1 左加群と右加群
左右の加群構造は、環の元を加法群の自己準同型として作用させる準同型によって定義する。アーベル群Mの自己準同型環EndZ(M)では、積を写像の合成fg=f∘gとする。この環の構成は§E6.1 例 2.1で扱った。
定義 1.1. 環Rとアーベル群(M,+)を考える。
- 単位元を保つ環準同型
λ:R⟶EndZ(M)
が与えられたとき、Mを左R加群 (left R-module) という。作用をrm:=λ(r)(m)と書く。
- 単位元を保つ環準同型
ρ:Rop⟶EndZ(M)
が与えられたとき、Mを右R加群 (right R-module) という。RとRopの台集合を同一視し、作用をmr:=ρ(r)(m)と書く。
環Rが可換であり、Mが左R加群である場合には、mr:=rmと定めることによって右R加群が得られる。非可換環上では、左作用と右作用は一般に異なる構造である。
定義 1.2. 環Rとアーベル群Mを考える。写像R×M→M,(r,m)↦rmが、任意のr,s∈Rとm,n∈Mに対して
r(m+n)=rm+rn,(r+s)m=rm+sm,(rs)m=r(sm),1Rm=mを満たすとき、この写像を作用公理による左R加群構造 (left R-module structure by action axioms) という。
同様に、写像M×R→M,(m,r)↦mrが
(m+n)r=mr+nr,m(r+s)=mr+ms,(mr)s=m(rs),m1R=mを満たすとき、この写像を作用公理による右R加群構造 (right R-module structure by action axioms) という。
命題 1.3.定義 1.2の左R加群構造は定義 1.1の単位元を保つ環準同型R→EndZ(M)と一対一に対応し、右R加群構造は単位元を保つ環準同型Rop→EndZ(M)と一対一に対応する。さらに、右R加群構造は、加法と単位元を保ち、
ρ(rs)=ρ(s)ρ(r)を満たす反準同型ρ:R→EndZ(M)と同じデータである。
証明.定義 1.1の環準同型λを取る。各λ(r)は加法群Mの自己準同型であるため、
r(m+n)=rm+rnが成り立つ。λの加法性、乗法性および単位元の保存から
(r+s)m=rm+sm,(rs)m=r(sm),1Rm=mを得る。したがって左作用公理が成り立つ。
逆に、左作用公理を満たす写像が与えられたとし、λ(r)(m):=rmと定める。第1分配律により、λ(r)は加法群Mの自己準同型である。第2分配律から
λ(r+s)=λ(r)+λ(s)を得る。また、作用の結合律から、任意のm∈Mに対して
λ(rs)(m)=(rs)m=r(sm)=λ(r)(λ(s)(m))=(λ(r)λ(s))(m)である。したがってλ(rs)=λ(r)λ(s)である。単位公理はλ(1R)=idMを与えるため、λは単位元を保つ環準同型である。
次に、右作用公理を満たす写像が与えられたとし、ρ(r)(m):=mrと定める。右作用の分配律と単位公理から、ρは加法と単位元を保つ。さらに
ρ(rs)(m)=m(rs)=(mr)s=ρ(s)(ρ(r)(m))=(ρ(s)ρ(r))(m)であるから、ρ(rs)=ρ(s)ρ(r)である。すなわちρは反準同型である。
Ropの積をr⋆s:=srと書くと、
ρ(r⋆s)=ρ(sr)=ρ(r)ρ(s)=ρ(r)ρ(s)である。したがって同じ写像はRopからの環準同型ρになる。
逆に、定義 1.1の環準同型ρが与えられたとし、mr:=ρ(r)(m)と定める。各ρ(r)が加法群の自己準同型であることと、ρの加法性から二つの分配律が従う。Ropでs⋆r=rsであるため、
m(rs)=ρ(s⋆r)(m)=ρ(s)ρ(r)(m)=(mr)sである。単位元の保存からm1R=mも従う。よって右作用公理が得られる。以上の構成は定義から互いに逆であり、自己準同型環による定義と作用公理による記述は同値である。▨
右R加群を左Rop加群として表す作用はrop⋅m:=mrである。この対応は加法、部分加群および準同型を変えない。以下の左右に共通する構成と性質は左加群について証明し、右加群についてはRをRopに置き換えて適用する。
命題 1.4.Mを左R加群とする。任意のr∈Rとm∈Mに対して
0Rm=0M,r0M=0M,(−r)m=−(rm),r(−m)=−(rm)が成り立つ。右R加群についても、作用を右側に書いた同様の公式が成り立つ。
証明.λ:R→EndZ(M)を左作用を与える環準同型とする。§E1.6 命題 1.3により、加法準同型λは零元と加法逆元を保つので、λ(0R)=0およびλ(−r)=−λ(r)である。両式をmに適用すると、0Rm=0Mおよび(−r)m=−(rm)を得る。各λ(r)も加法準同型であるから、同じ命題によりr0M=0Mおよびr(−m)=−(rm)である。▨
例 1.5 (加群の基本例). 次の対象は加群の基本例である。
- 環Rの加法群に左作用r⋅x:=rxを入れると左R加群になり、右作用x⋅r:=xrを入れると右R加群になる。これらをそれぞれ左正則加群、右正則加群という。
- アーベル群Aに対し、整数nの作用を、n≥0ならnaをaのn個の和、n<0ならna:=−((−n)a)と定める。§E6.1 補題 3.1が四つの作用公理を与えるため、AはZ加群になる。逆に、Z加群の作用は加法性と1a=aによってこの作用に限られる。したがってZ加群とアーベル群は同じデータである。
- 体K上のベクトル空間は左K加群である。Kが可換であるため、同じ作用から右K加群構造も得られる。
- 環準同型φ:R→Sが与えられると、Sはr⋅x:=φ(r)xにより左R加群になり、x⋅r:=xφ(r)により右R加群になる。
2 双加群
定義 2.1. 環R,Sに対し、アーベル群Mが左R加群かつ右S加群であり、任意のr∈R、s∈S、m∈Mに対して
(rm)s=r(ms)が成り立つとき、MをR-S双加群 (R-S-bimodule) という。
例えば、環Rは左右の乗法によってR-R双加群になる。また、環準同型φ:R→Sに対し、左作用をr⋅x=φ(r)x、右作用をSの乗法で定めると、SはR-S双加群になる。実際、結合律から(φ(r)x)s=φ(r)(xs)が成り立つ。
3 部分加群と商加群
定義 3.1.Mを左R加群とする。部分集合N⊆Mが0を含み、加法、加法逆元および左R作用で閉じるとき、NをMの左部分加群 (left submodule) という。すなわち、Nは作用で閉じる加法部分群である。このとき
m∼m′⟺m−m′∈Nで定まる同値関係の商集合をM/Nと書く。mの同値類はm+N:={m+n∣n∈N}である。商集合M/Nに加法と左作用を
(m+N)+(m′+N):=(m+m′)+N,r(m+N):=rm+Nで定めたものを商左R加群 (quotient left R-module) という。
Mが右R加群である場合、加法部分群N⊆Mが任意のn∈Nとr∈Rに対してnr∈Nを満たすとき、Nを右部分加群 (right submodule) という。このとき、商加法群M/Nに
(m+N)r:=mr+Nで右作用を定めたものを商右R加群 (quotient right R-module) という。いずれの場合にも、π(m):=m+Nで定まる写像π:M→M/Nを自然な射影 (canonical projection) という。
命題 3.2.定義 3.1の作用は剰余類の代表元によらず定まり、M/Nを対応する側のR加群にする。自然な射影π:M→M/Nは全射であり、加法と対応する側の作用を保ち、kerπ=Nを満たす。
証明.Nは0を含み、加法と加法逆元で閉じる。したがって、m−m=0、m′−m=−(m−m′)およびm−m′′=(m−m′)+(m′−m′′)により、∼は同値関係である。m′∼mとm′=m+nを満たすn∈Nの存在は同値であり、mの同値類は表示したm+Nである。
m∼m′、n∼n′ならば
(m+n)−(m′+n′)=(m−m′)+(n−n′)∈Nであるから、∼は加法と両立する。§E1.6 定理 3.2により、M/Nの加法は well-defined であり、結合律と可換律を満たす。零元はN、m+Nの加法逆元は−m+Nである。よってM/Nはアーベル群である。
m+N=m′+Nならばm−m′∈Nである。Nは左作用で閉じているため、任意のr∈Rに対して
rm−rm′=r(m−m′)∈Nである。したがってrm+N=rm′+Nであり、左作用は代表元によらない。
任意のr,s∈Rとm,n∈Mに対して
r((m+N)+(n+N))=r(m+n)+N=(rm+rn)+N,(r+s)(m+N)=(r+s)m+N=(rm+sm)+N,(rs)(m+N)=(rs)m+N=r(sm)+N=r(s(m+N)),1R(m+N)=1Rm+N=m+Nである。よってM/Nは左R加群である。
自然な射影は商集合の定義から全射であり、加法の定義からπ(m+m′)=π(m)+π(m′)である。また、
π(rm)=rm+N=r(m+N)=rπ(m)である。π(m)=Nとm∈Nは同値であるから、kerπ=Nである。▨
4 加群準同型、核、像および余核
左右の加群では、準同型も作用する側を保つように定義する。
定義 4.1.M,Nを左R加群とする。写像f:M→Nが任意のm,m′∈Mとr∈Rに対して
f(m+m′)=f(m)+f(m′),f(rm)=rf(m)を満たすとき、fを左R加群準同型 (left R-module homomorphism) または左R線形写像 (left R-linear map) という。
M,Nが右R加群である場合には、第2の条件を
f(mr)=f(m)rに置き換え、右R加群準同型 (right R-module homomorphism) という。いずれの場合にも、対応するR加群準同型全体をHomR(M,N)と書く。全単射なR加群準同型をR加群の同型 (module isomorphism) という。
加群準同型f:M→Nに対して
kerf:={m∈M∣f(m)=0},imf:={f(m)∣m∈M}をそれぞれ核 (kernel) と像 (image) という。また、商加群
cokerf:=N/imfをfの余核 (cokernel) という。
命題 4.2. 加群準同型f:M→Nの核はMの部分加群であり、像はNの部分加群である。したがって余核は加群として定まる。また、HomR(M,N)は点ごとの加法によってアーベル群になり、加群準同型の合成は加群準同型である。
証明.f(0)=0およびf(m−m′)=f(m)−f(m′)であるから、kerfとimfは零元を含み、差で閉じる。したがって、核はMの加法部分群であり、像はNの加法部分群である。m∈kerfとr∈Rに対して
f(rm)=rf(m)=r0=0であるから、rm∈kerfである。また、y=f(m)∈imfに対して
ry=rf(m)=f(rm)∈imfである。したがって核と像は左部分加群であり、命題 3.2により余核も左加群になる。
f,g∈HomR(M,N)に対して(f+g)(m):=f(m)+g(m)と定める。左加群の場合には
(f+g)(rm)=f(rm)+g(rm)=rf(m)+rg(m)=r(f+g)(m)である。また、Nの加法の可換性により
(f+g)(m+m′)=f(m)+f(m′)+g(m)+g(m′)=(f+g)(m)+(f+g)(m′)であるため、f+gもR線形である。零写像と点ごとの加法逆元もR線形であり、加法の各公理はNの加法群から点ごとに従う。よってHomR(M,N)はアーベル群になる。
f:M→Nとg:N→Pが同じ側のR加群準同型であるとする。左加群の場合には
(g∘f)(rm)=g(rf(m))=r(g∘f)(m)であり、加法性も合成から従う。▨
命題 4.3.M,Pを左R加群、NをMの左部分加群とし、π:M→M/Nを自然な射影とする。左R線形写像f:M→Pに対し、R線形写像f:M/N→Pであってf=f∘πを満たすものが存在するための必要十分条件は、N⊆kerfである。その場合、fは一意であり、
f(m+N)=f(m)で与えられる。したがって、h↦h∘πはM/NからPへの左R線形写像と、MからPへの左R線形写像でNを零にするものとの一対一対応を与える。右加群についても同じ結論が成り立つ。
証明.f=f∘πならば、任意のn∈Nに対してf(n)=f(0)=0であるから、N⊆kerfである。
N⊆kerfと仮定する。m+N=m′+Nならばm−m′∈Nであり、f(m)−f(m′)=f(m−m′)=0となる。したがってf(m+N):=f(m)は well-defined である。任意のm,m′∈Mとr∈Rに対して
f((m+N)+(m′+N))=f(m+m′)=f(m)+f(m′),f(r(m+N))=f(rm)=rf(m)であるから、fは左R線形であり、定義からf=f∘πである。任意の類がπ(m)の形であるため、この等式はfの値をすべて定める。よってfは一意である。▨
5 Hom の双加群構造
MをR-S双加群、NをR-T双加群とする。双加群の右作用は、定義域からHomR(M,N)へ移すと左作用になる。s∈Sに対して
rsM:M⟶M,rsM(m):=ms
と置く。MがR-S双加群であるため、rsMは左R線形である。また、
rs1s2M=rs2M∘rs1M
であり、s↦rsMは積の順序を反転する。一方、rsMによる前合成
f⟼f∘rsM
も合成の順序を反転する。したがって二つの順序反転が相殺し、(s1s2)⋅f=s1⋅(s2⋅f)という左作用の順序が得られる。値域Nの右T作用は Hom の右T作用を直接与える。
定理 5.1.MをR-S双加群、NをR-T双加群とする。HomR(M,N)は、
(s⋅f)(m):=f(ms),(f⋅t)(m):=f(m)tによってS-T双加群になる。左S作用はMの右S作用から定まり、右T作用はNの右T作用から定まる。
証明.r∈R、s∈S、t∈T、f∈HomR(M,N)、m∈Mに対して、双加群の作用の両立性とfのR線形性から
(s⋅f)(rm)=f((rm)s)=f(r(ms))=rf(ms)=r(s⋅f)(m)である。また、
(f⋅t)(rm)=f(rm)t=(rf(m))t=r(f(m)t)=r(f⋅t)(m)である。加法性はf、右S作用および右T作用の加法性から従う。したがってs⋅fとf⋅tはいずれもHomR(M,N)に属する。
任意のs1,s2∈S、f,g∈HomR(M,N)、m∈Mに対して
((s1+s2)⋅f)(m)=f(m(s1+s2))=f(ms1)+f(ms2)=(s1⋅f+s2⋅f)(m),(s1⋅(f+g))(m)=(f+g)(ms1)=f(ms1)+g(ms1)=(s1⋅f+s1⋅g)(m),(s1⋅(s2⋅f))(m)=(s2⋅f)(ms1)=f((ms1)s2)=f(m(s1s2))=((s1s2)⋅f)(m),(1S⋅f)(m)=f(m1S)=f(m)である。よって左S加群公理が成り立つ。
任意のt1,t2∈Tに対して
(f⋅(t1+t2))(m)=f(m)(t1+t2)=(f⋅t1+f⋅t2)(m),((f+g)⋅t1)(m)=(f(m)+g(m))t1=(f⋅t1+g⋅t1)(m),((f⋅t1)⋅t2)(m)=(f(m)t1)t2=f(m)(t1t2)=(f⋅(t1t2))(m),(f⋅1T)(m)=f(m)1T=f(m)である。したがって右T加群公理も成り立つ。
左右の作用の両立性は
((s⋅f)⋅t)(m)=f(ms)t=(s⋅(f⋅t))(m)から従う。よってHomR(M,N)はS-T双加群である。▨
例 5.2 (非可換環上の Hom と左乗法).Kを体とし、R=M2(K)を左右の乗法によるR-R双加群とする。f=idRは左R線形である。行列
a=(0010),b=(0100)に対して、写像h:R→Rをh(x)=af(x)=axで定めると、
h(b)=ab=(1000),bh(1R)=ba=(0001)である。したがってh(b1R)=bh(1R)であり、hは左R線形ではない。値域への左乗法は、左R線形写像の集合を保つとは限らない。
一方、定理 5.1の作用は
(a⋅f)(x)=f(xa)=xa,(f⋅a)(x)=f(x)a=xaであり、いずれも右乗法を与える。任意のr,x∈Rに対して(rx)a=r(xa)であるため、右乗法は左R線形である。
6 部分加群の和、直積および直和
命題 6.1.Mを左R加群とし、(Ni)i∈IをMの左部分加群の族とする。集合
i∈I∑Ni:={i∈F∑ni F⊆I は有限集合, ni∈Ni}は、すべてのNiを含む最小の左部分加群である。この最小部分加群を部分加群の和という。右部分加群についても同じ結論が成り立つ。
証明. 空の和を0と解釈すると、0は∑iNiに属する。二つの有限和の和は、添字集合の和集合上の有限和として表される。有限和の加法逆元は各項の加法逆元を取ることによって得られ、各Niは加法部分群であるため、その各項もNiに属する。したがって∑iNiは加法部分群である。
r∈Rとx=∑i∈Fni∈∑iNiに対して
rx=i∈F∑rniであり、rni∈Niである。よって∑iNiは左部分加群である。各Niは一項だけの和によって∑iNiに含まれる。すべてのNiを含む左部分加群Lは加法で閉じるため、各有限和も含み、∑iNi⊆Lとなる。したがって最小性が成り立つ。▨
定義 6.2. 左R加群の族(Mi)i∈Iに対して、直積集合
i∈I∏Miに成分ごとの加法と左作用
(mi)i∈I+(ni)i∈I:=(mi+ni)i∈I,r(mi)i∈I:=(rmi)i∈Iを入れたものを直積 (product of modules) という。直積のうち、mi=0となるiが有限個である元全体を
i∈I⨁Miと書き、直和 (direct sum of modules) という。右R加群の族については、作用を(mi)r:=(mir)と定める。
すべてのi∈IについてMi=Mである定値族の場合には、直積と直和をそれぞれ
MI:=i∈I∏M,M⊕I:=i∈I⨁Mと書く。
命題 6.3.定義 6.2の直積はR加群であり、直和は直積の部分加群である。各i∈Iに対する座標射影
pi:j∈I∏Mj⟶Mi,pi((mj)j)=miと、座標包含
ιi:Mi⟶j∈I⨁MjはR線形である。Iが有限集合である場合、直和と直積は同じ部分集合である。
証明. 各Miの零元から定まる族0=(0Mi)i∈Iは直積に属する。§E1.6 命題 2.2により、成分ごとの加法は結合律と可換律を満たし、零元は0、(mi)i∈Iの加法逆元は(−mi)i∈Iである。よって直積はアーベル群である。I=∅の場合も、直積は空な族を唯一の元とする零加群であり、同じ成分ごとの等式が成り立つ。
任意のr,s∈Rとm=(mi)、n=(ni)に対し、各i∈Iで
(r(m+n))i=r(mi+ni)=rmi+rni=(rm+rn)i,((r+s)m)i=(r+s)mi=rmi+smi,((rs)m)i=(rs)mi=r(smi)=(r(sm))i,(1Rm)i=1Rmi=miである。すべての座標が一致するため、直積は左R加群である。
有限台をもつ二つの元の和の台は二つの有限台の和集合に含まれ、加法逆元は台を変えない。また、スカラー倍の台はもとの台に含まれる。したがって直和は直積の部分加群である。piとιiが加法とスカラー倍を保つことは各座標の定義から従う。最後にIが有限ならば、直積の任意の元の台はIの部分集合であるため有限であり、直積の全要素が直和に属する。▨
例 6.4 (整数列の直積と直和).Z加群ZN≥1は整数列全体である。列(1,1,1,…)はZN≥1に属するが、零でない成分を無限個もつため、Z⊕N≥1には属さない。一方、Z⊕N≥1の任意の元は、各i∈N≥1に対し第i成分だけが1である列eiを用いて、有限和∑iaieiとして一意に表される。実際、aiは元の列の第i成分に等しく、有限台の条件により零でない係数は有限個である。
命題 6.5.(Mi)i∈Iを左R加群の族、Nを左R加群とし、(fi:Mi→N)i∈IをR線形写像の族とする。このとき、R線形写像
f:i∈I⨁Mi⟶Nであって、任意のi∈Iに対してf∘ιi=fiを満たすものがただ一つ存在する。具体的には
f((mi)i∈I)=i∈I∑fi(mi)であり、右辺は有限台により有限和である。
証明.(mi)i∈⨁iMiの台は有限であるため、表示した右辺はNの元を定める。二つの元の和とスカラー倍の台は対応する台の和集合に含まれるため、和とスカラー倍を成分ごとに展開すると
f((mi)i+(ni)i)=i∑fi(mi+ni)=f((mi)i)+f((ni)i),f(r(mi)i)=i∑fi(rmi)=rf((mi)i)となり、fはR線形である。各iに対してιi(m)の台は{i}に含まれるためf(ιi(m))=fi(m)であり、f∘ιi=fiが成り立つ。
gも同じ条件を満たすとする。任意の(mi)i∈⨁iMiは有限和∑iιi(mi)(和は台の上を走る)に等しいため、
g((mi)i)=i∑g(ιi(mi))=i∑fi(mi)=f((mi)i)となる。したがってg=fである。▨
外部直和は、同じ加群の内部に置かれた部分加群の和を記述するためにも用いることができる。
命題 6.6.Mを左R加群、(Ni)i∈IをMの左部分加群の族とする。写像
Σ:i∈I⨁Ni⟶M,(ni)i∈I⟼i∈I∑niを考える。右辺は有限和である。このときΣはR線形であり、像は∑iNiである。さらに、次の条件は同値である。
- Σは∑iNiへの同型を与える。
- ∑iNiの各元は、ni∈Niを用いる有限和∑iniとして一意に表される。
- 各i∈Iに対して
Ni∩j=i∑Nj={0}
が成り立つ。
これらの条件に加えてM=∑iNiが成り立つとき、MはNiの内部直和であるといい、M=⨁iNiと書く。右加群についても同じ判定が成り立つ。
証明. 各包含写像Ni↪Mに命題 6.5を適用すると、表示したΣはR線形である。Σの像はni∈Niの有限和全体であるから、∑iNiに等しい。
(1)⇔(2)を示す。Σの全射性がすでに得られており、Σの単射性が有限和表示の一意性と同値であることから従う。
(2)⇒(3)を示す。(2)を仮定する。x∈Ni∩∑j=iNjとすると、ある有限個のnj∈Njによって
x=j=i∑njと書くことができる。したがって零元は
0=(−x)+j=i∑njという表示をもつ。一意性により−x=0であるから、x=0である。よって(3)が従う。
(3)⇒(1)を示す。逆に(3)を仮定し、有限個を除いて零であるni∈Niが∑ini=0を満たすとする。各iに対して
ni=−j=i∑nj∈Ni∩j=i∑Njであるから、(3)によりni=0である。Σ(u)=Σ(v)ならばu−v∈kerΣ=0であるためu=vとなり、Σは単射である。したがって(1)が成り立つ。▨
例 6.7 (二つずつの交わりが零である三直線).Kを体とし、左K加群M=K2の部分加群
N1={(a,0)∣a∈K},N2={(0,b)∣b∈K},N3={(c,c)∣c∈K}を考える。座標を比較すると、相異なるi,j∈{1,2,3}についてNi∩Nj={0}である。しかし、N1+N2=Mであるため、
N3∩(N1+N2)=N3={0}である。したがって命題 6.6 (3)は成り立たず、Mは三つの部分加群の内部直和ではない。実際、
(1,1)=(1,0)+(0,1)+(0,0)=(0,0)+(0,0)+(1,1)は、左辺の元をN1とN2の元の和で表す表示と、N3の元だけで表す表示を与える。外部直和の元((1,0),(0,1),(−1,−1))は零でないが、和写像による像は零である。
7 加群の第一同型定理
定理 7.1 (加群の第一同型定理). 左R加群準同型f:M→Nに対して、
f:M/kerf⟶imf,f(m+kerf):=f(m)は左R加群の同型である。右R加群準同型についても同じ結論が成り立つ。
証明.K:=kerfとおく。命題 4.2によりKとimfはそれぞれMとNの左部分加群である。終域をimfに制限したfに命題 4.3を適用すると、f(m+K)=f(m)で定まる左R線形写像f:M/K→imfを得る。
f(m+K)=f(m′+K)ならばf(m−m′)=0であるから、m−m′∈Kであり、m+K=m′+Kである。したがってfは単射である。一方、imfの任意の元yに対し、y=f(m)を満たすm∈Mが存在し、y=f(m+K)である。よってfは全射であり、左R加群の同型である。▨
例 7.2 (第一同型定理の具体例).Z加群準同型
f:Z2⟶Z/2Z,f(a,b)=a+bを考える。fは加法を保ち、任意のn∈Zに対して
f(n(a,b))=n(a+b)=nf(a,b)であるため、Z線形である。f(1,0)=1であるからfは全射であり、
kerf={(a,b)∈Z2∣a+b は偶数}である。したがって定理 7.1は
Z2/kerf≅Z/2Zを与える。
この商が二つの元をもつことを直接確認することができる。a+bが偶数ならば(a,b)+kerf=kerfである。a+bが奇数ならば
(a,b)−(1,0)=(a−1,b)の成分和は偶数であるため、(a,b)+kerf=(1,0)+kerfである。二つの剰余類は0と1にそれぞれ対応する。
8 演習
問題 8.1 (加群構造と商の確認). 次の各問に答えよ。
- 作用公理による左R加群Mに対し、λ(r)(m):=rmが単位元を保つ環準同型R→EndZ(M)を定めることを確認せよ。右R加群についてはρ(r)(m):=mrが積の順序を反転し、Ropからの環準同型を定めることを確認せよ。
- Z加群準同型g:Z2→Zをg(a,b)=a−bで定める。核と像を求め、第一同型定理から得られる同型を記せ。
- MをR-S双加群、NをR-T双加群とする。s∈S、t∈T、f∈HomR(M,N)に対し、(s⋅f)(m)=f(ms)と(f⋅t)(m)=f(m)tがどの作用から生じるかを述べよ。二つの写像が左R線形であることと、(s⋅f)⋅t=s⋅(f⋅t)を確認せよ。
解答 (演習の解答).
-
左作用について、λ(r)は
λ(r)(m+n)=r(m+n)=rm+rn
を満たすため、加法群Mの自己準同型である。また、
λ(r+s)(m)=(r+s)m=rm+sm=(λ(r)+λ(s))(m),
λ(rs)(m)=(rs)m=r(sm)=(λ(r)λ(s))(m),λ(1R)(m)=m
である。したがってλは単位元を保つ環準同型である。
右作用について、任意のm∈Mに対して
ρ(rs)(m)=m(rs)=(mr)s=ρ(s)(ρ(r)(m))=(ρ(s)ρ(r))(m)
である。したがってρは積の順序を反転する。Ropではr⋆s=srであるから、
ρ(r⋆s)=ρ(sr)=ρ(r)ρ(s)=ρ(r)ρ(s)
となる。ただしρ(r):=ρ(r)と置いた。したがってρはRopからの環準同型である。
-
kerg={(a,a)∣a∈Z}である。任意のn∈Zはg(n,0)に等しいため、img=Zである。したがって
Z2/{(a,a)∣a∈Z}≅Z
を得る。
-
左S作用(s⋅f)(m)=f(ms)はMの右S作用から前合成によって生じ、右T作用(f⋅t)(m)=f(m)tはNの右T作用から生じる。任意のm,m′∈Mとr∈Rに対して
(s⋅f)(m+m′)=f((m+m′)s)=f(ms)+f(m′s),
(s⋅f)(rm)=f((rm)s)=f(r(ms))=rf(ms)=r(s⋅f)(m)
であるため、s⋅fは左R線形である。同様に、
(f⋅t)(m+m′)=f(m)t+f(m′)t,
(f⋅t)(rm)=f(rm)t=(rf(m))t=r(f(m)t)=r(f⋅t)(m)
であるため、f⋅tも左R線形である。さらに、任意のm∈Mに対して
((s⋅f)⋅t)(m)=(s⋅f)(m)t=f(ms)t,
(s⋅(f⋅t))(m)=(f⋅t)(ms)=f(ms)t
である。したがって二つの Hom の元は一致する。
▨
9 後続記事との関係
左正則加群と右正則加群の部分加群は、それぞれ左イデアルと右イデアルである。両側イデアルによる商では加法に加えて乗法を定めることができ、商環が得られる。イデアルと商環、自由加群、有限生成性、PID 上の構造定理および線形変換の標準形は後続記事で扱う。