§E6.10自由加群

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ベクトル空間では、基底を選ぶと各ベクトルを係数の有限和で表し、基底上の値から線形写像を一意に定めることができる。一般の環RR上の左RR-加群には、基底が存在するとは限らない。この座標表示と写像の一意性を保つ加群が自由加群であり、加群論において最も基本的なクラスの一つである。

たとえば、二つの元m,nm,nを左RR-加群MMから選ぶと、R2R^2からMMへの左RR-線形写像(a,b)↦am+bn(a,b)\mapsto am+bnが一意に定まる。一方、体上のベクトル空間と異なり、一般の環上では自由加群の基底の濃度が常に一定であるとは限らない。

本記事では、自由加群と基底の基本的な性質、および基底の濃度が環に課す条件を解説する。

1 定義

定義 1.1.RRを環、XXを集合とする。x∈Xx\in Xに対して、δx∈RX\delta_x\in R^Xを

δx(y):={1R,y=x,0,y≠x\delta_x(y):= \begin{cases} 1_R,&y=x,\\ 0,&y\ne x \end{cases}

によって定める。このときsupp⁡(δx)⊆{x}\supp(\delta_x)\subseteq\{x\}であるから、δx∈R⊕X\delta_x\in R^{\oplus X}である。族(δx)x∈X(\delta_x)_{x\in X}をR⊕XR^{\oplus X}の標準基底 (standard basis) といい、R⊕XR^{\oplus X}をXX上の標準自由左RR加群 (standard free leftRR-module) という。

記法RRを環とする。

  1. 本記事では、左RR-加群MMの下部集合をU(M)U(M)と書く。同じく、左RR-加群の射f ⁣:M→Nf\colon M\to Nの下部の写像をU(f) ⁣:U(M)→U(N)U(f)\colon U(M)\to U(N)と書く。左RR-加群の射の列M1→fM2→gM3M_1\xrightarrow{f} M_2\xrightarrow{g}M_3に対してU(g∘f)=U(g)∘U(f)U(g\circ f) = U(g)\circ U(f)が成り立つ。
  2. 本記事では、集合XXに対し、ηX ⁣:X→U(R⊕X)\eta_X\colon X\to U(R^{\oplus X})でx↦δxx\mapsto \delta_xにより得られる写像を表す。

注意 1.2.U(−)U(-)は「加群の構造を忘却する函手UUを適用する」ことを意味する記号であり、他の構造の忘却においてもよく用いられる記号である。また、写像η\etaは集合の圏と左RR-加群の圏の随伴の unit である。これらの用語の一般論は後の単元で紹介する。 下部集合と加群を区別する必要がない場合には、下部集合もMMで表す。

注意 1.3.RRを環、MMを左RR-加群、XXを集合とする。写像m ⁣:X→U(M)m\colon X\to U(M)のグラフが定めるXX上の族について、各x∈Xx\in Xでの値m(x)∈U(M)m(x)\in U(M)をmxm_xとも書く。記号mxm_xはxxを族の添え字として表す。

補題 1.4.RRを環、MMを左RR-加群、XXを集合とする。このとき、任意の写像f ⁣:X→U(M)f\colon X\to U(M)に対し、左RR-加群の射f~ ⁣:R⊕X→M\tilde{f}\colon R^{\oplus X}\to Mが存在し、f=U(f~)∘ηXf = U(\tilde{f})\circ \eta_Xが成り立つ。また、このような左RR-加群の射f~\tilde{f}は一意的である。

証明. 写像f ⁣:X→U(M)f\colon X\to U(M)は一意的に左RR-加群の射の族(f~x ⁣:R→M,r↦rf(x))x∈X(\tilde{f}_x\colon R\to M, r\mapsto rf(x))_{x\in X}を定める。この射の族に対して直和の普遍性§E6.2 命題 6.5を用いることで主張はただちに従う。▨

系 1.5.RRを環、p ⁣:M→Np\colon M\to Nを左RR-加群の全射、XXを集合とする。このとき、任意の左RR-加群の射f ⁣:R⊕X→Nf\colon R^{\oplus X}\to Nに対し、ある左RR-加群の射g ⁣:R⊕X→Mg\colon R^{\oplus X}\to Mが存在し、f=p∘gf = p\circ gが成り立つ。

証明.ppは全射なので、(選択公理により) 写像s ⁣:U(N)→U(M)s\colon U(N)\to U(M)が存在してU(p)∘s=id⁡U(N)U(p)\circ s = \id_{U(N)}が成り立つ。ここで写像s∘U(f)∘ηX ⁣:X→U(M)s\circ U(f)\circ \eta_X\colon X\to U(M)に補題 1.4で対応する左RR-加群の射をg ⁣:R⊕X→Mg\colon R^{\oplus X}\to Mとすれば、s∘U(f)∘ηX=U(g)∘ηXs\circ U(f)\circ \eta_X = U(g)\circ \eta_Xが成り立つ。よってU(f)∘ηX=U(p)∘s∘U(f)∘ηX=U(p)∘U(g)∘ηX=U(p∘g)∘ηXU(f)\circ \eta_X = U(p)\circ s\circ U(f)\circ \eta_X = U(p)\circ U(g)\circ \eta_X = U(p\circ g)\circ \eta_Xが成り立ち、補題 1.4の一意性よりf=p∘gf = p\circ gが成り立つ。▨

定義 1.6.RRを環、MMを左RR-加群、IIを集合、m ⁣:I→U(M)m\colon I\to U(M)を写像とする。

  1. 補題 1.4で対応する左RR-加群の射m~ ⁣:R⊕I→M\tilde{m}\colon R^{\oplus I}\to Mが全射であるとき、(mi)i∈I(m_i)_{i\in I}をMMの 生成系 (generating system) という。
  2. 補題 1.4で対応する左RR-加群の射m~ ⁣:R⊕I→M\tilde{m}\colon R^{\oplus I}\to Mが単射であるとき、(mi)i∈I(m_i)_{i\in I}は 一次独立 (linearly independent) であるという。
  3. 補題 1.4で対応する左RR-加群の射m~ ⁣:R⊕I→M\tilde{m}\colon R^{\oplus I}\to Mが同型であるとき、(mi)i∈I(m_i)_{i\in I}をMMの 基底 (basis) という。
  4. MMが基底を持つとき、自由左RR-加群 (free leftRR-module) という。

命題 1.7.RRを環、XXを集合とする。標準基底(δx)x∈X(\delta_x)_{x\in X}はR⊕XR^{\oplus X}の基底であり、R⊕XR^{\oplus X}は自由左RR加群である。

証明. 標準基底に補題 1.4で対応する左RR線形写像R⊕X→R⊕XR^{\oplus X}\to R^{\oplus X}は、各δx\delta_xをδx\delta_xへ送る。恒等写像がこの条件を満たすため、普遍性の一意性によって、この写像は恒等写像である。したがって同型であり、標準基底は基底である。▨

直和の構成から、m ⁣:I→U(M)m\colon I\to U(M)が生成系であれば、任意の元m′∈Mm'\in Mに対して、あるn∈N≥0n\in\Nと添え字i1,…,in∈Ii_1,\ldots,i_n\in Iおよび係数r1,…,rn∈Rr_1,\ldots,r_n\in Rが存在して∑k=1nrkmik=m′\sum_{k=1}^n r_km_{i_k}=m'が成り立つ。n=0n=0のときは空和を表し、添え字の重複も許す。

例 1.8.

  1. X=∅X=\varnothingの場合、R⊕XR^{\oplus X}は零加群である。
  2. RRが零環の場合にもこの定義は有効である。この場合はどのような集合XXをとってもRX=R⊕X≅R=0R^X = R^{\oplus X} \cong R = 0である。特に零環上の一意的な加群は自由加群である。
  3. kkを (可換な) 体とすると、任意のkk-線形空間は基底を持つので、自由加群である。

例 1.9 (二つの生成元から定まる線形写像).RRを環、X={u,v}X=\{u,v\}とし、MMを左RR-加群とする。m,n∈Mm,n\in Mを任意に選び、g(u)=mg(u)=m、g(v)=ng(v)=nと定める。普遍性が与える写像は

g‾ ⁣:R⊕X⟶M,aδu+bδv⟼am+bn\overline g\colon R^{\oplus X}\longrightarrow M, \qquad a\delta_u+b\delta_v\longmapsto am+bn

である。RRが非可換であっても、係数を基底元とその像の左から掛ける順序は変わらない。

例 1.10 (行列表示).RRを環、n,mn, mを自然数とし、f ⁣:Rn→Rmf\colon R^n\to R^mを左RR-加群の射とする。このときRn=R⊕{1,⋯ ,n}R^n = R^{\oplus\{1,\cdots, n\}}であり、1≤i≤n1 \leq i \leq nに対し、δi∈Rn\delta_i\in R^nはii番目の座標だけ11で他の座標は00であるような元となる。特に(δi)i=1n(\delta_i)_{i=1}^nはRnR^nの標準基底である。各1≤i≤n1 \leq i \leq nに対し、f(δi)=(ri1,⋯ ,rim)∈Rmf(\delta_i) = (r^1_i,\cdots,r^m_i)\in R^mとなるrij∈Rr^j_i\in R, (j=1,⋯ ,mj=1,\cdots,m) が一意的に存在する。RnR^nとRmR^mの元を行ベクトルで表し、A:=(rij)∈Mat⁡n×m(R)A:=(r_i^j)\in\operatorname{Mat}_{n\times m}(R)と置くと、

f(a1,…,an)=(a1,…,an)A=(∑i=1nairij)j=1mf(a_1,\ldots,a_n) =(a_1,\ldots,a_n)A =\left(\sum_{i=1}^n a_i r_i^j\right)_{j=1}^m

となる。非可換環の場合にも、係数aia_iは行列成分rijr_i^jの左にあり、積の順序を変更しない。右加群の準同型を行列で表す場合には、係数を列ベクトルで表して行列を左から掛ける。

補題 1.11.RRを環、JJを集合、(Fj)j∈J(F_j)_{j\in J}を自由左RR-加群の族とする。このとき、直和⨁j∈JFj\bigoplus_{j\in J}F_jは自由左RR-加群である。

証明. 演習とする(問題 4.1)。▨

定義 1.12.RRを環、MMを左RR-加群、IIを集合、m ⁣:I→U(M)m\colon I\to U(M)を写像とする。

  1. 補題 1.4で対応する左RR-加群の射m~ ⁣:R⊕I→M\tilde{m}\colon R^{\oplus I}\to Mの像をspan⁡(m)⊂M\operatorname{span}(m)\subset Mあるいは⟨m⟩⊂M\left\langle m \right\rangle\subset Mあるいは⟨mi∣i∈I⟩⊂M\left\langle m_i \mid i\in I \right\rangle\subset Mと書き、これを mmで生成される部分左RR-加群 (left sub-RR-module generated bymm) と言う。同様に、部分集合S⊂U(M)S\subset U(M)に対して、その包含写像に補題 1.4で対応する左RR-加群の射R⊕S→MR^{\oplus S}\to Mの像をspan⁡(S)⊂M\operatorname{span}(S)\subset Mあるいは⟨S⟩⊂M\left\langle S\right\rangle\subset Mと書く。I={i1,⋯ ,in}I = \{i_1,\cdots, i_n\}の場合、列挙した形であるspan⁡(mi1,⋯ ,min)⊂M\operatorname{span}(m_{i_1},\cdots, m_{i_n})\subset Mあるいは⟨mi1,⋯ ,min⟩⊂M\left\langle m_{i_1},\cdots, m_{i_n} \right\rangle\subset Mでspan⁡(m)\operatorname{span}(m)と同じ部分左RR-加群を表す。
  2. mmがMMの 極小生成系 (minimal generating set) であるとは、mmがMMの生成系であり、さらにどんなIIの真部分集合I′⊊II'\subsetneq Iに対しても制限m∣I′ ⁣:I′→U(M)m|_{I'}\colon I'\to U(M)がMMの生成系とはならないことをいう。

補題 1.13.RRを零でない環、FFを自由左RR-加群、e ⁣:I→U(F)e\colon I\to U(F)を基底とする。このときeeはFFの極小生成系である。

証明. 演習とする(問題 4.2)。▨

補題 1.14.RRを環、MMを左RR-加群、m ⁣:I→U(M)m\colon I\to U(M)をMMの極小生成系とする。もしIIの濃度#(I)\#(I)が無限であれば、MMはIIよりも濃度の小さい生成系を持たない。

証明.#(J)<#(I)\#(J)<\#(I)となる集合JJによる生成系m′ ⁣:J→U(M)m'\colon J\to U(M)が存在すると仮定する。このとき、任意のj∈Jj\in Jに対し、ある有限部分集合Ij⊂II_j\subset Iが存在してmj′∈⟨mi∣i∈Ij⟩m'_j\in \left\langle m_i \mid i\in I_j \right\rangleが成り立つ。I′:=⋃j∈JIj⊂II':= \bigcup_{j\in J}I_j\subset Iとおく。もしJJが有限集合ならI′I'も有限集合であるから、IIが無限集合であることからI′⊊II'\subsetneq Iである。もしJJが無限集合なら、§E1.22 系 3.3によりI′I'の濃度は高々ℵ0⋅#(J)=#(J)<#(I)\aleph_0\cdot\#(J)=\#(J)<\#(I)であるから、いずれの場合もI′⊊II'\subsetneq Iである。また、m′ ⁣:J→U(M)m'\colon J\to U(M)はMMの生成系なので、任意の元mˉ∈U(M)\bar{m}\in U(M)に対し、有限個のj1,⋯ ,jn∈Jj_1,\cdots ,j_n\in Jが存在して

mˉ∈⟨mj1′,⋯ ,mjn′⟩⊂⟨mi | i∈⋃k=1nIjk⟩⊂⟨mi∣i∈I′⟩\bar{m}\in \left\langle m'_{j_1}, \cdots, m'_{j_n}\right\rangle\subset \left\langle m_i \,\middle|\, i\in \bigcup_{k=1}^nI_{j_k}\right\rangle\subset \left\langle m_i \mid i\in I'\right\rangle

が成り立つ。これはI′⊊I→mU(M)I'\subsetneq I\xrightarrow{m} U(M)がMMの生成系であることを示しており、m ⁣:I→U(M)m\colon I\to U(M)がMMの極小生成系であることに反する。▨

系 1.15.RRを環、MMを左RR-加群とする。MMのある極小生成系の濃度が無限であるとする。このとき、MMのどんな極小生成系も同じ濃度を持つ。

証明.補題 1.14よりただちに従う。▨

2 基底の長さ

自由加群が基底をもつことと、異なる二つの基底の濃度が同じであることは別の性質である。例えば零環上の加群00では、どんな生成系も基底となるため、基底の濃度は一意的でない。基底の濃度の一意性、および自由加群の間の全射・単射による濃度の比較は、係数環に対する条件を定める。

定義 2.1.RRを環とする。

  1. 任意の自由左RR-加群の間の全射F1↠F2F_1\surj F_2と任意の基底e∙ ⁣:I∙→U(F∙)e_{\bullet}\colon I_{\bullet}\to U(F_{\bullet})(∙=1,2\bullet = 1,2) に対し、#(I1)≥#(I2)\#(I_1) \geq \#(I_2)が成り立つとき、RRは 左ランク条件を満たす (satisfies the left rank condition) という。
  2. 任意の自由左RR-加群の間の単射F1↪F2F_1\inj F_2と任意の基底e∙ ⁣:I∙→U(F∙)e_{\bullet}\colon I_{\bullet}\to U(F_{\bullet})(∙=1,2\bullet = 1,2) に対し、#(I1)≤#(I2)\#(I_1) \leq \#(I_2)が成り立つとき、RRは 左強ランク条件を満たす (satisfies the left strong rank condition) という。
  3. 任意の自由左RR-加群の間の同型F1→∼F2F_1\tosim F_2と任意の基底e∙ ⁣:I∙→U(F∙)e_{\bullet}\colon I_{\bullet}\to U(F_{\bullet})(∙=1,2\bullet = 1,2) に対し、#(I1)=#(I2)\#(I_1) = \#(I_2)が成り立つとき、RRは IBN を持つ (has an invariant basis number) という。

注意 2.2. "IBN" は invariant basis number の略である。

注意 2.3. IBN は左右対称な条件である(系 2.6)。

補題 2.4.RRを環とする。このとき次が成り立つ:

  1. RRが左ランク条件を満たせば、RRは IBN を持つ。
  2. RRが左強ランク条件を満たせば、RRは左ランク条件を満たす。

証明. 演習とする(問題 4.4)。▨

補題 2.5.RRを環とする。このとき次が成り立つ:

  1. RRが左強ランク条件を満たすことと、条件「任意の自然数n,m∈N≥0n,m\in \Nに対し、単射左RR-準同型f ⁣:Rn↪Rmf\colon R^n\inj R^mが存在すればn≤mn\leq mが成り立つ」は同値である。
  2. RRが左ランク条件を満たすことと、条件「任意の自然数n,m∈N≥0n,m\in \Nに対し、全射左RR-準同型f ⁣:Rn↠Rmf\colon R^n\surj R^mが存在すればn≥mn\geq mが成り立つ」は同値である。
  3. RRが IBN を持つことと、条件「任意の自然数n,m∈N≥0n,m\in \Nに対し、左RR-加群の同型射f ⁣:Rn→∼Rmf\colon R^n\tosim R^mが存在すればn=mn=mが成り立つ」は同値である。

証明. 各項の有限条件の必要性は定義から従う。零環ではR0≅R1R^0\cong R^1であるため、単射R1→R0R^1\to R^0、全射R0→R1R^0\to R^1および同型R0≅R1R^0\cong R^1が存在する。したがって、三つの有限条件はいずれもRRが零環でないことを含意する。

(2)を示す。全射に関する有限条件を仮定し、p ⁣:R⊕I↠R⊕Jp\colon R^{\oplus I}\surj R^{\oplus J}を全射とする。JJが無限なら、補題 1.13により標準基底(δj)j∈J(\delta_j)_{j\in J}は極小生成系である。一方、(p(δi))i∈I(p(\delta_i))_{i\in I}は生成系であるから、補題 1.14により#(J)≤#(I)\#(J)\leq\#(I)である。JJが有限でIIが無限の場合にも、この不等式は成り立つ。I,JI,Jがともに有限なら、仮定した有限条件から同じ不等式を得る。

(3)を示す。同型に関する有限条件を仮定し、R⊕I≅R⊕JR^{\oplus I}\cong R^{\oplus J}とする。同型で一方の標準基底を移すと、補題 1.13により同じ加群の二つの極小生成系を得る。I,JI,Jの少なくとも一方が無限なら、系 1.15により#(I)=#(J)\#(I)=\#(J)である。両方が有限なら、仮定した有限条件から同じ等式を得る。

(1)を示す。単射に関する有限条件を仮定し、f ⁣:R⊕I↪R⊕Jf\colon R^{\oplus I}\inj R^{\oplus J}を単射とする。JJが有限のとき、#(I)>#(J)\#(I)>\#(J)なら、IIから#(J)+1\#(J)+1個の添え字を取ることができる。その標準元の張る自由加群へffを制限すると、単射R#(J)+1↪R#(J)R^{\#(J)+1}\inj R^{\#(J)}が得られ、有限条件に反する。よって#(I)≤#(J)\#(I)\leq\#(J)である。

JJが無限のとき、各i∈Ii\in Iに対してFi:=supp⁡(f(δi))F_i:=\supp(f(\delta_i))とおく。FiF_iはJJの有限部分集合である。任意の有限部分集合F⊂JF\subset Jに対し、Fi=FF_i=Fとなる添え字iiが#(F)+1\#(F)+1個以上あれば、それらに対応する標準元の張る加群へffを制限して単射R#(F)+1↪R#(F)R^{\#(F)+1}\inj R^{\#(F)}を得る。したがって、Fi=FF_i=Fとなる添え字は高々#(F)\#(F)個である。κ:=#(J)\kappa:=\#(J)とおくと、§E1.22 系 3.3により、正の有限整数nnに対してκn=κ\kappa^n=\kappaであり、ℵ0κ=κ\aleph_0\kappa=\kappaである。有限部分集合は有限列の像として表されるため、JJの有限部分集合全体の濃度は高々κ\kappaである。各FFに対応する添え字が有限個であることから#(I)≤κℵ0=κ=#(J)\#(I)\leq\kappa\aleph_0=\kappa=\#(J)を得る。▨

系 2.6.RRを環とする。このとき、次は同値である:

  1. 任意の自然数n,m∈N≥0n,m\in \Nに対し、左RR-加群の同型射f ⁣:RRn→∼RRmf\colon {}_RR^n\tosim {}_RR^mが存在すればn=mn=mが成り立つ。すなわち、RRは IBN を持つ。
  2. 任意の自然数n,m∈N≥0n,m\in \Nに対し、右RR-加群の同型射f ⁣:RRn→∼RRmf\colon R_R^n\tosim R_R^mが存在すればn=mn=mが成り立つ。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。f ⁣:RRn→∼RRmf\colon R_R^n\tosim R_R^mを右RR-加群の同型射とする。前合成

(−)∘f ⁣:Hom⁡R(RRm,RRR)→∼Hom⁡R(RRn,RRR)(-)\circ f\colon\Hom_R(R_R^m,{}_RR_R)\tosim\Hom_R(R_R^n,{}_RR_R)

は逆写像(−)∘f−1(-)\circ f^{-1}をもち、左作用(a⋅h)(v):=ah(v)(a\cdot h)(v):=ah(v)と交換する。標準基底上の評価により、任意のd∈N≥0d\in\Nに対して左RR-加群の同型Hom⁡R(RRd,RRR)≅RRd\Hom_R(R_R^d,{}_RR_R)\cong{}_RR^dを得る。したがって左RR-加群の同型RRm≅RRn{}_RR^m\cong{}_RR^nが存在し、(1)よりn=mn=mである。(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。演習とする(問題 4.5)。▨

例 2.7. 零環は IBN を持たない。

補題 2.8.h ⁣:R→Sh\colon R\to Sを環準同型とする。

  1. もしSSが左ランク条件を満たすならば、RRも左ランク条件を満たす。
  2. もしSSが IBN を持てば、RRも IBN を持つ。

証明.n,m∈N≥0n,m\in\Nとし、左RR-加群の射φ ⁣:Rn→Rm\varphi\colon R^n\to R^mを例 1.10によりφ(x)=xA\varphi(x)=xAと表す。ただしA∈Mat⁡n×m(R)A\in\operatorname{Mat}_{n\times m}(R)である。h(A)h(A)をAAの各成分をhhで送った行列とする。hhは和・積と単位元を保つため、行列積と単位行列を保つ。行数または列数が零の場合にも、空和によって同じ等式が成り立つ。

(1)を示す。SSが左ランク条件を満たし、φ\varphiが全射であると仮定する。系 1.5をid⁡Rm\id_{R^m}に適用すると、切断s ⁣:Rm→Rns\colon R^m\to R^nが存在する。s(y)=yBs(y)=yBと表せば、B∈Mat⁡m×n(R)B\in\operatorname{Mat}_{m\times n}(R)であり、φ∘s=id⁡Rm\varphi\circ s=\id_{R^m}からBA=ImBA=I_mを得る。したがってh(B)h(A)=Imh(B)h(A)=I_mである。写像Sn→SmS^n\to S^m、x↦xh(A)x\mapsto xh(A)はy↦yh(B)y\mapsto yh(B)を切断にもつので全射であり、SSの左ランク条件からn≥mn\geq mである。補題 2.5 (2)により、RRも左ランク条件を満たす。

(2)を示す。SSが IBN をもち、φ\varphiが同型であると仮定する。逆射をφ−1(y)=yB\varphi^{-1}(y)=yBと表すと、AB=InAB=I_nおよびBA=ImBA=I_mである。したがってh(A)h(B)=Inh(A)h(B)=I_nおよびh(B)h(A)=Imh(B)h(A)=I_mであり、x↦xh(A)x\mapsto xh(A)は左SS-加群の同型Sn≅SmS^n\cong S^mを与える。SSの IBN からn=mn=mであり、補題 2.5 (3)によりRRも IBN をもつ。▨

注意 2.9. 左強ランク条件については、環準同型による後方伝播は成立しない(例 3.4)。

補題 2.10.RRを零でない可換環とし、n∈N≥1n\in \NNを正の整数とする。X=(aij)1≤i,j≤nX = (a^j_i)_{1\leq i,j \leq n}をn×nn\times n行列とする。もしdet⁡X=0\det X = 0なら、XXは左RR-加群の射Rn→RnR^n \to R^nとして単射でない。

証明.X=0X=0のとき、非零な標準元δ1\delta_1が核に属する。X≠0X\ne0のとき、行と列をそれぞれ並べ替え、非零な正方小行列式のうち次数が最大のものを左上に置く。その次数をkk、対応するk×kk\times k行列をYYとする。X≠0X\ne0とdet⁡X=0\det X=0から1≤k<n1\leq k<nである。行と列の並べ替えは始域と終域の基底の変更に対応するので、単射性を変えない。

XXの第k+1k+1行の最初のkk成分を行ベクトルwwとし、YYの随伴行列をadj⁡Y\adj Yとする。行ベクトル

z:=(−wadj⁡Y,det⁡Y,0,…,0)∈Rnz:=(-w\adj Y,\det Y,0,\ldots,0)\in R^n

はdet⁡Y≠0\det Y\ne0により非零である。随伴行列恒等式§E3.21 補題 1.1により、zXzXの最初のkk成分は

−w(adj⁡Y)Y+(det⁡Y)w=−w(det⁡Y)Ik+(det⁡Y)w=0-w(\adj Y)Y+(\det Y)w =-w(\det Y)I_k+(\det Y)w=0

である。

残る任意の列の最初のkk成分を列ベクトルvv、第k+1k+1成分をrrとする。余因子展開により、zXzXの対応する成分は

−w(adj⁡Y)v+rdet⁡Y=det⁡(Yvwr)-w(\adj Y)v+r\det Y =\det\begin{pmatrix}Y&v\\w&r\end{pmatrix}

に等しい。右辺はXXの(k+1)×(k+1)(k+1)\times(k+1)小行列式であるから、kkの最大性により零である。したがってzX=0zX=0であり、x↦xXx\mapsto xXは単射でない。▨

系 2.11. 零でない可換環は強ランク条件を満たす。特にランク条件を満たし、IBN を持つ。

証明.RRを零でない可換環とし、n,m∈N≥0n,m\in\Nをn>mn>mとなるように取る。f ⁣:Rn→Rmf\colon R^n\to R^mをRR-加群の射とする。m=0m=0なら、非零な標準元δ1\delta_1がffの核に属するため、ffは単射でない。

m>0m>0のとき、j ⁣:Rm↪Rnj\colon R^m\inj R^nを最初のmm座標への標準包含とし、g:=j∘fg:=j\circ fとおく。ggの行列表示XXは最後のn−mn-m列が零であるから、det⁡X=0\det X=0である。補題 2.10によりggは単射でない。jjが単射であるためker⁡g=ker⁡f\ker g=\ker fであり、ffも単射でない。

したがって、単射Rn↪RmR^n\inj R^mが存在すればn≤mn\leq mである。補題 2.5 (1)によりRRは強ランク条件を満たし、補題 2.4によりランク条件を満たして IBN をもつ。▨

3 例

命題 3.1.RRを環、MMを左RR-加群とし、左RR-加群の同型M⊕M≅MM\oplus M\cong Mが存在すると仮定する。合成を積とする環A:=End⁡R(M)A:=\End_R(M)は、左AA-加群としてA≅A2A\cong A^2を満たし、IBN をもたない。

証明. 演習とする(問題 4.6)。▨

例 3.2 ( IBN を持たない環).kkを体、V:=k⊕N≥0V:=k^{\oplus \N}とし、R:=End⁡k(V)=Hom⁡k(V,V)R:=\End_k(V) = \Hom_k(V, V)と定義する。kk-代数RRは合成を積として環となる。VVの標準基底を(en)n∈N≥0(e_n)_{n\in\N}とする。第一成分のene_nをe2ne_{2n}、第二成分のene_nをe2n+1e_{2n+1}へ送る写像は、基底の間の全単射によってkk-線形同型V⊕V≅VV\oplus V\cong Vを定める。したがって命題 3.1よりRRは IBN をもたず、補題 2.4 (1)より左ランク条件も満たさない。

命題 3.3.kkを体、VVをkk-線形空間、R:=End⁡k(V)R:=\End_k(V)とし、交換子fg−gffg-gf(f,g∈Rf,g\in R)で生成されるRRの両側イデアルをIIとする。このとき

I={0,dim⁡kV≤1,R,dim⁡kV≥2I=\begin{cases} 0,&\dim_k V\leq1,\\ R,&\dim_k V\geq2 \end{cases}

である。ここでdim⁡kV≥2\dim_k V\geq2には無限次元の場合も含む。V=0V=0の場合にはRRが零環であるからI=0=RI=0=Rである。さらに、VVが無限次元なら、fg−gf=1Rfg-gf=1_Rを満たすf,g∈Rf,g\in Rが存在する。

証明. 演習とする(問題 4.7)。▨

例 3.4 (非可換自由kk-代数).kkを体、x,yx,yを不定元として、R:=k ⁣⟨x,y⟩R:=k\!\left\langle x,y\right\rangleをkk-係数の非可換多項式環とする。k ⁣⟨x,y⟩k\!\left\langle x,y\right\rangleの元ffは、有限個のx,yx,yからなる有限長の文字列w1,⋯ ,wn∈{x,y}∗w_1,\cdots, w_n\in \{x,y\}^*と有限個のkkの元a1,⋯ ,an∈ka_1,\cdots, a_n\in kによる形式的な線形和f=∑iaiwif = \sum_i a_iw_iであり、k ⁣⟨x,y⟩k\!\left\langle x,y\right\rangleの積は文字列の結合とkkの積により(∑iaiwi)(∑jbjwj′)=∑i,jaibjwiwj′\left(\sum_i a_iw_i\right)\left(\sum_j b_jw_j'\right) = \sum_{i,j}a_ib_jw_iw_j'で定まる。特に、異なる語xyxyとyxyxは異なる元である。写像R2→RR^2\to Rを(f,g)↦fx+gy(f,g)\mapsto fx+gyで定めると、任意のa∈Ra\in Rに対して(af)x+(ag)y=a(fx+gy)(af)x+(ag)y=a(fx+gy)であり、加法も保つため、左RR-加群の射である。fxfxに現れる語はxxで終わり、gygyに現れる語はyyで終わる。異なる語はkk上一次独立であるから、fx+gy=0fx+gy=0なら両方の語の係数がすべて零である。語の末尾へのxxまたはyyの付加は単射なのでf=g=0f=g=0となり、この射は単射である。よってk ⁣⟨x,y⟩k\!\left\langle x,y\right\rangleは左強ランク条件を満たさない。一方、x,y↦0x,y\mapsto0により環準同型R→kR\to kが定まる。kkは系 2.11により強ランク条件とランク条件を満たすため、補題 2.8 (1)よりRRは左ランク条件を満たし、補題 2.4 (1)より IBN をもつ。したがって、環準同型による後方伝播は強ランク条件については成立しない。

4 演習

問題 4.1.補題 1.11を証明せよ。

解答.

各j∈Jj\in Jに対して基底ej ⁣:Ij→U(Fj)e_j\colon I_j\to U(F_j)を取り、I:=∐j∈JIjI:=\coprod_{j\in J}I_jとおく。写像e ⁣:I→U(⨁jFj)e\colon I\to U\bigl(\bigoplus_jF_j\bigr)を(j,i)↦ιj(ej(i))(j,i)\mapsto \iota_j(e_j(i))で定める。台を各IjI_jへ制限する分解から左RR-加群の標準的な同型R⊕I≅⨁jR⊕IjR^{\oplus I}\cong\bigoplus_jR^{\oplus I_j}が得られ、この同型と直和の射⨁jej~\bigoplus_j\tilde{e_j}の合成は、各標準元δ(j,i)\delta_{(j,i)}をιj(ej(i))\iota_j(e_j(i))へ送る。補題 1.4の一意性より、この合成はe~\tilde{e}に等しい。各ej~\tilde{e_j}は同型であるから、成分ごとの逆射を束ねることで⨁jej~\bigoplus_j\tilde{e_j}も同型であり、したがってe~\tilde{e}は同型である。よってeeは⨁jFj\bigoplus_jF_jの基底であり、直和は自由左RR-加群である。▨

問題 4.2.補題 1.13を証明せよ。

解答.

e ⁣:I→U(F)e\colon I\to U(F)を基底とするとe~ ⁣:R⊕I→F\tilde{e}\colon R^{\oplus I}\to Fは同型であり、特に全射なのでeeは生成系である。真部分集合I′⊊II'\subsetneq Iに対して制限I′→U(F)I'\to U(F)が生成系であると仮定し、i0∈I∖I′i_0\in I\setminus I'を取る。仮定からei0∈⟨ei∣i∈I′⟩e_{i_0}\in\left\langle e_i\mid i\in I'\right\rangleであるから、同型e~−1\tilde{e}^{-1}で移すと、δi0\delta_{i_0}は台がI′I'に含まれる元として表される。しかしδi0\delta_{i_0}のi0i_0座標は1R1_Rであり、RRが零環でないことから1R≠01_R\ne 0なので、δi0\delta_{i_0}の台は{i0}\{i_0\}である。i0∉I′i_0\notin I'に矛盾する。よってeeは極小生成系である。▨

問題 4.3.例 2.7を証明し、右加群についても零環が IBN をもたないことを確かめよ。

解答.

RRを零環とすると1R=01_R=0である。任意の左RR-加群MMとm∈Mm\in Mに対してm=1Rm=0m=0m=1_Rm=0m=0となるから、零環上の左RR-加群は零加群に限る。特に任意のn∈N≥0n\in\Nに対してRn=0R^n=0であり、R0≅R1R^0\cong R^1が左RR-加群の同型として成り立つ。0≠10\ne 1なので、補題 2.5 (3)の条件が破れ、RRは IBN を持たない。IBN は系 2.6より左右対称な条件なので、右加群で述べても同じ結論となる。▨

問題 4.4.補題 2.4を証明せよ。

解答.

補題 2.4 (1)を示す。f ⁣:F1→∼F2f\colon F_1\tosim F_2を基底e1 ⁣:I→U(F1)e_1\colon I\to U(F_1)、e2 ⁣:J→U(F2)e_2\colon J\to U(F_2)を持つ自由左RR-加群の間の同型とする。ffとf−1f^{-1}はいずれも全射であるから、左ランク条件を二つの向きへ適用して#(I)≥#(J)\#(I)\geq\#(J)と#(J)≥#(I)\#(J)\geq\#(I)を得る。Bernstein の定理より#(I)=#(J)\#(I)=\#(J)である。

補題 2.4 (2)を示す。p ⁣:F1↠F2p\colon F_1\surj F_2を、基底e1 ⁣:I→U(F1)e_1\colon I\to U(F_1)、e2 ⁣:J→U(F2)e_2\colon J\to U(F_2)をもつ自由左RR-加群の間の全射とする。F2F_2は自由なので、系 1.5を恒等射id⁡F2 ⁣:F2→F2\id_{F_2}\colon F_2\to F_2に適用すると、左RR-加群の射s ⁣:F2→F1s\colon F_2\to F_1であってp∘s=id⁡F2p\circ s=\id_{F_2}を満たすものが存在する。ssは単射であるから、左強ランク条件より#(J)≤#(I)\#(J)\leq\#(I)が成り立つ。したがって左ランク条件を満たす。▨

問題 4.5.系 2.6の証明を完成させよ。

解答.

系 2.6 (2)⇒\Rightarrow(1)を示す。f ⁣:RRn→∼RRmf\colon {}_RR^n\tosim {}_RR^mを左RR-加群の同型射とする。(−)∘f ⁣:Hom⁡R(RRm,RRR)→∼Hom⁡R(RRn,RRR)(-)\circ f\colon \Hom_R({}_RR^m, {}_RR_R)\tosim \Hom_R({}_RR^n, {}_RR_R)は、Hom⁡\Homへの右作用(φr)(x):=φ(x)r(\varphi r)(x):=\varphi(x)rについて右RR-加群の同型射である。標準基底の双対をとることで右RR-加群としてHom⁡R(RR∙,RRR)≅RR∙\Hom_R({}_RR^{\bullet}, {}_RR_R)\cong R_R^{\bullet}であるから、右RR-加群の同型射RRm→∼RRnR_R^m\tosim R_R^nが得られ、系 2.6 (2)よりn=mn=mが従う。順方向の議論と合わせて、二条件は同値である。▨

問題 4.6.命題 3.1を証明せよ。

解答.

RRを環、MMを左RR-加群とし、A:=End⁡R(M)A:=\End_R(M)とおく。φ ⁣:M⊕M→∼M\varphi\colon M\oplus M\tosim Mを左RR-加群の同型射として固定する。合成による写像

(−)∘φ ⁣:A=Hom⁡R(M,M)⟶Hom⁡R(M⊕M,M)(-)\circ\varphi\colon A=\Hom_R(M, M)\longrightarrow \Hom_R(M\oplus M, M)

は全単射であり、さらにAAの左作用(行き先への合成a⋅ψ:=a∘ψa\cdot\psi:=a\circ\psi)と交換するため、左AA-加群の同型射である。一方、直和の普遍性§E6.2 命題 6.5より、制限による写像Hom⁡R(M⊕M,M)→A⊕A\Hom_R(M\oplus M, M)\to A\oplus A,ψ↦(ψ∘ι1,ψ∘ι2)\psi\mapsto(\psi\circ\iota_1, \psi\circ\iota_2)も左AA-加群の同型射である。合成して左AA-加群の同型A1≅A2A^1\cong A^2を得るが、1≠21\ne 2なので補題 2.5 (3)よりAAは IBN を持たない。▨

問題 4.7.命題 3.3を証明せよ。無限次元の場合には、交換子が生成する両側イデアルが(1)(1)となることを IBN から導き、さらにfg−gf=1Rfg-gf=1_Rとなる二つの自己準同型を構成せよ。有限次元の場合は、零次元、一次元および二次元以上をそれぞれ計算せよ。

解答.

kkを体、VVをkk-線形空間とし、R:=End⁡k(V)R:=\End_k(V)、I:=(fg−gf∣f,g∈R)I:=(fg-gf\mid f,g\in R)とおく。V=0V=0ならRRは零環であり、I=0=R=(1)I=0=R=(1)である。dim⁡kV=1\dim_k V=1ならR≅kR\cong kは非零可換環であるから、すべての交換子は零であり、I=0≠RI=0\ne Rである。

d:=dim⁡kVd:=\dim_k Vが有限でd≥2d\geq2のとき、基底を選んでRRをd×dd\times d行列環と同一視し、行列単位をEijE_{ij}と書く。E11E12−E12E11=E12E_{11}E_{12}-E_{12}E_{11}=E_{12}であるからE12∈IE_{12}\in Iである。IIが両側イデアルであることから、任意の1≤i,j≤d1\leq i,j\leq dに対して

Eij=Ei1E12E2j∈IE_{ij}=E_{i1}E_{12}E_{2j}\in I

となる。したがって1R=∑i=1dEii∈I1_R=\sum_{i=1}^d E_{ii}\in Iであり、I=RI=Rである。

VVが無限次元のとき、基底の濃度をκ\kappaとする。§E1.22 系 3.3より2κ=κ2\kappa=\kappaであるから、基底の間の全単射によってV⊕V≅VV\oplus V\cong Vを得る。命題 3.1によりRRは IBN をもたない。一方、すべての交換子がIIに属するのでR/IR/Iは可換環である。もしR/IR/Iが非零なら、系 2.11によりR/IR/Iは IBN をもち、商準同型R→R/IR\to R/Iと補題 2.8 (2)によりRRも IBN をもつことになり、矛盾する。したがってR/I=0R/I=0であり、I=R=(1)I=R=(1)である。

さらに§E1.22 系 3.3よりκℵ0=κ\kappa\aleph_0=\kappaであるから、基底の間の全単射によってV≅W⊕N≥0V\cong W^{\oplus\N}となるkk-線形空間WWを取ることができる。この同型を用い、有限台の族w=(wn)n∈N≥0w=(w_n)_{n\in\N}に対して

f(w)n=(n+1)wn+1,g(w)n={0,n=0,wn−1,n≥1f(w)_n=(n+1)w_{n+1},\qquad g(w)_n=\begin{cases}0,&n=0,\\w_{n-1},&n\geq1\end{cases}

と定める。両写像は有限台を保ち、各座標でkk-線形であるためRRに属する。各n∈N≥0n\in\Nについて

(fg)(w)n=(n+1)wn,(gf)(w)n=nwn(fg)(w)_n=(n+1)w_n,\qquad (gf)(w)_n=nw_n

であるから(fg−gf)(w)n=wn(fg-gf)(w)_n=w_nであり、fg−gf=1Rfg-gf=1_Rである。整数係数はkkの単位元の整数倍を表し、この計算はkkの標数によらず成立する。▨

参考文献

  1. Serge Lang, Algebra, revised 3 ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2002.自由加群、基底および普遍性の標準的な定式化を参考にした。
  2. T. Y. Lam, A First Course in Noncommutative Rings, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2001.不変基底数と非可換環における反例の位置づけを参考にした。
  3. P. M. Cohn, Free Rings and Their Relations, 2nd ed., London Mathematical Society Monographs 19, Academic Press, London, 1985.異なる有限濃度の基底をもつ加群と不変基底数をもたない環の構成を参考にした。

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