§E6.17入射加群

最終更新

部分加群からある加群への準同型を、その値を保ったまま、周囲の加群から同じ終域への準同型へ延長することができるかを考える。一般には、そのような延長が存在するとは限らない。実際、準同型2Z→Z2\Z\to\Z、2a↦a2a\mapsto aは、Z→Z\Z\to\Zへ延長することができない。

ある加群EEが入射加群であるとは、どの単射に沿っても、その始域からEEへの準同型を、その終域からEEへの準同型へ延長することができることをいう。入射加群は、準同型の延長、Hom の完全性および短完全列の分裂を一つの性質として結び付ける、加群論の最も基本的なクラスの一つである。

本記事では、入射加群の基本的な性質と代表的な判定法について解説する。

1 延長性と分裂

定義 1.1 (入射加群).RRを単位元をもつ結合環とする。左RR-加群EEが入射加群 (injective left module) であるとは、任意の左RR-加群の単射i ⁣:A→Bi\colon A\to Bと任意のRR-線形写像f ⁣:A→Ef\colon A\to Eに対して、g∘i=fg\circ i=fを満たすRR-線形写像g ⁣:B→Eg\colon B\to Eが存在することをいう。写像ggをiiに沿ったffの延長 (extension) という。

命題 1.2.RRを単位元をもつ結合環、EEを左RR-加群とする。次の四条件は同値である。

  1. EEは入射加群である。
  2. 任意の左RR-加群の短完全列0→A→iB→pC→00\to A\xrightarrow{i}B\xrightarrow{p}C\to0に対して、アーベル群の列 0⟶Hom⁡R(C,E)→p∗Hom⁡R(B,E)→i∗Hom⁡R(A,E)⟶00\longrightarrow\Hom_R(C,E)\xrightarrow{p^*}\Hom_R(B,E) \xrightarrow{i^*}\Hom_R(A,E)\longrightarrow0 は完全である。ここでp∗(h)=h∘pp^*(h)=h\circ p、i∗(g)=g∘ii^*(g)=g\circ iとする。
  3. 任意の左RR-加群の単射j ⁣:E→Xj\colon E\to Xに対して、r∘j=id⁡Er\circ j=\id_Eを満たすRR-線形写像r ⁣:X→Er\colon X\to Eが存在する。
  4. 左RR-加群XXがEEを部分加群として含むとき、ある部分加群Y⊆XY\subseteq Xに対してX=E⊕YX=E\oplus Yとなる。

証明.条件 (a)⇔\Leftrightarrow(b)を示す。§E6.13 命題 4.1 (2)により、表示した列の右端以外は常に完全である。右端の完全性はi∗i^*の全射性、すなわちiiに沿う延長の存在である。任意の単射i ⁣:A→Bi\colon A\to Bは短完全列0→A→B→B/i(A)→00\to A\to B\to B/i(A)\to0の左の射になるので、両条件は同値である。

条件 (a)⇒\Rightarrow(c)を示す。単射j ⁣:E→Xj\colon E\to Xに沿ってid⁡E\id_Eを延長すれば、r∘j=id⁡Er\circ j=\id_Eを満たすr ⁣:X→Er\colon X\to Eを得る。

条件 (c)⇔\Leftrightarrow(d)を示す。単射j ⁣:E→Xj\colon E\to Xに対する短完全列0→E→X→X/j(E)→00\to E\to X\to X/j(E)\to0に分裂補題§E6.9 命題 3.2を適用すると、jjのレトラクションの存在と、j(E)j(E)がXXの直和因子であることは同値である。jjが誘導する同型E≅j(E)E\cong j(E)によって、両条件が同値であることを得る。

条件 (c)⇒\Rightarrow(a)を示す。部分加群A⊆BA\subseteq BとRR-線形写像f ⁣:A→Ef\colon A\to Eを取り、

L={(f(a),−a):a∈A}⊆E⊕B,X=(E⊕B)/LL=\{(f(a),-a):a\in A\}\subseteq E\oplus B, \qquad X=(E\oplus B)/L

と置く。LLは線形写像a↦(f(a),−a)a\mapsto(f(a),-a)の像なので部分加群である。商写像と標準包含の合成をj ⁣:E→Xj\colon E\to X、k ⁣:B→Xk\colon B\to Xとすると、j∘f=k∣Aj\circ f=k|_Aである。j(e)=0j(e)=0ならば(e,0)=(f(a),−a)(e,0)=(f(a),-a)となるa∈Aa\in Aが存在し、a=0a=0、e=0e=0となる。したがってjjは単射であり、仮定からレトラクションr ⁣:X→Er\colon X\to Eが存在する。合成r∘kr\circ kはffの延長である。一般の単射i ⁣:A→Bi\colon A\to Bには、部分加群i(A)i(A)上の写像f∘i−1f\circ i^{-1}にこの構成を適用する。▨

命題 1.3.RRを単位元をもつ結合環とする。

  1. 集合JJで添字づけられた入射左RR-加群の族(Ej)j∈J(E_j)_{j\in J}の直積∏j∈JEj\prod_{j\in J}E_jは入射加群である。
  2. 入射左RR-加群の直和因子は入射加群である。

証明.(1)を示す。単射i ⁣:A→Bi\colon A\to Bとf ⁣:A→∏jEjf\colon A\to\prod_jE_jを取る。各成分写像fj ⁣:A→Ejf_j\colon A\to E_jに対して延長gj ⁣:B→Ejg_j\colon B\to E_jを選ぶ。写像g(b)=(gj(b))j∈Jg(b)=(g_j(b))_{j\in J}は線形であり、各成分でgj∘i=fjg_j\circ i=f_jなのでg∘i=fg\circ i=fである。J=∅J=\varnothingでは直積は零加群であり、零写像が延長を与える。

(2)を示す。入射加群EEの直和因子DDの包含をu ⁣:D→Eu\colon D\to E、射影をv ⁣:E→Dv\colon E\to Dとする。単射i ⁣:A→Bi\colon A\to Bとf ⁣:A→Df\colon A\to Dに対し、u∘fu\circ fの延長h ⁣:B→Eh\colon B\to Eを取ると、v∘hv\circ hはffの延長である。▨

命題 1.4.RRを単位元をもつ結合環とする。右RR-加群EEに右線形写像の延長性を課して定義した入射性は、作用rope=err^{\mathrm{op}}e=erによってEEを左RopR^{\mathrm{op}}-加群としたときの入射性と同値である。

証明. 右RR-加群の射と左RopR^{\mathrm{op}}-加群の射は同じ加法写像である。単射であることも合成の等式も変わらないので、両方の延長性は同じ条件である。▨

2 Baer の判定法

定理 2.1 (Baer の判定法).RRを単位元をもつ結合環、EEを左RR-加群とする。任意の左イデアルI⊆RI\subseteq Rと任意のRR-線形写像f ⁣:I→Ef\colon I\to Eに対してffの延長R→ER\to Eが存在することは、EEが入射加群であるための必要十分条件である。

証明. 必要性を示す。EEが入射加群ならば、左イデアルの包含I↪RI\hookrightarrow Rに沿って任意のf ⁣:I→Ef\colon I\to Eを延長することができる。

十分性を示す。部分加群A⊆BA\subseteq BとRR-線形写像f ⁣:A→Ef\colon A\to Eを取る。A⊆A′⊆BA\subseteq A'\subseteq Bを満たす部分加群A′A'と、f′∣A=ff'|_A=fを満たす線形写像f′ ⁣:A′→Ef'\colon A'\to Eの対の集合を考える。

(A′,f′)≤(A′′,f′′)⟺A′⊆A′′ かつ f′′∣A′=f′(A',f')\leq(A'',f'') \quad\Longleftrightarrow\quad A'\subseteq A''\text{ かつ }f''|_{A'}=f'

と定めると半順序になる。この集合は(A,f)(A,f)を含む。空でない鎖の定義域の和集合は部分加群であり、鎖に属する写像は共通の定義域で一致するので、和集合上に線形写像を定める。この対は鎖の上界である。空の鎖は(A,f)(A,f)を上界にもつ。Zorn の補題§E1.20 定理 2.1 (3)により極大な対(A′,f′)(A',f')が存在する。

A′≠BA'\ne Bと仮定し、x∈B∖A′x\in B\setminus A'を取る。

I={r∈R:rx∈A′}I=\{r\in R:rx\in A'\}

は、加法と左からの乗法で閉じた左イデアルである。写像h ⁣:I→Eh\colon I\to E、h(r)=f′(rx)h(r)=f'(rx)は左RR-線形なので、仮定から線形写像h~ ⁣:R→E\widetilde h\colon R\to Eへ延長する。二つの線形写像

q ⁣:A′⊕R→B,q(a,r)=a+rx,t ⁣:A′⊕R→E,t(a,r)=f′(a)+h~(r)q\colon A'\oplus R\to B,\quad q(a,r)=a+rx, \qquad t\colon A'\oplus R\to E,\quad t(a,r)=f'(a)+\widetilde h(r)

を考える。(a,r)∈ker⁡q(a,r)\in\ker qならばrx=−a∈A′rx=-a\in A'であるからr∈Ir\in Iであり、

t(a,r)=f′(a)+h(r)=f′(a+rx)=0t(a,r)=f'(a)+h(r)=f'(a+rx)=0

となる。したがってker⁡q⊆ker⁡t\ker q\subseteq\ker tであり、商の普遍性からttはqqの像A′+RxA'+Rx上の線形写像を誘導する。この写像はf′f'を延長する。x∉A′x\notin A'なのでA′⊊A′+RxA'\subsetneq A'+Rxとなり、(A′,f′)(A',f')の極大性に反する。よってA′=BA'=Bである。一般の単射i ⁣:A→Bi\colon A\to Bにはi(A)i(A)上の写像f∘i−1f\circ i^{-1}を延長すればよい。▨

例 2.2. 体kk上の任意の線形空間VVは入射kk-加群である。体のイデアルは00とkkだけであり、0→V0\to Vは零写像でkkに延長し、k→Vk\to Vはそれ自身が延長である。したがって定理 2.1を適用することができる。

3 可除加群

定義 3.1 (可除加群).RRを整域とする。RR-加群DDが可除 (divisible) であるとは、任意のr∈R∖{0}r\in R\setminus\{0\}とd∈Dd\in Dに対してre=dre=dを満たすe∈De\in Dが存在することをいう。アーベル群の可除性とはZ\Z-加群としての可除性をいう。

命題 3.2. 整域RR上の入射加群は可除である。

証明. 入射RR-加群EE、r≠0r\ne0およびd∈Ed\in Eを取る。整域なのでrR→ErR\to E、ra↦adra\mapsto adは線形写像として定まる。入射性によって延長g ⁣:R→Eg\colon R\to Eが存在し、rg(1)=g(r)=drg(1)=g(r)=dとなる。▨

命題 3.3. アーベル群が入射Z\Z-加群であることと、可除であることは同値である。

証明. 入射ならば命題 3.2により可除である。逆に可除アーベル群DDとイデアルI⊆ZI\subseteq\Zからの準同型f ⁣:I→Df\colon I\to Dを取る。I=0I=0ならば零写像が延長になる。I≠0I\ne0ならばI=nZI=n\Zとなる正整数nnを取り、nd=f(n)nd=f(n)を満たすd∈Dd\in Dを選ぶ。写像g ⁣:Z→Dg\colon\Z\to D、g(a)=adg(a)=adはffの延長である。したがって定理 2.1によりDDは入射的である。▨

注意 3.4. すべてのイデアルが一つの元で生成される整域を主イデアル整域という。主イデアル整域RR上でも、可除加群と入射加群は一致する。実際、非零イデアルI=rRI=rRから可除加群DDへの写像ffに対し、rd=f(r)rd=f(r)となるd∈Dd\in Dを取ればa↦ada\mapsto adが延長になる。零イデアルには零写像を用い、定理 2.1を適用すればよい。逆向きは命題 3.2である。

命題 3.5. 整域RR上の可除加群DDと部分加群N⊆DN\subseteq Dに対して、D/ND/Nは可除である。

証明.r≠0r\ne0とd+N∈D/Nd+N\in D/Nを取り、re=dre=dとなるe∈De\in Dを選ぶ。r(e+N)=d+Nr(e+N)=d+Nであるから、D/ND/Nは可除である。▨

命題 3.6.RRを整域とする。可除RR-加群DDが、任意のr∈R∖{0}r\in R\setminus\{0\}とd∈Dd\in Dに対してrd=0rd=0ならばd=0d=0を満たすとき、DDは入射加群である。特にRRの分数体は入射RR-加群である。

証明. 左イデアルI⊆RI\subseteq Rと線形写像f ⁣:I→Df\colon I\to Dを取る。I=0I=0の場合は零写像で延長する。I≠0I\ne0の場合はa∈I∖{0}a\in I\setminus\{0\}を固定し、可除性によってad=f(a)ad=f(a)を満たすd∈Dd\in Dを取る。任意のb∈Ib\in Iに対し、可換性と線形性から

a(f(b)−bd)=f(ab)−bf(a)=0a\bigl(f(b)-bd\bigr)=f(ab)-bf(a)=0

となる。仮定よりf(b)=bdf(b)=bdであり、r↦rdr\mapsto rdはffの延長である。定理 2.1によりDDは入射的である。分数体では非零元による乗法が可逆なので、可除性と零化に関する仮定の両方が成り立つ。▨

例 3.7.Z\Zは入射Z\Z-加群ではない。写像2Z→Z2\Z\to\Z、2a↦a2a\mapsto aの延長g ⁣:Z→Zg\colon\Z\to\Zが存在すれば、2g(1)=12g(1)=1となるためである。一方、Q\Qは可除であり、その商Q/Z\Q/\Zも命題 3.5により可除なので、両者は命題 3.3により入射的である。

素数ppに対して

Z(p∞)=Z[1/p]/Z⊆Q/Z,Z[1/p]={a/pn:a∈Z, n∈N≥0}\Z(p^\infty)=\Z[1/p]/\Z \subseteq\Q/\Z, \qquad \Z[1/p]=\{a/p^n:a\in\Z,\ n\in\N\}

を Prüferpp-群という。x∈Q/Zx\in\Q/\Zがこの部分群に属することと、あるn∈N≥0n\in\Nに対してpnx=0p^nx=0となることは同値である。実際、pn(q+Z)=0p^n(q+\Z)=0はpnq∈Zp^nq\in\Zを意味する。

x=a/pn+Zx=a/p^n+\Zと正整数mmを取り、m=ptum=p^t u、p∤up\nmid uと書く。uuとpn+tp^{n+t}は互いに素なので、uv≡1(modpn+t)uv\equiv1\pmod{p^{n+t}}を満たす整数vvが存在する。y=va/pn+t+Zy=va/p^{n+t}+\Zと置けばmy=xmy=xである。負整数による除法はyyの符号を変えて得られる。よってZ(p∞)\Z(p^\infty)も可除であり、入射Z\Z-加群である。

4 指標加群

定義 4.1 (指標加群).RRを単位元をもつ結合環、MMを左RR-加群とする。アーベル群

M+=Hom⁡Z(M,Q/Z)M^+=\Hom_\Z(M,\Q/\Z)

に右作用(χr)(m)=χ(rm)(\chi r)(m)=\chi(rm)を入れた右RR-加群を、MMの指標加群 (character module) という。右RR-加群AAに対してはA+=Hom⁡Z(A,Q/Z)A^+=\Hom_\Z(A,\Q/\Z)に左作用(rχ)(a)=χ(ar)(r\chi)(a)=\chi(ar)を入れる。

左作用から得る右作用は

((χr)s)(m)=χ(r(sm))=χ((rs)m)=(χ(rs))(m)((\chi r)s)(m)=\chi(r(sm))=\chi((rs)m)=(\chi(rs))(m)

を満たし、右作用から得る左作用は

(r(sχ))(a)=χ((ar)s)=χ(a(rs))=((rs)χ)(a)(r(s\chi))(a)=\chi((ar)s)=\chi(a(rs))=((rs)\chi)(a)

を満たす。加法との両立と単位元の作用は式から従う。線形写像f ⁣:M→Nf\colon M\to Nに対してf+ ⁣:N+→M+f^+\colon N^+\to M^+をf+(χ)=χ∘ff^+(\chi)=\chi\circ fと定めると、左右それぞれの作用に関して線形であり、(g∘f)+=f+∘g+(g\circ f)^+=f^+\circ g^+となる。

命題 4.2.RRを単位元をもつ結合環とする。左RR-加群の短完全列

0⟶A→iB→pC⟶00\longrightarrow A\xrightarrow{i}B\xrightarrow{p}C\longrightarrow0

に対して、右RR-加群の列

0⟶C+→p+B+→i+A+⟶00\longrightarrow C^+\xrightarrow{p^+}B^+\xrightarrow{i^+}A^+\longrightarrow0

は完全である。右加群の短完全列からは左加群の短完全列を得る。

証明.Q/Z\Q/\Zは例 3.7により入射Z\Z-加群である。もとの短完全列をアーベル群の列とみなし、命題 1.2 条件 (b)を適用すると、指標の列は完全である。右加群の短完全列にも同じ結果を適用する。▨

命題 4.3.RRを単位元をもつ結合環とする。

  1. 左または右RR-加群MMとm∈M∖{0}m\in M\setminus\{0\}に対して、χ(m)≠0\chi(m)\ne0となるχ∈M+\chi\in M^+が存在する。特にM=0M=0とM+=0M^+=0は同値である。
  2. 左RR-加群の射の列A→fB→gCA\xrightarrow{f}B\xrightarrow{g}CがBBで完全であることと、C+→g+B+→f+A+C^+\xrightarrow{g^+}B^+\xrightarrow{f^+}A^+がB+B^+で完全であることは同値である。右加群でも同じ主張が成り立つ。

証明.(1)を示す。加法群としての巡回部分群Zm⊆M\Z m\subseteq Mを取る。mmの位数が有限のn≥2n\ge2ならばm↦1/n+Zm\mapsto1/n+\ZはZm→Q/Z\Z m\to\Q/\Zの準同型を定める。位数が無限ならばm↦1/2+Zm\mapsto1/2+\Zが準同型を定める。いずれもmmの像は非零であり、Q/Z\Q/\Zの入射性によってMM全体への加法群準同型χ\chiに延長することができる。

(2)を示す。もとの列が完全ならばg∘f=0g\circ f=0なのでim⁡g+⊆ker⁡f+\im g^+\subseteq\ker f^+である。χ∈ker⁡f+\chi\in\ker f^+を取ると、χ\chiはim⁡f=ker⁡g\im f=\ker g上で零になる。したがってχ\chiはB/ker⁡g≅im⁡gB/\ker g\cong\im g上の指標を誘導する。この指標をCCへ延長したものをψ\psiとすれば、χ=ψ∘g=g+(ψ)\chi=\psi\circ g=g^+(\psi)である。

逆に指標の列が完全であると仮定する。f+∘g+=0f^+\circ g^+=0なので、任意のa∈Aa\in Aとψ∈C+\psi\in C^+についてψ(g(f(a)))=0\psi(g(f(a)))=0となる。(1)によってg(f(a))=0g(f(a))=0であり、im⁡f⊆ker⁡g\im f\subseteq\ker gを得る。もしb∈ker⁡g∖im⁡fb\in\ker g\setminus\im fが存在すれば、商アーベル群B/im⁡fB/\im fの非零元b+im⁡fb+\im fを零にしない指標が存在する。この指標と商写像との合成をχ∈B+\chi\in B^+とすると、f+(χ)=0f^+(\chi)=0かつχ(b)≠0\chi(b)\ne0である。一方、指標の列の完全性によりχ=ψ∘g\chi=\psi\circ gとなるψ∈C+\psi\in C^+が存在し、g(b)=0g(b)=0からχ(b)=0\chi(b)=0となる。よってそのようなbbは存在せず、ker⁡g=im⁡f\ker g=\im fである。右加群に対しても、同じ加法群の議論を適用する。▨

5 十分な入射加群の存在

命題 5.1.RRを単位元をもつ結合環、AAを右RR-加群、DDをアーベル群とする。H=Hom⁡Z(A,D)H=\Hom_\Z(A,D)に左作用(rh)(a)=h(ar)(rh)(a)=h(ar)を入れる。任意の左RR-加群FFに対して、アーベル群の同型

ΦF ⁣:Hom⁡Z(A⊗RF,D)→ ≅ Hom⁡R(F,H),ΦF(λ)(x)(a)=λ(a⊗x)\Phi_F\colon\Hom_\Z(A\otimes_R F,D) \xrightarrow{\ \cong\ }\Hom_R(F,H), \qquad \Phi_F(\lambda)(x)(a)=\lambda(a\otimes x)

が成り立つ。この同型はFFについて自然である。すなわちRR-線形写像u ⁣:F→F′u\colon F\to F'とλ ⁣:A⊗RF′→D\lambda\colon A\otimes_R F'\to Dに対して、

ΦF(λ∘(1A⊗u))=ΦF′(λ)∘u\Phi_F\bigl(\lambda\circ(1_A\otimes u)\bigr) =\Phi_{F'}(\lambda)\circ u

が成り立つ。

証明.r,s∈Rr,s\in Rとh∈Hh\in Hに対して(r(sh))(a)=h((ar)s)=((rs)h)(a)(r(sh))(a)=h((ar)s)=((rs)h)(a)である。加法と単位元についても作用の公理を満たすので、HHは左RR-加群である。

加法群準同型λ ⁣:A⊗RF→D\lambda\colon A\otimes_R F\to Dを取る。a↦λ(a⊗x)a\mapsto\lambda(a\otimes x)は加法的であり、

ΦF(λ)(rx)(a)=λ(a⊗rx)=λ(ar⊗x)=(rΦF(λ)(x))(a)\Phi_F(\lambda)(rx)(a) =\lambda(a\otimes rx)=\lambda(ar\otimes x) =(r\Phi_F(\lambda)(x))(a)

なので、ΦF(λ)\Phi_F(\lambda)はRR-線形である。逆にv ⁣:F→Hv\colon F\to HがRR-線形ならば、b(a,x)=v(x)(a)b(a,x)=v(x)(a)は二変数で加法的であり、

b(ar,x)=v(x)(ar)=(rv(x))(a)=v(rx)(a)=b(a,rx)b(ar,x)=v(x)(ar)=(rv(x))(a)=v(rx)(a)=b(a,rx)

を満たす。普遍性§E6.14 命題 5.4により、λ(a⊗x)=v(x)(a)\lambda(a\otimes x)=v(x)(a)を満たす加法群準同型λ\lambdaが一意に存在する。両構成はこの等式と普遍性の一意性によって互いに逆であり、加法を保つ。

自然性の等式の両辺をx∈Fx\in Fとa∈Aa\in Aで評価すると、いずれもλ(a⊗u(x))\lambda(a\otimes u(x))となる。したがって等式が成り立つ。▨

命題 5.2.RRを単位元をもつ結合環、DDを可除アーベル群とする。左作用

(r⋅h)(s)=h(sr)(r\cdot h)(s)=h(sr)

を入れたHom⁡Z(R,D)\Hom_\Z(R,D)は入射左RR-加群である。

証明.命題 5.1を右正則加群A=RA=Rに適用し、単位同型§E6.14 命題 7.1 (2)と合成すると、左RR-加群FFについて自然な同型

Hom⁡R(F,Hom⁡Z(R,D))≅Hom⁡Z(F,D)\Hom_R(F,\Hom_\Z(R,D))\cong\Hom_\Z(F,D)

を得る。この対応はv↦(x↦v(x)(1))v\mapsto(x\mapsto v(x)(1))であり、その逆はλ↦(x↦(s↦λ(sx)))\lambda\mapsto(x\mapsto(s\mapsto\lambda(sx)))である。可除性と命題 3.3によりDDは入射アーベル群なので、単射i ⁣:A→Bi\colon A\to Bに沿う右辺の制限写像は全射である。自然性によって左辺の制限写像も全射になる。よってHom⁡Z(R,D)\Hom_\Z(R,D)は入射左RR-加群である。▨

補題 5.3. 任意のアーベル群は可除アーベル群へ単射する。

証明. アーベル群MMの指標の集合J=Hom⁡Z(M,Q/Z)J=\Hom_\Z(M,\Q/\Z)を取り、

j ⁣:M⟶D=(Q/Z)J,j(m)=(χ(m))χ∈Jj\colon M\longrightarrow D=(\Q/\Z)^J, \qquad j(m)=(\chi(m))_{\chi\in J}

と定める。jjは加法群準同型であり、命題 4.3 (1)によって単射である。Q/Z\Q/\Zの入射性と命題 1.3 (1)によりDDは入射アーベル群であり、命題 3.2によって可除である。▨

定理 5.4.RRを単位元をもつ結合環とする。任意の左RR-加群MMに対して、入射左RR-加群EEと単射ι ⁣:M→E\iota\colon M\to Eが存在する。

証明.補題 5.3によって、MMの加法群から可除アーベル群への単射j ⁣:M→Dj\colon M\to Dを取る。E=Hom⁡Z(R,D)E=\Hom_\Z(R,D)と置く。命題 5.1を右正則加群A=RA=Rと左RR-加群F=MF=Mに適用し、§E6.14 命題 7.1 (2)と合成して得られる同型のもとで、jjに対応する線形写像をι ⁣:M→E\iota\colon M\to Eとする。具体的には

ι(m)(r)=j(rm)\iota(m)(r)=j(rm)

である。ι(m)=0\iota(m)=0ならばj(m)=ι(m)(1)=0j(m)=\iota(m)(1)=0となり、jjの単射性からm=0m=0を得る。EEは命題 5.2により入射的である。▨

6 演習

問題 6.1.n≥2n\ge2を整数とする。(Z/nZ)+(\Z/n\Z)^+を具体的に求め、評価写像

ev⁡ ⁣:Z/nZ⟶((Z/nZ)+)+,ev⁡(x)(χ)=χ(x)\ev\colon\Z/n\Z\longrightarrow((\Z/n\Z)^+)^+, \qquad\ev(x)(\chi)=\chi(x)

が同型であることを示せ。

解答.

指標χ ⁣:Z/nZ→Q/Z\chi\colon\Z/n\Z\to\Q/\Zはχ(1+nZ)\chi(1+n\Z)によって一意に決まり、その値はnn倍で零になる。q+Zq+\Zのnn倍が零であることはnq∈Znq\in\Zと同値なので、そのような値の全体は(1nZ)/Z(\frac1n\Z)/\Zである。したがって

Z/nZ⟶(Z/nZ)+,a+nZ⟼χa,χa(b+nZ)=ab/n+Z\Z/n\Z\longrightarrow(\Z/n\Z)^+, \qquad a+n\Z\longmapsto\chi_a,\quad \chi_a(b+n\Z)=ab/n+\Z

は同型である。評価写像は加法的であり、命題 4.3 (1)により単射である。計算した同型を二回適用すると始域と終域はともにnn個の元をもつため、評価写像は全射でもある。▨

問題 6.2.n≥2n\ge2とする。Q/Z\Q/\Zは入射的であるが、その部分群(1nZ)/Z(\frac1n\Z)/\Zは入射的でないことを示せ。

解答.

Q/Z\Q/\Zの入射性は例 3.7による。部分群D=(1nZ)/ZD=(\frac1n\Z)/\Zでは任意のd∈Dd\in Dについてnd=0nd=0である。一方、1/n+Z1/n+\Zは非零なので、方程式nd=1/n+Znd=1/n+\ZはDDの中に解をもたない。したがってDDは可除でなく、命題 3.3により入射的でない。▨

参考文献

  1. The Stacks Project Authors, The Stacks Project.可除アーベル群と入射アーベル群の一致(Tag 01D6)、Baer の判定法の極大延長による証明(Tag 0AVF)、および指標による非零元の分離と入射加群への単射の構成(Tag 01D8)を参考にした。

前提記事