§E17.20左不変ベクトル場と Lie 環

最終更新

Lie 群では、左移動LgL_gが多様体の微分同相である(§E17.19 命題 3.1)。したがって単位元における接ベクトルを一つ選ぶと、それを左移動で運ぶことによって各点の接ベクトルが定まる。こうして得られる対応がベクトル場になるならば、群の一点における線形代数の情報が、多様体全体にわたるベクトル場の情報と同じ内容を持つことになる。

本記事は、まず左移動で不変なベクトル場を定義し、その全体g\mathfrak{g}と単位元における接空間TeGT_eGが線形同型であることを、両方向の対応を書いて証明する。逆向きの対応が実際にベクトル場を与えること、すなわちC∞C^\inftyであることは、証明の中で確かめる。次に、左不変ベクトル場の括弧積がふたたび左不変であることを、括弧積の自然性の系(§E17.7 定理 2.6)から導く。これによってTeGT_eGに括弧積が定まり、Lie 環の構造が入る。最後に、一般線形群とその埋め込み Lie 部分群において、この括弧積が行列の交換子AB−BAAB-BAに一致することを座標で計算し、同じ交換子が群の交換子exp⁡(tA)exp⁡(tB)exp⁡(−tA)exp⁡(−tB)\exp(tA)\exp(tB)\exp(-tA)\exp(-tB)のttの二次の項として現れることを、行列指数関数の展開によって確かめる。

以下、GGを Lie 群(§E17.19 定義 1.1)、eeをその単位元とし、X(G)\mathfrak{X}(G)でGG上のC∞C^\inftyベクトル場の全体を表す。ベクトル場がC∞(G)C^\infty(G)上の導分として作用することは§E17.4 定理 5.3による。

1 左不変ベクトル場

定義 1.1.X∈X(G)X\in\mathfrak{X}(G)が左不変 (left-invariant) であるとは、すべてのg∈Gg\in Gに対して

(Lg)∗X=X(L_g)_*X=X

が成り立つことをいう。ここで(Lg)∗(L_g)_*は微分同相LgL_gによる押し出し(§E17.7 定義 2.1)である。同値な形で書くと、すべてのg,h∈Gg,h\in Gに対して

d(Lg)h(Xh)=Xghd(L_g)_h\bigl(X_h\bigr)=X_{gh}

が成り立つことをいう。GG上の左不変なC∞C^\inftyベクトル場の全体をg\mathfrak{g}と書く。

証明. 二つの条件が同値であることを示す。§E17.7 定義 2.1により、q∈Gq\in Gに対して

((Lg)∗X)q=d(Lg)Lg−1(q)(XLg−1(q))\bigl((L_g)_*X\bigr)_q=d(L_g)_{L_g^{-1}(q)}\bigl(X_{L_g^{-1}(q)}\bigr)

である。§E17.19 命題 3.1によりLg−1=Lg−1L_g^{-1}=L_{g^{-1}}であるからLg−1(q)=g−1qL_g^{-1}(q)=g^{-1}qである。h=g−1qh=g^{-1}qと置くとq=ghq=ghであり、hhはqqがGGを動くときGGを動く。したがって(Lg)∗X=X(L_g)_*X=Xがすべてのqqで成り立つことと、d(Lg)h(Xh)=Xghd(L_g)_h(X_h)=X_{gh}がすべてのhhで成り立つことは同値である。▨

左不変であるという条件は、XXの値が単位元における値によって完全に決まることを含んでいる。実際、h=eh=eと取るとd(Lg)e(Xe)=Xgd(L_g)_e(X_e)=X_gである。逆に、TeGT_eGの元を一つ与えると、この式によって各点の接ベクトルが定まる。問題は、こうして定まる対応がC∞C^\inftyベクトル場になるかどうかである。次の定理はこれを肯定的に解決する。

定理 1.2.GGを Lie 群とする。写像

ε ⁣:g⟶TeG,ε(X)=Xe\varepsilon\colon\mathfrak{g}\longrightarrow T_eG,\qquad\varepsilon(X)=X_e

は線形同型である。その逆写像は、v∈TeGv\in T_eGに対して

(Xv)g=d(Lg)e(v)(g∈G)\bigl(X^{v}\bigr)_g=d(L_g)_e(v)\qquad(g\in G)

で定まる対応v↦Xvv\mapsto X^{v}で与えられる。とくにXvX^{v}はGG上のC∞C^\inftyベクトル場であり、左不変である。したがってdim⁡g=dim⁡TeG=dim⁡G\dim\mathfrak{g}=\dim T_eG=\dim Gである。

証明の順序は次のとおりである。第一に、g\mathfrak{g}がX(G)\mathfrak{X}(G)の線形部分空間でありε\varepsilonが線形であることを確かめる。第二に、v∈TeGv\in T_eGに対して定めた対応XvX^{v}が左不変性の式を満たすことを、連鎖律とLg∘Lh=LghL_g\circ L_h=L_{gh}から導く。第三に、XvX^{v}がC∞C^\inftyであることを示す。ここが証明の中心である。vvを通る滑らかな曲線γ\gammaを取り、XvfX^{v}fを積の写像μ\muとγ\gammaの合成のttについての偏導関数として書き直す。μ\muがC∞C^\inftyであることから、この偏導関数はggについてC∞C^\inftyである。第四に、ε\varepsilonとv↦Xvv\mapsto X^{v}が互いに逆であることを確かめる。

証明. g\mathfrak{g}が線形部分空間でありε\varepsilonが線形であること。X,Y∈gX,Y\in\mathfrak{g}、a,b∈Ra,b\in\mathbb{R}とすると、d(Lg)hd(L_g)_hが線形写像であるから

d(Lg)h((aX+bY)h)=a d(Lg)h(Xh)+b d(Lg)h(Yh)=aXgh+bYgh=(aX+bY)ghd(L_g)_h\bigl((aX+bY)_h\bigr)=a\,d(L_g)_h(X_h)+b\,d(L_g)_h(Y_h)=aX_{gh}+bY_{gh}=(aX+bY)_{gh}

である。よってaX+bY∈gaX+bY\in\mathfrak{g}である。ε(aX+bY)=(aX+bY)e=aXe+bYe\varepsilon(aX+bY)=(aX+bY)_e=aX_e+bY_eであるからε\varepsilonは線形である。

XvX^{v}が左不変性の式を満たすこと。g,h∈Gg,h\in Gとする。Lg∘Lh=LghL_g\circ L_h=L_{gh}である。実際、すべてのk∈Gk\in Gに対してLg(Lh(k))=g(hk)=(gh)k=Lgh(k)L_g(L_h(k))=g(hk)=(gh)k=L_{gh}(k)である。連鎖律(§E17.3 定理 5.3)をeeにおいて適用すると

d(Lg)h∘d(Lh)e=d(Lgh)ed(L_g)_h\circ d(L_h)_e=d(L_{gh})_e

である(Lh(e)=hL_h(e)=hに注意する)。したがって

d(Lg)h((Xv)h)=d(Lg)h(d(Lh)e(v))=d(Lgh)e(v)=(Xv)ghd(L_g)_h\bigl((X^{v})_h\bigr)=d(L_g)_h\bigl(d(L_h)_e(v)\bigr)=d(L_{gh})_e(v)=(X^{v})_{gh}

である。

XvX^{v}がC∞C^\inftyであること。XvX^{v}はGGの各点ggに接ベクトル(Xv)g∈TgG(X^{v})_g\in T_gGを対応させる(滑らかさをまだ仮定しない)対応である。§E17.4 命題 5.2により、XvX^{v}がC∞C^\inftyベクトル場であることを示すには、GGの一つのアトラスに属する各チャートについて成分がC∞C^\inftyであることを示せば十分である。成分は座標関数への作用として書かれるので、次を示せば足りる。すなわち、GGの任意の開集合UUとf∈C∞(U)f\in C^\infty(U)に対して、関数

g⟼(Xv)g(f)(g∈U)g\longmapsto(X^{v})_g(f)\qquad(g\in U)

がUU上でC∞C^\inftyであることを示せばよい。ここで§E17.3 注意 1.5の同一視によって、UUの上でだけ定義された関数への接ベクトルの作用を用いている。

§E17.3 命題 4.3により、v∈TeGv\in T_eGに対してε0>0\varepsilon_0>0と滑らかな曲線γ ⁣:(−ε0,ε0)→G\gamma\colon(-\varepsilon_0,\varepsilon_0)\to Gでγ(0)=e\gamma(0)=eかつvγ=vv_\gamma=v、すなわちすべてのϕ∈C∞(G)\phi\in C^\infty(G)に対してv(ϕ)=(ϕ∘γ)′(0)v(\phi)=(\phi\circ\gamma)'(0)を満たすものが存在する。

g∈Ug\in Uを固定する。微分の定義(§E17.3 定義 5.1)により

(Xv)g(f)=d(Lg)e(v)(f)=v(f∘Lg)=((f∘Lg)∘γ)′(0)=ddt∣t=0f(g γ(t))(X^{v})_g(f)=d(L_g)_e(v)(f)=v\bigl(f\circ L_g\bigr) =\bigl((f\circ L_g)\circ\gamma\bigr)'(0) =\left.\frac{d}{dt}\right|_{t=0}f\bigl(g\,\gamma(t)\bigr)

である。ここでf∘Lgf\circ L_gはLg−1(U)=g−1UL_g^{-1}(U)=g^{-1}Uの上で定義されたC∞C^\infty関数であり、e∈g−1Ue\in g^{-1}Uである。

写像Θ(g,t)=g γ(t)=μ(g,γ(t))\Theta(g,t)=g\,\gamma(t)=\mu\bigl(g,\gamma(t)\bigr)を考える。μ ⁣:G×G→G\mu\colon G\times G\to Gは§E17.19 定義 1.1によりC∞C^\inftyであり、(g,t)↦(g,γ(t))(g,t)\mapsto(g,\gamma(t))はC∞C^\infty写像であるから(積のチャートに関する座標表示が二つのC∞C^\infty写像を並べたものである)、§E17.1 系 4.3によりΘ ⁣:G×(−ε0,ε0)→G\Theta\colon G\times(-\varepsilon_0,\varepsilon_0)\to GはC∞C^\inftyである。

g0∈Ug_0\in Uを取る。Θ(g0,0)=g0∈U\Theta(g_0,0)=g_0\in UでありΘ\Thetaは連続であるから、g0g_0の開近傍W⊆UW\subseteq Uと0<ε1≤ε00<\varepsilon_1\le\varepsilon_0を、Θ(W×(−ε1,ε1))⊆U\Theta(W\times(-\varepsilon_1,\varepsilon_1))\subseteq Uとなるように取ることができる。WWの上のチャート(W,φ)(W,\varphi)をGGの可微分構造から取り(必要ならWWを縮める)、φ\varphiの像の座標をxxと書くと、

(x,t)⟼f(Θ(φ−1(x),t))(x,t)\longmapsto f\Bigl(\Theta\bigl(\varphi^{-1}(x),t\bigr)\Bigr)

はC∞C^\infty写像の合成としてφ(W)×(−ε1,ε1)\varphi(W)\times(-\varepsilon_1,\varepsilon_1)の上でC∞C^\inftyである。C∞C^\infty写像の偏導関数はふたたびC∞C^\inftyであるから、この写像のttについての偏導関数をt=0t=0で評価したもの

x⟼∂∂t∣t=0f(Θ(φ−1(x),t))x\longmapsto\left.\frac{\partial}{\partial t}\right|_{t=0}f\Bigl(\Theta\bigl(\varphi^{-1}(x),t\bigr)\Bigr)

はφ(W)\varphi(W)の上でC∞C^\inftyである。上の計算により、この関数はx↦(Xv)φ−1(x)(f)x\mapsto(X^{v})_{\varphi^{-1}(x)}(f)に等しい。すなわちg↦(Xv)g(f)g\mapsto(X^{v})_g(f)はWWの上でC∞C^\inftyである。g0∈Ug_0\in Uは任意であったから、この関数はUUの上でC∞C^\inftyである。

したがって、GGのチャート(U,φ)(U,\varphi)、φ=(x1,…,xn)\varphi=(x^1,\dots,x^n)を取ると、XvX^{v}の成分(Xv)i=Xv(xi)(X^{v})^{i}=X^{v}(x^{i})はUU上でC∞C^\inftyであり、§E17.4 命題 5.2によりXv∈X(G)X^{v}\in\mathfrak{X}(G)である。左不変性は上で示したのでXv∈gX^{v}\in\mathfrak{g}である。

二つの対応が互いに逆であること。v∈TeGv\in T_eGに対してε(Xv)=(Xv)e=d(Le)e(v)\varepsilon(X^{v})=(X^{v})_e=d(L_e)_e(v)である。Le=id⁡GL_e=\operatorname{id}_Gであるから§E17.3 定理 5.3によりd(Le)e=id⁡TeGd(L_e)_e=\operatorname{id}_{T_eG}であり、ε(Xv)=v\varepsilon(X^{v})=vである。逆にX∈gX\in\mathfrak{g}を取りv=Xev=X_eと置くと、左不変性により各ggで(Xv)g=d(Lg)e(Xe)=Xg(X^{v})_g=d(L_g)_e(X_e)=X_gであるからXv=XX^{v}=Xである。

v↦Xvv\mapsto X^{v}が線形であることは、d(Lg)ed(L_g)_eが線形であることから従う。よってε\varepsilonは線形同型である。§E17.3 定理 3.3によりdim⁡TeG=dim⁡G\dim T_eG=\dim Gである。▨

注意 1.3 (左不変性が滑らかさの検証を一点へ集める).定理 1.2の証明で滑らかさを示す段は、積の写像μ\muがC∞C^\inftyであるという§E17.19 定義 1.1の条件を用いている。GGが多様体であって群でもあるというだけでは、μ\muのC∞C^\infty性が無く、XvX^{v}がC∞C^\inftyであることを導くことができない。すなわち、この定理は Lie 群の定義に置いた両立の条件を実際に用いている。

2 括弧積で閉じること

定理 2.1.GGを Lie 群、X,Y∈gX,Y\in\mathfrak{g}とすると[X,Y]∈g[X,Y]\in\mathfrak{g}である。

証明.g∈Gg\in Gを任意に取る。§E17.19 命題 3.1によりLgL_gはGGの微分同相である。XXとYYは左不変であるから(Lg)∗X=X(L_g)_*X=X、(Lg)∗Y=Y(L_g)_*Y=Yである。§E17.7 定理 2.6の系を微分同相LgL_gへ適用すると

(Lg)∗[X,Y]=[(Lg)∗X, (Lg)∗Y]=[X,Y](L_g)_*[X,Y]=\bigl[(L_g)_*X,\ (L_g)_*Y\bigr]=[X,Y]

である。[X,Y][X,Y]は§E17.7 定義 1.2によりGG上のC∞C^\inftyベクトル場である。ggは任意であったから定義 1.1により[X,Y]∈g[X,Y]\in\mathfrak{g}である。▨

定義 2.2.R\mathbb{R}上の有限次元ベクトル空間VVと、双線形写像[⋅,⋅] ⁣:V×V→V[\cdot,\cdot]\colon V\times V\to Vの組が Lie 環 (Lie algebra) であるとは、次の二つが成り立つことをいう。

  1. すべてのu,w∈Vu,w\in Vに対して[u,w]=−[w,u][u,w]=-[w,u]である。
  2. すべてのu,w,z∈Vu,w,z\in Vに対して Jacobi 律 [[u,w],z]+[[w,z],u]+[[z,u],w]=0[[u,w],z]+[[w,z],u]+[[z,u],w]=0 が成り立つ。

この双線形写像を括弧積 (Lie bracket) という。

定理 2.3.GGを Lie 群とする。

  1. g\mathfrak{g}は、§E17.7 定義 1.2の括弧積によって Lie 環である。
  2. u,w∈TeGu,w\in T_eGに対して [u,w]g=[Xu,Xw]e[u,w]_{\mathfrak{g}}=\bigl[X^{u},X^{w}\bigr]_e と定めると、TeGT_eGはこの括弧積によって Lie 環であり、定理 1.2の線形同型ε\varepsilonは括弧積を保つ。

TeGT_eGにこの構造を与えたものをGGの Lie 環という。以後、g\mathfrak{g}とTeGT_eGをε\varepsilonによって同一視し、どちらもg\mathfrak{g}と書く。

証明.(1)を示す。定理 1.2によりg\mathfrak{g}はX(G)\mathfrak{X}(G)の有限次元線形部分空間である。定理 2.1により括弧積はg\mathfrak{g}から出ない。双線形性、交代性および Jacobi 律は§E17.7 命題 1.4がX(G)\mathfrak{X}(G)の全体について与えており、部分空間へ制限しても成り立つ。よってg\mathfrak{g}は定義 2.2の意味で Lie 環である。

(2)を示す。ε\varepsilonは線形同型であり、その逆写像はv↦Xvv\mapsto X^{v}である。TeGT_eGの括弧積を上の式で定めると、定義から

ε([X,Y])=[X,Y]e=[XXe,XYe]e=[Xe,Ye]g=[ε(X),ε(Y)]g\varepsilon\bigl([X,Y]\bigr)=[X,Y]_e=\bigl[X^{X_e},X^{Y_e}\bigr]_e=[X_e,Y_e]_{\mathfrak{g}}=\bigl[\varepsilon(X),\varepsilon(Y)\bigr]_{\mathfrak{g}}

である。ここでXXe=XX^{X_e}=XとXYe=YX^{Y_e}=Yを用いた(定理 1.2)。したがってε\varepsilonは括弧積を保つ。双線形性、交代性および Jacobi 律は、ε\varepsilonが線形同型で括弧積を保つことから、g\mathfrak{g}の対応する性質へ移して確かめることができる。すなわち、u=ε(X)u=\varepsilon(X)などと置けば、TeGT_eGにおける等式はg\mathfrak{g}における等式にε\varepsilonを施したものである。▨

3 行列群における括弧積

以下、Mn(R)M_n(\mathbb{R})を§E17.19 命題 2.1のとおりRn2\mathbb{R}^{n^{2}}と同一視し、GLn(R)GL_n(\mathbb{R})をその開部分多様体と見る。§E17.19 注意 2.2により各点の接空間はMn(R)M_n(\mathbb{R})と同一視される。Mn(R)M_n(\mathbb{R})の成分を座標関数xijx^{ij}(1≤i,j≤n1\le i,j\le n)として用いる。すなわちxij(A)=Aijx^{ij}(A)=A_{ij}である。

補題 3.1.g∈GLn(R)g\in GL_n(\mathbb{R})、A∈GLn(R)A\in GL_n(\mathbb{R})、H∈Mn(R)H\in M_n(\mathbb{R})とする。§E17.19 注意 2.2の同一視のもとで

d(Lg)A(H)=gHd(L_g)_A(H)=gH

が成り立つ。

証明.LgL_gはGLn(R)GL_n(\mathbb{R})の上でLg(B)=gBL_g(B)=gBで与えられる。この写像は、Mn(R)M_n(\mathbb{R})の上の線形写像Λg(B)=gB\Lambda_g(B)=gBのGLn(R)GL_n(\mathbb{R})への制限である。線形写像の全微分は各点でその写像自身に等しい。実際、Λg(B+tH)=Λg(B)+tΛg(H)\Lambda_g(B+tH)=\Lambda_g(B)+t\Lambda_g(H)であり、ttの一次の項の係数はΛg(H)=gH\Lambda_g(H)=gHである。§E17.19 注意 2.2の同一視のもとでd(Lg)A(H)=gHd(L_g)_A(H)=gHである。▨

命題 3.2.A∈Mn(R)=TI(GLn(R))A\in M_n(\mathbb{R})=T_I\bigl(GL_n(\mathbb{R})\bigr)に対して、定理 1.2が定める左不変ベクトル場XAX^{A}は

(XA)g=gA(g∈GLn(R))\bigl(X^{A}\bigr)_g=gA\qquad\bigl(g\in GL_n(\mathbb{R})\bigr)

で与えられる。座標xijx^{ij}に関する成分は

(XA)ij(g)=(gA)ij=∑k=1ngikAkj\bigl(X^{A}\bigr)^{ij}(g)=(gA)_{ij}=\sum_{k=1}^{n}g_{ik}A_{kj}

であり、ggの成分についての一次式である。

証明.定理 1.2により(XA)g=d(Lg)I(A)(X^{A})_g=d(L_g)_I(A)であり、補題 3.1によりこれはgAgAである。成分は§E17.3 例 3.4の同一視により(gA)ij(gA)_{ij}である。▨

定理 3.3.nnを正の整数とする。

  1. A,B∈Mn(R)A,B\in M_n(\mathbb{R})に対して、GLn(R)GL_n(\mathbb{R})の Lie 環における括弧積は [A,B]gl=AB−BA[A,B]_{\mathfrak{gl}}=AB-BA である。
  2. G⊆GLn(R)G\subseteq GL_n(\mathbb{R})を埋め込み Lie 部分群(§E17.19 定義 1.1)とし、g=TIG\mathfrak{g}=T_IGを包含写像の微分によってMn(R)M_n(\mathbb{R})の線形部分空間と見る。このときg\mathfrak{g}は行列の交換子で閉じており、GGの Lie 環における括弧積は[A,B]g=AB−BA[A,B]_{\mathfrak{g}}=AB-BAである。

同じ主張がGLn(C)GL_n(\mathbb{C})とその埋め込み Lie 部分群についても、Mn(C)M_n(\mathbb{C})を実ベクトル空間と見て成り立つ。

証明では、まず§E17.7 命題 1.3を命題 3.2の成分へ適用して(1)を計算で得る。次に、包含写像ι ⁣:G→GLn(R)\iota\colon G\to GL_n(\mathbb{R})についてXAX^{A}とXAX^{A}がι\iotaに関して関連することをι∘LgG=LgGL∘ι\iota\circ L^{G}_g=L^{GL}_g\circ\iotaから確かめ、§E17.7 定理 2.6を適用して(2)を得る。

証明.(1)を示す。座標xijx^{ij}に関する偏微分を∂kl=∂/∂xkl\partial_{kl}=\partial/\partial x^{kl}と書く。命題 3.2により(XB)ij(g)=∑m=1ngimBmj(X^{B})^{ij}(g)=\sum_{m=1}^{n}g_{im}B_{mj}であるから

∂kl(XB)ij=∑m=1n∂gim∂gklBmj=∑m=1nδikδmlBmj=δikBlj\partial_{kl}\bigl(X^{B}\bigr)^{ij}=\sum_{m=1}^{n}\frac{\partial g_{im}}{\partial g_{kl}}B_{mj} =\sum_{m=1}^{n}\delta_{ik}\delta_{ml}B_{mj}=\delta_{ik}B_{lj}

である。ここで∂gim/∂gkl=δikδml\partial g_{im}/\partial g_{kl}=\delta_{ik}\delta_{ml}を用いた。したがって

∑k=1n∑l=1n(XA)kl ∂kl(XB)ij=∑k=1n∑l=1n(gA)kl δikBlj=∑l=1n(gA)ilBlj=(gAB)ij\sum_{k=1}^{n}\sum_{l=1}^{n}\bigl(X^{A}\bigr)^{kl}\,\partial_{kl}\bigl(X^{B}\bigr)^{ij} =\sum_{k=1}^{n}\sum_{l=1}^{n}(gA)_{kl}\,\delta_{ik}B_{lj} =\sum_{l=1}^{n}(gA)_{il}B_{lj}=(gAB)_{ij}

である。添字AAとBBを入れ替えると

∑k=1n∑l=1n(XB)kl ∂kl(XA)ij=(gBA)ij\sum_{k=1}^{n}\sum_{l=1}^{n}\bigl(X^{B}\bigr)^{kl}\,\partial_{kl}\bigl(X^{A}\bigr)^{ij}=(gBA)_{ij}

である。§E17.7 命題 1.3により

[XA,XB]ij(g)=(gAB)ij−(gBA)ij=(g(AB−BA))ij\bigl[X^{A},X^{B}\bigr]^{ij}(g)=(gAB)_{ij}-(gBA)_{ij}=\bigl(g(AB-BA)\bigr)_{ij}

である。すなわち[XA,XB]g=g(AB−BA)[X^{A},X^{B}]_g=g(AB-BA)であり、命題 3.2により右辺は(XAB−BA)g(X^{AB-BA})_gに等しい。g=Ig=Iと取ると

[A,B]gl=[XA,XB]I=AB−BA[A,B]_{\mathfrak{gl}}=\bigl[X^{A},X^{B}\bigr]_I=AB-BA

である。

(2)を示す。ι ⁣:G→GLn(R)\iota\colon G\to GL_n(\mathbb{R})を包含写像とする。GGは埋め込み部分多様体であるからι\iotaはC∞C^\inftyであり、dιgd\iota_gは単射である(§E17.5 命題 4.2)。TIGT_IGをdιId\iota_Iの像と同一視し、g⊆Mn(R)\mathfrak{g}\subseteq M_n(\mathbb{R})と見る。

A∈gA\in\mathfrak{g}を取る。GG上の左不変ベクトル場をYAY^{A}、GLn(R)GL_n(\mathbb{R})上の左不変ベクトル場をXAX^{A}と書く。YAY^{A}とXAX^{A}がι\iotaに関して関連することを示す。g∈Gg\in Gとすると、GGの左移動LgGL^{G}_gとGLn(R)GL_n(\mathbb{R})の左移動LgGLL^{GL}_gについてι∘LgG=LgGL∘ι\iota\circ L^{G}_g=L^{GL}_g\circ\iotaが成り立つ(両辺はh∈Gh\in Gをghghへ写す)。§E17.3 定理 5.3をe=Ie=Iにおいて適用すると

dιg∘d(LgG)I=d(LgGL)I∘dιId\iota_g\circ d\bigl(L^{G}_g\bigr)_I=d\bigl(L^{GL}_g\bigr)_I\circ d\iota_I

である。両辺をA∈TIGA\in T_IGに施すと、左辺はdιg((YA)g)d\iota_g\bigl((Y^{A})_g\bigr)、右辺はd(LgGL)I(A)=(XA)gd(L^{GL}_g)_I(A)=(X^{A})_gである(dιI(A)=Ad\iota_I(A)=Aは同一視による)。よってYAY^{A}とXAX^{A}はι\iotaに関して関連する(§E17.7 定義 2.3)。

A,B∈gA,B\in\mathfrak{g}とする。§E17.7 定理 2.6により[YA,YB][Y^{A},Y^{B}]と[XA,XB][X^{A},X^{B}]もι\iotaに関して関連する。g=Ig=Iで評価すると

dιI([YA,YB]I)=[XA,XB]I=AB−BAd\iota_I\Bigl(\bigl[Y^{A},Y^{B}\bigr]_I\Bigr)=\bigl[X^{A},X^{B}\bigr]_I=AB-BA

である。左辺は、同一視のもとで[A,B]g∈g⊆Mn(R)[A,B]_{\mathfrak{g}}\in\mathfrak{g}\subseteq M_n(\mathbb{R})である。したがって[A,B]g=AB−BA[A,B]_{\mathfrak{g}}=AB-BAであり、とくにAB−BA∈gAB-BA\in\mathfrak{g}である。すなわちg\mathfrak{g}は行列の交換子で閉じている。

複素の場合。Mn(C)M_n(\mathbb{C})をR2n2\mathbb{R}^{2n^{2}}と同一視すると、GLn(C)GL_n(\mathbb{C})はその開部分多様体である(§E17.19 命題 2.1)。実の座標を取って上と同じ計算を行うことができるが、複素の座標xijx^{ij}とその共役を用いても同じ結論に至る。実際、(XB)ij(g)=∑m=1ngimBmj(X^{B})^{ij}(g)=\sum_{m=1}^{n}g_{im}B_{mj}はggの成分について複素線形であり、実部と虚部に分けて偏微分を計算しても、複素数の積の双線形性から上と同じ形の和が得られる。よって[A,B]gln(C)=AB−BA[A,B]_{\mathfrak{gl}_n(\mathbb{C})}=AB-BAである。埋め込み Lie 部分群についても同じ議論が成り立つ。▨

例 3.4 (古典行列群の Lie 環).§E17.19 注意 4.11に並べた単位元における接空間が、定理 3.3のとおり交換子で閉じていることを直接に確かめる。

直交群。TIO(n)={H∣HT+H=0}T_IO(n)=\{H\mid H^{\mathsf T}+H=0\}である。H,KH,Kをこの条件を満たす行列とすると

(HK−KH)T=KTHT−HTKT=(−K)(−H)−(−H)(−K)=KH−HK=−(HK−KH)(HK-KH)^{\mathsf T}=K^{\mathsf T}H^{\mathsf T}-H^{\mathsf T}K^{\mathsf T}=(-K)(-H)-(-H)(-K)=KH-HK=-(HK-KH)

である。よってHK−KHHK-KHも交代行列である。

ユニタリ群。TIU(n)={H∣H∗+H=0}T_IU(n)=\{H\mid H^{*}+H=0\}である。(HK−KH)∗=K∗H∗−H∗K∗=KH−HK=−(HK−KH)(HK-KH)^{*}=K^{*}H^{*}-H^{*}K^{*}=KH-HK=-(HK-KH)であるから、歪 Hermite 行列の交換子はふたたび歪 Hermite 行列である。

特殊線形群。TISLn(R)={H∣tr⁡H=0}T_ISL_n(\mathbb{R})=\{H\mid\operatorname{tr}H=0\}である。トレースについてtr⁡(HK)=tr⁡(KH)\operatorname{tr}(HK)=\operatorname{tr}(KH)が成り立つ。実際、

tr⁡(HK)=∑i=1n∑k=1nHikKki=∑k=1n∑i=1nKkiHik=tr⁡(KH)\operatorname{tr}(HK)=\sum_{i=1}^{n}\sum_{k=1}^{n}H_{ik}K_{ki} =\sum_{k=1}^{n}\sum_{i=1}^{n}K_{ki}H_{ik}=\operatorname{tr}(KH)

である。よってtr⁡(HK−KH)=0\operatorname{tr}(HK-KH)=0であり、条件はHHとKKが満たすかどうかによらず交換子について成り立つ。とくにsln(R)\mathfrak{sl}_n(\mathbb{R})は交換子で閉じている。

斜交群。TISp(2n,R)={H∣HTJ+JH=0}T_ISp(2n,\mathbb{R})=\{H\mid H^{\mathsf T}J+JH=0\}である。HTJ=−JHH^{\mathsf T}J=-JHとKTJ=−JKK^{\mathsf T}J=-JKから

(HK−KH)TJ=(KTHT−HTKT)J=KT(−JH)−HT(−JK)=−(KTJ)H+(HTJ)K(HK-KH)^{\mathsf T}J=(K^{\mathsf T}H^{\mathsf T}-H^{\mathsf T}K^{\mathsf T})J =K^{\mathsf T}(-JH)-H^{\mathsf T}(-JK) =-(K^{\mathsf T}J)H+(H^{\mathsf T}J)K

であり、ふたたびKTJ=−JKK^{\mathsf T}J=-JK、HTJ=−JHH^{\mathsf T}J=-JHを用いると

=JKH−JHK=−J(HK−KH)=JKH-JHK=-J(HK-KH)

である。よってHK−KHHK-KHも条件を満たす。

sl2(R)\mathfrak{sl}_2(\mathbb{R})の括弧積の表。§E17.19 例 4.6の基底を

h=(100−1),x=(0100),y=(0010)h=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix},\qquad x=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix},\qquad y=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}

と書く。直接の計算により

hx=(0100),xh=(0−100),hy=(00−10),yh=(0010)hx=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix},\quad xh=\begin{pmatrix}0&-1\\0&0\end{pmatrix},\quad hy=\begin{pmatrix}0&0\\-1&0\end{pmatrix},\quad yh=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}

であり、

xy=(1000),yx=(0001)xy=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix},\qquad yx=\begin{pmatrix}0&0\\0&1\end{pmatrix}

である。したがって

[h,x]=2x,[h,y]=−2y,[x,y]=h[h,x]=2x,\qquad [h,y]=-2y,\qquad [x,y]=h

である。三つの括弧積はいずれもトレースが00であり、sl2(R)\mathfrak{sl}_2(\mathbb{R})に属する。

4 群の交換子の二次の項

定理 3.3は、行列群の括弧積が交換子AB−BAAB-BAであることを述べている。この交換子は、群の交換子ghg−1h−1ghg^{-1}h^{-1}を単位元の近くで二次まで展開したときに現れる。以下ではこれを行列指数関数の展開によって確かめる。ここで用いるのは行列指数関数だけであり、一般の Lie 群の指数写像は用いない。指数写像の一般論は「1パラメータ部分群と指数写像」が扱う。

補題 4.1.Mn(R)M_n(\mathbb{R})に劣乗法的なノルム∥⋅∥\lVert\cdot\rVertを一つ固定する(§E10.10 命題 1.2と同じものである)。A∈Mn(R)A\in M_n(\mathbb{R})とし、

EA(t)=etA−(I+tA+t22A2)E_A(t)=e^{tA}-\left(I+tA+\frac{t^{2}}{2}A^{2}\right)

と置く。∣t∣≤1|t|\le1を満たすすべてのttに対して

∥EA(t)∥≤∣t∣3 e∥A∥\bigl\lVert E_A(t)\bigr\rVert\le|t|^{3}\,e^{\lVert A\rVert}

が成り立つ。

証明.§E10.10 定義 1.1と§E10.10 命題 1.2により、級数etA=∑k≥0tkAk/k!e^{tA}=\sum_{k\ge0}t^{k}A^{k}/k!は絶対収束する。定義から

EA(t)=∑k=3∞tkAkk!E_A(t)=\sum_{k=3}^{\infty}\frac{t^{k}A^{k}}{k!}

である。ノルムの劣乗法性により∥Ak∥≤∥A∥k\lVert A^{k}\rVert\le\lVert A\rVert^{k}である。∣t∣≤1|t|\le1かつk≥3k\ge3ならば∣t∣k≤∣t∣3|t|^{k}\le|t|^{3}であるから

∥EA(t)∥≤∑k=3∞∣t∣k∥A∥kk!≤∣t∣3∑k=3∞∥A∥kk!≤∣t∣3∑k=0∞∥A∥kk!=∣t∣3e∥A∥\bigl\lVert E_A(t)\bigr\rVert\le\sum_{k=3}^{\infty}\frac{|t|^{k}\lVert A\rVert^{k}}{k!} \le|t|^{3}\sum_{k=3}^{\infty}\frac{\lVert A\rVert^{k}}{k!} \le|t|^{3}\sum_{k=0}^{\infty}\frac{\lVert A\rVert^{k}}{k!}=|t|^{3}e^{\lVert A\rVert}

である。▨

定理 4.2.A,B∈Mn(R)A,B\in M_n(\mathbb{R})とし、

Φ(t)=etAetBe−tAe−tB(t∈R)\Phi(t)=e^{tA}e^{tB}e^{-tA}e^{-tB}\qquad(t\in\mathbb{R})

と置く。AAとBBだけに依存する定数C≥0C\ge0が存在して、∣t∣≤1|t|\le1を満たすすべてのttに対して

∥Φ(t)−I−t2(AB−BA)∥≤C ∣t∣3\bigl\lVert\Phi(t)-I-t^{2}(AB-BA)\bigr\rVert\le C\,|t|^{3}

が成り立つ。とくに

lim⁡t→0Φ(t)−It2=AB−BA\lim_{t\to0}\frac{\Phi(t)-I}{t^{2}}=AB-BA

である。

証明の要は次の二段である。第一に、P(t)=etAetBP(t)=e^{tA}e^{tB}を二次まで展開するとP(t)=I+tS+t2Q+(三次以上)P(t)=I+tS+t^{2}Q+(\text{三次以上})となる(S=A+BS=A+B、Q=12A2+AB+12B2Q=\tfrac12A^{2}+AB+\tfrac12B^{2})。第二に、e−tAe−tB=P(−t)e^{-tA}e^{-tB}=P(-t)であるからΦ(t)=P(t)P(−t)\Phi(t)=P(t)P(-t)であり、ttの一次の項が打ち消し合って二次の項は2Q−S22Q-S^{2}になる。2Q−S2=AB−BA2Q-S^{2}=AB-BAを計算する。

証明. 以下、∣t∣≤1|t|\le1とし、a=∥A∥a=\lVert A\rVert、b=∥B∥b=\lVert B\rVertと置く。C1,C2,…C_1,C_2,\dotsはaaとbbだけに依存する定数を表す。

第一段。P(t)=etAetBP(t)=e^{tA}e^{tB}を展開する。p(t)=I+tA+t22A2p(t)=I+tA+\tfrac{t^{2}}{2}A^{2}、q(t)=I+tB+t22B2q(t)=I+tB+\tfrac{t^{2}}{2}B^{2}と置くと、補題 4.1によりetA=p(t)+EA(t)e^{tA}=p(t)+E_A(t)、etB=q(t)+EB(t)e^{tB}=q(t)+E_B(t)であり∥EA(t)∥≤∣t∣3ea\lVert E_A(t)\rVert\le|t|^{3}e^{a}、∥EB(t)∥≤∣t∣3eb\lVert E_B(t)\rVert\le|t|^{3}e^{b}である。∣t∣≤1|t|\le1であるから

∥p(t)∥≤1+a+a22≤ea,∥q(t)∥≤eb\lVert p(t)\rVert\le1+a+\tfrac{a^{2}}{2}\le e^{a},\qquad \lVert q(t)\rVert\le e^{b}

である。したがって

P(t)=p(t)q(t)+p(t)EB(t)+EA(t)q(t)+EA(t)EB(t)P(t)=p(t)q(t)+p(t)E_B(t)+E_A(t)q(t)+E_A(t)E_B(t)

の右辺の第二項以降のノルムは、劣乗法性により

ea∣t∣3eb+∣t∣3eaeb+∣t∣3ea⋅∣t∣3eb≤3ea+b∣t∣3=C1∣t∣3e^{a}|t|^{3}e^{b}+|t|^{3}e^{a}e^{b}+|t|^{3}e^{a}\cdot|t|^{3}e^{b}\le 3e^{a+b}|t|^{3}=C_1|t|^{3}

で抑えられる(∣t∣3≤1|t|^{3}\le1を用いた)。

p(t)q(t)p(t)q(t)を展開する。

p(t)q(t)=I+t(A+B)+t2(A22+AB+B22)+t3R1+t4R2p(t)q(t)=I+t(A+B)+t^{2}\left(\frac{A^{2}}{2}+AB+\frac{B^{2}}{2}\right)+t^{3}R_1+t^{4}R_2

であり、

R1=A2B2+AB22,R2=A2B24R_1=\frac{A^{2}B}{2}+\frac{AB^{2}}{2},\qquad R_2=\frac{A^{2}B^{2}}{4}

である。実際、p(t)q(t)p(t)q(t)の展開はti+jt^{i+j}(0≤i,j≤20\le i,j\le2)の項の和であり、t0t^{0}の項はII、t1t^{1}の項はA+BA+B、t2t^{2}の項はA22+AB+B22\tfrac{A^{2}}{2}+AB+\tfrac{B^{2}}{2}、t3t^{3}の項はA22B+AB22\tfrac{A^{2}}{2}B+A\tfrac{B^{2}}{2}、t4t^{4}の項はA22⋅B22\tfrac{A^{2}}{2}\cdot\tfrac{B^{2}}{2}である。∣t∣≤1|t|\le1であるから∥t3R1+t4R2∥≤∣t∣3(∥R1∥+∥R2∥)=C2∣t∣3\lVert t^{3}R_1+t^{4}R_2\rVert\le|t|^{3}(\lVert R_1\rVert+\lVert R_2\rVert)=C_2|t|^{3}である。

S=A+BS=A+B、Q=A22+AB+B22Q=\tfrac{A^{2}}{2}+AB+\tfrac{B^{2}}{2}と置くと、以上より

P(t)=I+tS+t2Q+Δ(t),∥Δ(t)∥≤C3∣t∣3(1)P(t)=I+tS+t^{2}Q+\Delta(t),\qquad\lVert\Delta(t)\rVert\le C_3|t|^{3} \tag{1}

である(C3=C1+C2C_3=C_1+C_2)。

第二段。Φ(t)=P(t)P(−t)\Phi(t)=P(t)P(-t)を計算する。e−tA=e(−t)Ae^{-tA}=e^{(-t)A}、e−tB=e(−t)Be^{-tB}=e^{(-t)B}であるからe−tAe−tB=P(−t)e^{-tA}e^{-tB}=P(-t)であり、Φ(t)=P(t)P(−t)\Phi(t)=P(t)P(-t)である。(1) をttと−t-tについて書き

P(t)=I+tS+t2Q+Δ(t),P(−t)=I−tS+t2Q+Δ(−t)P(t)=I+tS+t^{2}Q+\Delta(t),\qquad P(-t)=I-tS+t^{2}Q+\Delta(-t)

とする。u(t)=I+tS+t2Qu(t)=I+tS+t^{2}Q、v(t)=I−tS+t2Qv(t)=I-tS+t^{2}Qと置くと、∣t∣≤1|t|\le1に対して∥u(t)∥≤1+∥S∥+∥Q∥=C4\lVert u(t)\rVert\le1+\lVert S\rVert+\lVert Q\rVert=C_4、∥v(t)∥≤C4\lVert v(t)\rVert\le C_4である。

Φ(t)=u(t)v(t)+u(t)Δ(−t)+Δ(t)v(t)+Δ(t)Δ(−t)\Phi(t)=u(t)v(t)+u(t)\Delta(-t)+\Delta(t)v(t)+\Delta(t)\Delta(-t)

であり、第二項以降のノルムは2C4C3∣t∣3+C32∣t∣6≤C5∣t∣32C_4C_3|t|^{3}+C_3^{2}|t|^{6}\le C_5|t|^{3}で抑えられる。

u(t)v(t)u(t)v(t)を展開する。

u(t)v(t)=I+t(S−S)+t2(Q+Q−S2)+t3(SQ−QS)+t4Q2u(t)v(t)=I+t(S-S)+t^{2}\bigl(Q+Q-S^{2}\bigr)+t^{3}\bigl(SQ-QS\bigr)+t^{4}Q^{2}

である。実際、t0t^{0}の項はII、t1t^{1}の項は−S+S=0-S+S=0、t2t^{2}の項はQ+S⋅(−S)+Q=2Q−S2Q+S\cdot(-S)+Q=2Q-S^{2}である。t3t^{3}の項は、uuのt1t^{1}の項tStSとvvのt2t^{2}の項t2Qt^{2}Qの積t3SQt^{3}SQと、uuのt2t^{2}の項t2Qt^{2}Qとvvのt1t^{1}の項−tS-tSの積−t3QS-t^{3}QSの和であるから、t3(SQ−QS)t^{3}(SQ-QS)である。t4t^{4}の項はt2Q⋅t2Q=t4Q2t^{2}Q\cdot t^{2}Q=t^{4}Q^{2}である。よって

u(t)v(t)=I+t2(2Q−S2)+t3(SQ−QS)+t4Q2u(t)v(t)=I+t^{2}\bigl(2Q-S^{2}\bigr)+t^{3}(SQ-QS)+t^{4}Q^{2}

であり、∣t∣≤1|t|\le1に対して最後の二項のノルムは∣t∣3(∥SQ−QS∥+∥Q2∥)=C6∣t∣3|t|^{3}\bigl(\lVert SQ-QS\rVert+\lVert Q^{2}\rVert\bigr)=C_6|t|^{3}で抑えられる。

二次の項を計算する。

2Q=A2+2AB+B2,S2=(A+B)2=A2+AB+BA+B22Q=A^{2}+2AB+B^{2},\qquad S^{2}=(A+B)^{2}=A^{2}+AB+BA+B^{2}

である。ここで(A+B)2=A2+AB+BA+B2(A+B)^{2}=A^{2}+AB+BA+B^{2}は行列の積が結合的で分配的であることによる(ABABとBABAをまとめてはならない)。したがって

2Q−S2=(A2+2AB+B2)−(A2+AB+BA+B2)=AB−BA2Q-S^{2}=\bigl(A^{2}+2AB+B^{2}\bigr)-\bigl(A^{2}+AB+BA+B^{2}\bigr)=AB-BA

である。

以上を合わせると、C=C5+C6C=C_5+C_6と置いて

∥Φ(t)−I−t2(AB−BA)∥≤C∣t∣3(∣t∣≤1)\bigl\lVert\Phi(t)-I-t^{2}(AB-BA)\bigr\rVert\le C|t|^{3}\qquad(|t|\le1)

を得る。両辺をt2t^{2}(t≠0t\ne0)で割ると

∥Φ(t)−It2−(AB−BA)∥≤C∣t∣\left\lVert\frac{\Phi(t)-I}{t^{2}}-(AB-BA)\right\rVert\le C|t|

であり、t→0t\to0のとき右辺は00へ収束する。▨

例 4.3 (SL2(R)SL_2(\mathbb{R})における群の交換子の検算).

A=x=(0100),B=y=(0010)A=x=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix},\qquad B=y=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}

と置く。A2=0A^{2}=0、B2=0B^{2}=0であるから

etA=I+tA=(1t01),etB=I+tB=(10t1)e^{tA}=I+tA=\begin{pmatrix}1&t\\0&1\end{pmatrix},\qquad e^{tB}=I+tB=\begin{pmatrix}1&0\\t&1\end{pmatrix}

であり、いずれも行列式が11であるからSL2(R)SL_2(\mathbb{R})に属する。積を計算する。

etAetB=(1+t2tt1),e−tAe−tB=(1+t2−t−t1)e^{tA}e^{tB}=\begin{pmatrix}1+t^{2}&t\\t&1\end{pmatrix}, \qquad e^{-tA}e^{-tB}=\begin{pmatrix}1+t^{2}&-t\\-t&1\end{pmatrix}

である。したがって

Φ(t)=(1+t2tt1)(1+t2−t−t1)=((1+t2)2−t2−t(1+t2)+tt(1+t2)−t−t2+1)=(1+t2+t4−t3t31−t2)\Phi(t)=\begin{pmatrix}1+t^{2}&t\\t&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1+t^{2}&-t\\-t&1\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}(1+t^{2})^{2}-t^{2}&-t(1+t^{2})+t\\ t(1+t^{2})-t&-t^{2}+1\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}1+t^{2}+t^{4}&-t^{3}\\ t^{3}&1-t^{2}\end{pmatrix}

である。よって

Φ(t)−I=(t2+t4−t3t3−t2)=t2(100−1)+t3(t−110)\Phi(t)-I=\begin{pmatrix}t^{2}+t^{4}&-t^{3}\\ t^{3}&-t^{2}\end{pmatrix} =t^{2}\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}+t^{3}\begin{pmatrix}t&-1\\1&0\end{pmatrix}

であり、t→0t\to0のとき(Φ(t)−I)/t2→(100−1)=h\bigl(\Phi(t)-I\bigr)/t^{2}\to\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}=hである。

一方、例 3.4の計算により[x,y]=xy−yx=h[x,y]=xy-yx=hである。二つは一致し、定理 4.2と整合する。

Φ(t)\Phi(t)の行列式も確かめる。det⁡Φ(t)=(1+t2+t4)(1−t2)+t6=1−t2+t2−t4+t4−t6+t6=1\det\Phi(t)=(1+t^{2}+t^{4})(1-t^{2})+t^{6}=1-t^{2}+t^{2}-t^{4}+t^{4}-t^{6}+t^{6}=1であり、Φ(t)∈SL2(R)\Phi(t)\in SL_2(\mathbb{R})である。これはSL2(R)SL_2(\mathbb{R})が群であることと整合する。

注意 4.4 (この記事が用いる指数の範囲).定理 4.2は、行列指数関数etA=∑k≥0tkAk/k!e^{tA}=\sum_{k\ge0}t^{k}A^{k}/k!だけを用いて述べられている。一般の Lie 群に対する指数写像exp⁡ ⁣:g→G\exp\colon\mathfrak{g}\to Gの定義と、それが原点の近傍で局所微分同相であることは「1パラメータ部分群と指数写像」が扱う。同じ記事は、行列群においてexp⁡\expが行列指数関数に一致することも示す。

「閉部分群定理」は、群の交換子の極限公式を一般の Lie 群について述べる。そこでは指数はm2m^{2}乗であり、本記事のt2t^{2}で割る形とは書き方が異なる。両者は、t=1/mt=1/mと取りm2m^{2}倍することが、t2t^{2}で割ることに対応するという関係にある。

5 演習

問題 5.1 (左不変ベクトル場と Lie 環の確認). 次の各問に答えよ。

  1. 定理 1.2の証明でXvX^{v}の滑らかさを示した段を再現せよ。とくに、積の写像μ\muがC∞C^\inftyであるという仮定をどこで用いたかを指摘し、この仮定を落とすと議論のどこが止まるかを述べよ。
  2. 定理 1.2の証明では、vvを通る滑らかな曲線γ\gammaの存在を§E17.3 命題 4.3から得た。その存在証明で用いる構成(チャートを取り、直線の像を取る)を書き下し、γ\gammaが一意でないことを確かめよ。
  3. 定理 2.1の証明は§E17.7 定理 2.6の系を用いている。系ではなく本体の主張(関連するベクトル場についての形)を直接用いて同じ結論を導け。XXとXXがLgL_gに関して関連することを、左不変性から確かめよ。
  4. 右移動RgR_gで不変なベクトル場の全体をg′\mathfrak{g}'と書く。g′\mathfrak{g}'もまたTeGT_eGと線形同型であり、括弧積で閉じていることを示せ。さらにGGがアーベル群であるときg=g′\mathfrak{g}=\mathfrak{g}'であることを示せ。
  5. 定理 3.3 (1)の計算を再現せよ。とくに∂kl(XB)ij=δikBlj\partial_{kl}(X^{B})^{ij}=\delta_{ik}B_{lj}を導く段で、座標関数xijx^{ij}が互いに独立であることをどこで用いたかを明示せよ。
  6. 定理 3.3 (2)の証明では、ι∘LgG=LgGL∘ι\iota\circ L^{G}_g=L^{GL}_g\circ\iotaから関連性を導いた。この等式が成り立つ理由を述べ、GGがGLn(R)GL_n(\mathbb{R})の部分群でない単なる部分多様体である場合に、この等式が成り立たないことを示せ。
  7. 定理 4.2の証明で、u(t)v(t)u(t)v(t)のt3t^{3}の項がSQ−QSSQ-QSであってQS−SQQS-SQではないことを、積の順序を追って確かめよ。
  8. AAとBBが可換であるとき、定理 4.2のΦ(t)\Phi(t)が恒等的にIIに等しいことを§E10.10 命題 2.1から導け。この場合に定理の主張がどう読めるかを述べよ。
解答 (演習の解答).
  1. 滑らかさは、(g,t)↦f(gγ(t))=f(μ(g,γ(t)))(g,t)\mapsto f(g\gamma(t))=f(\mu(g,\gamma(t)))がC∞C^\inftyであることから従う。この写像がC∞C^\inftyであることを述べる段でμ\muのC∞C^\infty性を用いた。μ\muがC∞C^\inftyでなければ、ggを動かしたときにgγ(t)g\gamma(t)がggについてC∞C^\inftyに動くことを述べることができず、ttについての偏導関数がggについてC∞C^\inftyであるという結論を導くことができない。すなわちXvX^{v}が滑らかな切断であることを示すことができない。
  2. eeを含むチャート(U,φ)(U,\varphi)を取り、φ(e)=0\varphi(e)=0としてよい。v=∑i=1nai∂/∂xi∣ev=\sum_{i=1}^{n}a^{i}\partial/\partial x^{i}|_eと書き、a=(a1,…,an)a=(a^{1},\dots,a^{n})と置く。ε0>0\varepsilon_0>0を∣t∣<ε0|t|<\varepsilon_0に対してta∈φ(U)ta\in\varphi(U)となるように取り、γ(t)=φ−1(ta)\gamma(t)=\varphi^{-1}(ta)と定める。γ\gammaは一意でない。実際、γ2(t)=φ−1(ta+t2c)\gamma_2(t)=\varphi^{-1}(ta+t^{2}c)(c∈Rnc\in\mathbb{R}^{n}は任意)と定めると、(φ∘γ2)′(0)=a(\varphi\circ\gamma_2)'(0)=aであるからγ2\gamma_2も同じ接ベクトルを与えるが、c≠0c\ne0ならばγ≠γ2\gamma\ne\gamma_2である。
  3. X∈gX\in\mathfrak{g}とすると、左不変性の第二の形により各hhでd(Lg)h(Xh)=Xgh=XLg(h)d(L_g)_h(X_h)=X_{gh}=X_{L_g(h)}である。これは§E17.7 定義 2.3の定義そのものであり、XXとXXがLgL_gに関して関連することを意味する。YYについても同様である。§E17.7 定理 2.6の本体により[X,Y][X,Y]と[X,Y][X,Y]はLgL_gに関して関連する。すなわち各hhでd(Lg)h([X,Y]h)=[X,Y]ghd(L_g)_h([X,Y]_h)=[X,Y]_{gh}であり、[X,Y][X,Y]は左不変である。
  4. Rg∘Rh=RhgR_g\circ R_h=R_{hg}である(k(hg)=(kh)gk(hg)=(kh)gによる)。v∈TeGv\in T_eGに対して(Zv)g=d(Rg)e(v)(Z^{v})_g=d(R_g)_e(v)と定めると、d(Rg)h((Zv)h)=d(Rg)h(d(Rh)e(v))=d(Rhg)e(v)=(Zv)hgd(R_g)_h\bigl((Z^{v})_h\bigr)=d(R_g)_h\bigl(d(R_h)_e(v)\bigr)=d(R_{hg})_e(v)=(Z^{v})_{hg}であるから右不変である。滑らかさは定理 1.2の証明と同じ議論による(Θ(g,t)=γ(t)g\Theta(g,t)=\gamma(t)gを取る)。括弧積で閉じることは、RgR_gが微分同相であることと§E17.7 定理 2.6の系から従う。GGがアーベル群ならばLg=RgL_g=R_gであるから、左不変性と右不変性は同じ条件でありg=g′\mathfrak{g}=\mathfrak{g}'である。
  5. (XB)ij(g)=∑m=1ngimBmj(X^{B})^{ij}(g)=\sum_{m=1}^{n}g_{im}B_{mj}である。座標関数xklx^{kl}はMn(R)≅Rn2M_n(\mathbb{R})\cong\mathbb{R}^{n^{2}}の標準座標であり、n2n^{2}個の成分は互いに独立な座標である。したがって∂gim/∂gkl\partial g_{im}/\partial g_{kl}は、(i,m)=(k,l)(i,m)=(k,l)のとき11、それ以外のとき00であり、δikδml\delta_{ik}\delta_{ml}に等しい。この点で座標関数の独立性を用いた。よって∂kl(XB)ij=∑m=1nδikδmlBmj=δikBlj\partial_{kl}(X^{B})^{ij}=\sum_{m=1}^{n}\delta_{ik}\delta_{ml}B_{mj}=\delta_{ik}B_{lj}である。
  6. h∈Gh\in Gに対してι(LgG(h))=gh\iota(L^{G}_g(h))=ghであり、LgGL(ι(h))=ghL^{GL}_g(\iota(h))=ghである。両者が等しいのは、GGの積がGLn(R)GL_n(\mathbb{R})の積の制限であることによる。GGが部分群でなければ、g∈Gg\in Gとh∈Gh\in Gに対してghghがGGに属するとは限らないので、LgGL^{G}_gという写像自体をGGからGGへの写像として定義することができない。すなわち等式の左辺が意味を持たない。
  7. u(t)=I+tS+t2Qu(t)=I+tS+t^{2}Q、v(t)=I−tS+t2Qv(t)=I-tS+t^{2}Qである。積u(t)v(t)u(t)v(t)におけるt3t^{3}の項は、uuの項とvvの項で次数の和が33になる組の積の和である。組は(tS, t2Q)(tS,\ t^{2}Q)と(t2Q, −tS)(t^{2}Q,\ -tS)の二つであり、順序はuuの因子が左、vvの因子が右である。したがってt3t^{3}の項はt⋅t2 SQ+t2⋅(−t) QS=t3(SQ−QS)t\cdot t^{2}\,SQ+t^{2}\cdot(-t)\,QS=t^{3}(SQ-QS)である。順序を逆にすると符号が変わる。
  8. AAとBBが可換ならば§E10.10 命題 2.1によりetAetB=etA+tB=etBetAe^{tA}e^{tB}=e^{tA+tB}=e^{tB}e^{tA}である。したがって Φ(t)=etAetBe−tAe−tB=etAe−tAetBe−tB=I⋅I=I\Phi(t)=e^{tA}e^{tB}e^{-tA}e^{-tB}=e^{tA}e^{-tA}e^{tB}e^{-tB}=I\cdot I=I である(可換であるからetBe^{tB}とe−tAe^{-tA}の順序を入れ替えることができ、§E10.10 定理 2.2によりetAe−tA=Ie^{tA}e^{-tA}=Iである)。このときΦ(t)−I=0\Phi(t)-I=0であり、定理の主張はAB−BA=0AB-BA=0を与える。実際、可換であることはAB=BAAB=BAと同値である。

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6 境界と次

左不変性と右不変性。本記事は左移動に関する不変性だけを扱った。右不変ベクトル場の全体もTeGT_eGと線形同型であり括弧積で閉じているが、その括弧積は左不変の場合と符号が異なる。この対応と、両者を結ぶ写像である逆元の写像の微分は、本記事の主張には含まれない。

Lie 環の抽象論へ進まない。本記事は定義 2.2で Lie 環を定義し、定理 2.3でTeGT_eGにその構造を与えるところまでを扱った。Lie 環の抽象論、可解性と冪零性、Killing 形式および分類は「Lie 環論」が扱う。Lie 群と Lie 環の対応、すなわち Lie 環の準同型から Lie 群の準同型を作る問題、および随伴表現は「Lie 群論」が扱う。

指数の扱い。定理 4.2は行列指数関数の展開だけを用いており、一般の Lie 群の指数写像を先取りしていない。一般の Lie 群についての対応する主張、すなわち Lie 積公式と群の交換子の極限公式は「閉部分群定理」が供給する。

次の記事。「1パラメータ部分群と指数写像」は、定理 1.2が与える左不変ベクトル場が完備であることを示す。証明は、局所流を左移動で移して定義域を延ばす議論であり、台のコンパクト性を用いない。そこから 1 パラメータ部分群と指数写像を構成する。「閉部分群定理」は、定理 3.3が与える行列群の括弧積の形を、古典行列群が閉部分群として Lie 群になることの確認に用いる。

参考文献

  1. John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, New York, 2013.左不変ベクトル場と単位元における接空間の同型、および行列群の括弧積が交換子であることの計算を参考にした。
  2. Frank W. Warner, Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups, Graduate Texts in Mathematics 94, Springer, 1983, originally published 1971.左不変ベクトル場の全体が Lie 環をなすことの述べ方を参考にした。
  3. Brian C. Hall, Lie Groups, Lie Algebras, and Representations, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 222, Springer, 2015.行列指数関数の展開によって群の交換子の二次の項を取り出す計算を参考にした。

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