§E6.8中国剰余定理

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一つの環の元を複数の両側イデアルで割った剰余へ同時に写すと、剰余の組が得られる。中国剰余定理は、どの剰余の組が同一の元から生じるかを判定し、すべての組が生じる場合に元の環の商を剰余環の直積へ分解する。

本記事ではRRを単位元をもつ結合環とし、乗法の可換性を仮定しない。I,JI,JおよびI1,…,InI_1,\ldots,I_nはすべて両側イデアルとする。両側イデアルの和と共通部分には§E6.3 命題 4.1、商環には§E6.3 命題 5.1、環の第一同型定理には§E6.3 定理 6.2の規約を用いる。

1 二つの両側イデアル

二つの剰余を同時に記録する写像の核は共通部分である。像は、二つの代表元の差がイデアルの和に属するという条件によって完全に記述することができる。

証明では、最初に二つの商写像を座標にもつ写像が環準同型であることと、その核が共通部分であることを確認する。像については、像に属する組が差の条件を満たすことを示した後、a−b=i+ja-b=i+jからr=a−i=b+jr=a-i=b+jを構成して逆包含を示す。あわせて、差の条件が代表元に依存しないことを計算する。

命題 1.1.I,J⊆RI,J\subseteq Rを両側イデアルとする。写像

ΦI,J ⁣:R⟶R/I×R/J,r⟼(r+I,r+J)\Phi_{I,J}\colon R\longrightarrow R/I\times R/J, \qquad r\longmapsto(r+I,r+J)

は単位元を保つ環準同型であり、

ker⁡ΦI,J=I∩J\ker\Phi_{I,J}=I\cap J

を満たす。また、その像は

im⁡ΦI,J={(a+I,b+J)∈R/I×R/J | a−b∈I+J}\operatorname{im}\Phi_{I,J} =\left\{ (a+I,b+J)\in R/I\times R/J \ \middle|\ a-b\in I+J \right\}

である。

証明. 商写像R→R/IR\to R/IとR→R/JR\to R/Jは単位元を保つ環準同型である。直積環の演算は座標ごとに定まるため、任意のr,s∈Rr,s\in Rに対して

ΦI,J(r+s)=ΦI,J(r)+ΦI,J(s),ΦI,J(rs)=ΦI,J(r)ΦI,J(s),\Phi_{I,J}(r+s)=\Phi_{I,J}(r)+\Phi_{I,J}(s), \qquad \Phi_{I,J}(rs)=\Phi_{I,J}(r)\Phi_{I,J}(s),ΦI,J(1R)=(1R+I,1R+J)\Phi_{I,J}(1_R)=(1_R+I,1_R+J)

となる。よってΦI,J\Phi_{I,J}は単位元を保つ環準同型である。

r∈ker⁡ΦI,Jr\in\ker\Phi_{I,J}であることは、r+I=Ir+I=Iかつr+J=Jr+J=J、すなわちr∈I∩Jr\in I\cap Jと同値である。したがって核はI∩JI\cap Jである。

像の表示に現れる条件が代表元に依存しないことを確認する。a+I=a′+Ia+I=a'+Iおよびb+J=b′+Jb+J=b'+Jならば

(a′−b′)−(a−b)=(a′−a)−(b′−b)∈I+J(a'-b')-(a-b)=(a'-a)-(b'-b)\in I+J

である。したがってa−b∈I+Ja-b\in I+Jとa′−b′∈I+Ja'-b'\in I+Jは同値である。

(a+I,b+J)=ΦI,J(r)(a+I,b+J)=\Phi_{I,J}(r)とする。このときa−r∈Ia-r\in Iおよびb−r∈Jb-r\in Jであるため、

a−b=(a−r)−(b−r)∈I+Ja-b=(a-r)-(b-r)\in I+J

となる。

逆にa−b∈I+Ja-b\in I+Jとする。あるi∈Ii\in Iとj∈Jj\in Jに対してa−b=i+ja-b=i+jと書くことができる。r:=a−i=b+jr:=a-i=b+jと置くと

r−a=−i∈I,r−b=j∈Jr-a=-i\in I, \qquad r-b=j\in J

である。したがってΦI,J(r)=(a+I,b+J)\Phi_{I,J}(r)=(a+I,b+J)となる。以上により像の表示を得る。▨

商写像R/I→R/(I+J)R/I\to R/(I+J)とR/J→R/(I+J)R/J\to R/(I+J)に関するファイバー積は

(R/I)×R/(I+J)(R/J):={(a+I,b+J)∣a+(I+J)=b+(I+J)}(R/I)\times_{R/(I+J)}(R/J) :=\{(a+I,b+J)\mid a+(I+J)=b+(I+J)\}

である。命題 1.1の像条件は右辺の等式と同値であるため、

im⁡ΦI,J=(R/I)×R/(I+J)(R/J)\operatorname{im}\Phi_{I,J} =(R/I)\times_{R/(I+J)}(R/J)

となる。なお、写像

δ ⁣:(R/I)×(R/J)⟶R/(I+J),(a+I,b+J)⟼a−b+(I+J)\delta\colon(R/I)\times(R/J)\longrightarrow R/(I+J), \qquad (a+I,b+J)\longmapsto a-b+(I+J)

を考える。代表元を替えたときの差は前段で計算したようにI+JI+Jに属するため、δ\deltaは well-defined である。また

δ((a+I,b+J)+(c+I,d+J))=(a−b)+(c−d)+(I+J)\delta((a+I,b+J)+(c+I,d+J)) =(a-b)+(c-d)+(I+J)

であるから、δ\deltaは加法群準同型である。像条件からker⁡δ=im⁡ΦI,J\ker\delta=\operatorname{im}\Phi_{I,J}となる。一般にδ\deltaは環準同型ではない。

二つの両側イデアルI,JI,Jが互いに素であるとは、I+J=RI+J=Rとなることをいう。この条件は、中国剰余写像がすべての剰余の組を与えるための必要十分条件である。

証明の順向きでは1R=i+j1_R=i+jを用いて、剰余の組(a+I,b+J)(a+I,b+J)の逆像aj+biaj+biを構成する。逆向きでは(I,1R+J)(I,1_R+J)の逆像から1R∈I+J1_R\in I+Jを導く。最後に、核の計算と環の第一同型定理を組み合わせて直積分解を得る。

定理 1.2 (二つの両側イデアルに対する中国剰余定理).I,J⊆RI,J\subseteq Rを両側イデアルとする。次の二条件は同値である。

  1. I+J=RI+J=Rである。
  2. ΦI,J ⁣:R→R/I×R/J\Phi_{I,J}\colon R\to R/I\times R/Jは全射である。

これらの条件が成り立つとき、ΦI,J\Phi_{I,J}は環同型

Φ‾I,J ⁣:R/(I∩J)→ ≅ R/I×R/J,r+(I∩J)⟼(r+I,r+J)\overline\Phi_{I,J}\colon R/(I\cap J)\xrightarrow{\ \cong\ }R/I\times R/J, \qquad r+(I\cap J)\longmapsto(r+I,r+J)

を誘導する。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。I+J=RI+J=Rとする。1R=i+j1_R=i+jとなるi∈Ii\in Iとj∈Jj\in Jを取る。任意の(a+I,b+J)∈R/I×R/J(a+I,b+J)\in R/I\times R/Jに対して

r:=aj+bir:=aj+bi

と置く。j=1R−ij=1_R-iであるため、

r−a=a(j−1R)+bi=−ai+bi∈Ir-a=a(j-1_R)+bi=-ai+bi\in I

である。ここではIIが左からの乗法と加法について閉じることを用いた。i=1R−ji=1_R-jからは

r−b=aj+b(i−1R)=aj−bj∈Jr-b=aj+b(i-1_R)=aj-bj\in J

である。したがってΦI,J(r)=(a+I,b+J)\Phi_{I,J}(r)=(a+I,b+J)であり、ΦI,J\Phi_{I,J}は全射である。この構成ではa,b,i,ja,b,i,jの積の順序を変更していない。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。逆にΦI,J\Phi_{I,J}が全射であるとする。(I,1R+J)(I,1_R+J)の逆像を一つ取り、r∈Rr\in Rが

r∈I,r−1R∈Jr\in I, \qquad r-1_R\in J

を満たすとする。このとき

1R=r−(r−1R)∈I+J1_R=r-(r-1_R)\in I+J

であるから、I+J=RI+J=Rとなる。

同値な条件が成り立つ場合、命題 1.1によりΦI,J\Phi_{I,J}は全射で、その核はI∩JI\cap Jである。§E6.3 定理 6.2を適用すると、表示した単位的環同型を得る。▨

2 非可換環におけるイデアル積への注意

可換環では互いに素なイデアルI,JI,Jに対してI∩J=IJI\cap J=IJとなる。実際、1=i+j1=i+j、ただしi∈I,j∈Ji\in I,j\in Jとし、x∈I∩Jx\in I\cap Jとすると、可換性により

x=xi+xj=ix+xj∈IJx=xi+xj=ix+xj\in IJ

となる。逆包含IJ⊆I∩JIJ\subseteq I\cap Jは§E6.3 命題 4.2から従う。しかし、一般の非可換環では、両側イデアルであっても積の順序が結果を変えるため、中国剰余定理の核を無条件にイデアル積で置き換えてはならない。

例 2.1 (互いに素でも積の順序が残る例).kkを体とし、T=T2(k)T=T_2(k)をkk係数の二次上三角行列環とする。

I=kE11+kE12,J=kE12+kE22I=kE_{11}+kE_{12}, \qquad J=kE_{12}+kE_{22}

と置く。A=aE11+bE12+cE22∈TA=aE_{11}+bE_{12}+cE_{22}\in Tに対する行列積を計算すると、AI,IA⊆IAI,IA\subseteq IおよびAJ,JA⊆JAJ,JA\subseteq Jとなるため、IIとJJは両側イデアルである。また、行列単位の積から

A(pE11+qE12)=apE11+aqE12,A(pE_{11}+qE_{12})=apE_{11}+aqE_{12},(pE11+qE12)A=paE11+(pb+qc)E12,(pE_{11}+qE_{12})A=paE_{11}+(pb+qc)E_{12},A(sE12+tE22)=(as+bt)E12+ctE22,A(sE_{12}+tE_{22})=(as+bt)E_{12}+ctE_{22},(sE12+tE22)A=scE12+tcE22.(sE_{12}+tE_{22})A=scE_{12}+tcE_{22}.

したがってIIとJJが両側イデアルであることを直接確認することができる。さらに

(pE11+qE12)(sE12+tE22)=(ps+qt)E12,(pE_{11}+qE_{12})(sE_{12}+tE_{22})=(ps+qt)E_{12},(sE12+tE22)(pE11+qE12)=0(sE_{12}+tE_{22})(pE_{11}+qE_{12})=0

であるため、

IJ=kE12,JI=0IJ=kE_{12}, \qquad JI=0

である。また、任意のA=aE11+bE12+cE22A=aE_{11}+bE_{12}+cE_{22}はaE11+bE12∈IaE_{11}+bE_{12}\in IとcE22∈JcE_{22}\in Jの和であるためI+J=TI+J=Tである。IIとJJの双方に属する行列ではE11E_{11}成分とE22E_{22}成分がともに零であるため、I∩J=kE12I\cap J=kE_{12}である。したがって

I∩J=IJ≠JII\cap J=IJ\ne JI

となる。この例では定理 1.2によって

T/kE12≅T/I×T/J≅k×kT/kE_{12}\cong T/I\times T/J\cong k\times k

を得る。最後の同型は、全射な環準同型T→kT\to kをaE11+bE12+cE22↦caE_{11}+bE_{12}+cE_{22}\mapsto cおよびaE11+bE12+cE22↦aaE_{11}+bE_{12}+cE_{22}\mapsto aによって定めると、核がそれぞれIIとJJになることから従う。以上の計算は、核I∩JI\cap Jを順序を指定しない「積」と呼ぶことができないことを示す。

3 有限個の両側イデアル

有限族では、各座標だけに指定した剰余を残す元を構成する。非可換環では積の因子を並べ替えることができないため、各積に任意の順序を一つ固定する。両側イデアル性により、対象となるイデアルの元が積の途中に一つ現れれば、積全体がそのイデアルに属する。

定理 3.1 (有限個の両側イデアルに対する中国剰余定理).n≥1n\ge1とし、I1,…,In⊆RI_1,\ldots,I_n\subseteq Rを二つずつ互いに素な両側イデアルとする。すなわちk≠lk\ne lならば

Ik+Il=RI_k+I_l=R

とする。このとき中国剰余写像

Φ ⁣:R⟶∏k=1nR/Ik,r⟼(r+I1,…,r+In)\Phi\colon R\longrightarrow\prod_{k=1}^nR/I_k, \qquad r\longmapsto(r+I_1,\ldots,r+I_n)

は全射であり、ker⁡Φ=⋂k=1nIk\ker\Phi=\bigcap_{k=1}^nI_kである。したがって単位的環同型

R/⋂k=1nIk≅∏k=1nR/IkR/\bigcap_{k=1}^nI_k \cong \prod_{k=1}^nR/I_k

が存在する。

証明.Φ\Phiの各座標は商写像R→R/IkR\to R/I_kであるため、直積環の座標ごとの演算からΦ\Phiは単位元を保つ環準同型である。

n=1n=1の場合にはΦ\Phiは商写像であり、主張は商環の定義から従う。以下ではn≥2n\ge2とする。

k≠jk\ne jごとにIk+Ij=RI_k+I_j=Rであるため、

ukj+vkj=1R,ukj∈Ik,vkj∈Iju_{kj}+v_{kj}=1_R, \qquad u_{kj}\in I_k,\qquad v_{kj}\in I_j

となる元を選ぶ。各kkについて、添字集合{1,…,n}∖{k}\{1,\ldots,n\}\setminus\{k\}に一つの順序を固定し、その順序で

ek:=∏j≠kvkje_k:=\prod_{j\ne k}v_{kj}

と置く。各因子はvkj=1R−ukjv_{kj}=1_R-u_{kj}を満たすため、商環R/IkR/I_kではすべての因子が1R+Ik1_R+I_kに等しい。よって

ek−1R∈Ike_k-1_R\in I_k

である。

l≠kl\ne kとする。積eke_kの因子の一つはvkl∈Ilv_{kl}\in I_lである。IlI_lは両側イデアルであるため、この因子の左側と右側に他の因子を掛けても積はIlI_lに属する。したがって

ek∈Il(l≠k)e_k\in I_l\qquad(l\ne k)

である。この議論は因子の交換を用いない。

任意の元

(r1+I1,…,rn+In)∈∏k=1nR/Ik(r_1+I_1,\ldots,r_n+I_n) \in\prod_{k=1}^nR/I_k

に対して

r:=∑k=1nrkekr:=\sum_{k=1}^nr_ke_k

と置く。固定したllに対して、k≠lk\ne lならek∈Ile_k\in I_lであるためrkek∈Ilr_ke_k\in I_lである。また

rlel−rl=rl(el−1R)∈Ilr_le_l-r_l=r_l(e_l-1_R)\in I_l

である。したがってr−rl∈Ilr-r_l\in I_lであり、Φ(r)\Phi(r)は指定した剰余の組に等しい。よってΦ\Phiは全射である。

r∈ker⁡Φr\in\ker\Phiであることは、すべてのkkに対してr∈Ikr\in I_kであることと同値であるため、

ker⁡Φ=⋂k=1nIk\ker\Phi=\bigcap_{k=1}^nI_k

である。最後に§E6.3 定理 6.2をΦ\Phiに適用すると、主張した環同型を得る。▨

有限族では、全体の和がRRに等しいだけでは全射性を得られない。実際、Z\mathbb Zのイデアル

I1=(2),I2=(3),I3=(6)I_1=(2),\qquad I_2=(3),\qquad I_3=(6)

はI1+I2+I3=ZI_1+I_2+I_3=\mathbb Zを満たす。しかし(0+(2),0+(3),1+(6))(0+(2),0+(3),1+(6))が中国剰余写像の像に属すると仮定すると、その逆像rrは22と33の双方で割り切れるため66で割り切れる一方、r≡1(mod6)r\equiv1\pmod6も満たすことになり、矛盾する。したがって写像は全射ではない。有限版の仮定は、単なる全体和ではなく二つずつの互いに素性である。

4 具体例

例 4.1 (整数環における剰余の合成).m,n≥1m,n\ge1とし、g=gcd⁡(m,n)g=\gcd(m,n)、l=lcm⁡(m,n)l=\operatorname{lcm}(m,n)と置く。このとき

(m)+(n)=(g),(m)∩(n)=(l)(m)+(n)=(g), \qquad (m)\cap(n)=(l)

である。第一の等式について、mmとnnの任意の整数係数線形結合はggの倍数であるため(m)+(n)⊆(g)(m)+(n)\subseteq(g)となる。Bézout の等式g=um+vng=um+vnから逆包含を得る。

第二の等式について、llの倍数はmmとnnの双方の倍数であるため(l)⊆(m)∩(n)(l)\subseteq(m)\cap(n)である。m=gm′m=gm'、n=gn′n=gn'、ただしgcd⁡(m′,n′)=1\gcd(m',n')=1と書く。z∈(m)∩(n)z\in(m)\cap(n)ならばz=gm′qz=gm'qとなるq∈Zq\in\mathbb Zが存在し、gn′∣gm′qgn'\mid gm'qからn′∣m′qn'\mid m'qを得る。Bézout の等式αm′+βn′=1\alpha m'+\beta n'=1にqqを掛けると、右辺の二項がともn′n'の倍数になるためn′∣qn'\mid qである。したがってgm′n′=lgm'n'=lはzzを割り、z∈(l)z\in(l)となる。

命題 1.1により、剰余の組(a+(m),b+(n))(a+(m),b+(n))が同一の整数から生じるための必要十分条件は

a−b∈(g),a-b\in(g),

すなわちa≡b(modg)a\equiv b\pmod gである。特にg=1g=1の場合にはすべての剰余の組が生じ、核は(l)=(mn)(l)=(mn)となる。

I=(4)I=(4)、J=(9)J=(9)をZ\mathbb Zのイデアルとする。1=9−81=9-8であり、9∈(9)9\in(9)、−8∈(4)-8\in(4)であるため(4)+(9)=Z(4)+(9)=\mathbb Zである。また、44と99の両方で割り切れる整数は3636で割り切れる。実際、z=4qz=4qかつ9∣z9\mid zならば、1=7⋅4−3⋅91=7\cdot4-3\cdot9にqqを掛けるとq=7z−27qq=7z-27qとなり、9∣q9\mid qを得る。よって36∣z36\mid zであり、(4)∩(9)=(36)(4)\cap(9)=(36)となる。したがって

Z/(36)≅Z/(4)×Z/(9).\mathbb Z/(36)\cong\mathbb Z/(4)\times\mathbb Z/(9).

剰余a+(4)a+(4)とb+(9)b+(9)を同時に与える元は

x=9a+28bx=9a+28b

である。実際、9≡1(mod4)9\equiv1\pmod4かつ9≡0(mod9)9\equiv0\pmod9であり、28≡0(mod4)28\equiv0\pmod4かつ28≡1(mod9)28\equiv1\pmod9である。この計算は整数の合同式としての中国剰余定理と一致するが、本記事の環同型は整数版の証明に依存せず、一般環の中国剰余写像から導いた。

三つの法2,3,52,3,5については、

15≡(1,0,0),10≡(0,1,0),6≡(0,0,1)(mod(2,3,5))15\equiv(1,0,0),\qquad 10\equiv(0,1,0),\qquad 6\equiv(0,0,1) \pmod{(2,3,5)}

である。したがって剰余(1,2,3)(1,2,3)を指定すると

15⋅1+10⋅2+6⋅3=53≡23(mod30)15\cdot1+10\cdot2+6\cdot3=53\equiv23\pmod{30}

を得る。実際、23≡1(mod2)23\equiv1\pmod2、23≡2(mod3)23\equiv2\pmod3、23≡3(mod5)23\equiv3\pmod5であり、有限中国剰余定理により解は法3030で一意である。

例 4.2 (多項式の二点での値).kkを体とし、R=k[x]R=k[x]、I=(x)I=(x)、J=(x−1)J=(x-1)とする。

1R=x−(x−1)∈I+J1_R=x-(x-1)\in I+J

であるためI+J=RI+J=Rである。前節で証明した可換環の場合の積公式により、

I∩J=(x(x−1))I\cap J=(x(x-1))

である。この等式を直接確認すると、f=xg=(x−1)hf=xg=(x-1)hならば0=f(0)=−h(0)0=f(0)=-h(0)である。したがってhhの定数項は零であり、あるq∈k[x]q\in k[x]に対してh=xqh=xqと書くことができる。よってf=x(x−1)qf=x(x-1)qである。逆にx(x−1)x(x-1)の倍元は(x)(x)と(x−1)(x-1)の双方に属する。

商写像を評価写像として同一視すると、中国剰余同型は

k[x]/(x(x−1))→ ≅ k×k,f+(x(x−1))⟼(f(0),f(1))k[x]/(x(x-1))\xrightarrow{\ \cong\ }k\times k, \qquad f+(x(x-1))\longmapsto(f(0),f(1))

となる。

評価写像の核も除法に依存せず確認することができる。f(x)=∑m=0damxmf(x)=\sum_{m=0}^da_mx^mに対して

f(x)−f(0)=x∑m=1damxm−1,f(x)-f(0)=x\sum_{m=1}^da_mx^{m-1},f(x)−f(1)=(x−1)∑m=1dam(1+x+⋯+xm−1)f(x)-f(1) =(x-1)\sum_{m=1}^da_m(1+x+\cdots+x^{m-1})

である。したがってf(0)=f(1)=0f(0)=f(1)=0ならばf∈(x)∩(x−1)=(x(x−1))f\in(x)\cap(x-1)=(x(x-1))であり、評価写像の核は確かに(x(x−1))(x(x-1))である。

(a,b)∈k×k(a,b)\in k\times kの逆像は

f(x)=a(1−x)+bxf(x)=a(1-x)+bx

によって与えられる。

例 4.3 (整数係数行列環の成分ごとの分解).R=M2(Z)R=M_2(\mathbb Z)とし、d≥1d\ge1に対して

M2(dZ):={(apq)∈M2(Z)∣d はすべての apq を割る}M_2(d\mathbb Z) :=\{(a_{pq})\in M_2(\mathbb Z)\mid d\text{ はすべての }a_{pq}\text{ を割る}\}

と置く。この集合は両側イデアルである。実際、成分ごとの差について閉じ、A∈M2(dZ)A\in M_2(d\mathbb Z)とB∈M2(Z)B\in M_2(\mathbb Z)に対してABABとBABAの各成分はddの倍数の有限和である。

I=M2(2Z)I=M_2(2\mathbb Z)、J=M2(3Z)J=M_2(3\mathbb Z)と置く。任意のA∈RA\in Rに対して

A=(−2A)+(3A)∈I+JA=(-2A)+(3A)\in I+J

であるためI+J=RI+J=Rである。また、各成分について22と33の双方で割り切れることは66で割り切れることと同値であるため、

I∩J=M2(6Z)I\cap J=M_2(6\mathbb Z)

である。成分ごとの剰余写像M2(Z)→M2(Z/(d))M_2(\mathbb Z)\to M_2(\mathbb Z/(d))は、任意の剰余行列について各成分の整数代表を選ぶことによって全射であり、その核はM2(dZ)M_2(d\mathbb Z)である。環の第一同型定理を適用すると

M2(Z)/M2(dZ)≅M2(Z/(d))M_2(\mathbb Z)/M_2(d\mathbb Z)\cong M_2(\mathbb Z/(d))

となる。したがって中国剰余同型は

M2(Z)/M2(6Z)≅M2(Z/(2))×M2(Z/(3))M_2(\mathbb Z)/M_2(6\mathbb Z) \cong M_2(\mathbb Z/(2))\times M_2(\mathbb Z/(3))

を与える。

B∈M2(Z/(2))B\in M_2(\mathbb Z/(2))とC∈M2(Z/(3))C\in M_2(\mathbb Z/(3))に対して整数成分の代表行列B~,C~\widetilde B,\widetilde Cを選ぶと、

A=3B~−2C~A=3\widetilde B-2\widetilde C

はA≡B(mod2)A\equiv B\pmod2およびA≡C(mod3)A\equiv C\pmod3を成分ごとに満たす。B~\widetilde Bを別の代表へ替えた差を2D2D、C~\widetilde Cを別の代表へ替えた差を3E3Eと書くと、対応するAAの差は6D−6E∈M2(6Z)6D-6E\in M_2(6\mathbb Z)となる。したがって法M2(6Z)M_2(6\mathbb Z)の剰余類は代表の選択に依存しない。以上の構成は有限全射性を行列環で具体化したものである。

5 演習

問題 5.1 (中国剰余写像の確認). 次の各問に答えよ。

  1. ΦI,J\Phi_{I,J}が環準同型であることを確認し、その核を計算せよ。
  2. 像の条件が代表元に依存しないことを証明し、像をファイバー積として記述せよ。差写像の構造も正確に述べよ。
  3. I+J=RI+J=RとΦI,J\Phi_{I,J}の全射性の同値を証明し、1=i+j1=i+jを用いて任意の剰余の組の逆像を構成せよ。
  4. 二つずつ互いに素な有限個の両側イデアルに対して各座標用の元eke_kを構成せよ。また、イデアル全体の和がRRに等しいだけでは不足する例を与えよ。
  5. T2(k)T_2(k)の二つの両側イデアルについて、和、共通部分、二つの順序の積および商環を計算せよ。
  6. Z/(36)≅Z/(4)×Z/(9)\mathbb Z/(36)\cong\mathbb Z/(4)\times\mathbb Z/(9)において、剰余の組(3+(4),5+(9))(3+(4),5+(9))の逆像を一つ求めよ。
  7. k[x]/(x(x−1))≅k×kk[x]/(x(x-1))\cong k\times kの写像、核および逆像の代表多項式を書け。
  8. M2(Z)M_2(\mathbb Z)の法M2(2Z)M_2(2\mathbb Z)および法M2(3Z)M_2(3\mathbb Z)の剰余を同時に実現する行列を構成せよ。
解答 (演習の解答).
  1. 各座標が商写像であるため、加法、乗法および単位元は座標ごとに保たれる。ΦI,J(r)=0\Phi_{I,J}(r)=0はr∈Ir\in Iかつr∈Jr\in Jと同値であるため、核はI∩JI\cap Jである。
  2. 代表をa′=a+i0a'=a+i_0、b′=b+j0b'=b+j_0、ただしi0∈I,j0∈Ji_0\in I,j_0\in Jと替えると、(a′−b′)−(a−b)=i0−j0∈I+J(a'-b')-(a-b)=i_0-j_0\in I+Jである。よって条件a−b∈I+Ja-b\in I+Jは代表に依存せず、像は(R/I)×R/(I+J)(R/J)(R/I)\times_{R/(I+J)}(R/J)である。差写像(a+I,b+J)↦a−b+(I+J)(a+I,b+J)\mapsto a-b+(I+J)は加法群準同型であり、その核が像である。差写像は一般には環準同型ではない。
  3. 1=i+j1=i+j、ただしi∈I,j∈Ji\in I,j\in Jとし、r=aj+bir=aj+biと置く。r−a=−ai+bi∈Ir-a=-ai+bi\in Iおよびr−b=aj−bj∈Jr-b=aj-bj\in Jであるため全射である。逆に全射性から(I,1+J)(I,1+J)の逆像rrを取ると、r∈Ir\in I、r−1∈Jr-1\in Jであり、1=r−(r−1)∈I+J1=r-(r-1)\in I+Jとなる。
  4. k≠jk\ne jごとにukj∈Iku_{kj}\in I_kとvkj∈Ijv_{kj}\in I_jをukj+vkj=1u_{kj}+v_{kj}=1となるように選び、固定した順序でek=∏j≠kvkje_k=\prod_{j\ne k}v_{kj}と置く。ek≡1(modIk)e_k\equiv1\pmod{I_k}であり、l≠kl\ne kならek∈Ile_k\in I_lである。したがってr=∑krkekr=\sum_kr_ke_kが指定した剰余を実現する。一方、Z\mathbb Zの(2),(3),(6)(2),(3),(6)は全体の和がZ\mathbb Zであるが、剰余(0,0,1)(0,0,1)を実現する整数は存在しない。
  5. I=kE11+kE12I=kE_{11}+kE_{12}、J=kE12+kE22J=kE_{12}+kE_{22}とすると、直接の行列積により両者は両側イデアルである。I+J=T2(k)I+J=T_2(k)、I∩J=kE12I\cap J=kE_{12}、IJ=kE12IJ=kE_{12}、JI=0JI=0である。対角成分への写像からT2(k)/I≅kT_2(k)/I\cong kおよびT2(k)/J≅kT_2(k)/J\cong kであり、中国剰余定理はT2(k)/kE12≅k×kT_2(k)/kE_{12}\cong k\times kを与える。
  6. x=9⋅3+28⋅5=167x=9\cdot3+28\cdot5=167と置けばよい。実際、167≡3(mod4)167\equiv3\pmod4かつ167≡5(mod9)167\equiv5\pmod9である。法3636では167≡23167\equiv23であるため、逆像は23+(36)23+(36)である。
  7. 写像はf+(x(x−1))↦(f(0),f(1))f+(x(x-1))\mapsto(f(0),f(1))である。f(x)−f(0)f(x)-f(0)はxxの倍元であり、f(x)−f(1)f(x)-f(1)はx−1x-1の倍元であるため、核は(x)∩(x−1)=(x(x−1))(x)\cap(x-1)=(x(x-1))である。(a,b)(a,b)の逆像の代表としてa(1−x)+bxa(1-x)+bxを取ることができる。
  8. 指定された剰余行列をBBとCCとし、整数成分の代表B~,C~\widetilde B,\widetilde Cを選ぶ。A=3B~−2C~A=3\widetilde B-2\widetilde Cと置くと、3≡1(mod2)3\equiv1\pmod2、−2≡0(mod2)-2\equiv0\pmod2、3≡0(mod3)3\equiv0\pmod3、−2≡1(mod3)-2\equiv1\pmod3であるため、A≡B(mod2)A\equiv B\pmod2かつA≡C(mod3)A\equiv C\pmod3となる。代表を替えたときのAAの差はM2(6Z)M_2(6\mathbb Z)に属する。

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6 後続記事との関係

本記事では、一般環の有限個の両側イデアルに対する中国剰余写像と直積分解を扱った。後続記事では、商加群と準同型からなる列を用いて完全性を定義し、環と加群の構造を写像の核と像によって記述する。

参考文献

  1. Thomas W. Hungerford, Algebra, Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1974.一般環の両側イデアルに対する中国剰余定理を参考にした。
  2. T. Y. Lam, A First Course in Noncommutative Rings, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2001.非可換環における両側イデアルの和、積および剰余環の扱いを参考にした。
  3. David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004.整数環と多項式環における中国剰余定理の具体例を参考にした。

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