1 有限生成加群
有限生成性は、有限階数自由加群によって全射的に覆われるという条件である。
定義 1.1. 左R加群Mが有限生成加群 (finitely generated left module) であるとは、ある非負整数nと全射左R線形写像
π:Rn⟶Mが存在することをいう。
n=0の場合、R0=0である。したがってR0→Mが全射であることはM=0と同値である。
命題 1.2. 左R加群Mについて、次の二条件は同値である。
- ある非負整数nと全射左R線形写像
π:Rn⟶M
が存在する。
- ある非負整数nとx1,…,xn∈Mが存在し、
M=Rx1+⋯+Rxn
となる。
証明.(1)⇒(2)を示す。全射π:Rn→Mが存在するとする。任意のx∈Mに対してv=∑iaiei∈Rnでπ(v)=xとなるものが存在する。線形性により
x=i∑aiπ(ei)となるため、π(e1),…,π(en)はMを生成する。
(2)⇒(1)を示す。逆に、Mがx1,…,xnによって生成されるとする。§E6.10 補題 1.4により、標準基底の像を
π(ei):=xiと指定するR線形写像π:Rn→Mが一意に存在する。任意のx∈Mはx=∑iaixiと表されるため、
x=π(i∑aiei)となる。したがってπは全射である。
n=0の場合にも、0→Mが全射であること、空族の左一次結合がM全体になること、およびM=0は同値である。▨
右加群についても、自由加群からの全射を定義とし、有限個の右一次結合をその特徴づけとして得る。
定義 1.3. 右R加群Mが有限生成右加群 (finitely generated right module) であるとは、ある非負整数nと全射右R線形写像
π:Rn⟶Mが存在することをいう。ここでRnは右正則加群RRのn個の直和である。
命題 1.4. 右R加群Mについて、有限生成右加群であることと、ある非負整数nとx1,…,xn∈Mが存在して
M=x1R+⋯+xnRとなることは同値である。
証明. 全射π:Rn→Mがあれば、任意のx∈Mは
x=π(i∑eiai)=i∑π(ei)aiと表されるため、π(e1),…,π(en)がMを右から生成する。逆にx1,…,xnがMを右から生成するならば、右自由加群の普遍性によりei↦xiを指定する右R線形写像Rn→Mが存在し、生成性から全射である。n=0の場合は左加群の場合と同じくM=0と同値である。▨
命題 1.5. 次が成り立つ。
- 非零有限生成左R加群は極大左部分加群をもつ。
- 非零有限生成右R加群は極大右部分加群をもつ。
証明.(1)を示す。非零有限生成左R加群Mを取り、Mの真の左部分加群全体を包含関係で順序付けた集合をPとする。M=0なので0∈Pであり、Pは空でない。
C⊆Pを鎖とする。U:=⋃N∈CNは左部分加群である。実際、u,v∈Uを取ると、あるN,N′∈Cがu∈N、v∈N′を満たす。Cは鎖なので一方が他方を含み、u−vは大きい方の部分加群に属する。またr∈Rに対してruはuを含む部分加群に属する。
Mの有限生成族をx1,…,xnとする。もしU=Mならば、各iについてxi∈NiとなるNi∈Cが存在する。有限個のNiは包含関係で全順序付けられているため、そのうち最大のものNjがすべてのxiを含む。するとNj=Mとなり、Nj∈Pに反する。よってUは真の部分加群であり、CのPにおける上界である。
§E1.20 定理 2.1の Zorn の補題により、Pは極大元をもつ。この極大元はMの極大左部分加群である。
(2)を示す。右加群の場合は、§E6.1 定義 4.1の反対環を用いて右R加群を左Rop加群とみなし、(1)を適用すればよい。有限生成性と部分加群の包含はこの対応で保たれるため、得られる極大左Rop部分加群は極大右R部分加群である。▨
2 有限表示加群と関係加群
有限個の生成元x1,…,xnを選ぶと、係数の行(a1,…,an)が零を表すという条件はRnの部分加群を定める。
定義 2.1. 左R加群Mの元x1,…,xnに対して、関係加群 (module of relations) を
Rel(x1,…,xn):={(a1,…,an)∈Rn i=1∑naixi=0}と定める。係数はxiの左に置く。
Mが有限表示加群 (finitely presented module) であるとは、ある非負整数m,nとR線形写像による完全列
Rm α Rn π M⟶0が存在することをいう。すなわち、πは全射であり、imα=kerπである。この完全列をMの有限表示 (finite presentation) という。
関係加群は、ei↦xiによって定まる座標写像πx:Rn→Mの核である。したがって、x1,…,xnがMを生成するとき、MはRnをすべての関係で割った商として得られる。
定理 2.2. 左R加群Mについて、次の三条件は同値である。
- Mは有限表示加群である。
- ある非負整数nと全射π:Rn→Mが存在し、kerπは有限生成加群である。
- Mを生成する有限族x1,…,xnが存在し、Rel(x1,…,xn)は有限生成加群である。
証明.(1)⇒(2)を示す。(1)を仮定し、有限表示
RmαRnπM⟶0を取る。完全性により
kerπ=imα=Rα(e1)+⋯+Rα(em)である。したがってkerπは有限生成であり、(2)を得る。m=0の場合には像と核はともに零である。
(2)⇒(1)を示す。(2)を仮定する。kerπの有限生成族をz1,…,zmとする。§E6.10 補題 1.4により、
α:Rm⟶Rn,α(ej):=zjというR線形写像が存在する。その像はz1,…,zmが生成する部分加群、すなわちkerπである。よって
RmαRnπM⟶0は有限表示であり、(1)を得る。
(2)⇒(3)を示す。(2)の全射πに対してxi:=π(ei)と置く。命題 1.2の証明と同じく、x1,…,xnはMを生成する。また、
π(a1,…,an)=i∑aixiであるため、kerπ=Rel(x1,…,xn)である。したがって(3)を得る。
(3)⇒(2)を示す。逆に、(3)の生成族から§E6.10 補題 1.4によって
πx:Rn⟶M,πx(ei):=xiを定める。生成性によりπxは全射であり、定義から
kerπx=Rel(x1,…,xn)である。(3)によりこの核は有限生成であるため、(2)を得る。▨
この特徴づけから、有限表示加群は有限生成加群である。逆は一般には成り立たない。逆が成り立たない具体例は後で構成する。
有限表示性の定義では、有限生成系を一つ選んで関係加群が有限生成であることを要求した。次の命題は、一つの有限生成系についてこの条件が成り立てば、ほかの任意の有限生成系についても成り立つことを示す。
命題 2.3.Mを有限表示加群とし、nを非負整数とする。任意の全射
φ:Rn⟶Mに対して、kerφは有限生成加群である。
証明.定理 2.2により、全射
p:Rq⟶Mで、その核K:=kerpが有限生成となるものを取る。Kの生成族をk1,…,ksとする。
φは全射であるため、各標準基底元ei∈Rqについてu(ei)∈Rnを
φ(u(ei))=p(ei)となるように選ぶ。§E6.10 補題 1.4によって、この指定はR線形写像u:Rq→Rnへ一意に延長される。標準基底上で等しいため、
φu=pである。同様に、pの全射性を用いて各標準基底元ej∈Rnの像の持ち上げを選ぶと、R線形写像v:Rn→Rqで
pv=φを満たすものが得られる。
写像
d:=idRn−uvを考える。上の二等式から
φd=φ−φuv=φ−pv=0であるため、d(Rn)⊆kerφである。また、各kℓ∈Kについて
φ(u(kℓ))=p(kℓ)=0であるため、u(kℓ)∈kerφである。
x∈kerφを任意に取る。p(v(x))=φ(x)=0であるためv(x)∈Kであり、あるa1,…,as∈Rによって
v(x)=ℓ=1∑saℓkℓと表される。一方、Rnの標準基底を用いると、d(x)はd(e1),…,d(en)の左一次結合である。等式
x=uv(x)+d(x)により、xは有限族
u(k1),…,u(ks),d(e1),…,d(en)の左一次結合になる。この族の各元はkerφに属するため、この族はkerφを生成する。q,n,sのいずれかが零の場合にも、対応する族を空族とすれば同じ証明が成り立つ。▨
3 左線形写像の行列表示
体上の線形代数で用いる行列積は一般の環上でも定義することができるが、非可換環上の左加群では、係数を掛ける順序を固定しなければならない。自由左加群の元を行ベクトルで書くと、左線形写像は行列を右から掛けることによって表される。
命題 3.1.m,nを非負整数とし、A=(aij)∈Matm×n(R)とする。行ベクトルx=(x1,…,xm)∈Rmに対して、通常の行列積
(xA)j:=i=1∑mxiaij(1≤j≤n)によって定まる写像Rm→Rn、x↦xAは左R線形である。逆に、任意の左R線形写像f:Rm→Rnは、一意なA∈Matm×n(R)によってf(x)=xAと表される。
さらに、非負整数p、B∈Matn×p(R)および任意のx∈Rmに対して
(xA)B=x(AB)であり、m次単位行列Imに対してxIm=xである。m=0またはn=0の場合にも、空の行列と空の和によって同じ主張が成り立つ。
証明.x,y∈Rmとr∈Rに対して、各j成分で
((x+y)A)j=i∑(xi+yi)aij=i∑xiaij+i∑yiaijとなる。また、環の積の結合律と分配律により
((rx)A)j=i∑(rxi)aij=ri∑xiaij=(r(xA))jとなる。係数の順序を交換していない。したがって写像x↦xAは左R線形である。
左R線形写像f:Rm→Rnを取る。f(ei)の第j成分をaijとし、A:=(aij)と置く。任意のx=(x1,…,xm)に対して
f(x)=f(i∑xiei)=i∑xif(ei)であるため、その第j成分は∑ixiaijである。よってf(x)=xAである。f(x)=xCとも表されるならば、Cの第i行はeiC=f(ei)であるためC=Aであり、一意性を得る。
合成について、x∈Rmの第k成分を計算すると、有限和の結合順序を変更することにより
((xA)B)k=j=1∑n(i=1∑mxiaij)bjk=i=1∑mxi(j=1∑naijbjk)=(x(AB))kとなる。積aijbjkの順序は変更していない。したがって(xA)B=x(AB)である。単位行列については(xIm)j=xjとなる。▨
例 3.2 (非可換環における左右の乗法).kを体、R:=Mat2×2(k)とし、
p:=(0010),q:=(0100)と置く。このとき
pq=(1000),qp=(0001)であり、pq=qpである。
左正則加群RR上で、右乗法R→R、x↦xqは左R線形である。実際、r,x∈Rに対して
(rx)q=r(xq)となる。一方、写像x↦qxは一般に左R線形ではない。r=p、x=1Rとすると
q(p1R)=qp,p(q1R)=pqであり、両者は一致しない。この検算は、自由左加群の準同型を右からの行列積で表す必要があることを示す。
有限表示の写像を行列で表すと、行列の各行が一つの関係式を与える。
命題 3.3.A=(aij)∈Matm×n(R)とし、
Rm x↦xA Rn π M⟶0を有限表示とする。xj:=π(ej)と置くと、x1,…,xnはMを生成し、第i行は関係式
j=1∑naijxj=0を与える。さらに、x1,…,xnのすべての関係は、Aの各行の左一次結合として一意とは限らない仕方で表される。
証明.πは全射であるため、x1,…,xnはMを生成する。Aの第i行は
eiAである。完全性によりeiA∈kerπであるため、
0=π(eiA)=j∑aijπ(ej)=j∑aijxjとなる。
逆に、関係(b1,…,bn)∈Rel(x1,…,xn)はkerπの元である。完全性により、あるc=(c1,…,cm)∈Rmが存在して
(b1,…,bn)=cAとなる。行列積の定義から、cAはAの第i行に左係数ciを掛けた行の和である。したがって各行が関係加群を生成する。写像x↦xAが単射であるとは限らないため、この一次結合表示は一意とは限らない。▨
一般の環ではRm≅Rnからm=nが従うとは限らない。本記事の有限表示性は、ある有限のm,nが存在することだけを要求しており、生成元または関係式の個数の一意性を要求しない。したがって、この定義と行列規約は不変基底数をもたない環でも有効である。
4 商加群と有限直和
有限生成性は任意の商加群に受け継がれる。有限表示性を商加群に受け継がせるためには、割る部分加群が有限生成であることが必要になる。
命題 4.1. 次が成り立つ。
- Mが有限生成加群でN⊆Mが部分加群ならば、M/Nは有限生成加群である。
- 有限個の左R加群M1,…,Mtに対して、⨁j=1tMjが有限生成であることと、各Mjが有限生成であることは同値である。
証明.(1)を示す。Mをx1,…,xnが生成するとする。任意のx+N∈M/Nに対してx=∑iaixiと書けば、
x+N=i∑ai(xi+N)となる。したがってx1+N,…,xn+NがM/Nを生成する。
(2)を示す。各Mjが有限族xj,1,…,xj,njによって生成されるとする。ιj:Mj→⨁ℓ=1tMℓを標準包含とする。有限族
(ιj(xj,i))1≤j≤t, 1≤i≤njは、各成分を生成するため直和全体を生成する。逆に、直和が有限生成ならば、各座標射影
prj:ℓ=1⨁tMℓ⟶Mjは全射であるため、(1)により各Mjは有限生成である。t=0の場合、直和は零加群であり、主張は空の条件と整合する。▨
定理 4.2. 次が成り立つ。
- Mが有限表示加群でN⊆Mが有限生成部分加群ならば、M/Nは有限表示加群である。
- 有限個の左R加群M1,…,Mtに対して、⨁j=1tMjが有限表示であることと、各Mjが有限表示であることは同値である。
証明.(1)を示す。定理 2.2により、全射
π:Rn⟶MでK:=kerπが有限生成となるものを取る。Nの生成族をy1,…,ysとし、πの全射性により各yℓの持ち上げyℓ∈Rnを
π(yℓ)=yℓとなるように選ぶ。商写像をq:M→M/Nとすると、qπは全射である。
この全射の核は
ker(qπ)=K+Ry1+⋯+Rysである。実際、右辺の元はπによってNの元へ写るため、右辺はker(qπ)に含まれる。逆に、z∈ker(qπ)ならばπ(z)∈Nであるため、あるa1,…,as∈Rによって
π(z)=ℓ=1∑saℓyℓ=π(ℓ=1∑saℓyℓ)と書かれる。したがって
z−ℓ=1∑saℓyℓ∈Kであり、逆包含も得られる。Kと有限個のyℓが右辺を有限生成するため、定理 2.2によりM/Nは有限表示である。N=0の場合にはs=0とすればよい。
(2)を示す。次に、各Mjが有限表示であるとする。各jについて、全射
πj:Rnj⟶MjでKj:=kerπjが有限生成となるものを取る。有限直和を取った写像
π:=j=1⨁tπj:j=1⨁tRnj⟶j=1⨁tMjは全射であり、
kerπ=j=1⨁tKjである。§E6.10 補題 1.11により、始域は有限個の標準基底を合わせた基底をもつ有限階数自由加群である。命題 4.1により、核は有限生成である。したがって直和は有限表示である。t=0の場合、零加群はR0→0という全射と零核をもつため有限表示である。
逆に、F:=⨁j=1tMjが有限表示であるとする。有限表示加群は有限生成であるため、命題 4.1により各Mjは有限生成である。固定したjに対して、座標射影F→Mjの核は
Nj:=1≤ℓ≤tℓ=j⨁Mℓである。ほかの成分も有限生成であり、成分の個数は有限であるため、命題 4.1によりNjは有限生成である。(1)をF/Nj≅Mjに適用すると、Mjは有限表示である。▨
5 有限生成であるが有限表示でない部分加群
有限表示加群の有限生成部分加群が有限表示であるとは限らない。以下では、無限次元ベクトル空間を平方零イデアルとして付け加えた環を用いて反例を構成する。
例 5.1 (有限表示でない一元生成イデアル).kを体とし、
B:={x}⊔{y1,y2,…}と置く。V:=k(B)をB上の自由k線形空間とし、その標準基底を
ex,ey1,ey2,…と書く。加法群としてR:=k⊕Vと置き、積を
(a,u)(b,v):=(ab,av+bu)(a,b∈k, u,v∈V)によって定める。
この積はRを単位的可換環にする。分配律はkの分配律とVのk線形性から従う。結合律は、任意の(a,u),(b,v),(c,w)∈Rに対して、二通りの積がともに
(abc,abw+acv+bcu)となることから従う。単位元は(1,0)であり、積の表示が二つの因子について対称であるため可換である。部分集合
m:=0⊕Vはイデアルである。実際、mは加法部分群であり、任意の(a,u)∈Rと(0,v)∈mに対して
(a,u)(0,v)=(0,av)∈mとなる。また、
(0,u)(0,v)=(0,0)であるためm2=0である。
ξ:=(0,ex)∈Rとし、左正則加群RRの部分加群
I:=Rξを考える。任意の(a,u)∈Rに対して
(a,u)ξ=(0,aex)であるため、I=kξである。特にIは一元ξによって生成される。また、ex=0であるため、
(a,u)ξ=0⟺a=0であり、
annR(ξ):={r∈R∣rξ=0}=mとなる。
次に、mが左R加群として有限生成でないことを示す。有限個の元(0,u1),…,(0,ut)∈mを任意に取る。r=(a,v)∈Rに対して
r(0,ui)=(0,aui)であるため、これらの元が生成するR部分加群は、u1,…,utのk線形包に等しい。各ui∈k(B)の台は有限であるため、その有限個の台の和集合も有限である。したがって、あるN≥1が存在してeyNはこの和集合に現れない。このとき(0,eyN)はu1,…,utのk線形包に属さない。よって任意の有限族はmを生成せず、mは有限生成でない。
左R線形写像
π:R=R1⟶I,r⟼rξは全射であり、その核はannR(ξ)=mである。仮にIが有限表示ならば、命題 2.3をこの全射に適用することによりmが有限生成となるが、mの有限生成性は上の結論に反する。したがってIは有限生成であるが有限表示でない。
一方、左正則加群RRは階数一の自由加群であり、
R0⟶R1 idR R⟶0が有限表示を与える。したがってIは、有限表示加群Rの有限生成部分加群であるにもかかわらず有限表示ではない。
6 演習
問題 6.1 (有限生成加群と有限表示加群の確認). 次の各問に答えよ。
- 左R加群Mが有限生成であるという定義から、有限族x1,…,xnの左一次結合でM全体を表せることを導き、逆向きも証明せよ。n=0の場合も述べよ。
- 右R加群について、有限階数自由右加群からの全射が存在することと、有限族x1,…,xnによってM=x1R+⋯+xnRとなることの同値を証明せよ。
- 非零有限生成左加群の真の部分加群全体に Zorn の補題を適用せよ。鎖の和が真であることを有限生成性から示し、右加群版を反対環から導け。
- 有限表示性について、有限完全列、有限階数自由加群からの全射の有限生成核、および有限生成系の有限生成関係加群という三条件が同値であることを証明せよ。
- Mが有限表示であるとき、任意の全射φ:Rn→Mの核が有限生成であることを、二つの持ち上げ写像を構成して証明せよ。
- A∈Matm×n(R)に対して(xA)j=∑ixiaijと定めた写像が左R線形であることを示し、(xA)B=x(AB)を係数の順序を変えずに証明せよ。また、例 3.2で左乗法が左線形でないことを直接確認せよ。
- 有限表示Rmx↦xARn→M→0において、Aの各行が関係式を与え、すべての関係がそれらの行の左一次結合になることを証明せよ。
- 有限生成加群の商が有限生成であることを証明せよ。また、有限直和が有限生成であることと各成分が有限生成であることの同値を証明せよ。
- Mが有限表示でN⊆Mが有限生成であるとき、M/Nが有限表示であることを証明せよ。特に、全射Rn→M/Nの核を具体的に記述せよ。
- 有限直和が有限表示であることと各成分が有限表示であることの同値を証明せよ。
- 例 5.1について、Rの結合律と単位元、m2=0、kerπ=m、mの非有限生成性、Iの非有限表示性、およびR自身の有限表示性を順に確認せよ。
- Rm≅Rnからm=nが従わない環が存在しても、本記事の有限生成性と有限表示性の定義が有効である理由を述べよ。
解答 (演習の解答).
- 定義から全射π:Rn→Mを取ると、π(e1),…,π(en)がMを生成する。逆にx1,…,xnがMを生成するならば、自由加群の普遍性によりei↦xiを線形に延長した写像Rn→Mは全射である。n=0のときR0=0であり、0→Mが全射であることはM=0と同値である。
- 全射π:Rn→Mがあれば、π(e1),…,π(en)がMを右から生成する。逆に右生成族xiがあれば、右自由加群の普遍性によってei↦xiを指定する全射を得る。係数は常に生成元の右側に置く。
- 真の左部分加群全体は0を含む。鎖の和Uは部分加群である。もしU=Mならば有限生成族の各元は鎖のある元に属し、それら有限個の部分加群の最大のものが生成族全体を含むためMに等しくなる。鎖のある元がMに等しいという結論は、鎖の各元が真の部分加群であることに反する。よって Zorn の補題から極大部分加群を得る。右加群を左Rop加群とみなせば右版が従う。
- 有限完全列RmαRnπM→0があれば、kerπ=imαはα(e1),…,α(em)によって生成される。逆に、kerπがz1,…,zmによって生成されるならば、ej↦zjを線形に延長した写像の像はkerπであり、有限完全列を得る。生成族xiの座標写像πxについてkerπx=Rel(x1,…,xn)であるため、残る同値も従う。
- 有限生成核Kをもつ全射p:Rq→Mを取る。標準基底の像を全射によって持ち上げ、φu=pを満たすu:Rq→Rnとpv=φを満たすv:Rn→Rqを構成する。d=idRn−uvと置くとd(Rn)⊆kerφである。Kがk1,…,ksによって生成されるならば、x∈kerφに対してv(x)∈Kかつx=uv(x)+d(x)である。したがってkerφはu(k1),…,u(ks),d(e1),…,d(en)によって生成される。
- 各jについて((rx)A)j=∑i(rxi)aij=r∑ixiaijであるため右乗法は左線形である。A=(aij)、B=(bjk)ならば、
((xA)B)k=j∑(i∑xiaij)bjk=i∑xi(j∑aijbjk)=(x(AB))k
であり、(xA)B=x(AB)となる。例のp,qについて、右乗法は(rx)q=r(xq)を満たす。一方、左乗法ではqpとp(q1R)=pqが一致せず、qp=pqである。
- 第i行はeiAであり、完全性からeiA∈kerπである。したがって∑jaijxj=0となる。任意の関係b∈kerπはb=cAと書かれ、cAはAの各行を左係数ciで一次結合した行である。
- Mの生成元xiの像xi+NがM/Nを生成する。各Mjの有限生成族を標準包含で直和へ移すと、その有限個の合併が直和を生成する。逆に、各Mjは直和からの座標射影による商であるため有限生成である。
- 有限生成核Kをもつ全射π:Rn→Mを取り、Nの生成元yℓをyℓ∈Rnへ持ち上げる。商写像をq:M→M/Nとすると、
ker(qπ)=K+ℓ∑Ryℓ
である。右辺が核に含まれることは直ちに従う。逆にqπ(z)=0ならば、π(z)=∑ℓaℓyℓと書くことができ、z−∑ℓaℓyℓ∈Kとなる。よって核は有限生成であり、M/Nは有限表示である。
- 各成分について有限自由全射Rnj→Mjと有限生成核Kjを取る。有限直和を取ると、始域は有限階数自由加群、核は有限生成加群⨁jKjになるため、直和は有限表示である。逆に直和Fが有限表示ならば有限生成でもあり、各成分とほかの成分の有限直和は有限生成である。座標射影の核であるほかの成分の直和をNjとすると、商F/Nj≅Mjは有限表示である。
- 三つの元の積をどちらから計算しても(abc,abw+acv+bcu)となり、(1,0)が単位元である。(0,u)(0,v)=0であるためm2=0である。π(a,u)=(0,aex)なのでkerπ=0⊕V=mとなる。mの有限個の元が生成する部分加群は、それらのV成分の有限次元k線形包であり、有限個の台の外にあるeyNを含まない。よってmは有限生成でない。Iが有限表示ならば全射R→Iの核は有限生成となるため矛盾する。一方、Rは階数一の自由左加群であり、零核をもつ恒等写像R→Rが有限表示を与える。
- いずれの定義も、有限のnまたは有限の組(m,n)が存在することだけを要求し、その値の一意性や最小性を要求しない。したがって異なる有限階数の自由加群が同型になる場合にも定義は有効である。零環では左加群が零加群だけになり、R0を用いた定義と整合する。
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7 後続記事との関係
本記事では、有限生成加群と有限表示加群を自由加群からの全射とその核によって区別し、有限表示を行列と有限個の関係式によって記述した。後続記事では、有限生成性を局所的な条件と結び付ける場合や、環または加群に追加の有限性条件を課した場合の部分加群の挙動を扱う。