§E6.2加群

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線形代数では、写像が加法を保つだけでなく、係数の作用も保つことが求められる。たとえば、複素共役z↦z‾z\mapsto\overline zは複素数の加法を保ち、R\R上では線形であるが、C\C上では線形でない。同じ加法構造をもつ対象の間でも、どの係数を作用させるかによって線形性は変わる。

加法と係数環の作用を一つの構造として扱うために、加群を導入する。加群はベクトル空間とアーベル群をともに含み、環の性質を加法的な対象を通して調べるための最も基本的な枠組みの一つである。非可換環の作用では、左からの作用と右からの作用が異なる構造を与える。

以下では、環は単位元をもつ結合環とし、零環も許す。加群の作用は単位的とする。

本記事では、加群の基本的な構成と性質を解説する。

1 左加群と右加群

左右の加群構造は、環の元を加法群の自己準同型として作用させる準同型によって定義する。アーベル群MMの自己準同型環End⁡Z(M)\End_{\Z}(M)では、積を写像の合成fg=f∘gfg=f\circ gとする。この環の構成は§E6.1 例 2.1で扱った。

定義 1.1. 環RRとアーベル群(M,+)(M,+)を考える。

  1. 単位元を保つ環準同型 λ ⁣:R⟶End⁡Z(M)\lambda\colon R\longrightarrow\End_{\Z}(M) が与えられたとき、MMを左RR加群 (left R-module) という。作用をrm:=λ(r)(m)rm:=\lambda(r)(m)と書く。
  2. 単位元を保つ環準同型 ρ~ ⁣:Rop⟶End⁡Z(M)\widetilde\rho\colon R^{\mathrm{op}}\longrightarrow\End_{\Z}(M) が与えられたとき、MMを右RR加群 (right R-module) という。RRとRopR^{\mathrm{op}}の台集合を同一視し、作用をmr:=ρ~(r)(m)mr:=\widetilde\rho(r)(m)と書く。

環RRが可換であり、MMが左RR加群である場合には、mr:=rmmr:=rmと定めることによって右RR加群が得られる。非可換環上では、左作用と右作用は一般に異なる構造である。

定義 1.2. 環RRとアーベル群MMを考える。写像R×M→MR\times M\to M,(r,m)↦rm(r,m)\mapsto rmが、任意のr,s∈Rr,s\in Rとm,n∈Mm,n\in Mに対して

r(m+n)=rm+rn,(r+s)m=rm+sm,r(m+n)=rm+rn,\qquad (r+s)m=rm+sm,(rs)m=r(sm),1Rm=m(rs)m=r(sm),\qquad 1_Rm=m

を満たすとき、この写像を作用公理による左RR加群構造 (left R-module structure by action axioms) という。

同様に、写像M×R→MM\times R\to M,(m,r)↦mr(m,r)\mapsto mrが

(m+n)r=mr+nr,m(r+s)=mr+ms,(m+n)r=mr+nr,\qquad m(r+s)=mr+ms,(mr)s=m(rs),m1R=m(mr)s=m(rs),\qquad m1_R=m

を満たすとき、この写像を作用公理による右RR加群構造 (right R-module structure by action axioms) という。

命題 1.3.定義 1.2の左RR加群構造は定義 1.1の単位元を保つ環準同型R→End⁡Z(M)R\to\End_{\Z}(M)と一対一に対応し、右RR加群構造は単位元を保つ環準同型Rop→End⁡Z(M)R^{\mathrm{op}}\to\End_{\Z}(M)と一対一に対応する。さらに、右RR加群構造は、加法と単位元を保ち、

ρ(rs)=ρ(s)ρ(r)\rho(rs)=\rho(s)\rho(r)

を満たす反準同型ρ ⁣:R→End⁡Z(M)\rho\colon R\to\End_{\Z}(M)と同じデータである。

証明.定義 1.1の環準同型λ\lambdaを取る。各λ(r)\lambda(r)は加法群MMの自己準同型であるため、

r(m+n)=rm+rnr(m+n)=rm+rn

が成り立つ。λ\lambdaの加法性、乗法性および単位元の保存から

(r+s)m=rm+sm,(rs)m=r(sm),1Rm=m(r+s)m=rm+sm,\qquad (rs)m=r(sm),\qquad 1_Rm=m

を得る。したがって左作用公理が成り立つ。

逆に、左作用公理を満たす写像が与えられたとし、λ(r)(m):=rm\lambda(r)(m):=rmと定める。第1分配律により、λ(r)\lambda(r)は加法群MMの自己準同型である。第2分配律から

λ(r+s)=λ(r)+λ(s)\lambda(r+s)=\lambda(r)+\lambda(s)

を得る。また、作用の結合律から、任意のm∈Mm\in Mに対して

λ(rs)(m)=(rs)m=r(sm)=λ(r)(λ(s)(m))=(λ(r)λ(s))(m)\lambda(rs)(m)=(rs)m=r(sm) =\lambda(r)\bigl(\lambda(s)(m)\bigr) =\bigl(\lambda(r)\lambda(s)\bigr)(m)

である。したがってλ(rs)=λ(r)λ(s)\lambda(rs)=\lambda(r)\lambda(s)である。単位公理はλ(1R)=id⁡M\lambda(1_R)=\id_Mを与えるため、λ\lambdaは単位元を保つ環準同型である。

次に、右作用公理を満たす写像が与えられたとし、ρ(r)(m):=mr\rho(r)(m):=mrと定める。右作用の分配律と単位公理から、ρ\rhoは加法と単位元を保つ。さらに

ρ(rs)(m)=m(rs)=(mr)s=ρ(s)(ρ(r)(m))=(ρ(s)ρ(r))(m)\rho(rs)(m)=m(rs)=(mr)s =\rho(s)\bigl(\rho(r)(m)\bigr) =\bigl(\rho(s)\rho(r)\bigr)(m)

であるから、ρ(rs)=ρ(s)ρ(r)\rho(rs)=\rho(s)\rho(r)である。すなわちρ\rhoは反準同型である。

RopR^{\mathrm{op}}の積をr⋆s:=srr\mathbin\star s:=srと書くと、

ρ~(r⋆s)=ρ(sr)=ρ(r)ρ(s)=ρ~(r)ρ~(s)\widetilde\rho(r\mathbin\star s)=\rho(sr) =\rho(r)\rho(s)=\widetilde\rho(r)\widetilde\rho(s)

である。したがって同じ写像はRopR^{\mathrm{op}}からの環準同型ρ~\widetilde\rhoになる。

逆に、定義 1.1の環準同型ρ~\widetilde\rhoが与えられたとし、mr:=ρ~(r)(m)mr:=\widetilde\rho(r)(m)と定める。各ρ~(r)\widetilde\rho(r)が加法群の自己準同型であることと、ρ~\widetilde\rhoの加法性から二つの分配律が従う。RopR^{\mathrm{op}}でs⋆r=rss\mathbin\star r=rsであるため、

m(rs)=ρ~(s⋆r)(m)=ρ~(s)ρ~(r)(m)=(mr)sm(rs)=\widetilde\rho(s\mathbin\star r)(m) =\widetilde\rho(s)\widetilde\rho(r)(m) =(mr)s

である。単位元の保存からm1R=mm1_R=mも従う。よって右作用公理が得られる。以上の構成は定義から互いに逆であり、自己準同型環による定義と作用公理による記述は同値である。▨

右RR加群を左RopR^{\mathrm{op}}加群として表す作用はrop⋅m:=mrr^{\mathrm{op}}\cdot m:=mrである。この対応は加法、部分加群および準同型を変えない。以下の左右に共通する構成と性質は左加群について証明し、右加群についてはRRをRopR^{\mathrm{op}}に置き換えて適用する。

命題 1.4.MMを左RR加群とする。任意のr∈Rr\in Rとm∈Mm\in Mに対して

0Rm=0M,r0M=0M,(−r)m=−(rm),r(−m)=−(rm)0_Rm=0_M,\qquad r0_M=0_M,\qquad (-r)m=-(rm),\qquad r(-m)=-(rm)

が成り立つ。右RR加群についても、作用を右側に書いた同様の公式が成り立つ。

証明.λ ⁣:R→End⁡Z(M)\lambda\colon R\to\End_{\Z}(M)を左作用を与える環準同型とする。§E1.6 命題 1.3により、加法準同型λ\lambdaは零元と加法逆元を保つので、λ(0R)=0\lambda(0_R)=0およびλ(−r)=−λ(r)\lambda(-r)=-\lambda(r)である。両式をmmに適用すると、0Rm=0M0_Rm=0_Mおよび(−r)m=−(rm)(-r)m=-(rm)を得る。各λ(r)\lambda(r)も加法準同型であるから、同じ命題によりr0M=0Mr0_M=0_Mおよびr(−m)=−(rm)r(-m)=-(rm)である。▨

例 1.5 (加群の基本例). 次の対象は加群の基本例である。

  1. 環RRの加法群に左作用r⋅x:=rxr\cdot x:=rxを入れると左RR加群になり、右作用x⋅r:=xrx\cdot r:=xrを入れると右RR加群になる。これらをそれぞれ左正則加群、右正則加群という。
  2. アーベル群AAに対し、整数nnの作用を、n≥0n\ge 0ならnanaをaaのnn個の和、n<0n<0ならna:=−((−n)a)na:=-((-n)a)と定める。§E6.1 補題 3.1が四つの作用公理を与えるため、AAはZ\Z加群になる。逆に、Z\Z加群の作用は加法性と1a=a1a=aによってこの作用に限られる。したがってZ\Z加群とアーベル群は同じデータである。
  3. 体KK上のベクトル空間は左KK加群である。KKが可換であるため、同じ作用から右KK加群構造も得られる。
  4. 環準同型φ ⁣:R→S\varphi\colon R\to Sが与えられると、SSはr⋅x:=φ(r)xr\cdot x:=\varphi(r)xにより左RR加群になり、x⋅r:=xφ(r)x\cdot r:=x\varphi(r)により右RR加群になる。

2 双加群

定義 2.1. 環R,SR,Sに対し、アーベル群MMが左RR加群かつ右SS加群であり、任意のr∈Rr\in R、s∈Ss\in S、m∈Mm\in Mに対して

(rm)s=r(ms)(rm)s=r(ms)

が成り立つとき、MMをRR-SS双加群 (R-S-bimodule) という。

例えば、環RRは左右の乗法によってRR-RR双加群になる。また、環準同型φ ⁣:R→S\varphi\colon R\to Sに対し、左作用をr⋅x=φ(r)xr\cdot x=\varphi(r)x、右作用をSSの乗法で定めると、SSはRR-SS双加群になる。実際、結合律から(φ(r)x)s=φ(r)(xs)(\varphi(r)x)s=\varphi(r)(xs)が成り立つ。

3 部分加群と商加群

定義 3.1.MMを左RR加群とする。部分集合N⊆MN\subseteq Mが00を含み、加法、加法逆元および左RR作用で閉じるとき、NNをMMの左部分加群 (left submodule) という。すなわち、NNは作用で閉じる加法部分群である。このとき

m∼m′⟺m−m′∈Nm\sim m'\quad\Longleftrightarrow\quad m-m'\in N

で定まる同値関係の商集合をM/NM/Nと書く。mmの同値類はm+N:={m+n∣n∈N}m+N:=\{m+n\mid n\in N\}である。商集合M/NM/Nに加法と左作用を

(m+N)+(m′+N):=(m+m′)+N,(m+N)+(m'+N):=(m+m')+N,r(m+N):=rm+Nr(m+N):=rm+N

で定めたものを商左RR加群 (quotient left R-module) という。

MMが右RR加群である場合、加法部分群N⊆MN\subseteq Mが任意のn∈Nn\in Nとr∈Rr\in Rに対してnr∈Nnr\in Nを満たすとき、NNを右部分加群 (right submodule) という。このとき、商加法群M/NM/Nに

(m+N)r:=mr+N(m+N)r:=mr+N

で右作用を定めたものを商右RR加群 (quotient right R-module) という。いずれの場合にも、π(m):=m+N\pi(m):=m+Nで定まる写像π ⁣:M→M/N\pi\colon M\to M/Nを自然な射影 (canonical projection) という。

命題 3.2.定義 3.1の作用は剰余類の代表元によらず定まり、M/NM/Nを対応する側のRR加群にする。自然な射影π ⁣:M→M/N\pi\colon M\to M/Nは全射であり、加法と対応する側の作用を保ち、ker⁡π=N\ker\pi=Nを満たす。

証明.NNは00を含み、加法と加法逆元で閉じる。したがって、m−m=0m-m=0、m′−m=−(m−m′)m'-m=-(m-m')およびm−m′′=(m−m′)+(m′−m′′)m-m''=(m-m')+(m'-m'')により、∼\simは同値関係である。m′∼mm'\sim mとm′=m+nm'=m+nを満たすn∈Nn\in Nの存在は同値であり、mmの同値類は表示したm+Nm+Nである。

m∼m′m\sim m'、n∼n′n\sim n'ならば

(m+n)−(m′+n′)=(m−m′)+(n−n′)∈N(m+n)-(m'+n')=(m-m')+(n-n')\in N

であるから、∼\simは加法と両立する。§E1.6 定理 3.2により、M/NM/Nの加法は well-defined であり、結合律と可換律を満たす。零元はNN、m+Nm+Nの加法逆元は−m+N-m+Nである。よってM/NM/Nはアーベル群である。

m+N=m′+Nm+N=m'+Nならばm−m′∈Nm-m'\in Nである。NNは左作用で閉じているため、任意のr∈Rr\in Rに対して

rm−rm′=r(m−m′)∈Nrm-rm'=r(m-m')\in N

である。したがってrm+N=rm′+Nrm+N=rm'+Nであり、左作用は代表元によらない。

任意のr,s∈Rr,s\in Rとm,n∈Mm,n\in Mに対して

r((m+N)+(n+N))=r(m+n)+N=(rm+rn)+N,r\bigl((m+N)+(n+N)\bigr) =r(m+n)+N=(rm+rn)+N,(r+s)(m+N)=(r+s)m+N=(rm+sm)+N,(r+s)(m+N)=(r+s)m+N=(rm+sm)+N,(rs)(m+N)=(rs)m+N=r(sm)+N=r(s(m+N)),(rs)(m+N)=(rs)m+N=r(sm)+N =r\bigl(s(m+N)\bigr),1R(m+N)=1Rm+N=m+N1_R(m+N)=1_Rm+N=m+N

である。よってM/NM/Nは左RR加群である。

自然な射影は商集合の定義から全射であり、加法の定義からπ(m+m′)=π(m)+π(m′)\pi(m+m')=\pi(m)+\pi(m')である。また、

π(rm)=rm+N=r(m+N)=rπ(m)\pi(rm)=rm+N=r(m+N)=r\pi(m)

である。π(m)=N\pi(m)=Nとm∈Nm\in Nは同値であるから、ker⁡π=N\ker\pi=Nである。▨

4 加群準同型、核、像および余核

左右の加群では、準同型も作用する側を保つように定義する。

定義 4.1.M,NM,Nを左RR加群とする。写像f ⁣:M→Nf\colon M\to Nが任意のm,m′∈Mm,m'\in Mとr∈Rr\in Rに対して

f(m+m′)=f(m)+f(m′),f(rm)=rf(m)f(m+m')=f(m)+f(m'),\qquad f(rm)=rf(m)

を満たすとき、ffを左RR加群準同型 (left R-module homomorphism) または左RR線形写像 (left R-linear map) という。

M,NM,Nが右RR加群である場合には、第2の条件を

f(mr)=f(m)rf(mr)=f(m)r

に置き換え、右RR加群準同型 (right R-module homomorphism) という。いずれの場合にも、対応するRR加群準同型全体をHom⁡R(M,N)\Hom_R(M,N)と書く。全単射なRR加群準同型をRR加群の同型 (module isomorphism) という。

加群準同型f ⁣:M→Nf\colon M\to Nに対して

ker⁡f:={m∈M∣f(m)=0},im⁡f:={f(m)∣m∈M}\ker f:=\{m\in M\mid f(m)=0\},\qquad \im f:=\{f(m)\mid m\in M\}

をそれぞれ核 (kernel) と像 (image) という。また、商加群

coker⁡f:=N/im⁡f\coker f:=N/\im f

をffの余核 (cokernel) という。

命題 4.2. 加群準同型f ⁣:M→Nf\colon M\to Nの核はMMの部分加群であり、像はNNの部分加群である。したがって余核は加群として定まる。また、Hom⁡R(M,N)\Hom_R(M,N)は点ごとの加法によってアーベル群になり、加群準同型の合成は加群準同型である。

証明.f(0)=0f(0)=0およびf(m−m′)=f(m)−f(m′)f(m-m')=f(m)-f(m')であるから、ker⁡f\ker fとim⁡f\im fは零元を含み、差で閉じる。したがって、核はMMの加法部分群であり、像はNNの加法部分群である。m∈ker⁡fm\in\ker fとr∈Rr\in Rに対して

f(rm)=rf(m)=r0=0f(rm)=rf(m)=r0=0

であるから、rm∈ker⁡frm\in\ker fである。また、y=f(m)∈im⁡fy=f(m)\in\im fに対して

ry=rf(m)=f(rm)∈im⁡fry=rf(m)=f(rm)\in\im f

である。したがって核と像は左部分加群であり、命題 3.2により余核も左加群になる。

f,g∈Hom⁡R(M,N)f,g\in\Hom_R(M,N)に対して(f+g)(m):=f(m)+g(m)(f+g)(m):=f(m)+g(m)と定める。左加群の場合には

(f+g)(rm)=f(rm)+g(rm)=rf(m)+rg(m)=r(f+g)(m)(f+g)(rm)=f(rm)+g(rm)=rf(m)+rg(m)=r(f+g)(m)

である。また、NNの加法の可換性により

(f+g)(m+m′)=f(m)+f(m′)+g(m)+g(m′)=(f+g)(m)+(f+g)(m′)(f+g)(m+m')=f(m)+f(m')+g(m)+g(m') =(f+g)(m)+(f+g)(m')

であるため、f+gf+gもRR線形である。零写像と点ごとの加法逆元もRR線形であり、加法の各公理はNNの加法群から点ごとに従う。よってHom⁡R(M,N)\Hom_R(M,N)はアーベル群になる。

f ⁣:M→Nf\colon M\to Nとg ⁣:N→Pg\colon N\to Pが同じ側のRR加群準同型であるとする。左加群の場合には

(g∘f)(rm)=g(rf(m))=r(g∘f)(m)(g\circ f)(rm)=g(rf(m))=r(g\circ f)(m)

であり、加法性も合成から従う。▨

命題 4.3.M,PM,Pを左RR加群、NNをMMの左部分加群とし、π ⁣:M→M/N\pi\colon M\to M/Nを自然な射影とする。左RR線形写像f ⁣:M→Pf\colon M\to Pに対し、RR線形写像f‾ ⁣:M/N→P\overline f\colon M/N\to Pであってf=f‾∘πf=\overline f\circ\piを満たすものが存在するための必要十分条件は、N⊆ker⁡fN\subseteq\ker fである。その場合、f‾\overline fは一意であり、

f‾(m+N)=f(m)\overline f(m+N)=f(m)

で与えられる。したがって、h↦h∘πh\mapsto h\circ\piはM/NM/NからPPへの左RR線形写像と、MMからPPへの左RR線形写像でNNを零にするものとの一対一対応を与える。右加群についても同じ結論が成り立つ。

証明.f=f‾∘πf=\overline f\circ\piならば、任意のn∈Nn\in Nに対してf(n)=f‾(0)=0f(n)=\overline f(0)=0であるから、N⊆ker⁡fN\subseteq\ker fである。

N⊆ker⁡fN\subseteq\ker fと仮定する。m+N=m′+Nm+N=m'+Nならばm−m′∈Nm-m'\in Nであり、f(m)−f(m′)=f(m−m′)=0f(m)-f(m')=f(m-m')=0となる。したがってf‾(m+N):=f(m)\overline f(m+N):=f(m)は well-defined である。任意のm,m′∈Mm,m'\in Mとr∈Rr\in Rに対して

f‾((m+N)+(m′+N))=f(m+m′)=f(m)+f(m′),\overline f\bigl((m+N)+(m'+N)\bigr) =f(m+m')=f(m)+f(m'),f‾(r(m+N))=f(rm)=rf(m)\overline f\bigl(r(m+N)\bigr)=f(rm)=rf(m)

であるから、f‾\overline fは左RR線形であり、定義からf=f‾∘πf=\overline f\circ\piである。任意の類がπ(m)\pi(m)の形であるため、この等式はf‾\overline fの値をすべて定める。よってf‾\overline fは一意である。▨

5 Hom の双加群構造

MMをRR-SS双加群、NNをRR-TT双加群とする。双加群の右作用は、定義域からHom⁡R(M,N)\Hom_R(M,N)へ移すと左作用になる。s∈Ss\in Sに対して

rsM ⁣:M⟶M,rsM(m):=msr_s^M\colon M\longrightarrow M,\qquad r_s^M(m):=ms

と置く。MMがRR-SS双加群であるため、rsMr_s^Mは左RR線形である。また、

rs1s2M=rs2M∘rs1Mr_{s_1s_2}^M=r_{s_2}^M\circ r_{s_1}^M

であり、s↦rsMs\mapsto r_s^Mは積の順序を反転する。一方、rsMr_s^Mによる前合成

f⟼f∘rsMf\longmapsto f\circ r_s^M

も合成の順序を反転する。したがって二つの順序反転が相殺し、(s1s2)⋅f=s1⋅(s2⋅f)(s_1s_2)\cdot f=s_1\cdot(s_2\cdot f)という左作用の順序が得られる。値域NNの右TT作用は Hom の右TT作用を直接与える。

定理 5.1.MMをRR-SS双加群、NNをRR-TT双加群とする。Hom⁡R(M,N)\Hom_R(M,N)は、

(s⋅f)(m):=f(ms),(f⋅t)(m):=f(m)t(s\cdot f)(m):=f(ms),\qquad (f\cdot t)(m):=f(m)t

によってSS-TT双加群になる。左SS作用はMMの右SS作用から定まり、右TT作用はNNの右TT作用から定まる。

証明.r∈Rr\in R、s∈Ss\in S、t∈Tt\in T、f∈Hom⁡R(M,N)f\in\Hom_R(M,N)、m∈Mm\in Mに対して、双加群の作用の両立性とffのRR線形性から

(s⋅f)(rm)=f((rm)s)=f(r(ms))=rf(ms)=r(s⋅f)(m)(s\cdot f)(rm)=f((rm)s)=f(r(ms))=rf(ms)=r(s\cdot f)(m)

である。また、

(f⋅t)(rm)=f(rm)t=(rf(m))t=r(f(m)t)=r(f⋅t)(m)(f\cdot t)(rm)=f(rm)t=(rf(m))t=r(f(m)t)=r(f\cdot t)(m)

である。加法性はff、右SS作用および右TT作用の加法性から従う。したがってs⋅fs\cdot fとf⋅tf\cdot tはいずれもHom⁡R(M,N)\Hom_R(M,N)に属する。

任意のs1,s2∈Ss_1,s_2\in S、f,g∈Hom⁡R(M,N)f,g\in\Hom_R(M,N)、m∈Mm\in Mに対して

((s1+s2)⋅f)(m)=f(m(s1+s2))=f(ms1)+f(ms2)=(s1⋅f+s2⋅f)(m),\bigl((s_1+s_2)\cdot f\bigr)(m) =f(m(s_1+s_2))=f(ms_1)+f(ms_2) =\bigl(s_1\cdot f+s_2\cdot f\bigr)(m),(s1⋅(f+g))(m)=(f+g)(ms1)=f(ms1)+g(ms1)=(s1⋅f+s1⋅g)(m),\bigl(s_1\cdot(f+g)\bigr)(m) =(f+g)(ms_1)=f(ms_1)+g(ms_1) =\bigl(s_1\cdot f+s_1\cdot g\bigr)(m),(s1⋅(s2⋅f))(m)=(s2⋅f)(ms1)=f((ms1)s2)=f(m(s1s2))=((s1s2)⋅f)(m),\bigl(s_1\cdot(s_2\cdot f)\bigr)(m) =(s_2\cdot f)(ms_1)=f((ms_1)s_2) =f(m(s_1s_2)) =\bigl((s_1s_2)\cdot f\bigr)(m),(1S⋅f)(m)=f(m1S)=f(m)(1_S\cdot f)(m)=f(m1_S)=f(m)

である。よって左SS加群公理が成り立つ。

任意のt1,t2∈Tt_1,t_2\in Tに対して

(f⋅(t1+t2))(m)=f(m)(t1+t2)=(f⋅t1+f⋅t2)(m),\bigl(f\cdot(t_1+t_2)\bigr)(m) =f(m)(t_1+t_2) =\bigl(f\cdot t_1+f\cdot t_2\bigr)(m),((f+g)⋅t1)(m)=(f(m)+g(m))t1=(f⋅t1+g⋅t1)(m),\bigl((f+g)\cdot t_1\bigr)(m) =(f(m)+g(m))t_1 =\bigl(f\cdot t_1+g\cdot t_1\bigr)(m),((f⋅t1)⋅t2)(m)=(f(m)t1)t2=f(m)(t1t2)=(f⋅(t1t2))(m),\bigl((f\cdot t_1)\cdot t_2\bigr)(m) =(f(m)t_1)t_2=f(m)(t_1t_2) =\bigl(f\cdot(t_1t_2)\bigr)(m),(f⋅1T)(m)=f(m)1T=f(m)(f\cdot1_T)(m)=f(m)1_T=f(m)

である。したがって右TT加群公理も成り立つ。

左右の作用の両立性は

((s⋅f)⋅t)(m)=f(ms)t=(s⋅(f⋅t))(m)\bigl((s\cdot f)\cdot t\bigr)(m)=f(ms)t =\bigl(s\cdot(f\cdot t)\bigr)(m)

から従う。よってHom⁡R(M,N)\Hom_R(M,N)はSS-TT双加群である。▨

例 5.2 (非可換環上の Hom と左乗法).KKを体とし、R=M2(K)R=M_2(K)を左右の乗法によるRR-RR双加群とする。f=id⁡Rf=\id_Rは左RR線形である。行列

a=(0100),b=(0010)a=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix},\qquad b=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}

に対して、写像h ⁣:R→Rh\colon R\to Rをh(x)=af(x)=axh(x)=af(x)=axで定めると、

h(b)=ab=(1000),bh(1R)=ba=(0001)h(b)=ab=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix},\qquad bh(1_R)=ba=\begin{pmatrix}0&0\\0&1\end{pmatrix}

である。したがってh(b1R)≠bh(1R)h(b1_R)\ne bh(1_R)であり、hhは左RR線形ではない。値域への左乗法は、左RR線形写像の集合を保つとは限らない。

一方、定理 5.1の作用は

(a⋅f)(x)=f(xa)=xa,(f⋅a)(x)=f(x)a=xa(a\cdot f)(x)=f(xa)=xa,\qquad (f\cdot a)(x)=f(x)a=xa

であり、いずれも右乗法を与える。任意のr,x∈Rr,x\in Rに対して(rx)a=r(xa)(rx)a=r(xa)であるため、右乗法は左RR線形である。

6 部分加群の和、直積および直和

命題 6.1.MMを左RR加群とし、(Ni)i∈I(N_i)_{i\in I}をMMの左部分加群の族とする。集合

∑i∈INi:={∑i∈Fni | F⊆I は有限集合, ni∈Ni}\sum_{i\in I}N_i :=\left\{ \sum_{i\in F}n_i \ \middle|\ F\subseteq I\text{ は有限集合},\ n_i\in N_i \right\}

は、すべてのNiN_iを含む最小の左部分加群である。この最小部分加群を部分加群の和という。右部分加群についても同じ結論が成り立つ。

証明. 空の和を00と解釈すると、00は∑iNi\sum_iN_iに属する。二つの有限和の和は、添字集合の和集合上の有限和として表される。有限和の加法逆元は各項の加法逆元を取ることによって得られ、各NiN_iは加法部分群であるため、その各項もNiN_iに属する。したがって∑iNi\sum_iN_iは加法部分群である。

r∈Rr\in Rとx=∑i∈Fni∈∑iNix=\sum_{i\in F}n_i\in\sum_iN_iに対して

rx=∑i∈Frnirx=\sum_{i\in F}rn_i

であり、rni∈Nirn_i\in N_iである。よって∑iNi\sum_iN_iは左部分加群である。各NiN_iは一項だけの和によって∑iNi\sum_iN_iに含まれる。すべてのNiN_iを含む左部分加群LLは加法で閉じるため、各有限和も含み、∑iNi⊆L\sum_iN_i\subseteq Lとなる。したがって最小性が成り立つ。▨

定義 6.2. 左RR加群の族(Mi)i∈I(M_i)_{i\in I}に対して、直積集合

∏i∈IMi\prod_{i\in I}M_i

に成分ごとの加法と左作用

(mi)i∈I+(ni)i∈I:=(mi+ni)i∈I,r(mi)i∈I:=(rmi)i∈I(m_i)_{i\in I}+(n_i)_{i\in I}:=(m_i+n_i)_{i\in I}, \qquad r(m_i)_{i\in I}:=(rm_i)_{i\in I}

を入れたものを直積 (product of modules) という。直積のうち、mi≠0m_i\ne0となるiiが有限個である元全体を

⨁i∈IMi\bigoplus_{i\in I}M_i

と書き、直和 (direct sum of modules) という。右RR加群の族については、作用を(mi)r:=(mir)(m_i)r:=(m_ir)と定める。

すべてのi∈Ii\in IについてMi=MM_i=Mである定値族の場合には、直積と直和をそれぞれ

MI:=∏i∈IM,M⊕I:=⨁i∈IMM^I:=\prod_{i\in I}M, \qquad M^{\oplus I}:=\bigoplus_{i\in I}M

と書く。

命題 6.3.定義 6.2の直積はRR加群であり、直和は直積の部分加群である。各i∈Ii\in Iに対する座標射影

pi ⁣:∏j∈IMj⟶Mi,pi((mj)j)=mip_i\colon\prod_{j\in I}M_j\longrightarrow M_i, \qquad p_i((m_j)_j)=m_i

と、座標包含

ιi ⁣:Mi⟶⨁j∈IMj\iota_i\colon M_i\longrightarrow\bigoplus_{j\in I}M_j

はRR線形である。IIが有限集合である場合、直和と直積は同じ部分集合である。

証明. 各MiM_iの零元から定まる族0=(0Mi)i∈I0=(0_{M_i})_{i\in I}は直積に属する。§E1.6 命題 2.2により、成分ごとの加法は結合律と可換律を満たし、零元は00、(mi)i∈I(m_i)_{i\in I}の加法逆元は(−mi)i∈I(-m_i)_{i\in I}である。よって直積はアーベル群である。I=∅I=\varnothingの場合も、直積は空な族を唯一の元とする零加群であり、同じ成分ごとの等式が成り立つ。

任意のr,s∈Rr,s\in Rとm=(mi)m=(m_i)、n=(ni)n=(n_i)に対し、各i∈Ii\in Iで

(r(m+n))i=r(mi+ni)=rmi+rni=(rm+rn)i,\bigl(r(m+n)\bigr)_i=r(m_i+n_i)=rm_i+rn_i =\bigl(rm+rn\bigr)_i,((r+s)m)i=(r+s)mi=rmi+smi,\bigl((r+s)m\bigr)_i=(r+s)m_i=rm_i+sm_i,((rs)m)i=(rs)mi=r(smi)=(r(sm))i,\bigl((rs)m\bigr)_i=(rs)m_i=r(sm_i) =\bigl(r(sm)\bigr)_i,(1Rm)i=1Rmi=mi\bigl(1_Rm\bigr)_i=1_Rm_i=m_i

である。すべての座標が一致するため、直積は左RR加群である。

有限台をもつ二つの元の和の台は二つの有限台の和集合に含まれ、加法逆元は台を変えない。また、スカラー倍の台はもとの台に含まれる。したがって直和は直積の部分加群である。pip_iとιi\iota_iが加法とスカラー倍を保つことは各座標の定義から従う。最後にIIが有限ならば、直積の任意の元の台はIIの部分集合であるため有限であり、直積の全要素が直和に属する。▨

例 6.4 (整数列の直積と直和).Z\Z加群ZN≥1\Z^{\NN}は整数列全体である。列(1,1,1,…)(1,1,1,\ldots)はZN≥1\Z^{\NN}に属するが、零でない成分を無限個もつため、Z⊕N≥1\Z^{\oplus\NN}には属さない。一方、Z⊕N≥1\Z^{\oplus\NN}の任意の元は、各i∈N≥1i\in\NNに対し第ii成分だけが11である列eie_iを用いて、有限和∑iaiei\sum_i a_i e_iとして一意に表される。実際、aia_iは元の列の第ii成分に等しく、有限台の条件により零でない係数は有限個である。

命題 6.5.(Mi)i∈I(M_i)_{i\in I}を左RR加群の族、NNを左RR加群とし、(fi ⁣:Mi→N)i∈I(f_i\colon M_i\to N)_{i\in I}をRR線形写像の族とする。このとき、RR線形写像

f ⁣:⨁i∈IMi⟶Nf\colon\bigoplus_{i\in I}M_i\longrightarrow N

であって、任意のi∈Ii\in Iに対してf∘ιi=fif\circ\iota_i=f_iを満たすものがただ一つ存在する。具体的には

f((mi)i∈I)=∑i∈Ifi(mi)f\bigl((m_i)_{i\in I}\bigr)=\sum_{i\in I}f_i(m_i)

であり、右辺は有限台により有限和である。

証明.(mi)i∈⨁iMi(m_i)_i\in\bigoplus_iM_iの台は有限であるため、表示した右辺はNNの元を定める。二つの元の和とスカラー倍の台は対応する台の和集合に含まれるため、和とスカラー倍を成分ごとに展開すると

f((mi)i+(ni)i)=∑ifi(mi+ni)=f((mi)i)+f((ni)i),f(r(mi)i)=∑ifi(rmi)=rf((mi)i)f\bigl((m_i)_i+(n_i)_i\bigr)=\sum_i f_i(m_i+n_i)=f\bigl((m_i)_i\bigr)+f\bigl((n_i)_i\bigr), \qquad f\bigl(r(m_i)_i\bigr)=\sum_i f_i(rm_i)=rf\bigl((m_i)_i\bigr)

となり、ffはRR線形である。各iiに対してιi(m)\iota_i(m)の台は{i}\{i\}に含まれるためf(ιi(m))=fi(m)f(\iota_i(m))=f_i(m)であり、f∘ιi=fif\circ\iota_i=f_iが成り立つ。

ggも同じ条件を満たすとする。任意の(mi)i∈⨁iMi(m_i)_i\in\bigoplus_iM_iは有限和∑iιi(mi)\sum_{i}\iota_i(m_i)(和は台の上を走る)に等しいため、

g((mi)i)=∑ig(ιi(mi))=∑ifi(mi)=f((mi)i)g\bigl((m_i)_i\bigr)=\sum_i g(\iota_i(m_i))=\sum_i f_i(m_i)=f\bigl((m_i)_i\bigr)

となる。したがってg=fg=fである。▨

外部直和は、同じ加群の内部に置かれた部分加群の和を記述するためにも用いることができる。

命題 6.6.MMを左RR加群、(Ni)i∈I(N_i)_{i\in I}をMMの左部分加群の族とする。写像

Σ ⁣:⨁i∈INi⟶M,(ni)i∈I⟼∑i∈Ini\Sigma\colon\bigoplus_{i\in I}N_i\longrightarrow M, \qquad (n_i)_{i\in I}\longmapsto\sum_{i\in I}n_i

を考える。右辺は有限和である。このときΣ\SigmaはRR線形であり、像は∑iNi\sum_iN_iである。さらに、次の条件は同値である。

  1. Σ\Sigmaは∑iNi\sum_iN_iへの同型を与える。
  2. ∑iNi\sum_iN_iの各元は、ni∈Nin_i\in N_iを用いる有限和∑ini\sum_i n_iとして一意に表される。
  3. 各i∈Ii\in Iに対して Ni∩∑j≠iNj={0}N_i\cap\sum_{j\ne i}N_j=\{0\} が成り立つ。

これらの条件に加えてM=∑iNiM=\sum_iN_iが成り立つとき、MMはNiN_iの内部直和であるといい、M=⨁iNiM=\bigoplus_iN_iと書く。右加群についても同じ判定が成り立つ。

証明. 各包含写像Ni↪MN_i\hookrightarrow Mに命題 6.5を適用すると、表示したΣ\SigmaはRR線形である。Σ\Sigmaの像はni∈Nin_i\in N_iの有限和全体であるから、∑iNi\sum_iN_iに等しい。

(1)⇔\Leftrightarrow(2)を示す。Σ\Sigmaの全射性がすでに得られており、Σ\Sigmaの単射性が有限和表示の一意性と同値であることから従う。

(2)⇒\Rightarrow(3)を示す。(2)を仮定する。x∈Ni∩∑j≠iNjx\in N_i\cap\sum_{j\ne i}N_jとすると、ある有限個のnj∈Njn_j\in N_jによって

x=∑j≠injx=\sum_{j\ne i}n_j

と書くことができる。したがって零元は

0=(−x)+∑j≠inj0=(-x)+\sum_{j\ne i}n_j

という表示をもつ。一意性により−x=0-x=0であるから、x=0x=0である。よって(3)が従う。

(3)⇒\Rightarrow(1)を示す。逆に(3)を仮定し、有限個を除いて零であるni∈Nin_i\in N_iが∑ini=0\sum_i n_i=0を満たすとする。各iiに対して

ni=−∑j≠inj∈Ni∩∑j≠iNjn_i=-\sum_{j\ne i}n_j\in N_i\cap\sum_{j\ne i}N_j

であるから、(3)によりni=0n_i=0である。Σ(u)=Σ(v)\Sigma(u)=\Sigma(v)ならばu−v∈ker⁡Σ=0u-v\in\ker\Sigma=0であるためu=vu=vとなり、Σ\Sigmaは単射である。したがって(1)が成り立つ。▨

例 6.7 (二つずつの交わりが零である三直線).KKを体とし、左KK加群M=K2M=K^2の部分加群

N1={(a,0)∣a∈K},N2={(0,b)∣b∈K},N3={(c,c)∣c∈K}N_1=\{(a,0)\mid a\in K\},\qquad N_2=\{(0,b)\mid b\in K\},\qquad N_3=\{(c,c)\mid c\in K\}

を考える。座標を比較すると、相異なるi,j∈{1,2,3}i,j\in\{1,2,3\}についてNi∩Nj={0}N_i\cap N_j=\{0\}である。しかし、N1+N2=MN_1+N_2=Mであるため、

N3∩(N1+N2)=N3≠{0}N_3\cap(N_1+N_2)=N_3\ne\{0\}

である。したがって命題 6.6 (3)は成り立たず、MMは三つの部分加群の内部直和ではない。実際、

(1,1)=(1,0)+(0,1)+(0,0)=(0,0)+(0,0)+(1,1)(1,1)=(1,0)+(0,1)+(0,0)=(0,0)+(0,0)+(1,1)

は、左辺の元をN1N_1とN2N_2の元の和で表す表示と、N3N_3の元だけで表す表示を与える。外部直和の元((1,0),(0,1),(−1,−1))((1,0),(0,1),(-1,-1))は零でないが、和写像による像は零である。

7 加群の第一同型定理

定理 7.1 (加群の第一同型定理). 左RR加群準同型f ⁣:M→Nf\colon M\to Nに対して、

f‾ ⁣:M/ker⁡f⟶im⁡f,f‾(m+ker⁡f):=f(m)\overline f\colon M/\ker f\longrightarrow\im f, \qquad \overline f(m+\ker f):=f(m)

は左RR加群の同型である。右RR加群準同型についても同じ結論が成り立つ。

証明.K:=ker⁡fK:=\ker fとおく。命題 4.2によりKKとim⁡f\im fはそれぞれMMとNNの左部分加群である。終域をim⁡f\im fに制限したffに命題 4.3を適用すると、f‾(m+K)=f(m)\overline f(m+K)=f(m)で定まる左RR線形写像f‾ ⁣:M/K→im⁡f\overline f\colon M/K\to\im fを得る。

f‾(m+K)=f‾(m′+K)\overline f(m+K)=\overline f(m'+K)ならばf(m−m′)=0f(m-m')=0であるから、m−m′∈Km-m'\in Kであり、m+K=m′+Km+K=m'+Kである。したがってf‾\overline fは単射である。一方、im⁡f\im fの任意の元yyに対し、y=f(m)y=f(m)を満たすm∈Mm\in Mが存在し、y=f‾(m+K)y=\overline f(m+K)である。よってf‾\overline fは全射であり、左RR加群の同型である。▨

例 7.2 (第一同型定理の具体例).Z\Z加群準同型

f ⁣:Z2⟶Z/2Z,f(a,b)=a+b‾f\colon\Z^2\longrightarrow\Z/2\Z, \qquad f(a,b)=\overline{a+b}

を考える。ffは加法を保ち、任意のn∈Zn\in\Zに対して

f(n(a,b))=n(a+b)‾=n f(a,b)f(n(a,b))=\overline{n(a+b)}=n\,f(a,b)

であるため、Z\Z線形である。f(1,0)=1‾f(1,0)=\overline1であるからffは全射であり、

ker⁡f={(a,b)∈Z2∣a+b は偶数}\ker f=\{(a,b)\in\Z^2\mid a+b\text{ は偶数}\}

である。したがって定理 7.1は

Z2/ker⁡f≅Z/2Z\Z^2/\ker f\cong\Z/2\Z

を与える。

この商が二つの元をもつことを直接確認することができる。a+ba+bが偶数ならば(a,b)+ker⁡f=ker⁡f(a,b)+\ker f=\ker fである。a+ba+bが奇数ならば

(a,b)−(1,0)=(a−1,b)(a,b)-(1,0)=(a-1,b)

の成分和は偶数であるため、(a,b)+ker⁡f=(1,0)+ker⁡f(a,b)+\ker f=(1,0)+\ker fである。二つの剰余類は0‾\overline0と1‾\overline1にそれぞれ対応する。

8 演習

問題 8.1 (加群構造と商の確認). 次の各問に答えよ。

  1. 作用公理による左RR加群MMに対し、λ(r)(m):=rm\lambda(r)(m):=rmが単位元を保つ環準同型R→End⁡Z(M)R\to\End_{\Z}(M)を定めることを確認せよ。右RR加群についてはρ(r)(m):=mr\rho(r)(m):=mrが積の順序を反転し、RopR^{\mathrm{op}}からの環準同型を定めることを確認せよ。
  2. Z\Z加群準同型g ⁣:Z2→Zg\colon\Z^2\to\Zをg(a,b)=a−bg(a,b)=a-bで定める。核と像を求め、第一同型定理から得られる同型を記せ。
  3. MMをRR-SS双加群、NNをRR-TT双加群とする。s∈Ss\in S、t∈Tt\in T、f∈Hom⁡R(M,N)f\in\Hom_R(M,N)に対し、(s⋅f)(m)=f(ms)(s\cdot f)(m)=f(ms)と(f⋅t)(m)=f(m)t(f\cdot t)(m)=f(m)tがどの作用から生じるかを述べよ。二つの写像が左RR線形であることと、(s⋅f)⋅t=s⋅(f⋅t)(s\cdot f)\cdot t=s\cdot(f\cdot t)を確認せよ。
解答 (演習の解答).
  1. 左作用について、λ(r)\lambda(r)は

    λ(r)(m+n)=r(m+n)=rm+rn\lambda(r)(m+n)=r(m+n)=rm+rn

    を満たすため、加法群MMの自己準同型である。また、

    λ(r+s)(m)=(r+s)m=rm+sm=(λ(r)+λ(s))(m),\lambda(r+s)(m)=(r+s)m=rm+sm =\bigl(\lambda(r)+\lambda(s)\bigr)(m), λ(rs)(m)=(rs)m=r(sm)=(λ(r)λ(s))(m),λ(1R)(m)=m\lambda(rs)(m)=(rs)m=r(sm) =\bigl(\lambda(r)\lambda(s)\bigr)(m), \qquad \lambda(1_R)(m)=m

    である。したがってλ\lambdaは単位元を保つ環準同型である。

    右作用について、任意のm∈Mm\in Mに対して

    ρ(rs)(m)=m(rs)=(mr)s=ρ(s)(ρ(r)(m))=(ρ(s)ρ(r))(m)\rho(rs)(m)=m(rs)=(mr)s =\rho(s)(\rho(r)(m)) =\bigl(\rho(s)\rho(r)\bigr)(m)

    である。したがってρ\rhoは積の順序を反転する。RopR^{\mathrm{op}}ではr⋆s=srr\mathbin\star s=srであるから、

    ρ~(r⋆s)=ρ(sr)=ρ(r)ρ(s)=ρ~(r)ρ~(s)\widetilde\rho(r\mathbin\star s)=\rho(sr) =\rho(r)\rho(s) =\widetilde\rho(r)\widetilde\rho(s)

    となる。ただしρ~(r):=ρ(r)\widetilde\rho(r):=\rho(r)と置いた。したがってρ~\widetilde\rhoはRopR^{\mathrm{op}}からの環準同型である。

  2. ker⁡g={(a,a)∣a∈Z}\ker g=\{(a,a)\mid a\in\Z\}である。任意のn∈Zn\in\Zはg(n,0)g(n,0)に等しいため、im⁡g=Z\im g=\Zである。したがって

    Z2/{(a,a)∣a∈Z}≅Z\Z^2/\{(a,a)\mid a\in\Z\}\cong\Z

    を得る。

  3. 左SS作用(s⋅f)(m)=f(ms)(s\cdot f)(m)=f(ms)はMMの右SS作用から前合成によって生じ、右TT作用(f⋅t)(m)=f(m)t(f\cdot t)(m)=f(m)tはNNの右TT作用から生じる。任意のm,m′∈Mm,m'\in Mとr∈Rr\in Rに対して

    (s⋅f)(m+m′)=f((m+m′)s)=f(ms)+f(m′s),(s\cdot f)(m+m')=f((m+m')s) =f(ms)+f(m's), (s⋅f)(rm)=f((rm)s)=f(r(ms))=rf(ms)=r(s⋅f)(m)(s\cdot f)(rm)=f((rm)s)=f(r(ms)) =rf(ms)=r(s\cdot f)(m)

    であるため、s⋅fs\cdot fは左RR線形である。同様に、

    (f⋅t)(m+m′)=f(m)t+f(m′)t,(f\cdot t)(m+m')=f(m)t+f(m')t, (f⋅t)(rm)=f(rm)t=(rf(m))t=r(f(m)t)=r(f⋅t)(m)(f\cdot t)(rm)=f(rm)t=(rf(m))t =r(f(m)t)=r(f\cdot t)(m)

    であるため、f⋅tf\cdot tも左RR線形である。さらに、任意のm∈Mm\in Mに対して

    ((s⋅f)⋅t)(m)=(s⋅f)(m)t=f(ms)t,\bigl((s\cdot f)\cdot t\bigr)(m) =(s\cdot f)(m)t=f(ms)t, (s⋅(f⋅t))(m)=(f⋅t)(ms)=f(ms)t\bigl(s\cdot(f\cdot t)\bigr)(m) =(f\cdot t)(ms)=f(ms)t

    である。したがって二つの Hom の元は一致する。

▨

9 後続記事との関係

左正則加群と右正則加群の部分加群は、それぞれ左イデアルと右イデアルである。両側イデアルによる商では加法に加えて乗法を定めることができ、商環が得られる。イデアルと商環、自由加群、有限生成性、PID 上の構造定理および線形変換の標準形は後続記事で扱う。

参考文献

  1. T. Y. Lam, A First Course in Noncommutative Rings, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2001.非可換環上の左加群、右加群、反対環および片側構造の規約を参考にした。
  2. T. Y. Lam, Lectures on Modules and Rings, Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1999.加群準同型、商加群、直和、直積および双加群の基本構成を参考にした。
  3. David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004.加群の商構成と同型定理の標準的な証明を参考にした。

前提記事