1 左右の有限生成性とイデアルの作用
左加群では係数を生成元の左に置き、右加群では係数を生成元の右に置く。
I⊆Rを両側イデアルとする。左R加群Mに対して
IM={ℓ=1∑taℓmℓ t≥0, aℓ∈I, mℓ∈M}
は左部分加群である。右R加群Mに対して
MI={ℓ=1∑tmℓaℓ t≥0, aℓ∈I, mℓ∈M}
は右部分加群である。IMが左作用で閉じることにはIが左からの乗法で閉じることを用い、MIが右作用で閉じることにはIが右からの乗法で閉じることを用いる。このため、以下ではIを両側イデアルと仮定する。
2 中山の補題
非零有限生成加群には§E6.11 命題 1.5により極大部分加群が存在する。その商は単純であり、Jacobson 根基に含まれるイデアルはこの商を零化する。
定理 2.1 (中山の補題).Rを単位元をもつ結合環とし、I⊆J(R)を両側イデアルとする。
- Mが有限生成左R加群であり、IM=MならばM=0である。
- Mが有限生成右R加群であり、MI=MならばM=0である。
特にI=J(R)とすると、J(R)M=MまたはMJ(R)=Mを仮定する形を得る。
証明.(1)を示す。左加群の場合を証明する。M=0と仮定する。§E6.11 命題 1.5により、Mは極大左部分加群Nをもつ。したがってS:=M/Nは単純左R加群である。
§E6.7 定理 4.3によりJ(R)S=0であり、I⊆J(R)だからIS=0である。一方、商加群への作用を元で計算すると
I(M/N)=(IM+N)/Nとなる。仮定IM=Mにより
IS=(IM+N)/N=M/N=Sである。よってS=0となるが、Nは真の部分加群なのでS=0であり、矛盾する。したがってM=0である。
(2)を示す。右加群の場合にもM=0と仮定すると、§E6.11 命題 1.5により極大右部分加群Nが存在し、S:=M/Nは単純右R加群である。§E6.7 定理 5.2とI⊆J(R)からSI=0である。一方、積の順序を保った元による計算で
(M/N)I=(MI+N)/Nであり、MI=MからSI=Sを得る。SI=0とSI=Sの両式はS=0に反する。よって右加群でもM=0である。▨
この証明では、有限生成性を極大部分加群の存在に用い、Jacobson 根基の単純左右加群による特徴づけを直接用いた。行列式や最小個数の生成族は用いず、一般の結合環に対して左右の積の順序を保っている。
3 部分加群を含む形
中山の補題を商加群へ適用すると、加群全体が部分加群と Jacobson 根基による積の和である場合に、その部分加群がすでに加群全体であることが分かる。
証明.(1)を示す。左加群の場合を証明する。商左加群Q:=M/Nを考える。Mの有限生成族の像はQを生成するため、§E6.11 命題 4.1によりQは有限生成である。
商加群に対するIの作用を計算する。IQの元は有限和
ℓ=1∑taℓ(mℓ+N)=(ℓ=1∑taℓmℓ)+Nの形である。したがって
I(M/N)=(IM+N)/Nとなる。仮定N+IM=Mから
IQ=(IM+N)/N=M/N=Qを得る。定理 2.1 (1)によりQ=0であるから、M=Nである。
(2)を示す。右加群の場合、Mの有限生成族の像がQ:=M/Nを右から生成するため、Qは有限生成右加群である。元を用いる同じ計算で
(M/N)I=(MI+N)/Nとなる。仮定N+MI=MによりQI=Qであるから、定理 2.1 (2)を適用してQ=0を得る。したがってM=Nである。▨
4 生成系の持ち上げ
商加群で生成する有限族の代表元を取ると、その代表元はもとの加群を生成する。
系 4.1.Rを単位元をもつ結合環とし、I⊆J(R)を両側イデアルとする。
- Mを有限生成左R加群とする。x1,…,xt∈Mの像
x1+IM,…,xt+IM
がM/IMを左R加群として生成するならば、x1,…,xtはMを左から生成する。
- Mを有限生成右R加群とする。x1,…,xt∈Mの像
x1+MI,…,xt+MI
がM/MIを右R加群として生成するならば、x1,…,xtはMを右から生成する。
特にI=J(R)とすれば、Jacobson 根基を法とする生成系を元の加群の生成系へ持ち上げることができる。
証明.(1)を示す。左加群の場合、
N:=Rx1+⋯+Rxtと置く。像がM/IMを生成するという仮定により、任意のm∈Mに対してr1,…,rt∈Rが存在し、
m+IM=i=1∑tri(xi+IM)となる。したがってm−∑irixi∈IMであり、m∈N+IMとなる。よってM=N+IMである。系 3.1 (1)からM=Nを得るため、x1,…,xtはMを生成する。
(2)を示す。右加群の場合、
N:=x1R+⋯+xtRと置く。像の生成性により、任意のm∈Mに対してr1,…,rt∈Rが存在して
m+MI=i=1∑t(xi+MI)riとなる。したがってm−∑ixiri∈MIであり、M=N+MIである。系 3.1 (2)からM=Nを得る。▨
5 演習
問題 5.1 (中山の補題の確認). 次の各問に答えよ。
- 有限生成左右加群の定義を有限階数自由加群からの全射として述べ、有限個の一次結合による特徴づけと比較せよ。また、非零有限生成加群が極大部分加群をもつ理由を説明せよ。
- I⊆J(R)ならば、任意の単純左R加群SについてIS=0、任意の単純右R加群TについてTI=0となることを証明せよ。
- 極大左部分加群Nによる単純商M/Nを用いて、中山の補題の左版を証明せよ。
- 極大右部分加群による単純商を用いて、中山の補題の右版を証明し、積の順序を明示せよ。I=J(R)の場合も述べよ。
- 左加群についてI(M/N)=(IM+N)/Nを、右加群について(M/N)I=(MI+N)/Nを元によって証明し、N+IM=MまたはN+MI=MからN=Mを導け。
- M/IMまたはM/MIの有限生成系の代表元がMを生成することを証明せよ。特にI=J(R)の場合を述べよ。
- 単純商による証明で有限生成性を使う箇所と、Jacobson 根基の単純加群による特徴づけを使う箇所を区別せよ。また、通常の行列式を用いない利点を説明せよ。
- 空の生成族と零環の場合に、中山の補題がどのように成り立つかを説明せよ。
解答 (演習の解答).
- 左右とも、有限生成であるとは有限階数自由加群からの全射が存在することである。標準基底の像を取ることと、有限生成族の像を指定する自由加群の普遍性により、左ではM=∑iRxi、右ではM=∑ixiRと同値になる。真の部分加群の鎖の和は、有限生成族をすべて含む鎖の一元が存在してしまうため加群全体にはならない。よって Zorn の補題から極大部分加群を得る。
- §E6.7 定理 4.3によりJ(R)はすべての単純左加群を零化し、§E6.7 定理 5.2によりすべての単純右加群を零化する。I⊆J(R)だから、左ではIS⊆J(R)S=0、右ではTI⊆TJ(R)=0である。
- M=0と仮定し、極大左部分加群Nを取る。S=M/Nは単純であり、(2)からIS=0である。一方、I(M/N)=(IM+N)/NとIM=MからIS=Sを得る。よってS=0となり、Nが真であることに反する。したがってM=0である。
- M=0と仮定し、極大右部分加群Nと単純右商S=M/Nを取る。(2)からSI=0である一方、(M/N)I=(MI+N)/NとMI=MからSI=Sとなり矛盾する。I=J(R)とすればJ(R)M=MまたはMJ(R)=MからM=0が従う。
- I(M/N)の元は∑ℓaℓ(mℓ+N)=(∑ℓaℓmℓ)+Nの形であり、逆に(IM+N)/Nの各元もこの形である。したがってI(M/N)=(IM+N)/Nである。右側でも積の順序を保って(M/N)I=(MI+N)/Nを得る。Q=M/Nは有限生成であり、仮定から左版ではIQ=Q、右版ではQI=Qとなる。中山の補題によりQ=0であるからM=Nである。
- 左版で代表元が生成する部分加群をN=∑iRxiとする。商での生成性は、任意のm∈MがN+IMに属することを意味する。よってM=N+IMであり、部分加群形からM=Nを得る。右版ではN=∑ixiRと置いてM=N+MIを得る。I=J(R)とすれば、Jacobson 根基を法とする生成系の任意の代表元がMを生成する。
- 有限生成性は、非零加群に極大部分加群が存在することを Zorn の補題で示す箇所に用いる。Jacobson 根基の単純加群による特徴づけは、極大部分加群による非零単純商をIが零化する箇所に用いる。左右の商作用を直接計算するため係数の順序を交換せず、可換性を必要とする通常の行列式や随伴行列を用いない。
- 空族が生成する加群は零加群であるため、生成族が空ならば結論は直ちに成立する。零環上の単位的加群では、左加群の元はm=1Rm=0m=0、右加群の元はm=m1R=m0=0となる。したがって加群は零加群だけであり、すべての主張が成り立つ。
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6 後続記事との関係
本記事では、Jacobson 根基が単純左右加群を零化することと、非零有限生成加群が極大部分加群をもつことを組み合わせ、左右の中山の補題、部分加群形および生成系の持ち上げを証明した。後続記事では、Hom とテンソル積の完全性、加群の局所化、射影性、平坦性および鎖条件を、それぞれ固有の仮定の下で扱う。