≤∥T∥M\le\|T\|である。z≠0z\ne0ならばz/∥z∥z/\|z\|は閉単位球に属するから∣⟨Tz,z⟩∣≤M∥z∥2|\langle Tz,z\rangle|\le M\|z\|^2であり、z=0z=0の場合にも同じ評価が成り立つ。

∥x∥,∥y∥≤1\|x\|,\|y\|\le1とする。自己共役性から

⟨T(x+y),x+y⟩−⟨T(x−y),x−y⟩=4Re⁡⟨Tx,y⟩.\langle T(x+y),x+y\rangle-\langle T(x-y),x-y\rangle =4\operatorname{Re}\langle Tx,y\rangle.

したがって平行四辺形公式により

4∣Re⁡⟨Tx,y⟩∣≤M(∥x+y∥2+∥x−y∥2)=2M(∥x∥2+∥y∥2)≤4M.4|\operatorname{Re}\langle Tx,y\rangle| \le M\bigl(\|x+y\|^2+\|x-y\|^2\bigr) =2M(\|x\|^2+\|y\|^2)\le4M.

Tx≠0Tx\ne0の場合にy=Tx/∥Tx∥y=Tx/\|Tx\|とおくとRe⁡⟨Tx,y⟩=∥Tx∥\operatorname{Re}\langle Tx,y\rangle=\|Tx\|であるから∥Tx∥≤M\|Tx\|\le Mとなる。Tx=0Tx=0の場合にも同じ評価が成り立つ。閉単位球上でxxに関する上限をとると∥T∥≤M\|T\|\le Mを得る。

H≠{0}H\ne\{0\}とし、N=sup⁡∥x∥=1∣⟨Tx,x⟩∣N=\sup_{\|x\|=1}|\langle Tx,x\rangle|とおく。単位球面は空でなく、閉単位球に含まれるのでN≤MN\le Mである。0<∥x∥≤10<\|x\|\le1ならば

∣⟨Tx,x⟩∣=∥x∥2∣⟨Tx∥x∥,x∥x∥⟩∣≤N,|\langle Tx,x\rangle| =\|x\|^2\left|\left\langle T\frac{x}{\|x\|},\frac{x}{\|x\|}\right\rangle\right| \le N,

であり、x=0x=0の場合にも∣⟨Tx,x⟩∣=0≤N|\langle Tx,x\rangle|=0\le Nである。ゆえにM≤NM\le Nであり、球面上の表示も従う。▨

補題 2.2.TTを Hilbert 空間HH上の非零コンパクト自己共役作用素とする。このとき、λ∈{∥T∥,−∥T∥}\lambda\in\{\|T\|,-\|T\|\}の少なくとも一方がTTの固有値である。

証明.M=∥T∥>0M=\|T\|>0とする。このときH≠{0}H\ne\{0\}であるから、補題 2.1の単位球面上の表示により、単位ベクトル列(xn)(x_n)で∣⟨Txn,xn⟩∣→M|\langle Tx_n,x_n\rangle|\to Mとなるものをとる。対角値は実数である。部分列をとることにより、あるε∈{1,−1}\varepsilon\in\{1,-1\}に対してε⟨Txn,xn⟩→M\varepsilon\langle Tx_n,x_n\rangle\to Mとしてよい。

∥Txn−εMxn∥2=∥Txn∥2−2εM⟨Txn,xn⟩+M2≤2M(M−ε⟨Txn,xn⟩)⟶0.\begin{aligned} \|Tx_n-\varepsilon Mx_n\|^2 &=\|Tx_n\|^2-2\varepsilon M\langle Tx_n,x_n\rangle+M^2\\ &\le2M\bigl(M-\varepsilon\langle Tx_n,x_n\rangle\bigr)\longrightarrow0. \end{aligned}

TTはコンパクトなので、さらに部分列をとってTxn→yTx_n\to yとしてよい。上の収束からxn→x=εy/Mx_n\to x=\varepsilon y/Mとなり、∥x∥=1\|x\|=1である。TTの連続性により

Tx=lim⁡nTxn=εMx.Tx=\lim_nTx_n=\varepsilon Mx.

したがってεM\varepsilon Mは非零固有値である。正の側と負の側のいずれを選ぶかは、Rayleigh 商の符号によって決まる。▨

3 スペクトル分解

定理 3.1 (コンパクト自己共役作用素のスペクトル定理).TTを Hilbert 空間HH上のコンパクト自己共役作用素とし、Λ\LambdaをTTの非零固有値全体とする。このとき次が成り立つ。

  1. Λ⊂R\Lambda\subset\mathbb Rは高々可算であり、各固有空間Eλ=ker⁡(λI−T)E_\lambda=\ker(\lambda I-T)は有限次元である。Λ\Lambdaが無限集合なら、その集積点は00に限られる。
  2. 相異なるλ,μ∈Λ\lambda,\mu\in\Lambdaに対してEλ⊥EμE_\lambda\perp E_\muであり、 H=ker⁡T ⊕ ⨁λ∈ΛEλ‾H=\ker T\ \mathbin{\oplus}\ \overline{\bigoplus_{\lambda\in\Lambda}E_\lambda} という閉じた直交和分解が成り立つ。
  3. 各EλE_\lambdaの正規直交基底を(eλ,j)1≤j≤dλ(e_{\lambda,j})_{1\le j\le d_\lambda}とする。任意のx∈Hx\in Hに対して Tx=∑λ∈Λ∑j=1dλλ⟨x,eλ,j⟩eλ,jTx=\sum_{\lambda\in\Lambda}\sum_{j=1}^{d_\lambda} \lambda\langle x,e_{\lambda,j}\rangle e_{\lambda,j} がノルム収束の意味で成り立つ。

複素 Hilbert 空間ではΛ=σ(T)∖{0}\Lambda=\sigma(T)\setminus\{0\}である。実 Hilbert 空間では、スペクトルを複素化した作用素のスペクトルとして定めると同じ等式が成り立つ。

証明.(1)を示す。命題 1.2により固有値は実数で、相異なる固有空間は直交する。複素 Hilbert 空間では§E12.11 定理 3.5により、非零スペクトル点は固有値であり、各一般固有空間は有限次元、非零固有値は高々可算で零以外に集積しない。特に各EλE_\lambdaは有限次元である。

実 Hilbert 空間では§E12.11 定義 4.1によってTCT_\mathbb Cを複素化する。HC=H⊕HH_\mathbb C=H\oplus Hには

⟨(x,y),(u,v)⟩C=⟨x,u⟩+⟨y,v⟩+i(⟨y,u⟩−⟨x,v⟩)\langle(x,y),(u,v)\rangle_\mathbb C =\langle x,u\rangle+\langle y,v\rangle +i\bigl(\langle y,u\rangle-\langle x,v\rangle\bigr)

という複素内積を入れる。この内積のノルムは直積ノルムと同値なので、§E12.11 命題 4.2によりTCT_\mathbb Cはコンパクトである。定義を展開するとTCT_\mathbb Cはこの内積について自己共役である。したがってTCT_\mathbb Cの固有値は実数である。TC(x,y)=λ(x,y)T_\mathbb C(x,y)=\lambda(x,y)ならTx=λxTx=\lambda x、Ty=λyTy=\lambda yであり、(x,y)≠0(x,y)\ne0なのでx,yx,yの少なくとも一方が実固有ベクトルである。したがって複素化に新しい非零固有値は生じず、§E12.11 定理 3.5から実の場合にも(1)が従う。

(2)を示す。M=⨁λ∈ΛEλ‾M=\overline{\bigoplus_{\lambda\in\Lambda}E_\lambda}とおく。各EλE_\lambdaはTTで不変であり、TTの連続性からMMもTTで不変である。またx∈M⊥x\in M^\perpとy∈Eλy\in E_\lambdaに対して

⟨Tx,y⟩=⟨x,Ty⟩=λ⟨x,y⟩=0\langle Tx,y\rangle=\langle x,Ty\rangle =\lambda\langle x,y\rangle=0

であるから、M⊥M^\perpもTTで不変である。制限T∣M⊥T|_{M^\perp}はコンパクト自己共役作用素である。この制限が零でなければ、補題 2.2によってM⊥M^\perpに非零固有ベクトルが存在する。このベクトルは定義によりMMにも属するため矛盾する。よってT∣M⊥=0T|_{M^\perp}=0であり、M⊥⊆ker⁡TM^\perp\subseteq\ker Tである。

逆にx∈ker⁡Tx\in\ker Tとy∈Eλy\in E_\lambdaに対して

0=⟨Tx,y⟩=⟨x,Ty⟩=λ⟨x,y⟩0=\langle Tx,y\rangle=\langle x,Ty\rangle =\lambda\langle x,y\rangle

でありλ≠0\lambda\ne0なので、x⊥Eλx\perp E_\lambdaである。したがってker⁡T⊆M⊥\ker T\subseteq M^\perpであり、ker⁡T=M⊥\ker T=M^\perpを得る。§E12.8 定理 2.2によりH=M⊕M⊥H=M\oplus M^\perpなので(2)が従う。

(3)を示す。各EλE_\lambdaは有限次元であり、Λ\Lambdaは高々可算なので、(eλ,j)(e_{\lambda,j})は有限または可算な正規直交系である。これはMMで完全である。§E12.8 定理 3.3により、PMxP_Mxは

PMx=∑λ,j⟨x,eλ,j⟩eλ,jP_Mx=\sum_{\lambda,j}\langle x,e_{\lambda,j}\rangle e_{\lambda,j}

とノルム収束する。有限部分和へTTを適用し、TTの連続性とTeλ,j=λeλ,jTe_{\lambda,j}=\lambda e_{\lambda,j}を用いると

TPMx=∑λ,jλ⟨x,eλ,j⟩eλ,jTP_Mx=\sum_{\lambda,j}\lambda\langle x,e_{\lambda,j}\rangle e_{\lambda,j}

を得る。x−PMx∈ker⁡Tx-P_Mx\in\ker TなのでTx=TPMxTx=TP_Mxである。これが(3)である。▨

4 具体例

例 4.1 (階数1の自己共役積分作用素).H=L2([0,1])H=L^2([0,1])とし、

(Tf)(x)=x∫01yf(y) dy(Tf)(x)=x\int_0^1yf(y)\,dy

とおく。核K(x,y)=xyK(x,y)=xyは二乗可積分で対称であるから、TTはコンパクト自己共役作用素である。e(x)=3xe(x)=\sqrt3xは単位ベクトルでありTe=e/3Te=e/3である。また

ker⁡T={f∈L2([0,1]):∫01yf(y) dy=0}={e}⊥.\ker T=\left\{f\in L^2([0,1]):\int_0^1yf(y)\,dy=0\right\} =\{e\}^\perp.

したがって定理 3.1の分解はL2([0,1])=ker⁡T⊕span⁡{e}L^2([0,1])=\ker T\oplus\operatorname{span}\{e\}となり、Tf=(1/3)⟨f,e⟩eTf=(1/3)\langle f,e\rangle eである。

例 4.2 (膜の振動との境界上の接続). 膜の振動に現れる Laplace 作用素は非有界作用素であり、本記事の定理を直接適用することはできない。後続単元で境界条件、定義域、および逆作用素の存在を整備し、その逆作用素がコンパクト自己共役であることを証明した場合に限り、逆作用素へ定理 3.1を適用して固有関数展開を得ることができる。

5 演習

問題 5.1 (実部だけによるノルムの評価).補題 2.1の証明で、複素数⟨Tx,y⟩\langle Tx,y\rangleの虚部を評価せずに∥Tx∥\|Tx\|を得ることができる理由を、y=Tx/∥Tx∥y=Tx/\|Tx\|の選択から説明せよ。

解答.

Tx≠0Tx\ne0とする。y=Tx/∥Tx∥y=Tx/\|Tx\|は単位ベクトルであり、内積が第1変数について線形であることから

⟨Tx,y⟩=⟨Tx,Tx⟩∥Tx∥=∥Tx∥∈[0,∞)\langle Tx,y\rangle =\frac{\langle Tx,Tx\rangle}{\|Tx\|} =\|Tx\|\in[0,\infty)

である。したがって、このyyに対する実部の評価は∥Tx∥\|Tx\|自身の評価であり、虚部を別に評価する必要はない。Tx=0Tx=0の場合には∥Tx∥=0\|Tx\|=0であるから、yyを選ばなくても所要の評価が成り立つ。▨

問題 5.2 (Rayleigh 商の符号の固定).補題 2.2で絶対値を外すために符号ε\varepsilonを固定する部分を補い、正と負の Rayleigh 商が混在する場合にも部分列を選ぶことができることを示せ。

解答.

an=⟨Txn,xn⟩a_n=\langle Tx_n,x_n\rangleとおく。自己共役性によりan∈Ra_n\in\Rであり、∣an∣→M>0|a_n|\to M>0である。十分大きいnnについて∣an∣>M/2|a_n|>M/2であるから、その範囲ではan≠0a_n\ne0である。したがって{n:an>0}\{n:a_n>0\}と{n:an<0}\{n:a_n<0\}の少なくとも一方は無限集合である。前者が無限ならば、その元からなる狭義単調増加列(nk)(n_k)をとってε=1\varepsilon=1とおく。後者が無限ならば、同様に(nk)(n_k)をとってε=−1\varepsilon=-1とおく。いずれの場合にも

εank=∣ank∣⟶M\varepsilon a_{n_k}=|a_{n_k}|\longrightarrow M

となる。正の項と負の項がともに無限個ある場合にも、いずれか一方の符号の部分列を選べばよい。▨

問題 5.3 (固有空間の閉線形包の直交補空間).MMを全ての非零固有空間の閉線形包としたとき、M⊥M^\perpがTTで不変であることを証明せよ。

解答.

x∈M⊥x\in M^\perpとし、y∈Eλy\in E_\lambdaとする。固有値λ\lambdaは実数であるから、自己共役性により

⟨Tx,y⟩=⟨x,Ty⟩=λ⟨x,y⟩=0\langle Tx,y\rangle =\langle x,Ty\rangle =\lambda\langle x,y\rangle=0

である。したがってTxTxは各EλE_\lambdaに直交し、その有限線形結合にも直交する。内積の連続性によりTxTxはそれらの閉線形包MMの全ての元に直交するので、Tx∈M⊥Tx\in M^\perpである。非零固有値が存在しない場合にはM={0}M=\{0\}であり、この場合にもM⊥=HM^\perp=HはTTで不変である。▨

問題 5.4 (階数1の積分作用素の作用素ノルム).例 4.1について、自己共役性を内積の定義から直接確認し、作用素ノルムが1/31/3であることを示せ。

解答.

af=∫01tf(t) dta_f=\int_0^1tf(t)\,dtとおく。Cauchy–Schwarz の不等式により

∣af∣≤(∫01t2 dt)1/2∥f∥2=∥f∥23|a_f|\le\left(\int_0^1t^2\,dt\right)^{1/2}\|f\|_2 =\frac{\|f\|_2}{\sqrt3}

であるから、afa_fはすべてのf∈L2([0,1])f\in L^2([0,1])に対して定まる。Tf(t)=tafTf(t)=ta_fであり、内積を第1変数について線形とすると

⟨Tf,g⟩=afag‾=⟨f,Tg⟩\langle Tf,g\rangle =a_f\overline{a_g} =\langle f,Tg\rangle

である。したがってTTは自己共役である。また、∥t∥2=1/3\|t\|_2=1/\sqrt3なので

∥Tf∥2=∣af∣∥t∥2≤13∥f∥2\|Tf\|_2=|a_f|\|t\|_2\le\frac13\|f\|_2

であり、∥T∥≤1/3\|T\|\le1/3である。一方、e(t)=3te(t)=\sqrt3tは単位ベクトルであり、Te=e/3Te=e/3なので∥T∥≥∥Te∥2=1/3\|T\|\ge\|Te\|_2=1/3である。ゆえに∥T∥=1/3\|T\|=1/3である。▨

問題 5.5 (符号が交代する対角作用素).ℓ2\ell^2上のTen=(−1)nen/nTe_n=(-1)^n e_n/nを考える。正の固有値と負の固有値を列挙し、定理の級数表示を任意のx∈ℓ2x\in\ell^2について書け。

解答.

dn=(−1)n/nd_n=(-1)^n/nとおく。(dn)(d_n)は実数列で∣dn∣≤1|d_n|\le1であるから、TTは有界自己共役作用素である。またdn→0d_n\to0なので、§E12.11 例 5.1の対角切断による議論からTTはコンパクトである。Tx=λxTx=\lambda xを満たすx≠0x\ne0に対し、xn≠0x_n\ne0となる添字nnをとると、成分ごとの等式からλ=dn\lambda=d_nである。(dn)(d_n)の各項は相異なるので、その固有空間はspan⁡{en}\operatorname{span}\{e_n\}である。したがって正の固有値と負の固有値は、それぞれ

12k,−12k−1(k≥1)\frac1{2k},\qquad -\frac1{2k-1}\qquad(k\ge1)

であり、ker⁡T={0}\ker T=\{0\}である。任意のx∈ℓ2x\in\ell^2に対して、定理の級数表示は

Tx=∑k=1∞12k⟨x,e2k⟩e2k−∑k=1∞12k−1⟨x,e2k−1⟩e2k−1Tx =\sum_{k=1}^\infty\frac1{2k}\langle x,e_{2k}\rangle e_{2k} -\sum_{k=1}^\infty\frac1{2k-1}\langle x,e_{2k-1}\rangle e_{2k-1}

となる。実際、x=∑n=1∞xnenx=\sum_{n=1}^\infty x_ne_nと書けば、NN項までの部分和の誤差は

∑n>N∣dnxn∣2≤∑n>N∣xn∣2⟶0\sum_{n>N}|d_nx_n|^2\le\sum_{n>N}|x_n|^2\longrightarrow0

を満たすので、この級数はノルム収束する。▨

6 一般の作用素と Banach 環

一般の有界自己共役作用素では、固有空間の直交和だけでは作用素を記述することができず、スペクトル測度が必要になる。コンパクト性と自己共役性をともに仮定しない一般の有界作用素では、有限次元と同じ形の分解は成り立たない。後続の「Banach 環と指標」は、作用素のスペクトルの基本性質を、積とノルムを備えた環へ一般化する。

参考文献

  1. John B. Conway, A Course in Functional Analysis, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1990.コンパクト自己共役作用素のスペクトル定理と直交分解の証明を参考にした。
  2. Erwin Kreyszig, Introductory Functional Analysis with Applications, Wiley, 1978.Rayleigh 商から非零固有値を構成する証明を参考にした。

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