§E6.25Artin–Wedderburn の定理

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半単純環の左正則加群は有限個の単純加群へ分解する。Artin–Wedderburn の定理は、この加群分解を環同型へ強め、半単純環を斜体上の全行列環の有限直積として完全に記述する。加群の自己準同型を行列として並べる際には、左正則加群の自己準同型が環の右乗法から生じるため、反対環の向きを追跡する必要がある。

本記事を通じてRRは単位元をもつ結合環とし、零環も許す。特に断らない限り、加群は左RR加群である。単位元と冪等元、反対環には§E6.1 定義 5.1と§E6.1 定義 4.1の規約を用いる。加群準同型と内部直和には§E6.2 定義 4.1と§E6.2 命題 6.6の規約を用いる。単純加群、極小左イデアル、左半単純環および有限長半単純加群の分解型には、それぞれ§E6.20 定義 4.1、§E6.22 定義 1.2、§E6.22 定義 4.1および§E6.22 定理 5.1の規約を用いる。自己準同型環End⁡R(M)\operatorname{End}_R(M)の積は写像の合成

fg:=f∘gfg:=f\circ g

とする。

1 Schur の補題

単純加群の間の準同型は、零写像でなければ同型である。この事実によって、単純加群の自己準同型環は斜体になる。

定理 1.1 (Schur の補題).S,TS,Tを単純左RR加群とし、f ⁣:S→Tf\colon S\to Tを左RR線形写像とする。f≠0f\neq0ならばffは同型である。したがって、次が成り立つ。

  1. S≇TS\not\cong TならばHom⁡R(S,T)=0\operatorname{Hom}_R(S,T)=0である。
  2. End⁡R(S)\operatorname{End}_R(S)は写像の合成について斜体である。

証明.ker⁡f\ker fはSSの部分加群である。SSの単純性によりker⁡f=0\ker f=0またはker⁡f=S\ker f=Sであるが、後者ならばf=0f=0となる。よってker⁡f=0\ker f=0であり、ffは単射である。

im⁡f\operatorname{im}fはTTの部分加群である。f≠0f\neq0であるからim⁡f≠0\operatorname{im}f\neq0であり、TTの単純性によってim⁡f=T\operatorname{im}f=Tとなる。したがってffは全射でもあり、左RR加群の同型である。

(1)を示す。S≇TS\not\cong Tのときに非零準同型が存在すれば、前段落によってS≅TS\cong Tとなるため矛盾する。よって(1)が成り立つ。

(2)を示す。最後に0≠f∈End⁡R(S)0\neq f\in\operatorname{End}_R(S)を取る。前段落によってffは全単射である。逆写像f−1f^{-1}は加法を保つ。また、s∈Ss\in Sとr∈Rr\in Rに対し、s=f(t)s=f(t)となるt∈St\in Sを取ると

f−1(rs)=f−1(rf(t))=f−1(f(rt))=rt=rf−1(s)f^{-1}(rs)=f^{-1}(rf(t)) =f^{-1}(f(rt))=rt=rf^{-1}(s)

であるから、f−1f^{-1}も左RR線形である。したがってffはEnd⁡R(S)\operatorname{End}_R(S)の単元である。零でないすべての元が単元であるため、End⁡R(S)\operatorname{End}_R(S)は斜体である。▨

反対環を取っても斜体であることは変わらない。分類定理では

DS:=End⁡R(S)opD_S:=\operatorname{End}_R(S)^{\mathrm{op}}

を用いる。この反対環は、左正則加群の自己準同型が右乗法で表されることから必然的に現れる。

2 正則加群と有限直和の自己準同型環

左正則加群の自己準同型は、単位元の像によって決まり、環の元による右乗法に一致する。二つの右乗法を合成すると環の積の順序が逆になる。

命題 2.1. 環RRに対して

ρ ⁣:Rop⟶End⁡R(RR),rop⟼ρr,ρr(x):=xr\rho\colon R^{\mathrm{op}} \longrightarrow\operatorname{End}_R({}_RR), \qquad r^{\mathrm{op}}\longmapsto\rho_r, \qquad \rho_r(x):=xr

は環同型である。したがって

R≅End⁡R(RR)opR\cong\operatorname{End}_R({}_RR)^{\mathrm{op}}

である。

証明. 右乗法ρr\rho_rは加法を保ち、a,x∈Ra,x\in Rに対して

ρr(ax)=(ax)r=a(xr)=aρr(x)\rho_r(ax)=(ax)r=a(xr)=a\rho_r(x)

であるから、左RR線形である。r,s∈Rr,s\in Rに対して

(ρrρs)(x)=ρr(ρs(x))=(xs)r=x(sr)=ρsr(x)(\rho_r\rho_s)(x) =\rho_r(\rho_s(x))=(xs)r=x(sr)=\rho_{sr}(x)

となる。RopR^{\mathrm{op}}ではropsop=(sr)opr^{\mathrm{op}}s^{\mathrm{op}}=(sr)^{\mathrm{op}}であるため、ρ\rhoは積を保つ。また

ρr+s(x)=x(r+s)=xr+xs,ρ1R(x)=x\rho_{r+s}(x)=x(r+s)=xr+xs, \qquad \rho_{1_R}(x)=x

であるから、ρ\rhoは加法と単位元も保つ。

ρr=0\rho_r=0ならばr=1Rr=ρr(1R)=0r=1_Rr=\rho_r(1_R)=0であるから、ρ\rhoは単射である。F∈End⁡R(RR)F\in\operatorname{End}_R({}_RR)に対してr:=F(1R)r:=F(1_R)と置くと、任意のx∈Rx\in Rについて

F(x)=F(x1R)=xF(1R)=xr=ρr(x)F(x)=F(x1_R)=xF(1_R)=xr=\rho_r(x)

となる。よってρ\rhoは全射である。第一の同型の反対環を取ると第二の同型を得る。▨

次に、有限個の単純加群からなる直和の自己準同型環を計算する。同型でない単純加群の間の Hom は Schur の補題によって零になるため、自己準同型は同型類ごとのブロックに分かれる。

定理 2.2.S1,…,StS_1,\ldots,S_tを互いに同型でない単純左RR加群とし、n1,…,nt≥1n_1,\ldots,n_t\geq1とする。

M:=⨁i=1tSi⊕ni,Ei:=End⁡R(Si),Di:=EiopM:=\bigoplus_{i=1}^t S_i^{\oplus n_i}, \qquad E_i:=\operatorname{End}_R(S_i), \qquad D_i:=E_i^{\mathrm{op}}

と置く。このとき、環同型

End⁡R(M)≅∏i=1tMni(Ei)\operatorname{End}_R(M) \cong\prod_{i=1}^t M_{n_i}(E_i)

および

End⁡R(M)op≅∏i=1tMni(Di)\operatorname{End}_R(M)^{\mathrm{op}} \cong\prod_{i=1}^t M_{n_i}(D_i)

が存在する。各DiD_iは斜体である。

証明.Mi:=Si⊕niM_i:=S_i^{\oplus n_i}と置く。F∈Hom⁡R(Mj,Mi)F\in\operatorname{Hom}_R(M_j,M_i)に対し、SjS_jの各直和因子からSiS_iの各直和因子への成分はHom⁡R(Sj,Si)\operatorname{Hom}_R(S_j,S_i)に属する。i≠ji\neq jならば、Schur の補題定理 1.1により各成分は零であるから、F=0F=0である。したがってMMの自己準同型は各MiM_iを保ち、制限によって

End⁡R(M)⟶∏i=1tEnd⁡R(Mi)\operatorname{End}_R(M) \longrightarrow\prod_{i=1}^t\operatorname{End}_R(M_i)

という環同型を得る。逆写像は、各MiM_i上の自己準同型を直和して作る。

一つの単純加群SSと正の整数nnを固定し、E:=End⁡R(S)E:=\operatorname{End}_R(S)と置く。S⊕nS^{\oplus n}の第bb成分からの包含をιb\iota_b、第aa成分への射影をpap_aとする。写像

Φ ⁣:End⁡R(S⊕n)⟶Mn(E),F⟼(paFιb)a,b\Phi\colon\operatorname{End}_R(S^{\oplus n}) \longrightarrow M_n(E), \qquad F\longmapsto(p_aF\iota_b)_{a,b}

を考える。F,G∈End⁡R(S⊕n)F,G\in\operatorname{End}_R(S^{\oplus n})に対し、恒等写像を

id⁡S⊕n=∑k=1nιkpk\operatorname{id}_{S^{\oplus n}} =\sum_{k=1}^n\iota_kp_k

と書くと

pa(FG)ιb=∑k=1n(paFιk)(pkGιb)p_a(FG)\iota_b =\sum_{k=1}^n(p_aF\iota_k)(p_kG\iota_b)

となる。右辺はEEの積を写像の合成とした行列積の(a,b)(a,b)成分であるため、Φ(FG)=Φ(F)Φ(G)\Phi(FG)=\Phi(F)\Phi(G)である。

行列(αab)∈Mn(E)(\alpha_{ab})\in M_n(E)に対して

F(x1,…,xn)a:=∑b=1nαab(xb)F(x_1,\ldots,x_n)_a :=\sum_{b=1}^n\alpha_{ab}(x_b)

と定めると、FFは左RR線形であり、Φ(F)=(αab)\Phi(F)=(\alpha_{ab})となる。この構成はΦ\Phiの逆写像である。よって

End⁡R(S⊕n)≅Mn(E)\operatorname{End}_R(S^{\oplus n})\cong M_n(E)

である。各MiM_iへ適用すると第一の同型を得る。

任意の環EEに対して、転置は環同型

T ⁣:Mn(E)op⟶Mn(Eop),(aij)⟼(aji)\mathcal T\colon M_n(E)^{\mathrm{op}} \longrightarrow M_n(E^{\mathrm{op}}), \qquad (a_{ij})\longmapsto(a_{ji})

を与える。実際、左辺の積をA⋆B:=BAA\star B:=BAと書くと、右辺の(i,j)(i,j)成分は

T(A⋆B)ij=(BA)ji=∑kbjkaki\mathcal T(A\star B)_{ij} =(BA)_{ji}=\sum_k b_{jk}a_{ki}

である。一方、EopE^{\mathrm{op}}の積を用いると

(T(A)T(B))ij=∑kaki⋆bjk=∑kbjkaki(\mathcal T(A)\mathcal T(B))_{ij} =\sum_k a_{ki}\mathbin{\star}b_{jk} =\sum_k b_{jk}a_{ki}

である。転置を二度施すと恒等写像になるため、T\mathcal Tは同型である。有限直積と反対環も成分ごとに可換する。第一の同型の反対環を取り、各因子へ転置同型を適用すると第二の同型を得る。最後に、Schur の補題によりEiE_iは斜体であるから、Di=EiopD_i=E_i^{\mathrm{op}}も斜体である。▨

3 行列環の列左イデアル

Artin–Wedderburn の定理の逆向きには、全行列環の左正則加群を列ごとに分解する。

命題 3.1.DDを斜体、n≥1n\geq1とし、A:=Mn(D)A:=M_n(D)と置く。行列単位をEijE_{ij}とし、

Cj:=AEjj(1≤j≤n)C_j:=AE_{jj} \qquad(1\leq j\leq n)

と置く。このとき、各CjC_jは単純左AA加群であり、

AA=C1⊕⋯⊕Cn{}_AA=C_1\oplus\cdots\oplus C_n

である。したがってMn(D)M_n(D)は左半単純環である。

有限個の斜体D1,…,DtD_1,\ldots,D_tと正の整数n1,…,ntn_1,\ldots,n_tに対して、有限直積

∏i=1tMni(Di)\prod_{i=1}^tM_{n_i}(D_i)

も左半単純環である。

証明.CjC_jは第jj列以外が零である行列全体であり、左イデアルである。0≠X=(xab)∈Cj0\neq X=(x_{ab})\in C_jを取ると、あるppに対してxpj≠0x_{pj}\neq0である。任意のY=(yab)∈CjY=(y_{ab})\in C_jに対し、行列B=(bab)∈AB=(b_{ab})\in Aを

bap:=yajxpj−1(1≤a≤n),bak:=0(k≠p)b_{ap}:=y_{aj}x_{pj}^{-1} \quad(1\leq a\leq n), \qquad b_{ak}:=0\quad(k\neq p)

によって定める。XXは第jj列以外が零であるため、成分計算から

BX=YBX=Y

となる。したがって、XXを含むCjC_jの左部分加群はCjC_j全体を含む。よってCjC_jは単純である。

任意の行列は各列だけを残した行列の和として一意に表される。この表示は

A=AE11⊕⋯⊕AEnnA=AE_{11}\oplus\cdots\oplus AE_{nn}

という左加群の内部直和を与える。したがってAAは左半単純環である。

P:=∏i=1tMni(Di)P:=\prod_{i=1}^tM_{n_i}(D_i)とする。第ii座標だけに値をもち、その座標では第jj列以外が零である元全体をCijC_{ij}と書く。各CijC_{ij}は、他の座標が零であるため、左PP加群としても単純である。また

PP=⨁i=1t⨁j=1niCij{}_PP=\bigoplus_{i=1}^t\bigoplus_{j=1}^{n_i}C_{ij}

である。よってPPは左半単純環である。▨

零個の環の直積は、一元集合からなる零環と約束する。この空積の左正則加群は零加群であり、空族の単純直和として半単純である。

4 角環と自己準同型環

定義 4.1.RRを環、e∈Re\in Rを冪等元とする。集合

eRe:={ere∣r∈R}eRe:=\{ere\mid r\in R\}

をeeによる角環 (corner ring) という。

a=erea=ereとb=eseb=eseがeReeReに属するとき、

a−b=e(r−s)e,ab=erese=e(res)ea-b=e(r-s)e, \qquad ab=erese=e(res)e

もeReeReに属する。RRの結合律はeReeReの乗法にも引き継がれ、ea=ae=aea=ae=aであるから、eReeReはeeを単位元とする環である。

角環は、主左イデアルReReの自己準同型環の反対環になる。

命題 4.2.RRを環、e∈Re\in Rを冪等元とする。写像

Θe ⁣:eRe⟶End⁡R(Re)op,a⟼ρa,ρa(x):=xa\Theta_e\colon eRe\longrightarrow \operatorname{End}_R(Re)^{\mathrm{op}}, \qquad a\longmapsto\rho_a, \qquad \rho_a(x):=xa

は環同型である。

証明.a∈eRea\in eReならばea=ae=aea=ae=aである。x=re∈Rex=re\in Reに対して

xa=rea=ra=(ra)e∈Rexa=rea=ra=(ra)e\in Re

であり、右乗法ρa\rho_aは左RR線形である。a,b∈eRea,b\in eReに対して

(ρb∘ρa)(x)=(xa)b=x(ab)=ρab(x)(\rho_b\circ\rho_a)(x)=(xa)b=x(ab)=\rho_{ab}(x)

である。反対環End⁡R(Re)op\operatorname{End}_R(Re)^{\mathrm{op}}の積は合成の順序を逆にするため、

Θe(ab)=Θe(a)Θe(b)\Theta_e(ab)=\Theta_e(a)\Theta_e(b)

となる。加法と単位元eeを保つことも右乗法の式から従う。

ρa=0\rho_a=0ならばa=ea=ρa(e)=0a=ea=\rho_a(e)=0であるから、Θe\Theta_eは単射である。F∈End⁡R(Re)F\in\operatorname{End}_R(Re)を取ってa:=F(e)a:=F(e)と置く。a∈Rea\in Reであるからae=aae=aであり、左線形性から

ea=F(e2)=F(e)=aea=F(e^2)=F(e)=a

でもある。よってa∈eRea\in eReである。任意のre∈Rere\in Reに対して

F(re)=rF(e)=ra=(re)a=ρa(re)F(re)=rF(e)=ra=(re)a=\rho_a(re)

であるからF=ρaF=\rho_aとなり、Θe\Theta_eは全射である。▨

5 Artin–Wedderburn の定理

半単純環の分類因子は、左正則加群に現れる単純加群の同型類と、その自己準同型斜体から定まる。

定理 5.1 (Artin–Wedderburn の定理). 単位元をもつ結合環RRに対して、次の二条件は同値である。

  1. RRは左半単純環である。
  2. ある非負整数tt、斜体D1,…,DtD_1,\ldots,D_tおよび正の整数n1,…,ntn_1,\ldots,n_tが存在して R≅∏i=1tMni(Di)R\cong\prod_{i=1}^tM_{n_i}(D_i) となる。

t=0t=0の場合、右辺は空積である零環を表す。R≠0R\neq0ならばt≥1t\geq1である。

さらに、因子の個数、各行列次数および各斜体は、因子の順序を除いて一意である。すなわち

∏i=1tMni(Di)≅∏j=1uMmj(Ej)\prod_{i=1}^tM_{n_i}(D_i) \cong \prod_{j=1}^uM_{m_j}(E_j)

ならばt=ut=uであり、ある置換σ\sigmaが存在して

ni=mσ(i),Di≅Eσ(i)n_i=m_{\sigma(i)}, \qquad D_i\cong E_{\sigma(i)}

となる。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。RRを左半単純環とする。§E6.22 系 4.3により、左正則加群RR{}_RRは有限長である。有限長半単純加群の分解型の一意性§E6.22 定理 5.1により、互いに同型でない単純左RR加群S1,…,StS_1,\ldots,S_tと正の整数n1,…,ntn_1,\ldots,n_tを用いて

RR≅⨁i=1tSi⊕ni{}_RR\cong\bigoplus_{i=1}^tS_i^{\oplus n_i}

と書くことができる。R=0R=0の場合にはt=0t=0とし、右辺を空直和とする。

R≠0R\neq0とする。各SiS_iに対して

Di:=End⁡R(Si)opD_i:=\operatorname{End}_R(S_i)^{\mathrm{op}}

と置くと、Schur の補題定理 1.1によりDiD_iは斜体である。命題命題 2.1と定理定理 2.2を順に用いると

R≅End⁡R(RR)op≅∏i=1tMni(End⁡R(Si)op)=∏i=1tMni(Di)\begin{aligned} R &\cong\operatorname{End}_R({}_RR)^{\mathrm{op}}\\ &\cong \prod_{i=1}^tM_{n_i} \bigl(\operatorname{End}_R(S_i)^{\mathrm{op}}\bigr)\\ &=\prod_{i=1}^tM_{n_i}(D_i) \end{aligned}

を得る。R=0R=0の場合にも、零環と空積の同型が所要の表示を与える。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。t≥1t\geq1ならば、命題命題 3.1により各行列環の有限直積は左半単純である。t=0t=0ならばRRは零環であり、左正則加群が零加群であるため左半単純である。よって二条件は同値である。

一意性を証明する。R=0R=0の場合、斜体上の全行列環は非零であるため、零環を表す有限直積は空積に限られる。したがって一意性は成り立つ。以下ではR≠0R\neq0とする。

分類データを左正則加群から復元する。 上で選んだS1,…,StS_1,\ldots,S_tは、単なる直和因子の一部ではなく、単純左RR加群のすべての同型類を代表する。実際、単純左RR加群SSと0≠s∈S0\neq s\in Sに対して、写像R→SR\to S、r↦rsr\mapsto rsは全射である。RRは半単純であるから、その核KKには補左イデアルTTが存在してR=K⊕TR=K\oplus Tとなる。商写像のTTへの制限はT≅R/K≅ST\cong R/K\cong Sを与えるため、SSはRR{}_RRの単純直和因子と同型である。TTから各SiS_iへの成分射影の少なくとも一つは非零であり、Schur の補題によってS≅T≅SiS\cong T\cong S_iとなる。

各同型類[Si][S_i]の重複度nin_iは§E6.22 定理 5.1によりRR{}_RRだけから定まる。また

Di=End⁡R(Si)opD_i=\operatorname{End}_R(S_i)^{\mathrm{op}}

もSiS_iの同型類だけから同型を除いて定まる。したがって、組

([Si],ni,Di)1≤i≤t([S_i],n_i,D_i)_{1\leq i\leq t}

は環RRの左正則加群から復元される不変量である。

任意の直積表示から同じデータを得る。

P:=∏j=1uMmj(Ej)P:=\prod_{j=1}^uM_{m_j}(E_j)

とし、第jj因子の第kk対角成分に1Ej1_{E_j}をもち、他の成分と他の因子が零である冪等元をejke_{jk}とする。命題命題 3.1の分解は

PP=⨁j=1u⨁k=1mjPejk{}_PP=\bigoplus_{j=1}^u\bigoplus_{k=1}^{m_j}Pe_{jk}

であり、各PejkPe_{jk}は単純である。

固定したjjに対して、右乗法

Pejk⟶Pejℓ,x⟼xEkℓPe_{jk}\longrightarrow Pe_{j\ell}, \qquad x\longmapsto xE_{k\ell}

は左PP線形同型であり、逆写像はx↦xEℓkx\mapsto xE_{\ell k}である。ここで行列単位は第jj因子に置く。一方、j≠hj\neq hのとき、PejkPe_{jk}とPehℓPe_{h\ell}は同型でない。実際、第jj因子の単位元だけをもつ中心冪等元cjc_jはPejkPe_{jk}上で恒等的に作用し、PehℓPe_{h\ell}上で零として作用するため、両者の間に同型は存在しない。

したがって、左正則加群に現れる単純加群の同型類は因子ごとに一つであり、第jjの同型類の重複度はmjm_jである。さらに、命題命題 4.2によって

End⁡P(Pej1)op≅ej1Pej1≅Ej\operatorname{End}_P(Pe_{j1})^{\mathrm{op}} \cong e_{j1}Pe_{j1}\cong E_j

である。よって直積表示の組(mj,Ej)(m_j,E_j)は、左正則加群から復元した組(ni,Di)(n_i,D_i)と順序を除いて一致する。二つの直積表示へ同じ議論を適用すると、因子数、行列次数および斜体の一意性が従う。▨

6 原始冪等元と極小左イデアル

冪等元が直交する二つの部分へ分解すると、対応する主左イデアルも直和へ分解する。非零な直交冪等元の和へ分解することができない冪等元が原始冪等元である。

定義 6.1. 環RRの冪等元eeが原始冪等元 (primitive idempotent) であるとは、e≠0e\neq0であり、

e=f+g,f2=f,g2=g,fg=gf=0e=f+g, \qquad f^2=f, \qquad g^2=g, \qquad fg=gf=0

を満たす冪等元f,g∈Rf,g\in Rの少なくとも一方が零であることをいう。

半単純環では、すべての左イデアルが左正則加群の直和因子である。この直和射影を単位元へ適用すると、左イデアルを生成する冪等元を得る。

命題 6.2.RRを左半単純環とし、IIをRRの左イデアルとする。このとき、ある冪等元e∈Re\in Rが存在して

I=ReI=Re

となる。

証明.§E6.22 定理 4.2により、IIは左正則加群RR{}_RRの直和因子である。したがって、ある左イデアルJJが存在して

R=I⊕JR=I\oplus J

となる。IIへの左RR線形射影をp ⁣:R→Ip\colon R\to Iとし、

e:=p(1R)e:=p(1_R)

と置く。任意のr∈Rr\in Rに対して、左線形性から

p(r)=p(r1R)=rp(1R)=rep(r)=p(r1_R)=rp(1_R)=re

である。よってim⁡p=Re\operatorname{im}p=Reであり、I=ReI=Reとなる。さらにp2=pp^2=pであるから

e=p(1R)=p2(1R)=p(e)=e2e=p(1_R)=p^2(1_R)=p(e)=e^2

となり、eeは冪等元である。▨

定理 6.3.RRを左半単純環とし、e∈Re\in Rを冪等元とする。このとき、次の二条件は同値である。

  1. eeは原始冪等元である。
  2. ReReは極小左イデアルである。

さらに、RRの任意の極小左イデアルは、ある原始冪等元eeに対するReReの形である。

証明.(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。ReReが極小左イデアルであるとする。特にRe≠0Re\neq0であるからe≠0e\neq0である。e=f+ge=f+gが定義定義 6.1の直交分解であるとする。fe=ffe=fとge=gge=gであるため、Rf,Rg⊆ReRf,Rg\subseteq Reとなる。また、任意のr∈Rr\in Rに対して

re=rf+rgre=rf+rg

であるからRe=Rf+RgRe=Rf+Rgである。x∈Rf∩Rgx\in Rf\cap Rgならば、あるa,b∈Ra,b\in Rによってx=af=bgx=af=bgと書くことができ、

x=xf=bgf=0x=xf=bgf=0

となる。したがって

Re=Rf⊕RgRe=Rf\oplus Rg

である。ReReの単純性によりRfRfまたはRgRgは零であり、それぞれf=0f=0またはg=0g=0を意味する。よってeeは原始冪等元である。

(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。逆にeeを原始冪等元とする。ReReは半単純加群の部分加群であるため、§E6.22 命題 3.1により半単純である。ReReが単純でないと仮定すると、非零真部分加群I⊊ReI\subsetneq Reが存在する。半単純加群の同値条件§E6.22 定理 2.3により、ある非零部分加群JJが存在して

Re=I⊕JRe=I\oplus J

となる。I,JI,Jへの射影をそれぞれp,qp,qとし、

f:=p(e),g:=q(e)f:=p(e), \qquad g:=q(e)

と置く。x=re∈Rex=re\in Reに対して左線形性から

p(x)=rf,q(x)=rgp(x)=rf, \qquad q(x)=rg

である。ppはII上で恒等写像、JJ上で零写像であるから

f2=p(f)=f,g2=q(g)=g,gf=p(g)=0,fg=q(f)=0f^2=p(f)=f, \qquad g^2=q(g)=g, \qquad gf=p(g)=0, \qquad fg=q(f)=0

となる。またe=f+ge=f+gである。I,JI,Jが非零であるため、射影p,qp,qも非零であり、表示式p(re)=rfp(re)=rfとq(re)=rgq(re)=rgからf,gf,gはともに非零である。非零冪等元による分解e=f+ge=f+gはeeの原始性に反する。したがってReReは単純であり、§E6.22 命題 1.3によって極小左イデアルである。

最後にLLを極小左イデアルとする。命題命題 6.2によりL=ReL=Reとなる冪等元eeが存在する。既に証明した同値からeeは原始冪等元である。▨

系 6.4.RRを左半単純環、e∈Re\in Rを原始冪等元とする。このとき、角環eReeReは斜体である。

証明. 定理定理 6.3によりReReは単純である。Schur の補題定理 1.1によりEnd⁡R(Re)\operatorname{End}_R(Re)は斜体であり、命題命題 4.2によってその反対環と同型なeReeReも斜体である。▨

7 左半単純性と右半単純性

定義 7.1. 右正則加群RRR_Rが半単純右RR加群であるとき、RRを右半単純環 (right semisimple ring) という。RRが左半単純環かつ右半単純環であるとき、RRを半単純環 (semisimple ring) という。

右RR加群を左RopR^{\mathrm{op}}加群として読み替えると、RRが右半単純であることはRopR^{\mathrm{op}}が左半単純であることと同値である。

系 7.2. 環RRに対して、次の四条件は同値である。

  1. RRは左半単純環である。
  2. RRは右半単純環である。
  3. RRは半単純環である。
  4. RRは斜体上の全行列環の有限直積に同型である。零環では空積を許す。

特に、左半単純性または右半単純性の一方を証明すれば、RRは半単純環である。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。RRが左半単純であるとする。Artin–Wedderburn の定理定理 5.1により

R≅∏i=1tMni(Di)R\cong\prod_{i=1}^tM_{n_i}(D_i)

と書くことができる。定理定理 2.2の証明で確認した転置同型を用いると

Rop≅∏i=1tMni(Di)op≅∏i=1tMni(Diop)R^{\mathrm{op}} \cong\prod_{i=1}^tM_{n_i}(D_i)^{\mathrm{op}} \cong\prod_{i=1}^tM_{n_i}(D_i^{\mathrm{op}})

となる。各DiopD_i^{\mathrm{op}}は斜体であるため、Artin–Wedderburn の定理の逆向きによりRopR^{\mathrm{op}}は左半単純である。よってRRは右半単純である。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。RRが右半単純ならばRopR^{\mathrm{op}}は左半単純である。既に証明した向きをRopR^{\mathrm{op}}へ適用すると、RopR^{\mathrm{op}}は右半単純になる。右RopR^{\mathrm{op}}加群は左RR加群であり、(Rop)op=R(R^{\mathrm{op}})^{\mathrm{op}}=Rであるから、RRは左半単純である。したがって両条件は同値である。

(1)⇔\Leftrightarrow(3)を示す。定義定義 7.1により、両条件は同値である。

(1)⇔\Leftrightarrow(4)を示す。この同値は Artin–Wedderburn の定理そのものである。▨

8 単純 Artin 環

単純 Artin 環を分類するため、加群に含まれる単純部分加群を一つに集める。

加群の socle には§E6.23 定義 1.2の定義を用いる。

左 Artin 環が非零ならば、左正則加群は極小左イデアルを含む。さらに、左正則加群の socle は右乗法でも閉じる。

補題 8.1.RRを非零の左 Artin 環とする。このとき

soc⁡R(RR)\operatorname{soc}_R({}_RR)

はRRの非零両側イデアルである。

RRが単純環でもあるならば

soc⁡R(RR)=R\operatorname{soc}_R({}_RR)=R

であり、RRは左半単純環である。

証明.RRの非零左イデアル全体は空でない。RR{}_RRは Artin 加群であるため、Artin 性の極小元による特徴づけ§E6.20 命題 2.2により、この族は極小元LLをもつ。LLは非零であり、その中の非零左イデアルはLL自身に限られるため、LLは極小左イデアルである。命題§E6.22 命題 1.3によりLLは単純左RR加群である。したがって

0≠L⊆soc⁡R(RR)0\neq L\subseteq\operatorname{soc}_R({}_RR)

であり、socle は非零である。

S⊆RS\subseteq Rを単純左イデアル、r∈Rr\in Rとする。右乗法

ρr∣S ⁣:S⟶R,x⟼xr\rho_r|_S\colon S\longrightarrow R, \qquad x\longmapsto xr

は左RR線形である。その像SrSrは零であるか、単純加群SSの非零な準同型像である。後者の場合、核が零であり、Sr≅SSr\cong SはRRの単純左イデアルになる。いずれの場合にも

Sr⊆soc⁡R(RR)Sr\subseteq\operatorname{soc}_R({}_RR)

である。socle の各元は有限個の単純左イデアルに属する元の和であるため、socle は任意の右乗法で閉じる。定義から左イデアルでもあるから、socle は両側イデアルである。

RRが単純ならば、非零両側イデアルである socle はRRに等しい。したがってRR{}_RRは単純部分加群全体の和である。半単純加群の同値条件§E6.22 定理 2.3によりRR{}_RRは半単純であり、RRは左半単純環である。▨

定理 8.2. 環RRに対して、次の三条件は同値である。

  1. RRは単純左 Artin 環である。
  2. RRは単純右 Artin 環である。
  3. ある斜体DDと正の整数nnが存在して R≅Mn(D)R\cong M_n(D) となる。

この表示のnnとDDは同型を除いて一意である。

証明.(1)⇒\Rightarrow(3)を示す。(1)を仮定する。補題補題 8.1によりRRは左半単純環である。Artin–Wedderburn の定理によって

R≅∏i=1tMni(Di)R\cong\prod_{i=1}^tM_{n_i}(D_i)

と書くことができる。RRは単純環であるから非零であり、t≥1t\geq1である。t≥2t\geq2ならば、一つの座標だけに値をもつ元全体が非零真の両側イデアルになるため、単純性に反する。よってt=1t=1であり、(3)が成り立つ。

(3)⇒\Rightarrow(1)を示す。(3)を仮定する。§E6.4 定理 5.2によりMn(D)M_n(D)は単純環である。また命題命題 3.1により左半単純環である。§E6.22 系 4.3により左正則加群は有限長であり、特に Artin 加群である。したがってRRは単純左 Artin 環であり、(1)が成り立つ。

(3)⇒\Rightarrow(2)を示す。同じ行列環は系系 7.2により右半単純でもある。RopR^{\mathrm{op}}は左半単純であるから、その左正則加群は有限長であり、左 Artin 加群である。右加群と反対環の対応§E6.20 命題 7.1によりRRは右 Artin 環である。単純性は既に得られているため、(2)も成り立つ。

(2)⇒\Rightarrow(3)を示す。(2)を仮定する。RopR^{\mathrm{op}}の両側イデアルはRRの両側イデアルと同じ部分集合であるから、RopR^{\mathrm{op}}は単純環である。また§E6.20 命題 7.1によりRopR^{\mathrm{op}}は左 Artin 環である。既に証明した(1)⇒\Rightarrow(3)をRopR^{\mathrm{op}}へ適用すると、ある斜体EEとn≥1n\geq1によって

Rop≅Mn(E)R^{\mathrm{op}}\cong M_n(E)

となる。反対環と転置同型を用いると

R≅Mn(E)op≅Mn(Eop)R\cong M_n(E)^{\mathrm{op}} \cong M_n(E^{\mathrm{op}})

であり、EopE^{\mathrm{op}}は斜体である。よって(3)が成り立つ。

最後に、行列表示におけるnnとDDの一意性は Artin–Wedderburn の定理の一意性を一因子の場合へ適用すると得られる。▨

単純 Artin 環では、行列環の列加群がすべて同型であるため、単純左加群の同型類は一つに限られる。この事実と半単純性によって、有限長左加群も一つの非負整数で分類される。

系 8.3.RRを単純左 Artin 環とする。このとき、単純左RR加群の同型類はただ一つである。その同型類の代表をSSとすると、任意の有限長左RR加群MMに対して、一意な非負整数qqが存在して

M≅S⊕qM\cong S^{\oplus q}

となる。ここでS⊕0:=0S^{\oplus0}:=0とする。このqqはMMの組成長に等しく、q=ℓR(M)q=\ell_R(M)である。

証明. 定理定理 8.2により、ある斜体DD、正の整数nnおよび環同型φ\varphiが存在して

φ ⁣:R→∼A:=Mn(D)\varphi\colon R\xrightarrow{\sim}A:=M_n(D)

となる。r∈Rr\in Rとa∈Aa\in Aに対してr⋅a:=φ(r)ar\cdot a:=\varphi(r)aと定めてAAを左RR加群とみなす。このとき、φ\varphiは左正則加群RR{}_RRからAAへの同型である。命題命題 3.1の列左イデアルを

Cj:=AEjj(1≤j≤n)C_j:=AE_{jj} \qquad(1\leq j\leq n)

と置くと、各CjC_jは単純左RR加群であり、

RR≅C1⊕⋯⊕Cn{}_RR\cong C_1\oplus\cdots\oplus C_n

となる。固定したjjに対する右乗法

C1⟶Cj,x⟼xE1jC_1\longrightarrow C_j, \qquad x\longmapsto xE_{1j}

は左RR線形同型であり、逆写像はy↦yEj1y\mapsto yE_{j1}である。したがって、S:=C1S:=C_1と置けば

RR≅S⊕n{}_RR\cong S^{\oplus n}

となる。

TTを任意の単純左RR加群とする。0≠t∈T0\neq t\in Tを取り、

π ⁣:R⟶T,r⟼rt\pi\colon R\longrightarrow T, \qquad r\longmapsto rt

と定める。写像π\piは左RR線形であり、その像はttを含むTTの非零部分加群であるため、π\piは全射である。合成π∘φ−1 ⁣:A→T\pi\circ\varphi^{-1}\colon A\to Tは非零であるから、各CjC_jへの制限がすべて零になることはない。したがって、あるjjが存在して、(π∘φ−1)∣Cj ⁣:Cj→T(\pi\circ\varphi^{-1})|_{C_j}\colon C_j\to Tは非零である。この制限は単純左RR加群の間の非零準同型であるから、Schur の補題定理 1.1により同型である。Cj≅SC_j\cong SであるためT≅ST\cong Sであり、単純左RR加群の同型類はただ一つである。

定理定理 8.2によってRRは左半単純環でもある。左半単純環の同値条件§E6.22 定理 4.2により、すべての左RR加群は半単純である。したがって、有限長左RR加群MMは半単純であり、有限長半単純加群の分解型の定理§E6.22 定理 5.1によって、有限個の単純左RR加群の直和に同型である。すべての単純直和因子はSSと同型であるから、ある非負整数qqが存在して

M≅S⊕qM\cong S^{\oplus q}

となる。

q=0q=0ならばM=0M=0であり、ℓR(M)=0\ell_R(M)=0である。以下ではq≥1q\geq1とする。S⊕qS^{\oplus q}の先頭からkk個の直和因子を取った部分加群をMkM_kと書くと、

0=M0⊊M1⊊⋯⊊Mq=S⊕q0=M_0\subsetneq M_1\subsetneq\cdots\subsetneq M_q=S^{\oplus q}

の各商Mk/Mk−1M_k/M_{k-1}はSSと同型である。この列は組成列であるから、有限長の特徴づけ§E6.20 定理 4.3によりℓR(M)=q\ell_R(M)=qである。また、有限長半単純加群の分解型の一意性§E6.22 定理 5.1により、M≅S⊕q′M\cong S^{\oplus q'}となる別の非負整数q′q'が存在すればq=q′q=q'である。したがってqqは一意である。▨

9 演習

問題 9.1. 次の十項目を、本記事の定義と定理から証明する。

  1. 単純左RR加群S,TS,Tの間の非零準同型が同型であることを、核と像から証明せよ。また、End⁡R(S)\operatorname{End}_R(S)の非零元が逆元をもつことを示せ。
  2. 左正則加群の自己準同型FFがF(1R)F(1_R)による右乗法であることを示し、RRではなくRopR^{\mathrm{op}}からEnd⁡R(RR)\operatorname{End}_R({}_RR)への環同型が得られる理由を合成の順序から説明せよ。
  3. E=End⁡R(S)E=\operatorname{End}_R(S)とするとき、End⁡R(S⊕n)≅Mn(E)\operatorname{End}_R(S^{\oplus n})\cong M_n(E)を成分写像から構成せよ。また、Mn(E)op≅Mn(Eop)M_n(E)^{\mathrm{op}}\cong M_n(E^{\mathrm{op}})に転置が必要であることを積の成分で確認せよ。
  4. 左半単純環RRの任意の左イデアルIIに対し、I=ReI=Reを満たす冪等元eeを直和射影から構成せよ。
  5. 左半単純環の冪等元eeについて、eeが原始的であることとReReが極小左イデアルであることの同値を証明せよ。またeRe≅End⁡R(Re)opeRe\cong\operatorname{End}_R(Re)^{\mathrm{op}}を示せ。
  6. 斜体DDに対してMn(D)EjjM_n(D)E_{jj}が単純左Mn(D)M_n(D)加群であることを、非零列ベクトルを任意の列ベクトルへ送る行列から証明せよ。左正則加群の列分解も示せ。
  7. 左半単純環RRの左正則加群を RR≅⨁i=1tSi⊕ni{}_RR\cong\bigoplus_{i=1}^tS_i^{\oplus n_i} と分解し、R≅∏iMni(End⁡R(Si)op)R\cong\prod_iM_{n_i}(\operatorname{End}_R(S_i)^{\mathrm{op}})を導け。零環の場合も説明せよ。
  8. 直積P=∏jMmj(Ej)P=\prod_jM_{m_j}(E_j)の左正則加群から、因子の個数、mjm_jおよびEjE_jを復元し、Artin–Wedderburn 表示の一意性を説明せよ。
  9. 非零左 Artin 環RRについて、soc⁡R(RR)\operatorname{soc}_R({}_RR)が非零両側イデアルであることを証明せよ。RRが単純ならば左半単純になることを導け。
  10. 左半単純性と右半単純性の同値を、行列環の有限直積表示と反対環から証明せよ。また、単純右 Artin 環も斜体上の全行列環になることを導け。
解答 (演習の解答).
  1. 0≠f ⁣:S→T0\neq f\colon S\to Tに対し、ker⁡f\ker fはSSの部分加群である。ker⁡f=S\ker f=Sならばf=0f=0となるため、単純性からker⁡f=0\ker f=0である。像はTTの非零部分加群であるからim⁡f=T\operatorname{im}f=Tとなる。よってffは同型である。特に0≠f∈End⁡R(S)0\neq f\in\operatorname{End}_R(S)は全単射である。s=f(t)s=f(t)と書くと

    f−1(rs)=f−1(rf(t))=f−1(f(rt))=rt=rf−1(s)f^{-1}(rs)=f^{-1}(rf(t))=f^{-1}(f(rt))=rt=rf^{-1}(s)

    であるから、逆写像も左RR線形である。したがってEnd⁡R(S)\operatorname{End}_R(S)は斜体である。

  2. F∈End⁡R(RR)F\in\operatorname{End}_R({}_RR)とr:=F(1R)r:=F(1_R)に対して

    F(x)=F(x1R)=xF(1R)=xrF(x)=F(x1_R)=xF(1_R)=xr

    であるからF=ρrF=\rho_rである。右乗法の合成は

    (ρrρs)(x)=ρr(xs)=(xs)r=x(sr)=ρsr(x)(\rho_r\rho_s)(x)=\rho_r(xs)=(xs)r=x(sr)=\rho_{sr}(x)

    となる。r,sr,sの順序が反転するため、rop↦ρrr^{\mathrm{op}}\mapsto\rho_rが環準同型である。ρr=0\rho_r=0ならばr=ρr(1R)=0r=\rho_r(1_R)=0であり、前半から全射性も得られるので、Rop≅End⁡R(RR)R^{\mathrm{op}}\cong\operatorname{End}_R({}_RR)である。

  3. S⊕nS^{\oplus n}の包含と射影をιb,pa\iota_b,p_aとする。自己準同型FFを

    Φ(F):=(paFιb)a,b\Phi(F):=(p_aF\iota_b)_{a,b}

    へ送る。id⁡=∑kιkpk\operatorname{id}=\sum_k\iota_kp_kから

    pa(FG)ιb=∑k(paFιk)(pkGιb)p_a(FG)\iota_b =\sum_k(p_aF\iota_k)(p_kG\iota_b)

    を得るため、Φ\Phiは積を保つ。逆に(αab)∈Mn(E)(\alpha_{ab})\in M_n(E)から

    F(x1,…,xn)a=∑bαab(xb)F(x_1,\ldots,x_n)_a =\sum_b\alpha_{ab}(x_b)

    と定めるとΦ(F)=(αab)\Phi(F)=(\alpha_{ab})となる。よってΦ\Phiは環同型である。Mn(E)opM_n(E)^{\mathrm{op}}の積をA⋆B=BAA\star B=BAとすると

    T(A⋆B)ij=(BA)ji=∑kbjkaki\mathcal T(A\star B)_{ij} =(BA)_{ji}=\sum_kb_{jk}a_{ki}

    である。EopE^{\mathrm{op}}の積では

    (T(A)T(B))ij=∑kaki⋆bjk=∑kbjkaki(\mathcal T(A)\mathcal T(B))_{ij} =\sum_ka_{ki}\mathbin{\star}b_{jk} =\sum_kb_{jk}a_{ki}

    となる。したがって転置が反対環の積と行列積の両方の順序を整合させる。

  4. 左半単純性によりR=I⊕JR=I\oplus Jとなる左イデアルJJが存在する。IIへの左RR線形射影をppとし、e=p(1R)e=p(1_R)と置く。左線形性からp(r)=rep(r)=reであるため、I=im⁡p=ReI=\operatorname{im}p=Reとなる。またp2=pp^2=pから

    e=p(1R)=p2(1R)=p(e)=e2e=p(1_R)=p^2(1_R)=p(e)=e^2

    であり、eeは冪等元である。

  5. ReReが極小で、e=f+ge=f+gが非零直交冪等元への分解ならば

    Re=Rf⊕RgRe=Rf\oplus Rg

    となる。実際、和の等式はre=rf+rgre=rf+rgから従い、x=af=bgx=af=bgならばx=xf=bgf=0x=xf=bgf=0である。極小性により一方の直和因子が零となるため、f=0f=0またはg=0g=0であり、eeは原始的である。

    逆にeeが原始的であるとする。RRが左半単純環であるため、左正則加群RR{}_RRは半単純である。ReReはRR{}_RRの部分加群であるから、§E6.22 命題 3.1によりReReも半単純である。ReReが単純でないならば、非零真部分加群I⊊ReI\subsetneq Reが存在する。半単純加群の同値条件§E6.22 定理 2.3により、ある部分加群JJが存在して

    Re=I⊕JRe=I\oplus J

    となる。IIが非零真部分加群であるため、JJも非零である。I,JI,Jへの射影をp,qp,qとし、f=p(e)f=p(e)、g=q(e)g=q(e)と置く。p(re)=rfp(re)=rf、q(re)=rgq(re)=rgであるから

    f2=f,g2=g,fg=gf=0,e=f+gf^2=f, \quad g^2=g, \quad fg=gf=0, \quad e=f+g

    となり、I,J≠0I,J\neq0からf,g≠0f,g\neq0である。原始性に反するためReReは単純、すなわち極小左イデアルである。

    a∈eRea\in eReに右乗法ρa(x)=xa\rho_a(x)=xaを対応させる。反対環の積では

    ρa⋆ρb=ρb∘ρa=ρab\rho_a\star\rho_b=\rho_b\circ\rho_a=\rho_{ab}

    である。F∈End⁡R(Re)F\in\operatorname{End}_R(Re)に対してa=F(e)a=F(e)と置くとea=ae=aea=ae=aであり、F(re)=rF(e)=ra=(re)aF(re)=rF(e)=ra=(re)aとなる。したがってa↦ρaa\mapsto\rho_aはeRe≅End⁡R(Re)opeRe\cong\operatorname{End}_R(Re)^{\mathrm{op}}を与える。

  6. A=Mn(D)A=M_n(D)、Cj=AEjjC_j=AE_{jj}とする。0≠X∈Cj0\neq X\in C_jの(p,j)(p,j)成分をxpj≠0x_{pj}\neq0とし、任意のY∈CjY\in C_jに対して、第pp列を

    bap=yajxpj−1b_{ap}=y_{aj}x_{pj}^{-1}

    とし他の列を零とした行列BBを取るとBX=YBX=Yとなる。よってXXを含む部分加群はCjC_j全体であり、CjC_jは単純である。任意の行列は各列を一列ずつ残した行列の一意な和であるため

    AA=AE11⊕⋯⊕AEnn{}_AA=AE_{11}\oplus\cdots\oplus AE_{nn}

    となる。

  7. 左半単純環の左正則加群は有限長であるため、互いに同型でない単純加群SiS_iとni≥1n_i\geq1を用いて

    RR≅⨁iSi⊕ni{}_RR\cong\bigoplus_iS_i^{\oplus n_i}

    と書くことができる。Di=End⁡R(Si)opD_i=\operatorname{End}_R(S_i)^{\mathrm{op}}は Schur の補題によって斜体である。正則加群と有限直和の自己準同型環の計算を合わせると

    R≅End⁡R(RR)op≅∏iMni(End⁡R(Si)op)=∏iMni(Di)\begin{aligned} R &\cong\operatorname{End}_R({}_RR)^{\mathrm{op}}\\ &\cong\prod_iM_{n_i} (\operatorname{End}_R(S_i)^{\mathrm{op}}) =\prod_iM_{n_i}(D_i) \end{aligned}

    となる。R=0R=0では左正則加群の分解は空直和であり、環表示は零個の環の直積、すなわち零環である。

  8. 第jj因子の第kk対角行列単位をejke_{jk}とすると

    PP=⨁j,kPejk{}_PP=\bigoplus_{j,k}Pe_{jk}

    である。固定したjjのPejkPe_{jk}は右から行列単位を掛けることによって互いに同型であり、その重複度はmjm_jである。異なる因子に属する列加群は、因子の中心冪等元が一方で恒等的、他方で零として作用するため同型でない。さらに

    End⁡P(Pej1)op≅ej1Pej1≅Ej\operatorname{End}_P(Pe_{j1})^{\mathrm{op}} \cong e_{j1}Pe_{j1}\cong E_j

    である。したがって、単純加群の同型類の個数が因子数、正則加群での重複度がmjm_j、自己準同型環の反対環がEjE_jを復元する。有限長半単純加群の分解型の一意性により、別の直積表示でも同じデータが順序を除いて現れる。

  9. 非零左イデアル全体へ Artin 性の極小元条件を適用すると、極小左イデアルLLを得る。LLは単純であるから0≠L⊆soc⁡R(RR)0\neq L\subseteq\operatorname{soc}_R({}_RR)である。単純左イデアルSSとr∈Rr\in Rに対し、右乗法S→RS\to Rの像SrSrは零であるか、単純加群の非零準同型像として単純である。よってSrSrは socle に含まれ、socle は右乗法で閉じる。左イデアルであることは定義から従うため、socle は非零両側イデアルである。RRが単純ならば socle はRRに等しく、RR{}_RRは単純部分加群全体の和になる。半単純加群の同値条件によってRRは左半単純である。

  10. RRが左半単純ならば

    R≅∏iMni(Di)R\cong\prod_iM_{n_i}(D_i)

    と書くことができる。反対環を取り、転置同型を用いると

    Rop≅∏iMni(Diop)R^{\mathrm{op}} \cong\prod_iM_{n_i}(D_i^{\mathrm{op}})

    となるため、RopR^{\mathrm{op}}は左半単純であり、RRは右半単純である。逆向きはRopR^{\mathrm{op}}へ同じ議論を適用する。

    RRが単純右 Artin ならばRopR^{\mathrm{op}}は単純左 Artin である。左側の分類からRop≅Mn(E)R^{\mathrm{op}}\cong M_n(E)となる斜体EEが存在する。したがって

    R≅Mn(E)op≅Mn(Eop)R\cong M_n(E)^{\mathrm{op}} \cong M_n(E^{\mathrm{op}})

    であり、RRも斜体上の全行列環である。

▨

10 範囲と後続記事への接続

本記事は、一般の単位的結合環について、左半単純性と右半単純性を斜体上の全行列環の有限直積表示によって特徴づけた。零環は空積として分類に含めた。単純 Artin 環については、正則加群の socle を用いて半単純性を導き、斜体上の一つの全行列環になることを証明した。

さらに、単純 Artin 環上の単純左加群が同型を除いて一つであることを示し、任意の有限長左加群が、その組成長を重複度とする同じ単純加群の有限直和に同型であることを証明した。この分類は基礎体を仮定していない。

原始冪等元と極小左イデアルの対応、および角環

eRe≅End⁡R(Re)opeRe\cong\operatorname{End}_R(Re)^{\mathrm{op}}

は、分類表示の各斜体を加群から復元する局所的な形である。本記事は、原始冪等元を用いた射影加群の Morita 理論、Jacobson 根基をもつ一般の Artin 環、半単純商環および持ち上げ問題を扱わない。

後続記事「Skolem–Noether の定理」は、固定した基礎体上の中心単純代数と代数埋め込みを対象とする。本記事は基礎体、中心性および内部自己同型を導入せず、行列環表示を一般の環と加群の範囲で証明した。後続記事「Brauer 群の定義」は、中心単純代数のテンソル積、反対代数および自己準同型代数を同じ基礎体上で比較する。本記事はテンソル積による閉性、A⊗AopA\otimes A^{\mathrm{op}}と自己準同型代数の同型および Brauer 同値を先取りしない。

参考文献

  1. T. Y. Lam, A First Course in Noncommutative Rings, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2001.原始冪等元、極小左イデアル、単純 Artin 環および Artin–Wedderburn の定理の標準的な定式化を参考にした。
  2. T. Y. Lam, Lectures on Modules and Rings, Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1999.Schur の補題、半単純正則加群の同型成分分解および自己準同型環の計算を参考にした。
  3. Frank W. Anderson and Kent R. Fuller, Rings and Categories of Modules, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, 1992.半単純環の左右対称性、socle および分類因子の一意性を参考にした。

前提記事