§E6.21Noether 環と有限生成性

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一般の結合環で、すべての左イデアルを有限個の元で左から生成することができるという条件は、左イデアルの昇鎖が停止する条件と同値である。この有限性は、部分加群、商加群、有限直和、有限生成左加群、および中心不定元を添加した通常の多項式環へ受け継がれる。本記事では左側の結果を証明し、右側の結果を反対環から導く。

本記事を通じてRRは単位元をもつ結合環とし、零環も許す。左イデアルには§E6.3 定義 1.1、有限生成左加群には§E6.11 定義 1.1の規約を用いる。Noether 加群と左右 Noether 環には§E6.20 定義 1.1の用語を用いる。

1 左 Noether 環の特徴づけ

左正則加群の部分加群は左イデアルと一致する。この対応により、左イデアルについての四つの有限性条件が一致する。

定義 1.1. 単位元をもつ結合環RRが左 Noether 環 (left Noetherian ring) であるとは、左イデアルの任意の昇鎖

I0⊆I1⊆I2⊆⋯I_0\subseteq I_1\subseteq I_2\subseteq\cdots

が有限段階で停止することをいう。

定理 1.2. 単位元をもつ結合環RRに対して、次の四条件は同値である。

  1. RRは定義 1.1の意味で左 Noether 環である。
  2. 左正則加群RR{}_RRは Noether 加群である。
  3. RRの左イデアルからなる空でない任意の族は、包含関係に関する極大元をもつ。
  4. RRの任意の左イデアルIIは有限生成左RR加群である。すなわち、あるa1,…,ar∈Ia_1,\ldots,a_r\in Iによって I=Ra1+⋯+RarI=Ra_1+\cdots+Ra_r と書くことができる。零イデアルではr=0r=0を許す。

証明.(1)⇔\Leftrightarrow(2)を示す。左正則加群RR{}_RRの部分加群は、加法部分群I⊆RI\subseteq Rであって、すべてのr∈Rr\in Rとa∈Ia\in Iに対してra∈Ira\in Iとなるものであり、この加法部分群の条件は左イデアルの定義そのものである。したがってRR{}_RRの部分加群の昇鎖は(1)の昇鎖と一致する。

(2)⇔\Leftrightarrow(3)を示す。(3)⇔\Leftrightarrow(4)を示す。また、RR{}_RRの空でない部分加群族は(3)の左イデアル族であり、部分加群IIがa1,…,ara_1,\ldots,a_rで生成されることはI=Ra1+⋯+RarI=Ra_1+\cdots+Ra_rと同値である。よって§E6.20 命題 1.2をRR{}_RRへ適用すると二つの同値が成り立つ。§E6.20 定義 1.1で用いた左 Noether 環の定義も(2)であるため、本記事の昇鎖による定義と一致する。零環では左イデアルが零イデアルだけであり、四条件はすべて成り立つ。▨

2 Bass–Papp の定理

補題 2.1.RRを単位元をもつ結合環、MMを有限生成左RR-加群、(Nj)j∈J(N_j)_{j\in J}を左RR-加群の族とする。任意の左RR-加群の射

f ⁣:M⟶⨁j∈JNjf\colon M\longrightarrow\bigoplus_{j\in J}N_j

に対して、ある有限部分集合J0⊆JJ_0\subseteq Jと左RR-加群の射f0 ⁣:M→⨁j∈J0Njf_0\colon M\to\bigoplus_{j\in J_0}N_jが存在し、ffはf0f_0と標準包含⨁j∈J0Nj→⨁j∈JNj\bigoplus_{j\in J_0}N_j\to\bigoplus_{j\in J}N_jの合成に等しい。

証明.MMの有限生成系m1,…,mrm_1,\ldots,m_rを取る。各f(mi)f(m_i)の台は有限であるから、それらの和集合

J0:=⋃i=1rsupp⁡(f(mi))J_0:=\bigcup_{i=1}^r\supp(f(m_i))

も有限である。M=Rm1+⋯+RmrM=Rm_1+\cdots+Rm_rとffの線形性により、f(M)f(M)は⨁j∈J0Nj\bigoplus_{j\in J_0}N_jに含まれる。したがって、ffの終域をこの有限部分直和へ制限した射f0f_0が求める因子化を与える。r=0r=0の場合にはM=0M=0であり、J0=∅J_0=\varnothingとすればよい。▨

定理 2.2 (Bass–Papp の定理).RRを単位元をもつ結合環とする。次の条件は同値である。

  1. RRは左 Noether 環である。
  2. 任意の集合JJと入射左RR-加群の任意の族(Ej)j∈J(E_j)_{j\in J}に対して、直和⨁j∈JEj\bigoplus_{j\in J}E_jは入射加群である。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。RRを左 Noether 環とし、入射左RR-加群の族(Ej)j∈J(E_j)_{j\in J}を取る。左イデアルI⊆RI\subseteq Rと左RR-加群の射

f ⁣:I⟶⨁j∈JEjf\colon I\longrightarrow\bigoplus_{j\in J}E_j

を取る。定理 1.2 (4)によりIIは有限生成であるから、補題 2.1により、ある有限部分集合J0⊆JJ_0\subseteq Jに対してffはf0 ⁣:I→⨁j∈J0Ejf_0\colon I\to\bigoplus_{j\in J_0}E_jを経由する。有限直和⨁j∈J0Ej\bigoplus_{j\in J_0}E_jは有限直積∏j∈J0Ej\prod_{j\in J_0}E_jと一致し、§E6.17 命題 1.3 (1)により入射加群である。したがってf0f_0は左RR-加群の射g0 ⁣:R→⨁j∈J0Ejg_0\colon R\to\bigoplus_{j\in J_0}E_jへ延長する。g0g_0と標準包含の合成はffの延長である。§E6.17 定理 2.1により⨁j∈JEj\bigoplus_{j\in J}E_jは入射加群である。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。左イデアルの昇鎖

I0⊆I1⊆I2⊆⋯I_0\subseteq I_1\subseteq I_2\subseteq\cdots

を取り、I:=⋃n∈N≥0InI:=\bigcup_{n\in\N}I_nと置く。(In)n∈N≥0(I_n)_{n\in\N}は昇鎖なので、IIはRRの左イデアルである。各n∈N≥0n\in\Nに対して§E6.17 定理 5.4を左RR-加群R/InR/I_nへ適用し、入射左RR-加群EnE_nと単射ιn ⁣:R/In→En\iota_n\colon R/I_n\to E_nを取る。写像

f ⁣:I⟶⨁n∈N≥0En,f(a)=(ιn(a+In))n∈N≥0f\colon I\longrightarrow\bigoplus_{n\in\N}E_n, \qquad f(a)=\bigl(\iota_n(a+I_n)\bigr)_{n\in\N}

を考える。a∈Ia\in Iに対してa∈Ima\in I_mとなるm∈N≥0m\in\Nが存在し、n≥mn\geq mならばa+In=0a+I_n=0である。したがってf(a)f(a)は有限台をもち、ffは直和へ値を取る。各成分a↦ιn(a+In)a\mapsto\iota_n(a+I_n)は左RR-線形なので、ffも左RR-加群の射である。仮定により⨁n∈N≥0En\bigoplus_{n\in\N}E_nは入射加群なので、ffの延長g ⁣:R→⨁n∈N≥0Eng\colon R\to\bigoplus_{n\in\N}E_nが存在する。

g(1)g(1)の台は有限であるから、あるN∈N≥0N\in\Nに対してn≥Nn\geq Nならばg(1)g(1)の第nn成分は零である。任意のa∈Ia\in Iに対して

f(a)=g(a)=ag(1)f(a)=g(a)=a g(1)

であるため、f(a)f(a)の第NN成分は零である。ιN\iota_Nは単射なのでa+IN=0a+I_N=0、すなわちa∈INa\in I_Nとなる。したがってI⊆INI\subseteq I_Nであり、逆包含はIIの定義から成り立つためI=INI=I_Nである。よってn≥Nn\geq NならばIn=INI_n=I_Nとなり、昇鎖は停止する。定理 1.2 (1)によりRRは左 Noether 環である。▨

3 整数環と無限変数多項式環

整数環では零イデアルから非零イデアルへの移行と、その後の正整数の減少を分けると、昇鎖が停止する理由を直接確認することができる。

例 3.1 (整数環のイデアルの昇鎖).Z\mathbb Zの任意のイデアルは、ただ一つの非負整数aaを用いて(a)(a)と書くことができる。実際、非零イデアルIIに含まれる最小の正整数をaaとする。任意のz∈Iz\in Iをz=qa+rz=qa+r、0≤r<a0\leq r<aと書くと、r=z−qa∈Ir=z-qa\in Iである。aaの最小性からr=0r=0であり、I⊆(a)I\subseteq(a)となる。逆包含はa∈Ia\in Iから従うためI=(a)I=(a)である。(a)=(b)(a)=(b)となる非負整数a,ba,bは互いに割り合うためa=ba=bである。零イデアルは(0)(0)である。

イデアルの真の包含(a)⊊(b)(a)\subsetneq(b)を考える。(a)⊆(b)(a)\subseteq(b)ならばbbはaaを割る。a=0a=0かつb>0b>0である真の包含は、零イデアルから非零イデアルへの移行であり、真の昇鎖に高々一回しか現れない。a,b>0a,b>0ならばa=bqa=bqとなる整数qqが存在し、真の包含であることからq≥2q\geq2である。したがって

a>b>0a>b>0

となる。

よってZ\mathbb Zのイデアルの真の昇鎖では、零イデアルから非零イデアルへの移行が高々一回あり、その後は正の生成元が真に減少する。正整数の真の減少列は無限に続かないため、真の昇鎖は有限である。等号を含む昇鎖が停止しないならば、真の包含が生じる添字を逐次選ぶことで停止しない真の昇鎖が得られるため、そのような昇鎖も存在しない。したがってZ\mathbb Zは Noether 環である。

有限個の変数という仮定を外すと、Hilbert 基底定理の結論は一般には成り立たない。

例 3.2 (無限変数多項式環は Noether でない). 体kk上の可算無限変数多項式環

A:=k[x1,x2,x3,…]A:=k[x_1,x_2,x_3,\ldots]

を考え、In:=(x1,…,xn)I_n:=(x_1,\ldots,x_n)と置く。このとき

I1⊊I2⊊I3⊊⋯I_1\subsetneq I_2\subsetneq I_3\subsetneq\cdots

である。実際、xn+1∈In+1x_{n+1}\in I_{n+1}である。一方、xn+1∉Inx_{n+1}\notin I_nを示すため、xn+1x_{n+1}を一変数多項式環k[xn+1]k[x_{n+1}]の変数へ送り、それ以外のすべての変数を00へ送る評価準同型

εn ⁣:A⟶k[xn+1]\varepsilon_n\colon A\longrightarrow k[x_{n+1}]

を考える。εn(In)=0\varepsilon_n(I_n)=0であるがεn(xn+1)=xn+1≠0\varepsilon_n(x_{n+1})=x_{n+1}\neq0であるため、xn+1∉Inx_{n+1}\notin I_nである。したがって表示した昇鎖は停止せず、AAは Noether 環でない。

4 部分加群、商加群および有限直和

Noether 性の短完全列に関する定理を標準的な包含、商写像および直和射影へ適用する。

系 4.1. 左RR加群の短完全列

0⟶L⟶M⟶N⟶00\longrightarrow L\longrightarrow M\longrightarrow N\longrightarrow0

において、MMが Noether 加群であることと、LLとNNがともに Noether 加群であることは同値である。したがって、Noether 加群MMの任意の部分加群と任意の商加群は Noether 加群である。また、Noether 左RR加群M1,…,MnM_1,\ldots,M_nの有限直和

⨁i=1nMi\bigoplus_{i=1}^nM_i

は Noether 加群である。n=0n=0の場合には、この直和を零加群とする。

証明.§E6.20 命題 3.1が短完全列についての最初の同値を与える。

部分加群N⊆MN\subseteq Mに対して、包含写像i(n)=ni(n)=nと商写像q(m)=m+Nq(m)=m+Nからなる列

0⟶N→ i M→ q M/N⟶00\longrightarrow N\xrightarrow{\ i\ }M \xrightarrow{\ q\ }M/N\longrightarrow0

は短完全列である。MMが Noether 加群であるため、§E6.20 命題 3.1によりNNとM/NM/Nはともに Noether 加群である。任意の商加群はある部分加群NNに対するM/NM/Nの形であるため、最初の主張が従う。

有限直和についてnnに関する帰納法を用いる。n=0n=0のとき、零加群の部分加群は零加群だけであるため、零加群は Noether 加群である。n=1n=1の場合は仮定そのものである。n≥2n\geq2とし、n−1n-1個までの主張を仮定する。標準包含と最終成分への射影からなる列

0⟶⨁i=1n−1Mi→ j ⨁i=1nMi→ p Mn⟶0,0\longrightarrow\bigoplus_{i=1}^{n-1}M_i \xrightarrow{\ j\ }\bigoplus_{i=1}^{n}M_i \xrightarrow{\ p\ }M_n\longrightarrow0,j(m1,…,mn−1)=(m1,…,mn−1,0),p(m1,…,mn)=mnj(m_1,\ldots,m_{n-1})=(m_1,\ldots,m_{n-1},0), \qquad p(m_1,\ldots,m_n)=m_n

は短完全列である。帰納法の仮定により左端は Noether 加群であり、仮定により右端も Noether 加群である。§E6.20 命題 3.1を適用すると中央も Noether 加群になる。▨

注意 4.2 (無限直和では保存されない).RRが非零左 Noether 環であっても、左加群の可算直和M:=⨁j≥1RM:=\bigoplus_{j\geq1}Rは Noether 加群でない。標準基底をeje_jとすると、

Re1⊊Re1⊕Re2⊊⋯⊊⨁j=1nRej⊊⋯Re_1\subsetneq Re_1\oplus Re_2\subsetneq \cdots\subsetneq\bigoplus_{j=1}^nRe_j\subsetneq\cdots

は停止しない真の昇鎖である。各包含が真であることは、en+1≠0e_{n+1}\neq0が第n+1n+1成分をもたない前段の部分加群に属さないことから従う。

5 Hilbert 基底定理

最高次係数を次数ごとに集めると、係数環の左イデアルの昇鎖が得られる。昇鎖が停止した後は、停止段階の最高次係数を用いて任意の高次数項を左から消去することができる。不定元を中心的と仮定することにより、係数の順序を変えずに次数を移動することができる。

定理 5.1 (Hilbert 基底定理).RRを左 Noether 環とし、xxをRRのすべての元と可換な中心不定元とする。このとき通常の一変数多項式環R[x]R[x]は左 Noether 環である。

証明.RRが零環ならばR[x]R[x]も零環であり、左イデアルは零イデアルだけであるから左 Noether 環である。以下ではRRを非零環とする。

I⊆R[x]I\subseteq R[x]を左イデアルとする。I=0I=0ならばIIは空集合で左から生成されるため有限生成である。以下ではI≠0I\neq0とする。各整数d≥0d\geq0に対して、IIに属する次数がちょうどddの多項式の最高次係数全体へ00を加えた集合を

Ld:={0}∪{lc⁡(f)∣f∈I, deg⁡f=d}L_d:=\{0\}\cup \{\operatorname{lc}(f)\mid f\in I,\ \deg f=d\}

と定める。

LdL_dがRRの左イデアルであることを示す。a,b∈Lda,b\in L_dがともに非零ならば、最高次係数がそれぞれa,ba,bである次数ddの多項式f,g∈If,g\in Iを取ることができる。a−b≠0a-b\neq0ならばf−gf-gは次数ddで最高次係数a−ba-bをもつため、a−b∈Lda-b\in L_dである。a−b=0a-b=0の場合には、f−gf-gの次数がddより下がることがあるが、差は定義によって加えた0∈Ld0\in L_dで表される。a≠0a\neq0かつb=0b=0ならばffがa−b=aa-b=aの証人であり、a=0a=0かつb≠0b\neq0ならば−g-gがa−b=−ba-b=-bの証人である。a=b=0a=b=0ならば差も00である。

r∈Rr\in Rと非零のa∈Lda\in L_dを取り、対応するffを選ぶ。ra≠0ra\neq0ならばrfrfは次数ddで最高次係数raraをもつため、ra∈Ldra\in L_dである。ra=0ra=0ならば、零因子によってrfrfの次数が下がる場合もあるが、ra=0∈Ldra=0\in L_dである。a=0a=0の場合にもra=0∈Ldra=0\in L_dである。したがってLdL_dは加法部分群であり、RRの左乗法で閉じているため左イデアルである。

非零のa∈Lda\in L_dに対応するf∈If\in Iを取ると、IIは左イデアルなのでxf∈Ixf\in Iである。xxは中心不定元であるため、xfxfは次数d+1d+1で最高次係数aaをもつ。零元も両方に属するため

Ld⊆Ld+1L_d\subseteq L_{d+1}

である。RRは左 Noether 環であるから、定理 1.2により昇鎖

L0⊆L1⊆L2⊆⋯L_0\subseteq L_1\subseteq L_2\subseteq\cdots

は停止する。あるN≥0N\geq0が存在して

LN=LN+1=LN+2=⋯L_N=L_{N+1}=L_{N+2}=\cdots

となる。

各0≤d≤N0\leq d\leq Nについて、同じ特徴づけによりLdL_dは有限生成左RR加群である。Ld=0L_d=0ならばnd:=0n_d:=0とし、空の生成族を用いる。Ld≠0L_d\neq0ならば、零元を除いた生成元ad,1,…,ad,nda_{d,1},\ldots,a_{d,n_d}を選び、

Ld=Rad,1+⋯+Rad,ndL_d=Ra_{d,1}+\cdots+Ra_{d,n_d}

と書く。各ad,ia_{d,i}に対して、次数がddで最高次係数がad,ia_{d,i}であるfd,i∈If_{d,i}\in Iを選ぶ。有限集合

F:={fd,i∣0≤d≤N, 1≤i≤nd}\mathcal F:=\{f_{d,i}\mid0\leq d\leq N,\ 1\leq i\leq n_d\}

が左から生成するR[x]R[x]の左イデアルをJJとする。F⊆I\mathcal F\subseteq IであるからJ⊆IJ\subseteq Iである。

I⊆JI\subseteq Jを非零多項式の次数に関する強帰納法で示す。f∈If\in Iを非零とし、m:=deg⁡fm:=\deg f、a:=lc⁡(f)a:=\operatorname{lc}(f)と置く。次数がmmより小さいIIの多項式はすべてJJに属すると仮定する。

最初にm≤Nm\leq Nとする。a∈Lma\in L_mであるから

a=∑i=1nmriam,ia=\sum_{i=1}^{n_m}r_i a_{m,i}

となるri∈Rr_i\in Rが存在する。a≠0a\neq0であるためLm≠0L_m\neq0であり、nm>0n_m>0である。そこで

g:=∑i=1nmrifm,i∈Jg:=\sum_{i=1}^{n_m}r_i f_{m,i}\in J

と置く。ggのxmx^mの係数はaaである。

次にm>Nm>Nとする。鎖の停止からLm=LNL_m=L_Nであるため

a=∑i=1nNriaN,ia=\sum_{i=1}^{n_N}r_i a_{N,i}

となるri∈Rr_i\in Rが存在する。a≠0a\neq0からLN≠0L_N\neq0かつnN>0n_N>0である。そこで

g:=∑i=1nN(rixm−N)fN,i∈Jg:=\sum_{i=1}^{n_N}(r_i x^{m-N})f_{N,i}\in J

と置く。ggのxmx^mの係数もaaである。係数環に零因子がある場合には表示した和の個々の項の次数が下がることがあるが、和のxmx^mの係数がaaであることには影響しない。

いずれの場合にもf−g∈If-g\in Iであり、最高次項が消去されるためf−g=0f-g=0またはdeg⁡(f−g)<m\deg(f-g)<mである。前者ならf=g∈Jf=g\in Jであり、後者なら帰納法の仮定からf−g∈Jf-g\in Jである。したがってf∈Jf\in Jとなる。以上によりI=JI=Jであり、IIは有限生成左イデアルである。零左イデアルの場合も既に確認したため、R[x]R[x]のすべての左イデアルは有限生成である。定理 1.2によりR[x]R[x]は左 Noether 環である。▨

系 5.2 (右 Noether 環と右 Hilbert 基底定理). 単位元をもつ結合環RRについて、次が成り立つ。

  1. RRが右 Noether 環であることとRopR^{\mathrm{op}}が左 Noether 環であることは同値であり、このときRRのすべての右イデアルは右から有限生成である。
  2. RRが右 Noether 環で、xxが中心不定元ならば、通常の多項式環R[x]R[x]は右 Noether 環である。
  3. Noether 性の短完全列、部分加群、商加群および有限直和に関する保存則は右加群についても成り立つ。特に、右 Noether 環上の有限生成右加群は Noether 加群であり、そのすべての右部分加群は有限生成である。

証明.(1)を示す。§E6.20 命題 7.1により、右RR加群RRR_Rの部分加群、昇鎖および有限生成性は、左RopR^{\mathrm{op}}加群RopR{}_{R^{\mathrm{op}}}Rのものと一致する。右部分加群は右イデアルなので、(1)と右イデアルの有限生成性が従う。

(2)を示す。RRが右 Noether ならばRopR^{\mathrm{op}}は左 Noether である。定理 5.1を中心不定元xxをもつRop[x]R^{\mathrm{op}}[x]へ適用すると、Rop[x]R^{\mathrm{op}}[x]は左 Noether である。係数を反対環へ移す写像は、xxの中心性によって環同型

(R[x])op≅Rop[x](R[x])^{\mathrm{op}}\cong R^{\mathrm{op}}[x]

を与える。したがって再び§E6.20 命題 7.1によりR[x]R[x]は右 Noether である。

(3)を示す。右加群の部分加群、商、有限直和、短完全列、有限生成性および Noether 性は、対応する左RopR^{\mathrm{op}}加群の同じデータである。したがって系 4.1をRopR^{\mathrm{op}}へ適用すれば保存則を得る。さらにRRが右 Noether でMMが有限生成右加群ならば、RopR^{\mathrm{op}}は左 Noether であり、ある全射左RopR^{\mathrm{op}}線形写像(Rop)n→M(R^{\mathrm{op}})^n\to Mが存在する。始域は Noether であるから商MMも Noether であり、§E6.20 命題 1.2によりそのすべての部分加群は有限生成である。右RR加群へ戻せば(3)を得る。▨

6 有限個の中心不定元と有限生成可換代数

Hilbert 基底定理を中心不定元の個数について繰り返すことができる。係数環が可換ならば、最後に商を取って有限生成可換代数の Noether 性を得る。

系 6.1.RRを左 Noether 環とし、x1,…,xnx_1,\ldots,x_nをRRのすべての元および互いと可換する中心不定元とする。このとき任意のn≥0n\geq0に対して通常の多項式環R[x1,…,xn]R[x_1,\ldots,x_n]は左 Noether 環である。さらにRRが可換環ならば、有限個の元で生成される単位的可換RR代数AAは Noether 環である。

証明.nnに関する帰納法を用いる。n=0n=0のときR[x1,…,xn]=RR[x_1,\ldots,x_n]=Rであり、仮定から左 Noether 環である。R[x1,…,xn−1]R[x_1,\ldots,x_{n-1}]が左 Noether 環ならば、xnx_nはこの係数環の中心不定元なので、定理 5.1を係数環R[x1,…,xn−1]R[x_1,\ldots,x_{n-1}]へ適用して

R[x1,…,xn]=R[x1,…,xn−1][xn]R[x_1,\ldots,x_n] =R[x_1,\ldots,x_{n-1}][x_n]

も左 Noether 環である。

RRを可換とし、AAが可換RR代数としてa1,…,ana_1,\ldots,a_nで生成されるとする。評価準同型

φ ⁣:R[x1,…,xn]⟶A,xi⟼ai\varphi\colon R[x_1,\ldots,x_n]\longrightarrow A, \qquad x_i\longmapsto a_i

は全射である。B:=R[x1,…,xn]B:=R[x_1,\ldots,x_n]、K:=ker⁡φK:=\ker\varphiと置くと、§E6.3 定理 6.2によりA≅B/KA\cong B/Kである。BBは左 Noether 環であり、短完全列

0⟶K⟶B⟶B/K⟶00\longrightarrow K\longrightarrow B\longrightarrow B/K\longrightarrow0

へ§E6.20 命題 3.1を適用すると、B/KB/KはBB加群として Noether である。B→B/KB\to B/Kは全射であるため、B/KB/KのBB部分加群と、左B/KB/K加群としての部分加群は一致する。特にB/KB/Kの左イデアルの昇鎖は停止し、B/KB/Kは左 Noether 環である。ここではB/KB/Kは可換なので、単に Noether 環という。同型によってAAも Noether 環である。n=0n=0の場合にはAAはRRの商であり、同じ議論が成り立つ。▨

7 左 Noether 環上の有限生成左加群

有限生成加群を有限階数自由加群の商として表すと、Noether 性を有限直和と商に沿って移すことができる。

命題 7.1.RRを左 Noether 環、MMを有限生成左RR加群とする。このときMMは Noether 加群であり、MMの任意の左部分加群は有限生成である。

証明.§E6.11 定義 1.1により、あるn≥0n\geq0と全射

π ⁣:Rn↠M\pi\colon R^n\twoheadrightarrow M

が存在する。左正則加群RR{}_RRは Noether 加群であり、系 4.1により有限直和RnR^nも Noether 加群である。n=0n=0の場合にはR0=0R^0=0であり、全射性からM=0M=0となるため同じ結論が成り立つ。

短完全列

0⟶ker⁡π⟶Rn→ π M⟶00\longrightarrow\ker\pi\longrightarrow R^n \xrightarrow{\ \pi\ }M\longrightarrow0

へ§E6.20 命題 3.1を適用すると、MMは Noether 加群である。さらに§E6.20 命題 1.2により、MMのすべての部分加群は有限生成である。▨

8 演習

問題 8.1 (Noether 環と有限生成性の確認). 次の各問に答えよ。

  1. 一般の結合環RRについて、左イデアルの昇鎖条件、左正則加群RR{}_RRの Noether 性、空でない左イデアル族の極大元条件、およびすべての左イデアルの有限生成性が同値であることを証明せよ。
  2. N⊆MN\subseteq Mに対する短完全列と有限直和に対する短完全列を明示し、Noether 性が部分加群、商加群および有限直和で保たれることを証明せよ。零個の直和を確認し、非零環RRに対して⨁j≥1R\bigoplus_{j\geq1}Rが Noether 加群でないことを示せ。
  3. 中心不定元をもつ Hilbert 基底定理の証明を、最高次係数左イデアルLdL_dの左イデアル性、昇鎖の停止、Ld=0L_d=0の空生成族、およびm≤Nm\leq Nとm>Nm>Nにおける最高次項の左からの消去に分けて再構成せよ。中心性を使う箇所、ra=0ra=0、I=0I=0および零環の場合も確認せよ。
  4. 有限個の中心不定元をもつ多項式環の左 Noether 性を変数の個数に関する帰納法で証明し、可換の場合には商環の Noether 性から有限生成可換代数の Noether 性を導け。また、有限生成左RR加群への全射Rn→MR^n\to Mを用いて、左 Noether 環上の有限生成左加群の全部分加群が有限生成であることを証明せよ。
  5. Z\mathbb Zのイデアルの真の昇鎖について、(0)(0)から非零イデアルへの移行が高々一回であることと、その後に正の生成元が真に減少することを証明せよ。
  6. 無限変数多項式環のイデアルIn=(x1,…,xn)I_n=(x_1,\ldots,x_n)が真の昇鎖をなすことを、評価準同型を用いて証明せよ。
  7. 右 Noether 環の特徴づけ、右加群に関する保存則、および中心不定元をもつ右 Hilbert 基底定理を反対環から導け。歪多項式環がこの証明の対象外である理由も述べよ。
解答 (演習の解答).
  1. 一般の結合環でも、左イデアルは左正則加群RR{}_RRの部分加群と同じ集合であり、包含関係も同じである。左イデアルIIが左加群として有限生成であることはI=Ra1+⋯+RarI=Ra_1+\cdots+Ra_rと同値である。したがって§E6.20 命題 1.2をRR{}_RRへ適用すると四条件が同値になり、§E6.20 定義 1.1の定義とも一致する。
  2. 列0→N→M→M/N→00\to N\to M\to M/N\to0へ§E6.20 命題 3.1を適用すると、Noether 加群MMの部分加群NNと商加群M/NM/Nは Noether 加群である。有限直和では、零個の場合は部分加群を零加群だけにもつ零加群である。n≥1n\geq1では列0→⨁i<nMi→⨁i≤nMi→Mn→00\to\bigoplus_{i<n}M_i\to\bigoplus_{i\leq n}M_i\to M_n\to0と帰納法を用いる。R≠0R\neq0のとき、可算直和では有限部分和⨁j=1nR\bigoplus_{j=1}^nRが停止しない真の昇鎖をなし、en+1e_{n+1}が包含の狭義性を示す。
  3. LdL_dは、左イデアルIIの次数ddの元の最高次係数全体へ00を加えた集合である。最高次係数の差が非零なら多項式の差が証人になり、差が零なら定義で加えた零元を用いる。ra≠0ra\neq0ならrfrfが証人になり、ra=0ra=0なら積の次数が下がっても零元がLdL_dに属する。IIが左イデアルであることとxxの中心性からf↦xff\mapsto xfによりLd⊆Ld+1L_d\subseteq L_{d+1}が従い、昇鎖はNNで停止する。Ld=0L_d=0では空生成族を取り、m≤Nm\leq NではLmL_mの生成元を、m>Nm>NではLN=LmL_N=L_mの生成元を左係数rixm−Nr_ix^{m-N}で掛けて最高次項を消去する。次数に関する強帰納法によってIIは有限生成左イデアルになる。I=0I=0は空集合で生成され、零環の多項式環も零環である。
  4. R[x1,…,xn]=R[x1,…,xn−1][xn]R[x_1,\ldots,x_n]=R[x_1,\ldots,x_{n-1}][x_n]と Hilbert 基底定理を用いる帰納法により、有限個の中心不定元をもつ多項式環は左 Noether である。可換な有限生成RR代数AAには全射R[x1,…,xn]→AR[x_1,\ldots,x_n]\to Aがあり、核による商は短完全列から Noether になる。有限生成左加群MMには全射Rn→MR^n\to Mがあり、RnR^nは有限直和として Noether、MMはその商として Noether である。よってMMの全部分加群は有限生成である。
  5. Z\mathbb Zのイデアルを非負の生成元で(a)(a)と一意に書く。真の包含(a)⊊(b)(a)\subsetneq(b)ではb∣ab\mid aである。a=0<ba=0<bとなる移行は真の昇鎖に高々一回しかない。a,b>0a,b>0ならa=bqa=bqかつq≥2q\geq2であるためa>ba>bとなる。したがって非零イデアルへ移った後の正の生成元は真に減少し、鎖は有限段階で停止する。
  6. xn+1x_{n+1}以外のすべての変数を00へ送る準同型k[x1,x2,…]→k[xn+1]k[x_1,x_2,\ldots]\to k[x_{n+1}]はInI_nを零へ送るが、xn+1x_{n+1}を非零元xn+1x_{n+1}へ送る。よってxn+1∉Inx_{n+1}\notin I_nであり、In⊊In+1I_n\subsetneq I_{n+1}である。
  7. 右RR加群は左RopR^{\mathrm{op}}加群と同じ加法群と部分加群をもつため、右 Noether 性はRopR^{\mathrm{op}}の左 Noether 性と同値であり、保存則も移る。中心不定元なら(R[x])op≅Rop[x](R[x])^{\mathrm{op}}\cong R^{\mathrm{op}}[x]なので、左 Hilbert 基底定理から右版を得る。歪多項式環では不定元と係数の交換則がxr=rxxr=rxではなく、最高次係数の移動とこの反対環同型を同じ形では使えないため、本記事の定理の対象外である。

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9 仮定と後続範囲の境界

本記事は、一般の左 Noether 環に共通する有限生成性、Bass–Papp の定理、中心不定元をもつ多項式環、有限生成左加群、および反対環による右版までを扱った。歪多項式環R[x;σ,δ]R[x;\sigma,\delta]ではxxと係数が中心的に可換しないため、本記事の Hilbert 基底定理の主張にも証明にも含めない。可換の場合には有限生成可換代数までを系として扱った。PID、Euclid 整域および UFD の包含関係と分解論は記事「Euclid 整域・PID・UFD」が扱い、PID 上有限生成加群の構造定理は記事「PID 上有限生成加群の構造定理」が扱う。座標環を幾何学的対象と結び付ける議論は後続の代数幾何が扱い、代数体の整数環が Noether 環であることとそのイデアル論は代数的整数論が扱う。一般の Noether 加群・Artin 加群・有限長および Jordan–Hölder の定理は記事「Noether 加群・Artin 加群・有限長加群」が、可換 Artin 環の構造は記事「可換 Artin 環とその加群」が、局所化、素スペクトル、次元および準素分解を含む理論は後続単元「可換環論」がそれぞれ担い、本記事では扱わない。

参考文献

  1. T. Y. Lam, A First Course in Noncommutative Rings, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2001.左右 Noether 環、反対環、および中心不定元をもつ多項式環の Hilbert 基底定理を参考にした。
  2. M. F. Atiyah and I. G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, CRC Press, 2018, originally published 1969.Noether 環の有限生成性による特徴づけ、Hilbert 基底定理および有限生成代数を参考にした。
  3. David Eisenbud, Commutative Algebra with a View Toward Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics, Springer, 1995.最高次係数イデアルを用いる Hilbert 基底定理の証明と有限生成加群への応用を参考にした。
  4. Hideyuki Matsumura, Commutative Ring Theory, translated by Miles Reid, Cambridge Studies in Advanced Mathematics 8, Cambridge University Press, 1986.Noether 加群の完全列に関する保存則と Noether 環上の有限生成加群を参考にした。

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