§E6.12中山の補題

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中山の補題は、有限生成加群が Jacobson 根基を係数とする元だけで生成されているならば、その加群は零加群であるという結果である。一般の結合環では左加群と右加群を区別する必要があり、係数を掛ける側に応じてIMIMとMIMIを使い分ける。本記事では、非零有限生成加群の極大部分加群による単純商を取り、Jacobson 根基がその商を零化することから左右の主張を証明する。

本記事ではRRを単位元をもつ結合環とし、零環も許す。Jacobson 根基J(R)J(R)には§E6.7 定義 4.1の定義を用いる。§E6.7 系 4.4によりJ(R)J(R)は両側イデアルであり、§E6.7 定理 4.3と§E6.7 定理 5.2によりJ(R)J(R)はすべての単純左加群および単純右加群を零化する。両側イデアルと左右加群の積には§E6.3 命題 7.2の規約を用いる。

1 左右の有限生成性とイデアルの作用

左加群では係数を生成元の左に置き、右加群では係数を生成元の右に置く。

注意 1.1 (有限生成左加群と有限生成右加群). 有限生成左加群は§E6.11 定義 1.1、有限生成右加群は§E6.11 定義 1.3で、有限階数自由加群からの全射を用いて定義した。§E6.11 命題 1.2と§E6.11 命題 1.4により、左右それぞれの有限生成性は、有限族x1,…,xnx_1,\ldots,x_nが存在して

M=Rx1+⋯+Rxn,M=x1R+⋯+xnRM=Rx_1+\cdots+Rx_n, \qquad M=x_1R+\cdots+x_nR

となることと同値である。n=0n=0の場合にはM=0M=0である。

I⊆RI\subseteq Rを両側イデアルとする。左RR加群MMに対して

IM={∑ℓ=1taℓmℓ | t≥0, aℓ∈I, mℓ∈M}IM =\left\{\sum_{\ell=1}^t a_\ell m_\ell \ \middle|\ t\ge0,\ a_\ell\in I,\ m_\ell\in M\right\}

は左部分加群である。右RR加群MMに対して

MI={∑ℓ=1tmℓaℓ | t≥0, aℓ∈I, mℓ∈M}MI =\left\{\sum_{\ell=1}^t m_\ell a_\ell \ \middle|\ t\ge0,\ a_\ell\in I,\ m_\ell\in M\right\}

は右部分加群である。IMIMが左作用で閉じることにはIIが左からの乗法で閉じることを用い、MIMIが右作用で閉じることにはIIが右からの乗法で閉じることを用いる。このため、以下ではIIを両側イデアルと仮定する。

2 中山の補題

非零有限生成加群には§E6.11 命題 1.5により極大部分加群が存在する。その商は単純であり、Jacobson 根基に含まれるイデアルはこの商を零化する。

定理 2.1 (中山の補題).RRを単位元をもつ結合環とし、I⊆J(R)I\subseteq J(R)を両側イデアルとする。

  1. MMが有限生成左RR加群であり、IM=MIM=MならばM=0M=0である。
  2. MMが有限生成右RR加群であり、MI=MMI=MならばM=0M=0である。

特にI=J(R)I=J(R)とすると、J(R)M=MJ(R)M=MまたはMJ(R)=MMJ(R)=Mを仮定する形を得る。

証明.(1)を示す。左加群の場合を証明する。M≠0M\ne0と仮定する。§E6.11 命題 1.5により、MMは極大左部分加群NNをもつ。したがってS:=M/NS:=M/Nは単純左RR加群である。

§E6.7 定理 4.3によりJ(R)S=0J(R)S=0であり、I⊆J(R)I\subseteq J(R)だからIS=0IS=0である。一方、商加群への作用を元で計算すると

I(M/N)=(IM+N)/NI(M/N)=(IM+N)/N

となる。仮定IM=MIM=Mにより

IS=(IM+N)/N=M/N=SIS=(IM+N)/N=M/N=S

である。よってS=0S=0となるが、NNは真の部分加群なのでS≠0S\ne0であり、矛盾する。したがってM=0M=0である。

(2)を示す。右加群の場合にもM≠0M\ne0と仮定すると、§E6.11 命題 1.5により極大右部分加群NNが存在し、S:=M/NS:=M/Nは単純右RR加群である。§E6.7 定理 5.2とI⊆J(R)I\subseteq J(R)からSI=0SI=0である。一方、積の順序を保った元による計算で

(M/N)I=(MI+N)/N(M/N)I=(MI+N)/N

であり、MI=MMI=MからSI=SSI=Sを得る。SI=0SI=0とSI=SSI=Sの両式はS≠0S\ne0に反する。よって右加群でもM=0M=0である。▨

この証明では、有限生成性を極大部分加群の存在に用い、Jacobson 根基の単純左右加群による特徴づけを直接用いた。行列式や最小個数の生成族は用いず、一般の結合環に対して左右の積の順序を保っている。

3 部分加群を含む形

中山の補題を商加群へ適用すると、加群全体が部分加群と Jacobson 根基による積の和である場合に、その部分加群がすでに加群全体であることが分かる。

系 3.1 (中山の補題の部分加群形).RRを単位元をもつ結合環とし、I⊆J(R)I\subseteq J(R)を両側イデアルとする。

  1. MMを有限生成左RR加群、N⊆MN\subseteq Mを左部分加群とする。このとき N+IM=M⟹N=MN+IM=M \quad\Longrightarrow\quad N=M である。
  2. MMを有限生成右RR加群、N⊆MN\subseteq Mを右部分加群とする。このとき N+MI=M⟹N=MN+MI=M \quad\Longrightarrow\quad N=M である。

特にI=J(R)I=J(R)とすると、左加群ではN+J(R)M=MN+J(R)M=M、右加群ではN+MJ(R)=MN+MJ(R)=MからN=MN=Mが従う。

証明.(1)を示す。左加群の場合を証明する。商左加群Q:=M/NQ:=M/Nを考える。MMの有限生成族の像はQQを生成するため、§E6.11 命題 4.1によりQQは有限生成である。

商加群に対するIIの作用を計算する。IQI Qの元は有限和

∑ℓ=1taℓ(mℓ+N)=(∑ℓ=1taℓmℓ)+N\sum_{\ell=1}^t a_\ell(m_\ell+N) =\left(\sum_{\ell=1}^t a_\ell m_\ell\right)+N

の形である。したがって

I(M/N)=(IM+N)/NI(M/N)=(IM+N)/N

となる。仮定N+IM=MN+IM=Mから

IQ=(IM+N)/N=M/N=QIQ=(IM+N)/N=M/N=Q

を得る。定理 2.1 (1)によりQ=0Q=0であるから、M=NM=Nである。

(2)を示す。右加群の場合、MMの有限生成族の像がQ:=M/NQ:=M/Nを右から生成するため、QQは有限生成右加群である。元を用いる同じ計算で

(M/N)I=(MI+N)/N(M/N)I=(MI+N)/N

となる。仮定N+MI=MN+MI=MによりQI=QQI=Qであるから、定理 2.1 (2)を適用してQ=0Q=0を得る。したがってM=NM=Nである。▨

4 生成系の持ち上げ

商加群で生成する有限族の代表元を取ると、その代表元はもとの加群を生成する。

系 4.1.RRを単位元をもつ結合環とし、I⊆J(R)I\subseteq J(R)を両側イデアルとする。

  1. MMを有限生成左RR加群とする。x1,…,xt∈Mx_1,\ldots,x_t\in Mの像 x1+IM,…,xt+IMx_1+IM,\ldots,x_t+IM がM/IMM/IMを左RR加群として生成するならば、x1,…,xtx_1,\ldots,x_tはMMを左から生成する。
  2. MMを有限生成右RR加群とする。x1,…,xt∈Mx_1,\ldots,x_t\in Mの像 x1+MI,…,xt+MIx_1+MI,\ldots,x_t+MI がM/MIM/MIを右RR加群として生成するならば、x1,…,xtx_1,\ldots,x_tはMMを右から生成する。

特にI=J(R)I=J(R)とすれば、Jacobson 根基を法とする生成系を元の加群の生成系へ持ち上げることができる。

証明.(1)を示す。左加群の場合、

N:=Rx1+⋯+RxtN:=Rx_1+\cdots+Rx_t

と置く。像がM/IMM/IMを生成するという仮定により、任意のm∈Mm\in Mに対してr1,…,rt∈Rr_1,\ldots,r_t\in Rが存在し、

m+IM=∑i=1tri(xi+IM)m+IM=\sum_{i=1}^t r_i(x_i+IM)

となる。したがってm−∑irixi∈IMm-\sum_i r_ix_i\in IMであり、m∈N+IMm\in N+IMとなる。よってM=N+IMM=N+IMである。系 3.1 (1)からM=NM=Nを得るため、x1,…,xtx_1,\ldots,x_tはMMを生成する。

(2)を示す。右加群の場合、

N:=x1R+⋯+xtRN:=x_1R+\cdots+x_tR

と置く。像の生成性により、任意のm∈Mm\in Mに対してr1,…,rt∈Rr_1,\ldots,r_t\in Rが存在して

m+MI=∑i=1t(xi+MI)rim+MI=\sum_{i=1}^t(x_i+MI)r_i

となる。したがってm−∑ixiri∈MIm-\sum_i x_ir_i\in MIであり、M=N+MIM=N+MIである。系 3.1 (2)からM=NM=Nを得る。▨

注意 4.2 (空の生成族と零環). 有限生成族の元の個数が零である場合、加群は零加群であり、中山の補題の結論は直ちに成り立つ。零環では1R=01_R=0であり、任意の単位的左加群または右加群MMの元mmは

m=1Rm=0m=0m=1_Rm=0m=0

または

m=m1R=m0=0m=m1_R=m0=0

を満たす。したがって零環上の単位的加群は零加群だけであり、左右の主張、部分加群形および生成系の持ち上げはすべて同じ定式化で成り立つ。

5 演習

問題 5.1 (中山の補題の確認). 次の各問に答えよ。

  1. 有限生成左右加群の定義を有限階数自由加群からの全射として述べ、有限個の一次結合による特徴づけと比較せよ。また、非零有限生成加群が極大部分加群をもつ理由を説明せよ。
  2. I⊆J(R)I\subseteq J(R)ならば、任意の単純左RR加群SSについてIS=0IS=0、任意の単純右RR加群TTについてTI=0TI=0となることを証明せよ。
  3. 極大左部分加群NNによる単純商M/NM/Nを用いて、中山の補題の左版を証明せよ。
  4. 極大右部分加群による単純商を用いて、中山の補題の右版を証明し、積の順序を明示せよ。I=J(R)I=J(R)の場合も述べよ。
  5. 左加群についてI(M/N)=(IM+N)/NI(M/N)=(IM+N)/Nを、右加群について(M/N)I=(MI+N)/N(M/N)I=(MI+N)/Nを元によって証明し、N+IM=MN+IM=MまたはN+MI=MN+MI=MからN=MN=Mを導け。
  6. M/IMM/IMまたはM/MIM/MIの有限生成系の代表元がMMを生成することを証明せよ。特にI=J(R)I=J(R)の場合を述べよ。
  7. 単純商による証明で有限生成性を使う箇所と、Jacobson 根基の単純加群による特徴づけを使う箇所を区別せよ。また、通常の行列式を用いない利点を説明せよ。
  8. 空の生成族と零環の場合に、中山の補題がどのように成り立つかを説明せよ。
解答 (演習の解答).
  1. 左右とも、有限生成であるとは有限階数自由加群からの全射が存在することである。標準基底の像を取ることと、有限生成族の像を指定する自由加群の普遍性により、左ではM=∑iRxiM=\sum_iRx_i、右ではM=∑ixiRM=\sum_i x_iRと同値になる。真の部分加群の鎖の和は、有限生成族をすべて含む鎖の一元が存在してしまうため加群全体にはならない。よって Zorn の補題から極大部分加群を得る。
  2. §E6.7 定理 4.3によりJ(R)J(R)はすべての単純左加群を零化し、§E6.7 定理 5.2によりすべての単純右加群を零化する。I⊆J(R)I\subseteq J(R)だから、左ではIS⊆J(R)S=0IS\subseteq J(R)S=0、右ではTI⊆TJ(R)=0TI\subseteq TJ(R)=0である。
  3. M≠0M\ne0と仮定し、極大左部分加群NNを取る。S=M/NS=M/Nは単純であり、(2)からIS=0IS=0である。一方、I(M/N)=(IM+N)/NI(M/N)=(IM+N)/NとIM=MIM=MからIS=SIS=Sを得る。よってS=0S=0となり、NNが真であることに反する。したがってM=0M=0である。
  4. M≠0M\ne0と仮定し、極大右部分加群NNと単純右商S=M/NS=M/Nを取る。(2)からSI=0SI=0である一方、(M/N)I=(MI+N)/N(M/N)I=(MI+N)/NとMI=MMI=MからSI=SSI=Sとなり矛盾する。I=J(R)I=J(R)とすればJ(R)M=MJ(R)M=MまたはMJ(R)=MMJ(R)=MからM=0M=0が従う。
  5. I(M/N)I(M/N)の元は∑ℓaℓ(mℓ+N)=(∑ℓaℓmℓ)+N\sum_\ell a_\ell(m_\ell+N)=(\sum_\ell a_\ell m_\ell)+Nの形であり、逆に(IM+N)/N(IM+N)/Nの各元もこの形である。したがってI(M/N)=(IM+N)/NI(M/N)=(IM+N)/Nである。右側でも積の順序を保って(M/N)I=(MI+N)/N(M/N)I=(MI+N)/Nを得る。Q=M/NQ=M/Nは有限生成であり、仮定から左版ではIQ=QIQ=Q、右版ではQI=QQI=Qとなる。中山の補題によりQ=0Q=0であるからM=NM=Nである。
  6. 左版で代表元が生成する部分加群をN=∑iRxiN=\sum_iRx_iとする。商での生成性は、任意のm∈Mm\in MがN+IMN+IMに属することを意味する。よってM=N+IMM=N+IMであり、部分加群形からM=NM=Nを得る。右版ではN=∑ixiRN=\sum_i x_iRと置いてM=N+MIM=N+MIを得る。I=J(R)I=J(R)とすれば、Jacobson 根基を法とする生成系の任意の代表元がMMを生成する。
  7. 有限生成性は、非零加群に極大部分加群が存在することを Zorn の補題で示す箇所に用いる。Jacobson 根基の単純加群による特徴づけは、極大部分加群による非零単純商をIIが零化する箇所に用いる。左右の商作用を直接計算するため係数の順序を交換せず、可換性を必要とする通常の行列式や随伴行列を用いない。
  8. 空族が生成する加群は零加群であるため、生成族が空ならば結論は直ちに成立する。零環上の単位的加群では、左加群の元はm=1Rm=0m=0m=1_Rm=0m=0、右加群の元はm=m1R=m0=0m=m1_R=m0=0となる。したがって加群は零加群だけであり、すべての主張が成り立つ。

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6 後続記事との関係

本記事では、Jacobson 根基が単純左右加群を零化することと、非零有限生成加群が極大部分加群をもつことを組み合わせ、左右の中山の補題、部分加群形および生成系の持ち上げを証明した。後続記事では、Hom とテンソル積の完全性、加群の局所化、射影性、平坦性および鎖条件を、それぞれ固有の仮定の下で扱う。

参考文献

  1. T. Y. Lam, Lectures on Modules and Rings, Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1999.一般の結合環上の左右加群と Jacobson 根基を用いる中山の補題を参考にした。
  2. Frank W. Anderson and Kent R. Fuller, Rings and Categories of Modules, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, 1992.有限生成加群に対する中山の補題と部分加群による商の形を参考にした。
  3. M. F. Atiyah and I. G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, CRC Press, 2018, originally published 1969.生成系を Jacobson 根基による商から持ち上げる形の可換環における標準的な定式化を参考にした。

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