§E17.1可微分多様体の定義

最終更新

微分積分は、Rn\mathbb{R}^nの開集合の上で座標を固定して行う操作として構成されている。しかし球面や実射影空間のように、一つの座標では全体を覆うことができない対象がある。本単元は、そのような対象の上でも微分の言葉が意味を持つようにするために、まず対象そのものを座標のとり方に依らない形で定義する。

本記事は、最初にRn\mathbb{R}^nの開集合のあいだの写像について、CkC^{k}級の写像の和、積および合成がふたたびCkC^{k}級であることを示す。この事実は、以後のほとんどすべての議論が座標変換の合成を経由するために必要である。そのうえで局所座標とアトラスを定義し、与えられたアトラスから極大アトラスを構成して、可微分構造をその極大アトラスとして定める。次に、多様体の定義に課す Hausdorff 性と第二可算性が、局所的にRn\mathbb{R}^nと同相であるという条件からは従わず、しかも互いに独立であることを、二つの反例によって確かめる。そのうえで滑らかな写像と微分同相を座標表示によって定義し、その定義が座標のとり方に依らないことを証明する。最後に、球面、実射影空間、開部分集合および積を例として構成する。

本記事では、位相空間の分離公理、可算性、部分空間位相および商位相を「位相空間論 I」が定めた形で用い、Rn\mathbb{R}^nの開集合のあいだの写像のC∞C^\infty性を「実解析 II」が定めた形で用いる。Rn\mathbb{R}^nの元u=(u1,…,un)u=(u^1,\dots,u^n)に対して∥u∥2=∑i=1n(ui)2\lVert u\rVert^2=\sum_{i=1}^{n}(u^i)^2と書く。この量は座標空間Rn\mathbb{R}^nの上で固定した標準的な二次形式であり、多様体の上に計量を与えるものではない。本記事では開球を指定するためにだけ用いる。

1 ユークリッド空間の写像についての準備

チャートの両立と滑らかな写像の定義は、どちらもRn\mathbb{R}^nの開集合のあいだの写像の合成がC∞C^\inftyであることを根拠にする。「実解析 II」が供給する§E4.3 定理 1.1は、合成が全微分可能であることとD(g∘f)(x)=Dg(f(x))Df(x)D(g\circ f)(x)=Dg(f(x))Df(x)という等式を述べるが、CkC^{k}級の写像の合成がふたたびCkC^{k}級であることは述べていない。積のCkC^{k}性を経由する帰納が要るので、次の補題を最初に置く。

補題 1.1.kkを正の整数とする。

  1. U⊆RnU\subseteq\mathbb{R}^{n}を開集合、u,v ⁣:U→Ru,v\colon U\to\mathbb{R}をCkC^{k}級とすると、u+vu+vとuvuvはCkC^{k}級である。
  2. U⊆RnU\subseteq\mathbb{R}^{n}、V⊆RmV\subseteq\mathbb{R}^{m}を開集合、f ⁣:U→Vf\colon U\to Vとg ⁣:V→Rlg\colon V\to\mathbb{R}^{l}をCkC^{k}級とすると、g∘fg\circ fはCkC^{k}級である。

いずれもk=∞k=\inftyの場合を含む。

証明では、§E4.4 定義 1.4の定義から直ちに従う次の言い換えを繰り返し用いる。jjを非負整数とするとき、写像FFがCj+1C^{j+1}級であることと、FFが全微分可能であってDFDFがCjC^{j}級であることは同値である。ここでC0C^{0}級は連続であることを意味する。

証明.(1)をkkに関する帰納法で示す。k=1k=1のとき、積の偏微分法により∂i(uv)=(∂iu)v+u(∂iv)\partial_i(uv)=(\partial_iu)v+u(\partial_iv)であり、右辺は連続関数の和と積であるから連続である。§E4.2 定理 2.1によりuvuvは全微分可能であり、D(uv)D(uv)の成分は連続であるからuvuvはC1C^{1}級である。和については∂i(u+v)=∂iu+∂iv\partial_i(u+v)=\partial_iu+\partial_ivから同様である。kkについて主張が成り立つとし、u,vu,vをCk+1C^{k+1}級とする。∂iu\partial_iu、∂iv\partial_ivはCkC^{k}級であり、uu、vvもCkC^{k}級であるから、帰納法の仮定により∂i(uv)=(∂iu)v+u(∂iv)\partial_i(uv)=(\partial_iu)v+u(\partial_iv)はCkC^{k}級である。よってD(uv)D(uv)はCkC^{k}級であり、uvuvはCk+1C^{k+1}級である。和も同様である。

(2)をkkに関する帰納法で示す。k=1k=1のとき、§E4.3 定理 1.1によりg∘fg\circ fは全微分可能でD(g∘f)(x)=Dg(f(x))Df(x)D(g\circ f)(x)=Dg(f(x))Df(x)である。DgDgは連続、ffは連続、DfDfは連続であるから、右辺は連続写像の合成と行列の積である。行列の積の各成分は成分の積の有限和であるから、(1)のk=1k=1の場合により連続である。よってg∘fg\circ fはC1C^{1}級である。

kkについて(1)と(2)が成り立つとし、f,gf,gをCk+1C^{k+1}級とする。DgDgはCkC^{k}級であり、ffはCk+1C^{k+1}級であるからCkC^{k}級である。帰納法の仮定((2))によりDg∘fDg\circ fはCkC^{k}級である。DfDfもCkC^{k}級である。D(g∘f)=(Dg∘f) DfD(g\circ f)=(Dg\circ f)\,Dfの各成分は、CkC^{k}級関数の積の有限和であるから、帰納法の仮定((1))によりCkC^{k}級である。よってD(g∘f)D(g\circ f)はCkC^{k}級であり、g∘fg\circ fはCk+1C^{k+1}級である。

k=∞k=\inftyの場合は、すべての正の整数kkについて結論が成り立つことから従う。▨

この補題は「部分多様体・はめ込み・埋め込み」でも、逆写像の正則性をCkC^{k}級へ持ち上げるために用いる。

2 チャートとアトラス

一つの座標で全体を覆うことができない対象を扱うために、局所的な座標を複数用意し、重なりでの読み替えに条件を課す。

定義 2.1.MMを位相空間、nnを非負整数とする。MMの開集合UUと、UUからRn\mathbb{R}^nの開集合φ(U)\varphi(U)への同相写像φ\varphiの組(U,φ)(U,\varphi)を、MMの nn次元局所座標 (nn-dimensional local coordinate system) またはチャート (chart) という。UUをこのチャートの定義域 (chart domain) という。

二つのチャート(U,φ)(U,\varphi)、(V,ψ)(V,\psi)が C∞C^\infty両立する (C∞C^\inftycompatible charts) とは、U∩V=∅U\cap V=\varnothingであるか、またはφ(U∩V)\varphi(U\cap V)とψ(U∩V)\psi(U\cap V)がともにRn\mathbb{R}^nの開集合であって、座標変換 (transition map)

ψ∘φ−1 ⁣:φ(U∩V)⟶ψ(U∩V)\psi\circ\varphi^{-1}\colon\varphi(U\cap V)\longrightarrow\psi(U\cap V)

とその逆写像φ∘ψ−1\varphi\circ\psi^{-1}がともにC∞C^\infty級であることをいう。

MMのnn次元チャートの族A={(Uα,φα)}α∈A\mathcal{A}=\{(U_\alpha,\varphi_\alpha)\}_{\alpha\in A}が nn次元C∞C^\inftyアトラス (nn-dimensionalC∞C^\inftyatlas) であるとは、⋃α∈AUα=M\bigcup_{\alpha\in A}U_\alpha=Mが成り立ち、かつA\mathcal{A}の任意の二つのチャートがC∞C^\infty両立することをいう。

φ\varphiが同相写像であるため、U∩VU\cap VはUUの開集合であり、φ(U∩V)\varphi(U\cap V)はφ(U)\varphi(U)の開集合、したがってRn\mathbb{R}^nの開集合である。ψ(U∩V)\psi(U\cap V)についても同様である。定義に書いた開集合であるという条件は、この事実の確認であって追加の制約ではない。

定義 2.2.nnを非負整数とする。位相空間MMが nn次元C∞C^\infty多様体 (nn-dimensionalC∞C^\inftymanifold)(可微分多様体 (differentiable manifold))であるとは、次の三つがすべて成り立つことをいう。

  1. MMは Hausdorff である。
  2. MMは第二可算である。
  3. MMはnn次元C∞C^\inftyアトラスを持ち、そのうちの一つを含む極大なC∞C^\inftyアトラスが一つ指定されている。

指定された極大アトラスをMMの可微分構造 (differentiable structure) という。ここでC∞C^\inftyアトラスA\mathcal{A}が極大であるとは、A\mathcal{A}のすべてのチャートとC∞C^\infty両立するチャートが必ずA\mathcal{A}に属することをいう。MMの次元nnをdim⁡M\dim Mと書く。

本単元では、多様体はつねに有限次元であり、境界を持たないものとする。以後、断りなく「多様体」と書いたときはC∞C^\infty多様体を指し、「滑らか」と書いたときはC∞C^\inftyを指す。

多様体を与えるときに毎回極大アトラスを書き下すことは実際にはできない。実際に書き下すのは有限個または可算個のチャートからなるアトラスであり、そこから極大アトラスが一意に定まることを次に示す。この構成に Zorn の補題は必要ではない。

命題 2.3.MMを位相空間、A\mathcal{A}をMMのnn次元C∞C^\inftyアトラスとする。

A∗={(U,φ)∣(U,φ) は n 次元チャートであり、A のすべてのチャートと C∞ 両立する}\mathcal{A}^{*}=\{(U,\varphi)\mid (U,\varphi)\text{ は }n\text{ 次元チャートであり、}\mathcal{A}\text{ のすべてのチャートと }C^\infty\text{ 両立する}\}

と定める。このときA∗\mathcal{A}^{*}はA\mathcal{A}を含むnn次元C∞C^\inftyアトラスであって極大であり、A\mathcal{A}を含む極大なC∞C^\inftyアトラスはこれ以外に存在しない。

証明の要は、A∗\mathcal{A}^{*}に属する二つのチャートが互いにC∞C^\infty両立することである。両立という関係は一般には推移的でないが、A\mathcal{A}がMMを覆うため、重なりの各点の近くでA\mathcal{A}のチャートを一つ経由することができ、C∞C^\infty性が局所的な性質であることから全体のC∞C^\infty性が従う。

証明. まずA⊆A∗\mathcal{A}\subseteq\mathcal{A}^{*}である。A\mathcal{A}はアトラスであるから、その任意の二つのチャートはC∞C^\infty両立するためである。したがってA∗\mathcal{A}^{*}のチャートの定義域の合併はMMに等しい。

次に、(U,φ)(U,\varphi)と(V,ψ)(V,\psi)をA∗\mathcal{A}^{*}の二つのチャートとし、両者がC∞C^\infty両立することを示す。U∩V=∅U\cap V=\varnothingならば示すことは何も無いので、U∩V≠∅U\cap V\ne\varnothingとする。p∈U∩Vp\in U\cap Vを任意に取る。A\mathcal{A}はMMを覆うので、p∈Wp\in Wを満たすチャート(W,χ)∈A(W,\chi)\in\mathcal{A}が存在する。U∩V∩WU\cap V\cap Wはppを含むMMの開集合であり、φ(U∩V∩W)\varphi(U\cap V\cap W)はφ(p)\varphi(p)を含むRn\mathbb{R}^nの開集合である。この開集合の上で

ψ∘φ−1=(ψ∘χ−1)∘(χ∘φ−1)\psi\circ\varphi^{-1}=(\psi\circ\chi^{-1})\circ(\chi\circ\varphi^{-1})

が成り立つ。実際、x∈φ(U∩V∩W)x\in\varphi(U\cap V\cap W)に対してφ−1(x)∈W\varphi^{-1}(x)\in Wであるからχ−1(χ(φ−1(x)))=φ−1(x)\chi^{-1}(\chi(\varphi^{-1}(x)))=\varphi^{-1}(x)であり、両辺はψ(φ−1(x))\psi(\varphi^{-1}(x))に等しい。(U,φ)(U,\varphi)と(W,χ)(W,\chi)はともにA∗\mathcal{A}^{*}の元とA\mathcal{A}の元の関係にあるので両立し、χ∘φ−1\chi\circ\varphi^{-1}はφ(U∩W)\varphi(U\cap W)上でC∞C^\inftyである。同様にψ∘χ−1\psi\circ\chi^{-1}はχ(V∩W)\chi(V\cap W)上でC∞C^\inftyである。C∞C^\infty写像の合成はC∞C^\inftyである(補題 1.1)から、ψ∘φ−1\psi\circ\varphi^{-1}はφ(p)\varphi(p)のある開近傍の上でC∞C^\inftyである。p∈U∩Vp\in U\cap Vは任意であったから、ψ∘φ−1\psi\circ\varphi^{-1}はφ(U∩V)\varphi(U\cap V)の各点の近傍でC∞C^\inftyであり、したがってφ(U∩V)\varphi(U\cap V)全体でC∞C^\inftyである。φ\varphiとψ\psiの役割を入れ替えればφ∘ψ−1\varphi\circ\psi^{-1}のC∞C^\infty性も従う。よってA∗\mathcal{A}^{*}はC∞C^\inftyアトラスである。

A∗\mathcal{A}^{*}が極大であることを示す。チャート(U,φ)(U,\varphi)がA∗\mathcal{A}^{*}のすべてのチャートとC∞C^\infty両立するとする。A⊆A∗\mathcal{A}\subseteq\mathcal{A}^{*}であるから、とくに(U,φ)(U,\varphi)はA\mathcal{A}のすべてのチャートと両立し、定義により(U,φ)∈A∗(U,\varphi)\in\mathcal{A}^{*}である。

一意性を示す。B\mathcal{B}をA\mathcal{A}を含む極大なC∞C^\inftyアトラスとする。B\mathcal{B}の各チャートはB\mathcal{B}のすべてのチャートと両立し、A⊆B\mathcal{A}\subseteq\mathcal{B}であるからA\mathcal{A}のすべてのチャートとも両立する。よってB⊆A∗\mathcal{B}\subseteq\mathcal{A}^{*}である。するとA∗\mathcal{A}^{*}の各チャートは、A∗\mathcal{A}^{*}がアトラスであることからB\mathcal{B}のすべてのチャートと両立し、B\mathcal{B}の極大性によりA∗⊆B\mathcal{A}^{*}\subseteq\mathcal{B}を得る。したがってB=A∗\mathcal{B}=\mathcal{A}^{*}である。▨

例 2.4 (ユークリッド空間).Rn\mathbb{R}^nは Hausdorff かつ第二可算であり、恒等写像だけからなる族{(Rn,id⁡)}\{(\mathbb{R}^n,\operatorname{id})\}はnn次元C∞C^\inftyアトラスである。チャートが一つしかないので両立の条件は自分自身との座標変換だけであり、それは恒等写像であるからC∞C^\inftyである。したがってRn\mathbb{R}^nはnn次元C∞C^\infty多様体である。以後、Rn\mathbb{R}^nにはつねにこの可微分構造を与える。n=1n=1の場合としてR\mathbb{R}も1次元C∞C^\infty多様体である。

注意 2.5 (アトラスを一つ与えれば可微分構造が定まる).命題 2.3により、MMにnn次元C∞C^\inftyアトラスA\mathcal{A}を一つ与えると、A\mathcal{A}を含む極大アトラスが一意に定まる。以後、C∞C^\inftyアトラスを一つ提示することによって可微分構造を与える。二つのアトラスA\mathcal{A}、A′\mathcal{A}'が同じ可微分構造を定めるのは、A∪A′\mathcal{A}\cup\mathcal{A}'がふたたびC∞C^\inftyアトラスになるとき、すなわちA\mathcal{A}の各チャートとA′\mathcal{A}'の各チャートが両立するとき、かつそのときに限る。

3 位相的な仮定の独立性

定義 2.2は、局所的にRn\mathbb{R}^nと同相であるという条件のほかに Hausdorff 性と第二可算性を課している。この二つは、局所的な条件から自動的に従うものではない。以下の二例は、一方だけが破れる対象が実際に存在することを示す。まず、二つの例に共通して用いる可算性の補題を置く。

補題 3.1.XX、YYを位相空間、q ⁣:X→Yq\colon X\to Yを連続な全射であって開写像であるものとする。XXが第二可算ならばYYも第二可算である。

証明.{Bk}k∈K\{B_k\}_{k\in K}をXXの高々可算な基底とする(§E2.13 定義 5.1)。qqは開写像であるから各q(Bk)q(B_k)はYYの開集合である。W⊆YW\subseteq Yを開集合、y∈Wy\in Wとする。qqは全射であるからq(x)=yq(x)=yを満たすx∈Xx\in Xが存在する。qqは連続であるからq−1(W)q^{-1}(W)はxxを含む開集合であり、基底の性質によりx∈Bk⊆q−1(W)x\in B_k\subseteq q^{-1}(W)を満たすk∈Kk\in Kが存在する。このときy=q(x)∈q(Bk)⊆q(q−1(W))⊆Wy=q(x)\in q(B_k)\subseteq q(q^{-1}(W))\subseteq Wである。よって{q(Bk)}k∈K\{q(B_k)\}_{k\in K}はYYの高々可算な基底である。▨

命題 3.2.{0,1}\{0,1\}に離散位相を与え、Z=R×{0,1}Z=\mathbb{R}\times\{0,1\}に積位相を与える。ZZ上の同値関係を、x≠0x\ne 0のとき(x,0)∼(x,1)(x,0)\sim(x,1)、それ以外は自分自身とだけ同値であるものとして定め、商空間L=Z/ ⁣∼L=Z/\!\simに商位相を与える(§E2.12 定義 8.7)。商写像をπ ⁣:Z→L\pi\colon Z\to Lと書く。このときLLは次を満たす。

  1. LLは第二可算である。
  2. LLは1次元C∞C^\inftyアトラスを持ち、とくに各点はR\mathbb{R}の開集合と同相な開近傍を持つ。
  3. LLは Hausdorff でない。

したがって、局所的にR\mathbb{R}と同相であることと第二可算であることから Hausdorff 性は従わない。

証明. 最初にπ\piが開写像であることを示す。σ ⁣:Z→Z\sigma\colon Z\to Zをσ(x,i)=(x,1−i)\sigma(x,i)=(x,1-i)で定めると、σ\sigmaは同相写像である。V⊆ZV\subseteq Zを開集合とすると

π−1(π(V))=V∪σ(V∖({0}×{0,1}))\pi^{-1}(\pi(V))=V\cup\sigma\bigl(V\setminus(\{0\}\times\{0,1\})\bigr)

が成り立つ。右辺の第二項は開集合のσ\sigmaによる像であるから開集合であり、右辺全体は開集合である。商位相の定義によりπ(V)\pi(V)は開集合である。よってπ\piは開写像である。

(1)は、ZZが第二可算であること(R\mathbb{R}が第二可算であり、{0,1}\{0,1\}が有限離散空間である)と補題 3.1から従う。

(2)を示す。i∈{0,1}i\in\{0,1\}に対してUi=π(R×{i})U_i=\pi(\mathbb{R}\times\{i\})と置く。π\piは開写像であるからUiU_iは開集合であり、U0∪U1=LU_0\cup U_1=Lである。π\piのR×{i}\mathbb{R}\times\{i\}への制限は単射である。実際、(x,i)∼(y,i)(x,i)\sim(y,i)ならばx=yx=yである。そこでφi ⁣:Ui→R\varphi_i\colon U_i\to\mathbb{R}をφi(π(x,i))=x\varphi_i(\pi(x,i))=xで定めると、φi\varphi_iは全単射である。W⊆RW\subseteq\mathbb{R}を開集合とするとφi−1(W)=π(W×{i})\varphi_i^{-1}(W)=\pi(W\times\{i\})であり、π\piが開写像であることからこれは開集合である。よってφi\varphi_iは連続である。またφi−1\varphi_i^{-1}は連続写像x↦π(x,i)x\mapsto\pi(x,i)に等しいので連続である。したがってφi\varphi_iは同相写像であり、(Ui,φi)(U_i,\varphi_i)は1次元チャートである。U0∩U1=π((R∖{0})×{0,1})U_0\cap U_1=\pi((\mathbb{R}\setminus\{0\})\times\{0,1\})であり、φ0(U0∩U1)=φ1(U0∩U1)=R∖{0}\varphi_0(U_0\cap U_1)=\varphi_1(U_0\cap U_1)=\mathbb{R}\setminus\{0\}、座標変換φ1∘φ0−1\varphi_1\circ\varphi_0^{-1}はR∖{0}\mathbb{R}\setminus\{0\}上の恒等写像である。恒等写像はC∞C^\inftyであるから、{(U0,φ0),(U1,φ1)}\{(U_0,\varphi_0),(U_1,\varphi_1)\}は1次元C∞C^\inftyアトラスである。

(3)を示す。p0=π(0,0)p_0=\pi(0,0)、p1=π(0,1)p_1=\pi(0,1)と置く。(0,0)(0,0)と(0,1)(0,1)は同値でないのでp0≠p1p_0\ne p_1である。AAをp0p_0を含む開集合、BBをp1p_1を含む開集合とする。π−1(A)\pi^{-1}(A)は(0,0)(0,0)を含むZZの開集合であるから、あるε>0\varepsilon>0が存在して(−ε,ε)×{0}⊆π−1(A)(-\varepsilon,\varepsilon)\times\{0\}\subseteq\pi^{-1}(A)となる。同様にあるδ>0\delta>0が存在して(−δ,δ)×{1}⊆π−1(B)(-\delta,\delta)\times\{1\}\subseteq\pi^{-1}(B)となる。0<∣x∣<min⁡(ε,δ)0<|x|<\min(\varepsilon,\delta)を満たすxxを取るとπ(x,0)=π(x,1)\pi(x,0)=\pi(x,1)であり、この点はA∩BA\cap Bに属する。よってA∩B≠∅A\cap B\ne\varnothingであり、LLは Hausdorff でない。▨

命題 3.3.Rd\mathbb{R}_dを、R\mathbb{R}の台集合に離散位相を与えた位相空間とし、Y=R×RdY=\mathbb{R}\times\mathbb{R}_dに積位相を与える。このときYYは次を満たす。

  1. YYは Hausdorff である。
  2. YYは1次元C∞C^\inftyアトラスを持つ。
  3. YYは第二可算でない。

したがって、局所的にR\mathbb{R}と同相であることと Hausdorff 性から第二可算性は従わない。

証明.(1)は、R\mathbb{R}とRd\mathbb{R}_dがともに Hausdorff であり、Hausdorff 空間の積が Hausdorff であることから従う。実際、(x,a)≠(y,b)(x,a)\ne(y,b)ならばx≠yx\ne yまたはa≠ba\ne bであり、前者ではR\mathbb{R}の分離する開集合のRd\mathbb{R}_dとの積を取り、後者ではR×{a}\mathbb{R}\times\{a\}とR×{b}\mathbb{R}\times\{b\}を取れば、交わらない開集合による分離を得る(§E2.15 定義 1.2)。

(2)を示す。各a∈Ra\in\mathbb{R}に対してVa=R×{a}V_a=\mathbb{R}\times\{a\}と置く。{a}\{a\}はRd\mathbb{R}_dの開集合であるからVaV_aはYYの開集合であり、⋃aVa=Y\bigcup_{a}V_a=Yである。ηa ⁣:Va→R\eta_a\colon V_a\to\mathbb{R}をηa(x,a)=x\eta_a(x,a)=xで定めると、ηa\eta_aは同相写像である。a≠ba\ne bのときVa∩Vb=∅V_a\cap V_b=\varnothingであるから、任意の二つのチャートはC∞C^\infty両立する。よって{(Va,ηa)}a∈R\{(V_a,\eta_a)\}_{a\in\mathbb{R}}は1次元C∞C^\inftyアトラスである。

(3)を示す。B\mathcal{B}をYYの基底とする。各a∈Ra\in\mathbb{R}に対してVaV_aは空でない開集合であるから、∅≠Ba⊆Va\varnothing\ne B_a\subseteq V_aを満たすBa∈BB_a\in\mathcal{B}が存在する。a≠ba\ne bのときVa∩Vb=∅V_a\cap V_b=\varnothingでありBaB_a、BbB_bはともに空でないのでBa≠BbB_a\ne B_bである。よってa↦Baa\mapsto B_aは単射であり、B\mathcal{B}の濃度はR\mathbb{R}の濃度以上である。R\mathbb{R}は可算でないから、YYの基底はいずれも可算でない。▨

命題 3.2は第二可算かつ局所的にR\mathbb{R}と同相であるが Hausdorff でない対象を与え、命題 3.3は Hausdorff かつ局所的にR\mathbb{R}と同相であるが第二可算でない対象を与える。二つをそろえることによって初めて、Hausdorff 性と第二可算性のどちらも他方から導くことができないこと、すなわち二つの仮定がそれぞれ独立であることが確かめられる。

Hausdorff 性は、コンパクト集合が閉集合であること、および収束する点列の極限が一意であることに用いる。第二可算性は、任意の開被覆から可算な部分被覆を取ること(§E2.21 命題 1.6)と、局所コンパクト性と合わせてコンパクト集合の増大列を作ることに用いる。後者は「1の分割の構成」で1の分割を構成するときに必要になる。

4 滑らかな写像と微分同相

多様体そのものが座標のとり方に依らない対象として定義されたので、多様体のあいだの写像の滑らかさも、座標のとり方に依らない条件として定義しなければならない。

定義 4.1.MMをmm次元C∞C^\infty多様体、NNをnn次元C∞C^\infty多様体とする。連続写像F ⁣:M→NF\colon M\to Nが滑らか (smooth map)(C∞C^\infty級)であるとは、MMの可微分構造に属する任意のチャート(U,φ)(U,\varphi)とNNの可微分構造に属する任意のチャート(V,ψ)(V,\psi)に対して、座標表示 (coordinate representation)

ψ∘F∘φ−1 ⁣:φ(U∩F−1(V))⟶ψ(V)\psi\circ F\circ\varphi^{-1}\colon\varphi\bigl(U\cap F^{-1}(V)\bigr)\longrightarrow\psi(V)

がC∞C^\infty級であることをいう。ここでFFが連続であることからU∩F−1(V)U\cap F^{-1}(V)はMMの開集合であり、φ(U∩F−1(V))\varphi(U\cap F^{-1}(V))はRm\mathbb{R}^mの開集合である。

F ⁣:M→NF\colon M\to Nが微分同相 (diffeomorphism) であるとは、FFが全単射であり、FFと逆写像F−1 ⁣:N→MF^{-1}\colon N\to Mがともに滑らかであることをいう。微分同相M→NM\to Nが存在するとき、MMとNNは微分同相であるという。

N=RN=\mathbb{R}の場合、すなわち滑らかな写像f ⁣:M→Rf\colon M\to\mathbb{R}を滑らかな関数 (smooth function) といい、MM上の滑らかな関数の全体をC∞(M)C^\infty(M)と書く。C∞(M)C^\infty(M)は点ごとの和と積によってR\mathbb{R}上の可換環になる。

定義 4.1は極大アトラスのすべてのチャートの組について条件を課しているので、そのままでは確かめることができない。実際に確かめるのは、MMとNNのそれぞれについて一つずつアトラスを取った場合だけでよい。これを次に示す。

命題 4.2.MMをmm次元C∞C^\infty多様体、NNをnn次元C∞C^\infty多様体、F ⁣:M→NF\colon M\to Nを連続写像とする。A\mathcal{A}をMMの可微分構造に含まれるアトラス、C\mathcal{C}をNNの可微分構造に含まれるアトラスとする。次は同値である。

  1. 各点p∈Mp\in Mに対して、p∈Up\in Uを満たす(U,φ)∈A(U,\varphi)\in\mathcal{A}とF(p)∈VF(p)\in Vを満たす(V,ψ)∈C(V,\psi)\in\mathcal{C}が存在して、ψ∘F∘φ−1\psi\circ F\circ\varphi^{-1}がφ(p)\varphi(p)のある開近傍の上でC∞C^\infty級である。
  2. FFは定義 4.1の意味で滑らかである。

証明の要は、二組の座標表示が座標変換の合成で結ばれるという等式を書き下し、座標変換がC∞C^\inftyであることと、C∞C^\infty性が局所的な性質であることを用いる点である。

証明.条件 (b)⇒\Rightarrow(a)は定義から明らかである。以下、条件 (a)⇒\Rightarrow(b)を示す。

(U′,φ′)(U',\varphi')をMMの可微分構造に属するチャート、(V′,ψ′)(V',\psi')をNNの可微分構造に属するチャートとし、q∈U′∩F−1(V′)q\in U'\cap F^{-1}(V')を任意に取る。条件 (a)により、q∈Uq\in Uを満たす(U,φ)∈A(U,\varphi)\in\mathcal{A}とF(q)∈VF(q)\in Vを満たす(V,ψ)∈C(V,\psi)\in\mathcal{C}であって、ψ∘F∘φ−1\psi\circ F\circ\varphi^{-1}がφ(q)\varphi(q)のある開近傍でC∞C^\inftyであるものが存在する。

Ω=U∩U′∩F−1(V∩V′)\Omega=U\cap U'\cap F^{-1}(V\cap V')と置く。FFは連続であるからΩ\Omegaはqqを含むMMの開集合である。x∈φ′(Ω)x\in\varphi'(\Omega)に対してφ′−1(x)∈U∩U′\varphi'^{-1}(x)\in U\cap U'であるからφ−1(φ(φ′−1(x)))=φ′−1(x)\varphi^{-1}(\varphi(\varphi'^{-1}(x)))=\varphi'^{-1}(x)であり、またF(φ′−1(x))∈V∩V′F(\varphi'^{-1}(x))\in V\cap V'であるからψ−1(ψ(F(φ′−1(x))))=F(φ′−1(x))\psi^{-1}(\psi(F(\varphi'^{-1}(x))))=F(\varphi'^{-1}(x))である。したがってφ′(Ω)\varphi'(\Omega)の上で

ψ′∘F∘φ′−1=(ψ′∘ψ−1)∘(ψ∘F∘φ−1)∘(φ∘φ′−1)\psi'\circ F\circ\varphi'^{-1}=(\psi'\circ\psi^{-1})\circ(\psi\circ F\circ\varphi^{-1})\circ(\varphi\circ\varphi'^{-1})

が成り立つ。右辺の三つの写像を順に見る。(U,φ)(U,\varphi)と(U′,φ′)(U',\varphi')はともにMMの同じ極大アトラスに属するので両立し、φ∘φ′−1\varphi\circ\varphi'^{-1}はφ′(U∩U′)\varphi'(U\cap U')上でC∞C^\inftyである。中央の写像は、φ(q)\varphi(q)のある開近傍の上でC∞C^\inftyである。(V,ψ)(V,\psi)と(V′,ψ′)(V',\psi')も両立するので、ψ′∘ψ−1\psi'\circ\psi^{-1}はψ(V∩V′)\psi(V\cap V')上でC∞C^\inftyである。C∞C^\infty写像の合成はC∞C^\inftyであるから(補題 1.1)、ψ′∘F∘φ′−1\psi'\circ F\circ\varphi'^{-1}はφ′(q)\varphi'(q)のある開近傍の上でC∞C^\inftyである。

q∈U′∩F−1(V′)q\in U'\cap F^{-1}(V')は任意であったから、ψ′∘F∘φ′−1\psi'\circ F\circ\varphi'^{-1}は定義域の各点の近傍でC∞C^\inftyであり、したがって定義域全体でC∞C^\inftyである。▨

系 4.3.MM、NN、PPをC∞C^\infty多様体とする。恒等写像id⁡M ⁣:M→M\operatorname{id}_M\colon M\to Mは滑らかである。滑らかな写像F ⁣:M→NF\colon M\to NとG ⁣:N→PG\colon N\to Pの合成G∘F ⁣:M→PG\circ F\colon M\to Pは滑らかである。とくに微分同相の合成は微分同相であり、微分同相であるという関係は同値関係である。

証明. 恒等写像については、チャート(U,φ)(U,\varphi)、(U′,φ′)(U',\varphi')に対する座標表示が座標変換φ′∘φ−1\varphi'\circ\varphi^{-1}に等しく、これは両立性によりC∞C^\inftyである。

合成については、p∈Mp\in Mを取り、G(F(p))G(F(p))の周りのチャート(W,θ)(W,\theta)を選び、F(p)F(p)の周りのチャート(V,ψ)(V,\psi)をG(V)⊆WG(V)\subseteq Wとなるように選び(GGの連続性からVVをG−1(W)G^{-1}(W)と交わらせて取り直せばよい)、ppの周りのチャート(U,φ)(U,\varphi)をF(U)⊆VF(U)\subseteq Vとなるように選ぶ。このときφ(U)\varphi(U)の上で

θ∘(G∘F)∘φ−1=(θ∘G∘ψ−1)∘(ψ∘F∘φ−1)\theta\circ(G\circ F)\circ\varphi^{-1}=(\theta\circ G\circ\psi^{-1})\circ(\psi\circ F\circ\varphi^{-1})

が成り立ち、右辺はC∞C^\infty写像の合成である。命題 4.2によりG∘FG\circ Fは滑らかである。

微分同相の合成が微分同相であることは、逆写像が(G∘F)−1=F−1∘G−1(G\circ F)^{-1}=F^{-1}\circ G^{-1}で与えられ、これがふたたび滑らかな写像の合成であることから従う。反射律は恒等写像、対称律は逆写像の定義から従う。▨

5 球面

命題 5.1.nnを正の整数とし、

Sn={x=(x1,…,xn+1)∈Rn+1 ∣ ∑i=1n+1(xi)2=1}S^n=\Bigl\{x=(x^1,\dots,x^{n+1})\in\mathbb{R}^{n+1}\ \Bigm|\ \textstyle\sum_{i=1}^{n+1}(x^i)^2=1\Bigr\}

にRn+1\mathbb{R}^{n+1}からの部分空間位相を与える。N=(0,…,0,1)N=(0,\dots,0,1)、S=(0,…,0,−1)S=(0,\dots,0,-1)と置き、UN=Sn∖{N}U_N=S^n\setminus\{N\}、US=Sn∖{S}U_S=S^n\setminus\{S\}とする。写像

φN(x)=11−xn+1(x1,…,xn),φS(x)=11+xn+1(x1,…,xn)\varphi_N(x)=\frac{1}{1-x^{n+1}}(x^1,\dots,x^n), \qquad \varphi_S(x)=\frac{1}{1+x^{n+1}}(x^1,\dots,x^n)

はそれぞれUNU_N、USU_SからRn\mathbb{R}^nへの同相写像であり、{(UN,φN),(US,φS)}\{(U_N,\varphi_N),(U_S,\varphi_S)\}はnn次元C∞C^\inftyアトラスである。座標変換は

φS∘φN−1(u)=u∥u∥2(u∈Rn∖{0})\varphi_S\circ\varphi_N^{-1}(u)=\frac{u}{\lVert u\rVert^{2}} \qquad(u\in\mathbb{R}^n\setminus\{0\})

でありC∞C^\infty級である。したがってSnS^nはnn次元C∞C^\infty多様体である。

証明.Rn+1\mathbb{R}^{n+1}は Hausdorff かつ第二可算であり、その部分空間であるSnS^nも Hausdorff かつ第二可算である(§E2.12 定義 4.1)。実際、分離する開集合との交わりを取れば Hausdorff 性が、基底の元との交わりを取れば可算基底が得られる。

UNU_N、USU_SはSnS^nの開集合であり、N≠SN\ne SであるからUN∪US=SnU_N\cup U_S=S^nである。

φN\varphi_Nの連続性は、x∈UNx\in U_Nで1−xn+1≠01-x^{n+1}\ne 0であり、成分が有理式であることから従う。逆写像を与える。u∈Rnu\in\mathbb{R}^nに対してr=∥u∥2r=\lVert u\rVert^2と置き

Φ(u)=1r+1(2u1,…,2un, r−1)\Phi(u)=\frac{1}{r+1}\bigl(2u^1,\dots,2u^n,\ r-1\bigr)

と定める。4r+(r−1)2=(r+1)24r+(r-1)^2=(r+1)^2であるから

∑i=1n(2uir+1)2+(r−1r+1)2=4r+(r−1)2(r+1)2=1\sum_{i=1}^{n}\left(\frac{2u^i}{r+1}\right)^{2}+\left(\frac{r-1}{r+1}\right)^{2} =\frac{4r+(r-1)^2}{(r+1)^2}=1

となりΦ(u)∈Sn\Phi(u)\in S^nである。第(n+1)(n+1)成分は(r−1)/(r+1)<1(r-1)/(r+1)<1であるからΦ(u)≠N\Phi(u)\ne N、すなわちΦ(u)∈UN\Phi(u)\in U_Nである。さらに

1−r−1r+1=2r+11-\frac{r-1}{r+1}=\frac{2}{r+1}

であるから

φN(Φ(u))=r+12⋅2ur+1=u\varphi_N(\Phi(u))=\frac{r+1}{2}\cdot\frac{2u}{r+1}=u

である。逆にx∈UNx\in U_Nに対してu=φN(x)u=\varphi_N(x)と置くと

r=∥u∥2=∑i=1n(xi)2(1−xn+1)2=1−(xn+1)2(1−xn+1)2=1+xn+11−xn+1r=\lVert u\rVert^2=\frac{\sum_{i=1}^{n}(x^i)^2}{(1-x^{n+1})^2}=\frac{1-(x^{n+1})^2}{(1-x^{n+1})^2}=\frac{1+x^{n+1}}{1-x^{n+1}}

であり、ここからr+1=2/(1−xn+1)r+1=2/(1-x^{n+1})とr−1=2xn+1/(1−xn+1)r-1=2x^{n+1}/(1-x^{n+1})を得るのでΦ(u)=x\Phi(u)=xである。よってφN\varphi_Nは全単射でありφN−1=Φ\varphi_N^{-1}=\Phiである。Φ\Phiは成分が有理式で分母r+1r+1が消えないので連続である。したがってφN\varphi_Nは同相写像である。φS\varphi_Sについても、第(n+1)(n+1)座標の符号を反転するSnS^nの同相写像と合成することで同じ議論が成り立つ。

座標変換を計算する。φN(S)=0\varphi_N(S)=0であるからφN(UN∩US)=Rn∖{0}\varphi_N(U_N\cap U_S)=\mathbb{R}^n\setminus\{0\}である。u∈Rn∖{0}u\in\mathbb{R}^n\setminus\{0\}に対してx=Φ(u)x=\Phi(u)と置くと

1+xn+1=1+r−1r+1=2rr+11+x^{n+1}=1+\frac{r-1}{r+1}=\frac{2r}{r+1}

であり、(x1,…,xn)=2u/(r+1)(x^1,\dots,x^n)=2u/(r+1)であるから

φS(x)=r+12r⋅2ur+1=ur=u∥u∥2\varphi_S(x)=\frac{r+1}{2r}\cdot\frac{2u}{r+1}=\frac{u}{r}=\frac{u}{\lVert u\rVert^2}

となる。Rn∖{0}\mathbb{R}^n\setminus\{0\}の上で分母∥u∥2\lVert u\rVert^2は消えないので、この写像の各成分は有理式としてC∞C^\inftyである。φN∘φS−1\varphi_N\circ\varphi_S^{-1}も同じ式で与えられるのでC∞C^\inftyである。よって二つのチャートはC∞C^\infty両立し、{(UN,φN),(US,φS)}\{(U_N,\varphi_N),(U_S,\varphi_S)\}はnn次元C∞C^\inftyアトラスである。▨

例 5.2 (二次元球面の座標変換の計算).n=2n=2の場合に命題 5.1の座標変換を成分で書き下す。φN(x,y,z)=(x/(1−z), y/(1−z))\varphi_N(x,y,z)=\bigl(x/(1-z),\ y/(1-z)\bigr)と置き、その像の座標を(u,v)(u,v)、r=u2+v2r=u^2+v^2と書く。逆写像は

φN−1(u,v)=(2ur+1, 2vr+1, r−1r+1)\varphi_N^{-1}(u,v)=\left(\frac{2u}{r+1},\ \frac{2v}{r+1},\ \frac{r-1}{r+1}\right)

である。この三成分の平方和は4u2+4v2+(r−1)2(r+1)2=4r+(r−1)2(r+1)2=1\dfrac{4u^2+4v^2+(r-1)^2}{(r+1)^2}=\dfrac{4r+(r-1)^2}{(r+1)^2}=1であり、確かにS2S^2の点を与える。1+z=1+r−1r+1=2rr+11+z=1+\dfrac{r-1}{r+1}=\dfrac{2r}{r+1}であるから

φS∘φN−1(u,v)=(2ur+1⋅r+12r, 2vr+1⋅r+12r)=(uu2+v2, vu2+v2)\varphi_S\circ\varphi_N^{-1}(u,v) =\left(\frac{2u}{r+1}\cdot\frac{r+1}{2r},\ \frac{2v}{r+1}\cdot\frac{r+1}{2r}\right) =\left(\frac{u}{u^2+v^2},\ \frac{v}{u^2+v^2}\right)

となる。この写像はR2∖{0}\mathbb{R}^2\setminus\{0\}上で定義された有理写像であり、分母u2+v2u^2+v^2がこの領域で消えないので、すべての階数の偏導関数が存在して連続である。すなわちC∞C^\infty級である。

6 実射影空間

命題 6.1.nnを正の整数とする。Rn+1∖{0}\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\}上の同値関係を、x∼yx\sim yであることを「y=λxy=\lambda xを満たすλ∈R∖{0}\lambda\in\mathbb{R}\setminus\{0\}が存在する」と定め、商集合をRPn\mathbb{RP}^n、商写像をπ ⁣:Rn+1∖{0}→RPn\pi\colon\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\}\to\mathbb{RP}^nと書き、RPn\mathbb{RP}^nに商位相を与える。π(x)\pi(x)を[x1:⋯:xn+1][x^1:\cdots:x^{n+1}]と書く。1≤i≤n+11\le i\le n+1に対して

Ui={[x]∈RPn∣xi≠0},φi([x])=(x1xi,…,xi−1xi,xi+1xi,…,xn+1xi)∈RnU_i=\{[x]\in\mathbb{RP}^n\mid x^i\ne 0\}, \qquad \varphi_i([x])=\left(\frac{x^1}{x^i},\dots,\frac{x^{i-1}}{x^i},\frac{x^{i+1}}{x^i},\dots,\frac{x^{n+1}}{x^i}\right)\in\mathbb{R}^n

と定める。このとき{(Ui,φi)}i=1n+1\{(U_i,\varphi_i)\}_{i=1}^{n+1}はRPn\mathbb{RP}^nのnn次元C∞C^\inftyアトラスであり、RPn\mathbb{RP}^nは Hausdorff かつ第二可算である。したがってRPn\mathbb{RP}^nはnn次元C∞C^\infty多様体である。

証明. 最初にπ\piが開写像であることを示す。V⊆Rn+1∖{0}V\subseteq\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\}を開集合とすると

π−1(π(V))=⋃λ∈R∖{0}λV\pi^{-1}(\pi(V))=\bigcup_{\lambda\in\mathbb{R}\setminus\{0\}}\lambda V

である。各λ≠0\lambda\ne 0に対してx↦λxx\mapsto\lambda xはRn+1∖{0}\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\}の同相写像であるからλV\lambda Vは開集合であり、右辺は開集合である。商位相の定義によりπ(V)\pi(V)は開集合である。

第二可算性は、Rn+1∖{0}\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\}が第二可算であることと補題 3.1から従う。

Hausdorff 性を示す。[x]≠[y][x]\ne[y]とする。このときxxとyyは一次従属でないので、xkyl−xlyk≠0x^ky^l-x^ly^k\ne 0を満たす添字の組(k,l)(k,l)が存在する。m(a,b)=akbl−albkm(a,b)=a^kb^l-a^lb^kと置くとmmは連続であるから

W={(a,b)∈(Rn+1∖{0})2∣m(a,b)≠0}W=\{(a,b)\in(\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\})^2\mid m(a,b)\ne 0\}

は開集合であり(x,y)∈W(x,y)\in Wである。積位相の定義により、x∈Ax\in A、y∈By\in Bを満たす開集合AA、BBでA×B⊆WA\times B\subseteq Wとなるものが存在する。π(A)\pi(A)とπ(B)\pi(B)は開集合であり、それぞれ[x][x]、[y][y]を含む。両者が交わると仮定すると、a∈Aa\in A、b∈Bb\in Bでπ(a)=π(b)\pi(a)=\pi(b)を満たすものが存在し、b=λab=\lambda a(λ≠0\lambda\ne 0)と表すことができる。すると

m(a,b)=ak(λal)−al(λak)=0m(a,b)=a^k(\lambda a^l)-a^l(\lambda a^k)=0

となり(a,b)∈W(a,b)\in Wに矛盾する。よってπ(A)∩π(B)=∅\pi(A)\cap\pi(B)=\varnothingであり、RPn\mathbb{RP}^nは Hausdorff である。

チャートを確かめる。π−1(Ui)={x∣xi≠0}\pi^{-1}(U_i)=\{x\mid x^i\ne0\}は開集合であるからUiU_iは開集合であり、x≠0x\ne 0ならばあるiiでxi≠0x^i\ne0となるので⋃iUi=RPn\bigcup_{i}U_i=\mathbb{RP}^nである。φi\varphi_iは代表元のとり方に依らない。実際、xxをλx\lambda xに取り替えても各商xj/xix^j/x^iは変わらない。si ⁣:Rn→Rn+1∖{0}s_i\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\}を

si(u1,…,un)=(u1,…,ui−1,1,ui,…,un)s_i(u^1,\dots,u^n)=(u^1,\dots,u^{i-1},1,u^{i},\dots,u^{n})

で定めると、π∘si\pi\circ s_iはφi\varphi_iの逆写像である。実際、φi(π(si(u)))=u\varphi_i(\pi(s_i(u)))=uであり、[x]∈Ui[x]\in U_iに対してsi(φi([x]))=x/xi∼xs_i(\varphi_i([x]))=x/x^i\sim xである。φi\varphi_iの連続性は次のように従う。W⊆RnW\subseteq\mathbb{R}^nを開集合とするとπ−1(φi−1(W))={x∣xi≠0, (x1/xi,… )∈W}\pi^{-1}(\varphi_i^{-1}(W))=\{x\mid x^i\ne0,\ (x^1/x^i,\dots)\in W\}であり、これは連続写像の逆像として{xi≠0}\{x^i\ne0\}の開集合、したがって開集合である。商位相の定義によりφi−1(W)\varphi_i^{-1}(W)は開集合である。φi−1=π∘si\varphi_i^{-1}=\pi\circ s_iは連続写像の合成であるから連続である。よってφi\varphi_iは同相写像である。

座標変換を計算する。i<ji<jとする。u∈φi(Ui∩Uj)u\in\varphi_i(U_i\cap U_j)とは、si(u)s_i(u)の第jj成分が00でないことである。si(u)s_i(u)の第jj成分はj>ij>iよりuj−1u^{j-1}である。したがってφi(Ui∩Uj)={u∈Rn∣uj−1≠0}\varphi_i(U_i\cap U_j)=\{u\in\mathbb{R}^n\mid u^{j-1}\ne 0\}であり、これは開集合である。この上で

φj∘φi−1(u)=φj([si(u)])\varphi_j\circ\varphi_i^{-1}(u)=\varphi_j\bigl([s_i(u)]\bigr)

は、si(u)s_i(u)の各成分をuj−1u^{j-1}で割って第jj成分を除いたものである。各成分はuj−1u^{j-1}を分母とする有理式であり、定義域の上で分母が消えないのでC∞C^\infty級である。i>ji>jの場合も添字を読み替えれば同じ形になる。逆向きの座標変換も同じ形であるから、任意の二つのチャートはC∞C^\infty両立する。▨

命題 6.1がRPn\mathbb{RP}^nの可微分構造を与える一次の場所である。「離散群の固有不連続な作用と商多様体」では、対蹠写像によるSnS^nの商としても同じ集合が得られることを扱うが、そこで示すのは、その構成が本記事で与えた可微分構造と同じものを与えるという点だけである。

7 開部分集合と積

命題 7.1.MMをnn次元C∞C^\infty多様体、U⊆MU\subseteq Mを空でない開集合とし、UUに部分空間位相を与える。MMの可微分構造に属するチャート(V,ψ)(V,\psi)に対して(V∩U,ψ∣V∩U)(V\cap U,\psi|_{V\cap U})を対応させると、これらの全体はUUのnn次元C∞C^\inftyアトラスであり、UUはnn次元C∞C^\infty多様体になる。この可微分構造を与えたUUをMMの開部分多様体という。さらに包含写像ι ⁣:U→M\iota\colon U\to Mは滑らかである。

証明.UUは Hausdorff 空間の部分空間であるから Hausdorff であり、第二可算空間の部分空間であるから第二可算である。UUがMMの開集合であることから、V∩UV\cap UはMMの開集合、したがってUUの開集合である。ψ\psiは同相写像であるからψ(V∩U)\psi(V\cap U)はRn\mathbb{R}^nの開集合であり、ψ∣V∩U\psi|_{V\cap U}はV∩UV\cap Uからその上への同相写像である。定義域の合併は⋃V(V∩U)=M∩U=U\bigcup_V(V\cap U)=M\cap U=Uである。二つの制限されたチャートの座標変換は、もとの座標変換の開集合への制限であるからC∞C^\inftyである。よってこの族はC∞C^\inftyアトラスである。

包含写像の滑らかさを示す。p∈Up\in Uを取り、ppを含むMMのチャート(V,ψ)(V,\psi)を取ると、(V∩U,ψ∣V∩U)(V\cap U,\psi|_{V\cap U})はUUのチャートであり、ι\iotaの座標表示はψ(V∩U)\psi(V\cap U)上の恒等写像である。恒等写像はC∞C^\inftyであるから、命題 4.2によりι\iotaは滑らかである。▨

例 2.4と命題 7.1を合わせると、Rn\mathbb{R}^nの任意の空でない開集合はnn次元C∞C^\infty多様体である。以後、Rn\mathbb{R}^nの開集合にはつねにこの可微分構造を与える。

系 7.2.MMをnn次元C∞C^\infty多様体、(U,φ)(U,\varphi)をMMの可微分構造に属するチャートとする。UUを開部分多様体、φ(U)\varphi(U)をRn\mathbb{R}^nの開部分多様体と見るとき、φ ⁣:U→φ(U)\varphi\colon U\to\varphi(U)は微分同相である。

証明.φ\varphiは同相写像であるから全単射かつ両方向に連続である。UUのチャート(U,φ)(U,\varphi)とφ(U)\varphi(U)のチャート(φ(U),id⁡)(\varphi(U),\operatorname{id})を取ると、φ\varphiの座標表示はid⁡∘φ∘φ−1\operatorname{id}\circ\varphi\circ\varphi^{-1}、すなわちφ(U)\varphi(U)上の恒等写像である。同じ二つのチャートに関するφ−1\varphi^{-1}の座標表示も恒等写像である。恒等写像はC∞C^\inftyであるから、命題 4.2によりφ\varphiとφ−1\varphi^{-1}はともに滑らかである。▨

命題 7.3.MMをmm次元C∞C^\infty多様体、NNをnn次元C∞C^\infty多様体とし、M×NM\times Nに積位相を与える。MMのチャート(U,φ)(U,\varphi)とNNのチャート(V,ψ)(V,\psi)に対して

φ×ψ ⁣:U×V⟶φ(U)×ψ(V)⊆Rm+n,(φ×ψ)(p,q)=(φ(p),ψ(q))\varphi\times\psi\colon U\times V\longrightarrow\varphi(U)\times\psi(V)\subseteq\mathbb{R}^{m+n}, \qquad (\varphi\times\psi)(p,q)=(\varphi(p),\psi(q))

を対応させると、これらの全体はM×NM\times Nの(m+n)(m+n)次元C∞C^\inftyアトラスであり、M×NM\times Nは(m+n)(m+n)次元C∞C^\infty多様体になる。

証明. Hausdorff 空間の積は Hausdorff である。実際、(p,q)≠(p′,q′)(p,q)\ne(p',q')ならばp≠p′p\ne p'またはq≠q′q\ne q'であり、いずれの場合も一方の因子で分離する開集合を取り、他方の因子は全体を取ればよい。第二可算空間の積は第二可算である。実際、それぞれの可算基底の元の積の全体は可算であり、積位相の基底になる。

U×VU\times Vは積位相の開集合であり、φ×ψ\varphi\times\psiは同相写像の積として同相写像である。像φ(U)×ψ(V)\varphi(U)\times\psi(V)はRm+n\mathbb{R}^{m+n}の開集合である。定義域の合併について、(p,q)∈M×N(p,q)\in M\times Nに対してp∈Up\in U、q∈Vq\in Vを満たすチャートを取れば(p,q)∈U×V(p,q)\in U\times Vである。

座標変換を見る。(U′,φ′)(U',\varphi')、(V′,ψ′)(V',\psi')をそれぞれMM、NNのチャートとすると、(U×V)∩(U′×V′)=(U∩U′)×(V∩V′)(U\times V)\cap(U'\times V')=(U\cap U')\times(V\cap V')であり、この上で

(φ′×ψ′)∘(φ×ψ)−1(x,y)=((φ′∘φ−1)(x), (ψ′∘ψ−1)(y))(\varphi'\times\psi')\circ(\varphi\times\psi)^{-1}(x,y)=\bigl((\varphi'\circ\varphi^{-1})(x),\ (\psi'\circ\psi^{-1})(y)\bigr)

が成り立つ。各成分はC∞C^\infty写像であり、変数が分離しているので全体としてC∞C^\inftyである。逆向きも同様である。よってこの族はC∞C^\inftyアトラスである。▨

例 7.4 (円環面).nnを正の整数とし、Tn=(S1)n=S1×⋯×S1T^n=(S^1)^n=S^1\times\cdots\times S^1(nn個の積)と定める。命題 5.1によりS1S^1は1次元C∞C^\infty多様体であり、命題 7.3をn−1n-1回適用するとTnT^nはnn次元C∞C^\infty多様体になる。n=2n=2の場合を円環面という。S1S^1の二つのチャートの積を取ることで、TnT^nは2n2^n個のチャートからなるアトラスを持つ。本単元で円環面を扱うときは、つねにこの積としての可微分構造を用いる。

例 7.5 (二次元の基本的な例). 本記事で構成した2次元C∞C^\infty多様体を並べる。

  • 球面S2S^2。命題 5.1により、立体射影による2枚のチャートからなるアトラスを持つ。
  • 円環面T2=S1×S1T^2=S^1\times S^1。例 7.4により、S1S^1の2枚のチャートの積として4枚のチャートからなるアトラスを持つ。
  • 実射影平面RP2\mathbb{RP}^2。命題 6.1により、3枚の斉次座標近傍からなるアトラスを持つ。

三つはいずれも、1枚のチャートでは覆うことができない。S2S^2とT2T^2はコンパクトであり、R2\mathbb{R}^2の開集合はコンパクトでないので、1枚のチャートでは覆うことができないことが分かる。RP2\mathbb{RP}^2についても、π\piがS2S^2からの連続な全射を誘導することからコンパクトであり、同じ理由による。

8 演習

問題 8.1 (可微分多様体の定義の確認). 次の各問に答えよ。

  1. 命題 2.3の証明において、A∗\mathcal{A}^{*}の二つのチャート(U,φ)(U,\varphi)、(V,ψ)(V,\psi)が両立することを示す段で、A\mathcal{A}がMMを覆うという仮定をどこで用いたかを述べよ。さらに、A\mathcal{A}がMMを覆わない場合に、両立という関係が推移的にならない例を挙げよ。
  2. R\mathbb{R}上の二つのアトラスA1={(R,id⁡)}\mathcal{A}_1=\{(\mathbb{R},\operatorname{id})\}とA2={(R,c)}\mathcal{A}_2=\{(\mathbb{R},c)\}(c(t)=t3c(t)=t^3)について、ccが同相写像であることを確かめ、A1\mathcal{A}_1とA2\mathcal{A}_2が同じ極大アトラスを定めないことを示せ。注意 2.5の判定を用いよ。
  3. 命題 3.2のLLについて、π\piが開写像であることの証明を再現せよ。さらに、LLの点列π(1/k,0)\pi(1/k,0)(kkは正の整数)がp0p_0とp1p_1の両方に収束することを確かめ、Hausdorff でない空間では収束先が一意でないことを確認せよ。
  4. 命題 3.3のYYが Lindelöf でないことを示せ。{Va}a∈R\{V_a\}_{a\in\mathbb{R}}が可算な部分被覆を持たないことを用いよ。
  5. 命題 4.2の証明で用いた等式 ψ′∘F∘φ′−1=(ψ′∘ψ−1)∘(ψ∘F∘φ−1)∘(φ∘φ′−1)\psi'\circ F\circ\varphi'^{-1}=(\psi'\circ\psi^{-1})\circ(\psi\circ F\circ\varphi^{-1})\circ(\varphi\circ\varphi'^{-1}) が成り立つ定義域を明示し、その定義域がφ′(q)\varphi'(q)の開近傍を含むことを示せ。
  6. 命題 5.1のφS\varphi_Sが同相写像であることを、φN\varphi_Nの場合の議論を書き換えて証明せよ。第(n+1)(n+1)座標の符号を反転する写像がSnS^nの同相写像であることを用いよ。
  7. n=1n=1の場合に命題 6.1の座標変換φ2∘φ1−1\varphi_2\circ\varphi_1^{-1}を具体的に書き下し、その定義域を求めよ。さらにRP1\mathbb{RP}^1がS1S^1と同相であることを、π\piのS1S^1への制限が二対一の全射であることから説明せよ。
  8. 命題 7.3の証明を、三つの多様体の積M×N×PM\times N\times Pに対して書き直せ。二回の適用によって得られる二つの可微分構造が一致することを、注意 2.5の判定によって確かめよ。
解答 (演習の解答).

(1)p∈U∩Vp\in U\cap Vに対してp∈Wp\in Wを満たす(W,χ)∈A(W,\chi)\in\mathcal{A}を取る段で用いた。A\mathcal{A}がMMを覆わなければ、この(W,χ)(W,\chi)が存在せず、φ(p)\varphi(p)の近傍で合成に分解することができない。推移性が破れる例として、M=RM=\mathbb{R}、A={((0,∞),id⁡∣(0,∞))}\mathcal{A}=\{((0,\infty),\operatorname{id}|_{(0,\infty)})\}を取る。このA\mathcal{A}はMMを覆わない。さらにA=(R,id⁡)A=(\mathbb{R},\operatorname{id})とC=(R,χ)C=(\mathbb{R},\chi)(χ(t)=t3\chi(t)=t^{3})を取る。AAとA\mathcal{A}のチャートの座標変換は(0,∞)(0,\infty)上の恒等写像であるから両立する。CCとA\mathcal{A}のチャートの座標変換は(0,∞)(0,\infty)上のt↦t3t\mapsto t^{3}とs↦s1/3s\mapsto s^{1/3}であり、(0,∞)(0,\infty)の上では分母が消えないのでいずれもC∞C^\inftyである。よって両立する。しかしAAとCCの座標変換s↦s1/3s\mapsto s^{1/3}はs=0s=0で微分することができないので、AAとCCは両立しない。すなわちAAとA\mathcal{A}のチャートが両立し、A\mathcal{A}のチャートとCCが両立しても、AAとCCが両立するとは限らない。命題 2.3の証明が成り立つのは、A\mathcal{A}がMMを覆っていて、U∩VU\cap Vの各点の近傍でA\mathcal{A}のチャートを経由することができるからである。(2)c(t)=t3c(t)=t^3は狭義単調増加な全単射であり、逆写像c−1(s)=s1/3c^{-1}(s)=s^{1/3}も連続であるから同相写像である。座標変換id⁡∘c−1(s)=s1/3\operatorname{id}\circ c^{-1}(s)=s^{1/3}はs=0s=0で微分することができないのでC∞C^\inftyでない。よって(R,id⁡)(\mathbb{R},\operatorname{id})と(R,c)(\mathbb{R},c)は両立せず、A1∪A2\mathcal{A}_1\cup\mathcal{A}_2はアトラスでない。したがって二つは同じ極大アトラスを定めない。(3)σ(x,i)=(x,1−i)\sigma(x,i)=(x,1-i)は同相写像であり、VVをZZの開集合とするとπ−1(π(V))\pi^{-1}(\pi(V))は、VV自身と、VVから第一成分が00の点を除いた開集合のσ\sigmaによる像との合併に等しい。両者とも開集合であるから合併も開集合であり、商位相の定義によりπ(V)\pi(V)は開集合である。点列については、p0p_0を含む任意の開集合AAに対して、あるε>0\varepsilon>0で(−ε,ε)×{0}⊆π−1(A)(-\varepsilon,\varepsilon)\times\{0\}\subseteq\pi^{-1}(A)となるので、1/k<ε1/k<\varepsilonを満たすすべてのkkでπ(1/k,0)∈A\pi(1/k,0)\in Aである。p1p_1についても、π(1/k,0)=π(1/k,1)\pi(1/k,0)=\pi(1/k,1)であることから同じ結論を得る。よって同じ点列がp0p_0とp1p_1の両方に収束する。(4){Va}a∈R\{V_a\}_{a\in\mathbb{R}}はYYの開被覆である。可算な部分族{Va1,Va2,… }\{V_{a_1},V_{a_2},\dots\}を取ると、{a1,a2,… }\{a_1,a_2,\dots\}に属さないa∈Ra\in\mathbb{R}が存在し(R\mathbb{R}は可算でない)、VaV_aの点はこの部分族のどの元にも属さない。よって可算な部分被覆は存在せず、YYは Lindelöf でない。§E2.21 命題 1.6の対偶により、YYは第二可算でない。(5)等式はφ′(Ω)\varphi'(\Omega)の上で成り立つ。ここでΩ=U∩U′∩F−1(V∩V′)\Omega=U\cap U'\cap F^{-1}(V\cap V')である。UU、U′U'は開集合、V∩V′V\cap V'は開集合でありFFは連続であるからF−1(V∩V′)F^{-1}(V\cap V')は開集合であり、Ω\Omegaは開集合である。q∈U∩U′q\in U\cap U'かつF(q)∈V∩V′F(q)\in V\cap V'であるからq∈Ωq\in\Omegaであり、φ′\varphi'が同相写像であることからφ′(Ω)\varphi'(\Omega)はφ′(q)\varphi'(q)を含む開集合である。(6)τ(x1,…,xn+1)=(x1,…,xn,−xn+1)\tau(x^1,\dots,x^{n+1})=(x^1,\dots,x^n,-x^{n+1})はRn+1\mathbb{R}^{n+1}の線形同相写像でありSnS^nをSnS^nへ写すので、SnS^nの同相写像を誘導する。τ(N)=S\tau(N)=Sであるからτ(US)=UN\tau(U_S)=U_Nであり、φS=φN∘τ∣US\varphi_S=\varphi_N\circ\tau|_{U_S}が成り立つ。同相写像の合成は同相写像であるからφS\varphi_Sは同相写像である。(7)n=1n=1ではφ1([x1:x2])=x2/x1\varphi_1([x^1:x^2])=x^2/x^1、φ2([x1:x2])=x1/x2\varphi_2([x^1:x^2])=x^1/x^2である。φ1(U1∩U2)=R∖{0}\varphi_1(U_1\cap U_2)=\mathbb{R}\setminus\{0\}であり、その上でφ2∘φ1−1(u)=1/u\varphi_2\circ\varphi_1^{-1}(u)=1/uである。S1S^1の点xxと−x-xは同じ同値類に属し、逆に[x]=[y][x]=[y]かつx,y∈S1x,y\in S^1ならばy=±xy=\pm xである。よってπ∣S1\pi|_{S^1}は二対一の全射であり、RP1\mathbb{RP}^1はS1S^1の対蹠点を同一視した商である。この商は、S1S^1上の写像z↦z2z\mapsto z^2(複素数として表したときの平方)を経由してS1S^1と同相になる。(8)M×N×PM\times N\times Pに積位相を与え、三つのチャートの積φ×ψ×θ\varphi\times\psi\times\thetaを取ればよい。Hausdorff 性と第二可算性は二つの場合と同じ議論を三回行えば従う。(M×N)×P(M\times N)\times PとM×(N×P)M\times(N\times P)の可微分構造については、いずれのアトラスも(φ×ψ)×θ(\varphi\times\psi)\times\thetaとφ×(ψ×θ)\varphi\times(\psi\times\theta)から成り、これらはRm+n+p\mathbb{R}^{m+n+p}の元の並べ方を同一視すれば同じ写像である。したがって二つのアトラスの合併はふたたびアトラスであり、注意 2.5により同じ可微分構造を定める。▨

9 仮定と後続記事の境界

定義 2.2は次元nnを固定している。連結でない多様体の各連結成分が異なる次元を持つ場合を許す流儀もあるが、本単元では次元を一つに固定する。多様体の次元がアトラスのとり方に依らないことは、局所的にRm\mathbb{R}^mとRn\mathbb{R}^nの開集合が同相ならばm=nm=nであるという主張(領域不変性)を要するので、本記事では次元を定義の一部として与えている。「接空間と微分写像」は、接空間の次元を用いて、微分同相な二つの多様体の次元が一致することを示す。それは同じ位相空間の上に次元の異なる可微分構造が入らないという主張ではなく、その主張には依然として領域不変性が要る。

本記事は境界を持つ多様体を扱わない。半空間へのチャートによる定義と、境界点と内点の区別が微分同相で保たれることは「境界を持つ多様体と境界の向き」が扱う。

本記事は多様体の上に Riemann 計量を導入しない。命題 5.1はSnS^nをRn+1\mathbb{R}^{n+1}の部分集合として書いているが、用いているのは部分空間位相と座標の式だけであり、Rn+1\mathbb{R}^{n+1}の内積から誘導される長さや角度は本記事のどの主張にも現れない。計量を選んで初めて定まる量、すなわち長さ、角度、曲率、測地線および共変微分は「Riemann 幾何 I」が扱う。

滑らかな写像の微分を線形写像として定義することは、接空間を構成したのちに行う。それまでは、写像の階数のような微分に関する条件を、座標表示の Jacobi 行列によって述べる。

参考文献

  1. John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, New York, 2013.チャート、アトラス、極大アトラスによる可微分構造の定め方、および球面、実射影空間、積多様体の構成を参考にした。
  2. Frank W. Warner, Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups, Graduate Texts in Mathematics 94, Springer, 1983, originally published 1971.与えられたアトラスと両立するチャート全体が極大アトラスをなすことの述べ方を参考にした。
  3. Loring W. Tu, An Introduction to Manifolds, 2nd ed., Universitext, Springer, New York, 2011.原点を二つ持つ直線および非可算個の直線の直和を、位相的な仮定の独立性を示す例として扱う扱い方を参考にした。

前提記事