1 指数写像による座標での群の積
補題 1.1.μ:G×G→Gを積の写像とする。T(e,e)(G×G)=TeG⊕TeGという§E17.1 命題 7.3の積のチャートが定める分解のもとで、
dμ(e,e)(u,w)=u+w(u,w∈TeG)が成り立つ。
証明.dμ(e,e)は線形であり、(u,w)=(u,0)+(0,w)であるから、dμ(e,e)(u,0)=uとdμ(e,e)(0,w)=wを示せば足りる。
u∈TeGを取り、§E17.3 命題 4.3によりeを通る滑らかな曲線cでc′(0)=uを満たすものを取る。t↦(c(t),e)はG×Gの滑らかな曲線であり、そのt=0における速度ベクトルは(u,0)である。実際、積のチャートに関する座標表示はcの座標表示と定数を並べたものである。この曲線にμを合成するとt↦μ(c(t),e)=c(t)e=c(t)であるから、§E17.3 定理 5.3により
dμ(e,e)(u,0)=dtdt=0c(t)=uである。同様にt↦(e,c(t))を取るとμ(e,c(t))=c(t)であるからdμ(e,e)(0,w)=wを得る。▨
§E17.21 定理 3.4により、0∈gの開近傍Uとe∈Gの開近傍Wが存在してexp:U→Wは微分同相である。逆写像をlog:W→Uと書く。この逆写像を用いると、群の積をgの中の演算として書くことができる。
補題 1.2. 上のU、W、logを取る。δ>0を、∥u∥<δかつ∥w∥<δならばu,w∈Uかつexp(u)exp(w)∈Wとなるように取る。
Ψ(u,w)=log(exp(u)exp(w))(∥u∥<δ, ∥w∥<δ)と定める。このとき次が成り立つ。
- ΨはC∞であり、Ψ(u,0)=u、Ψ(0,w)=w、Ψ(u,−u)=0である。
- 双線形写像B:g×g→gと定数C0≥0、および0<δ0≤δが存在して、∥u∥<δ0かつ∥w∥<δ0を満たすすべてのu,wに対して
Ψ(u,w)=u+w+B(u,w)+ρ(u,w),ρ(u,w)≤C0(∥u∥+∥w∥)3
が成り立つ。
- すべてのu∈gに対してB(u,u)=0である。とくにB(u,w)=−B(w,u)である。
- すべてのu,w∈gに対してB(u,w)=21[u,w]である。ここで[⋅,⋅]は§E17.20 定理 2.3がgに与えた括弧積である。
証明の順序は次のとおりである。(1)は定義と§E17.21 命題 3.2から従う。(2)は、Ψの(0,0)における二次までの Taylor 展開を取り、(1)の二つの等式から二次の項が混合項だけになることを見る。(3)はΨ(u,−u)=0を用いる。(4)は、logをチャートに取ったときの左不変ベクトル場の座標表示がΨの第二変数についての偏微分で書き表されることを用い、§E17.7 命題 1.3を原点で評価する。
証明.(1)を示す。expは§E17.21 補題 3.3によりC∞、μは§E17.19 定義 1.1によりC∞、logは微分同相の逆写像としてC∞である。よってΨはC∞写像の合成としてC∞である(§E17.1 系 4.3)。exp(0)=e(§E17.21 命題 3.2)であるからexp(u)exp(0)=exp(u)でありΨ(u,0)=log(exp(u))=uである。同様にΨ(0,w)=wである。§E17.21 命題 3.2 (2)によりexp(−u)=exp(u)−1であるからexp(u)exp(−u)=eでありΨ(u,−u)=log(e)=0である。
(2)を示す。gの基底によってgをRnと同一視し、ΨをRn×Rn=R2nの開集合からRnへのC∞写像と見る。z=(u,w)と書く。Ψ(0,0)=0である。
§E4.5 定理 1.1をr=2としてΨの各成分へ適用する。∥z∥≤δ1(δ1はB(0,δ1)が定義域に含まれるように取る)で
Ψ(z)=DΨ(0)[z]+21D2Ψ(0)[z,z]+R(z),∥R(z)∥≤C0′∥z∥3が成り立つ。ここでC0′は、閉球B(0,δ1)の上での三階の偏導関数の上限から定まる定数である(三階の偏導関数は連続であり、閉球はコンパクトであるから上限は有限である)。
一次の項を求める。(1)のΨ(u,0)=uをuについてu=0で微分するとDΨ(0)[(u,0)]=uであり、Ψ(0,w)=wからDΨ(0)[(0,w)]=wである。線形性によりDΨ(0)[z]=u+wである。
二次の項を求める。D2Ψ(0)は対称双線形である(§E4.4 定理 2.1)から、z=(u,0)+(0,w)と分けると
21D2Ψ(0)[z,z]=21D2Ψ(0)[(u,0),(u,0)]+D2Ψ(0)[(u,0),(0,w)]+21D2Ψ(0)[(0,w),(0,w)]である。w=0と置くと、Ψ(u,0)=uはすべてのuについて厳密に成り立つ等式であるから、右辺の一次の項uを引いた残りはuについて恒等的に0である。よって21D2Ψ(0)[(u,0),(u,0)]=0がすべてのuで成り立つ。同様に21D2Ψ(0)[(0,w),(0,w)]=0である。そこで
B(u,w)=D2Ψ(0)[(u,0),(0,w)]と定めると、Bはuとwのそれぞれについて線形、すなわち双線形であり、二次の項はB(u,w)に等しい。
∥z∥=(∥u∥2+∥w∥2)1/2≤∥u∥+∥w∥であるから、ρ(u,w)=R(z)と置きC0=C0′、δ0=min{δ,δ1/2}と取れば主張の評価を得る。
(3)を示す。u∈gを固定し、0<sを∥su∥<δ0となるほど小さく取る。(1)によりΨ(su,−su)=0であるから、(2)の展開に(su,−su)を代入して
0=su−su+B(su,−su)+ρ(su,−su)=−s2B(u,u)+ρ(su,−su)である。よって
s2∥B(u,u)∥=∥ρ(su,−su)∥≤C0(2s∥u∥)3=8C0s3∥u∥3であり、両辺をs2で割ると∥B(u,u)∥≤8C0s∥u∥3である。右辺はs→0+のとき0へ収束し、左辺はsに依らないのでB(u,u)=0である。双線形性により
0=B(u+w,u+w)=B(u,u)+B(u,w)+B(w,u)+B(w,w)=B(u,w)+B(w,u)であるからB(u,w)=−B(w,u)である。
(4)を示す。log:W→Uをチャートとして用いる。§E17.1 系 7.2と同じ理由で(W,λ∘log)はGの可微分構造に属するチャートである(λ:g→Rnは基底が定める線形同型である)。以下、この同一視によってU⊆Rnと見る。
v∈gに対する左不変ベクトル場Xvの、このチャートに関する座標表示をX^vと書く。g=exp(u)(u∈U)とする。§E17.21 命題 3.2 (3)と§E17.21 補題 1.1により、t↦gexp(tv)はXvの積分曲線でありt=0でgを取る。したがってそのt=0における速度ベクトルは(Xv)gである。座標で書くと
X^v(u)=dtdt=0log(exp(u)exp(tv))=dtdt=0Ψ(u,tv)=D2Ψ(u,0)[v]である。ここでD2は第二変数についての偏微分を表す。
u=0における値と一階の変化を求める。X^v(0)=D2Ψ(0,0)[v]=vである((2)の一次の項による)。またh∈gに対して
DX^v(0)[h]=dτdτ=0D2Ψ(τh,0)[v]=D1D2Ψ(0,0)[h][v]=D2Ψ(0)[(h,0),(0,v)]=B(h,v)である。第二の等号は連鎖律(§E4.3 定理 1.1)、第三の等号は混合二階偏導関数がD2Ψ(0)の対応する成分であることによる(§E4.4 定理 2.1)。
§E17.7 命題 1.3を、座標表示をRnに値を取る写像と見た形で書くと、二つのベクトル場V、Wの括弧積の座標表示は
[V,W](u)=DW^(u)[V^(u)]−DV^(u)[W^(u)]である。実際、右辺の第j成分は∑i=1nV^i∂iW^j−∑i=1nW^i∂iV^jである。V=Xu、W=Xwとしてu=0で評価すると
[Xu,Xw](0)=B(u,w)−B(w,u)=2B(u,w)である。最後の等号は(3)による。一方[Xu,Xw](0)は[Xu,Xw]e=[u,w]の座標表示であり、X^v(0)=vと同じ同一視のもとで[u,w]そのものである。よって[u,w]=2B(u,w)、すなわちB(u,w)=21[u,w]である。▨
2 Lie 積公式と交換子の極限公式
証明.補題 1.2のδ0、B、ρを取る。mを、∥X∥/m<δ0かつ∥Y∥/m<δ0を満たすほど大きく取る。このとき
exp(X/m)exp(Y/m)=exp(Ψ(X/m, Y/m))である。§E17.21 命題 3.2 (2)を繰り返してexp(Z)m=exp(mZ)を得るので
(exp(X/m)exp(Y/m))m=exp(mΨ(X/m, Y/m))である。
mΨ(X/m,Y/m)を評価する。補題 1.2 (2)により
mΨ(X/m, Y/m)=m(mX+mY+B(mX,mY)+ρ(mX,mY))=X+Y+m1B(X,Y)+mρ(mX,mY)である。ここでBの双線形性によりB(X/m,Y/m)=B(X,Y)/m2を用いた。剰余については
mρ(mX,mY)≤mC0(m∥X∥+∥Y∥)3=m2C0(∥X∥+∥Y∥)3である。したがって
mΨ(X/m,Y/m)−(X+Y)≤m∥B(X,Y)∥+m2C0(∥X∥+∥Y∥)3m→∞0である。すなわちmΨ(X/m,Y/m)→X+Yがgにおいて成り立つ。
expは§E17.21 補題 3.3によりC∞であり、とくに連続であるから
(exp(X/m)exp(Y/m))m=exp(mΨ(X/m,Y/m))m→∞exp(X+Y)である。▨
証明の要は、四つの因子の積をΨの三回の適用として書き、二次までの展開を順に代入することである。Ψの二次の項Bが交代的であること(補題 1.2 (3))によって、B(X,X)とB(Y,Y)の項が消え、B(X,Y)−B(Y,X)=2B(X,Y)=[X,Y]だけが残る。
証明.補題 1.2のδ0、B、ρ、C0を取り、a=∥X∥+∥Y∥と置く。sを0<∣s∣≤1かつ後の三回の適用がすべて定義域の中で行われるほど小さい範囲に限る。この範囲は、以下で作るa1,a2のノルムがsについてO(∣s∣)であることから、∣s∣を十分小さく取れば確保される。以下、C1,C2,…はXとYだけに依存する定数を表す。
a1=Ψ(sX, sY),a2=Ψ(a1, −sX),a3=Ψ(a2, −sY)と定める。§E17.21 命題 3.2 (2)とΨの定義により
exp(a3)=exp(sX)exp(sY)exp(−sX)exp(−sY)である。
a1を展開する。
a1=sX+sY+s2B(X,Y)+ρ(sX,sY),∥ρ(sX,sY)∥≤C0a3∣s∣3である。したがってr1=a1−s(X+Y)と置くと∥r1∥≤∥B∥∥X∥∥Y∥s2+C0a3∣s∣3≤C1s2(∣s∣≤1)であり、とくに∥a1∥≤a∣s∣+C1s2≤C2∣s∣である。
a2を展開する。
a2=a1−sX+B(a1,−sX)+ρ(a1,−sX)である。Bの双線形性により
B(a1,−sX)=−sB(a1,X)=−sB(s(X+Y)+r1, X)=−s2B(X,X)−s2B(Y,X)−sB(r1,X)であり、補題 1.2 (3)によりB(X,X)=0である。剰余の評価は
∥sB(r1,X)∥≤∣s∣⋅∥B∥C1s2∥X∥=C3∣s∣3,∥ρ(a1,−sX)∥≤C0(C2∣s∣+∥X∥∣s∣)3=C4∣s∣3である。よって
a2=sX+sY+s2B(X,Y)+ρ(sX,sY)−sX−s2B(Y,X)+(ノルムが C5∣s∣3 以下の項)であり、ρ(sX,sY)のノルムもC0a3∣s∣3以下であるから、補題 1.2 (3)のB(Y,X)=−B(X,Y)を用いて
a2=sY+2s2B(X,Y)+η2,∥η2∥≤C6∣s∣3と書くことができる。とくにr2=a2−sYと置くと∥r2∥≤2∥B∥∥X∥∥Y∥s2+C6∣s∣3≤C7s2であり、∥a2∥≤C8∣s∣である。
a3を展開する。
a3=a2−sY+B(a2,−sY)+ρ(a2,−sY)である。
B(a2,−sY)=−sB(a2,Y)=−sB(sY+r2, Y)=−s2B(Y,Y)−sB(r2,Y)であり、B(Y,Y)=0、∥sB(r2,Y)∥≤C9∣s∣3である。また∥ρ(a2,−sY)∥≤C0(C8∣s∣+∥Y∥∣s∣)3=C10∣s∣3である。よって
a3=(sY+2s2B(X,Y)+η2)−sY+(ノルムが C11∣s∣3 以下の項)=2s2B(X,Y)+η3であり∥η3∥≤C12∣s∣3である。補題 1.2 (4)により2B(X,Y)=[X,Y]であるから
a3(s)=s2[X,Y]+η3(s),∥η3(s)∥≤C12∣s∣3(1)である。
極限を取る。s=1/mと置く。§E17.21 命題 3.2 (2)を繰り返してexp(Z)m2=exp(m2Z)を得るので
(exp(X/m)exp(Y/m)exp(−X/m)exp(−Y/m))m2=exp(m2a3(1/m))である。(1) により
m2a3(1/m)−[X,Y]=m2∥η3(1/m)∥≤mC12m→∞0である。expは連続であるから、右辺はexp([X,Y])へ収束する。
指数がm2でなければならないこと。同じ (1) からma3(1/m)=[X,Y]/m+mη3(1/m)であり、そのノルムは∥[X,Y]∥/m+C12/m2以下であるから0へ収束する。したがってexp(ma3(1/m))→exp(0)=eであり、指数をmに取り替えた式は、XとYが何であってもeを与える。▨
3 閉部分群定理
定義 3.1.Gを Lie 群、HをGの部分群とする。
h={X∈g exp(tX)∈H がすべての t∈R で成り立つ}と定める。
命題 3.2.Gを Lie 群、HをGの閉じた部分群とする。このときhはgの線形部分空間であり、括弧積で閉じている。すなわちhはgの部分 Lie 環である。
証明. 定数倍で閉じること。X∈h、c∈Rとすると、すべてのtに対してexp(t(cX))=exp((tc)X)∈Hである。よってcX∈hである。とくに0∈hである(exp(0)=e∈H)。
和で閉じること。X,Y∈h、t∈Rとする。定理 2.1をtXとtYに適用すると
exp(t(X+Y))=exp(tX+tY)=m→∞lim(exp(tX/m)exp(tY/m))mである。X,Y∈hであるからexp(tX/m)∈H、exp(tY/m)∈Hであり、Hは部分群であるから積とそのm乗もHに属する。すなわち右辺の各項はHの元である。HはGの閉集合であるから、Hの元からなる列のGにおける極限はHに属する。よってexp(t(X+Y))∈Hであり、tは任意であったからX+Y∈hである。
括弧積で閉じること。X,Y∈h、t∈Rとする。上で示したとおりtX∈hである。定理 2.2をtXとYに適用すると、括弧積の双線形性(§E17.20 定義 2.2)により[tX,Y]=t[X,Y]であるから
exp(t[X,Y])=exp([tX,Y])=m→∞lim(exp(tX/m)exp(Y/m)exp(−tX/m)exp(−Y/m))m2である。右辺の各項はHの元の積のm2乗であるからHに属する。Hは閉集合であるから極限もHに属する。tは任意であったから[X,Y]∈hである。▨
次の補題が、閉じているという仮定を本質的に用いる箇所である。Hの元の列が単位元へ収束するとき、対応するgの元を正規化して部分列を取ると、その極限がふたたびhに属する。
補題 3.3.Gを Lie 群、HをGの閉じた部分群とする。gの点列(uk)k≥1が次の三つを満たすとする。
- すべてのkについてuk=0であり、exp(uk)∈Hである。
- k→∞のとき∥uk∥→0である。
- k→∞のときuk/∥uk∥→Zがgにおいて成り立つ。
このときZ∈hである。
証明.t∈Rを固定する。ck=∥uk∥>0と置くと、条件 (b)によりck→0である。
各kに対して整数mkを、t/ckを越えない最大の整数として取る。すなわちmk≤t/ck<mk+1である。両辺にck>0を掛けると
mkck≤t<mkck+ckであり、0≤t−mkck<ckを得る。ck→0であるからmkck→tである。
mkuk=(mkck)⋅ckukである。右辺の第一因子は実数の列であってtへ収束し、第二因子は条件 (c)によりZへ収束する。実数とgの元の積は双線形であるから、収束する二つの列の積は極限の積へ収束する。よってmkuk→tZである。
expは連続であるからexp(mkuk)→exp(tZ)である。一方、§E17.21 命題 3.2 (2)によりexp(mkuk)=exp(uk)mkであり、mkは整数、exp(uk)∈H、Hは部分群であるからexp(uk)mk∈Hである(mkが負のときは逆元の冪であり、これもHに属する)。
HはGの閉集合であるから、Hの元からなる列の極限はHに属する。よってexp(tZ)∈Hである。tは任意であったからZ∈hである。▨
命題 3.4.Gを Lie 群、HをGの閉じた部分群とし、mをgにおけるhの線形補空間とする。すなわちg=h⊕m(直和)とする。このときε>0が存在して、w∈m、0<∥w∥<εを満たすすべてのwに対してexp(w)∈/Hである。
証明. 結論を否定する。すなわち、すべての正の整数kに対してwk∈mで0<∥wk∥<1/kかつexp(wk)∈Hを満たすものが存在するとする。
Zk=wk/∥wk∥と置く。mはgの線形部分空間であるからZk∈mであり、∥Zk∥=1である。
S={Z∈m∣∥Z∥=1}と置く。mの基底を取ってmをRd(d=dimm)と同一視すると、Sは連続関数∥⋅∥の値1における逆像であるから閉集合であり、明らかに有界である。§E2.9 定理 4.3によりSはコンパクトであり、§E2.9 定理 3.1により点列コンパクトである。したがって部分列(Zkj)j≥1とZ∈Sが存在してZkj→Zが成り立つ。とくに∥Z∥=1である。
部分列(wkj)について、∥wkj∥<1/kj→0、wkj=0、exp(wkj)∈H、wkj/∥wkj∥=Zkj→Zが成り立つ。補題 3.3によりZ∈hである。
一方Z∈S⊆mである。g=h⊕mが直和であることからh∩m={0}であり、Z=0となる。これは∥Z∥=1に反する。▨
定理 3.5 (閉部分群定理).Gを Lie 群、HをGの部分群であってGの位相で閉じているものとする。このときHはGの埋め込み部分多様体であり、§E17.5 命題 4.2が与える可微分構造のもとでふたたび Lie 群である。その次元はdimhであり、単位元における接空間はhである。
証明の中心は、単位元の周りのスライスチャートを一つ構成することである。写像Φ(x,y)=exp(x)exp(y)(x∈h、y∈m)の(0,0)における微分がh⊕m=gへの同型であることを補題 1.1と§E17.21 定理 3.4から示し、逆関数定理を適用してΦが原点の近傍で微分同相であることを得る。近傍を命題 3.4のεに合わせて縮めると、その中でHに属する点はy=0を満たすものに限られる。最後に、§E17.19 命題 3.3 (3)によって、単位元でのスライスチャートから他のすべての点でのスライスチャートを得る。
証明.k=dimhと置き、mをhの線形補空間とする(命題 3.2によりhは線形部分空間であるから、補空間が存在する)。dimm=n−kである。
写像Φを定める。h×mは§E17.1 命題 7.3によりn次元C∞多様体であり、線形同型h⊕m→gを通じてgと同一視することができる。
Φ:h×m⟶G,Φ(x,y)=exp(x)exp(y)と定める。Φ=μ∘(exp∣h×exp∣m)であり、expは§E17.21 補題 3.3によりC∞、μはC∞であるから、ΦはC∞である(§E17.1 系 4.3)。Φ(0,0)=eである。
dΦ(0,0)を計算する。(x,y)∈h×m=T(0,0)(h×m)とする。exp∣h×exp∣mの(0,0)における微分は、§E17.21 定理 3.4のd(exp)0=idを二つの因子へ適用したものであり、(x,y)↦(x,y)∈TeG⊕TeGである。§E17.3 定理 5.3と補題 1.1により
dΦ(0,0)(x,y)=dμ(e,e)(x,y)=x+yである。g=h⊕mが直和であるから、(x,y)↦x+yはh×mからgへの線形同型である。よってdΦ(0,0)は同型である。
逆関数定理を適用する。eを含むGのチャート(U0,ψ)を取り、h×mの線形座標を与えるチャートをλとする。Φは連続であるから、(0,0)の開近傍OでΦ(O)⊆U0となるものを取ることができる。f=ψ∘Φ∘λ−1はλ(O)の上でC∞であり、§E17.3 命題 5.5によりDf(λ(0,0))はdΦ(0,0)の行列表示であるから可逆である。§E4.7 定理 2.1と§E17.5 補題 1.1により、(0,0)の開近傍O0⊆Oが存在して、Φ∣O0は開集合Φ(O0)⊆GへのC∞微分同相である。
近傍を縮める。命題 3.4のε>0を取る。積位相の基底により、0∈hの開近傍O1と0∈mの開近傍O2を、O1×O2⊆O0かつO2⊆{y∈m∣∥y∥<ε}となるように取ることができる。W0=Φ(O1×O2)と置く。O1×O2はO0の開集合でありΦ∣O0は微分同相であるから、W0はGの開集合でありΦ:O1×O2→W0は微分同相である。e=Φ(0,0)∈W0である。
W0∩Hを決定する。
W0∩H=Φ(O1×{0})=exp(O1)を示す。x∈O1⊆hとすると、定義 3.1によりexp(x)=exp(1⋅x)∈Hであり、Φ(x,0)=exp(x)exp(0)=exp(x)であるから右辺は左辺に含まれる。逆にΦ(x,y)∈H(x∈O1、y∈O2)とする。exp(x)∈HでありHは部分群であるから
exp(y)=exp(x)−1(exp(x)exp(y))=exp(x)−1Φ(x,y)∈Hである。y∈O2⊆mかつ∥y∥<εであるから、命題 3.4によりy=0でなければならない。よって左辺は右辺に含まれる。
スライスチャートを作る。hの基底とmの基底を合わせてh×mの線形座標λ:h×m→Rk×Rn−k=Rnを取り、λ(h×{0})=Rk×{0}となるようにする。
φ0=λ∘(Φ∣O1×O2)−1:W0⟶λ(O1×O2)と定める。φ0は微分同相の合成として微分同相であり、とくに同相写像であって像はRnの開集合であるから、(W0,φ0)はGのチャートである。Gの可微分構造に属することは、Gの任意のチャート(U,ψ)に対して座標変換ψ∘φ0−1とその逆がC∞写像の合成であることによる(§E17.1 系 7.2と§E17.1 系 4.3)。
上で決定したW0∩H=Φ(O1×{0})により
φ0(W0∩H)=λ(O1×{0})=λ(O1×O2)∩(Rk×{0})=φ0(W0)∩(Rk×{0})である。ここで第二の等号は、λ(O1×O2)=λ1(O1)×λ2(O2)であり0∈λ2(O2)であることによる(λ1、λ2はそれぞれの因子の線形座標である)。
全体へ広げる。(W0,φ0)は§E17.19 命題 3.3 (3)の仮定を満たす。よってHはGのk次元埋め込み部分多様体である。§E17.19 命題 4.2により、Hは§E17.5 命題 4.2が与える可微分構造のもとで Lie 群である。
接空間を求める。Hの単位元における接空間は、スライスチャートの構成によりdΦ(0,0)(h×{0})=hである。次元はk=dimhである。▨
系 3.6.定理 3.5のHについて、Hの Lie 環はhであり、その括弧積はgの括弧積の制限である。
証明.定理 3.5によりTeH=hである。包含写像ι:H→Gは埋め込みであるから、§E17.20 定理 3.3 (2)の証明と同じ議論、すなわちHの左不変ベクトル場とGの左不変ベクトル場がιに関して関連することと§E17.7 定理 2.6により、Hの Lie 環の括弧積はgの括弧積のhへの制限である。命題 3.2によりhはこの括弧積で閉じている。▨
4 閉であるという仮定を外すことができないこと
補題 4.1.S1={z∈C∣∣z∣=1}に§E17.1 命題 5.1のn=1の場合の可微分構造を与え、複素数の積を演算とする。このときS1は 1 次元 Lie 群である。したがってT2=S1×S1(§E17.1 例 7.4)は 2 次元 Lie 群である。
証明.S1が複素数の積について群であることは、∣zw∣=∣z∣∣w∣と∣z−1∣=∣z∣−1による。単位元は1である。
E:R→S1、E(u)=(cos2πu,sin2πu)とする。複素数として書くとE(u)=cos2πu+isin2πuであり、加法定理によりE(u)E(v)=E(u+v)が成り立つ。§E17.5 補題 2.3により、EはC∞であり、至るところ局所微分同相である。全射性と、E(u)=E(v)であることとu−v∈Zであることの同値性は§E17.9 補題 4.1による。
積の写像m:S1×S1→S1のC∞性を示す。(z0,w0)∈S1×S1を取り、E(u0)=z0、E(v0)=w0を満たすu0,v0を取る。Eは局所微分同相であるから、u0の開近傍Iとv0の開近傍J、およびu0+v0の開近傍Kを、E∣I、E∣J、E∣Kがそれぞれ像への微分同相でありI+J⊆Kとなるように取ることができる(I、Jを十分小さい開区間に取ればよい)。σI=(E∣I)−1などと書くと、E(I)×E(J)の上で
m(z,w)=E(σI(z)+σJ(w))である。実際、z=E(u)、w=E(v)(u∈I、v∈J)に対して右辺はE(u+v)=E(u)E(v)=zwである。右辺はC∞写像の合成であるからC∞である。E(I)×E(J)は(z0,w0)の開近傍であるから、§E17.1 命題 4.2によりmはC∞である。
逆元の写像ν(z)=z−1についても、E(I)の上でν(z)=E(−σI(z))であり、同じ理由でC∞である。よってS1は Lie 群である。
T2=S1×S1については、積を成分ごとに取ると群になる。積の写像は
T2×T2→T2,((z1,z2),(w1,w2))⟼(z1w1, z2w2)である。§E17.1 命題 7.3の積のチャートに関する座標表示は、S1の積の座標表示を二つ並べたものに、座標の順序を入れ替える線形同相を合成したものであるからC∞である。逆元の写像も同様である。よってT2は 2 次元 Lie 群である。▨
定理 4.2.αを無理数とし、e(s)=(cos2πs,sin2πs)∈S1と書く。
F:R→T2,F(t)=(e(t), e(αt))とし、H=F(R)と置く。このとき次が成り立つ。
- FはT2の1パラメータ部分群(§E17.21 定義 2.1)であり、HはT2の部分群である。
- HはT2で稠密であり、H=T2である。とくにHはT2の閉集合ではない。
- HはT2の埋め込み部分多様体ではない。
したがって、定理 3.5から「閉じている」という仮定を落とすことはできない。
証明.(1)を示す。§E17.5 例 2.4によりFはC∞写像である。e(s)e(t)=e(s+t)(補題 4.1の証明の加法定理による)であるから
F(s)F(t)=(e(s)e(t), e(αs)e(αt))=(e(s+t), e(α(s+t)))=F(s+t)である。よってFは§E17.21 定義 2.1の意味で1パラメータ部分群であり、群準同型の像であるHはT2の部分群である。
(2)を示す。稠密性は§E17.5 例 2.4による。H=T2を示す。A={αm+l∣m,l∈Z}と置くとAは可算集合である。β∈R∖Aを取る(Rは可算でないので、そのようなβが存在する)。q=(e(0),e(β))∈T2とする。F(t)=qとなるtが存在するとすると、e(t)=e(0)からt∈Zであり、e(αt)=e(β)からαt−β∈Zである。t=m∈Z、αm−β=−l∈Zと書くとβ=αm+l∈Aとなり、βのとり方に反する。よってq∈/HでありH=T2である。
Hが閉集合であるとすると、Hの閉包はH自身であり、稠密性からH=T2となって矛盾する。よってHは閉集合でない。
(3)を示す。HがT2のk次元埋め込み部分多様体であると仮定する。0≤k≤2である。単位元(e(0),e(0))におけるスライスチャート(U,φ)、すなわち
φ(U∩H)=φ(U)∩(Rk×{0})を満たすものを取る(§E17.5 定義 4.1)。
Rk×{0}はR2の閉集合であるから、φ(U)∩(Rk×{0})はφ(U)の閉集合である。φは同相写像であるからU∩HはUの閉集合である。
HはT2で稠密であるから、Uの空でない任意の開集合はHと交わる。すなわちU∩HはUで稠密である。Uの閉集合であってUで稠密であるものはUに等しい。よってU⊆Hである。
Uは単位元を含むT2の開集合であるから、Hは単位元の開近傍を含む。Hは部分群であるから、h∈Hに対してhU⊆Hであり、hUは開集合である(§E17.19 命題 3.3 (1))。したがってH=⋃h∈HhUは開集合である。
開部分群は閉集合である。実際、T2∖H=⋃g∈/HgHであり、各gH=Lg(H)は開集合の微分同相による像であるから開集合である。よってHは閉集合であり、(2)に反する。
したがってHは埋め込み部分多様体ではない。▨
5 古典行列群への適用
定理 5.1.nを正の整数とする。次の各集合はGLn(R)またはGLn(C)の閉じた部分群であり、したがって定理 3.5により埋め込み部分多様体であって Lie 群である。
O(n),SLn(R),U(n),Sp(2n,R).
証明. いずれについても、群であることは「Lie 群と古典行列群」で確かめた(§E7.1 命題 3.2、§E7.2 命題 2.2、§E17.19 定理 4.3、§E17.19 定理 4.9)。閉じていることを示す。
O(n)について。写像A↦ATAは成分の多項式であるからMn(R)からMn(R)への連続写像である。{I}はMn(R)の閉集合であるから、その逆像{A∈Mn(R)∣ATA=I}はMn(R)の閉集合である。O(n)⊆GLn(R)であるから、O(n)はGLn(R)の相対位相についても閉集合である。
SLn(R)について。detは連続でありSLn(R)=det−1({1})であるから、SLn(R)はMn(R)の閉集合であり、したがってGLn(R)の閉集合である。
U(n)について。A↦A∗Aは、実部と虚部を成分と見ると多項式写像であるから連続であり、U(n)は{I}の逆像としてMn(C)の閉集合、したがってGLn(C)の閉集合である。
Sp(2n,R)について。A↦ATJAは多項式写像であるから連続であり、Sp(2n,R)は{J}の逆像としてM2n(R)の閉集合、したがってGL2n(R)の閉集合である。
GLn(R)とGLn(C)は§E17.19 命題 2.1により Lie 群であるから、定理 3.5を適用することができる。▨
6 演習
問題 6.1 (閉部分群定理の確認). 次の各問に答えよ。
- 補題 1.2 (3)の証明を再現せよ。Ψ(u,−u)=0にuの代わりにsuを代入し、s→0+の極限を取る手順を書き、この操作を経ずにB(u,u)=0を主張することができない理由を述べよ。
- 補題 1.2 (4)の証明では、左不変ベクトル場の座標表示がX^v(u)=D2Ψ(u,0)[v]であることを用いた。この等式を、t↦exp(u)exp(tv)がXvの積分曲線であることから導け。
- 定理 2.2において指数をm2からmに取り替えると、極限がeになることを証明の最後の段に従って示せ。さらに、m3に取り替えるとどうなるかを、剰余の評価∥η3(s)∥≤C12∣s∣3から論ぜよ。
- 補題 3.3の証明で、mkをt/ckを越えない最大の整数として取った。mkck→tを導く不等式を書き下し、t<0の場合にもこの議論が成り立つことを確かめよ。
- 命題 3.4の証明で、正規化Zk=wk/∥wk∥と部分列の抽出を行った。正規化を行わずにwkそのものの部分列を取ると、何が得られないかを述べよ。
- 定理 3.5の証明で、W0∩H=exp(O1)を示す段の「⊆」の向きを再現せよ。Hが部分群であることをどこで用いたかを明示せよ。
- 定理 4.2 (3)の証明では、U∩HがUの閉集合であることと、Uで稠密であることを組み合わせた。k=2の場合にもこの議論がそのまま成り立つことを確かめよ。
- 定理 5.1の証明をSO(n)=O(n)∩SLn(R)について書き下し、SO(n)がGLn(R)の閉じた部分群であることを示せ。
解答 (演習の解答).
- Ψ(su,−su)=0に補題 1.2 (2)の展開を代入すると0=−s2B(u,u)+ρ(su,−su)である。∥ρ(su,−su)∥≤C0(2s∥u∥)3であるからs2∥B(u,u)∥≤8C0s3∥u∥3であり、s2で割ると∥B(u,u)∥≤8C0s∥u∥3となる。左辺はsに依らず、右辺はs→0+で0へ収束するのでB(u,u)=0である。sを導入せずにuをそのまま用いると∥B(u,u)∥≤8C0∥u∥3が得られるだけであり、これは∥u∥が小さいときの評価にすぎず、B(u,u)=0を与えない。Bがuについて二次、剰余が三次であるという次数の差を、sの冪を比較することによって取り出している。
- §E17.21 命題 3.2 (3)によりt↦exp(tv)はXvの積分曲線でありt=0でeを取る。§E17.21 補題 1.1により、これを左移動Lexp(u)で移したt↦exp(u)exp(tv)もふたたびXvの積分曲線であり、t=0でexp(u)を取る。したがってそのt=0における速度ベクトルは(Xv)exp(u)である。チャートlogで座標表示を取ると、速度ベクトルの座標成分はdtdt=0log(exp(u)exp(tv))=dtdt=0Ψ(u,tv)=D2Ψ(u,0)[v]である。
- a3(1/m)=m−2[X,Y]+η3(1/m)であり∥η3(1/m)∥≤C12m−3である。したがって∥ma3(1/m)∥≤m−1∥[X,Y]∥+C12m−2→0であり、expの連続性によりexp(ma3(1/m))→exp(0)=eである。m3に取り替えるとm3a3(1/m)=m[X,Y]+m3η3(1/m)であり、第一項は∥[X,Y]∥=0ならば発散し、第二項はC12以下に留まるだけである。したがって収束は保証されず、極限が存在するとしてもexp([X,Y])にはならない。剰余の評価は三次までしか与えられていないので、m3倍した剰余を制御することができない。
- mk≤t/ck<mk+1の各辺にck>0を掛けるとmkck≤t<mkck+ckである。したがって0≤t−mkck<ckであり、ck→0からmkck→tである。t<0のときも、t/ckを越えない最大の整数は負の整数になるだけで、上の不等式はそのまま成り立つ。exp(uk)mkはmk<0のとき(exp(uk)−1)−mkを意味し、Hが部分群であることからこれもHに属する。
- 正規化を行わない場合、wk→0であるから、部分列を取っても極限は0である。補題 3.3 条件 (c)は「uk/∥uk∥が収束すること」であり、これはwkの方向が定まることを要求している。正規化しなければ方向の情報が失われ、hに属する0でない元を取り出すことができない。正規化した列は単位球面というコンパクト集合に値を取るので、部分列を取ることによって0でない極限の存在が保証される。
- Φ(x,y)=exp(x)exp(y)∈H(x∈O1、y∈O2)とする。x∈hであるからexp(x)∈Hである。Hが部分群であることからexp(x)−1∈Hであり、積について閉じているのでexp(x)−1Φ(x,y)=exp(y)∈Hである。ここでHが部分群であることを、逆元の存在と積の閉性の二箇所で用いた。y∈mかつ∥y∥<εであるから命題 3.4によりy=0であり、Φ(x,y)=exp(x)∈exp(O1)である。
- k=2のときR2×{0}=R2であるから、条件はφ(U∩H)=φ(U)となりU∩H=U、すなわちU⊆Hである。これは証明の中間の結論そのものである。したがって、k=2の場合は最初の二段を飛ばして直ちにU⊆Hを得る。以後の段(Hが開集合であること、開部分群が閉集合であること、稠密性との矛盾)はkに依らない。
- SO(n)=O(n)∩det−1({1})である。O(n)は上で示したとおりGLn(R)の閉集合であり、det−1({1})もdetの連続性から閉集合である。二つの閉集合の交わりは閉集合であるからSO(n)はGLn(R)の閉集合である。部分群であることは§E7.2 命題 2.2による。よって定理 3.5によりSO(n)は Lie 群である。
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7 境界と次
閉であるという条件の位置。定理 3.5の仮定は、HがGの位相で閉じていることである。これは代数的な条件ではなく位相的な条件であり、定理 4.2のとおり外すことができない。一方、Hが閉じているという条件だけで、Hの可微分構造も Lie 群としての構造も一意に定まる。
極限の意味。定理 2.1と定理 2.2の極限はGの位相で取る。gの側の収束は注意 1のノルムについて述べたが、gが有限次元であるため、この収束は基底のとり方に依らない。二つの公式の証明は補題 1.2の二次までの展開だけを用いており、三次以上の項の形(Baker–Campbell–Hausdorff の公式)へは進まない。同公式は本単元の範囲外である。
得られる Lie 群の性質。本記事はHが埋め込み部分多様体であり Lie 群であることを示した。Hの連結性、連結成分の個数、および単連結被覆については何も主張しない。閉部分群による等質空間G/Hの構成、Lie 対応、随伴表現および単連結被覆群は「Lie 群論」が扱う。
次の記事。「離散群の固有不連続な作用と商多様体」は、群の作用によって多様体から新しい多様体を作る操作を扱う。本記事が扱ったのは Lie 群の内部の部分群であり、次の記事が扱うのは離散群が多様体へ作用する場合である。両者はいずれも群の構造から多様体の構造を得る手続きであるが、道具は異なる。次の記事が用いるのは商位相と、作用が微分同相によるものであるという仮定である。