§E7.1群

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群は、一つの集合と、結合律、単位元、および各元の逆元を備える二項演算からなる。整数の加法、剰余類の加法、図形の対称性は、演算の具体的な意味が異なるにもかかわらず、同じ公理を満たす。本記事では、公理から得られる基本法則を証明し、具体例について群公理を個別に確認する。

1 群の公理

二項演算が群を定めるための条件を、量化の範囲を含めて明記する。

定義 1.1. 集合GGと写像

μ ⁣:G×G⟶G,(a,b)⟼ab\mu\colon G\times G\longrightarrow G,\qquad (a,b)\longmapsto ab

が与えられているとする。組(G,μ)(G,\mu)が群 (group) であるとは、次の条件がすべて成り立つことをいう。

  1. 任意のa,b,c∈Ga,b,c\in Gに対して(ab)c=a(bc)(ab)c=a(bc)が成り立つ。
  2. あるeG∈Ge_G\in Gが存在して、任意のa∈Ga\in Gに対してeGa=aeG=ae_Ga=ae_G=aが成り立つ。
  3. 任意のa∈Ga\in Gに対して、ab=ba=eGab=ba=e_Gを満たすb∈Gb\in Gが存在する。

条件 (b)の元を単位元 (identity element) といい、条件 (c)の元をaaの逆元 (inverse element) という。

演算が交換可能であることは、群の公理に含まれない。

定義 1.2. 群GGがアーベル群 (abelian group) または可換群 (commutative group) であるとは、任意のa,b∈Ga,b\in Gに対してab=baab=baが成り立つことをいう。

単位元と逆元は公理では存在しか要求されていないが、群の演算によって一意に決まる。

命題 1.3. 群GGの単位元は一意である。

証明.e,e′∈Ge,e'\in Gがともに単位元であると仮定する。e′e'が右単位元であることと、eeが左単位元であることから

e=ee′=e′e=ee'=e'

を得る。したがって、単位元は一意である。▨

命題 1.4. 群GGの各元aaに対して、aaの逆元は一意である。

証明.b,b′∈Gb,b'\in Gがともにaaの逆元であると仮定する。結合律と逆元の等式から

b=beG=b(ab′)=(ba)b′=eGb′=b′b=be_G=b(ab')=(ba)b'=e_Gb'=b'

を得る。したがって、aaの逆元は一意である。以後、この逆元をa−1a^{-1}と書く。▨

群の方程式では、等式の両側へ同じ元を掛ける操作を逆元によって取り消すことができる。

命題 1.5. 群GGの任意のa,x,y∈Ga,x,y\in Gに対して、次の簡約律が成り立つ。

ax=ay⟹x=y,xa=ya⟹x=y.ax=ay\Longrightarrow x=y,\qquad xa=ya\Longrightarrow x=y.

また、任意のa,b∈Ga,b\in Gに対して

(ab)−1=b−1a−1(ab)^{-1}=b^{-1}a^{-1}

が成り立つ。

証明.ax=ayax=ayの両辺へ左からa−1a^{-1}を掛けると

a−1(ax)=a−1(ay)a^{-1}(ax)=a^{-1}(ay)

となる。結合律からx=yx=yを得る。右簡約律も、xa=yaxa=yaの両辺へ右からa−1a^{-1}を掛けることによって得られる。

次に

(ab)(b−1a−1)=a(bb−1)a−1=eG(ab)(b^{-1}a^{-1})=a(bb^{-1})a^{-1}=e_G

かつ

(b−1a−1)(ab)=b−1(a−1a)b=eG(b^{-1}a^{-1})(ab)=b^{-1}(a^{-1}a)b=e_G

である。逆元の一意性から(ab)−1=b−1a−1(ab)^{-1}=b^{-1}a^{-1}が従う。▨

後続の記事では整数を指数とする冪を繰り返し用いるため、必要な法則をここで証明する。

命題 1.6. 群GGの元ggに対し、g0=eGg^0=e_G、非負整数kkに対してgk+1=gkgg^{k+1}=g^kg、正の整数kkに対してg−k=(g−1)kg^{-k}=(g^{-1})^kと定める。任意の整数m,nm,nに対して

gm+n=gmgn,(gm)n=gmng^{m+n}=g^mg^n,\qquad (g^m)^n=g^{mn}

が成り立つ。

証明. 最初にm,nm,nがともに非負である場合を考える。nnに関する帰納法を用いると、n=0n=0のときgmg0=gm=gm+0g^mg^0=g^m=g^{m+0}である。gmgn=gm+ng^mg^n=g^{m+n}を仮定すれば

gmgn+1=(gmgn)g=gm+ng=gm+n+1g^mg^{n+1}=(g^mg^n)g=g^{m+n}g=g^{m+n+1}

であるから、すべての非負整数m,nm,nに対してgmgn=gm+ng^mg^n=g^{m+n}が成り立つ。

非負整数kkに関する帰納法と逆元の反転公式から(gk)−1=(g−1)k(g^k)^{-1}=(g^{-1})^kが従う。実際、k=0k=0の場合には両辺がeGe_Gであり、kkで等式が成り立つならば

(gk+1)−1=(gkg)−1=g−1(gk)−1=g−1(g−1)k=(g−1)k+1(g^{k+1})^{-1}=(g^kg)^{-1}=g^{-1}(g^k)^{-1} =g^{-1}(g^{-1})^k=(g^{-1})^{k+1}

である。したがって、正の整数kkに対して(gk)−1=(g−1)k=g−k(g^k)^{-1}=(g^{-1})^k=g^{-k}である。m≥0m\geq 0とn=−k<0n=-k<0の場合、m≥km\geq kなら

gmg−k=gm−kgkg−k=gm−k,g^mg^{-k}=g^{m-k}g^kg^{-k}=g^{m-k},

m<km<kなら

gmg−k=gm(g−1)m(g−1)k−m=g−(k−m)g^mg^{-k}=g^m(g^{-1})^m(g^{-1})^{k-m}=g^{-(k-m)}

である。いずれの場合もgmgn=gm+ng^mg^n=g^{m+n}を得る。次にm=−k<0m=-k<0、n≥0n\geq0とする。n≥kn\geq kなら

g−kgn=(g−1)kgkgn−k=gn−k,g^{-k}g^n=(g^{-1})^kg^kg^{n-k}=g^{n-k},

n<kn<kなら

g−kgn=(g−1)k−n(g−1)ngn=g−(k−n)g^{-k}g^n=(g^{-1})^{k-n}(g^{-1})^ng^n=g^{-(k-n)}

である。最後にm=−k<0m=-k<0、n=−ℓ<0n=-\ell<0なら、非負整数冪の場合から

gmgn=(g−1)k(g−1)ℓ=(g−1)k+ℓ=gm+ng^mg^n=(g^{-1})^k(g^{-1})^\ell=(g^{-1})^{k+\ell}=g^{m+n}

を得る。

n≥0n\geq0の場合を、nnに関する帰納法で示す。n=0n=0のときは(gm)0=eG=gm⋅0(g^m)^0=e_G=g^{m\cdot0}である。(gm)n=gmn(g^m)^n=g^{mn}を仮定すれば、すでに証明した指数の加法則から

(gm)n+1=(gm)ngm=gmngm=gm(n+1)(g^m)^{n+1}=(g^m)^ng^m=g^{mn}g^m=g^{m(n+1)}

を得る。n=−k<0n=-k<0のときは、指数の加法則から(gm)−1=g−m(g^m)^{-1}=g^{-m}であることと、正の整数kkに対して証明した場合を用いて

(gm)n=((gm)−1)k=(g−m)k=g−mk=gmn(g^m)^n=((g^m)^{-1})^k=(g^{-m})^k=g^{-mk}=g^{mn}

を得る。▨

2 整数と剰余類の加法群

加法記法を用いる群では、単位元を00、元aaの逆元を−a-aと書く。

例 2.1 (整数の加法群). 整数全体の集合Z\mathbb Zに加法を入れる。整数の加法はZ×Z→Z\mathbb Z\times\mathbb Z\to\mathbb Zという二項演算であり、結合律を満たす。00は単位元であり、a∈Za\in\mathbb Zの逆元は−a-aである。さらにa+b=b+aa+b=b+aが成り立つ。したがって(Z,+)(\mathbb Z,+)はアーベル群である。

剰余類の加法を定義する前に、合同関係そのものを構成する。一般の商群に関する結果は用いない。

定義 2.2.nnを正の整数とする。整数a,ba,bに対して

a≡b(modn)a\equiv b\pmod n

であるとは、nnがa−ba-bを割り切ることをいう。aaと合同 (congruence modulo n) な整数全体の集合を

[a]n={b∈Z∣b≡a(modn)}[a]_n=\{b\in\mathbb Z\mid b\equiv a\pmod n\}

と書き、aaのnnを法とする剰余類 (residue class) という。剰余類全体の集合をZ/nZ\mathbb Z/n\mathbb Zと書く。

命題 2.3.nnを正の整数とする。nnを法とする合同関係はZ\mathbb Z上の同値関係である。さらに、a≡a′(modn)a\equiv a'\pmod nかつb≡b′(modn)b\equiv b'\pmod nならば

a+b≡a′+b′(modn)a+b\equiv a'+b'\pmod n

が成り立つ。したがって

[a]n+[b]n=[a+b]n[a]_n+[b]_n=[a+b]_n

という規則は、代表元a,ba,bの選び方によらず定まる。

証明. 任意のa∈Za\in\mathbb Zに対してa−a=0=n⋅0a-a=0=n\cdot0であるから、合同関係は反射的である。a−b=nta-b=ntを満たす整数ttが存在するならば、b−a=n(−t)b-a=n(-t)であるから、合同関係は対称的である。a−b=nra-b=nrとb−c=nsb-c=nsを満たす整数r,sr,sが存在するならばa−c=n(r+s)a-c=n(r+s)であるから、合同関係は推移的である。したがって合同関係は同値関係である。

a−a′=nra-a'=nrとb−b′=nsb-b'=nsを満たす整数r,sr,sが存在すると仮定する。このとき

(a+b)−(a′+b′)=n(r+s)(a+b)-(a'+b')=n(r+s)

であるから、a+b≡a′+b′(modn)a+b\equiv a'+b'\pmod nが成り立つ。ゆえに二つの剰余類を表す代表元を変更しても、和を表す剰余類は変わらない。▨

命題 2.4.nnを正の整数とする。任意の整数a,ba,bに対して

[a]n=[b]n⟺a≡b(modn)[a]_n=[b]_n\quad\Longleftrightarrow\quad a\equiv b\pmod n

が成り立つ。さらに、Z/nZ\mathbb Z/n\mathbb Zの各元は[0]n,[1]n,…,[n−1]n[0]_n,[1]_n,\ldots,[n-1]_nのいずれか一つに等しい。したがってZ/nZ\mathbb Z/n\mathbb Zはちょうどnn個の元をもつ。

証明.[a]n=[b]n[a]_n=[b]_nならば、a∈[a]n=[b]na\in[a]_n=[b]_nであるからa≡b(modn)a\equiv b\pmod nである。逆にa≡b(modn)a\equiv b\pmod nと仮定する。任意の整数xxに対して、命題 2.3で証明した合同関係の対称性と推移性から

x≡a(modn)⟺x≡b(modn)x\equiv a\pmod n\quad\Longleftrightarrow\quad x\equiv b\pmod n

が成り立つ。したがって[a]n=[b]n[a]_n=[b]_nである。

任意の整数aaをa=qn+ra=qn+r、0≤r<n0\leq r<nと書けば[a]n=[r]n[a]_n=[r]_nである。一方、0≤r<s<n0\leq r<s<nならば0<s−r<n0<s-r<nであるためn∤(s−r)n\nmid(s-r)であり、[r]n≠[s]n[r]_n\neq[s]_nである。ゆえに表示されたnn個の剰余類は相異なり、すべての剰余類を尽くす。▨

定理 2.5.nnを正の整数とする。Z/nZ\mathbb Z/n\mathbb Zは

[a]n+[b]n=[a+b]n[a]_n+[b]_n=[a+b]_n

によって定める加法に関してアーベル群である。

証明. 加法が代表元によらず定まることは命題 2.3で証明した。任意の[a]n,[b]n∈Z/nZ[a]_n,[b]_n\in\mathbb Z/n\mathbb Zに対して、[a+b]n[a+b]_nもZ/nZ\mathbb Z/n\mathbb Zの元であるから、この加法は閉じている。さらに、任意の[a]n,[b]n,[c]n∈Z/nZ[a]_n,[b]_n,[c]_n\in\mathbb Z/n\mathbb Zに対して、整数の加法の結合律から

([a]n+[b]n)+[c]n=[(a+b)+c]n=[a+(b+c)]n=[a]n+([b]n+[c]n)([a]_n+[b]_n)+[c]_n=[(a+b)+c]_n=[a+(b+c)]_n =[a]_n+([b]_n+[c]_n)

が成り立つ。[0]n[0]_nは単位元であり、[a]n[a]_nの逆元は[−a]n[-a]_nである。また、整数の加法の交換律から[a]n+[b]n=[b]n+[a]n[a]_n+[b]_n=[b]_n+[a]_nが成り立つ。したがってZ/nZ\mathbb Z/n\mathbb Zはアーベル群である。▨

3 行列群

可逆行列と長さを保つ行列は、行列の積を演算とする群を与える。

定義 3.1.KKを可換体、nnを正の整数とする。KKの元を成分とする可逆なnn次正方行列全体を

GL⁡n(K)={A∈Mn(K)∣A は可逆である}\operatorname{GL}_n(K) =\{A\in M_n(K)\mid A\text{ は可逆である}\}

と書く。この集合を一般線形群 (general linear group) と呼ぶ。

実数を成分とする場合には、転置行列を用いて

O⁡(n)={Q∈GL⁡n(R)∣QTQ=In}\operatorname{O}(n) =\{Q\in\operatorname{GL}_n(\mathbb R)\mid Q^{\mathsf T}Q=I_n\}

と定める。この集合を直交群 (orthogonal group) と呼ぶ。O⁡(n)\operatorname{O}(n)の元を直交行列 (orthogonal matrix) という。

命題 3.2. 行列の積に関して、GL⁡n(K)\operatorname{GL}_n(K)とO⁡(n)\operatorname{O}(n)は群である。それぞれの単位元はInI_nである。

証明.§E3.1 命題 4.2により、行列の積は結合的であり、InI_nは単位元である。A,B∈GL⁡n(K)A,B\in\operatorname{GL}_n(K)ならば

(AB)(B−1A−1)=In=(B−1A−1)(AB)(AB)(B^{-1}A^{-1})=I_n=(B^{-1}A^{-1})(AB)

であるから、ABABは可逆である。各A∈GL⁡n(K)A\in\operatorname{GL}_n(K)の逆行列A−1A^{-1}も可逆である。したがってGL⁡n(K)\operatorname{GL}_n(K)は群である。

P,Q∈O⁡(n)P,Q\in\operatorname{O}(n)とする。転置行列の積の法則から

(PQ)T(PQ)=QTPTPQ=QTQ=In(PQ)^{\mathsf T}(PQ) =Q^{\mathsf T}P^{\mathsf T}PQ =Q^{\mathsf T}Q =I_n

であるため、PQ∈O⁡(n)PQ\in\operatorname{O}(n)である。PTP=InP^{\mathsf T}P=I_nからP−1=PTP^{-1}=P^{\mathsf T}であり、PPT=InPP^{\mathsf T}=I_nも成り立つ。したがって

(P−1)TP−1=(PT)TPT=PPT=In(P^{-1})^{\mathsf T}P^{-1} =(P^{\mathsf T})^{\mathsf T}P^{\mathsf T} =PP^{\mathsf T} =I_n

であるから、P−1∈O⁡(n)P^{-1}\in\operatorname{O}(n)である。またIn∈O⁡(n)I_n\in\operatorname{O}(n)である。よってO⁡(n)\operatorname{O}(n)も群である。▨

4 正三角形の対称性

可換でない群は、図形の対称性から得られる。

例 4.1 (正三角形の対称性の群). 平面上の正三角形TTを固定し、TTを自分自身へ移す平面上の全単射な等長変換全体をD6D_6と書く。二つの変換の合成は再びTTを自分自身へ移す。写像の合成は結合的であり、恒等変換は単位元である。TTを保つ等長変換の逆変換もTTを保つ。したがってD6D_6は群である。

頂点を1,2,31,2,3とする。rrを1↦2↦3↦11\mapsto2\mapsto3\mapsto1という回転とし、ssを頂点11を固定して頂点2,32,3を交換する反転とする。合成は右側の写像から先に適用する。このとき

(r∘s)(1)=2,(s∘r)(1)=3(r\circ s)(1)=2,\qquad (s\circ r)(1)=3

であるから、r∘s≠s∘rr\circ s\neq s\circ rである。ゆえにD6D_6は非可換群である。

結合律と単位元だけでは群にならない。逆元の存在も独立に確認する必要がある。

例 4.2 (群でない例). 整数全体に乗法を入れた(Z,⋅)(\mathbb Z,\cdot)は群ではない。整数の乗法は結合的であり、11は単位元である。しかし、例えば2b=12b=1を満たす整数bbは存在しないため、22はZ\mathbb Zの中に逆元をもたない。

5 演習

問題 5.1.

  1. Z\mathbb Z上にa∗b=a+b+1a*b=a+b+1と定める。この演算がアーベル群を定めることを証明し、単位元とaaの逆元を求めよ。
  2. 群GGの元a,b,ca,b,cに対してab=caab=caが成り立つと仮定する。簡約律を用いてbbをa,ca,cから表せ。
  3. 正の整数nnに対して、[a]n=[0]n[a]_n=[0]_nであるための必要十分条件を述べ、[a]n[a]_nの加法逆元を求めよ。
解答 (演習の要点).

第1問の単位元は−1-1であり、aaの逆元は−a−2-a-2である。第2問では等式の左からa−1a^{-1}を掛けるだけではa−1caa^{-1}caが残るため、b=a−1cab=a^{-1}caとなる。第3問の必要十分条件はn∣an\mid aであり、加法逆元は[−a]n[-a]_nである。▨

参考文献

  1. Michael Artin, Algebra, 2nd ed., Pearson, Boston, 2011.群の公理、基本例、部分群、準同型の扱いを参考にした。
  2. David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004.群の公理と対称性から得られる群の扱いを参考にした。

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