§E6.14テンソル積と Hom–tensor 対応

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二つの加群の元を同時に用いる加法的な操作では、一方の右作用と他方の左作用を同じものとして扱う必要がある。この型の写像を平衡写像といい、平衡写像の全体は、二つの Hom を重ねたアーベル群と同型になる。テンソル積は、平衡写像の全体を、一つの右SS加群から出る準同型の全体として表す対象である。本記事では、テンソル積をこの普遍性によって定義し、存在を第一因子の自由表示から構成する。構成は、第一因子が基底をもつ自由加群である場合を先に扱う。この場合には、基底の係数を平衡関係によって第二因子へ移すことができるため、第二因子を基底の個数だけ直和すればよい。一般の場合には第一因子を自由加群の間の準同型の余核として表示し、テンソル積を対応する余核として定める。この構成では、テンソル積の右完全性が構成の等式そのものとして現れる。続いて構造同型と Hom–tensor 対応を証明し、固定した双加群とのテンソル積が右完全であること、および可換環上の加群の局所化が完全列を保つことを証明する。

本記事の前半では、R,S,TR,S,Tを単位元をもつ結合環とする。MMは右RR加群、NNは左RR・右SS双加群とする。すなわちNNには左RR作用と右SS作用があり、任意のr∈Rr\in R、n∈Nn\in N、s∈Ss\in Sに対して

(rn)s=r(ns)(rn)s=r(ns)

が成り立つ。環と加群の定義には§E6.1 定義 1.1と§E6.2 定義 1.2を、核、像、商加群および完全列には§E6.2 命題 4.2、§E6.2 定義 3.1、§E6.9 定義 1.1を用いる。自由加群、基底および反対環には§E6.10 定義 1.1、§E6.10 定義 1.6と§E6.1 定義 4.1を、反変 Hom が余核を核へ移すことには§E6.13 系 5.1を用いる。

1 平衡写像

非可換環上では、二つの因子をともに左加群とするだけでは平衡関係を書くことができない。第一因子を右RR加群、第二因子を左RR加群とすることで、(mr,n)(mr,n)と(m,rn)(m,rn)を比較することができる。

定義 1.1.PPを右SS加群とする。写像b ⁣:M×N→Pb\colon M\times N\to Pが右SS作用と可換するRR-平衡写像 (R-balanced map commuting with the right S-action) であるとは、任意のm,m′∈Mm,m'\in M、n,n′∈Nn,n'\in N、r∈Rr\in R、s∈Ss\in Sに対して

b(m+m′,n)=b(m,n)+b(m′,n),b(m,n+n′)=b(m,n)+b(m,n′),b(mr,n)=b(m,rn),b(m,ns)=b(m,n)s\begin{aligned} b(m+m',n)&=b(m,n)+b(m',n),\\ b(m,n+n')&=b(m,n)+b(m,n'),\\ b(mr,n)&=b(m,rn),\\ b(m,ns)&=b(m,n)s \end{aligned}

が成り立つことをいう。この条件を満たす写像の全体を

Bal⁡RS(M,N;P)\operatorname{Bal}_R^S(M,N;P)

と書く。

Bal⁡RS(M,N;P)\operatorname{Bal}_R^S(M,N;P)は、点ごとの加法

(b+b′)(m,n):=b(m,n)+b′(m,n)(b+b')(m,n):=b(m,n)+b'(m,n)

によってアーベル群になる。定義の四つの等式はいずれも両辺がbbについて加法的であるため、和と加法逆元は再び同じ四つの等式を満たす。零写像が零元である。

2 平衡写像のなすアーベル群と反復 Hom

平衡写像bbの第一変数を固定すると、NNからPPへの右SS線形写像b(m,−)b(m,-)が得られる。この対応をMM上の写像として読むためには、Hom⁡S(N,P)\operatorname{Hom}_S(N,P)に右RR加群の構造が必要である。NNの左RR作用が Hom の右RR作用へ移り、作用の向きが反転する点が重要である。

命題 2.1.NNを左RR・右SS双加群、PPを右SS加群とする。アーベル群

H:=Hom⁡S(N,P)H:=\operatorname{Hom}_S(N,P)

に対して

(h⋅r)(n):=h(rn)(h∈H, r∈R, n∈N)(h\cdot r)(n):=h(rn) \qquad (h\in H,\ r\in R,\ n\in N)

と定めると、h⋅rh\cdot rは右SS線形写像であり、この式はHHを右RR加群にする。

証明.h∈Hh\in Hとr∈Rr\in Rを固定する。任意のn,n′∈Nn,n'\in Nとs∈Ss\in Sに対して

(h⋅r)(n+n′)=h(rn+rn′)=(h⋅r)(n)+(h⋅r)(n′),(h⋅r)(ns)=h(r(ns))=h((rn)s)=h(rn)s=(h⋅r)(n)s\begin{aligned} (h\cdot r)(n+n') &=h(rn+rn') =(h\cdot r)(n)+(h\cdot r)(n'),\\ (h\cdot r)(ns) &=h(r(ns)) =h((rn)s) =h(rn)s =(h\cdot r)(n)s \end{aligned}

である。したがってh⋅r∈Hom⁡S(N,P)h\cdot r\in\operatorname{Hom}_S(N,P)である。

作用の加法性は点ごとに従う。乗法との整合性について、r1,r2∈Rr_1,r_2\in Rに対して

((h⋅r1)⋅r2)(n)=(h⋅r1)(r2n)=h(r1(r2n))=h((r1r2)n)=(h⋅(r1r2))(n)((h\cdot r_1)\cdot r_2)(n) =(h\cdot r_1)(r_2n) =h(r_1(r_2n)) =h((r_1r_2)n) =(h\cdot(r_1r_2))(n)

である。また(h⋅1R)(n)=h(n)(h\cdot1_R)(n)=h(n)である。よって右RR加群のすべての公理が成り立つ。▨

次の命題は、平衡写像の全体が、テンソル積を用いずに二つの Hom を重ねた形で表されることを述べる。本記事の構成では、この同型がテンソル積の普遍性を検査するための道具になる。

命題 2.2.MMを右RR加群、NNを左RR・右SS双加群、PPを右SS加群とし、Hom⁡S(N,P)\operatorname{Hom}_S(N,P)には命題 2.1の右RR加群構造を入れる。このとき

ΛM,N,P ⁣:Bal⁡RS(M,N;P)→ ≅ Hom⁡R(M,Hom⁡S(N,P)),(ΛM,N,P(b)(m))(n):=b(m,n)\Lambda_{M,N,P}\colon \operatorname{Bal}_R^S(M,N;P) \xrightarrow{\ \cong\ } \operatorname{Hom}_R\bigl(M,\operatorname{Hom}_S(N,P)\bigr), \qquad \bigl(\Lambda_{M,N,P}(b)(m)\bigr)(n):=b(m,n)

はアーベル群の同型である。逆写像は

(ΛM,N,P−1(G))(m,n):=G(m)(n)\bigl(\Lambda_{M,N,P}^{-1}(G)\bigr)(m,n):=G(m)(n)

で与えられる。

さらに、次の二つの可換性が成り立つ。

  1. 右RR線形写像a ⁣:M′→Ma\colon M'\to Mとb∈Bal⁡RS(M,N;P)b\in\operatorname{Bal}_R^S(M,N;P)に対して、b∘(a×1N)∈Bal⁡RS(M′,N;P)b\circ(a\times1_N)\in\operatorname{Bal}_R^S(M',N;P)であり ΛM′,N,P(b∘(a×1N))=ΛM,N,P(b)∘a\Lambda_{M',N,P}\bigl(b\circ(a\times1_N)\bigr) =\Lambda_{M,N,P}(b)\circ a が成り立つ。
  2. 右SS線形写像c ⁣:P→P′c\colon P\to P'とb∈Bal⁡RS(M,N;P)b\in\operatorname{Bal}_R^S(M,N;P)に対して、c∘b∈Bal⁡RS(M,N;P′)c\circ b\in\operatorname{Bal}_R^S(M,N;P')であり、任意のm∈Mm\in Mについて ΛM,N,P′(c∘b)(m)=c∘ΛM,N,P(b)(m)\Lambda_{M,N,P'}(c\circ b)(m) =c\circ\Lambda_{M,N,P}(b)(m) が成り立つ。

証明.b∈Bal⁡RS(M,N;P)b\in\operatorname{Bal}_R^S(M,N;P)を取り、m∈Mm\in Mを固定する。定義の第二の等式からn↦b(m,n)n\mapsto b(m,n)は加法的であり、第四の等式b(m,ns)=b(m,n)sb(m,ns)=b(m,n)sから右SS線形である。したがってΛM,N,P(b)(m)∈Hom⁡S(N,P)\Lambda_{M,N,P}(b)(m)\in\operatorname{Hom}_S(N,P)である。定義の第一の等式から、m↦ΛM,N,P(b)(m)m\mapsto\Lambda_{M,N,P}(b)(m)は加法的である。さらに、任意のr∈Rr\in Rとn∈Nn\in Nに対して

(ΛM,N,P(b)(mr))(n)=b(mr,n)=b(m,rn)=(ΛM,N,P(b)(m))(rn)=(ΛM,N,P(b)(m)⋅r)(n)\begin{aligned} \bigl(\Lambda_{M,N,P}(b)(mr)\bigr)(n) &=b(mr,n)\\ &=b(m,rn)\\ &=\bigl(\Lambda_{M,N,P}(b)(m)\bigr)(rn)\\ &=\bigl(\Lambda_{M,N,P}(b)(m)\cdot r\bigr)(n) \end{aligned}

である。第二の等号は定義の第三の等式、第四の等号は命題 2.1の作用の定義による。よってΛM,N,P(b)\Lambda_{M,N,P}(b)は右RR線形であり、ΛM,N,P\Lambda_{M,N,P}は表示した終域への写像を定める。ΛM,N,P(b+b′)=ΛM,N,P(b)+ΛM,N,P(b′)\Lambda_{M,N,P}(b+b')=\Lambda_{M,N,P}(b)+\Lambda_{M,N,P}(b')は点ごとの評価から従うため、ΛM,N,P\Lambda_{M,N,P}はアーベル群準同型である。

逆向きにG∈Hom⁡R(M,Hom⁡S(N,P))G\in\operatorname{Hom}_R(M,\operatorname{Hom}_S(N,P))を取り、

bG(m,n):=G(m)(n)b_G(m,n):=G(m)(n)

と定める。GGの加法性からbGb_Gは第一変数について加法的であり、各G(m)G(m)の加法性から第二変数について加法的である。GGの右RR線形性と Hom 上の右RR作用の定義から

bG(mr,n)=G(mr)(n)=(G(m)⋅r)(n)=G(m)(rn)=bG(m,rn)\begin{aligned} b_G(mr,n) &=G(mr)(n)\\ &=(G(m)\cdot r)(n)\\ &=G(m)(rn)\\ &=b_G(m,rn) \end{aligned}

である。また、G(m)G(m)の右SS線形性から

bG(m,ns)=G(m)(ns)=G(m)(n)s=bG(m,n)sb_G(m,ns)=G(m)(ns)=G(m)(n)s=b_G(m,n)s

である。したがってbG∈Bal⁡RS(M,N;P)b_G\in\operatorname{Bal}_R^S(M,N;P)である。二つの対応はどちらの順に合成しても値b(m,n)b(m,n)とG(m)(n)G(m)(n)を保つため互いに逆であり、ΛM,N,P\Lambda_{M,N,P}は同型である。

二つの可換性を確かめる。b∘(a×1N)b\circ(a\times1_N)は、定義の四つの等式をaaの右RR線形性によって受け継ぐため平衡写像である。両辺をm′∈M′m'\in M'とn∈Nn\in Nに対して評価すると、どちらもb(a(m′),n)b(a(m'),n)になる。同様に、c∘bc\circ bはccの右SS線形性によって平衡写像であり、両辺をmmとnnに対して評価するとどちらもc(b(m,n))c(b(m,n))になる。▨

3 テンソル積の定義

テンソル積は、平衡写像を右SS線形写像へ変換する対象として定義する。定義は対象を構成せずに条件によって指定するため、一意性と存在を別に証明する必要がある。

定義 3.1. 右SS加群VVと平衡写像τ∈Bal⁡RS(M,N;V)\tau\in\operatorname{Bal}_R^S(M,N;V)の組(V,τ)(V,\tau)がMMとNNのRR上のテンソル積 (tensor product over R) であるとは、次の普遍性を満たすことをいう。

任意の右SS加群PPと任意のb∈Bal⁡RS(M,N;P)b\in\operatorname{Bal}_R^S(M,N;P)に対して、

b~∘τ=b\widetilde b\circ\tau=b

を満たす右SS線形写像b~ ⁣:V→P\widetilde b\colon V\to Pがただ一つ存在する。

同じことを Hom で書くと、任意の右SS加群PPに対して

Hom⁡S(V,P)⟶Bal⁡RS(M,N;P),G⟼G∘τ\operatorname{Hom}_S(V,P)\longrightarrow\operatorname{Bal}_R^S(M,N;P), \qquad G\longmapsto G\circ\tau

が全単射であることをいう。命題 2.2の同型と合わせると、この条件は、任意の右SS加群PPに対してアーベル群の同型

Hom⁡S(V,P)≅Hom⁡R(M,Hom⁡S(N,P))\operatorname{Hom}_S(V,P) \cong \operatorname{Hom}_R\bigl(M,\operatorname{Hom}_S(N,P)\bigr)

が成り立ち、その同型がPPの右SS線形写像と可換することと同じである。

命題 3.2.

  1. (V,τ)(V,\tau)と(V′,τ′)(V',\tau')がともにMMとNNのRR上のテンソル積であるとする。このときθ∘τ=τ′\theta\circ\tau=\tau'を満たす右SS加群の同型θ ⁣:V→V′\theta\colon V\to V'がただ一つ存在する。
  2. (V,τ)(V,\tau)をMMとNNのRR上のテンソル積とする。このときτ\tauの像{τ(m,n)∣m∈M, n∈N}\{\tau(m,n)\mid m\in M,\ n\in N\}はVVを加法群として生成する。

証明. 1.(V,τ)(V,\tau)の普遍性をτ′∈Bal⁡RS(M,N;V′)\tau'\in\operatorname{Bal}_R^S(M,N;V')へ適用すると、θ∘τ=τ′\theta\circ\tau=\tau'を満たす右SS線形写像θ ⁣:V→V′\theta\colon V\to V'がただ一つ定まる。(V′,τ′)(V',\tau')の普遍性をτ\tauへ適用すると、θ′∘τ′=τ\theta'\circ\tau'=\tauを満たす右SS線形写像θ′ ⁣:V′→V\theta'\colon V'\to Vが定まる。このとき

(θ′∘θ)∘τ=θ′∘τ′=τ=1V∘τ(\theta'\circ\theta)\circ\tau=\theta'\circ\tau'=\tau =1_V\circ\tau

であり、(V,τ)(V,\tau)の普遍性における一意性からθ′∘θ=1V\theta'\circ\theta=1_Vである。同じ議論によりθ∘θ′=1V′\theta\circ\theta'=1_{V'}である。よってθ\thetaは同型であり、条件θ∘τ=τ′\theta\circ\tau=\tau'を満たす写像としての一意性は普遍性そのものである。

2.τ\tauの像が生成するVVの部分加法群をV0V_0と置く。任意のs∈Ss\in Sに対してτ(m,n)s=τ(m,ns)\tau(m,n)s=\tau(m,ns)が成り立つため、V0V_0は右SS部分加群である。τ\tauの終域をV0V_0へ制限した写像σ ⁣:M×N→V0\sigma\colon M\times N\to V_0は、定義の四つの等式を値ごとに受け継ぐため平衡写像である。普遍性により、φ∘τ=σ\varphi\circ\tau=\sigmaを満たす右SS線形写像φ ⁣:V→V0\varphi\colon V\to V_0が存在する。包含写像をj ⁣:V0→Vj\colon V_0\to Vとすると

(j∘φ)∘τ=j∘σ=τ=1V∘τ(j\circ\varphi)\circ\tau=j\circ\sigma=\tau=1_V\circ\tau

であるから、普遍性の一意性によりj∘φ=1Vj\circ\varphi=1_Vである。したがってjjは全射であり、V0=VV_0=Vである。▨

4 第一因子が自由加群である場合の存在

存在の証明は二段に分ける。第一段では、第一因子が基底をもつ場合に、第二因子を基底の個数だけ直和したものがテンソル積になることを示す。基底の係数は、平衡関係によって第二因子へ移すことができるからである。

右加群は反対環§E6.1 定義 4.1上の左加群であるため、§E6.10 定義 1.6をRopR^{\mathrm{op}}へ適用すると、右加群の基底と自由性が同じ形で得られる。以下ではこの読み替えによって得られる次の規約を用いる。

定義 4.1. 右RR加群FFの元の族(ex)x∈X(e_x)_{x\in X}がFFの基底 (basis of a right module) であるとは、任意のm∈Fm\in Fに対して、有限台をもつ係数関数a ⁣:X→Ra\colon X\to Rで

m=∑x∈Xexa(x)m=\sum_{x\in X}e_xa(x)

を満たすものがただ一つ存在することをいう。基底をもつ右RR加群を自由右RR加群 (free right R-module) という。

集合XXに対して、有限台関数の全体R(X)R^{(X)}に成分ごとの加法と(ar)(x):=a(x)r(ar)(x):=a(x)rによる右RR作用を入れたものを、XX上の自由右RR加群という。標準元の族(δx)x∈X(\delta_x)_{x\in X}はその基底である。

定理 4.2.FFを自由右RR加群、(ex)x∈X(e_x)_{x\in X}をその基底とする。m∈Fm\in Fに対して、m=∑x∈Xexam(x)m=\sum_{x\in X}e_xa_m(x)を満たす一意な有限台の係数関数をama_mと書く。直和

VF:=⨁x∈XNV_F:=\bigoplus_{x\in X}N

に成分ごとの右SS作用を入れ、

τF ⁣:F×N⟶VF,τF(m,n):=(am(x)n)x∈X\tau_F\colon F\times N\longrightarrow V_F, \qquad \tau_F(m,n):=\bigl(a_m(x)n\bigr)_{x\in X}

と定める。このとき(VF,τF)(V_F,\tau_F)はFFとNNのRR上のテンソル積である。

証明.ama_mは有限台をもつため、am(x)na_m(x)nが零でない添字は有限個であり、τF(m,n)\tau_F(m,n)は直和に属する。

表示の一意性から、係数関数は

am+m′=am+am′,amr(x)=am(x)ra_{m+m'}=a_m+a_{m'}, \qquad a_{mr}(x)=a_m(x)r

を満たす。第二の等式は、∑xex(am(x)r)=(∑xexam(x))r=mr\sum_xe_x(a_m(x)r)=\bigl(\sum_xe_xa_m(x)\bigr)r=mrがmrmrの表示であることによる。したがって、任意のm,m′∈Fm,m'\in F、n,n′∈Nn,n'\in N、r∈Rr\in R、s∈Ss\in Sに対して

τF(m+m′,n)=((am(x)+am′(x))n)x=τF(m,n)+τF(m′,n),τF(m,n+n′)=(am(x)(n+n′))x=τF(m,n)+τF(m,n′),τF(mr,n)=((am(x)r)n)x=(am(x)(rn))x=τF(m,rn),τF(m,ns)=(am(x)(ns))x=((am(x)n)s)x=τF(m,n)s\begin{aligned} \tau_F(m+m',n) &=\bigl((a_m(x)+a_{m'}(x))n\bigr)_x =\tau_F(m,n)+\tau_F(m',n),\\ \tau_F(m,n+n') &=\bigl(a_m(x)(n+n')\bigr)_x =\tau_F(m,n)+\tau_F(m,n'),\\ \tau_F(mr,n) &=\bigl((a_m(x)r)n\bigr)_x =\bigl(a_m(x)(rn)\bigr)_x =\tau_F(m,rn),\\ \tau_F(m,ns) &=\bigl(a_m(x)(ns)\bigr)_x =\bigl((a_m(x)n)s\bigr)_x =\tau_F(m,n)s \end{aligned}

である。第三の等式には左RR作用の結合律を、第四の等式には双加群の等式(rn)s=r(ns)(rn)s=r(ns)を用いた。よってτF∈Bal⁡RS(F,N;VF)\tau_F\in\operatorname{Bal}_R^S(F,N;V_F)である。

ιx ⁣:N→VF\iota_x\colon N\to V_Fを第xx成分への標準包含とする。aexa_{e_x}はxxで1R1_R、ほかで00を取るため

τF(ex,n)=ιx(n)\tau_F(e_x,n)=\iota_x(n)

である。直和の各元は有限個のιx(nx)\iota_x(n_x)の和であるから、τF\tau_Fの像はVFV_Fを加法群として生成する。

普遍性を示す。PPを右SS加群、b∈Bal⁡RS(F,N;P)b\in\operatorname{Bal}_R^S(F,N;P)とし、

b~ ⁣:VF⟶P,b~((nx)x∈X):=∑x∈Xb(ex,nx)\widetilde b\colon V_F\longrightarrow P, \qquad \widetilde b\bigl((n_x)_{x\in X}\bigr):=\sum_{x\in X}b(e_x,n_x)

と定める。(nx)x(n_x)_xは有限台をもつため右辺は有限和であり、bbの第二変数についての加法性からb~\widetilde bは加法的である。b(ex,nxs)=b(ex,nx)sb(e_x,n_xs)=b(e_x,n_x)sからb~\widetilde bは右SS線形である。さらに、任意のm∈Fm\in Fとn∈Nn\in Nに対して

b~(τF(m,n))=∑xb(ex,am(x)n)=∑xb(exam(x),n)=b(∑xexam(x),n)=b(m,n)\begin{aligned} \widetilde b(\tau_F(m,n)) &=\sum_{x}b\bigl(e_x,a_m(x)n\bigr)\\ &=\sum_{x}b\bigl(e_xa_m(x),n\bigr)\\ &=b\Bigl(\sum_{x}e_xa_m(x),n\Bigr)\\ &=b(m,n) \end{aligned}

である。第二の等号は平衡関係、第三の等号は第一変数についての加法性による(いずれも有限和である)。よってb~∘τF=b\widetilde b\circ\tau_F=bが成り立つ。

一意性を示す。b~\widetilde bとb~′\widetilde b'がともにb~∘τF=b=b~′∘τF\widetilde b\circ\tau_F=b=\widetilde b'\circ\tau_Fを満たすとすると、両者はτF\tau_Fの像の上で一致する。τF\tau_Fの像はVFV_Fを加法群として生成し、二つの写像はともに加法的であるから、b~=b~′\widetilde b=\widetilde b'である。したがって(VF,τF)(V_F,\tau_F)は普遍性を満たす。▨

5 一般の場合の存在

第二段では、任意の右RR加群を自由加群の間の準同型の余核として表示し、テンソル積を対応する余核として定める。普遍性は、反変 Hom がこの余核を核へ移すことと、自由加群の場合にすでに得た同型から従う。

命題 5.1. 任意の右RR加群MMに対して、自由右RR加群F0F_0、F1F_1と右RR線形写像u ⁣:F1→F0u\colon F_1\to F_0、π ⁣:F0→M\pi\colon F_0\to Mで、列

F1→ u F0→ π M⟶0F_1\xrightarrow{\ u\ }F_0 \xrightarrow{\ \pi\ }M \longrightarrow0

を完全にするものが存在する。

証明.MMの台集合をXXとし、F0F_0をXX上の自由右RR加群とする。§E6.10 補題 1.4をRopR^{\mathrm{op}}へ適用すると、標準元δm\delta_mをm∈Mm\in Mへ送る右RR線形写像π ⁣:F0→M\pi\colon F_0\to Mがただ一つ定まる。任意のm∈Mm\in Mはπ(δm)\pi(\delta_m)と書くことができるため、π\piは全射である。

次にker⁡π\ker\piの台集合をYYとし、F1F_1をYY上の自由右RR加群、u ⁣:F1→F0u\colon F_1\to F_0を標準元δk\delta_kをk∈ker⁡πk\in\ker\piへ送る右RR線形写像とする。im⁡u\operatorname{im}uはker⁡π\ker\piの元をすべて含む部分加群であり、ker⁡π\ker\piに含まれるから、im⁡u=ker⁡π\operatorname{im}u=\ker\piである。したがって表示した列は完全である。▨

定理 5.2. 任意の右RR加群MMと任意の左RR・右SS双加群NNに対して、MMとNNのRR上のテンソル積が存在する。

具体的には、命題 5.1の自由表示F1→uF0→πM→0F_1\xrightarrow{u}F_0\xrightarrow{\pi}M\to0を一つ取り、定理 4.2によるテンソル積(Fi⊗RN,τi)(F_i\otimes_RN,\tau_i)(i=0,1i=0,1)を作る。写像(y,n)↦τ0(u(y),n)(y,n)\mapsto\tau_0(u(y),n)は平衡写像であるから、F1F_1に対する普遍性により右SS線形写像

u⊗1N ⁣:F1⊗RN⟶F0⊗RN,(u⊗1N)(τ1(y,n))=τ0(u(y),n)u\otimes1_N\colon F_1\otimes_RN\longrightarrow F_0\otimes_RN, \qquad (u\otimes1_N)(\tau_1(y,n))=\tau_0(u(y),n)

がただ一つ定まる。この写像の余核と自然な全射を

V:=F0⊗RNim⁡(u⊗1N),q ⁣:F0⊗RN⟶VV:=\frac{F_0\otimes_RN}{\operatorname{im}(u\otimes1_N)}, \qquad q\colon F_0\otimes_RN\longrightarrow V

と書き、m∈Mm\in Mのπ\piによる持ち上げx∈F0x\in F_0を用いて

τ(m,n):=q(τ0(x,n))\tau(m,n):=q(\tau_0(x,n))

と定める。このとき(V,τ)(V,\tau)はMMとNNのRR上のテンソル積である。

証明. τ\tauが well-defined であること。π\piは全射であるから、各m∈Mm\in Mに対して持ち上げx∈F0x\in F_0が存在する。π(x)=π(x′)=m\pi(x)=\pi(x')=mとするとx−x′∈ker⁡π=im⁡ux-x'\in\ker\pi=\operatorname{im}uであるため、x−x′=u(y)x-x'=u(y)を満たすy∈F1y\in F_1が存在する。τ0\tau_0は第一変数について加法的であるから

τ0(x,n)−τ0(x′,n)=τ0(u(y),n)=(u⊗1N)(τ1(y,n))∈im⁡(u⊗1N)\tau_0(x,n)-\tau_0(x',n) =\tau_0(u(y),n) =(u\otimes1_N)(\tau_1(y,n)) \in\operatorname{im}(u\otimes1_N)

であり、q(τ0(x,n))=q(τ0(x′,n))q(\tau_0(x,n))=q(\tau_0(x',n))である。よって値は持ち上げの選び方によらない。

τ\tauが平衡写像であること。m,m′∈Mm,m'\in Mの持ち上げをx,x′x,x'とすると、x+x′x+x'はm+m′m+m'の持ち上げであり、xrxrはmrmrの持ち上げである。τ0\tau_0が平衡写像でありqqが右SS線形であることから

τ(m+m′,n)=q(τ0(x+x′,n))=τ(m,n)+τ(m′,n),τ(m,n+n′)=q(τ0(x,n+n′))=τ(m,n)+τ(m,n′),τ(mr,n)=q(τ0(xr,n))=q(τ0(x,rn))=τ(m,rn),τ(m,ns)=q(τ0(x,n)s)=τ(m,n)s\begin{aligned} \tau(m+m',n)&=q(\tau_0(x+x',n))=\tau(m,n)+\tau(m',n),\\ \tau(m,n+n')&=q(\tau_0(x,n+n'))=\tau(m,n)+\tau(m,n'),\\ \tau(mr,n)&=q(\tau_0(xr,n))=q(\tau_0(x,rn))=\tau(m,rn),\\ \tau(m,ns)&=q(\tau_0(x,n)s)=\tau(m,n)s \end{aligned}

である。よってτ∈Bal⁡RS(M,N;V)\tau\in\operatorname{Bal}_R^S(M,N;V)である。

普遍性。PPを右SS加群とし、H:=Hom⁡S(N,P)H:=\operatorname{Hom}_S(N,P)と置く。示すべきことは、G↦G∘τG\mapsto G\circ\tauがHom⁡S(V,P)\operatorname{Hom}_S(V,P)からBal⁡RS(M,N;P)\operatorname{Bal}_R^S(M,N;P)への全単射であることである。右SS加群は反対環SopS^{\mathrm{op}}上の左加群であり、Hom⁡S(−,P)\operatorname{Hom}_S(-,P)はその左加群としての Hom と同じアーベル群であるから、§E6.13 系 5.1を右SS加群の完全列へ適用することができる。

第一に、完全列

F1⊗RN→ u⊗1N F0⊗RN→ q V⟶0F_1\otimes_RN \xrightarrow{\ u\otimes1_N\ } F_0\otimes_RN \xrightarrow{\ q\ }V \longrightarrow0

へ§E6.13 系 5.1を適用すると、アーベル群の完全列

0⟶Hom⁡S(V,P)→ q∗ Hom⁡S(F0⊗RN,P)→ (u⊗1N)∗ Hom⁡S(F1⊗RN,P)0\longrightarrow\operatorname{Hom}_S(V,P) \xrightarrow{\ q^*\ }\operatorname{Hom}_S(F_0\otimes_RN,P) \xrightarrow{\ (u\otimes1_N)^*\ }\operatorname{Hom}_S(F_1\otimes_RN,P)

を得る。すなわちq∗q^*はHom⁡S(V,P)\operatorname{Hom}_S(V,P)をker⁡(u⊗1N)∗\ker(u\otimes1_N)^*の上へ全単射に移す。

第二に、i=0,1i=0,1に対して写像

Ξi ⁣:Hom⁡S(Fi⊗RN,P)→ ≅ Hom⁡R(Fi,H),(Ξi(G)(x))(n)=G(τi(x,n))\Xi_i\colon \operatorname{Hom}_S(F_i\otimes_RN,P) \xrightarrow{\ \cong\ } \operatorname{Hom}_R(F_i,H), \qquad \bigl(\Xi_i(G)(x)\bigr)(n)=G(\tau_i(x,n))

を考える。これはG↦G∘τiG\mapsto G\circ\tau_iと命題 2.2のΛFi,N,P\Lambda_{F_i,N,P}の合成である。前者は定理 4.2の普遍性により全単射であり、点ごとの加法について加法群準同型である。後者はアーベル群の同型である。したがってΞi\Xi_iはアーベル群の同型である。任意のG∈Hom⁡S(F0⊗RN,P)G\in\operatorname{Hom}_S(F_0\otimes_RN,P)、y∈F1y\in F_1、n∈Nn\in Nに対して

(Ξ1((u⊗1N)∗(G))(y))(n)=G((u⊗1N)(τ1(y,n)))=G(τ0(u(y),n))=(Ξ0(G)(u(y)))(n)=(u∗(Ξ0(G))(y))(n)\begin{aligned} \Bigl(\Xi_1\bigl((u\otimes1_N)^*(G)\bigr)(y)\Bigr)(n) &=G\bigl((u\otimes1_N)(\tau_1(y,n))\bigr)\\ &=G(\tau_0(u(y),n))\\ &=\bigl(\Xi_0(G)(u(y))\bigr)(n)\\ &=\bigl(u^*(\Xi_0(G))(y)\bigr)(n) \end{aligned}

であるから、Ξ1∘(u⊗1N)∗=u∗∘Ξ0\Xi_1\circ(u\otimes1_N)^*=u^*\circ\Xi_0が成り立つ。Ξ1\Xi_1は単射であるため、G∈ker⁡(u⊗1N)∗G\in\ker(u\otimes1_N)^*とΞ0(G)∈ker⁡u∗\Xi_0(G)\in\ker u^*は同値である。したがってΞ0\Xi_0はker⁡(u⊗1N)∗\ker(u\otimes1_N)^*をker⁡u∗\ker u^*の上へ全単射に移す。

第三に、右RR加群の完全列F1→uF0→πM→0F_1\xrightarrow{u}F_0\xrightarrow{\pi}M\to0と右RR加群HHへ同じ§E6.13 系 5.1を適用すると、

0⟶Hom⁡R(M,H)→ π∗ Hom⁡R(F0,H)→ u∗ Hom⁡R(F1,H)0\longrightarrow\operatorname{Hom}_R(M,H) \xrightarrow{\ \pi^*\ }\operatorname{Hom}_R(F_0,H) \xrightarrow{\ u^*\ }\operatorname{Hom}_R(F_1,H)

は完全であり、π∗\pi^*はHom⁡R(M,H)\operatorname{Hom}_R(M,H)をker⁡u∗\ker u^*の上へ全単射に移す。最後に命題 2.2の同型ΛM,N,P\Lambda_{M,N,P}はBal⁡RS(M,N;P)\operatorname{Bal}_R^S(M,N;P)をHom⁡R(M,H)\operatorname{Hom}_R(M,H)の上へ全単射に移す。

以上の四つを合成すると、全単射

Hom⁡S(V,P)→ ≅ ker⁡(u⊗1N)∗→ ≅ ker⁡u∗→ ≅ Hom⁡R(M,H)→ ≅ Bal⁡RS(M,N;P)\operatorname{Hom}_S(V,P) \xrightarrow{\ \cong\ }\ker(u\otimes1_N)^* \xrightarrow{\ \cong\ }\ker u^* \xrightarrow{\ \cong\ }\operatorname{Hom}_R(M,H) \xrightarrow{\ \cong\ }\operatorname{Bal}_R^S(M,N;P)

を得る。この合成がG↦G∘τG\mapsto G\circ\tauに一致することを確かめる。G∈Hom⁡S(V,P)G\in\operatorname{Hom}_S(V,P)の像をbbとすると、構成から

ΛM,N,P(b)∘π=Ξ0(q∗(G))=Ξ0(G∘q)\Lambda_{M,N,P}(b)\circ\pi=\Xi_0(q^*(G))=\Xi_0(G\circ q)

である。m∈Mm\in Mとその持ち上げx∈F0x\in F_0、およびn∈Nn\in Nに対して両辺を評価すると

b(m,n)=(ΛM,N,P(b)(π(x)))(n)=(Ξ0(G∘q)(x))(n)=G(q(τ0(x,n)))=G(τ(m,n))\begin{aligned} b(m,n) &=\bigl(\Lambda_{M,N,P}(b)(\pi(x))\bigr)(n)\\ &=\bigl(\Xi_0(G\circ q)(x)\bigr)(n)\\ &=G\bigl(q(\tau_0(x,n))\bigr)\\ &=G(\tau(m,n)) \end{aligned}

となる。したがってb=G∘τb=G\circ\tauであり、G↦G∘τG\mapsto G\circ\tauは全単射である。よって(V,τ)(V,\tau)はテンソル積である。▨

以後、MMとNNのRR上のテンソル積を一つ固定してM⊗RNM\otimes_RNと書き、標準写像の値τ(m,n)\tau(m,n)をm⊗nm\otimes nと書いて純テンソルという。命題 3.2 (1)により、テンソル積は標準写像と可換な一意的同型を除いて一意であるから、以下で証明する主張はどのテンソル積を取っても成り立つ。

命題 5.3.M⊗RNM\otimes_RNの各元は純テンソルの有限和

∑i=1qmi⊗ni\sum_{i=1}^q m_i\otimes n_i

として表すことができる。ただし、この表示は一般に一意でなく、一つの純テンソルとして表すことができるとは限らない。

証明.命題 3.2 (2)により、純テンソルの全体はM⊗RNM\otimes_RNを加法群として生成する。加法群の生成元による表示は、生成元とその加法逆元の有限和であり、−(m⊗n)=(−m)⊗n-(m\otimes n)=(-m)\otimes nであるから、有限個の純テンソルの和として書くことができる。▨

純テンソルの表示が一意でないため、純テンソル上の式によって写像を定める際には、式の見かけから well-defined 性を推測することができない。定義定義 3.1の平衡性を確認し、普遍性によって写像を得るという手順を、以下では一貫して用いる。

右SS作用を忘れた形の普遍性も、同じ構成から得られる。局所化の節ではこの形を用いる。

命題 5.4.PPをアーベル群とし、b ⁣:M×N→Pb\colon M\times N\to Pを二変数について加法的でb(mr,n)=b(m,rn)b(mr,n)=b(m,rn)を満たす写像とする。このとき

b~(m⊗n)=b(m,n)\widetilde b(m\otimes n)=b(m,n)

を満たす加法群準同型b~ ⁣:M⊗RN→P\widetilde b\colon M\otimes_RN\to Pがただ一つ存在する。

証明. 一意性は命題 3.2 (2)による。純テンソルが加法群を生成し、二つの候補がともに加法的であれば、純テンソル上で一致することから全体で一致する。

存在を示す。命題 3.2 (1)により、テンソル積を定理 5.2の(V,τ)(V,\tau)として取ってよい。同定理の記号を用い、b0:=b∘(π×1N) ⁣:F0×N→Pb_0:=b\circ(\pi\times1_N)\colon F_0\times N\to Pと置く。π\piは右RR線形であるから、b0b_0は二変数について加法的でb0(xr,n)=b0(x,rn)b_0(xr,n)=b_0(x,rn)を満たす。

F0F_0の基底を(ex)x∈X(e_x)_{x\in X}とし、定理 4.2の記号のもとで

b^ ⁣:F0⊗RN=⨁x∈XN⟶P,b^((nx)x):=∑xb0(ex,nx)\widehat b\colon F_0\otimes_RN=\bigoplus_{x\in X}N\longrightarrow P, \qquad \widehat b\bigl((n_x)_x\bigr):=\sum_{x}b_0(e_x,n_x)

と定める。右辺は有限和であり、b^\widehat bは加法群準同型である。定理 4.2の証明と同じ計算によりb^(τ0(x,n))=b0(x,n)\widehat b(\tau_0(x,n))=b_0(x,n)が成り立つ。ここで用いたのはb0b_0の二変数についての加法性と平衡関係だけであり、右SS作用は用いていない。

任意のy∈F1y\in F_1とn∈Nn\in Nに対して

b^((u⊗1N)(τ1(y,n)))=b^(τ0(u(y),n))=b0(u(y),n)=b(π(u(y)),n)=b(0,n)=0\widehat b\bigl((u\otimes1_N)(\tau_1(y,n))\bigr) =\widehat b(\tau_0(u(y),n)) =b_0(u(y),n) =b\bigl(\pi(u(y)),n\bigr) =b(0,n) =0

である。命題 3.2 (2)によりτ1\tau_1の像はF1⊗RNF_1\otimes_RNを加法群として生成するため、b^\widehat bはim⁡(u⊗1N)\operatorname{im}(u\otimes1_N)を零へ送る。したがってb^\widehat bは加法群準同型b~ ⁣:V→P\widetilde b\colon V\to Pを誘導し、b~∘q=b^\widetilde b\circ q=\widehat bを満たす。m∈Mm\in Mの持ち上げをxxとすると

b~(m⊗n)=b~(q(τ0(x,n)))=b0(x,n)=b(m,n)\widetilde b(m\otimes n) =\widetilde b\bigl(q(\tau_0(x,n))\bigr) =b_0(x,n) =b(m,n)

である。▨

6 誘導写像と関手性

二つの因子の準同型からテンソル積の準同型を作るには、第二因子の写像が左RR作用と右SS作用の両方を保つ必要がある。

命題 6.1.M,M′M,M'を右RR加群、N,N′N,N'を左RR・右SS双加群とする。f ⁣:M→M′f\colon M\to M'を右RR線形写像、g ⁣:N→N′g\colon N\to N'を左RR線形かつ右SS線形な写像とする。このとき

(f⊗Rg)(m⊗n):=f(m)⊗g(n)(f\otimes_Rg)(m\otimes n):=f(m)\otimes g(n)

を満たす右SS線形写像

f⊗Rg ⁣:M⊗RN⟶M′⊗RN′f\otimes_Rg\colon M\otimes_RN\longrightarrow M'\otimes_RN'

がただ一つ存在する。

さらに、適切な型をもつ写像f′,g′f',g'に対して

id⁡M⊗Rid⁡N=id⁡M⊗RN,\operatorname{id}_M\otimes_R\operatorname{id}_N =\operatorname{id}_{M\otimes_RN},(f′⊗Rg′)∘(f⊗Rg)=(f′∘f)⊗R(g′∘g)(f'\otimes_Rg')\circ(f\otimes_Rg) =(f'\circ f)\otimes_R(g'\circ g)

が成り立つ。

証明. 写像(m,n)↦f(m)⊗g(n)(m,n)\mapsto f(m)\otimes g(n)は二変数について加法的である。ffとggのRR線形性から

f(mr)⊗g(n)=f(m)r⊗g(n)=f(m)⊗rg(n)=f(m)⊗g(rn)f(mr)\otimes g(n) =f(m)r\otimes g(n) =f(m)\otimes r g(n) =f(m)\otimes g(rn)

となるため、RR上で平衡である。また、ggの右SS線形性から

f(m)⊗g(ns)=f(m)⊗(g(n)s)=(f(m)⊗g(n))sf(m)\otimes g(ns) =f(m)\otimes(g(n)s) =(f(m)\otimes g(n))s

となる。定義定義 3.1の普遍性により、所要の右SS線形写像が一意に定まる。

恒等写像と合成に関する二つの等式は、両辺を純テンソルm⊗nm\otimes nに適用すると同じ値になる。純テンソルが加法群を生成するため、両辺は一致する。▨

固定した左RR・右SS双加群NNに対して、右RR線形写像f ⁣:M→M′f\colon M\to M'から得られる写像f⊗Rid⁡Nf\otimes_R\operatorname{id}_Nをf⊗R1Nf\otimes_R1_Nと略記する。

7 単位同型

環RR自身は左右の乗法によってRR-RR双加群になる。RRを一方の因子とするテンソル積は、もとの加群に戻る。

命題 7.1. 次の二つの同型が成り立つ。

  1. 任意の右RR加群MMに対して、 λM ⁣:M⊗RR→ ≅ M,λM(m⊗r):=mr\lambda_M\colon M\otimes_RR\xrightarrow{\ \cong\ }M, \qquad \lambda_M(m\otimes r):=mr は右RR加群の同型である。
  2. 任意の左RR・右SS双加群NNに対して、 ρN ⁣:R⊗RN→ ≅ N,ρN(r⊗n):=rn\rho_N\colon R\otimes_RN\xrightarrow{\ \cong\ }N, \qquad \rho_N(r\otimes n):=rn は右SS加群の同型である。

それぞれの逆写像は

m⟼m⊗1R,n⟼1R⊗nm\longmapsto m\otimes1_R, \qquad n\longmapsto1_R\otimes n

である。

証明. 第一の写像について、(m,r)↦mr(m,r)\mapsto mrは

(ma)r=m(ar)(ma)r=m(ar)

を満たすためRR上で平衡であり、右RR作用とも可換する。定義定義 3.1の普遍性により右RR線形写像λM\lambda_Mを誘導する。写像ηM ⁣:M→M⊗RR\eta_M\colon M\to M\otimes_RRをηM(m):=m⊗1R\eta_M(m):=m\otimes1_Rと定めると、

ηM(mr)=mr⊗1R=m⊗r=(m⊗1R)r\eta_M(mr)=mr\otimes1_R=m\otimes r=(m\otimes1_R)r

であるため、ηM\eta_Mは右RR線形である。さらに

(λM∘ηM)(m)=m1R=m(\lambda_M\circ\eta_M)(m)=m1_R=m

であり、純テンソル上で

(ηM∘λM)(m⊗r)=mr⊗1R=m⊗r(\eta_M\circ\lambda_M)(m\otimes r) =mr\otimes1_R =m\otimes r

である。よってλM\lambda_MとηM\eta_Mは互いに逆である。

第二の写像について、(r,n)↦rn(r,n)\mapsto rnはRR上で平衡であり、(rn)s=r(ns)(rn)s=r(ns)により右SS作用とも可換する。したがってρN\rho_Nは右SS線形写像として定まる。写像ηN(n):=1R⊗n\eta_N(n):=1_R\otimes nは

ηN(ns)=1R⊗(ns)=(1R⊗n)s\eta_N(ns)=1_R\otimes(ns)=(1_R\otimes n)s

を満たすため右SS線形である。合成について

(ρN∘ηN)(n)=1Rn=n(\rho_N\circ\eta_N)(n)=1_Rn=n

であり、純テンソル上で

(ηN∘ρN)(r⊗n)=1R⊗rn=r⊗n(\eta_N\circ\rho_N)(r\otimes n) =1_R\otimes rn =r\otimes n

である。よってρN\rho_NとηN\eta_Nは互いに逆である。▨

8 三つの加群に対する結合同型

結合同型では三つの係数環を区別する必要がある。MMを右RR加群、NNを左RR・右SS双加群、LLを左SS・右TT双加群とする。この型の下でのみ、二つの括弧の付け方を比較することができる。

定理 8.1.M,N,LM,N,Lを直前に指定した型の加群とする。N⊗SLN\otimes_SLには

r(n⊗l):=(rn)⊗lr(n\otimes l):=(rn)\otimes l

によって左RR作用が定まり、この左RR作用と右TT作用によってN⊗SLN\otimes_SLは左RR・右TT双加群になる。

さらに、純テンソル上の式

αM,N,L((m⊗n)⊗l):=m⊗(n⊗l)\alpha_{M,N,L}((m\otimes n)\otimes l) :=m\otimes(n\otimes l)

は右TT加群の同型

αM,N,L ⁣:(M⊗RN)⊗SL→ ≅ M⊗R(N⊗SL)\alpha_{M,N,L}\colon (M\otimes_RN)\otimes_SL \xrightarrow{\ \cong\ } M\otimes_R(N\otimes_SL)

を定める。

証明. 各r∈Rr\in Rに対して(n,l)↦(rn)⊗l(n,l)\mapsto(rn)\otimes lを考える。任意のs∈Ss\in Sとt∈Tt\in Tに対して

(r(ns))⊗l=((rn)s)⊗l=(rn)⊗(sl),(r(ns))\otimes l =((rn)s)\otimes l =(rn)\otimes(sl),(rn)⊗(lt)=((rn)⊗l)t(rn)\otimes(lt)=((rn)\otimes l)t

である。したがって、この写像はSS上で平衡であり、右TT作用と可換する。定義定義 3.1の普遍性によりN⊗SLN\otimes_SLの右TT線形自己写像を誘導する。z=n⊗lz=n\otimes lを純テンソルとすると、

(r+r′)z=((r+r′)n)⊗l=rz+r′z,(rr′)z=((rr′)n)⊗l=r(r′z),1Rz=z\begin{aligned} (r+r')z &=((r+r')n)\otimes l =rz+r'z,\\ (rr')z &=((rr')n)\otimes l =r(r'z),\\ 1_Rz&=z \end{aligned}

である。各rrによる写像は加法的であり、純テンソルは加法群を生成するため、これらの等式は任意のz∈N⊗SLz\in N\otimes_SLに対して成り立つ。また

(r(n⊗l))t=((rn)⊗l)t=(rn)⊗(lt)=r((n⊗l)t)(r(n\otimes l))t =((rn)\otimes l)t =(rn)\otimes(lt) =r((n\otimes l)t)

である。よってN⊗SLN\otimes_SLは左RR・右TT双加群である。

Y:=M⊗R(N⊗SL)Y:=M\otimes_R(N\otimes_SL)と置く。各l∈Ll\in Lに対して

bl ⁣:M×N⟶Y,bl(m,n):=m⊗(n⊗l)b_l\colon M\times N\longrightarrow Y, \qquad b_l(m,n):=m\otimes(n\otimes l)

と定める。この写像は二変数について加法的であり、

bl(mr,n)=mr⊗(n⊗l)=m⊗((rn)⊗l)=bl(m,rn)b_l(mr,n) =mr\otimes(n\otimes l) =m\otimes((rn)\otimes l) =b_l(m,rn)

である。命題 5.4により、加法群準同型

θl ⁣:M⊗RN⟶Y,θl(m⊗n)=m⊗(n⊗l)\theta_l\colon M\otimes_RN\longrightarrow Y, \qquad \theta_l(m\otimes n)=m\otimes(n\otimes l)

が定まる。

写像θ ⁣:(M⊗RN)×L→Y\theta\colon(M\otimes_RN)\times L\to Yをθ(x,l):=θl(x)\theta(x,l):=\theta_l(x)と定める。純テンソル上で計算すると、この写像は二変数について加法的である。また

θ((m⊗n)s,l)=θ(m⊗(ns),l)=m⊗((ns)⊗l)=m⊗(n⊗sl)=θ(m⊗n,sl),θ(m⊗n,lt)=m⊗(n⊗lt)=θ(m⊗n,l)t.\begin{aligned} \theta((m\otimes n)s,l) &=\theta(m\otimes(ns),l)\\ &=m\otimes((ns)\otimes l)\\ &=m\otimes(n\otimes sl)\\ &=\theta(m\otimes n,sl),\\ \theta(m\otimes n,lt) &=m\otimes(n\otimes lt)\\ &=\theta(m\otimes n,l)t. \end{aligned}

純テンソルがM⊗RNM\otimes_RNを加法群として生成するため、これらの等式は任意のx∈M⊗RNx\in M\otimes_RNに対して成り立つ。したがってθ\thetaは右TT作用と可換するSS-平衡写像であり、定義定義 3.1の普遍性により右TT線形写像

αM,N,L ⁣:(M⊗RN)⊗SL→Y\alpha_{M,N,L}\colon(M\otimes_RN)\otimes_SL\to Y

を誘導する。

逆向きの写像を構成する。X:=(M⊗RN)⊗SLX:=(M\otimes_RN)\otimes_SLと置く。各m∈Mm\in Mに対して

cm ⁣:N×L⟶X,cm(n,l):=(m⊗n)⊗lc_m\colon N\times L\longrightarrow X, \qquad c_m(n,l):=(m\otimes n)\otimes l

と定める。この写像は二変数について加法的であり、

cm(ns,l)=((m⊗n)s)⊗l=(m⊗n)⊗(sl)=cm(n,sl),c_m(ns,l) =((m\otimes n)s)\otimes l =(m\otimes n)\otimes(sl) =c_m(n,sl),cm(n,lt)=cm(n,l)tc_m(n,lt)=c_m(n,l)t

である。したがってcmc_mは右TT作用と可換するSS-平衡写像であり、右TT線形写像

qm ⁣:N⊗SL⟶X,qm(n⊗l)=(m⊗n)⊗lq_m\colon N\otimes_SL\longrightarrow X, \qquad q_m(n\otimes l)=(m\otimes n)\otimes l

を誘導する。写像q ⁣:M×(N⊗SL)→Xq\colon M\times(N\otimes_SL)\to Xをq(m,z):=qm(z)q(m,z):=q_m(z)と定める。純テンソルz=n⊗lz=n\otimes lに対して

q(mr,n⊗l)=((mr)⊗n)⊗l=(m⊗rn)⊗l=q(m,r(n⊗l))q(mr,n\otimes l) =((mr)\otimes n)\otimes l =(m\otimes rn)\otimes l =q(m,r(n\otimes l))

である。この等式はN⊗SLN\otimes_SLの任意の元に対して成り立ち、qqは二変数について加法的で右TT作用と可換する。したがってqqは右TT作用と可換するRR-平衡写像であり、右TT線形写像

βM,N,L ⁣:M⊗R(N⊗SL)⟶X\beta_{M,N,L}\colon M\otimes_R(N\otimes_SL)\longrightarrow X

を誘導する。

三つの元からなる純テンソル上で

(βM,N,L∘αM,N,L)((m⊗n)⊗l)=(m⊗n)⊗l,(αM,N,L∘βM,N,L)(m⊗(n⊗l))=m⊗(n⊗l)\begin{aligned} (\beta_{M,N,L}\circ\alpha_{M,N,L})((m\otimes n)\otimes l) &=(m\otimes n)\otimes l,\\ (\alpha_{M,N,L}\circ\beta_{M,N,L})(m\otimes(n\otimes l)) &=m\otimes(n\otimes l) \end{aligned}

である。両方の始域は表示した形の元によって加法群として生成されるため、二つの合成は恒等写像である。よってαM,N,L\alpha_{M,N,L}は同型である。▨

9 直和との可換性

直和の元は有限個の成分だけが零でない。この有限台の条件により、純テンソルの各成分を並べた族は再び直和の元になる。

命題 9.1.I,JI,Jを集合とする。右RR加群の族(Mi)i∈I(M_i)_{i\in I}、左RR・右SS双加群の族(Nj)j∈J(N_j)_{j\in J}、右RR加群MMおよび左RR・右SS双加群NNに対して、次の右SS加群の同型が成り立つ。

(⨁i∈IMi)⊗RN→ ≅ ⨁i∈I(Mi⊗RN),(mi)i⊗n⟼(mi⊗n)i,\left(\bigoplus_{i\in I}M_i\right)\otimes_RN \xrightarrow{\ \cong\ } \bigoplus_{i\in I}(M_i\otimes_RN), \qquad (m_i)_i\otimes n\longmapsto(m_i\otimes n)_i,M⊗R(⨁j∈JNj)→ ≅ ⨁j∈J(M⊗RNj),m⊗(nj)j⟼(m⊗nj)j.M\otimes_R\left(\bigoplus_{j\in J}N_j\right) \xrightarrow{\ \cong\ } \bigoplus_{j\in J}(M\otimes_RN_j), \qquad m\otimes(n_j)_j\longmapsto(m\otimes n_j)_j.

第二の直和には成分ごとの左RR作用と右SS作用を入れる。

証明. 第一の写像をΦ\Phiと書く。(mi)i(m_i)_iは有限個の成分を除いて零であるため、(mi⊗n)i(m_i\otimes n)_iは右辺の直和に属する。写像

(⨁iMi)×N⟶⨁i(Mi⊗RN),((mi)i,n)⟼(mi⊗n)i\left(\bigoplus_iM_i\right)\times N \longrightarrow\bigoplus_i(M_i\otimes_RN), \qquad ((m_i)_i,n)\longmapsto(m_i\otimes n)_i

は二変数について加法的であり、成分ごとにRR上で平衡で、右SS作用と可換する。したがってΦ\Phiは定義定義 3.1の普遍性により右SS線形写像として定まる。

ιi ⁣:Mi→⨁kMk\iota_i\colon M_i\to\bigoplus_kM_kを標準包含とする。命題命題 6.1により、各iiに対して

ιi⊗R1N ⁣:Mi⊗RN⟶(⨁kMk)⊗RN\iota_i\otimes_R1_N\colon M_i\otimes_RN \longrightarrow\left(\bigoplus_kM_k\right)\otimes_RN

が定まる。有限台をもつ族(xi)i(x_i)_iに対して

Ψ((xi)i):=∑i(ιi⊗R1N)(xi)\Psi((x_i)_i):=\sum_i(\iota_i\otimes_R1_N)(x_i)

と定めると、Ψ\Psiは右SS線形である。純テンソルと直和の標準成分上で

(Ψ∘Φ)((mi)i⊗n)=∑iιi(mi)⊗n=(mi)i⊗n,(Φ∘Ψ)(0,…,mi⊗n,…)=(0,…,mi⊗n,…)\begin{aligned} (\Psi\circ\Phi)((m_i)_i\otimes n) &=\sum_i\iota_i(m_i)\otimes n =(m_i)_i\otimes n,\\ (\Phi\circ\Psi)(0,\ldots,m_i\otimes n,\ldots) &=(0,\ldots,m_i\otimes n,\ldots) \end{aligned}

となる。両辺の対象は表示した元によって加法群として生成されるため、Φ\PhiとΨ\Psiは互いに逆である。

第二の写像をΦ′\Phi'と書く。(nj)j(n_j)_jが有限台をもつことから、(m⊗nj)j(m\otimes n_j)_jも有限台をもつ。表示した純テンソル上の式はRR上で平衡であり、右SS作用と可換するため、Φ′\Phi'は右SS線形写像を定める。κj ⁣:Nj→⨁kNk\kappa_j\colon N_j\to\bigoplus_kN_kを標準包含とすると、κj\kappa_jは左RR線形かつ右SS線形である。したがって

1M⊗Rκj ⁣:M⊗RNj⟶M⊗R(⨁kNk)1_M\otimes_R\kappa_j\colon M\otimes_RN_j \longrightarrow M\otimes_R\left(\bigoplus_kN_k\right)

が定まる。有限台をもつ族(yj)j(y_j)_jに対して

Ψ′((yj)j):=∑j(1M⊗Rκj)(yj)\Psi'((y_j)_j):=\sum_j(1_M\otimes_R\kappa_j)(y_j)

と定める。純テンソルm⊗(nj)jm\otimes(n_j)_jと直和の第jj成分に置かれた純テンソルm⊗njm\otimes n_jに対して、

(Ψ′∘Φ′)(m⊗(nj)j)=∑jm⊗κj(nj)=m⊗(nj)j,(Φ′∘Ψ′)(0,…,m⊗nj,…)=(0,…,m⊗nj,…)\begin{aligned} (\Psi'\circ\Phi')(m\otimes(n_j)_j) &=\sum_jm\otimes\kappa_j(n_j) =m\otimes(n_j)_j,\\ (\Phi'\circ\Psi')(0,\ldots,m\otimes n_j,\ldots) &=(0,\ldots,m\otimes n_j,\ldots) \end{aligned}

となる。両方の対象は表示した元によって加法群として生成されるため、Ψ′∘Φ′\Psi'\circ\Phi'とΦ′∘Ψ′\Phi'\circ\Psi'は恒等写像である。よって第二の写像も同型である。▨

10 Hom–tensor 対応

テンソル積上の写像を一方の変数ごとに評価すると、MMの各元からNN上の写像が得られる。逆向きには、MMの元ごとに与えられたNN上の写像を二変数の平衡写像へ戻す。この対応は、テンソル積の普遍性による全単射と命題 2.2の同型を合成したものである。

定理 10.1 (Hom–tensor 対応).MMを右RR加群、NNを左RR・右SS双加群、PPを右SS加群とする。命題命題 2.1の右RR加群構造をHom⁡S(N,P)\operatorname{Hom}_S(N,P)に入れる。このとき、アーベル群の同型

ΦM,N,P ⁣:Hom⁡S(M⊗RN,P)→ ≅ Hom⁡R(M,Hom⁡S(N,P))\Phi_{M,N,P}\colon \operatorname{Hom}_S(M\otimes_RN,P) \xrightarrow{\ \cong\ } \operatorname{Hom}_R\bigl(M,\operatorname{Hom}_S(N,P)\bigr)

が

(ΦM,N,P(F)(m))(n):=F(m⊗n)\bigl(\Phi_{M,N,P}(F)(m)\bigr)(n):=F(m\otimes n)

によって定まる。逆写像ΨM,N,P\Psi_{M,N,P}は

ΨM,N,P(G)(m⊗n):=G(m)(n)\Psi_{M,N,P}(G)(m\otimes n):=G(m)(n)

によって定まる。

この対応は、次の三つの意味で写像と可換する。

  1. 右RR線形写像a ⁣:M′→Ma\colon M'\to MとF ⁣:M⊗RN→PF\colon M\otimes_RN\to Pに対して、 ΦM′,N,P(F∘(a⊗R1N))=ΦM,N,P(F)∘a.\Phi_{M',N,P}\bigl(F\circ(a\otimes_R1_N)\bigr) =\Phi_{M,N,P}(F)\circ a.
  2. 左RR線形かつ右SS線形な写像g ⁣:N→N′g\colon N\to N'とF ⁣:M⊗RN′→PF\colon M\otimes_RN'\to Pに対して、任意のm∈Mm\in Mについて ΦM,N,P(F∘(1M⊗Rg))(m)=ΦM,N′,P(F)(m)∘g.\Phi_{M,N,P}\bigl(F\circ(1_M\otimes_Rg)\bigr)(m) =\Phi_{M,N',P}(F)(m)\circ g.
  3. 右SS線形写像c ⁣:P→P′c\colon P\to P'とF ⁣:M⊗RN→PF\colon M\otimes_RN\to Pに対して、任意のm∈Mm\in Mについて ΦM,N,P′(c∘F)(m)=c∘ΦM,N,P(F)(m).\Phi_{M,N,P'}(c\circ F)(m) =c\circ\Phi_{M,N,P}(F)(m).

証明.τ\tauをM⊗RNM\otimes_RNの標準写像とする。定義定義 3.1の普遍性は、写像

Θ ⁣:Hom⁡S(M⊗RN,P)⟶Bal⁡RS(M,N;P),Θ(F):=F∘τ\Theta\colon\operatorname{Hom}_S(M\otimes_RN,P) \longrightarrow\operatorname{Bal}_R^S(M,N;P), \qquad \Theta(F):=F\circ\tau

が全単射であることを述べている。Θ(F+F′)=Θ(F)+Θ(F′)\Theta(F+F')=\Theta(F)+\Theta(F')は点ごとの評価から従うため、Θ\Thetaはアーベル群の同型である。

命題 2.2の同型ΛM,N,P\Lambda_{M,N,P}と合成すると、アーベル群の同型

ΛM,N,P∘Θ ⁣:Hom⁡S(M⊗RN,P)→ ≅ Hom⁡R(M,Hom⁡S(N,P))\Lambda_{M,N,P}\circ\Theta\colon \operatorname{Hom}_S(M\otimes_RN,P) \xrightarrow{\ \cong\ } \operatorname{Hom}_R\bigl(M,\operatorname{Hom}_S(N,P)\bigr)

を得る。任意のFF、mm、nnに対して

((ΛM,N,P∘Θ)(F)(m))(n)=(F∘τ)(m,n)=F(m⊗n)\bigl((\Lambda_{M,N,P}\circ\Theta)(F)(m)\bigr)(n) =(F\circ\tau)(m,n) =F(m\otimes n)

であるから、この合成は表示したΦM,N,P\Phi_{M,N,P}に一致する。よってΦM,N,P\Phi_{M,N,P}はアーベル群の同型である。

逆写像はΘ−1∘ΛM,N,P−1\Theta^{-1}\circ\Lambda_{M,N,P}^{-1}である。G∈Hom⁡R(M,Hom⁡S(N,P))G\in\operatorname{Hom}_R(M,\operatorname{Hom}_S(N,P))に対してΛM,N,P−1(G)\Lambda_{M,N,P}^{-1}(G)は平衡写像(m,n)↦G(m)(n)(m,n)\mapsto G(m)(n)であり、Θ−1\Theta^{-1}はこれを普遍性によって因子化した右SS線形写像へ移す。したがって逆写像は純テンソル上で

ΨM,N,P(G)(m⊗n)=G(m)(n)\Psi_{M,N,P}(G)(m\otimes n)=G(m)(n)

を満たし、命題 3.2 (2)によりこの条件で一意に定まる。

最後に三つの可換性を確認する。第一の等式は任意のm′∈M′m'\in M'とn∈Nn\in Nに対して

F(a(m′)⊗n)F(a(m')\otimes n)

という同じ値を与える。第二の等式は任意のm∈Mm\in Mとn∈Nn\in Nに対して

F(m⊗g(n))F(m\otimes g(n))

という同じ値を与える。なお、h↦h∘gh\mapsto h\circ gはHom⁡S(N′,P)\operatorname{Hom}_S(N',P)からHom⁡S(N,P)\operatorname{Hom}_S(N,P)への右RR線形写像である。実際、g(rn)=rg(n)g(rn)=rg(n)から

((h∘g)⋅r)(n)=h(g(rn))=h(rg(n))=((h⋅r)∘g)(n)((h\circ g)\cdot r)(n) =h(g(rn)) =h(rg(n)) =((h\cdot r)\circ g)(n)

となる。第三の等式は任意のm∈Mm\in Mとn∈Nn\in Nに対して

c(F(m⊗n))c(F(m\otimes n))

という同じ値を与える。よって三つの等式が成り立つ。▨

注意 10.2 (対応における左右の確認). 式(h⋅r)(n)=h(rn)(h\cdot r)(n)=h(rn)では、NNの左RR作用が Hom の右RR作用に変わる。この作用を左作用として書いた場合、または(h⋅r)(n)=h(nr)(h\cdot r)(n)=h(nr)と書いた場合には、一般のRR-SS双加群では式そのものが定義されない。Hom–tensor 対応を用いる際には、まずMM、NN、PPの左右と係数環を確認する必要がある。

命題 10.3. 左RR・右SS双加群NNを固定する。右SS線形写像c ⁣:P→P′c\colon P\to P'に対して

Hom⁡S(N,c) ⁣:Hom⁡S(N,P)⟶Hom⁡S(N,P′),h⟼c∘h\operatorname{Hom}_S(N,c)\colon \operatorname{Hom}_S(N,P)\longrightarrow \operatorname{Hom}_S(N,P'), \qquad h\longmapsto c\circ h

と定める。この写像は、命題命題 2.1の右RR加群構造に関して右RR線形である。また

Hom⁡S(N,1P)=1Hom⁡S(N,P),\operatorname{Hom}_S(N,1_P) =1_{\operatorname{Hom}_S(N,P)},Hom⁡S(N,d∘c)=Hom⁡S(N,d)∘Hom⁡S(N,c)\operatorname{Hom}_S(N,d\circ c) =\operatorname{Hom}_S(N,d)\circ\operatorname{Hom}_S(N,c)

が成り立つ。したがってHom⁡S(N,−)\operatorname{Hom}_S(N,-)は右SS加群と右SS線形写像を、右RR加群と右RR線形写像へ移す関手である。

証明. 合成c∘hc\circ hは右SS線形である。任意のr∈Rr\in Rとn∈Nn\in Nに対して

(Hom⁡S(N,c)(h⋅r))(n)=c(h(rn))=((c∘h)⋅r)(n)\begin{aligned} \bigl(\operatorname{Hom}_S(N,c)(h\cdot r)\bigr)(n) &=c(h(rn))\\ &=\bigl((c\circ h)\cdot r\bigr)(n) \end{aligned}

であるため、Hom⁡S(N,c)\operatorname{Hom}_S(N,c)は右RR線形である。恒等写像と合成に関する二つの等式は、任意のh ⁣:N→Ph\colon N\to Pに適用すると、それぞれ1P∘h=h1_P\circ h=hと(d∘c)∘h=d∘(c∘h)(d\circ c)\circ h=d\circ(c\circ h)に帰着する。▨

11 固定した双加群とのテンソル積

左RR・右SS双加群NNを固定する。右RR加群とその準同型にテンソル積を施すと、右SS加群とその準同型が得られる。

命題 11.1. 対応

M⟼M⊗RN,(f ⁣:M→M′)⟼f⊗R1NM\longmapsto M\otimes_RN, \qquad (f\colon M\to M')\longmapsto f\otimes_R1_N

は、右RR加群の恒等写像を右SS加群の恒等写像へ移し、右RR線形写像の合成を同じ順序の合成へ移す。すなわち

1M⊗R1N=1M⊗RN,1_M\otimes_R1_N=1_{M\otimes_RN},(f′⊗R1N)∘(f⊗R1N)=(f′∘f)⊗R1N(f'\otimes_R1_N)\circ(f\otimes_R1_N) =(f'\circ f)\otimes_R1_N

である。

証明. 命題命題 6.1の恒等写像と合成に関する等式でg=g′=1Ng=g'=1_Nとすれば得られる。各等式は純テンソル上でも直接確認することができる。▨

命題 11.2. 固定した左RR・右SS双加群NNに対して、命題命題 11.1の関手と命題命題 10.3の関手の間には

−⊗RN ⊣ Hom⁡S(N,−)-\otimes_RN\ \dashv\ \operatorname{Hom}_S(N,-)

という随伴がある。ここで随伴とは、右RR加群MMと右SS加群PPに対する全単射

Hom⁡S(M⊗RN,P)≅Hom⁡R(M,Hom⁡S(N,P))\operatorname{Hom}_S(M\otimes_RN,P) \cong \operatorname{Hom}_R\bigl(M,\operatorname{Hom}_S(N,P)\bigr)

がMMとPPの準同型と可換することをいう。

証明. 全単射は定理定理 10.1のΦM,N,P\Phi_{M,N,P}である。定理 10.1 (1)は右RR加群MMの準同型との可換性を、定理 10.1 (3)は右SS加群PPの準同型との可換性を表す。したがって表示した全単射は二つの変数について自然であり、表示した随伴が成り立つ。本記事では、この元ごとの全単射と二つの可換性を越える抽象圏論上の一般化を扱わない。▨

右完全性の証明では、テンソル積の元を一つの純テンソルとして扱うことはできない。中央項を像で割った商を作り、その商と右端のテンソル積の間に互いに逆な写像を構成する。

命題 11.3. 右RR加群の完全列

M′→ f M→ g M′′⟶0M'\xrightarrow{\ f\ }M \xrightarrow{\ g\ }M'' \longrightarrow0

と左RR・右SS双加群NNに対して、右SS加群の列

M′⊗RN→ f⊗R1N M⊗RN→ g⊗R1N M′′⊗RN⟶0M'\otimes_RN \xrightarrow{\ f\otimes_R1_N\ } M\otimes_RN \xrightarrow{\ g\otimes_R1_N\ } M''\otimes_RN \longrightarrow0

は完全である。したがって、固定したNNとのテンソル積は右完全関手を定める。

証明.K:=im⁡(f⊗R1N)K:=\operatorname{im}(f\otimes_R1_N)と置く。g∘f=0g\circ f=0と命題命題 11.1の合成に関する等式から

(g⊗R1N)∘(f⊗R1N)=(g∘f)⊗R1N=0(g\otimes_R1_N)\circ(f\otimes_R1_N) =(g\circ f)\otimes_R1_N=0

である。したがってK⊆ker⁡(g⊗R1N)K\subseteq\ker(g\otimes_R1_N)であり、g⊗R1Ng\otimes_R1_Nは右SS線形写像

g‾ ⁣:(M⊗RN)/K⟶M′′⊗RN,g‾([m⊗n])=g(m)⊗n\overline g\colon(M\otimes_RN)/K \longrightarrow M''\otimes_RN, \qquad \overline g([m\otimes n])=g(m)\otimes n

を誘導する。

ggは全射である。したがって、M′′⊗RNM''\otimes_RNの任意の純テンソルm′′⊗nm''\otimes nは、g(m)=m′′g(m)=m''を満たすm∈Mm\in Mを選べば(g⊗R1N)(m⊗n)(g\otimes_R1_N)(m\otimes n)と書くことができる。純テンソルは加法群を生成するため、g⊗R1Ng\otimes_R1_Nおよびg‾\overline gは全射である。

Q:=(M⊗RN)/KQ:=(M\otimes_RN)/Kと置き、g‾\overline gの逆写像を構成する。m′′∈M′′m''\in M''に対してg(m)=m′′g(m)=m''となるm∈Mm\in Mを一つ選び、

b(m′′,n):=[m⊗n]∈Qb(m'',n):=[m\otimes n]\in Q

と定める。この値はmmの選び方によらない。実際、g(m1)=g(m2)g(m_1)=g(m_2)ならば

m1−m2∈ker⁡g=im⁡fm_1-m_2\in\ker g=\operatorname{im}f

であるから、あるm′∈M′m'\in M'によってm1−m2=f(m′)m_1-m_2=f(m')と書くことができる。したがって

[m1⊗n]−[m2⊗n]=[f(m′)⊗n]=0[m_1\otimes n]-[m_2\otimes n] =[f(m')\otimes n] =0

である。

持ち上げとして和m1+m2m_1+m_2、零元00および積mrmrを選ぶことができるため、bbは二変数について加法的であり、

b(m′′r,n)=[mr⊗n]=[m⊗rn]=b(m′′,rn)b(m''r,n) =[mr\otimes n] =[m\otimes rn] =b(m'',rn)

を満たす。また

b(m′′,ns)=[m⊗ns]=[(m⊗n)s]=b(m′′,n)sb(m'',ns) =[m\otimes ns] =[(m\otimes n)s] =b(m'',n)s

である。したがってbbは右SS作用と可換するRR-平衡写像であり、定義定義 3.1の普遍性により右SS線形写像

ψ ⁣:M′′⊗RN⟶Q,ψ(m′′⊗n)=[m⊗n]\psi\colon M''\otimes_RN\longrightarrow Q, \qquad \psi(m''\otimes n)=[m\otimes n]

を誘導する。

純テンソルとその剰余類上で

(g‾∘ψ)(m′′⊗n)=m′′⊗n,(ψ∘g‾)([m⊗n])=[m⊗n]\begin{aligned} (\overline g\circ\psi)(m''\otimes n) &=m''\otimes n,\\ (\psi\circ\overline g)([m\otimes n]) &=[m\otimes n] \end{aligned}

である。よってg‾\overline gは同型である。したがって

ker⁡(g⊗R1N)=K=im⁡(f⊗R1N)\ker(g\otimes_R1_N)=K =\operatorname{im}(f\otimes_R1_N)

であり、表示した列は完全である。▨

注意 11.4 (構成と右完全性の関係).定理 5.2は、自由表示F1→uF0→πM→0F_1\xrightarrow{u}F_0\xrightarrow{\pi}M\to0に対してM⊗RNM\otimes_RNをu⊗1Nu\otimes1_Nの余核として定めた。命題 11.3を同じ自由表示へ適用すると

F1⊗RN→ u⊗1N F0⊗RN→ π⊗1N M⊗RN⟶0F_1\otimes_RN \xrightarrow{\ u\otimes1_N\ } F_0\otimes_RN \xrightarrow{\ \pi\otimes1_N\ } M\otimes_RN \longrightarrow0

は完全であり、これは構成で置いた等式そのものである。すなわち、右完全性はテンソル積の構成が満たすべき条件として先に現れており、命題 11.3は、その条件が特定の自由表示だけでなく任意の右完全列に対して成り立つことを述べている。

右完全性は全射とその直前の完全性を保つが、単射を保つことまでは含まない。次の例では、単射が零写像へ移る。

例 11.5 (テンソル積が左完全でない例).R=S=ZR=S=\mathbb Zとし、N:=Z/2ZN:=\mathbb Z/2\mathbb Zとする。アーベル群の短完全列

0⟶Z→ ×2 Z⟶Z/2Z⟶00\longrightarrow\mathbb Z \xrightarrow{\ \times2\ } \mathbb Z \longrightarrow\mathbb Z/2\mathbb Z \longrightarrow0

に−⊗ZN-\otimes_{\mathbb Z}Nを施す。単位同型命題 7.1により

Z⊗ZN≅N\mathbb Z\otimes_{\mathbb Z}N\cong N

であり、×2⊗1N\times2\otimes1_Nはこの同型の下でNN上の×2\times2に対応する。しかし2n=02n=0はすべてのn∈Nn\in Nに対して成り立つため、この写像は零写像である。N≠0N\ne0であるから零写像N→NN\to Nは単射でない。したがって、−⊗ZN-\otimes_{\mathbb Z}Nは表示した短完全列の左端の単射性を保たず、一般のテンソル積は左完全でない。

右完全性を有限巡回群の計算に適用すると、純テンソルの関係を一つずつ整理せずにテンソル積を求めることができる。

例 11.6 (有限巡回群のテンソル積). 完全列

Z→ ×6 Z⟶Z/6Z⟶0\mathbb Z\xrightarrow{\ \times6\ } \mathbb Z\longrightarrow\mathbb Z/6\mathbb Z \longrightarrow0

に−⊗ZZ/4Z-\otimes_{\mathbb Z}\mathbb Z/4\mathbb Zを施す。命題命題 11.3と単位同型により

Z/4Z→ ×6 Z/4Z⟶(Z/6Z)⊗Z(Z/4Z)⟶0\mathbb Z/4\mathbb Z \xrightarrow{\ \times6\ } \mathbb Z/4\mathbb Z \longrightarrow (\mathbb Z/6\mathbb Z)\otimes_{\mathbb Z}(\mathbb Z/4\mathbb Z) \longrightarrow0

は完全である。Z/4Z\mathbb Z/4\mathbb Z上では×6=×2\times6=\times2であり、その像は2Z/4Z2\mathbb Z/4\mathbb Zである。したがって

(Z/6Z)⊗Z(Z/4Z)≅Z/4Z2Z/4Z≅Z/2Z(\mathbb Z/6\mathbb Z)\otimes_{\mathbb Z}(\mathbb Z/4\mathbb Z) \cong \frac{\mathbb Z/4\mathbb Z}{2\mathbb Z/4\mathbb Z} \cong\mathbb Z/2\mathbb Z

となる。

12 可換環上の加群の局所化

以下では仮定を切り替え、AAを単位元をもつ可換環、S⊆AS\subseteq Aを1∈S1\in Sを含む乗法的集合、MMをAA加群とする。環の局所化S−1AS^{-1}Aと分数の相等条件には§E6.6 定義 1.1と§E6.6 補題 1.2を用いる。加群の分数では、環の分数と同じく、零因子がある場合に共通の乗数を落とすことはできない。

定義 12.1.M×SM\times S上の関係を

(m,s)∼(n,t)⟺ある u∈S に対して u(tm−sn)=0(m,s)\sim(n,t) \quad\Longleftrightarrow\quad \text{ある }u\in S\text{ に対して }u(tm-sn)=0

によって定める。(m,s)(m,s)の同値類をm/sm/sと書き、同値類全体をS−1MS^{-1}Mと書く。

和とS−1AS^{-1}Aのスカラー倍を

ms+nt:=tm+snst,asmt:=amst\frac{m}{s}+\frac{n}{t} :=\frac{tm+sn}{st}, \qquad \frac{a}{s}\frac{m}{t} :=\frac{am}{st}

によって定める。この演算を入れたS−1AS^{-1}A加群S−1MS^{-1}MをMMのSSによる局所化 (localization of a module at S) という。

定義の関係が同値関係であることと、二つの演算が代表元に依存しないことを確認する。

命題 12.2. 定義定義 12.1の関係は同値関係であり、表示した和とスカラー倍は well-defined である。これらの演算によりS−1MS^{-1}MはS−1AS^{-1}A加群になる。

さらに、任意のm∈Mm\in Mとs∈Ss\in Sに対して

ms=0⟺ある u∈S に対して um=0\frac{m}{s}=0 \quad\Longleftrightarrow\quad \text{ある }u\in S\text{ に対して }um=0

が成り立つ。

証明. 反射律はu=1u=1とすれば従い、対称律は等式に−1-1を掛ければ従う。推移律を確認する。(m,s)∼(n,t)(m,s)\sim(n,t)と(n,t)∼(p,q)(n,t)\sim(p,q)を仮定すると、あるu,v∈Su,v\in Sに対して

u(tm−sn)=0,v(qn−tp)=0u(tm-sn)=0, \qquad v(qn-tp)=0

である。AAの可換性を用いると

uvt(qm−sp)=vq u(tm−sn)+us v(qn−tp)=0uvt(qm-sp) =vq\,u(tm-sn)+us\,v(qn-tp) =0

となる。uvt∈Suvt\in Sであるから(m,s)∼(p,q)(m,s)\sim(p,q)である。よって∼\simは同値関係である。

和の well-defined 性を示す。m/s=m′/s′m/s=m'/s'とn/t=n′/t′n/t=n'/t'とする。あるu,v∈Su,v\in Sに対して

u(s′m−sm′)=0,v(t′n−tn′)=0u(s'm-sm')=0, \qquad v(t'n-tn')=0

である。二つの和の分子と分母を相等条件に代入すると、差は

(s′t′)(tm+sn)−(st)(t′m′+s′n′)=tt′(s′m−sm′)+ss′(t′n−tn′)\begin{aligned} &(s't')(tm+sn)-(st)(t'm'+s'n')\\ &\qquad=tt'(s'm-sm')+ss'(t'n-tn') \end{aligned}

となる。この差にuvuvを掛けると零になるため、

tm+snst=t′m′+s′n′s′t′\frac{tm+sn}{st}=\frac{t'm'+s'n'}{s't'}

である。

スカラー倍については、環の分数と加群の分数の代表元を一方ずつ変更する。a/s=a′/s′a/s=a'/s'ならば、あるu∈Su\in Sに対してu(s′a−sa′)=0u(s'a-sa')=0である。したがって

u((s′t)(am)−(st)(a′m))=utm(s′a−sa′)=0u\bigl((s't)(am)-(st)(a'm)\bigr) =ut m(s'a-sa')=0

となり、am/(st)=a′m/(s′t)am/(st)=a'm/(s't)である。一方、m/t=m′/t′m/t=m'/t'ならば、あるv∈Sv\in Sに対してv(t′m−tm′)=0v(t'm-tm')=0である。したがって

v((st′)(am)−(st)(am′))=vsa(t′m−tm′)=0v\bigl((st')(am)-(st)(am')\bigr) =vsa(t'm-tm')=0

となり、am/(st)=am′/(st′)am/(st)=am'/(st')である。推移律により、環の分数と加群の分数を同時に変更してもスカラー倍は変わらない。よって二つの演算は well-defined である。

加法の交換律と結合律は、代表元を共通分母へ移せばMMの加法の交換律と結合律に帰着する。たとえば三つの分数のどちらの括弧の付け方も

tum+sun+stpstu\frac{tu m+su n+st p}{stu}

に等しい。零元は0/10/1、m/sm/sの加法逆元は(−m)/s(-m)/sである。スカラー倍の結合律は

as(btmu)=abmstu=(asbt)mu\frac{a}{s}\left(\frac{b}{t}\frac{m}{u}\right) =\frac{abm}{stu} =\left(\frac{a}{s}\frac{b}{t}\right)\frac{m}{u}

から従い、単位元は1/11/1である。分配律を確認する。a,b∈Aa,b\in A、m,n∈Mm,n\in M、s,t,u,v∈Ss,t,u,v\in Sに対して、共通分母へ移すと

as(mu+nv)=a(vm+un)suv=asmu+asnv,(as+bt)mu=(ta+sb)mstu=asmu+btmu\begin{aligned} \frac{a}{s}\left(\frac{m}{u}+\frac{n}{v}\right) &=\frac{a(vm+un)}{suv}\\ &=\frac{a}{s}\frac{m}{u}+\frac{a}{s}\frac{n}{v},\\ \left(\frac{a}{s}+\frac{b}{t}\right)\frac{m}{u} &=\frac{(ta+sb)m}{stu}\\ &=\frac{a}{s}\frac{m}{u}+\frac{b}{t}\frac{m}{u} \end{aligned}

となる。したがってS−1MS^{-1}MはS−1AS^{-1}A加群である。

最後に、m/s=0/1m/s=0/1であることは、あるu∈Su\in Sに対して

u(1m−s0)=um=0u(1m-s0)=um=0

となることと同値である。得られた同値条件が表示した零判定である。▨

加群準同型は分子へ適用することで局所化される。

命題 12.3.AA加群準同型f ⁣:M→Nf\colon M\to Nに対して

S−1f ⁣:S−1M⟶S−1N,(S−1f)(m/s):=f(m)/sS^{-1}f\colon S^{-1}M\longrightarrow S^{-1}N, \qquad (S^{-1}f)(m/s):=f(m)/s

は well-defined なS−1AS^{-1}A線形写像である。また

S−1(1M)=1S−1M,S−1(g∘f)=(S−1g)∘(S−1f)S^{-1}(1_M)=1_{S^{-1}M}, \qquad S^{-1}(g\circ f)=(S^{-1}g)\circ(S^{-1}f)

が成り立つ。

証明.m/s=n/tm/s=n/tならば、あるu∈Su\in Sに対してu(tm−sn)=0u(tm-sn)=0である。ffのAA線形性から

u(tf(m)−sf(n))=f(u(tm−sn))=0u(tf(m)-sf(n)) =f(u(tm-sn)) =0

となるため、f(m)/s=f(n)/tf(m)/s=f(n)/tである。よってS−1fS^{-1}fは well-defined である。加法性とS−1AS^{-1}A線形性は

f(tm+sn)=tf(m)+sf(n),f(am)=af(m)f(tm+sn)=tf(m)+sf(n), \qquad f(am)=af(m)

から従う。恒等写像と合成に関する等式は各分数m/sm/sに適用すると確認することができる。▨

命題 12.4.AA加群MMに対して

ιM ⁣:M⟶S−1M,ιM(m):=m1\iota_M\colon M\longrightarrow S^{-1}M, \qquad \iota_M(m):=\frac{m}{1}

と定める。1∈S1\in Sであるため、この式は局所化加群の元を well-defined に定める。S−1MS^{-1}Mを§E6.6 命題 1.3の環準同型ιS ⁣:A→S−1A\iota_S\colon A\to S^{-1}AによってAA加群とみなすと、ιM\iota_MはAA線形である。

さらに、任意のAA線形写像f ⁣:M→Nf\colon M\to Nに対して

(S−1f)∘ιM=ιN∘f(S^{-1}f)\circ\iota_M =\iota_N\circ f

が成り立つ。

証明.1∈S1\in Sであるため(m,1)∈M×S(m,1)\in M\times Sであり、その同値類m/1m/1が一意に定まる。任意のm,n∈Mm,n\in Mとa∈Aa\in Aに対して

ιM(m+n)=m+n1=m1+n1,\iota_M(m+n) =\frac{m+n}{1} =\frac{m}{1}+\frac{n}{1},ιM(am)=am1=a1m1=ιS(a)ιM(m)\iota_M(am) =\frac{am}{1} =\frac{a}{1}\frac{m}{1} =\iota_S(a)\iota_M(m)

である。したがってιM\iota_MはAA線形である。

自然性は任意のm∈Mm\in Mに対する計算

((S−1f)∘ιM)(m)=f(m)1=(ιN∘f)(m)((S^{-1}f)\circ\iota_M)(m) =\frac{f(m)}1 =(\iota_N\circ f)(m)

から従う。▨

注意 12.5 (局所化とテンソル積). 局所化加群は、局所化環と元の加群とのテンソル積として表すことができる。次の定理では、同型とその逆を分数表示によって構成する。とくに、同型であることは単なる普遍性から自動的に従うのではなく、逆写像の well-defined 性を確認する必要がある。

定理 12.6.S−1AS^{-1}Aを標準写像A→S−1AA\to S^{-1}Aによって右AA加群とみなす。AAの可換性によりMMを左AA加群とみなしてテンソル積を作ると、

ΘM ⁣:S−1A⊗AM→ ≅ S−1M,ΘM(as⊗m):=ams\Theta_M\colon S^{-1}A\otimes_AM \xrightarrow{\ \cong\ }S^{-1}M, \qquad \Theta_M\left(\frac{a}{s}\otimes m\right):=\frac{am}{s}

というS−1AS^{-1}A加群の同型が定まる。左辺のS−1AS^{-1}A作用は

bt(as⊗m):=abst⊗m\frac{b}{t}\left(\frac{a}{s}\otimes m\right) :=\frac{ab}{st}\otimes m

である。同型の逆写像は

ΞM ⁣:S−1M⟶S−1A⊗AM,ΞM(m/s):=1s⊗m\Xi_M\colon S^{-1}M\longrightarrow S^{-1}A\otimes_AM, \qquad \Xi_M(m/s):=\frac1s\otimes m

である。任意のAA線形写像f ⁣:M→Nf\colon M\to Nに対して

ΘN∘(1S−1A⊗Af)=(S−1f)∘ΘM\Theta_N\circ(1_{S^{-1}A}\otimes_Af) =(S^{-1}f)\circ\Theta_M

が成り立つ。

証明.AAの可換性によりMMは左AA・右AA双加群でもある。各b/t∈S−1Ab/t\in S^{-1}Aに対して、第一因子上のx↦(b/t)xx\mapsto(b/t)xは右AA線形である。命題命題 6.1を第一因子に適用すると、表示した左S−1AS^{-1}A作用が定まる。作用の公理は純テンソル上でS−1AS^{-1}Aの環の公理に帰着する。

写像

S−1A×M⟶S−1M,(as,m)⟼amsS^{-1}A\times M\longrightarrow S^{-1}M, \qquad \left(\frac{a}{s},m\right)\longmapsto\frac{am}{s}

は二変数について加法的であり、任意のc∈Ac\in Aに対して

acsm=a(cm)s\frac{ac}{s}m=\frac{a(cm)}{s}

を満たす。したがってAA上で平衡であり、命題 5.4からΘM\Theta_Mを誘導する。b/t∈S−1Ab/t\in S^{-1}Aに対して

ΘM(bt(as⊗m))=abmst=btΘM(as⊗m)\Theta_M\left(\frac{b}{t}\left(\frac{a}{s}\otimes m\right)\right) =\frac{abm}{st} =\frac{b}{t}\Theta_M\left(\frac{a}{s}\otimes m\right)

であるため、ΘM\Theta_MはS−1AS^{-1}A線形である。

ΞM\Xi_Mの well-defined 性を確認する。m/s=n/tm/s=n/tならば、あるu∈Su\in Sに対してu(tm−sn)=0u(tm-sn)=0である。テンソル積では

1s⊗m−1t⊗n=1st⊗(tm−sn)=1ust⊗u(tm−sn)=0\begin{aligned} \frac1s\otimes m-\frac1t\otimes n &=\frac1{st}\otimes(tm-sn)\\ &=\frac1{ust}\otimes u(tm-sn)\\ &=0 \end{aligned}

となる。第一の等号では1/s=t/(st)1/s=t/(st)と1/t=s/(st)1/t=s/(st)を用い、第二の等号ではテンソル積の平衡関係を用いた。したがってΞM\Xi_Mは代表元の選び方によらない。加法性は

ΞM(ms+nt)=1st⊗(tm+sn)=1s⊗m+1t⊗n\begin{aligned} \Xi_M\left(\frac{m}{s}+\frac{n}{t}\right) &=\frac1{st}\otimes(tm+sn)\\ &=\frac1s\otimes m+\frac1t\otimes n \end{aligned}

から従う。また、a/s∈S−1Aa/s\in S^{-1}Aとm/t∈S−1Mm/t\in S^{-1}Mに対して

ΞM(asmt)=1st⊗am=ast⊗m=as(1t⊗m)\begin{aligned} \Xi_M\left(\frac{a}{s}\frac{m}{t}\right) &=\frac1{st}\otimes am\\ &=\frac{a}{st}\otimes m\\ &=\frac{a}{s}\left(\frac1t\otimes m\right) \end{aligned}

である。よってΞM\Xi_MはS−1AS^{-1}A線形である。

任意のm/s∈S−1Mm/s\in S^{-1}Mに対して

(ΘM∘ΞM)(m/s)=m/s(\Theta_M\circ\Xi_M)(m/s)=m/s

である。また、純テンソル上で

(ΞM∘ΘM)(as⊗m)=1s⊗am=as⊗m\begin{aligned} (\Xi_M\circ\Theta_M)\left(\frac{a}{s}\otimes m\right) &=\frac1s\otimes am\\ &=\frac{a}{s}\otimes m \end{aligned}

である。よってΘM\Theta_MとΞM\Xi_Mは互いに逆である。

最後に自然性を確認する。AAの可換性により、AA線形写像f ⁣:M→Nf\colon M\to Nは左AA・右AA双加群の写像でもある。したがって命題命題 6.1により1S−1A⊗Af1_{S^{-1}A}\otimes_Afが定まる。任意の純テンソル(a/s)⊗m(a/s)\otimes mに対して

(ΘN∘(1S−1A⊗Af))(as⊗m)=ΘN(as⊗f(m))=af(m)s,((S−1f)∘ΘM)(as⊗m)=(S−1f)(ams)=f(am)s=af(m)s\begin{aligned} \bigl(\Theta_N\circ(1_{S^{-1}A}\otimes_Af)\bigr) \left(\frac{a}{s}\otimes m\right) &=\Theta_N\left(\frac{a}{s}\otimes f(m)\right)\\ &=\frac{af(m)}s,\\ \bigl((S^{-1}f)\circ\Theta_M\bigr) \left(\frac{a}{s}\otimes m\right) &=(S^{-1}f)\left(\frac{am}s\right)\\ &=\frac{f(am)}s =\frac{af(m)}s \end{aligned}

となる。純テンソルは加法群を生成するため、二つの写像は一致する。▨

局所化の完全性は、局所化環の加群としての性質を先に仮定せず、分数が零になる条件から直接証明する。

命題 12.7.AA加群の完全列

M′→ f M→ g M′′M'\xrightarrow{\ f\ }M\xrightarrow{\ g\ }M''

に対して、S−1AS^{-1}A加群の列

S−1M′→ S−1f S−1M→ S−1g S−1M′′S^{-1}M' \xrightarrow{\ S^{-1}f\ } S^{-1}M \xrightarrow{\ S^{-1}g\ } S^{-1}M''

は完全である。したがって、加群の局所化は短完全列を短完全列へ移す。

証明.g∘f=0g\circ f=0であるから、命題命題 12.3の関手性により

(S−1g)∘(S−1f)=S−1(g∘f)=0(S^{-1}g)\circ(S^{-1}f)=S^{-1}(g\circ f)=0

である。よって

im⁡(S−1f)⊆ker⁡(S−1g)\operatorname{im}(S^{-1}f)\subseteq\ker(S^{-1}g)

である。

逆の包含を示す。m/s∈ker⁡(S−1g)m/s\in\ker(S^{-1}g)とする。このときg(m)/s=0g(m)/s=0である。命題命題 12.2の零判定により、あるu∈Su\in Sに対して

ug(m)=g(um)=0ug(m)=g(um)=0

である。もとの列がMMで完全であるため、um∈ker⁡g=im⁡fum\in\ker g=\operatorname{im}fである。したがって、あるm′∈M′m'\in M'に対してf(m′)=umf(m')=umとなる。このとき

(S−1f)(m′us)=f(m′)us=umus=ms(S^{-1}f)\left(\frac{m'}{us}\right) =\frac{f(m')}{us} =\frac{um}{us} =\frac{m}{s}

である。よってm/s∈im⁡(S−1f)m/s\in\operatorname{im}(S^{-1}f)であり、局所化した列はS−1MS^{-1}Mで完全である。

完全列の任意の連続する三項へ同じ議論を適用すると、すべての中間項で完全性が保たれる。短完全列の左端の単射性は0→M′0\to M'における完全性から、右端の全射性はM→M′′→0M\to M''\to0における完全性から従う。したがって短完全列は短完全列へ移る。▨

注意 12.8 (一般のテンソル積と局所化の差). 例例 11.5は、固定した加群とのテンソル積が一般には単射を保たないことを示す。一方、命題命題 12.7は局所化が単射を含む完全性を保つことを示し、定理定理 12.6は局所化をテンソル積で表示する。これらの事実を加群の一般的な性質として定式化するための定義と特徴づけは、次の記事で扱う。本記事では射影加群または平坦加群を定義せず、局所化環に関するその名称を用いた結論も主張しない。

13 演習

問題 13.1 (テンソル積と局所化の確認). 次の各問に答えよ。

  1. 平衡写像のなすアーベル群Bal⁡RS(M,N;P)\operatorname{Bal}_R^S(M,N;P)とHom⁡R(M,Hom⁡S(N,P))\operatorname{Hom}_R(M,\operatorname{Hom}_S(N,P))が同型であることを、両向きの対応を書いて証明せよ。とくに、b(mr,n)=b(m,rn)b(mr,n)=b(m,rn)が対応する側でHom⁡S(N,P)\operatorname{Hom}_S(N,P)の右RR作用に対する線形性へ移ることを示せ。さらに、普遍性を満たす二つのテンソル積が標準写像と可換な一意的同型で結ばれること、および標準写像の像がテンソル積を加法群として生成することを証明せよ。
  2. MMを右RR加群、NNを左RR・右SS双加群とする。二つの単位同型M⊗RR≅MM\otimes_RR\cong MとR⊗RN≅NR\otimes_RN\cong Nの逆写像を構成し、両方の合成が恒等写像であることを証明せよ。
  3. NNを左RR・右SS双加群、PPを右SS加群とする。式(h⋅r)(n)=h(rn)(h\cdot r)(n)=h(rn)がHom⁡S(N,P)\operatorname{Hom}_S(N,P)の右RR作用を定めることを証明せよ。その際、h⋅rh\cdot rの右SS線形性を明示せよ。
  4. Hom–tensor 対応の逆写像を作る際に、G ⁣:M→Hom⁡S(N,P)G\colon M\to\operatorname{Hom}_S(N,P)から定めるbG(m,n)=G(m)(n)b_G(m,n)=G(m)(n)がRR上で平衡であることを証明せよ。また、この確認に(3)の右作用がどこで使われるかを示せ。Φ\PhiとΨ\Psiが互いに逆であること、および定理定理 10.1の三つの自然性を元ごとに確認せよ。
  5. 命題命題 11.3の証明で、m′′∈M′′m''\in M''の持ち上げm∈Mm\in Mから定める[m⊗n][m\otimes n]が持ち上げの選択に依存しないことを証明せよ。この事実から商(M⊗RN)/im⁡(f⊗R1N)(M\otimes_RN)/\operatorname{im}(f\otimes_R1_N)とM′′⊗RNM''\otimes_RNの同型を構成せよ。さらに、Z\mathbb Z加群の単射×2 ⁣:Z→Z\times2\colon\mathbb Z\to\mathbb Zが−⊗ZZ/2Z-\otimes_{\mathbb Z}\mathbb Z/2\mathbb Zによって非単射へ移ることを計算せよ。
  6. AAを可換環、S⊆AS\subseteq Aを乗法的集合とする。m/s=n/tm/s=n/tから 1s⊗m=1t⊗n\frac1s\otimes m=\frac1t\otimes n がS−1A⊗AMS^{-1}A\otimes_AMで成り立つことを証明し、定理定理 12.6の逆写像の well-defined 性を示せ。
  7. 完全列M′→fM→gM′′M'\xrightarrow fM\xrightarrow gM''とm/s∈ker⁡(S−1g)m/s\in\ker(S^{-1}g)を取る。分数の零判定を用いて、m/sm/sがS−1fS^{-1}fの像に属することを証明せよ。
  8. f ⁣:M→M′f\colon M\to M'とg ⁣:N→N′g\colon N\to N'からf⊗Rgf\otimes_Rgを構成し、恒等写像と合成に関する等式を純テンソル上で証明せよ。特に、NNを固定した−⊗RN-\otimes_RNが関手を定めることを説明せよ。
  9. MRM_R、RNS{}_RN_S、SLT{}_SL_Tに対して、写像 (M⊗RN)⊗SL⟶M⊗R(N⊗SL)(M\otimes_RN)\otimes_SL\longrightarrow M\otimes_R(N\otimes_SL) とその逆写像を構成せよ。二つの写像を定める平衡性と、純テンソル上で合成が恒等写像になることを確認せよ。
  10. 任意の集合IIによる直和について (⨁i∈IMi)⊗RN≅⨁i∈I(Mi⊗RN)\left(\bigoplus_{i\in I}M_i\right)\otimes_RN \cong\bigoplus_{i\in I}(M_i\otimes_RN) を構成せよ。写像の値が右辺の直和に属する理由として有限台を明示し、逆写像との二つの合成を確認せよ。第二変数の直和についても同じ構成を書け。
  11. 加群の局所化に用いる関係の推移律を、二つの関係を消す乗数から証明せよ。また、分数の和とS−1AS^{-1}Aのスカラー倍が代表元の選択に依存しないことを、交差積の差を仮定で消える項へ分解して証明せよ。
  12. AA線形写像f ⁣:M→Nf\colon M\to Nに対するS−1fS^{-1}fの well-defined 性とS−1AS^{-1}A線形性を証明し、恒等写像と合成を保つことを確認せよ。標準写像ιM(m)=m/1\iota_M(m)=m/1がAA線形であり、(S−1f)∘ιM=ιN∘f(S^{-1}f)\circ\iota_M=\iota_N\circ fを満たすことも証明せよ。
  13. FFを基底(ex)x∈X(e_x)_{x\in X}をもつ自由右RR加群とする。τF(m,n)=(am(x)n)x\tau_F(m,n)=(a_m(x)n)_xが平衡写像であることを、係数関数の等式amr(x)=am(x)ra_{mr}(x)=a_m(x)rから証明せよ。また、τF(ex,n)\tau_F(e_x,n)が第xx成分への標準包含の像であることを示し、これを用いてb~((nx)x)=∑xb(ex,nx)\widetilde b\bigl((n_x)_x\bigr)=\sum_xb(e_x,n_x)の一意性を述べよ。
  14. MMの自由表示F1→uF0→πM→0F_1\xrightarrow uF_0\xrightarrow\pi M\to0を取り、V=coker⁡(u⊗1N)V=\operatorname{coker}(u\otimes1_N)と置く。τ(m,n)=q(τ0(x,n))\tau(m,n)=q(\tau_0(x,n))が持ち上げxxの選択に依存しないことを証明せよ。さらに、§E6.13 系 5.1を二回(右SS加群の側と右RR加群の側)適用してHom⁡S(V,P)\operatorname{Hom}_S(V,P)とBal⁡RS(M,N;P)\operatorname{Bal}_R^S(M,N;P)の全単射を作り、その全単射がG↦G∘τG\mapsto G\circ\tauに一致することを確かめよ。
解答 (演習の解答).
  1. 平衡写像bbに対してΛ(b)(m):=b(m,−)\Lambda(b)(m):=b(m,-)と定める。第二変数についての加法性とb(m,ns)=b(m,n)sb(m,ns)=b(m,n)sからΛ(b)(m)∈Hom⁡S(N,P)\Lambda(b)(m)\in\operatorname{Hom}_S(N,P)であり、第一変数についての加法性からΛ(b)\Lambda(b)は加法的である。等式 (Λ(b)(mr))(n)=b(mr,n)=b(m,rn)=(Λ(b)(m)⋅r)(n)\bigl(\Lambda(b)(mr)\bigr)(n)=b(mr,n)=b(m,rn)=\bigl(\Lambda(b)(m)\cdot r\bigr)(n) が、平衡関係とHom⁡S(N,P)\operatorname{Hom}_S(N,P)の右RR作用の対応にあたる。逆向きはGGに対してbG(m,n):=G(m)(n)b_G(m,n):=G(m)(n)と定めればよく、同じ等式を逆にたどると平衡性が得られる。二つの対応は値を保つため互いに逆である。普遍性を満たす二つの組(V,τ)(V,\tau)、(V′,τ′)(V',\tau')には、互いの標準写像を代入してθ ⁣:V→V′\theta\colon V\to V'とθ′ ⁣:V′→V\theta'\colon V'\to Vを作る。(θ′∘θ)∘τ=τ=1V∘τ(\theta'\circ\theta)\circ\tau=\tau=1_V\circ\tauと一意性からθ′∘θ=1V\theta'\circ\theta=1_Vであり、同様にθ∘θ′=1V′\theta\circ\theta'=1_{V'}である。生成については、τ\tauの像が生成する部分右SS加群V0V_0への制限σ\sigmaに普遍性を適用してφ ⁣:V→V0\varphi\colon V\to V_0を得ると、包含jjとの合成がj∘φ=1Vj\circ\varphi=1_Vを満たすためjjは全射であり、V0=VV_0=Vである。
  2. 第一の同型の逆はm↦m⊗1Rm\mapsto m\otimes1_R、第二の同型の逆はn↦1R⊗nn\mapsto1_R\otimes nである。平衡関係からmr⊗1R=m⊗rmr\otimes1_R=m\otimes rと1R⊗rn=r⊗n1_R\otimes rn=r\otimes nが成り立つため、純テンソル上の二つの合成は恒等写像である。
  3. 双加群の作用の可換性とhhの右SS線形性から (h⋅r)(ns)=h(r(ns))=h((rn)s)=h(rn)s(h\cdot r)(ns)=h(r(ns))=h((rn)s)=h(rn)s となる。したがってh⋅rh\cdot rは右SS線形である。また ((h⋅r1)⋅r2)(n)=h((r1r2)n)((h\cdot r_1)\cdot r_2)(n)=h((r_1r_2)n) であるため、右作用の結合律が成り立つ。加法と単位元に関する公理は点ごとに従う。
  4. GGの右RR線形性と(3)の作用の定義から bG(mr,n)=G(mr)(n)=(G(m)⋅r)(n)=G(m)(rn)=bG(m,rn)b_G(mr,n)=G(mr)(n)=(G(m)\cdot r)(n)=G(m)(rn)=b_G(m,rn) となる。この中央の等式が、Hom 上の右RR作用を用いる箇所である。任意のG,m,nG,m,nに対して ((Φ∘Ψ)(G)(m))(n)=G(m)(n)((\Phi\circ\Psi)(G)(m))(n)=G(m)(n) であり、任意のFFに対して (Ψ∘Φ)(F)(m⊗n)=F(m⊗n)(\Psi\circ\Phi)(F)(m\otimes n)=F(m\otimes n) であるため、二つの写像は互いに逆である。MMの写像、NNの双加群写像、PPの写像に関する自然性は、それぞれF(a(m′)⊗n)F(a(m')\otimes n)、F(m⊗b(n))F(m\otimes b(n))、c(F(m⊗n))c(F(m\otimes n))が対応する両辺の共通の値になることから従う。
  5. 二つの持ち上げm1,m2m_1,m_2に対してm1−m2∈ker⁡g=im⁡fm_1-m_2\in\ker g=\operatorname{im}fである。m1−m2=f(m′)m_1-m_2=f(m')と書けば、商の中で [m1⊗n]−[m2⊗n]=[f(m′)⊗n]=0[m_1\otimes n]-[m_2\otimes n]=[f(m')\otimes n]=0 となる。したがって(m′′,n)↦[m⊗n](m'',n)\mapsto[m\otimes n]は well-defined であり、平衡性からM′′⊗RNM''\otimes_RN上の写像を誘導する。この写像と[m⊗n]↦g(m)⊗n[m\otimes n]\mapsto g(m)\otimes nは純テンソル上で互いに逆である。単位同型Z⊗ZZ/2Z≅Z/2Z\mathbb Z\otimes_{\mathbb Z}\mathbb Z/2\mathbb Z\cong\mathbb Z/2\mathbb Zの下で、×2⊗1\times2\otimes1はZ/2Z\mathbb Z/2\mathbb Z上の×2\times2に対応し、零写像になる。始域は非零であるため、この写像は単射でない。
  6. m/s=n/tm/s=n/tならば、あるu∈Su\in Sに対してu(tm−sn)=0u(tm-sn)=0である。したがって 1s⊗m−1t⊗n=1st⊗(tm−sn)=1ust⊗u(tm−sn)=0\frac1s\otimes m-\frac1t\otimes n =\frac1{st}\otimes(tm-sn) =\frac1{ust}\otimes u(tm-sn) =0 となる。よってm/s↦(1/s)⊗mm/s\mapsto(1/s)\otimes mは代表元に依存しない。
  7. g(m)/s=0g(m)/s=0であるから、あるu∈Su\in Sに対してg(um)=0g(um)=0である。完全性よりum=f(m′)um=f(m')となるm′∈M′m'\in M'が存在する。このとき (S−1f)(m′/(us))=um/(us)=m/s(S^{-1}f)(m'/(us))=um/(us)=m/s である。したがってm/s∈im⁡(S−1f)m/s\in\operatorname{im}(S^{-1}f)である。
  8. 写像(m,n)↦f(m)⊗g(n)(m,n)\mapsto f(m)\otimes g(n)は二変数について加法的であり、 f(mr)⊗g(n)=f(m)⊗g(rn),f(m)⊗g(ns)=(f(m)⊗g(n))sf(mr)\otimes g(n)=f(m)\otimes g(rn), \qquad f(m)\otimes g(ns)=(f(m)\otimes g(n))s を満たすため、f⊗Rgf\otimes_Rgを誘導する。恒等写像と合成に関する両辺は純テンソルm⊗nm\otimes nをそれぞれm⊗nm\otimes nと(f′∘f)(m)⊗(g′∘g)(n)(f'\circ f)(m)\otimes(g'\circ g)(n)へ送る。したがって両等式が成り立ち、g=1Ng=1_Nとすれば−⊗RN-\otimes_RNの関手性を得る。
  9. 順方向を (m⊗n)⊗l⟼m⊗(n⊗l)(m\otimes n)\otimes l\longmapsto m\otimes(n\otimes l) によって定め、逆方向をm⊗(n⊗l)↦(m⊗n)⊗lm\otimes(n\otimes l)\mapsto(m\otimes n)\otimes lによって定める。順方向のSS-平衡性は (m⊗ns)⊗l=(m⊗n)⊗sl(m\otimes ns)\otimes l=(m\otimes n)\otimes sl から従い、逆方向のRR-平衡性は (mr⊗n)⊗l=(m⊗rn)⊗l(mr\otimes n)\otimes l=(m\otimes rn)\otimes l から従う。右TT作用との可換性も純テンソル上で従う。二つの合成は三つの元からなる純テンソルを固定するため、恒等写像である。
  10. 順方向を (mi)i⊗n⟼(mi⊗n)i(m_i)_i\otimes n\longmapsto(m_i\otimes n)_i と定める。(mi)i(m_i)_iは有限台をもつため、右辺も有限台をもち、直和の元である。逆写像は標準包含ιi\iota_iを用いて (xi)i⟼∑i(ιi⊗1N)(xi)(x_i)_i\longmapsto\sum_i(\iota_i\otimes1_N)(x_i) と定める。有限台により和は有限和であり、純テンソルと標準成分上で二つの合成は恒等写像になる。第二変数では(nj)j(n_j)_jの有限台を用いてm⊗(nj)j↦(m⊗nj)jm\otimes(n_j)_j\mapsto(m\otimes n_j)_jと定め、標準包含κj\kappa_jから得られる1M⊗κj1_M\otimes\kappa_jの有限和を逆写像とする。
  11. (m,s)∼(n,t)(m,s)\sim(n,t)と(n,t)∼(p,q)(n,t)\sim(p,q)を消すu,v∈Su,v\in Sに対して uvt(qm−sp)=vq u(tm−sn)+us v(qn−tp)=0uvt(qm-sp)=vq\,u(tm-sn)+us\,v(qn-tp)=0 であるため、推移律が成り立つ。和については、二組の代表元の相等を消す乗数をu,vu,vとすると、交差積の差が tt′(s′m−sm′)+ss′(t′n−tn′)tt'(s'm-sm')+ss'(t'n-tn') となり、uvuvを掛けると零になる。スカラー倍については環の分数の代表元と加群の分数の代表元を一方ずつ変更する。差はそれぞれtm(s′a−sa′)tm(s'a-sa')とsa(t′m−tm′)sa(t'm-tm')となり、仮定の乗数で消える。したがって和とスカラー倍は well-defined である。
  12. m/s=n/tm/s=n/tを消すu∈Su\in Sにffを適用すると u(tf(m)−sf(n))=f(u(tm−sn))=0u(tf(m)-sf(n))=f(u(tm-sn))=0 となるため、S−1fS^{-1}fは well-defined である。加法性とS−1AS^{-1}A線形性は分数の演算とf(am)=af(m)f(am)=af(m)から従う。恒等写像と合成に関する等式は分数m/sm/s上で従う。また ιM(m+n)=ιM(m)+ιM(n),ιM(am)=ιS(a)ιM(m)\iota_M(m+n)=\iota_M(m)+\iota_M(n), \qquad \iota_M(am)=\iota_S(a)\iota_M(m) であるためιM\iota_MはAA線形であり、両方の合成がmmをf(m)/1f(m)/1へ送るため (S−1f)∘ιM=ιN∘f(S^{-1}f)\circ\iota_M=\iota_N\circ f が成り立つ。
  13. 表示の一意性からam+m′=am+am′a_{m+m'}=a_m+a_{m'}とamr(x)=am(x)ra_{mr}(x)=a_m(x)rが従う。したがって τF(mr,n)=((am(x)r)n)x=(am(x)(rn))x=τF(m,rn)\tau_F(mr,n)=\bigl((a_m(x)r)n\bigr)_x=\bigl(a_m(x)(rn)\bigr)_x=\tau_F(m,rn) であり、τF(m,ns)=(am(x)(ns))x=((am(x)n)s)x=τF(m,n)s\tau_F(m,ns)=\bigl(a_m(x)(ns)\bigr)_x=\bigl((a_m(x)n)s\bigr)_x=\tau_F(m,n)sには双加群の等式(rn)s=r(ns)(rn)s=r(ns)を用いる。aexa_{e_x}はxxで1R1_R、ほかで00を取るためτF(ex,n)=ιx(n)\tau_F(e_x,n)=\iota_x(n)である。直和の各元はιx(nx)\iota_x(n_x)の有限和であるから、τF\tau_Fの像はVFV_Fを加法群として生成する。よってb~∘τF=b\widetilde b\circ\tau_F=bを満たす加法的な写像は、τF\tau_Fの像の上での値によって定まり一意である。
  14. π(x)=π(x′)\pi(x)=\pi(x')ならばx−x′∈ker⁡π=im⁡ux-x'\in\ker\pi=\operatorname{im}uであり、x−x′=u(y)x-x'=u(y)と書ける。このとき τ0(x,n)−τ0(x′,n)=τ0(u(y),n)=(u⊗1N)(τ1(y,n))\tau_0(x,n)-\tau_0(x',n)=\tau_0(u(y),n)=(u\otimes1_N)(\tau_1(y,n)) がim⁡(u⊗1N)\operatorname{im}(u\otimes1_N)に属するため、qqを施した値は一致する。全単射は、右SS加群の側でq∗q^*がHom⁡S(V,P)\operatorname{Hom}_S(V,P)をker⁡(u⊗1N)∗\ker(u\otimes1_N)^*の上へ移し、自由加群の場合の普遍性がker⁡(u⊗1N)∗\ker(u\otimes1_N)^*をker⁡u∗\ker u^*の上へ移し、右RR加群の側でπ∗\pi^*がHom⁡R(M,Hom⁡S(N,P))\operatorname{Hom}_R(M,\operatorname{Hom}_S(N,P))をker⁡u∗\ker u^*の上へ移すことを合成して得られる。GGの像bbはΛM,N,P(b)∘π=Ξ0(G∘q)\Lambda_{M,N,P}(b)\circ\pi=\Xi_0(G\circ q)で定まるから、mmの持ち上げxxに対してb(m,n)=G(q(τ0(x,n)))=G(τ(m,n))b(m,n)=G(q(\tau_0(x,n)))=G(\tau(m,n))であり、b=G∘τb=G\circ\tauである。

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14 仮定と後続記事の境界

テンソル積の式では、第一因子の右作用と第二因子の左作用が平衡関係を作る。結合同型では中間の係数環SSが(M⊗RN)⊗SL(M\otimes_RN)\otimes_SLの二つの因子を結び、Hom–tensor 対応ではNNの左RR作用が Hom 上の右RR作用を定める。これらの左右を入れ替える場合には、反対環を用いるなどの別の型指定が必要であり、本記事の式をそのまま用いることはできない。

存在の証明で選んだ自由表示は、テンソル積そのものを決めるものではない。命題 3.2 (1)により、どの自由表示から作っても標準写像と可換な一意的同型で結ばれるからである。同じ理由により、以後の主張の証明では自由表示に戻らず、定義定義 3.1の普遍性だけを用いる。本記事は、テンソル積を関手の間の随伴として圏論の言葉で述べることはせず、命題 11.2の元ごとの全単射と二つの可換性までを扱う。

局所化節ではAAの可換性を仮定した。この仮定により、AA加群を必要に応じて左右のAA加群として扱い、S−1A⊗AMS^{-1}A\otimes_AMにS−1AS^{-1}A作用を入れることができる。非可換環の局所化には追加の条件が必要であり、本記事では扱わない。

本記事では、固定した双加群とのテンソル積の右完全性と、局所化の完全性をそれぞれ証明した。次の記事では、短完全列に Hom またはテンソル積を施したときの完全性を加群自身の性質として定式化する。本記事の結果だけを用いて、その後続概念の一般的な特徴づけを先取りしない。

参考文献

  1. T. Y. Lam, Lectures on Modules and Rings, Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1999.非可換環上の左右加群、双加群およびテンソル積の型に関する標準的な定式化を参考にした。
  2. Joseph J. Rotman, An Introduction to Homological Algebra, 2nd ed., Universitext, Springer, 2009.Hom–tensor 対応とテンソル積の右完全性に関する証明の構成を参考にした。
  3. M. F. Atiyah and I. G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, CRC Press, 2018, originally published 1969.可換環上の加群の局所化と局所化の完全性に関する分数表示を参考にした。

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